61 / 83
六章 世界と魔法使い
炎竜襲来
しおりを挟む
王弟、宰相、竜騎士隊長二名、竜官の長老二人。僕が大広場に着いたとき、喧騒の中心にいるのが見えたので、一直線に駆け寄る。
気付いたザーツネルさんが報告してくれる。
「浸透隊を一、警戒隊を十二、出動させた。あと一人来たら、俺と二隊長も浸透隊として出る予定なわけだが」
「「…………」」
黄金の秤隊の副隊長は、由有り気なものを見るような眼差しを僕に向けて。
隊長二人がさり気なく僕から距離を取る。
どうやら、先程の僕の醜態は伝わっているらしい。
「カレンが泣きそうな顔をしていたから相談に乗った。後で慰めてやると良い」
後ろから、こつっ、とクーさんが頭を叩いてくる。痛いようで痛くない、微妙な一撃だ。
記憶を探ってみると、……カレンに酷く当たったような気がする。
謝らないといけないわけだが、どうして、慰める、ということになるのだろう。クーさんの言い間違いか、勘違いかな。
泣きそうな顔、というのもクーさんの誇張だと思うが、本当だったら上司失格である。これは、もう、カレンと役職を交代したほうが竜の国の為かもしれない。
「宰相、あれをご存知なんですか?」
「あれは、人でなし侍従長。またの名を、碌でなし侍従長。集中し過ぎると発動する、とリシェは嘯いてはいるが、あたしたちの間では、単に本性を現しただけ、というのがすでに通説」
竜の国を造っているときに、過集中でご迷惑をお掛けしたようだが、クーさんはまだ根に持っていたらしい。
嘯く、とか、本性、とかの部分には異議があるが、加害者の僕に反駁の権利は与えられていないらしい。
「人じゃなし侍従長、も可」
まだ言い足りなかったようだ。人でなしと人じゃなしに違いはあるのだろうか、とどうでもいいことを考えて、いやいや、そんなことをしてる場合じゃない、と思い直す。
「シア様。シーソや子供たちが捜索に当たっているようなことはありますか?」
「あ、はい……、シーソはいつも通りで、あと、何人かが役に立ちたい、っていうか、恩返しがしたい、って息巻いて竜舎から出て行ったと……、聞いています」
恐らく事後報告だったのだろう。
焦慮に駆られるシアをどうしたものかと悩む。子供たちの気持ちは嬉しいが、危険に身を晒すようなことで達成して欲しいとは思わない。裨益する方法も恩返しの方法も、幾らでもあるのだから、先走るようなことは望んでいない。
然りとて、子供たちの純粋な想いを否定するかのような行動を取るべきかどうか。
「大丈夫です。あいつらは、あいつら自身の考えで決めて動いています。迷惑になるようなら切り捨て……」
「同じ言葉をフィア様にも言えるなら考えなくもないですが、そうでないのなら、子供たちの件はシア様の責任に於いて対処していただけますか?」
最後まで言わせず、狡い言い方でシアを翻意させる。
大切な姉の顔が浮かんだのだろう、少年の身に不相応のものを抱えて苦闘する、一途で不器用な王弟に必要なものは何かと考えて。好きなように動く為の許可を出すことしか出来ない、自分の不甲斐なさが恨めしい。
「呪術師のことは、聞き及んでいますか?」
「ソラタス・クラスタール、だったか。まさか再び耳にする機会があるとは。そのエルタスとやらは、呪術師の祖の系譜に相応しい能力の持ち主らしいが、問題は他の協力者の有無」
「そうですね。呪術師一人だけなら、邪竜鳴動してギザマル一匹、ということになるかもしれません。一度は竜の国を挙げて演習をする必要があったので、無駄にはならないでしょうが。でも、みー様に危害が及ぶ蓋然性があるとするならーー」
これ以上は言葉にするのを控える。
言外に仄めかすと、クーさんが了解してくれる。
「……ふぅ」
手に汗を掻いている。やはり焦っているようだ。
この事態を解決に導く為の、最大にして最強の一手から、未だ連絡がない。「遠観」の「窓」が現れないかと、うっかり探してしまいそうになる。
最善手を考えようとすると、どうしてもコウさんの魔法込みで練ろうとしてしまう。
それは悪いことではない、正しいことですらある。今まで、ひたすら頼り切っておきながら何を言っているのかと思うが、罪悪感めいたものが胸を軋ませる。
コウさんの魔法ありきの竜の国である。
僕が未来に描いた最良の図は、彼女が魔法を使わずとも受け容れられて、笑っていられる世界である。
老師は言った、一人を犠牲にしなければ助からない世界など滅びてしまえ、と。はぁ、まったく、本当に、悩ましの魔法使いである。もう少し僕に優しくしてくれても罰は当たらないと思うのだけど。
いやいや、思考がおかしな方向へ向かっている。
頼り過ぎてはいけない、とわかっていても、翠緑王の能力と、みーの安否とを天秤にかけて……。
はぁ、駄目だ、答えが出ないとわかっている問題に拘泥している場合ではない。過度の依存を戒める為に、これまで自分がしてきたことを、これからしたいと思うことを脳裏に焼き付ける。
「コウは、成果が出ていなかったらしく、意地になって明け方まで研究に没頭。翠緑宮を出てくるとき、枢要の参集まで寝ているよう寝床に放り込んできた」
「カレンと双子が魔法を使ったとき、コウさんの反応がなかったので、そうじゃないかと思っていましたが。えっと、……その成果が出ていない研究って、もしかしなくても僕のことでしょうか?」
「言いたいことは一つ。誰の所為でもなく、過ぎてしまったことを悔やんでも仕方がない」
重々しく頷くクーさん。
堂々と責任放棄を勧めているように聞こえるが、彼女なりに気を使ってくれたのだろうか。
斟酌すると、ーー責任の所在を明確にせず、皆で一緒に責任放棄をするのは一種の快楽であり、それが人類の知恵というものである(訳、ランル・リシェ)。意訳が過ぎるかもしれないが、どうだろう。
いやはや、とほほへなちょこすかたんこんこんちきあんぽんたんちゃらんぽらん、な気分である。
大切なものを、大切なことを再確認して、自らを奮起させようとしていたが、がくりと力が抜けてしまう。
まぁ、でも、張り詰めているより緩んでいたほうが物事に柔軟に対応できる、のかも。そこら辺は人に依るのだろうが、果たして僕はどちらだろう。どちらだったか。
ーーそう、そうだ、どちらでもいいのだった。結果が出るのなら、そんなことは気にしない。ご大層な信念や矜持など、ぽいっ、と捨てられる。好い加減で、失敗ばかりの駄目な奴。それが等身大の僕だ。それでも何とかやってきたのが、僕なのだ。
「事情説明の時機と、この人集り。中途半端にするより、コウを待つのが妥当」
