竜の国の魔法使い

風結

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五章 竜の民と魔法使い

おっと 見てはいかんぞ 下には何も着いておらんでな

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 追い出されてしまった。まるで、有罪が確定した罪人のような扱いで。

 疲れてはいるが、すぐに眠れる気がしない。

 疲れが感覚を刺激して痛みに変じているので、この不快さを先ずどうにかしたい。

 居室に戻らず、翠緑宮から出て、優しい風と日差しの下で、ゆるりと歩いて凝り固まっていた体やら何やらを解す。視界に入ってきたものを見て、それもいいかな、と行く先を決定する。

 竜の国の乗合馬車は無料なので、気付けば、ふら~りとそれに乗っていた。さて、着くまでに眠らずにいられるかな。

 まぁ、そこら辺はどちらでもいい、のんびりと考え事でもしていようか。

 枢要の顔合わせは、皆でやってくれるだろう。先程は邪魔をすることになってしまったが、あとは竜官の一人であるダニステイルの纏め役を紹介することくらい。

 南の南、遥か南に賢き民あり。そう称えられる、幻の民。

 そんな彼らが、竜の国に庇護を求めてきた。二千人のダニステイルが住まう場所として、東側の一番奥にある竜地、闇竜を希望。

 ただ、移住に際して、彼らは一つだけ要求をしてきた。それは、竜地の名称の変更である。始めは、ダニステイル、にしたいのかと思ったが、そうではなかった。竜地の名称を、闇竜ではなく「暗黒竜」にするよう求めてきたのだ。

 勿論、何の問題もないので、許可したのだが。彼らがそんな些細なことに拘る理由がわからないーー。

 ん……、あ~、駄目だ、頭を働かせるのも億劫おっくうになってきた。彼らの歴史の背景とか色々あるんだけどーー。

「…………」

 ーー、……と、意識を失っていたらしい、ん、ああ、目的地に着いたようだ。同乗の女性も席を立ったので、先に馬車から降りる。

 やはり、喧騒から遠ざかった場所にあるようだ。

 案内板があって、その先に施設の上部が見える。翠緑宮と同じく、周囲を木々に囲われているようだ。ただ、こちらは自然そのままの森ではなく、人の手が入った林という趣。目に優しく、この施設の目的に適い、好い雰囲気である。

「老師。押し付けられたと嘆いていた割には、乗り乗りじゃないですか」

 てくてく程好い距離を歩いて。然てこそ竜の頭脳にある竜書庫に到着である。

 翠緑宮より小さいものの、それでも十分な大きさの建物の周辺には、水路が敷設ふせつされていた。然し、ただの水の路というわけではなく、交差したり流れ落ちたり、水が吹き上がって八つの路に流れ込みーーあれはもしかして竜地を暗示していたりするのだろうかーー幾種類もの水の音が耳を潤してくれる。

 ゆったりとくつろげる広さがあって、長椅子が備え付けられている。憩いの場として人気を集めることになるだろう。

 そう、それは未来の話で、今は人っ子一人いない。

 まだ自分たちの生活を安定させる時期であるので、竜書庫を訪れる人は少ない。それに、大陸の識字率は高くないので、ここが活況を呈するのはだいぶ先のことになるだろう。

 書物を嗜むこと、多くの人がその楽しさに触れてくれるといい。

 知識の集積所、或いは保管庫としての役割からか、施設は重厚な造りになっている。書庫ではあるが、閲覧は可能で、いずれ貸し出しをすることも考えている。

 そうなったら、名称を変更しなければいけないかもしれない。

「おや、官吏の方ですかな。おはようございます」

 建物に負けず威風を醸す扉を押し開いて、書庫内に入ると、初老の紳士が和やかに挨拶をしてきた。

 どうやら、僕が侍従長であることに気付いていないようだ。

 竜の国の一般職の制服が支給されたところである。こうして出歩いても、侍従長だと特定される事態は減ってきた。

 竜の民の多くは、城街地出身である。城街地を訪れた際に、彼らは「窓」で僕の姿を見ているので、魔力がないことによる弊害ーー初対面での嫌悪や違和感を抱かせるーーがないことも大きく影響している。

