めぐる風の星唄

風結

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炎の凪唄

ベルニナ・ユル・ビュジエ 2

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 ーー古い記憶。
 空は、赤かった。
 見上げていないと、すり切れた心が、そのまま壊れてしまうから。
 義父と義母。
 あたしを助けてくれた、拾ってくれた、優しい人たち。
 息子と孫を喪った二人は、あたしを孫娘の代わりとして育ててくれた。
 ーーその代償は。
 あたしの、これまでの人生だったのかもしれない。
 あたしは、あたしじゃなくなった。
 「ベルニナ・ユル・ビュジエ」として生きるために、必要だった。
 ーー「洞穴の主」。
 魔法使いーーイオアニスは、あたしをして、ベルニナとしてのすがたをくれた。
 本当の意味での、代償、を知ったのは、十歳のときだった。
 洞穴で、別の硝子の容器に入っていた女性が、命を落とした。
 ーー二十歳を超えることができない。
 夢うつつに、液体を漂いながら聞いた、イオアニスの苛立った声。
 あれから、九年。
 それでも、良かった。
 あたしを大切にしてくれる、義父と義母に見守られながら。
 二人より先に死んでしまうのだけが、心残りだったけれど。
 ーー嘘吐きだった、あたし。
 あのときのように、空だけを見上げていられなかった。
 自分でも、見えないようにしていた、炎が灯ってしまった。
 ーー魔雄ハビヒ・ツブルクの遺産。
 手が、心が震えた。
 神の贈り物か、悪魔の囁きか。
 魔雄ハビヒ・ツブルクが、絶雄カステル・グランデに送った手紙。
 ビュジエ家は、名家だったから、ーーいえ、それでも、これは……。
 すがった。
 本物でも偽物でも。
 炎を消し去るなんて、もう、無理。
 「ベルニナ」は、本を読むのが好きだったから、「あたし」も、二人が喜んでくれるから、喜んでほしかったから、古代期の文字まで覚えてしまった。
 ーー本当に、人生何が役に立つかわからないものね。
 猶予は、たった半年。
 それでも、諦めずに。
 必要なことだけを、絞って、暗闇で光を求めるように藻掻もがきながら。
 魔法を完成させた。
 あたし自身を器とすることにした。
 「魔雄の遺産」である、絶大なる魔力を受け容れるために。
 ーー魔雄が遺した魔力さえ手に入れられれば。
 義父と義母を悲しませなくて済むのだもの。
 言い訳ーーなのかしらね。
 わからない。
 今は、わからなくてもいい。
 真っ直ぐに進もう。
 旅立ちの準備は終わった。
 見上げるだけだった、空の、あの場所にあるはずの何かを、つかんでみせる。
 振り返らずに、部屋を出る。
 あとは、二人に別れの挨拶をするだけ。
 絶対に帰ってくると。
 もう一度、嘘を吐くーーだけ。
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