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炎の凪唄
四英雄
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「ぴぃ…よ……」
ネーラが、動かなくなった。
「ラクン。さすが『兎殺し』の『撫師』ね」
「でも、アル様のほうが、上」
確かに、「幻炎の家」の、元気盛りの子供たちを静かにさせていたくらいだし、俺を超える、「撫好」かもしれない。
「アルのほうが年季が入っているからな、『撫師』の称号は、伊達ではない」
「カステル様もね、アンリちゃんの同類なんだよ~」
アンリさんは、演奏は神懸かっているのだが、反面、他の分野で才能が暴発していることがある。
絶雄も、世間の評価と異なるところがある。
今更、一つ二つ、瑕疵が明らかになったとしても、彼への信頼は揺るがないーーはず。
復活したネーラを持ち上げ、親父の膝の上に置いてくる。
「ふゆふゆ~~っ、ふゆふゆ~~っ」
一瞬で元気になる、ネーラだが、再びの、兎人の小移動。
絶雄の膝の上に運ばれ、人竜を凍りつかせる。
絶雄の懇願の眼差しに、アンリさんが、溜め息交じりに、ネーラを引き取る。
順番待ちの、アルが笑顔で両手を広げるが、ボルネアとオルタンスが左右の腕をつかんで下ろさせたので、俺は、長椅子の端まで移動する。
ーー狭い。
三人が密着しているとはいえ、三人掛けの椅子だ。
立ち上がろうかと思ったが、何となく、仲間外れは嫌だったので、体を傾けつつ、座席を確保。
「勘違いするでない。わしは、『ナデストロ』を推した。『ナデスター』を推したのは、ヌーテだ」
「また、絶雄様は、多数決で負けたのか?」
「そうではない。サッソが推したのは、『ナデリスト』だ。三人がバラバラになったときは、アルが決めていた」
同類は、絶雄ではなく、剣雄だったようだ。
伝え聞く、人物像からすると、意外だが、絶雄がそうであったように、実際の彼女も、色々な側面があったのだろう。
「ええ、こういうとき、ヌーテの意見を選ばないと、ヌーテは泣いてしまいますからね」
「……剣雄様は、泣き虫、だったのかーー?」
実像が、意外過ぎ、言葉に詰まってしまった。
「おや? ラクンさんは、四英雄が、血も涙もない、人非人だと思っていたのですか?」
「絶雄様とアルを見て、そんなこと思うはずがないだろうが」
「はは、ラクンさんが想像しているものとは違うと思いますよ。僕は、ヌーテほど、高尚で高潔、高邁で英邁な人物を、他に知りません。ただ、ヌーテは、特殊な環境で育ったので、サッソや僕に、依存してしまう面があったのです」
「四英雄のことを話し始めるのは、そこらが適当だろう。ティソが戻ってくるまで、しばらく掛かるだろうから、ーー皆に、なるべく詳しく話してやるが良い」
凹む話を、聞くつもりはあるようだが、なるべく後にしたいという、絶雄の思惑が滲む、物言いだった。
確かに、手紙を用意するのはーー。
と、そうだった。
「幻魔大公」とかいう、ふざけた称号ーー絶雄の、家紋を刻んだ魔石ーーも絶賛製作中かもしれないのだ。
ーー仕舞った。
明確に否定するのを、忘れていた。
「四英雄のことを話すのなら、その始まりは、サッソとヌーテの出逢いからです。ヌーテは、サッソの噂を聞いて、会いに行きます。ですので、まずは、サッソの境遇から話すことになります」
アルの話が始まってしまったので、「幻魔大公」については、ティソの良識を期待する以外に、手段はなくなってしまった。
「カステルとヌーテ、そして僕は、相応の力と才能があり、その上で、弛まぬ努力を重ね、四英雄たる力を得ました。ですが、サッソは、違いました」
「最初から、四英雄に匹敵する力を具えていたのか?」
恐らく、兎国の建国に係わっていなかったのも、その辺りが理由のはず。
「はい。サッソは、四英雄の中で、最大火力の持ち主でした。サッソは、生まれながらに、力を持ち合わせていました。ですが、その力を制御できませんでした。制御の道筋が示されたのは、ヌーテとの出逢いからです」
それは、大変、などという言葉で済まされるものではなかっただろう。
絶雄を超えるような火力が、赤子に具わっていれば、誰も手に負えない。
このあとの展開を予想し、暗澹たる気分になる。
「往時、世界は荒れていました。弱小種であった、兎族は、迫害の憂き目に遭っていました。迫害を免れた、兎族の多くは、山奥に逃げました。サッソは、その、更に奥に、捨てられました。ーーそれから、百五十年。サッソは、独りで生き抜きました」
ーー百五十年。
「アル」と「ハビヒ」を足した年数よりも、十九年も長い。
優し気に見えた、あの爆雄。
「英雄たちの行進」で見た、兎人には、そんな暗い影のようなものは見受けられなかったが、ーーもしかしたら、あれは、魔雄の理想化した姿だったのかもしれない。
そう考え、即座に否定する。
アルが、獣種のことで、そんなことをするはずがない。
そうであるなら。
孤独な兎さんに、手を差し伸べる者がいたはずだ。
「サッソは、後に大親友となる、ヌーテと、奇跡的な出逢いを果たします。ですが、サッソには、ヌーテと出逢う前に、もう一つの、奇跡的な巡り会いがありました。それが、竜人である、オーギュストさんです」
もう、過ぎた物語だというのに。
安堵で、体から力が抜け、無意識に握っていた、拳を緩めた。
「オーギュストさんは、四英雄以外では、一、二を争う、武力の持ち主でした。夙に、最強だと言われている、竜人の中でも、抜きん出た力を持っていました。強者を求めて、そして、噂を追って、サッソに行き着いて、ーー彼は、その頑強さを以て、生き残ることができました」
「あー、それは凄いな。手加減できない爆雄の一撃で、原形を保っていたなんて」
「はい。オーギュストさんは、サッソの一撃を、躱すことができたんです。掠りでもしたら、ラクンさんの言う通りになっていたでしょう。ですので、彼は、重傷で済みました。サッソは、初めて会った獣種であるオーギュストさんの世話を、甲斐甲斐しく焼きました。完治してから、勝負を挑んで、また世話を焼かれてーーそんなことが十回ほど繰り返された頃に、オーギュストさんは、サッソに求婚しました」
「ーーえ? ……話の、途中を、すっ飛ばしたのか?」
「いえ、何もすっ飛ばしてはいません。竜人は、最強だと称えられていますが、同時に、単純だとの評価もあります。竜種は、基本、善良で一途だと、知られています。そういうわけで、オーギュストさんは、自分よりも強くて、優しく可愛い兎さんに、ころりとやられてしまいました」