 それと、僕の十人並みの容姿が、世間に流布している侍従長の噂と結び付かないようだ。

 竜騎士には申し訳ないが、文官のほうを優先させてもらっている。竜騎士は武具を纏っていれば、そうとわかるが、役人の証明の為には制服等が有効なものなので。

「おはようございます。ここは、一度確認、というか、訪れたいと思っていたのでーー。やはり、ここを利用される方は、まだ少ないようですね」
「そうですな、まだ皆忙しいですし、余暇よかを消費してでも遣って来る物好きは、私を含めて三人というところです。今日は、利用者は二人で、ーーお、うわさをすれば何とやら、もう一人が遣って来ましたな」
「ん? その服装は、って、若いな……、……って、じっ、侍従長っ、様!?」

 ひうぃやぁ、と謎悲鳴を上げながら、紳士が腰を抜かす。

 商人風の男が、紳士を引き摺って本棚の後ろに隠れる。それから、ひょこっと顔を覗かせて、

「……侍従長様、何か御用でございましょうか?」

 もともと肝が太いのだろう、怯えているものの、しっかりとした口調で問うてくる。

「まだ、貸し出しはしていないんですよね」
「はい。竜の国の体制が整い、もう少し落ち着くまで、書庫内での閲覧のみが許されています。ただ、貴重な書物の閲覧には申請が必要で、学術書や魔法書、希覯本きこうぼんの類いは、あちらで厳重な『結界』で守られています」

 商人風の男の下から、ひょっこりと紳士が顔を出す。竜書庫を利用するだけあって、好奇心は強いようだ。

 厳重な「結界」と言われても、僕にはわからないので、受付台の横にある通路に入ってみる。

 「結界」は護りの基本であり、使い勝手のいい魔法。

 対侍従長用に、コウさんの「結界」は格段の進歩を遂げている。どうやら、ここの「結界」は一般向けのようだ。僕には「結界」の存在すら認識できなかった。

 さて、「結界」を破ってしまったわけだが、コウさんならこのことを察知して、新しく張り直してくれる、はず?

「くぅ、やっぱり竜の国の侍従長は化け物か!? 普通に通路に入って行ったぞ!」
「竜書庫の深奥に足を踏み入れるとは、何と羨ましい。ですが、出禁を恐れる私たちには出来ない芸当。これ見よがしに、見せ付けるとは、『悪辣の繰り手』の二つ名は、まことでしたな」

 後ろからやっかみが聞こえてきた。それと、本当に二つ名が浸透しているようだ。実は、僕なんかに二つ名が付くのかと半信半疑だったが、世間は余程暇だったのだろうか。

 前に見た書類によると、書庫長が一人居るはずだったが。来庫者が増えてきたら、職員を増やすことを検討しないと。

 そんなことを考えながら、鬱蒼とした本の森の中を歩いてゆく。だが、木々の植生は異様だった。人を惑わすことを目的に配置したような、不思議な角度で枝が、書架が設置されている。これは魔法的な何かなのだろうか。

 竜書庫を訪れた目的。純粋に興味があったことは確かだが、他に確認したい、というか納得したい事柄があったのだ。

 そして、大凡の答えは出た。

 ここにある書物は、すべて同じ装丁そうていなのだ。これらはすべて写本だろう。これだけの量に、これだけの多様さとなれば、魔法に因らずば叶えられまい。

 氷焔の、コウさんやクーさんの知識は、明らかに現状と掛け離れたものだった。

 世界の魔力量、神々の傍観、教会の内部事情、魔術師の歴史、歴史の真相ーー。

 クーさんが以前言っていた、世界を救ったコウさんには見返りがあっていい、ということ。そして、魔法を用いることを容認した老師の思惑は、きっとーー。

「ーーーー」

 本の迷路の行く着く先に、更に奥に続く通路があった。

 上に金属板プレートが取り付けられていて、「禁書庫」と銘打たれている。

 そぉ~と、手を伸ばしてみると、先程と同じく何も感じなかったが、意図して「結界」を壊したのだから、後でコウさんに怒られても文句は言えない。

 一応、禁書庫のことを持ち出して、引き分けを狙ってみるつもりではあるが。

 思った以上に通路は長かった。採光さいこうはなく、途中真の闇に包まれる。

 咫尺しせきべんぜず、暗竜の腹の中。こういうときには、どうしても試したくなってきてしまう。

 自分の顔の前に手を持ってくるが、暗くてまったく見えない。それから三歩目で手の輪郭が浮かんで、七歩目で前方に光が滲んだ。

 これは、魔法的な何かが影響を及ぼしているのだろうか。

 光と闇の、奇妙な交錯。涼しい、というよりも、寒い。

 十歩目で温もりを求めて早足になる。歩いてきた距離からして、この先は竜書庫の一番奥になるのだろう。光の匂いは、体ではなく心のほうが先に感じるようだ。解ける闇に、後ろ髪を引かれながらーー。