「事ここに至っては、『遠観』で呼び掛けて、竜の民からも目撃情報を募ったほうがいいかもしれません。こうも開いてしまっている群衆では手に余るでしょうし、流言による混乱に留意しておかないと」
「ん?」
前触れもなく、美味しい料理の匂いでも嗅ぎ取ったかのように鼻をひくつかせるクーさん。
これが祝福の兆候かと思うと、どうかと思わないでもないが、まぁ、僕たちらしくていいんじゃないかと達観する。
群衆に取り囲まれているが、僕たちの居回りに十分な空間があることを確認する。と、そのとき、ちらりと、人垣の向こうに見知った姿が、はっきりと見えたわけではないがーー。
「連絡するより、現地に行ったほうが早そうだったので、目に付いた人を全員連れてきたのです。いっぱい居たので、『飛翔』と『転移』と『風洞』を併用したのです」
コウさんエンさん老師カレン双子にオルエルさん、長老隊長サシスに纏め役、竜騎士近衛隊にわらわらと。
緊急事態につき、大空を超高速移動させられたらしい面々が大変なことになっているが、一つだけ。みーが居ないことを確認してから大仰に手を振り上げる。
「我はランル・リシェ!」
衆目の関心が僕に集まったことを実見して、意を注ぐ為に、更に声を張り上げる。
「竜の国の侍従長の名に於いて命ずる! 道を空けよ!!」
大鐘楼の横の小路に向かって、炎の大剣を振り下ろすように力強く指し示す。
「「「「「…………」」」」」
「……っ」
むべなるかな、僕の突飛な振る舞いは、翠緑王の登場に沸いていた人々に深く浸透してくれない。
効果がないわけではない。僕への畏怖と嫌悪が先立ち、理解が追い付かず、行動に結び付いていない。
ぐぅ、これではただの痛い人である。次善の策を模索していると、
「やべーぞ! こぞーん呪いぶっ放しやがった! 竜虫でぐじゅぐじゅのべよべよんなりたくねぇ奴ぁー、さっさと退散こきやがれぇー!?」
僕の意を酌んだ(?)エンさんの決死の演技にーー演技ですよね? 血相を変える竜の民。
僕の抽象的というか要領を得ない物言いと違って、直接的な脅威を語ったのが良かったのだろうか、竜の民の皆さんがエンさんの中傷、虚言であり妄言であるところの大嘘を信じて、悲鳴混じりに押し合い圧し合いをしている。
エンさんには色々と言いたいことがあるが、ありまくるわけだが、むぐぅ、後回しである。
海が割れるように、とはいかないが、生木に亀裂が入るように道が開けてゆく。
まだ裂け切っていない割れ目に、速度を緩めることなく突入してくる。息を乱しながらも、顔色一つ変えない少女が、繊細さと大胆さを兼ね備えた、目を瞠るような躍動的な走りで人々の間隙を雷光の閃きで駆け抜けてゆく。
エンさんやクーさん並みの魔力操作。
それだけの能力を隠し持っていたことに驚きを禁じ得ないが、肝要なのは彼女がーーシーソがそれを隠していないことにある。目立つことを嫌っているらしいシーソが、その選択を選んでしまっている時点で、事の重大性を知らせている。
彼女は、脇目も振らずコウさんの許まで駆け寄って、必要最低限の言葉で伝える。
「りゅうの、ひだりのつばさ、みーさま、かどわかされた」
竜区「竜の翼」でみーは攫われたようだ。シーソは、コウさんに顔を向けながら、呼吸を整えようと奮闘している。無表情ではあるが、彼女の頑強な意志が根底に感じられる。
ーー本当に聡明な娘だ。
逼迫した事態ではあるが、思わず感心してしまう。危難に際して、最適な言行を採るのが如何に難しいか、竜の国を造り始めてから、嫌と言うほど思い知った。
場数を踏んだ、ということでは、コウさんも同様。
大切なみーに危険が及んで、取り乱してもおかしくない場面だが、女の子は、魔法使いは、翠緑王だった。
わずかに黙考したあと、王の風格さえ漂わせながら、シーソに応えて冷然と質す。
「そのとき、みーちゃんに意識はあったのです?」
「まわりのひと、きいてはんだん、まほうつかい、ちかづくまでふつう、せっしょくご、いしきうしなった」
魔力を使っているのかもしれない。
明瞭に、確実に伝達したあと、再び荒い呼吸に戻る。そして、役割を完遂したと判断したらしく、何事もなかったかのようにシアの許に歩いてゆく。
見ると、二人は情報交換をしているようだった。シアには子供たちのことを一任したので、その対処についてだろう。
「ーーーー」
ゆっくりと深呼吸。先ずは心を落ち着かせる。
今のところ、予想した中での、最悪の事態ではない。断定は出来ないが、呪術師の単独の犯行であるようだ。
最も懸念すべきは、みーが意識を失わされたこと。
竜は、高い魔力耐性を具えている。並の魔法使いでは、みーに魔力干渉など覚束ない。となると、呪術師の呪術とは、強力な魔力の干渉か貫通力、……そして、僕という存在が居るのだから、魔力の無効化という線も考えられる。
呪術師は、子々孫々一つの命題に取り組む傾向があるという。
呪術師の祖とされる人物が志向するものとして、それはどうなのだろう。僕の勝手な想像だが、もっと高尚とか高邁とか付けられそうな、この世界の神秘(?)を解き明かすようなものを追求するのではないか。
継続、には意思が必要だ。信念や理想といった人を駆り立てるもの、他に伝統や家系、仕来たりや忠心などが動機付けになることもあるが。
今は、それ以上の詮索は必要ない。あとは、呪術師の目的。
彼が個人で動いているとするなら、呪術師の能力と関係したものだろう。その証明、或いは実践の為に竜が必要だった?
……竜が必要だったとして、これまで竜に手出ししてこなかった、いや、手出しできなかったのか。
この世の神秘、遠大にして甚大なる成竜には未だ届かない。
そこに現れたのが仔竜であるみー。
呪術師からすれば、千載一遇の好機。そうだとするなら、僕らは、その為の機会を与えてしまった。
竜の影響力と重要性を見落として、みーは竜だから大丈夫と過信して、油断していた結果がこれだ。
いったいどこまで愚かだというのか、僕は。
「フィア様。呪術師の狙いは、呪術の効果が及ぶ仔竜と思われます。呪術師の位置確認は可能ですか?」
だが、まだだ。
へこたれている権利など僕にはない。僕は、コウさんの肩に手を置く。
「感知魔法を……」
「いんや、そりゃ必要ねぇな。ちび助、出し惜しみはいらねぇ」
西の空に向けられた双眸に険しさが宿る。エンさんの鼓舞するような言葉に、真剣な表情で頷くコウさん。
彼女に触れている僕にも感じられた。
西に強大な魔力が立ち込めている。いや、これは一所から発せられている。
これは……、何か、或いは誰か、なのか?