最後の言い様に、トゲがあったので、聞いてみる。
「怒っているのか?」
「怒ってなどいません」
怒っているようだ。
そうなるとーー。
「もしかしなくても、アルの初恋は、爆雄だったのか?」
びくんっ、と現恋人候補の二人が反応するが、アルは、獣種の頭を撫でたあと、話を進めた。
「以前、話しましたが、四英雄は、規格外です。サッソとオーギュストさんは、さっそく子作りをして、彼はーー、一年間、準寝たきり状態になりました」
「四英雄以外で、一、二の強さなのに、そこまで損傷があったのか……?」
以前、四英雄の、膝くらいまで強くならないと駄目だと、アルが言っていたが、ボルネアとオルタンスの恋路は、とても険しいようだ。
「オーギュストさんの凄いところは、そこで諦めなかったことです。一年経って、回復したら、また子作りをして、寝たきりに。これを、オーギュストさんは、青年期の間、ずっと繰り返していたのです」
「それで、二人の間に、子供は生まれたのか?」
猫人と犬人が聞き辛そうだったので、代わりに聞いてやる。
「はい。ヌーテと出逢う前に、竜人の女の子が一人。魔王を倒したあとに、兎人の女の子と、竜人の男の子を授かりました。オーギュストさんが、壮年期になってからは、体が持たなくなったようですね。四英雄で結婚したのは、サッソだけでした。仲睦まじい夫婦でしたので、僕の理想の家族像でもあります」
兎人と兎人の場合は、兎人が生まれる。
兎人と人兎の場合は、確率は半々だ。
兎人と竜人といった、種族の壁を越える場合は、兎人と竜人で半々のようだ。
獣種と人種の場合は、人種として生まれる確率が高いと言われているが、眉唾物だ。
人種の劣等感から出た話で、実際は、逆ではないかと踏んでいる。
「ミュスタイア国が、竜種の国になっていないのは、竜種の性質にあるのか?」
話が竜種に及んでから、ソワソワしていた絶雄に、振ってあげることにする。
絶雄とオーギュストさんの間で、何かあったのかもしれない。
「竜種は、自身の強さを自覚しておるから、高い地位に就くのを控えているのだ。成り行きで、王になどなってしもうたが、結果、竜種からは、総スカンを食った。オーギュストの兄貴はな、竜種とわしの間を取り持ってくれた、唯一の竜種だったのだ」
家族像としてアルが憧れるだけあり、人格的にも優れた人だったようだ。
俺は、アンリさんの膝の上で大人しくしている、育ての親を、ちらりと見る。
そんなオーギュストさんでも、サッソと兎族の間の確執ーーではなく、不和を、どうにかすることは敵わなかった。
兎族に捨てられた、サッソは、兎族ではなく、家族と四英雄を選んだのだろう。
ーー魔雄が、人種ではなく、獣種と四英雄を選んだように。
「兄貴、と言っていたが、実際に、血がつながっているわけではなさそうだな」
「竜種の数は少ないでな、地域の竜種とは、大抵、顔見知りなのだ。兄貴は、わしの親父が冒険者であった頃の、仲間の一人だ。幼年期に、わしが勝てなかったのは、親父と兄貴の、二人だけだった」
懐かしがる絶雄だが、これは、きっと、「すべてを言わない」の状態なのだろう。
あとで凹まされるのは確定しているのだから、アルが意地悪をしてしまう前に、次の英雄の話に進んでもらうことにする。
「そうなると、次は、爆雄様と出逢うことになる、剣雄様の話だな」
「サッソと同じく、ヌーテのことも、境遇からーー生い立ちから話す必要があります。丁度、話が出ましたが、カステルは、S級冒険者の息子です。有名ではありましたが、地位は、伴っていません。サッソと僕は、素性自体、わかりません。三人と違い、ヌーテは、王族の出身でした」
「ん? それは、初耳だな。人種界隈だと、魔雄が王族だったとか、言われているみたいだが」
「四英雄は皆、誤解やら曲解されていますが、神格化だけはやめて欲しいですね。と、話が逸れてしまいました。王族であった、ヌーテの情報が秘匿されているのは、ヌーテが、聖犬種の姫だったからです」
「聖犬種?」
これもまた、初めて聞く言葉だ。
親父を見たくないので、ネーラとアンリさんに聞く。
「二人は、聞いたことがあるか?」
「はい。聞いたことだけは、あります」
「んっとね、んっとね、面倒なことになるからね、公の場所では、口にしないことになってるんだよ~」
ネーラの言葉を聞き、珍しく、兎人の頭を撫で撫でしながら、アンリさんは、重たい言葉を、ひとつひとつ、口から出していった。
「……「なにもかくさない」、ネーラさんは、犬国で、しっかりと、口にしてしまい、大変なことに、なってしまいましたが」
俺には、その大変さの度合いがわからないので、本命に聞くことにする。
「実は、オルタンスは、その聖犬種だったりするのか?」
「聖犬種は、ラクンが考えているものとは、違う。聖犬種は、教会絡み。特に、犬種のそれは、不味い。犬種は、覇王五種の時代から、有力種とされている。別けても、聖犬種は、竜種に並び立つとまで言われている」
完全に、他人事のようなので、彼女が聖犬種ということはないようだ。
そして、皆の話し振りから、聖犬種には、容易に踏み込めない、曰くのようなものがあるらしい。
「魔雄が世界を纏め上げた、と言われていますが、それは、半分正解です。もう半分は、ヌーテが纏めました」
「半分が、世界の国々で、もう半分とは、教会のことだな」
「そうです。彼らは、とても厄介なのです。事実や損得といったもので、動いてくれないのです。もちろん、三人から、やれと言われれば、相手が泣いて許してくれと言っても、許さず追い詰めるつもりでしたが、幸か不幸か、ヌーテが聖犬種の姫であったため、ヌーテが一手に引き受けてくれました」
「結局。聖犬種が何なのか、聞いてはいけないことなのか?」
「自然と知るまで、知らなくても良いことです。ですので、ヌーテのことに限って、話すことにしましょう。聖犬種は、二つの勢力があり、ヌーテは、その勢力争いの中で、地位はそのままに、放逐されてしまいます。放逐した側の勢力からすれば、暗殺する好機です。ですが、もう片方の勢力は、知っていました。ヌーテを害することができる者など、存在しないことを」
「剣雄様にとって、外の世界に出ることは、良いことだったのか?」
「ヌーテにとっては、そうでしたね。通常の女性なら、衣食住と安全が保障された、王族という地位は、決して手放したくないものでしたが、窮屈で面白味のない、小さな世界は、ヌーテの望むものではありませんでした」