 そこは、光に溢れていた。

 通路を出てからしばらく、目が順応するまで、音が聞こえたような気がした。

 子供の頃に聞いた、音としての意味を失った、懐かしいはずの情景。

「ようやっと来たか、父様とうさま。あまりに遅うて、わしのほうから押し掛けるとこじゃったぞ。相も変わらず、『結界』など景気良う壊してくれるものじゃ」

 禁書庫は、大きくなかった。僕の執務室の、半分くらいの広さだろうか、周囲の壁面が書物で埋め尽くされている。

 中央に、古いが細かな装飾が施された卓一つと椅子四脚。すべて書架で囲まれているかと思ったが、右手前に、更に奥に続く通路があった。

 正面の上座に子供が座っていた。

 その子供を、女性が後ろから椅子ごと抱き締めている。子供は優雅な所作で、匂いから恐らく竜茶だろう、カップを口に運んだ。

 ーー声をどこかに落としてきてしまった。

 ーーどうしたら拾ってこられるのか思い出せない。

「ーーーー」

 音が鳴る。僕で鳴る。

 初対面のはずの、青と白の良質な部分を削り取って創ったかのような、雪の純粋さと、清廉な周期を湛えて輝く、薄碧眼と氷髪。

 頬に氷色の文様がある。

 みーと同じように、着色されたものではなく、元からの肌の色であるようだ。

 みーと同じくらいの背格好で、ひらひらした服で見えないが、肢体にも文様が刻まれているのだろう。

 ……何かを伝えたいのか、勝手にがなる心臓を抑え付けるのを諦めて、子供の額の、真ん中の上部から、寂れた白い角を生やした面を、「人化」しているのだろう竜に、待ち人の到来に緩む氷眼に、心が凍ったままの、……就中なかんづく込み上げる憧憬。

 自分の中の様々なものが乱れて、また、かと思えば、纏まらないことがわかってもどうすることも出来ない。

「驚いておるようじゃのう。おう、この姿で見合うは初めてじゃったか。なれど、わしの面影はあろう。ふふっ、いつまでも突っ立っておらんで座るが良い、父様」

 幼子が親に向けるような、すべてを委ねる瞳で見詰められて、知らず知らず導かれるように椅子に座ってしまう。

「えっと、それであなたは竜のようだけど、誰なのかな。それと、僕が父様……っ」

 最後まで言えなかった。

 子供の体から霧のようなものが噴き出して、竜が手にするカップが割れるが、破片や液体が零れ落ちることなく、湯気が立っていた竜茶ごと凍って固まってしまう。

 薄碧眼がこれ以上ないくらいに冷え切って、僕の心臓から心の奥底に至るまで、すべてを凍らせる気満々であるようだった。

 ゆっくりと吐き出した息が、やけに乾いて凍え付くような気がしたのは、擦り切れるような痛みを感じたのは、きっと僕の勘違い。何故なら今は、冷た過ぎるのに、熱過ぎるからだ。眼前の竜が、僕をそうさせる。

「わしの知らぬ間に、人間の記憶は十周期で消去されるようになったのかのぉ」

 凍れる竜の、怪訝けげんそうに僕を見る瞳が、ついと横に逸らされる。

 釣られて目で追うと、子供を抱き締めている女性の袖から見えた手首が、れを通り越して、変色して黒ずんでいた。

 竜が発した霧、冷気によるものだろう。見るから重傷だというのに、彼女は気にした様子も痛がる素振りもなく、無邪気に子供になついたままだ。

 子供は、何気なく女性の腕を掴むと、すぐに手を放した。

 竜なのだから、慮外と思うことのほうがおかしいのかもしれない。然り乍らコウさん以外にも可能であることに、驚きを禁じ得ない。彼女の傷は、治癒魔法なのだろう、瞬時に完治していた。

