めぐる風の星唄

風結

文字の大きさ
上 下
14 / 49
炎の凪唄

魔雄の一撃

しおりを挟む
「……太陽さん、おはようございます」
 夜は、雨が降ったが、アルの「結界」のお陰で濡れなかった。
 ーー疲れた。
 顔を上げると、日付を跨いで鍛錬から戻った、アルが残していった「光球」が、陽の光を浴びて消滅したところだった。
 二人が嫌がったから、ここからは見えない灌木の向こうで、三人は寝ている。
 ーー夜もすがら。
 最善は尽くしたと思う。
 徹夜は、二日までなら大丈夫だ。
 今は、物凄く眠いが、ここを越えれば、普段と変わらないように行動できる。
「……うー」
 ーー兎さんが、一匹。
 ーー兎さんが、二匹。
 ーー兎人メソルチーナが、ぱりん。
「……ぱりん?」
 顔を下げると、「課題」として渡された、硝子玉のような透明な球体が、破片を散らしながら光にほどけていくところだった。
 両手に、感触が残っている。
 ほんのり、温かい。
 ーーもう一度。
 失われない内に、ネーラを撫でる。
 手が、覚えている。
 あの優しさを、転がるような心地を、忘れていない。
「やっぱり……」
 両手が、じんわりと熱を宿す。
 どうやら、この熱が、球体を割ったようだ。
「ネーラには、絶対に言えないな」
 この歳で、母親代わりの兎人ネーラに、甘えている妄想をしないといけないとは。
 とはいえ、今は、この熱を手放してはならない。
「ぴぃよぉ~~ん、ぴぃよぉ~~ん」
 一通り撫で、総仕上げに首の後ろを強めに撫でると、ネーラは、気持ちよさそうな声を上げながら体を擦りつけてくる。
 まだ頭が寝惚け、羞恥心が風の女神ラカと遊んでいる内に、確実に物にしてしまわないと。
 二度もやってしまうと、灌木からアルが、にょきっと顔を出してくる予感がする。
「ーーよし」
 幻影もうそうのネーラを撫でれば、消えないやさしさが心に浮かび上がり、ーーそして、アルの気配も感じられない。
「そういえば、近くに泉があったんだっけか。眠気覚ましに、顔でも洗うか」
 ーー飲めるくらいに、綺麗にしておきました。
 まずは、二人に魔法を仕込むことを優先する、とアルは言っていた。
 「結界」に「浄化」に、恐らくは、他にも併行して魔法が使われているのだろう。
 あまりの便利さに、一団に一人、欲しいくらいだ。
 だが、実際には、一国に一魔雄でも、一世界に一魔雄でも、持て余しそうだ。
「……ふわぁ~」
 止めようとしたが、無駄な足掻きで、欠伸が出てしまう。
 アルが寝坊するとは思えないが、まだ寝ているのなら、朝飯は俺が作ろう。
 ついぞ幻想団の料理人である、猪人カポからは、合格点をもらえなかった。
「人種の料理は兎も角、獣種の料理は、味見できないからなぁ」
 アルの料理を、ボルネアとオルタンスは、美味しそうに食べていた。
 魔雄の記憶なのか、魔力で味見のようなことをしているのか、機会があったら聞いてみよう。
 ちゃぷ、という魚が跳ねたような音が聞こえ、俺は、朝日を蓄え輝く、光の泉にーー心を奪われなかった。
 何故なら、俺の目は、二つのものに釘付けだったからだ。
「…………」
 俺は、まだ、夢の中にいるのだろう。
 猫人ジッテン、というか、獣人ニヨンの多くは、全身が毛で覆われているが、人獣シオンーー人猫セドゥヌムは、その限りではない。
 水が滴り落ちる、優美な曲線。
 朝日が飾り立てる、肌が、白さを際立たせる。
 片腕では、隠し切れない双丘が、やわらか過ぎるのか、歪に形を変えている。
 芸術品めいた美しさを醸すと同時に、現実的な、生々しさに溢れている。
「ーーーー」
 俺は、まだ、夢の中にいたいのだろう。
 全身を、水に濡らした犬人ウンターは、くっきりと、体の形を露わにしている。
 人獣に近い獣人なので、四肢とお腹に、肌が露出した箇所が幾つか散見できる。
 なまめかしい、湿った毛が、逆に、掻き立てる。
 しなやかで、刃のような美しさがあるというのに、目に優しく映えている。
「ーーっ?!」
「っっ!!」
 俺は、今すぐに、夢から覚めないといけない。
 でないと、死ぬ。
 ーー無理だ。
 何故なら、これは現実だから、もう、目覚めることなんてできない。
 夢に逃避なんてしたら、きっと、死ぬ。
「……ネ…ラ」
 最期の言葉が、母親代わりメソルチーナだったことに、少しだけ凹んだ。
 何となく、わかる。
 もう、生きるか、死ぬか、の二択しかない。
 ボルネアとオルタンスが驚いたのは、沐浴もくよく中に俺が現れたことが原因だが、同時に、俺の後ろに世界が生まれたからだ。
 もちろん、比喩だ。
 俺の頭が、正しく理解、認識できるはずがない。
 途轍もないものがこんなもの空前絶後に絶体せかいに絶命の艱難辛苦がそんざいして俺の運命と退廃的いいはずがな舞踊の真っ最中ないではないか
 これ以上、ないくらいに跳ねた心臓が、ーー止まった。
 どうしよう、胸の辺りから、鼓動が感じられない。
 心臓が、剥ぎ取られたのかと思ったが、違った。
 首が、胴から切り離された。
 衝撃、などという生温いものではない、黒い何かが、俺の後頭部辺りの空間を、絶望で染め上げたのだった。



ネ「なにもかくさないっ!」
ラ「いきなりどうした?」
ネ「ネーラだよ?」
ラ「……ネーラの名前は、ドッレ・ネーラで、本当はファーストネームで呼んで欲しいんだが、ファミリーネームの『ネーラ』のほうが気に入っているから、『?』がついている」
ネ「ラクンちゃんっ、ラクンちゃんっ、風結の外道はね、ここまでしか書いてないんだよ~」
ラ「そう言ってやるな。異世界では、病が流行っているらしく、風結の勤め先も、今、やばいらしい」
ネ「お休みできるどころかね、仕事が倍になっちゃってるんだよ~」
ラ「一年前には、隣が潰れて、働き過ぎで、二か月ダウンしたからな」
ネ「あのねっ、あのねっ、そういうわけでね、風結は、ネーラの出番をね、しこたま寄越すんだよ~!」
ラ「心配するな。ネーラの出番は、まだ、あるから。……一回だけだが」
ネ「ぴょ~~んっ!!」
ラ「って、こら、暴れるな! そういうわけでっ、投稿のペースは遅くなるかもしれないが、読んでくれたら嬉しい!!」
ネ「ふゆふゆ~~っ、ふゆふゆ~~っ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

魔拳のデイドリーマー

osho
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生した少年・ミナト。ちょっと物騒な大自然の中で、優しくて美人でエキセントリックなお母さんに育てられた彼が、我流の魔法と鍛えた肉体を武器に、常識とか色々ぶっちぎりつつもあくまで気ままに過ごしていくお話。 主人公最強系の転生ファンタジーになります。未熟者の書いた、自己満足が執筆方針の拙い文ですが、お暇な方、よろしければどうぞ見ていってください。感想などいただけると嬉しいです。

処理中です...