古代期は、荒れていたから、弱小種だけでなく、獣種の女性も、生き辛い世の中だったのだろう。
人種は人種で、内輪揉めをしていた挙げ句、魔王討伐にも加わらなかったので、魔雄がいなかったら、そのまま滅びていたかもしれない。
「ヌーテは、本当に、気高い、女性でした。聖犬種とは、制約の、塊のようなものでした。ヌーテは、『姫』としての役割を全うしようとしました。そこから先は、あとで話すことになるので、話し忘れていたことを、一つ」
あとで、というと、絶雄が凹む話には、剣雄が係わっているようだ。
彼が凹むほどに大切なものーーというのは、限られているから、「千恋」に関係したものなのかもしれない。
「サッソは、ヌーテと出逢い、ヌーテから、力の制御を学び始めました。ヌーテは、旅を続けていたので、オーギュストさんは、ヌーテと一緒なら問題ないだろうと、外の世界を見てくるよう、快くーーとはいかず、老婆心という言葉が逃げ出すくらいに、心配しまくりながら、サッソを送り出しました」
「ん? 話し忘れていた、と言ったが、そのことじゃないよな?」
「はい。大したことではないのですが、サッソのことを知ってもらうには、外せない話なのです。サッソは、半年後に、カステルと出逢うまでに、力を制御できるようになっていました。ただ、その制御とは、零か百、なんです」
「うわ……。つまり、手加減なんてものは、できなかったんだな」
四英雄の力とは、市井人からすれば、災害のようなものだ。
他人からすれば、たったそれだけのことでも。
零にできたのなら。
誰も、傷つけないでいられるのなら、爆雄にとっては、人生に光が差したような、大きな変化だったに違いない。
「そういうわけで、サッソは、魔王以外とは、戦いませんでした」
「ーーは? あ、と、そうだな、手加減ができないのは不味いし、魔王戦以外は、剣雄様や絶雄様、一人で事足りたわけか」
「サッソは、戦いの素人でした。道中、オーギュストさんの世話を焼いていたのと同じく、僕たちの面倒を見てくれました。そんなサッソでしたが、世界を救うとーー家族と四英雄を守るために、最も勇敢に立ち向かったのが、サッソでした」
「というか、な。アルが言った通り、サッソは、戦いの素人だ。魔王に突っ込んで行って、ぶん殴る。瀕死の重傷を負おうと、立ち上がり、また突っ込んで行く。これの繰り返しだった。意外に思うかもしれんが、ヌーテは、壁役だった。魔王の攻撃を、受け流せるのは、ヌーテだけだった。アルは、完全に、わしらの補助だ。魔法はすべて、わしらが全力で戦えるための、環境作りに注ぎ込まれた」
「ところで、絶雄様は、見物でもしていたのか?」
意図的にではないだろうが、魔王戦に、絶雄の名がまったく出てきていない。
「絶対の主」とまで称えられる人物は、どのような活躍をしたのだろう。
「アル。頼むぞ」
自分では、力不足と見切りをつけたのか、アルに丸投げしてしまう。
「では、ついでに、カステルの話もしてしまいましょう。カステルは、竜人の父親と、人竜の母親の間に生まれました。カステルの強さの秘密は、人竜でありながら、竜人の性質も受け継いだことです。元々の、竜種としての力に、両種の性質。S級冒険者であった父親から、適切な指導を施されることで、魔法以外は、だいたい二番目でした」
「ああ、そういうことか」
全員の目が、人竜に集中する。
絶雄の、目が泳いでいる。
もう、何度目だろうか、可哀想なので、彼をフォローしておく。
「四人の中心で、絶対的な支柱として、なくてはならない存在だったわけだな」
「はい、その通りです。カステルがいたからこそ、僕たちは、全力で自分たちの役割に、没頭することができたのです。カステルは、サッソに続く、二番目の攻撃力を持っていました。ヌーテに続く、防御力。僕に続く、魔力量。ーーといった具合に、弱い部分の助勢、穴が空けば、その代わりにと、渋い活躍をしてくれました」
「あとはな、ヌーテとアルが、世界を纏め上げるときも、皆の後ろで踏ん反り返っていることが、わしの役割だった」
自分が、四英雄の中心だと、世間に思わせることで、二人に向かう注目や重圧を減らそうとしたのだろう。
詮ずるところ、それが後世、彼を苦しめることになるのだから、ある意味、下手を打ったとも言える。
「サッソとヌーテ。二人で旅をしていたところで、カステルと出逢います。出逢った当初は、カステルとヌーテの二人は、死ぬほど仲が悪かったそうです」
「それは、な。楽観的で柔軟な思考の、わしと、堅苦しいどころか、鋼鉄のほうが折れ曲がるくらいの、頭の固いヌーテでは、衝突するのは、仕方がないことだった」
確かに。
ここまでの話を聞いていれば、意外でも何でもない。
不思議なのは、このあとだ。
「それが、どうして『千恋』と呼ばれるぐらいに、あー、……そうなってしまったんだ」
「ラクンちゃんもね、まだまだ、お子ちゃまなんだよ~」
口に手を当て、ぷぷぷっ、と嬉しそうなネーラ。
実際に、羞恥心から言葉を濁してしまった、俺には、反論の機会は与えられていない。
「これは、経験した者でないと、わかり難い。獣種は、大抵、同種を愛する。人竜なら、人竜と。稀に、人竜と竜人が愛し合うこともある。だが、他種との婚姻となると、絶対数が少ない。実は、恋愛というか片思いまでなら、獣種でも、結構あるのだがーー」
「それは、わかる。団の友人である、人犬のバーデンは、『貴公子』と称えられていて、他種の女性たちからも人気があるが、彼自身、結婚するなら人犬とする、と言っていた」
思い出してしまった。
彼は、定期的に、俺を、人気のない場所に連れていく。
そして、膝枕を要求されるのだ。
それから。
頭を撫でる。
ーー祖母にそうしてもらっていたように。
でれんっ、と崩れた、バーデンの顔を見れば、「貴公子」のファンである女性たちの大半が、千年の恋も冷める、こと請け合い。
他にも、獣種の二人の男が、秘密の撫事を要求してきた。
「ーーーー」
バーデンは、大丈夫だろうかと、心配になる。
疑似祖母に撫でられると、アイデアが浮かんでくるそうだが、物語のストックはあると言っていたから、しばらくは問題ないだろう。
「魂が求めるというか、一気にな、ーー来るのだ。そうなれば、もう、抗うことなど、できぬ。ヌーテが、そうでなかったのは、残念ではあるが、これも運命、仕方がないことだ」
と、絶雄の言葉に、何かが引っ掛かった。
絶雄は、両思いではなかったと決めつけているが、どうしても、そうは思えない。