 子供が手にしたカップを傾けると、きんっ、と純度の高い氷塊が割れるような音が響く。

 竜茶とカップは、端無はしなく冷気の靄になって。光を蓄えて輝く様は、竜の雫のようである。

 すぅ、と竜が息を吸うと、色付いた靄は、柔らかそうな口に呑まれていった。

「エルルよ、三人分竜茶を用意するのじゃ」
「は~い、行ってきます~、スナちゃ~ん」

 エルルという名前の、恐らく書庫長の女性は、間延びした言葉遣いで請け負うと、奥に続く通路にのんびりとした歩調で歩いてゆく。

 竜に気を取られてよく見ていなかったが、女性は二十歳を幾つか越えているくらいで、その振る舞いはさながら子供のよう。

 大人が子供のように、ではなく、子供が子供らしく、といった姿。

 子供であったら違和感がない、そんな自然な言行。だが、そんなことよりも、たゆんたゆん……げふんっげふんっ然に非ず、いやさ、然もありなん、でもなくっ、一瞬、がん見しそうになってしまった。

 エルルさんは平均的な女性の背格好だったが、一部だけ、その……、コウさんがうっかり目撃したら、そのあまりの格差に攻撃魔法を放ってしまうのではないかと心配してしまうくらいの、いや、実際にはそんなことはないだろうが。

 はぁ、ふぅ、やばい、とりあえず、落ち着こう。

 子供と同じく、ひらひらした服を着ているエルルさんは、逆に強調されてしまっている豊満な一部分をまったく意に介することなく、楽しげな様子で通路に消えていった。

 幸いなことに、部屋は竜のお陰でとても良く冷えている。頭を冷やすと同時に、焼き付いてしまったエルルさんのあれを、初心な少年のもやもやきっとだれもがとおるみちごと消し飛ばしてしまおう。

「……十周期前、というと、もしかしてヴァレイスナ連峰の……」
「なんじゃ、父様、覚えておるではないか。娘をたぶらかすとは、悪い父様じゃ」

 今にも落ちてきそうな氷柱の下を歩く気分で、慎重に言葉を継いでゆく。

「えっと、娘ということは、『分化』しているということなのかな」
「いんや、『分化』した幻想種の話は聞いたことがないのう。未分化で、わしはどちらでもないが、この格好で息子ということはあるまい。娘として、存分に可愛がるが良いぞ」

 「浮遊」の魔法でも使っているのだろうか、風に包まるような軽やかな所作で椅子の上に立つと、ひらひらした空色の服を見せ付けるように、くる~りっ、と回転する。

 そして、自然の法則にしたがって、スカートが舞い上がって、

「おっと、見てはいかんぞ、下には何もいておらんでな」

 むふふー、とからかうように無邪気に笑うと、見えそうで見えないところで、スカートを抑える。

 ーーあ、いや、別に釘付けになんかなっていませんよ。ただ目が離せなかっただけで、未だ正体のはっきりしない、みーに勝るとも劣らない可愛らしい竜に、少しだけ心を奪われていたとか、認めないわけではないけど……。

 うん、これは、駄目だ。手玉に取られていることを自覚して、練り直さないと。

 三歳のみーと違って、この竜には奈落のような、えも言えぬ見通せない、それでいて時の狭間でさえ弛まぬような泰然とした、何かがある。

 何か、としか言い様がない。

 些細な周期しか生きていない僕では、到底及ばないものが、目の前にあることが、居ることが、心を挫けさせようとする。

 竜の狩場には、みーが居た。

 もしミースガルタンシェアリが存命であったなら、この竜と類同るいどうの重圧を感じていたのだろうか。

 ふぅ、嘘を吐こうとか、相手の意図を探ろうとか、そういうのは諦めた。

「ようやっと、素直になったようじゃのう。父親には、娘を可愛がる義務があるのじゃ」

 僕の葛藤などお見通しとばかりに、卓に両肘を突いて、緩く組んだ両手の上に顎を乗せる。

 ふんわりとした女の子らしい仕草に、近寄って頭を撫でてあげなくてはならない欲求がーーって、僕が父性を目覚めさせてどうしようというのだ。

 まさか、みー同様に、これも竜の魅力というやつなのだろうか。

「十周期前。僕は、『ヴァレイスナ連峰に登ってくる』という書き置きを残して、姿を消したそうです。そして、連峰のふもとで発見されたとき、三巡りが経過していました。目覚めた僕は、その間の記憶を失っていました。それは、今も戻っていません。だけど……」