コウさん以外で、これ程の存在があるなんてことはーー。スナを思い浮かべて、即座に否定。スナでないなら、竜はあと一竜しかいない。
コウさんが魔法を発動した。
爆発的な空間の伸長。四方八方から、優に百を超える魔力の奔流が、西の空ごと絡め取る勢いで放たれる。
黄金の粒子を撒き散らしながら、西の魔力を雁字搦めにぃっ!?
「っ!」
「いぎっ!!」
ぐぅうっ、頭の中が破裂したような衝撃だった。
二、三歩よろめき、誰かに背中を支えられる。視界が安定しない、白昼夢のようだが、今すべきはコウさんの肩に、肩に……。
……おかしい。前に進もうとするが、足が動いていない。いや、背中の誰かが僕を止めている?
何故そんなことをするのか、抗議しようとしたら、視界が鮮明になった。
「コウの魔力を使っているからか、私とでも『浸透』が可能なようだね」
老師の声だった。
見えているのは、これは「窓」?
遠くからざわめきが起こる。これは、歓声だろうか。響いた声の連なりに、恐怖や危機感といったものは含まれていない。
「魔法が弾かれたの! 魔力の流用? 『結界』も『浄化』も追い付かないの! エン兄、クー姉、皆を避難させてなの!」
伸ばした両手で杖をしかと持って、焦心を隠す余裕もなく悲痛な声で兄姉に頼る。
「窓」を通して見るコウさんは、降り頻る雨のように魔法を行使していた。雨粒と同じく、その数を把握することなんて不可能。黄金の粒子で小さき身を染め上げても尚、後手に回らざるを得ない状況のようだ。
くっ、駄目だ、老師との「浸透」では現状の把握も儘ならない。
「対象に届いていないか。コウの弱点がこんなところで浮き彫りになるとは。間に合わないとなると、心しておく必要がある」
思案するような老師の落ち着いた声が途切れた瞬間、視界がぶれる。
老師が「窓」を閉じたようだ。
目を瞬くと、違和感がなくなって、いつも通りの視界に戻る。
「真ん中集まって、円作んよーに拡がってけ!」
「近衛隊、外周に立って、避難誘導!」
エンさんとクーさんが中心になって、大広場に集まっていた人々を誘導しようとしているが、如何せん数が多い。
魔力は迫り、勢い西からの歓声が大きくなってゆく。
「ミースガルタンシェアリ様だ!」
「真っ直ぐこちらに向かわれているぞ」
「おおっ、炎竜様のなんと雄々しい姿か!」
「大広場に向かってるんじゃないか? 俺たちも行くぞ!」
状況を理解していない竜の民は、不幸中の幸い、と言っていいのか、悠長に構えて切迫感がなく混乱には至っていない。
だが、緊張感の欠如は、後の災厄に繋がるかもしれない。
「ミースガルタンシェアリーーとなると」
これは確定だ。
竜になったみーが遣って来る。
ミースガルタンシェアリと誤認されるということは巨大化しているのだろう。それを成したは呪術師に他ならない。
みーが唆されているのか、いや、巨大化という時点でその可能性はないだろう。
みーの巨大化は、コウさんでさえ労を要していた。みー自身で巨大化ができないとなれば、それは呪術師の仕業。
みーの意識を失わせ、竜の姿に戻し、巨大化までさせる。ここから導き出されるのは。
ーー呪術師の呪術とは、竜乃至生物を操る力、か。どこまで制御できているのかわからないが、竜を手懐けて使役しようと試みるなど、正気の沙汰とは思えない。
猛獣を檻に閉じ込めて、飼い慣らし鑑賞する。それらは、人の持つ嗜好の一つで、本能に根ざす征服欲の一部なのかもしれないが。
いや、止めよう、すでに事を起こした呪術師に、竜の役割と存在の意義を説いたところで、炎竜に「火球」をぶつけるようなもの。
見えずとも、感じる。
竜の国が完成して、エルネアの剣の本拠地にみーが迎えにきてくれたときのことを思い起こす。
巨大な質量が近付くことで生ずる圧迫感のようなもの。
純粋に物体が移動して、周囲の現象を遮る。魔力を感じることが出来ない僕でさえ引き寄せられる何かがある。
「ーーっきぃ」
息を吐こうとして、引き攣ったような声が出た。
空気が、……痛い。
焼き尽くす鮮やかな竜眼が、僕の甘ったれた予測を穿ち、微塵にする。
あれは、人の存在など歯牙にも掛けない、生物種の頂点であり、暴虐も破壊もただの行為にまで貶めることが出来る、世界に映える天災の具現。
燃やす、などという生易しいものではなく、敵愾心を焦がしている。
みーの、優しかったり和やかだったり暖かかったり、そんな面影は、灰さえ残らぬほどに焼却されて……。
赤く紅く、深緋に炎を装飾して、荘厳さに抗うものなく、光を灼く。
劫火と紛うほどの猛りを纏いし偉容は、全き炎竜。
僕の知っているみーとは何もかもが違う、それでもみー以外の何者でもない紅蓮の化身が、空の一角を削り取る。
悠々と鎌首を擡げ、放たれる。
「ーーーー」
存在が、魂が、震えた。当たり前のことが、見ることが、呼吸することが、難しい。
すべてを失った場所には、闇ではなく空虚な透明さだけがあるのかもしれない。
目を灼き、体を灼き、心を、魂を灼く。
峻烈を極める、世界を灼く、真炎の具象。
ーー何もかも灼かれたのに、こうして立っていられるのは、コウさんが魔法で防いでくれているからだろうか。
ただ打ち付けられて、根本の、生物としての、種としての違いを、人としての矮小さを、思い知らされる。
……竜の咆哮を、それと知って許容できた者がこの場に居ただろうか。音として認識できる水準を超えているのではないか。
みーの姿が大きくなってゆく。
翼が巻き起こす風に揺られながら、漸く理解が追い付く。エンさんの指示で竜騎士が作った、大広場の中央の歪な円に、みーが舞い降りる。
「「「「「…………」」」」」
炎竜に奪われた人々が静寂に傅き、惹かれながらの拒絶に、竜という存在を識る。
超越者を眼前にした希薄さに。生殺与奪の権利は奪われていることを。世界の理はすでに確定している。覆そうとすることの、なんと空しいことか。
絶望は絶望を糊塗するのだ。
「ーーはっ、ははっ」
誰かが笑っていた。こんなときに笑うなんて、どこの馬鹿だ。
すべてを蹴飛ばすような野太い笑声が、僕の口から這いずって。
……馬鹿は僕だったようだけど、そんなことはどうでもよくて、みーの頭の上に居るのを見たのだから当然だ。
ああ、ああっ、そこはっ、そこは! お前の居ていい場所ではない!!
「はっ、ははっ!」
放心したなら、放たれた心があるなら、今すぐ取り戻せ!