勘、と言えばそうなのだが、的外れである気がしない。
「アル。これが、絶雄様の、凹む話なのか?」
「時間的に、そろそろ話したほうが良さそうですね。時間があったら、僕の話もしましょう」
「ぐぅ……」
到頭やってきたと、絶雄が、背凭れに背中を預け、聞く態勢になる。
「『ハビヒ』が亡くなる、三年前のことです。余命が、少ないことはわかっていたので、なるべく、心残りがないようにしようと思いました。そこで、サッソに来てもらいました」
「実は、ずっと愛していたと、人妻に告白でもしたのか?」
「それでも良かったのですが、僕の心残りは、自分のことではなく、カステルとヌーテのことでした」
ボルネアとオルタンスが騒ぎ出す前に、アルが言葉を滑り込ませる。
それだけ、重要な話なのかもしれない。
茶化すようなことは言わず、俺も、真剣に聞くことにする。
「サッソが来てから、二人で、悪巧みをしました。それから、サッソに運んでもらって、ヌーテがいる、聖犬種の神殿に向かいました。そこで、ヌーテを脅しました。ーー言うことを聞いてくれなかったら、ハビヒちゃんと浮気しちゃうよ! とサッソが泣きながら訴えたことで、ヌーテは、やっと重た過ぎる腰を上げてくれました」
修羅場、なのかどうか、色々と聞きたいことがあるが、ぐっと我慢する。
「カステル。『ハビヒ』が亡くなる三年前ーーで思い出すことはありませんか?」
「むぅ、そうだな。……ああ、そうだ、思い出したぞ。ヌーテが、突然、城にやってきたのだ。そのときは、国の大事が幾つか重なっていてな、少しだけ待っているように言ったのだが、戻ったら姿を消してい、たっ!?」
「びょ~~んっ!!」
絶雄に襲い掛かろうとしたので、空中で捕まえ、そのまま危険兎は、俺が管理する。
「それで、そのあと、どうなったんだ?」
しっかりと、ネーラを抱えながら、顛末を尋ねる。
「どう、と言われてもな。……しばらくしてから、今度は、サッソがやってきのだ。それで、……無言で、わしをボコボコにしたのだ。……魔王より、……怖かった」
同情は、できない。
そうされて、当然だ。
「その所為で、サッソは一時、『暴雄』と呼ばれていました。ヌーテも、過去には、色々な呼ばれ方をしました。教会に対応していたときには、『犬雄』や『堅雄』、それから、『賢雄』となった後に、『剣雄』となりました」
アルが俺を見たので、仕方がなく、未だ気づいていない絶雄に、有り得たかもしれない未来、というより、取りこぼしてしまった過去の話をする。
「爆雄が、魔雄との浮気まで持ち出して、説得したんだ。何をしたのかなんて、決まっている。聖犬種の役割を果たそうとしていた、剣雄に、秘めた想いに殉ずるように、訴えたんだ。ーーきっと、剣雄は、たった一度と、決めていたはずだ。運命が交わるのなら、それは巡ってくるはずだと。だが、ーー運命は、交わらなかった」
「ーーは? ーーぬ?」
「動けなかった、『ハビヒ』も、サッソに、お願いしました。親友のために、本気で怒っても良いですよ、と送り出しました。ヌーテだけでなく、サッソと『ハビヒ』の心まで踏み躙ったのですから、ボコボコにされたくらいでは、全然足りません」
茫然自失となった、絶雄に、ネーラが止めを刺す。
「ぴょ~~んっ!! ぴょ~~んっ!! 同じ女としてね、許せないんだよ~! 国の大事? そんなことはね、知ったことか~っ、なんだよ~! 魂を懸けて愛した女の覚悟をね、蔑ろにした男なんか、生きてる間に千回謝るのがいいんだよ~っ!!」
ネーラの叫びで、やっと理解した、絶雄は、ーー心臓の鼓動を止めた。
時機良く部屋に入ってきた、ティソが、絶雄を蘇生させる。
「若。いつ、お戻りになるのですか?」
ネーラを長椅子に、それから、ティソから絶雄の手紙と、ーー魔石を手渡されてから、部屋を辞そうとしたところで、アンリさんから声を掛けられる。
「さっき、言った通りだ。俺が戻ったところで、何もできない。中途半端な俺では……」
「とんでもない! 若は、勘違いをしておられます!」
期待してくれるのは、ありがたいが、幻想の俺を、現実の俺に重ねるのはやめて欲しい。
「ん~? ん~? ラクンちゃんっ、ラクンちゃんっ、もしかしてね、気づいてないんだよ~?」
「は? 何がだ?」
「びょ~~んっ!! びょ~~んっ!?」
激高し、跳び上がった、ネーラは、二度目の跳躍で、天井に頭をぶつけた。
ーー助けに行け。
俺は、落下地点に行くように、親父に向かい、手を振る。
「ふゆふゆ~~っ、ふゆふゆ~~っ」
「俺は、ネーラが母親でも、問題ないぞ」
俺は、ネーラの味方だから、彼女の愛を、拒み続ける男に言ってやる。
「それは、難しいでしょうね。カステルと同じで、ウーリ殿も、一途に愛を貫かれているようですから」
「こら、アル。どこまで知っているんだ」
「偶然です。ファリア家と、件の子爵家は、古い付き合いがあるんです。子爵家は、名誉伯である、ウーリ殿との結婚を認めました。ですが、家に戻った娘を、子爵家は許しませんでした。他家と、強制的に、政略結婚させてしまいます。祖父に何度か、相談と、愚痴を言いに来ていたので、ラクンさんに、弟と妹がいることも知っています」
ネーラに送られてきた手紙で、血が半分つながった、兄弟がいることは知っている。
俺ではなく、親友だったネーラに手紙を託するのは、俺を捨てた、罪悪感からだろう。
俺は、母親の顔を知らない。
親父は、俺に、何も言わなかった。
「今は、私のことではなく、馬鹿息子、お前のことだ。お前は、団員の代わりができる。その意味が、わからないはずないだろう」
抉られる。
幻想の代わりなど、現実ができるはずがない。
だから、俺は、自分を消した。
誰も気づかないように、違和感すら抱かれないように、ただ、空白を埋めた。
実際、俺には、何もなかった。
団員たちは、賛辞を浴びるが、俺に気づく者など、誰もいなかった。
「俺が、邪魔なら邪魔だと、はっきり言えば良い」
「……お前は、馬鹿息子で、決定だ。ーーアル殿。しばらくで良い、馬鹿息子が飽きるか、野垂れ死にするまで、一緒にいてやって欲しい」
もう、アルの顔も、親父の顔も見たくないので、先に扉から出ることにする。
「やっぱり、兎さんに、拒まれてしまいました」
アルが追いついてくる。
落ち込んでいたかと思うと、俺の後ろから、嫌な気配が漂ってくる。
二人も察知したのか、後退る音が聞こえてくる。