 竜娘とまみえたとき、古い情景が奏でた。

 雪の白さに埋もれた先に、手を伸ばしても届かない場所に、竜との繋がりがあったことだけは、今にも途切れそうな雪道の、足跡の儚さで確信できる。

「ふふっ、ふひひっ、父様よ、登りで遭難して、下りでも遭難したとは、実に難儀なことをしてくれよる、ふはひひっひひいひっ、わしを笑い死なす気か……」

 どうやら僕の滑稽な昔話がいたく気に入ったようで、一頻り笑い続ける竜娘。

「ええい、先ず呼び名じゃ。わしのことは、スナと呼べ。父様が名付けてくれた大切な名じゃろう。父様が呼ばずして、どうするというのじゃ」

 ころころ笑ったら、ぷんすか怒る。みーとは違った意味で、感情が豊かなようだ。

 足音と、届いたのはどちらが早かったか、胃の腑を刺激するふくよかな竜茶の香りが漂ってくる。見ると、エルルさんがお盆を持って通路から出てきたところだった。

 卓の真ん中にお盆を置くと、竜娘、ではなくて、僕の娘であるところの、スナに抱き付こうとする。

 スナは、エルルさんの髪の毛を無造作に掴むと、引き千切るような勢いで、脇に放った。

「エルルよ。わしはこれから父様と話があるゆえ、大人しく座っておるのじゃ」
「は~い。エルルは~、スナちゃんと~スナちゃんのちちさんの~話を~、聞いてます~」

 邪険に扱われて、文句を言うどころか大喜びのエルルさん。

「娘をそんな目で見るとは、いけない父様なのじゃ。エルルのことは後で話してやるゆえ、今は大切な愛娘まなむすめだけで、心を満たすが良い」

 どうやら顔に出ていたらしい。

 僕の取り繕った表情を見て、スナは穏やかに微笑む。エルルさんが着席すると、スナが手ずから竜茶を配る。

「父様の記憶が戻ることを期待して、話してやるとするかのう。父様、気張らず、心を落ち着けて聞くが良い。わしは言葉に魔力を乗せて話すゆえ、そのほうが思い出し易かろう」

 スナがカップを手に取ったので、心を落ち着けようと僕も竜茶を飲んで、舌鼓を打つ。

 ーーこれは、美味い。

 以前、みーやコウさんが淹れてくれた竜茶よりも、数段美味かった。

 思わず、エルルさんをまじまじと見詰めてしまう。あに図らんや彼女は茶師と呼んで差し支えない腕前の持ち主のようだ。

「十周期前、父様はヴァレイスナ、わしの名を冠した連峰に登ったのじゃ。目的は、連峰の最高峰へ至ること。慮外なことにのう、山々に見下ろされていることが気にならなくなる、などという戯けた目的を果たそうとしておったのじゃ」

 甘い誘惑を湛えた優しい瞳でスナが僕の心を擽ってくるが、揺れるものの少なさ、儚さから、言葉にまで昇華することはなかった。

 確かに僕は、山々に見下ろされることに苛立ちに近い感情を持っていたが、まさかそのような行動に出るとは。

 自分が仕出かしたことながら、自分が信じられない。

 然ても、そうではないかと思っていたが、スナは、ヴァレイスナ連峰の名の由来となった竜なのだ。人がつづる歴史より前から存在していた尊き氷竜。

「父様は、連峰の最高峰には至らなんだが、わっぱの足で大したことに、わしの住み処まで辿り着いたのじゃ。人交ひとまじわりなぞする気がないでな、わしの住み処の周辺には十重二十重の、峻拒しゅんきょの為の魔法が施されておったわけじゃが、父様はすべての魔法を霧散せしめ、わしの許に遣って来たのじゃ」

 追想に揺れるスナのかんばせが、暖かな氷の花を咲かせる。

 赤子と年老いた者の笑顔はどこか似ている。

 そんな、最も深い場所にある感情が、スナを形作っているような気がした。

「そうして、父様に触れられたわしは、人間の童がることに気付いてな、食って魔力にしてやろうか、潰して住み処の外に蹴飛ばしてやろうか、どちらが面倒がないかで迷っているとじゃ。父様がわしと眼差しを絡めて、こう言ったのじゃ」

 ゆるりとまぶたを閉じて、反芻はんすうするように、

「暖かい、と」

 僕と、僕の知らない僕に差し出すと、氷眼で僕の懐かしい場所ところに囁いてくる。

「氷竜のわしに触れて、言うに事欠き、暖かい、なぞと、何と小洒落こじゃれた物言いじゃ。わずかに興が乗ったわしは、父様に尋ねたのじゃ、『わしが恐ろしゅうないのか』とな。するとな、傑作じゃ、父様はわしの頭部まで登ってきて、徐に抱き付くと『可愛い』などと抜かしよった。ふふっ、ふひひっ、あれほど笑うたは、世界に生じてより初めてじゃった」