呼吸が止まっていたなら、風ごと噛み砕け!
麻痺など、それ以上の衝撃で煮え滾らせてやれ!
追い付かない、と言っていたコウさんは、未だ追い付いていないようだ。何に対して追い付いていないのかはわからないが、必要なのは時間稼ぎだと判断する。
「エンさん! クーさん! 老師!」
見澄まして、眼前の激甚に挫けていない者の名を叫ぶ。
「ーーっ!」
「っぃ!」
呼応してエンさんが右に、クーさんが左に駆け出す。
老師は動かず、補佐に回るようだ。
エンさんは中央から人垣を飛び越えて大鐘楼の壁に着地すると、魔力全開放で壁を駆け上がって、そのままの勢いで空に飛び出す。
そして長剣にすべての魔力を収斂する体勢。
クーさんは魔力を練りながらエンさんの位置を確認。
接近戦の為にみーの膝辺りに向かって跳躍する。彼女もまた、魔力全開放でいつでも発動できる状態だ。
「最炎最焔究きょーー」
「氷華十二ーー」
みーが半歩踏み出した、刹那ーー巨体が霞んだ。
瞬間的に一回転したみーの尻尾に叩き落とされて、クーさんが地面に埋没する。
回転を終えたみーは、すでに炎の息吹を上空に吐いていた。
鈍い音がして、石畳が弾ける。見ると、エンさんが横たわっていて、焼けた背中が黒く変色していた。
自ら発生させた突風と熱気に煽られる人々を見下ろして、暴君は悠然と佇む。
「……ぅあ」
余りと言えば余りの一方的な展開に、唖然とする。
……あ、と、いや、今のは……重心移動、だ。
ついさっき、闘技場でエンさんがみーに教えていた体術である。その使い手が竜の姿であるというだけで、ここまでの力を発揮するものなのか。
「ーーくっ、くくっ、さすがは竜! 幻想の覇者にして、遍く世界の王! 一族の悲願が結実し、私の代にして本懐は成された! さぁ、在るべきものは有るべきところへ!」
上擦った声が聞こえてきたので見上げてみると、みーの重心移動の回転で転倒したのだろう、呪術師がそそくさと立ち上がって弁舌を振るっていた。
エンさんとクーさんの意識はある。二人は、立ち上がろうとしている。
倒れた兄姉の真ん中まで、魔法使いが一人、とことこと歩いてゆく。
見上げた女の子の翠緑の瞳と、見下ろす竜の炎眼が絡まって。
炎竜が矮小な存在を嘲笑ったような気がして。少女は普段と変わらず、名を呼ぶ。
「みーちゃん」
ーーエンさんとクーさんは死力を尽くして立ち上がって、コウさんを見てぎょっとして、顔を引き攣らせて。
深く深く、記憶に刻まれているのだろうか、みーが本能的な恐怖に震えて、反撃を試みて。
呪術師は、胡乱気で何も理解していなくて。
僕はというと、注意喚起しようとして、もう遅いか、と諦めてーー。
「めっ」
両手を腰に当てて、コウさんが、みーを叱った。
真剣な面持ちであるが、その言葉と仕草に、可愛いな、というほんわかな感想しか出てこない。
まぁ、こんなのんびりと構えていられるのは僕だけなのだが。
然う。コウさんがいつもより低い声を発した瞬間、魔力が放たれたのだ。
「…………」
「「「「「っ!」」」」」
「「「「「!!」」」」」
「「「「「っ」」」」」
「「「「「!?」」」」」
魔力の影響を受けないはずの僕の肌を静電気みたいなものがぴりぴりと。
クーさんは自分から後方に飛んで、建物まで吹っ飛ばされるが、見事に壁に着地。
コウさんに背を向けていたエンさんは、石畳に顔面を直撃させたあと、地面に何度も体を打ち付けながら飛ばされて、不運な竜騎士二人を巻き込んで、竜の民を五人くらい転倒させて、やっとこ止まる。
カレンやザーツネルさん、隊長たちのような魔力量の多い人たちが、弾かれて蹈鞴を踏む。
要領のいい二人、シーソはシアを、老師は僕を盾にして、被害を最小限に抑えている。大広場にいる竜の民も、魔力量の多い人は体勢を崩したり、倒れ込んだりしている。
僕は、弾かれて尻餅を搗いてしまったカレンの前に、反対を向いて膝を突く。
「カレン」
呆けていたカレンに呼び掛けると、自分があられもない、はしたない格好をしていることに気付いて、慌てて居住まいを正す。
何故かわからないのだが、怒っているんだか恥ずかしがっているんだか曖昧な、泣きそうな顔で僕を睨み付けてくるので、竜の尻尾を踏んでしまわない内に、カレンの気を逸らすことにする。
「後ろの、フラン姉妹の介抱を頼めるかな。とりあえず、危ないから寝かせてあげて」
振り返ったカレンが目にしたのは、立ったまま気絶している双子の姿であった。
「サンっ、ギッタっ!? 二人とも、どうしたのっ!」
スーラカイアの双子の能力を知らないカレンには予想もつかないことだろうが。
恐らく双子は、コウさんの魔力放射に抵抗しようとしたのだろう。果たして、その場に留まることは出来たが、多量の魔力同士の衝突に意識のほうが持たなかったようだ。
そして、みー。
大広場の中央付近で、雄大な体を丸めて、がたがた震えていた。
あー、これは降伏の、いやさ、服従の姿勢なのかな。先程までの威圧が完全に消え去っている。
降参、の意思表示なのか、尻尾がふら~りふら~りと揺られて、ちょっと可愛い。
よっぽど効いたのだろう。コウさんの途方もない魔力に対して、竜の膨大な魔力で対抗しようとしたのだろうが、所詮みーはまだ仔竜、魔力の扱い方もなっていないので、竜に踏まれた竜饅のように、ぺちょんっ、と潰されてしまったわけだ。
まぁ、こうなることはわかっていたのだが。
現時点で、みーがコウさんに敵うはずがない。コウさんが何故手を拱いていたのかは気になるところだが、大勢に影響がなくて一安心である。
いや、胸を撫で下ろすのは、確認を終えてからだ。
気付いたザーツネルさんが報告してくれる。
「浸透隊を一、警戒隊を十二、出動させた。あと一人来たら、俺と二隊長も浸透隊として出る予定なわけだが」
「「…………」」
黄金の秤隊の副隊長は、由有り気なものを見るような眼差しを僕に向けて。
隊長二人がさり気なく僕から距離を取る。
どうやら、先程の僕の醜態は伝わっているらしい。
「カレンが泣きそうな顔をしていたから相談に乗った。後で慰めてやると良い」
後ろから、こつっ、とクーさんが頭を叩いてくる。痛いようで痛くない、微妙な一撃だ。
記憶を探ってみると、……カレンに酷く当たったような気がする。
謝らないといけないわけだが、どうして、慰める、ということになるのだろう。クーさんの言い間違いか、勘違いかな。