「ラクンさん。カステルから、手紙と魔石をもらったのに、お礼の一つも言わないなんて。そこに痺れる、憧れます」
「ーーっ!!」
俺は、全速力で応接室に駆け戻り、誠心誠意、まだ凹んだままの絶雄に、頭を下げるのだった。
ネーラが、動かなくなった。
「ラクン。さすが『兎殺し』の『撫師』ね」
「でも、アル様のほうが、上」
確かに、「幻炎の家」の、元気盛りの子供たちを静かにさせていたくらいだし、俺を超える、「撫好」かもしれない。
「アルのほうが年季が入っているからな、『撫師』の称号は、伊達ではない」
「カステル様もね、アンリちゃんの同類なんだよ~」
アンリさんは、演奏は神懸かっているのだが、反面、他の分野で才能が暴発していることがある。
絶雄も、世間の評価と異なるところがある。
今更、一つ二つ、瑕疵が明らかになったとしても、彼への信頼は揺るがないーーはず。
復活したネーラを持ち上げ、親父の膝の上に置いてくる。
「ふゆふゆ~~っ、ふゆふゆ~~っ」
一瞬で元気になる、ネーラだが、再びの、兎人の小移動。
絶雄の膝の上に運ばれ、人竜を凍りつかせる。
絶雄の懇願の眼差しに、アンリさんが、溜め息交じりに、ネーラを引き取る。
順番待ちの、アルが笑顔で両手を広げるが、ボルネアとオルタンスが左右の腕をつかんで下ろさせたので、俺は、長椅子の端まで移動する。
ーー狭い。
三人が密着しているとはいえ、三人掛けの椅子だ。
立ち上がろうかと思ったが、何となく、仲間外れは嫌だったので、体を傾けつつ、座席を確保。
「勘違いするでない。わしは、『ナデストロ』を推した。『ナデスター』を推したのは、ヌーテだ」
「また、絶雄様は、多数決で負けたのか?」
「そうではない。サッソが推したのは、『ナデリスト』だ。三人がバラバラになったときは、アルが決めていた」
同類は、絶雄ではなく、剣雄だったようだ。
伝え聞く、人物像からすると、意外だが、絶雄がそうであったように、実際の彼女も、色々な側面があったのだろう。
「ええ、こういうとき、ヌーテの意見を選ばないと、ヌーテは泣いてしまいますからね」
「……剣雄様は、泣き虫、だったのかーー?」
実像が、意外過ぎ、言葉に詰まってしまった。
「おや? ラクンさんは、四英雄が、血も涙もない、人非人だと思っていたのですか?」
「絶雄様とアルを見て、そんなこと思うはずがないだろうが」
「はは、ラクンさんが想像しているものとは違うと思いますよ。僕は、ヌーテほど、高尚で高潔、高邁で英邁な人物を、他に知りません。ただ、ヌーテは、特殊な環境で育ったので、サッソや僕に、依存してしまう面があったのです」
「四英雄のことを話し始めるのは、そこらが適当だろう。ティソが戻ってくるまで、しばらく掛かるだろうから、ーー皆に、なるべく詳しく話してやるが良い」
凹む話を、聞くつもりはあるようだが、なるべく後にしたいという、絶雄の思惑が滲む、物言いだった。
確かに、手紙を用意するのはーー。
と、そうだった。
「幻魔大公」とかいう、ふざけた称号ーー絶雄の、家紋を刻んだ魔石ーーも絶賛製作中かもしれないのだ。
ーー仕舞った。
明確に否定するのを、忘れていた。
「四英雄のことを話すのなら、その始まりは、サッソとヌーテの出逢いからです。ヌーテは、サッソの噂を聞いて、会いに行きます。ですので、まずは、サッソの境遇から話すことになります」
アルの話が始まってしまったので、「幻魔大公」については、ティソの良識を期待する以外に、手段はなくなってしまった。
「カステルとヌーテ、そして僕は、相応の力と才能があり、その上で、弛まぬ努力を重ね、四英雄たる力を得ました。ですが、サッソは、違いました」
「最初から、四英雄に匹敵する力を具えていたのか?」
恐らく、兎国の建国に係わっていなかったのも、その辺りが理由のはず。
「はい。サッソは、四英雄の中で、最大火力の持ち主でした。サッソは、生まれながらに、力を持ち合わせていました。ですが、その力を制御できませんでした。制御の道筋が示されたのは、ヌーテとの出逢いからです」
それは、大変、などという言葉で済まされるものではなかっただろう。
絶雄を超えるような火力が、赤子に具わっていれば、誰も手に負えない。
このあとの展開を予想し、暗澹たる気分になる。
「往時、世界は荒れていました。弱小種であった、兎族は、迫害の憂き目に遭っていました。迫害を免れた、兎族の多くは、山奥に逃げました。サッソは、その、更に奥に、捨てられました。ーーそれから、百五十年。サッソは、独りで生き抜きました」
ーー百五十年。
「アル」と「ハビヒ」を足した年数よりも、十九年も長い。
優し気に見えた、あの爆雄。
「英雄たちの行進」で見た、兎人には、そんな暗い影のようなものは見受けられなかったが、ーーもしかしたら、あれは、魔雄の理想化した姿だったのかもしれない。
そう考え、即座に否定する。
アルが、獣種のことで、そんなことをするはずがない。
そうであるなら。
孤独な兎さんに、手を差し伸べる者がいたはずだ。
「サッソは、後に大親友となる、ヌーテと、奇跡的な出逢いを果たします。ですが、サッソには、ヌーテと出逢う前に、もう一つの、奇跡的な巡り会いがありました。それが、竜人である、オーギュストさんです」
もう、過ぎた物語だというのに。
安堵で、体から力が抜け、無意識に握っていた、拳を緩めた。
「オーギュストさんは、四英雄以外では、一、二を争う、武力の持ち主でした。夙に、最強だと言われている、竜人の中でも、抜きん出た力を持っていました。強者を求めて、そして、噂を追って、サッソに行き着いて、ーー彼は、その頑強さを以て、生き残ることができました」
「あー、それは凄いな。手加減できない爆雄の一撃で、原形を保っていたなんて」
「はい。オーギュストさんは、サッソの一撃を、躱すことができたんです。掠りでもしたら、ラクンさんの言う通りになっていたでしょう。ですので、彼は、重傷で済みました。サッソは、初めて会った獣種であるオーギュストさんの世話を、甲斐甲斐しく焼きました。完治してから、勝負を挑んで、また世話を焼かれてーーそんなことが十回ほど繰り返された頃に、オーギュストさんは、サッソに求婚しました」
「ーーえ? ……話の、途中を、すっ飛ばしたのか?」
「いえ、何もすっ飛ばしてはいません。竜人は、最強だと称えられていますが、同時に、単純だとの評価もあります。竜種は、基本、善良で一途だと、知られています。そういうわけで、オーギュストさんは、自分よりも強くて、優しく可愛い兎さんに、ころりとやられてしまいました」
最後の言い様に、トゲがあったので、聞いてみる。
「怒っているのか?」
「怒ってなどいません」
怒っているようだ。
そうなるとーー。
「もしかしなくても、アルの初恋は、爆雄だったのか?」
びくんっ、と現恋人候補の二人が反応するが、アルは、獣種の頭を撫でたあと、話を進めた。
「以前、話しましたが、四英雄は、規格外です。サッソとオーギュストさんは、さっそく子作りをして、彼はーー、一年間、準寝たきり状態になりました」
「四英雄以外で、一、二の強さなのに、そこまで損傷があったのか……?」
以前、四英雄の、膝くらいまで強くならないと駄目だと、アルが言っていたが、ボルネアとオルタンスの恋路は、とても険しいようだ。
「オーギュストさんの凄いところは、そこで諦めなかったことです。一年経って、回復したら、また子作りをして、寝たきりに。これを、オーギュストさんは、青年期の間、ずっと繰り返していたのです」
「それで、二人の間に、子供は生まれたのか?」
猫人と犬人が聞き辛そうだったので、代わりに聞いてやる。
「はい。ヌーテと出逢う前に、竜人の女の子が一人。魔王を倒したあとに、兎人の女の子と、竜人の男の子を授かりました。オーギュストさんが、壮年期になってからは、体が持たなくなったようですね。四英雄で結婚したのは、サッソだけでした。仲睦まじい夫婦でしたので、僕の理想の家族像でもあります」
兎人と兎人の場合は、兎人が生まれる。
兎人と人兎の場合は、確率は半々だ。
兎人と竜人といった、種族の壁を越える場合は、兎人と竜人で半々のようだ。
獣種と人種の場合は、人種として生まれる確率が高いと言われているが、眉唾物だ。
人種の劣等感から出た話で、実際は、逆ではないかと踏んでいる。
「ミュスタイア国が、竜種の国になっていないのは、竜種の性質にあるのか?」
話が竜種に及んでから、ソワソワしていた絶雄に、振ってあげることにする。
絶雄とオーギュストさんの間で、何かあったのかもしれない。
「竜種は、自身の強さを自覚しておるから、高い地位に就くのを控えているのだ。成り行きで、王になどなってしもうたが、結果、竜種からは、総スカンを食った。オーギュストの兄貴はな、竜種とわしの間を取り持ってくれた、唯一の竜種だったのだ」
家族像としてアルが憧れるだけあり、人格的にも優れた人だったようだ。
俺は、アンリさんの膝の上で大人しくしている、育ての親を、ちらりと見る。
そんなオーギュストさんでも、サッソと兎族の間の確執ーーではなく、不和を、どうにかすることは敵わなかった。
兎族に捨てられた、サッソは、兎族ではなく、家族と四英雄を選んだのだろう。
ーー魔雄が、人種ではなく、獣種と四英雄を選んだように。
「兄貴、と言っていたが、実際に、血がつながっているわけではなさそうだな」
「竜種の数は少ないでな、地域の竜種とは、大抵、顔見知りなのだ。兄貴は、わしの親父が冒険者であった頃の、仲間の一人だ。幼年期に、わしが勝てなかったのは、親父と兄貴の、二人だけだった」
懐かしがる絶雄だが、これは、きっと、「すべてを言わない」の状態なのだろう。
あとで凹まされるのは確定しているのだから、アルが意地悪をしてしまう前に、次の英雄の話に進んでもらうことにする。
「そうなると、次は、爆雄様と出逢うことになる、剣雄様の話だな」
「サッソと同じく、ヌーテのことも、境遇からーー生い立ちから話す必要があります。丁度、話が出ましたが、カステルは、S級冒険者の息子です。有名ではありましたが、地位は、伴っていません。サッソと僕は、素性自体、わかりません。三人と違い、ヌーテは、王族の出身でした」
「ん? それは、初耳だな。人種界隈だと、魔雄が王族だったとか、言われているみたいだが」
「四英雄は皆、誤解やら曲解されていますが、神格化だけはやめて欲しいですね。と、話が逸れてしまいました。王族であった、ヌーテの情報が秘匿されているのは、ヌーテが、聖犬種の姫だったからです」
「聖犬種?」
これもまた、初めて聞く言葉だ。
親父を見たくないので、ネーラとアンリさんに聞く。
「二人は、聞いたことがあるか?」
「はい。聞いたことだけは、あります」
「んっとね、んっとね、面倒なことになるからね、公の場所では、口にしないことになってるんだよ~」
ネーラの言葉を聞き、珍しく、兎人の頭を撫で撫でしながら、アンリさんは、重たい言葉を、ひとつひとつ、口から出していった。
「……「なにもかくさない」、ネーラさんは、犬国で、しっかりと、口にしてしまい、大変なことに、なってしまいましたが」
俺には、その大変さの度合いがわからないので、本命に聞くことにする。
「実は、オルタンスは、その聖犬種だったりするのか?」
「聖犬種は、ラクンが考えているものとは、違う。聖犬種は、教会絡み。特に、犬種のそれは、不味い。犬種は、覇王五種の時代から、有力種とされている。別けても、聖犬種は、竜種に並び立つとまで言われている」
完全に、他人事のようなので、彼女が聖犬種ということはないようだ。
そして、皆の話し振りから、聖犬種には、容易に踏み込めない、曰くのようなものがあるらしい。
「魔雄が世界を纏め上げた、と言われていますが、それは、半分正解です。もう半分は、ヌーテが纏めました」
「半分が、世界の国々で、もう半分とは、教会のことだな」
「そうです。彼らは、とても厄介なのです。事実や損得といったもので、動いてくれないのです。もちろん、三人から、やれと言われれば、相手が泣いて許してくれと言っても、許さず追い詰めるつもりでしたが、幸か不幸か、ヌーテが聖犬種の姫であったため、ヌーテが一手に引き受けてくれました」
「結局。聖犬種が何なのか、聞いてはいけないことなのか?」
「自然と知るまで、知らなくても良いことです。ですので、ヌーテのことに限って、話すことにしましょう。聖犬種は、二つの勢力があり、ヌーテは、その勢力争いの中で、地位はそのままに、放逐されてしまいます。放逐した側の勢力からすれば、暗殺する好機です。ですが、もう片方の勢力は、知っていました。ヌーテを害することができる者など、存在しないことを」
「剣雄様にとって、外の世界に出ることは、良いことだったのか?」
「ヌーテにとっては、そうでしたね。通常の女性なら、衣食住と安全が保障された、王族という地位は、決して手放したくないものでしたが、窮屈で面白味のない、小さな世界は、ヌーテの望むものではありませんでした」