 何だろう、昔の僕の所業とはいえ、何だろう、この居た堪れない感じは。って、二回も同じ言葉を使ってしまった。恥ずかしいったらありゃしない。何かもう、すべてに於いて恥ずかしい。ああ、そういえば、コウさんのときにも似たようなことを思ったっけ。

「感謝するのじゃぞ、父様。氷竜たるわしが、火の魔法を使うてまで、人の子を助けてやったのじゃからな。それから一巡りとわずか、傷が癒えるまで、父様とわしの共同生活が始まったのじゃ。困ったことに、父様はわしに抱き付くのが大好きでのう、凍傷を負わせぬようするのに一苦労じゃった。『ヴァレイスナは呼び難いから、スナって呼ぶ』と言って、父様はわしの名付け親になったのじゃ。うふふ、どのようなものとて親は親、竜が人の親を持つも一興。そうして父様とわしは、親子の契りを交わしたのじゃ」

 スナが僕を、父様と呼ぶ理由はわかったものの、記憶にないだけに対処に困る。はずなのだが、どうしてだろう、スナに父様と呼ばれると、暖かくて優しいものが僕の深い場所までするりと入り込んでくる。

 そんな僕の心の内を知ってか知らずか、スナは話を続ける。

「やがて、父様の傷は癒え、また逢う約束をして、別れたのじゃ。でじゃ、それから九周期ほど経った後の話に移るとしようかの。わしの住み処に三人の人間が遣って来たのじゃ」
「ぅぃ……、それって、氷焔の、コウさんとエンさんとクーさん、ですよね」

 思わず竜茶を噴き出しそうになってしまった。

 いや、でもおかしな話ではない。今、スナは竜書庫ここに居る。それは、以前にコウさんたちと接触した可能性が高いということだ。

「竜信仰の民から、依頼を受けたそうじゃ。遺品を竜の住み処の近くに埋めて欲しいとな。それが叶わぬなら、見晴らしの良い場所にと。でじゃ、のこのこ遣って来た三人は、わしの設置した魔法に触れたわけじゃが。ここで、あの娘は、幾つもの錯誤を重ねよった」

 スナが、ふくくっ、と悪い顔をする。そんな顔も可愛いな、と思ってしまったのは、親馬鹿の所為なのだろうか。

 ……いや、きっとそう、そういうことにしておいてください。

「エンとクーと言ったか、あの足手纏いを、すぐに『転送』させなかったことが、一つ。自身の魔法について過信しておったのじゃろう、わしの魔法には『隠蔽』を施しておいたのじゃが、それを見抜けんかったのが、一つ。そして、最後の一つ。あの娘め、全力を出さずともわしに勝てると踏んで、手加減しよった。わしが張り巡らせた魔法は、あの娘の想定を上回り、わしは三人の生殺与奪を握るに至って、勝負は決したというわけじゃ。
 ふふっ、ふひひっ、一対一さしで、正面からまともに闘えば、わしはあの娘に勝てぬ。じゃが、わしは勝利し、あの娘に唯一の敗北を刻んでやったのじゃ。当然、勝ち逃げじゃの。もう、あの娘とは闘ってやらん」

 ああ、スナのどや顔も愛らしさ満天である。

 これは、ちょっと自分でも不思議である。みーにしろスナにしろ、どうしてこんなにも竜を好ましく感じてしまうのだろう。

「その所為か、あの娘は、わしに苦手意識を持っておるようでな。竜の国への召喚に応じる際に、条件を幾つか出したのじゃが、二つ返事で引き受けよった。ああ、わしを呼び寄せた理由じゃが、この地には炎の属性が根付いておるゆえ、ちと水量に不安を抱いたあの娘が、氷竜の属性で緩和して、十分な量を確保したというわけじゃ」

 竜も喉が渇くのだろうか、話し終えたスナが竜茶を啜る。

 負けず嫌いのコウさんのことである、本来勝てるはずの相手に敗北して、自省内省反省諸々を大いにしたことだろう。

 ん、……ん? いや、これはどうなのだろう。もしかしたら、の話なのだが、気になってスナに聞いてみた。

「スナは氷焔に勝ったわけだけど、コウさんたちを害さなかったのは……?」
「うふふ、良い読みじゃぞ、父様。十周期前に父様と出遭うておらなんだら、さくっと滅して仕舞いじゃったろうな。ふふっ、ふひひっ、あの娘らは知らんじゃろうな、実は父様は命の恩人じゃと。ふはひひっひひいひっ、愉快愉快っ」

 笑顔の裏は竜さえ知らず、という俚諺りげんがあるが、こちらの氷竜は色々とご存知だったようだ。

 不思議な縁の繋がりに、小さく笑みを浮かべてしまう。

 これまで、種々さまざまなコウさんを見てきた。健気けなげな部分も、いじらしく一途で弱々しいところも、強いところも。意地っ張りだったり、素直じゃなかったり、意地悪だったり。老師が言っていたように、ちゃっかりしていたり。

 しかして、斯くの如く裏があったとは。

 竜茶の使い道をコウさんに任せていたが、こんなところで横流しが行われていた。スナが提示した条件の一つなのだから、素直に言えばいいのに。

 ……あ、また一つ思い至ってしまったので、素直にスナに尋ねてみる。

「コウさんは、もしかして、スナのことを誰にも話していない、のかな?」
「ふくくっ、その通りなのじゃ、父様。隠すということは、あの娘の真情の吐露でもあるというに、それでも隠さねばならぬというは、まっこと痛快痛快っ」

 自分より強い相手だからなのか、コウさんに対して遠慮とか斟酌とかするつもりはないらしい。

 こうなると、強過ぎるというのも考えものだ。

「さて、統治者の側にある父様に娘から一つ、教授してやるとするかの」

 スナは、大人しく僕たちの話を聞いていたエルルさんを見遣ってから、僕に秋波しゅうはを送る……って、いやいや、そうじゃなくて。

 スナのそれは、演技なのだろうか、情感たっぷりの流し目に、頑是無い表情と相俟って、油断していると心ごと持っていかれそうになる。

「このエルルは、エルル・バーナスという名で、元クラバリッタの長老の娘だそうじゃ。遅くに生まれた娘ということで、大層大切に可愛がられて育ったようじゃの。この書庫長の職も、エルルの為を思い、必死で探したのじゃろうな」

 書庫長の席があっさりと埋まったのは、所期しょきの思惑が紛れ込んでのことだと思っていたが。エルルさんが竜官であるバーナスさんの娘だったとは。

 彼の周期に鑑みて、遅くに生まれた娘は、さぞや愛しく感じたことだろう。

 スナは、エルルさんの顎に手をやって、無理やり自分に向かせると、

「エルルよ。竜と人間、どちらが好きか?」

 愛を語らうような、蜜が滴るような、心まで蕩かすような声音で質す。

 僕は、その問いの内容を理解した瞬間、怖気立った。

 薄ら寒くて、暖かいものが欲しくて見回すが、エルルさんの笑顔に、それを見つけることは出来なかった。

「人間の中には~誰も居ませんけど~、竜の中には~スナちゃんが居ます~。だからだから~、竜が~好きです~」
「聞いたか、父様? エルルは、蝶よ花よと大切に育てられてきたのじゃ。だのに、どうじゃ、両親でさえ、エルルの心に何も残してはおらぬ」

 答えがわかっていて、その通りだったのに慄然りつぜんとしたのは初めてだったかもしれない。

「エルルにとっての、大切にされる、ということは、強く求められる、ということなのじゃ。そこには、自分に対して振るわれる暴力さえも含む。さきに、わしはエルルを傷付け、それを癒やしてやったが、エルルからすれば、大切にされた上に慈しんでもらえた、そういうことになるのじゃ。与えられることがあろうと、求められることのなかった、憐れな娘。誰も彼も、エルルを見ん、知ろうとせん、気付きもせん。求められたエルルは、これほど豊かな魂を持っておるというに」

 エルルさんの頭をぐりぐりと、傍目はためには苛めているようにしか見えないが、彼女は大喜びである。

 真っ直ぐに向けられるスナの眼差しが、あまりに優し過ぎてーー、僕はぐっと卓の下で拳を握った。なくとも涙が溢れかねない、そんな懸念さえ抱いてしまうほどに。氷竜が過ごしてきた永い星霜せいそうを垣間見たようで、目が離せなくなる。

「調べたのじゃがな。エルルは、わしと出遭うときまで、一度として笑ったことがなかったそうじゃ。エルルにとっての、人の世界は、自分を傷付けるだけの、悲しい世界じゃった。誰一人、エルルを大切にしなかったのじゃ。初めて大切に扱ってやったのが人ではないとは、何とも皮肉なことではないか。
 わかるか、父様。どれほど大切にしようと、どれほど尽くそうと、それに見合ったものを返してくれるとは限らぬ。だのに、人というは、等量を得られぬことに不満を抱くのじゃ。愚かしいとは思わぬか? エルルの笑みを奪っていたは、いったい誰の所為になるのや。そうしたものに、答えなどいらぬ、ただ統治者であるなら、傾倒し過ぎぬようにな」