泣きそうな顔、というのもクーさんの誇張だと思うが、本当だったら上司失格である。これは、もう、カレンと役職を交代したほうが竜の国の為かもしれない。
「宰相、あれをご存知なんですか?」
「あれは、人でなし侍従長。またの名を、碌でなし侍従長。集中し過ぎると発動する、とリシェは嘯いてはいるが、あたしたちの間では、単に本性を現しただけ、というのがすでに通説」
竜の国を造っているときに、過集中でご迷惑をお掛けしたようだが、クーさんはまだ根に持っていたらしい。
嘯く、とか、本性、とかの部分には異議があるが、加害者の僕に反駁の権利は与えられていないらしい。
「人じゃなし侍従長、も可」
まだ言い足りなかったようだ。人でなしと人じゃなしに違いはあるのだろうか、とどうでもいいことを考えて、いやいや、そんなことをしてる場合じゃない、と思い直す。
「シア様。シーソや子供たちが捜索に当たっているようなことはありますか?」
「あ、はい……、シーソはいつも通りで、あと、何人かが役に立ちたい、っていうか、恩返しがしたい、って息巻いて竜舎から出て行ったと……、聞いています」
恐らく事後報告だったのだろう。
焦慮に駆られるシアをどうしたものかと悩む。子供たちの気持ちは嬉しいが、危険に身を晒すようなことで達成して欲しいとは思わない。裨益する方法も恩返しの方法も、幾らでもあるのだから、先走るようなことは望んでいない。
然りとて、子供たちの純粋な想いを否定するかのような行動を取るべきかどうか。
「大丈夫です。あいつらは、あいつら自身の考えで決めて動いています。迷惑になるようなら切り捨て……」
「同じ言葉をフィア様にも言えるなら考えなくもないですが、そうでないのなら、子供たちの件はシア様の責任に於いて対処していただけますか?」
最後まで言わせず、狡い言い方でシアを翻意させる。
大切な姉の顔が浮かんだのだろう、少年の身に不相応のものを抱えて苦闘する、一途で不器用な王弟に必要なものは何かと考えて。好きなように動く為の許可を出すことしか出来ない、自分の不甲斐なさが恨めしい。
「呪術師のことは、聞き及んでいますか?」
「ソラタス・クラスタール、だったか。まさか再び耳にする機会があるとは。そのエルタスとやらは、呪術師の祖の系譜に相応しい能力の持ち主らしいが、問題は他の協力者の有無」
「そうですね。呪術師一人だけなら、邪竜鳴動してギザマル一匹、ということになるかもしれません。一度は竜の国を挙げて演習をする必要があったので、無駄にはならないでしょうが。でも、みー様に危害が及ぶ蓋然性があるとするならーー」
これ以上は言葉にするのを控える。
言外に仄めかすと、クーさんが了解してくれる。
「……ふぅ」
手に汗を掻いている。やはり焦っているようだ。
この事態を解決に導く為の、最大にして最強の一手から、未だ連絡がない。「遠観」の「窓」が現れないかと、うっかり探してしまいそうになる。
最善手を考えようとすると、どうしてもコウさんの魔法込みで練ろうとしてしまう。
それは悪いことではない、正しいことですらある。今まで、ひたすら頼り切っておきながら何を言っているのかと思うが、罪悪感めいたものが胸を軋ませる。
コウさんの魔法ありきの竜の国である。
僕が未来に描いた最良の図は、彼女が魔法を使わずとも受け容れられて、笑っていられる世界である。
老師は言った、一人を犠牲にしなければ助からない世界など滅びてしまえ、と。はぁ、まったく、本当に、悩ましの魔法使いである。もう少し僕に優しくしてくれても罰は当たらないと思うのだけど。
いやいや、思考がおかしな方向へ向かっている。
頼り過ぎてはいけない、とわかっていても、翠緑王の能力と、みーの安否とを天秤にかけて……。
はぁ、駄目だ、答えが出ないとわかっている問題に拘泥している場合ではない。過度の依存を戒める為に、これまで自分がしてきたことを、これからしたいと思うことを脳裏に焼き付ける。
「コウは、成果が出ていなかったらしく、意地になって明け方まで研究に没頭。翠緑宮を出てくるとき、枢要の参集まで寝ているよう寝床に放り込んできた」
「カレンと双子が魔法を使ったとき、コウさんの反応がなかったので、そうじゃないかと思っていましたが。えっと、……その成果が出ていない研究って、もしかしなくても僕のことでしょうか?」
「言いたいことは一つ。誰の所為でもなく、過ぎてしまったことを悔やんでも仕方がない」
重々しく頷くクーさん。
堂々と責任放棄を勧めているように聞こえるが、彼女なりに気を使ってくれたのだろうか。
斟酌すると、ーー責任の所在を明確にせず、皆で一緒に責任放棄をするのは一種の快楽であり、それが人類の知恵というものである(訳、ランル・リシェ)。意訳が過ぎるかもしれないが、どうだろう。
いやはや、とほほへなちょこすかたんこんこんちきあんぽんたんちゃらんぽらん、な気分である。
大切なものを、大切なことを再確認して、自らを奮起させようとしていたが、がくりと力が抜けてしまう。
まぁ、でも、張り詰めているより緩んでいたほうが物事に柔軟に対応できる、のかも。そこら辺は人に依るのだろうが、果たして僕はどちらだろう。どちらだったか。
ーーそう、そうだ、どちらでもいいのだった。結果が出るのなら、そんなことは気にしない。ご大層な信念や矜持など、ぽいっ、と捨てられる。好い加減で、失敗ばかりの駄目な奴。それが等身大の僕だ。それでも何とかやってきたのが、僕なのだ。
「事情説明の時機と、この人集り。中途半端にするより、コウを待つのが妥当」
「事ここに至っては、『遠観』で呼び掛けて、竜の民からも目撃情報を募ったほうがいいかもしれません。こうも開いてしまっている群衆では手に余るでしょうし、流言による混乱に留意しておかないと」
「ん?」
前触れもなく、美味しい料理の匂いでも嗅ぎ取ったかのように鼻をひくつかせるクーさん。
これが祝福の兆候かと思うと、どうかと思わないでもないが、まぁ、僕たちらしくていいんじゃないかと達観する。
群衆に取り囲まれているが、僕たちの居回りに十分な空間があることを確認する。と、そのとき、ちらりと、人垣の向こうに見知った姿が、はっきりと見えたわけではないがーー。
「連絡するより、現地に行ったほうが早そうだったので、目に付いた人を全員連れてきたのです。いっぱい居たので、『飛翔』と『転移』と『風洞』を併用したのです」
