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七章 侍従長と魔法使い
スリシナ街道
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折れない剣は、天を指し示す。
石が地に落ちる、然様な自然の法則に遵ったかのような振り下ろし。
切っ先が、大地に蟠る萎びた風に語り掛ける。
小さな綾を生み出す。それは連動して、巻き込みながら、集束する。一条の光芒が大地を疾走り、それは魔力の奔流に、巨大な閃光となって、立ちはだかる高嶺を両断する。
一拍遅れて、妙に冴えた、音と衝撃が駆け抜けてゆく。
余韻が消え去らぬ内に、折れない剣を鞘に収める。
厳しい山々に、馬車が行き交える程の大きな道ができる。
南の竜道も、きっとこのようにして造られたのだろう。違いと言えば、南の竜道の壁面が焼かれて溶けたような断面であるのに対して、薄く氷を張ったようなざらっとしたものであること。
「……あ、あの、これは……、そ、そうでした、名前を、この道の名前を付けてください」
未だ、目の前の出来事に震撼しながら、街の代表者が提案してくる。
ーー街は割れていた。鉱石や山の恵みなど、豊かな産物があるが、その立地から外に運び出すのに一巡りの期間が必要だった。だが、山を掘って隧道を造れば、半日で済む。推進派と、手間と費用、実現性の乏しさからの反対派。二派の対立は激しくなるばかり。
それを竜耳が捉えて。答えを差し出す。
手間も費用も掛からず道が開通するなら、二派に否やはない。そこで今回の仕儀となったわけである。
ぶふーっ。とちょっと満足気な鼻息。
「隠蔽」で周囲の人々には見えていないが、絶大なる魔力で山を真っ二つにした氷竜は、高つ音に降り注ぐ陽光に冷気を散らしながら、優美で艶やかな威容を存分に見せ付ける。
いや、スナからしたら、普通にしているだけなのかもしれないが。見る者を虜にするだろう美しき愛娘を、皆に見せてやりたい……、と親心がむくむくと湧いてきたが、うん、今は僕だけの娘でいいかな、と甘心する。
「名前ですかーー。そうですね、では、スリシナ街道、とでも名付けますか」
スナの中に僕が入る、というか、スナの代わりを僕がした、という意味を込めて、そんな名称にしておく。
目の前の光景にやっとこさ順応し始めたのか、さんざめく人々。面倒なことに巻き込まれない内に、さっさと退散してしまおう。
「王都に向かうところですので、これで失礼いたします」
「おっ、お待ちを、お礼をっ!」
スナが近付いてきたので、何気ない振りでその足に乗ると、一気に上空に舞い上がる。
あ~、これは下で見ていた人は、吃驚しただろうな。
ぶぅ~っ。と何やら不満気な鼻息。
ひょいっと投げ上げられた僕は、差し出された頭の上に必死でしがみ付く。この手荒な対応は、不満度の大きさを示しているようだ。
「どうどう」
「……馬ではないのですわ」
「そうだね。竜なら、というか、僕の可愛い娘なら、ちゃんと説明してくれるだろうな~、と期待してるんだけど」
「人間の指で三本分、狭かったのですわ」
「ん? ああ、さっきのスリシナ街道のことか。南の竜道と比べて、ということなら。ーー慥か、炎竜は竜の中では最高火力の持ち主だったかな。それに匹敵するのだから、スナが凄いのか、或いは東の竜道の狭さに鑑みて、ミースガルタンシェアリが手加減していた可能性もあるわけ……かな?」
「ふふっ、面白い解釈ですわ?」
藪蛇かと思ったが、もう遅かった。
藪に隠れていたのは蛇ではなく竜、いやさ、藪に隠れられない竜の頭と角が、あと序でに、それはもう楽しげにぶんぶん振られている尻尾が、僕の命運がすでに決していることを教えてくれていた。
石が地に落ちる、然様な自然の法則に遵ったかのような振り下ろし。
切っ先が、大地に蟠る萎びた風に語り掛ける。
小さな綾を生み出す。それは連動して、巻き込みながら、集束する。一条の光芒が大地を疾走り、それは魔力の奔流に、巨大な閃光となって、立ちはだかる高嶺を両断する。
一拍遅れて、妙に冴えた、音と衝撃が駆け抜けてゆく。
余韻が消え去らぬ内に、折れない剣を鞘に収める。
厳しい山々に、馬車が行き交える程の大きな道ができる。
南の竜道も、きっとこのようにして造られたのだろう。違いと言えば、南の竜道の壁面が焼かれて溶けたような断面であるのに対して、薄く氷を張ったようなざらっとしたものであること。
「……あ、あの、これは……、そ、そうでした、名前を、この道の名前を付けてください」
未だ、目の前の出来事に震撼しながら、街の代表者が提案してくる。
ーー街は割れていた。鉱石や山の恵みなど、豊かな産物があるが、その立地から外に運び出すのに一巡りの期間が必要だった。だが、山を掘って隧道を造れば、半日で済む。推進派と、手間と費用、実現性の乏しさからの反対派。二派の対立は激しくなるばかり。
それを竜耳が捉えて。答えを差し出す。
手間も費用も掛からず道が開通するなら、二派に否やはない。そこで今回の仕儀となったわけである。
ぶふーっ。とちょっと満足気な鼻息。
「隠蔽」で周囲の人々には見えていないが、絶大なる魔力で山を真っ二つにした氷竜は、高つ音に降り注ぐ陽光に冷気を散らしながら、優美で艶やかな威容を存分に見せ付ける。
いや、スナからしたら、普通にしているだけなのかもしれないが。見る者を虜にするだろう美しき愛娘を、皆に見せてやりたい……、と親心がむくむくと湧いてきたが、うん、今は僕だけの娘でいいかな、と甘心する。
「名前ですかーー。そうですね、では、スリシナ街道、とでも名付けますか」
スナの中に僕が入る、というか、スナの代わりを僕がした、という意味を込めて、そんな名称にしておく。
目の前の光景にやっとこさ順応し始めたのか、さんざめく人々。面倒なことに巻き込まれない内に、さっさと退散してしまおう。
「王都に向かうところですので、これで失礼いたします」
「おっ、お待ちを、お礼をっ!」
スナが近付いてきたので、何気ない振りでその足に乗ると、一気に上空に舞い上がる。
あ~、これは下で見ていた人は、吃驚しただろうな。
ぶぅ~っ。と何やら不満気な鼻息。
ひょいっと投げ上げられた僕は、差し出された頭の上に必死でしがみ付く。この手荒な対応は、不満度の大きさを示しているようだ。
「どうどう」
「……馬ではないのですわ」
「そうだね。竜なら、というか、僕の可愛い娘なら、ちゃんと説明してくれるだろうな~、と期待してるんだけど」
「人間の指で三本分、狭かったのですわ」
「ん? ああ、さっきのスリシナ街道のことか。南の竜道と比べて、ということなら。ーー慥か、炎竜は竜の中では最高火力の持ち主だったかな。それに匹敵するのだから、スナが凄いのか、或いは東の竜道の狭さに鑑みて、ミースガルタンシェアリが手加減していた可能性もあるわけ……かな?」
「ふふっ、面白い解釈ですわ?」
藪蛇かと思ったが、もう遅かった。
藪に隠れていたのは蛇ではなく竜、いやさ、藪に隠れられない竜の頭と角が、あと序でに、それはもう楽しげにぶんぶん振られている尻尾が、僕の命運がすでに決していることを教えてくれていた。
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