古代期は、荒れていたから、弱小種だけでなく、獣種の女性も、生き辛い世の中だったのだろう。
人種は人種で、内輪揉めをしていた挙げ句、魔王討伐にも加わらなかったので、魔雄がいなかったら、そのまま滅びていたかもしれない。
「ヌーテは、本当に、気高い、女性でした。聖犬種とは、制約の、塊のようなものでした。ヌーテは、『姫』としての役割を全うしようとしました。そこから先は、あとで話すことになるので、話し忘れていたことを、一つ」
あとで、というと、絶雄が凹む話には、剣雄が係わっているようだ。
彼が凹むほどに大切なものーーというのは、限られているから、「千恋」に関係したものなのかもしれない。
「サッソは、ヌーテと出逢い、ヌーテから、力の制御を学び始めました。ヌーテは、旅を続けていたので、オーギュストさんは、ヌーテと一緒なら問題ないだろうと、外の世界を見てくるよう、快くーーとはいかず、老婆心という言葉が逃げ出すくらいに、心配しまくりながら、サッソを送り出しました」
「ん? 話し忘れていた、と言ったが、そのことじゃないよな?」
「はい。大したことではないのですが、サッソのことを知ってもらうには、外せない話なのです。サッソは、半年後に、カステルと出逢うまでに、力を制御できるようになっていました。ただ、その制御とは、零か百、なんです」
「うわ……。つまり、手加減なんてものは、できなかったんだな」
四英雄の力とは、市井人からすれば、災害のようなものだ。
他人からすれば、たったそれだけのことでも。
零にできたのなら。
誰も、傷つけないでいられるのなら、爆雄にとっては、人生に光が差したような、大きな変化だったに違いない。
「そういうわけで、サッソは、魔王以外とは、戦いませんでした」
「ーーは? あ、と、そうだな、手加減ができないのは不味いし、魔王戦以外は、剣雄様や絶雄様、一人で事足りたわけか」
「サッソは、戦いの素人でした。道中、オーギュストさんの世話を焼いていたのと同じく、僕たちの面倒を見てくれました。そんなサッソでしたが、世界を救うとーー家族と四英雄を守るために、最も勇敢に立ち向かったのが、サッソでした」
「というか、な。アルが言った通り、サッソは、戦いの素人だ。魔王に突っ込んで行って、ぶん殴る。瀕死の重傷を負おうと、立ち上がり、また突っ込んで行く。これの繰り返しだった。意外に思うかもしれんが、ヌーテは、壁役だった。魔王の攻撃を、受け流せるのは、ヌーテだけだった。アルは、完全に、わしらの補助だ。魔法はすべて、わしらが全力で戦えるための、環境作りに注ぎ込まれた」
「ところで、絶雄様は、見物でもしていたのか?」
意図的にではないだろうが、魔王戦に、絶雄の名がまったく出てきていない。
「絶対の主」とまで称えられる人物は、どのような活躍をしたのだろう。
「アル。頼むぞ」
自分では、力不足と見切りをつけたのか、アルに丸投げしてしまう。
「では、ついでに、カステルの話もしてしまいましょう。カステルは、竜人の父親と、人竜の母親の間に生まれました。カステルの強さの秘密は、人竜でありながら、竜人の性質も受け継いだことです。元々の、竜種としての力に、両種の性質。S級冒険者であった父親から、適切な指導を施されることで、魔法以外は、だいたい二番目でした」
「ああ、そういうことか」
全員の目が、人竜に集中する。
絶雄の、目が泳いでいる。
もう、何度目だろうか、可哀想なので、彼をフォローしておく。
「四人の中心で、絶対的な支柱として、なくてはならない存在だったわけだな」
「はい、その通りです。カステルがいたからこそ、僕たちは、全力で自分たちの役割に、没頭することができたのです。カステルは、サッソに続く、二番目の攻撃力を持っていました。ヌーテに続く、防御力。僕に続く、魔力量。ーーといった具合に、弱い部分の助勢、穴が空けば、その代わりにと、渋い活躍をしてくれました」
「あとはな、ヌーテとアルが、世界を纏め上げるときも、皆の後ろで踏ん反り返っていることが、わしの役割だった」
自分が、四英雄の中心だと、世間に思わせることで、二人に向かう注目や重圧を減らそうとしたのだろう。
詮ずるところ、それが後世、彼を苦しめることになるのだから、ある意味、下手を打ったとも言える。
「サッソとヌーテ。二人で旅をしていたところで、カステルと出逢います。出逢った当初は、カステルとヌーテの二人は、死ぬほど仲が悪かったそうです」
「それは、な。楽観的で柔軟な思考の、わしと、堅苦しいどころか、鋼鉄のほうが折れ曲がるくらいの、頭の固いヌーテでは、衝突するのは、仕方がないことだった」
確かに。
ここまでの話を聞いていれば、意外でも何でもない。
不思議なのは、このあとだ。
「それが、どうして『千恋』と呼ばれるぐらいに、あー、……そうなってしまったんだ」
「ラクンちゃんもね、まだまだ、お子ちゃまなんだよ~」
口に手を当て、ぷぷぷっ、と嬉しそうなネーラ。
実際に、羞恥心から言葉を濁してしまった、俺には、反論の機会は与えられていない。
「これは、経験した者でないと、わかり難い。獣種は、大抵、同種を愛する。人竜なら、人竜と。稀に、人竜と竜人が愛し合うこともある。だが、他種との婚姻となると、絶対数が少ない。実は、恋愛というか片思いまでなら、獣種でも、結構あるのだがーー」
「それは、わかる。団の友人である、人犬のバーデンは、『貴公子』と称えられていて、他種の女性たちからも人気があるが、彼自身、結婚するなら人犬とする、と言っていた」
思い出してしまった。
彼は、定期的に、俺を、人気のない場所に連れていく。
そして、膝枕を要求されるのだ。
それから。
頭を撫でる。
ーー祖母にそうしてもらっていたように。
でれんっ、と崩れた、バーデンの顔を見れば、「貴公子」のファンである女性たちの大半が、千年の恋も冷める、こと請け合い。
他にも、獣種の二人の男が、秘密の撫事を要求してきた。
「ーーーー」
バーデンは、大丈夫だろうかと、心配になる。
疑似祖母に撫でられると、アイデアが浮かんでくるそうだが、物語のストックはあると言っていたから、しばらくは問題ないだろう。
「魂が求めるというか、一気にな、ーー来るのだ。そうなれば、もう、抗うことなど、できぬ。ヌーテが、そうでなかったのは、残念ではあるが、これも運命、仕方がないことだ」
と、絶雄の言葉に、何かが引っ掛かった。
絶雄は、両思いではなかったと決めつけているが、どうしても、そうは思えない。
勘、と言えばそうなのだが、的外れである気がしない。