コウさんエンさん老師カレン双子にオルエルさん、長老隊長サシスに纏め役、竜騎士近衛隊にわらわらと。
緊急事態につき、大空を超高速移動させられたらしい面々が大変なことになっているが、一つだけ。みーが居ないことを確認してから大仰に手を振り上げる。
「我はランル・リシェ!」
衆目の関心が僕に集まったことを実見して、意を注ぐ為に、更に声を張り上げる。
「竜の国の侍従長の名に於いて命ずる! 道を空けよ!!」
大鐘楼の横の小路に向かって、炎の大剣を振り下ろすように力強く指し示す。
「「「「「…………」」」」」
「……っ」
むべなるかな、僕の突飛な振る舞いは、翠緑王の登場に沸いていた人々に深く浸透してくれない。
効果がないわけではない。僕への畏怖と嫌悪が先立ち、理解が追い付かず、行動に結び付いていない。
ぐぅ、これではただの痛い人である。次善の策を模索していると、
「やべーぞ! こぞーん呪いぶっ放しやがった! 竜虫でぐじゅぐじゅのべよべよんなりたくねぇ奴ぁー、さっさと退散こきやがれぇー!?」
僕の意を酌んだ(?)エンさんの決死の演技にーー演技ですよね? 血相を変える竜の民。
僕の抽象的というか要領を得ない物言いと違って、直接的な脅威を語ったのが良かったのだろうか、竜の民の皆さんがエンさんの中傷、虚言であり妄言であるところの大嘘を信じて、悲鳴混じりに押し合い圧し合いをしている。
エンさんには色々と言いたいことがあるが、ありまくるわけだが、むぐぅ、後回しである。
海が割れるように、とはいかないが、生木に亀裂が入るように道が開けてゆく。
まだ裂け切っていない割れ目に、速度を緩めることなく突入してくる。息を乱しながらも、顔色一つ変えない少女が、繊細さと大胆さを兼ね備えた、目を瞠るような躍動的な走りで人々の間隙を雷光の閃きで駆け抜けてゆく。
エンさんやクーさん並みの魔力操作。
それだけの能力を隠し持っていたことに驚きを禁じ得ないが、肝要なのは彼女がーーシーソがそれを隠していないことにある。目立つことを嫌っているらしいシーソが、その選択を選んでしまっている時点で、事の重大性を知らせている。
彼女は、脇目も振らずコウさんの許まで駆け寄って、必要最低限の言葉で伝える。
「りゅうの、ひだりのつばさ、みーさま、かどわかされた」
竜区「竜の翼」でみーは攫われたようだ。シーソは、コウさんに顔を向けながら、呼吸を整えようと奮闘している。無表情ではあるが、彼女の頑強な意志が根底に感じられる。
ーー本当に聡明な娘だ。
逼迫した事態ではあるが、思わず感心してしまう。危難に際して、最適な言行を採るのが如何に難しいか、竜の国を造り始めてから、嫌と言うほど思い知った。
場数を踏んだ、ということでは、コウさんも同様。
大切なみーに危険が及んで、取り乱してもおかしくない場面だが、女の子は、魔法使いは、翠緑王だった。
わずかに黙考したあと、王の風格さえ漂わせながら、シーソに応えて冷然と質す。
「そのとき、みーちゃんに意識はあったのです?」
「まわりのひと、きいてはんだん、まほうつかい、ちかづくまでふつう、せっしょくご、いしきうしなった」
魔力を使っているのかもしれない。
明瞭に、確実に伝達したあと、再び荒い呼吸に戻る。そして、役割を完遂したと判断したらしく、何事もなかったかのようにシアの許に歩いてゆく。
見ると、二人は情報交換をしているようだった。シアには子供たちのことを一任したので、その対処についてだろう。
「ーーーー」
ゆっくりと深呼吸。先ずは心を落ち着かせる。
今のところ、予想した中での、最悪の事態ではない。断定は出来ないが、呪術師の単独の犯行であるようだ。
最も懸念すべきは、みーが意識を失わされたこと。
竜は、高い魔力耐性を具えている。並の魔法使いでは、みーに魔力干渉など覚束ない。となると、呪術師の呪術とは、強力な魔力の干渉か貫通力、……そして、僕という存在が居るのだから、魔力の無効化という線も考えられる。
呪術師は、子々孫々一つの命題に取り組む傾向があるという。
呪術師の祖とされる人物が志向するものとして、それはどうなのだろう。僕の勝手な想像だが、もっと高尚とか高邁とか付けられそうな、この世界の神秘(?)を解き明かすようなものを追求するのではないか。
継続、には意思が必要だ。信念や理想といった人を駆り立てるもの、他に伝統や家系、仕来たりや忠心などが動機付けになることもあるが。
今は、それ以上の詮索は必要ない。あとは、呪術師の目的。
彼が個人で動いているとするなら、呪術師の能力と関係したものだろう。その証明、或いは実践の為に竜が必要だった?
……竜が必要だったとして、これまで竜に手出ししてこなかった、いや、手出しできなかったのか。
この世の神秘、遠大にして甚大なる成竜には未だ届かない。
そこに現れたのが仔竜であるみー。
呪術師からすれば、千載一遇の好機。そうだとするなら、僕らは、その為の機会を与えてしまった。
竜の影響力と重要性を見落として、みーは竜だから大丈夫と過信して、油断していた結果がこれだ。
いったいどこまで愚かだというのか、僕は。
「フィア様。呪術師の狙いは、呪術の効果が及ぶ仔竜と思われます。呪術師の位置確認は可能ですか?」
だが、まだだ。
へこたれている権利など僕にはない。僕は、コウさんの肩に手を置く。
「感知魔法を……」
「いんや、そりゃ必要ねぇな。ちび助、出し惜しみはいらねぇ」
西の空に向けられた双眸に険しさが宿る。エンさんの鼓舞するような言葉に、真剣な表情で頷くコウさん。
彼女に触れている僕にも感じられた。
西に強大な魔力が立ち込めている。いや、これは一所から発せられている。
これは……、何か、或いは誰か、なのか?
コウさん以外で、これ程の存在があるなんてことはーー。スナを思い浮かべて、即座に否定。スナでないなら、竜はあと一竜しかいない。
コウさんが魔法を発動した。
爆発的な空間の伸長。四方八方から、優に百を超える魔力の奔流が、西の空ごと絡め取る勢いで放たれる。
黄金の粒子を撒き散らしながら、西の魔力を雁字搦めにぃっ!?
「っ!」
「いぎっ!!」
ぐぅうっ、頭の中が破裂したような衝撃だった。
二、三歩よろめき、誰かに背中を支えられる。視界が安定しない、白昼夢のようだが、今すべきはコウさんの肩に、肩に……。
……おかしい。前に進もうとするが、足が動いていない。いや、背中の誰かが僕を止めている?