 僕は何も言えず、小さく頷くだけで精一杯だった。

然なりそのとおり然ななりそうらしい然なめりそうであろう然なきだにそうでなくてさえ、ということで奥に行くぞ、父様」

 エルルさんが座っている椅子に飛び乗ると、彼女の頭を掴んで、卓に、ごんっ、と叩き付けた。そして、すぐに治癒魔法を行使したようだ。

「エルルよ、ここは暖かくて気持ち良かろう。わしが起こしてやるまで好い夢を見ておれ」
「は~い。スナちゃんの~仰せのままに~」

 すぅ~、と寝息が聞こえてくる。って、え、もう眠ってしまったのか。

 狸寝入り、ということはなさそうだ。休眠期の竜のように、深い眠りに入っているらしい。これは、スナの魔法だと思うが、もしかしたらエルルさんの特技なのかもしれない。

「ほれ、はよう来るのじゃ。娘を待たせるなぞ、苛めっ子な父様じゃ」

 とててっ、と待ち切れない子供のように走っていって、ひょこっと通路の先から顔を覗かせる。

 楽しげな様子で奥に入っていくスナを追って、短い通路を抜ける。すると、禁書庫と同じくらいの広さの部屋があった。

 正面の角に机が二つ、左の奥に寝床が一つ。机には、雑多な小物と読み掛けの書物が幾つか置かれていた。生活感はあるが、僕の居室や執務室のように生活用品は少なく、殺風景な印象だった。

「ほれほれ、何をしておるのじゃ、はよう座るのじゃ」

 寝床の真ん中に座ったスナは、たしったしっ、と自分のすぐ横を叩く。

 僕が座ると、こてんっ、とスナが頭を乗せてくる。

「わしの住み処では、存分に甘えさせてやったのじゃ。今度は、父様が娘を甘々の冷え冷えの番なのじゃ。さぁ、頭を撫でるのじゃ、優しくじゃぞ。それと、いつまで焦らす気じゃ。はよう、わしの名を呼ぶのじゃ。あとはじゃ、娘にその話し方はなかろうて」

 猫のように頭を擦り付けてくる。

 要求が多いが、娘の我が侭に応えるのは、きっと父親の義務、或いは特権なのだろう。

 少し冷たくて、手に馴染む、不思議な感触。どう譬えたらいいかわからない。これが竜の触り心地というやつなのだろうか。

 髪に指を絡ませながら、確かめる。

 背中まである氷髪をくと、薄く冷気が生じて、仄かに甘い。

 頬に手を当てると、スナは、すりすり。次いで、はむはむ、と甘噛。

 青白磁の角に、根元から指を這わせて、先端は丸みを帯びていることに気付く。みーの先っぽと同じで、擽ったいのかもしれない。

 蕩けるスナに覆い被さるように、他の誰にも聞こえない大きさで。

「スナ」
「もう一度じゃ」
「スナ」
「もう一回じゃ」
「スナ」
「もっとじゃ、もっとじゃ」

 僕の声が、スナで響いていることが嬉しい。

「逢えて嬉しいよ、スナ。僕を助けてくれて、ありがとう」
「うふふっ、父様、わしを感じながら、ゆるりと眠りに就くと良い。刻限になったら、起こしてやるからのぅ……」
「おねむだね、スナ。ちゃんと僕を起こしてくれるのかな?」
見縊みくびるでない……、竜はいつでも、好きなときに……目覚められるのじゃ……」

 スナは、あっさりと眠ってしまった。

 ここまで心を許されて、預けられているとなると、むずがゆさを感じてしまう。

 目を閉じる。

 聞こえてくるのは、スナの小さな寝息だけ。ここは、優しい世界だ。

 十周期前の、一巡りと少しの、僕とスナだけで完結していた世界。

 スナの言葉には、魔力が宿っていたらしいけど、魔力の影響を受けない僕には、効果がなかったようだ。

 でも、どうだろう。本当に、届かないのだろうか。

 眠りに落ちる間際に響いたものを。起きたときに覚えていられたらいいな。そんな風に思いながら、最後にスナの冷たいようで温かい頭を撫でてあげるのだった。
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