めぐる風の星唄

風結

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炎の凪唄

ベルニナ・ユル・ビュジエ 6

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 あたしは、小枝を踏んでから、下り坂に小石を転がす。
 座り込んで、樹に凭れ掛かる。
 がさっ、がさっ、と近づいてくる足音。
「……ひっ!?」
 怯えた顔で、逃げようとするが、背後には樹がある。
 現れたのは、豚鬼オーク
「い、嫌っ! 来ないで……」
 あたしを見た、オークの豚顔が嫌らしい感じに歪む。
「ギヒィ」
 ここに来るまでの、警戒していた足取りが、不用心なものになる。
 ここで、涙でも流せればいいのだけれど、そこまでの演技力はない。
「っ!? ィギィッ!?」
 ーーあたしに、気を取られすぎているから。
 右足が落とし穴に。
 仕込んでおいた、尖らせた枝を踏み抜く。
「ーー馬鹿ね」
 命が懸かっているというのに、罠にかかずらっているオークが、憐れでならない。
 立ち上がった、あたしは、すでに背後に回っている。
 小鬼ゴブリンの腰布を巻いた手で、オークの口を覆い、斜めから首に短剣を刺し入れる。
 初めてゴブリンを殺したとき、骨に短剣が当たって軌道がズレた。
 骨を擦るような感触。
 この角度が一番いい。
「無駄よ」
 オークは、あたしの手に噛みつこうとするけれど、ゴブリンの腰布の臭いにやられて、上手くいかない。
 仮に噛みつけたとしても、腰布の下には木の板を挟んである。
 それは、オークがつかんだ、あたしの腕も同じ。
 あたしの、手製の防具。
 木の間に、蔦を巻いてあるから、オークの一撃に耐えることができる。
 オークの体から、がくりと力が抜ける。
 用心のために、心臓を突き刺してから、樹まで戻る。
 ーー大丈夫のようね。
 この場所には、大岩を迂回しないと来ることができない。
 見つかり難く、監視がし易い場所。
 そもそも、ここはオークの領域テリトリーの端だから、あたしが誘導でもしなければ、やってくることはない。
「さてさて、ご飯よ~」
 気分が高揚するけれど、仕様がない。
 ーーだって、オークって、美味しいんだもの。
 ゴブリンを二匹倒したあと、オークを倒した。
 美味しかったことが影響したのか、あたしは、固形物を出すことができた。
 これでオークは、三匹目。
 魔物は、知能が高くない。
 罠を一つ、見抜くことができても、二つは無理。
 教育を受けることができなかった、人種アオスタがどうなるか、本で読んだことがあったけれど、意外にもそれが参考になった。
 ーー人も魔物も、所詮動物、同じ生き物ということなのかしらね。
 肉の色と、匂い。
 二匹のオークを食べて、気づいた。
 部位によって、味が結構変わる。
 あらかじめ用意しておいた、葉っぱで肉を包む。
 この葉っぱもそう。
 虫がたくさん食べていたので、使ってみたら、肉の臭みをある程度消してくれた。
 穴の中の、大き目の石を火魔法で加熱。
 その上に、包んだ肉を置いて、土を覆い被せる。
 焚き火だと、煙で気づかれるかもしれないから、二匹目からはこうしている。
「蒸し上がるまでに、確認しておかないと」
 あたしは、地図を取り出す。
 ゴブリンと、オークの生息域。
「不思議なのよね。オークより弱いゴブリンが、谷から出てきている」
 力関係からして、住み易く、獲物が多い場所は、オークの領域。
 そのオークの領域の外に、ゴブリンの棲み処があるはず。
 ーーなのに、このゴブリンの行動は。
「何かがあったと、見るべきよね」
 水か獲物の枯渇か、或いは、ゴブリンよりも強い敵の侵入。
 敵の侵入だとしたら、オークよりも強いということになる。
 通常なら、そうなるのだけれど。
 単純なゴブリンは、そこまで考えず、ただ敵から逃げているだけかもしれない。
「でも、あたしがやることは、変わらないわ」
 オークは、未だゴブリンの侵入に気づいていない。
 なら、気づくように仕向けてやればいい。
 オークは、もう、三匹殺されている。
 当然、警戒しているだろうから、そこにゴブリンが領域侵入すれば、誤解すること請け合い。
 怒り狂ったオークは、ゴブリンを襲撃する。
「ーーこれで、やっと抜けられる」
 一つの判断ミスが、ここまで響いてしまった。
 遺産のある場所に向かうには、オークの領域を抜けないといけない。
 まるで関所のように、オークの棲み処が邪魔をしていた。
 ーー獣国に入国していれば、こんな苦労をしなくて済んだのに。
 今から思うと、狼人トリアスを怖がっていたのが、馬鹿らしくなってくる。
 獣種は、人種を毛嫌いしていたとしても、理由もなく傷つけることはない。
 その点では、人種よりよっぽど信用できる。
「いい匂い。もう、いいかしら」
 太い枝を打っ刺して、てこの原理で石ごと肉を取り出す。
 決行は明日と決めて、あたしは、腹ごしらえしてから、十分に休息を取るのだった。
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