何故そんなことをするのか、抗議しようとしたら、視界が鮮明になった。
「コウの魔力を使っているからか、私とでも『浸透』が可能なようだね」
老師の声だった。
見えているのは、これは「窓」?
遠くからざわめきが起こる。これは、歓声だろうか。響いた声の連なりに、恐怖や危機感といったものは含まれていない。
「魔法が弾かれたの! 魔力の流用? 『結界』も『浄化』も追い付かないの! エン兄、クー姉、皆を避難させてなの!」
伸ばした両手で杖をしかと持って、焦心を隠す余裕もなく悲痛な声で兄姉に頼る。
「窓」を通して見るコウさんは、降り頻る雨のように魔法を行使していた。雨粒と同じく、その数を把握することなんて不可能。黄金の粒子で小さき身を染め上げても尚、後手に回らざるを得ない状況のようだ。
くっ、駄目だ、老師との「浸透」では現状の把握も儘ならない。
「対象に届いていないか。コウの弱点がこんなところで浮き彫りになるとは。間に合わないとなると、心しておく必要がある」
思案するような老師の落ち着いた声が途切れた瞬間、視界がぶれる。
老師が「窓」を閉じたようだ。
目を瞬くと、違和感がなくなって、いつも通りの視界に戻る。
「真ん中集まって、円作んよーに拡がってけ!」
「近衛隊、外周に立って、避難誘導!」
エンさんとクーさんが中心になって、大広場に集まっていた人々を誘導しようとしているが、如何せん数が多い。
魔力は迫り、勢い西からの歓声が大きくなってゆく。
「ミースガルタンシェアリ様だ!」
「真っ直ぐこちらに向かわれているぞ」
「おおっ、炎竜様のなんと雄々しい姿か!」
「大広場に向かってるんじゃないか? 俺たちも行くぞ!」
状況を理解していない竜の民は、不幸中の幸い、と言っていいのか、悠長に構えて切迫感がなく混乱には至っていない。
だが、緊張感の欠如は、後の災厄に繋がるかもしれない。
「ミースガルタンシェアリーーとなると」
これは確定だ。
竜になったみーが遣って来る。
ミースガルタンシェアリと誤認されるということは巨大化しているのだろう。それを成したは呪術師に他ならない。
みーが唆されているのか、いや、巨大化という時点でその可能性はないだろう。
みーの巨大化は、コウさんでさえ労を要していた。みー自身で巨大化ができないとなれば、それは呪術師の仕業。
みーの意識を失わせ、竜の姿に戻し、巨大化までさせる。ここから導き出されるのは。
ーー呪術師の呪術とは、竜乃至生物を操る力、か。どこまで制御できているのかわからないが、竜を手懐けて使役しようと試みるなど、正気の沙汰とは思えない。
猛獣を檻に閉じ込めて、飼い慣らし鑑賞する。それらは、人の持つ嗜好の一つで、本能に根ざす征服欲の一部なのかもしれないが。
いや、止めよう、すでに事を起こした呪術師に、竜の役割と存在の意義を説いたところで、炎竜に「火球」をぶつけるようなもの。
見えずとも、感じる。
竜の国が完成して、エルネアの剣の本拠地にみーが迎えにきてくれたときのことを思い起こす。
巨大な質量が近付くことで生ずる圧迫感のようなもの。
純粋に物体が移動して、周囲の現象を遮る。魔力を感じることが出来ない僕でさえ引き寄せられる何かがある。
「ーーっきぃ」
息を吐こうとして、引き攣ったような声が出た。
空気が、……痛い。
焼き尽くす鮮やかな竜眼が、僕の甘ったれた予測を穿ち、微塵にする。
あれは、人の存在など歯牙にも掛けない、生物種の頂点であり、暴虐も破壊もただの行為にまで貶めることが出来る、世界に映える天災の具現。
燃やす、などという生易しいものではなく、敵愾心を焦がしている。
みーの、優しかったり和やかだったり暖かかったり、そんな面影は、灰さえ残らぬほどに焼却されて……。
赤く紅く、深緋に炎を装飾して、荘厳さに抗うものなく、光を灼く。
劫火と紛うほどの猛りを纏いし偉容は、全き炎竜。
僕の知っているみーとは何もかもが違う、それでもみー以外の何者でもない紅蓮の化身が、空の一角を削り取る。
悠々と鎌首を擡げ、放たれる。
「ーーーー」
存在が、魂が、震えた。当たり前のことが、見ることが、呼吸することが、難しい。
すべてを失った場所には、闇ではなく空虚な透明さだけがあるのかもしれない。
目を灼き、体を灼き、心を、魂を灼く。
峻烈を極める、世界を灼く、真炎の具象。
ーー何もかも灼かれたのに、こうして立っていられるのは、コウさんが魔法で防いでくれているからだろうか。
ただ打ち付けられて、根本の、生物としての、種としての違いを、人としての矮小さを、思い知らされる。
……竜の咆哮を、それと知って許容できた者がこの場に居ただろうか。音として認識できる水準を超えているのではないか。
みーの姿が大きくなってゆく。
翼が巻き起こす風に揺られながら、漸く理解が追い付く。エンさんの指示で竜騎士が作った、大広場の中央の歪な円に、みーが舞い降りる。
「「「「「…………」」」」」
炎竜に奪われた人々が静寂に傅き、惹かれながらの拒絶に、竜という存在を識る。
超越者を眼前にした希薄さに。生殺与奪の権利は奪われていることを。世界の理はすでに確定している。覆そうとすることの、なんと空しいことか。
絶望は絶望を糊塗するのだ。
「ーーはっ、ははっ」
誰かが笑っていた。こんなときに笑うなんて、どこの馬鹿だ。
すべてを蹴飛ばすような野太い笑声が、僕の口から這いずって。
……馬鹿は僕だったようだけど、そんなことはどうでもよくて、みーの頭の上に居るのを見たのだから当然だ。
ああ、ああっ、そこはっ、そこは! お前の居ていい場所ではない!!
「はっ、ははっ!」
放心したなら、放たれた心があるなら、今すぐ取り戻せ!
呼吸が止まっていたなら、風ごと噛み砕け!
麻痺など、それ以上の衝撃で煮え滾らせてやれ!