「アル。これが、絶雄様の、凹む話なのか?」
「時間的に、そろそろ話したほうが良さそうですね。時間があったら、僕の話もしましょう」
「ぐぅ……」
到頭やってきたと、絶雄が、背凭れに背中を預け、聞く態勢になる。
「『ハビヒ』が亡くなる、三年前のことです。余命が、少ないことはわかっていたので、なるべく、心残りがないようにしようと思いました。そこで、サッソに来てもらいました」
「実は、ずっと愛していたと、人妻に告白でもしたのか?」
「それでも良かったのですが、僕の心残りは、自分のことではなく、カステルとヌーテのことでした」
ボルネアとオルタンスが騒ぎ出す前に、アルが言葉を滑り込ませる。
それだけ、重要な話なのかもしれない。
茶化すようなことは言わず、俺も、真剣に聞くことにする。
「サッソが来てから、二人で、悪巧みをしました。それから、サッソに運んでもらって、ヌーテがいる、聖犬種の神殿に向かいました。そこで、ヌーテを脅しました。ーー言うことを聞いてくれなかったら、ハビヒちゃんと浮気しちゃうよ! とサッソが泣きながら訴えたことで、ヌーテは、やっと重た過ぎる腰を上げてくれました」
修羅場、なのかどうか、色々と聞きたいことがあるが、ぐっと我慢する。
「カステル。『ハビヒ』が亡くなる三年前ーーで思い出すことはありませんか?」
「むぅ、そうだな。……ああ、そうだ、思い出したぞ。ヌーテが、突然、城にやってきたのだ。そのときは、国の大事が幾つか重なっていてな、少しだけ待っているように言ったのだが、戻ったら姿を消してい、たっ!?」
「びょ~~んっ!!」
絶雄に襲い掛かろうとしたので、空中で捕まえ、そのまま危険兎は、俺が管理する。
「それで、そのあと、どうなったんだ?」
しっかりと、ネーラを抱えながら、顛末を尋ねる。
「どう、と言われてもな。……しばらくしてから、今度は、サッソがやってきのだ。それで、……無言で、わしをボコボコにしたのだ。……魔王より、……怖かった」
同情は、できない。
そうされて、当然だ。
「その所為で、サッソは一時、『暴雄』と呼ばれていました。ヌーテも、過去には、色々な呼ばれ方をしました。教会に対応していたときには、『犬雄』や『堅雄』、それから、『賢雄』となった後に、『剣雄』となりました」
アルが俺を見たので、仕方がなく、未だ気づいていない絶雄に、有り得たかもしれない未来、というより、取りこぼしてしまった過去の話をする。
「爆雄が、魔雄との浮気まで持ち出して、説得したんだ。何をしたのかなんて、決まっている。聖犬種の役割を果たそうとしていた、剣雄に、秘めた想いに殉ずるように、訴えたんだ。ーーきっと、剣雄は、たった一度と、決めていたはずだ。運命が交わるのなら、それは巡ってくるはずだと。だが、ーー運命は、交わらなかった」
「ーーは? ーーぬ?」
「動けなかった、『ハビヒ』も、サッソに、お願いしました。親友のために、本気で怒っても良いですよ、と送り出しました。ヌーテだけでなく、サッソと『ハビヒ』の心まで踏み躙ったのですから、ボコボコにされたくらいでは、全然足りません」
茫然自失となった、絶雄に、ネーラが止めを刺す。
「ぴょ~~んっ!! ぴょ~~んっ!! 同じ女としてね、許せないんだよ~! 国の大事? そんなことはね、知ったことか~っ、なんだよ~! 魂を懸けて愛した女の覚悟をね、蔑ろにした男なんか、生きてる間に千回謝るのがいいんだよ~っ!!」
ネーラの叫びで、やっと理解した、絶雄は、ーー心臓の鼓動を止めた。
時機良く部屋に入ってきた、ティソが、絶雄を蘇生させる。
「若。いつ、お戻りになるのですか?」
ネーラを長椅子に、それから、ティソから絶雄の手紙と、ーー魔石を手渡されてから、部屋を辞そうとしたところで、アンリさんから声を掛けられる。
「さっき、言った通りだ。俺が戻ったところで、何もできない。中途半端な俺では……」
「とんでもない! 若は、勘違いをしておられます!」
期待してくれるのは、ありがたいが、幻想の俺を、現実の俺に重ねるのはやめて欲しい。
「ん~? ん~? ラクンちゃんっ、ラクンちゃんっ、もしかしてね、気づいてないんだよ~?」
「は? 何がだ?」
「びょ~~んっ!! びょ~~んっ!?」
激高し、跳び上がった、ネーラは、二度目の跳躍で、天井に頭をぶつけた。
ーー助けに行け。
俺は、落下地点に行くように、親父に向かい、手を振る。
「ふゆふゆ~~っ、ふゆふゆ~~っ」
「俺は、ネーラが母親でも、問題ないぞ」
俺は、ネーラの味方だから、彼女の愛を、拒み続ける男に言ってやる。
「それは、難しいでしょうね。カステルと同じで、ウーリ殿も、一途に愛を貫かれているようですから」
「こら、アル。どこまで知っているんだ」
「偶然です。ファリア家と、件の子爵家は、古い付き合いがあるんです。子爵家は、名誉伯である、ウーリ殿との結婚を認めました。ですが、家に戻った娘を、子爵家は許しませんでした。他家と、強制的に、政略結婚させてしまいます。祖父に何度か、相談と、愚痴を言いに来ていたので、ラクンさんに、弟と妹がいることも知っています」
ネーラに送られてきた手紙で、血が半分つながった、兄弟がいることは知っている。
俺ではなく、親友だったネーラに手紙を託するのは、俺を捨てた、罪悪感からだろう。
俺は、母親の顔を知らない。
親父は、俺に、何も言わなかった。
「今は、私のことではなく、馬鹿息子、お前のことだ。お前は、団員の代わりができる。その意味が、わからないはずないだろう」
抉られる。
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だから、俺は、自分を消した。
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もう、アルの顔も、親父の顔も見たくないので、先に扉から出ることにする。
「やっぱり、兎さんに、拒まれてしまいました」
アルが追いついてくる。
落ち込んでいたかと思うと、俺の後ろから、嫌な気配が漂ってくる。
二人も察知したのか、後退る音が聞こえてくる。
「ラクンさん。カステルから、手紙と魔石をもらったのに、お礼の一つも言わないなんて。そこに痺れる、憧れます」
「ーーっ!!」
俺は、全速力で応接室に駆け戻り、誠心誠意、まだ凹んだままの絶雄に、頭を下げるのだった。
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