追い付かない、と言っていたコウさんは、未だ追い付いていないようだ。何に対して追い付いていないのかはわからないが、必要なのは時間稼ぎだと判断する。
「エンさん! クーさん! 老師!」
見澄まして、眼前の激甚に挫けていない者の名を叫ぶ。
「ーーっ!」
「っぃ!」
呼応してエンさんが右に、クーさんが左に駆け出す。
老師は動かず、補佐に回るようだ。
エンさんは中央から人垣を飛び越えて大鐘楼の壁に着地すると、魔力全開放で壁を駆け上がって、そのままの勢いで空に飛び出す。
そして長剣にすべての魔力を収斂する体勢。
クーさんは魔力を練りながらエンさんの位置を確認。
接近戦の為にみーの膝辺りに向かって跳躍する。彼女もまた、魔力全開放でいつでも発動できる状態だ。
「最炎最焔究きょーー」
「氷華十二ーー」
みーが半歩踏み出した、刹那ーー巨体が霞んだ。
瞬間的に一回転したみーの尻尾に叩き落とされて、クーさんが地面に埋没する。
回転を終えたみーは、すでに炎の息吹を上空に吐いていた。
鈍い音がして、石畳が弾ける。見ると、エンさんが横たわっていて、焼けた背中が黒く変色していた。
自ら発生させた突風と熱気に煽られる人々を見下ろして、暴君は悠然と佇む。
「……ぅあ」
余りと言えば余りの一方的な展開に、唖然とする。
……あ、と、いや、今のは……重心移動、だ。
ついさっき、闘技場でエンさんがみーに教えていた体術である。その使い手が竜の姿であるというだけで、ここまでの力を発揮するものなのか。
「ーーくっ、くくっ、さすがは竜! 幻想の覇者にして、遍く世界の王! 一族の悲願が結実し、私の代にして本懐は成された! さぁ、在るべきものは有るべきところへ!」
上擦った声が聞こえてきたので見上げてみると、みーの重心移動の回転で転倒したのだろう、呪術師がそそくさと立ち上がって弁舌を振るっていた。
エンさんとクーさんの意識はある。二人は、立ち上がろうとしている。
倒れた兄姉の真ん中まで、魔法使いが一人、とことこと歩いてゆく。
見上げた女の子の翠緑の瞳と、見下ろす竜の炎眼が絡まって。
炎竜が矮小な存在を嘲笑ったような気がして。少女は普段と変わらず、名を呼ぶ。
「みーちゃん」
ーーエンさんとクーさんは死力を尽くして立ち上がって、コウさんを見てぎょっとして、顔を引き攣らせて。
深く深く、記憶に刻まれているのだろうか、みーが本能的な恐怖に震えて、反撃を試みて。
呪術師は、胡乱気で何も理解していなくて。
僕はというと、注意喚起しようとして、もう遅いか、と諦めてーー。
「めっ」
両手を腰に当てて、コウさんが、みーを叱った。
真剣な面持ちであるが、その言葉と仕草に、可愛いな、というほんわかな感想しか出てこない。
まぁ、こんなのんびりと構えていられるのは僕だけなのだが。
然う。コウさんがいつもより低い声を発した瞬間、魔力が放たれたのだ。
「…………」
「「「「「っ!」」」」」
「「「「「!!」」」」」
「「「「「っ」」」」」
「「「「「!?」」」」」
魔力の影響を受けないはずの僕の肌を静電気みたいなものがぴりぴりと。
クーさんは自分から後方に飛んで、建物まで吹っ飛ばされるが、見事に壁に着地。
コウさんに背を向けていたエンさんは、石畳に顔面を直撃させたあと、地面に何度も体を打ち付けながら飛ばされて、不運な竜騎士二人を巻き込んで、竜の民を五人くらい転倒させて、やっとこ止まる。
カレンやザーツネルさん、隊長たちのような魔力量の多い人たちが、弾かれて蹈鞴を踏む。
要領のいい二人、シーソはシアを、老師は僕を盾にして、被害を最小限に抑えている。大広場にいる竜の民も、魔力量の多い人は体勢を崩したり、倒れ込んだりしている。
僕は、弾かれて尻餅を搗いてしまったカレンの前に、反対を向いて膝を突く。
「カレン」
呆けていたカレンに呼び掛けると、自分があられもない、はしたない格好をしていることに気付いて、慌てて居住まいを正す。
何故かわからないのだが、怒っているんだか恥ずかしがっているんだか曖昧な、泣きそうな顔で僕を睨み付けてくるので、竜の尻尾を踏んでしまわない内に、カレンの気を逸らすことにする。
「後ろの、フラン姉妹の介抱を頼めるかな。とりあえず、危ないから寝かせてあげて」
振り返ったカレンが目にしたのは、立ったまま気絶している双子の姿であった。
「サンっ、ギッタっ!? 二人とも、どうしたのっ!」
スーラカイアの双子の能力を知らないカレンには予想もつかないことだろうが。
恐らく双子は、コウさんの魔力放射に抵抗しようとしたのだろう。果たして、その場に留まることは出来たが、多量の魔力同士の衝突に意識のほうが持たなかったようだ。
そして、みー。
大広場の中央付近で、雄大な体を丸めて、がたがた震えていた。
あー、これは降伏の、いやさ、服従の姿勢なのかな。先程までの威圧が完全に消え去っている。
降参、の意思表示なのか、尻尾がふら~りふら~りと揺られて、ちょっと可愛い。
よっぽど効いたのだろう。コウさんの途方もない魔力に対して、竜の膨大な魔力で対抗しようとしたのだろうが、所詮みーはまだ仔竜、魔力の扱い方もなっていないので、竜に踏まれた竜饅のように、ぺちょんっ、と潰されてしまったわけだ。
まぁ、こうなることはわかっていたのだが。
現時点で、みーがコウさんに敵うはずがない。コウさんが何故手を拱いていたのかは気になるところだが、大勢に影響がなくて一安心である。
いや、胸を撫で下ろすのは、確認を終えてからだ。
0
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
仮想戦記:蒼穹のレブナント ~ 如何にして空襲を免れるか
サクラ近衛将監
ファンタジー
レブナントとは、フランス語で「帰る」、「戻る」、「再び来る」という意味のレヴニール(Revenir)に由来し、ここでは「死から戻って来たりし者」のこと。
昭和11年、広島市内で瀬戸物店を営む中年のオヤジが、唐突に転生者の記憶を呼び覚ます。
記憶のひとつは、百年も未来の科学者であり、無謀な者が引き起こした自動車事故により唐突に三十代の半ばで死んだ男の記憶だが、今ひとつは、その未来の男が異世界屈指の錬金術師に転生して百有余年を生きた記憶だった。
二つの記憶は、中年男の中で覚醒し、自分の住む日本が、この町が、空襲に遭って焦土に変わる未来を知っってしまった。
男はその未来を変えるべく立ち上がる。
この物語は、戦前に生きたオヤジが自ら持つ知識と能力を最大限に駆使して、焦土と化す未来を変えようとする物語である。
この物語は飽くまで仮想戦記であり、登場する人物や団体・組織によく似た人物や団体が過去にあったにしても、当該実在の人物もしくは団体とは関りが無いことをご承知おきください。
投稿は不定期ですが、一応毎週火曜日午後8時を予定しており、「アルファポリス」様、「カクヨム」様、「小説を読もう」様に同時投稿します。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
私のお父様とパパ様
棗
ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。
婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。
大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。
※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。
追記(2021/10/7)
お茶会の後を追加します。
更に追記(2022/3/9)
連載として再開します。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる