竜の国の魔法使い

風結

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四章 周辺国と魔法使い

火焔 ばーさす 凍土

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「お礼なら、エン兄に言うのです。リシェさんを助けるように言ったのは、エン兄なのです。助けないと『おしおき』なので、仕様がなく助けてあげたのです。感謝しろなのです」

 嫌々なのか恩着せがましいのかわからない台詞だが、コウさんが本気で怒っているのではないということだけは察することが出来た。

 エンさんの落下記録を大幅に更新した僕は、僕を突き落とした犯人コウさんに誠心誠意頭を下げた。

 あの状況では、さすがに殺人未遂の罪を追及するなどということは出来ない。僕の破廉恥行為に対する正当防衛が適用される……かもしれない。

 然あれば全面的に僕が悪かったのだが、そこは「やわらかいところ」対策の為だと納得して頂けるとありがたいのですが。

 僕には魔法が効かないので、コウさんは「転移」で直接捕まえに来てくれた。

 もう少し遅ければ地面と非常に嬉しくない激烈な抱擁をかましていたところだが、コウさんが助けに来てくれると信じていたので恐怖は微塵も感じなかった。なんてことは勿論なくて、すっごく怖かったです。

 寝起きに魔力全開りゅうもにげだすコウさんのみーではないけど、粗相そそうをしなくて本当に良かった。魔力を漏らしたみーと違って、僕には致命傷になるかもしれないので。

 コウさん以外で試したことはないが、僕が触れているとき、対象者は魔法を行使することが出来る。

 その状態で僕を攻撃すると、魔法が効かないことを確認している。

 何ともちぐはぐなことだが、僕の特性とは、なかなかに厄介なもののようだ。コウさんは研究を継続中のようだが、大した成果は上がっていないらしい。

 然て置きてコウさんを追って、雲底から飛び出してきたみー。

 雲と大地の真ん中辺りで、皆と合流を果たすと、目的地はすぐそこにあった。

「んで、こぞー。見えてきたわけだが、あれがそーなんか?」
「はい。あれが、三寒国の南に位置する国で、『サラニス』です」

 僕は、故郷を眺め遣った。眼下に見覚えのある景色が広がっている。

 空から見下ろしている所為だろうか、郷愁めいたものがみることはなかった。

「う~む。当然っちゃあ当然だが、線引いてあんわけじゃねぇから、どっからどこまでがそーなんかわかんねぇなぁ」

 村や街が点在しているので、ある程度予測することは出来るが、初めてサラニスを訪れた彼らに、明確な線引きなど出来ようはずもない。

 他者が、思惑や打算や妥協とか、そんなもので決めたもの。ときにその線は移動したり、消えたりするので尚更である。

 そう、それは当たり前のことで、空から眺めて初めて実感できることなのかもしれない。

 大地に区切りなどない。

 どこまでもどこまでも、ただ広がっているだけ。そんな在りもしない線を巡って争うなど、なんと下らないことなのだろう。まったくもってなげかわしい。

「エン兄、見易くしたの。どうなの?」
「おー、いー感じだー。わっかりやっしぃぞー」
「はーう、せんがぐにぐにーなのだー、ぐにぐにぃ~んぐにぐにぃ~ん」

 ああ、みー、揺れるからあんまりぐにんぐにん体を動かさないでください。

 嫌な予感がしたので、体勢を崩した振りをしてコウさんに近付いて、さり気なく肩に触れた。とはいえ、さすがに態とらしく見えたのか、おかんむりのぷんぷん魔法使いは、魔法拳を繰り出すのを我慢しているような、むずむずの表情だった。

 果たせるかな、視線を移せば、僕の懸念は当たっていた。

「……はぁ」

 ……情緒もへったくれもない。

 いや、わかり易いけど、わかり易いんだけど、そうじゃないと思います。僕は、故郷サラニスのあられもない姿に、天を仰いだ。

 ずっと上を向いているわけにもいかず、現実を直視する。

 見下ろした大地に、でっかい白い線が引かれていた。あれは国境線なのだろう。恐らく魔法で色付けしたもので、地上にいる人々からは確認できないものだと思うが。

 地図だけでは飽き足らず、世界まで彩色してしまうとは、もはやどう反応したらいいのかわからない。

「あそこが、最初の目的地の王城なのです」

 コウさんが指差した先に、城壁に囲われた城と城下の街並みがあった。すると、城の上空に、巨大な光の王冠が、ぴこんっ、と出現した。

「……あはははは」

 まったくもって、非常にわかり易い記号マークである。

 ……親切過ぎて、乾いた笑いしか出てこない。

 みーが間違えないように、コウさんの優しさが注がれ過ぎた結果なのだろうが、この脱力感は何なのだろう。然し、今は気張って事に当たらなくてはならない。最初から躓くわけにはいかない。

 ゆっくりと深呼吸。必要な手順を確認。緊張を誤魔化す為、自分を客観視する。

 ふっ、と心がめるのを自覚する。

「それでは、みー様。あそこの城壁の正門にお願いします。あと、親書を渡すわけですが、城壁に下りるのは誰がーー」

 言い終える前に、エンさんは僕が持っていた親書を見事な手際でしゅっと抜き取った。

「さー、ちみっ子ー、俺たちん出番だー!」
「なーう、きりきりもみもみきゅーこーかーなのだー!」

 止める間も、言葉の意味を理解するいとまもあらばこそ、仲の良い竜焔ふたり結託けったくする。

 誰がそんなことを教えたのか、みーは羽ばたくのを止めて、そのまま落っこちていった。

 頭に乗っている僕たちのことなど、すっかり忘れているようだ。いや、僕のことを気にしていないだけか。僕以外は、コウさんの「結界」や魔力で振り落とされることはないのだから。

 僕は、サラニスの人々に同情した。

 みーが僕を迎えに来たときのような、竜の来訪に心を揺らす時間も与えられず、突如として、この世界の最大の神秘りゅうが出現するのである。

 然く考える余裕があるのは、嫌そうな素振りをしながらも、コウさんが僕を掴んでいてくれたからである。

 「結界」か風の魔法なのか、僕の周囲の空間を固定するような魔力の流れを知覚することが出来た。魔力が奇妙に渦巻いているのは、僕の特性を回避する為の何らかの処方なのだろう。

 然は然り乍らコウさんを信頼していることと恐怖の度合いはいささかか別のことである。

 垂直落下などというものは、何度経験しても怖いものは怖い。然こそ言え、コウさんは泰然自若ほんのりふてくされ、みーとエンさんに至っては、笑う門には竜来たるとばかりに愉快爽快大爆発えがおやはなさくみーびより

 目を瞑ってしまいたいが、隣に女の子が居るのでちりゅうがふうりゅうにのれば男の子は痩せ我慢えんりゅうもまたひょうりゅう

「われは『みーすがるたんしぇあり』である」

 衝撃を伴っての着地のあと、みーが名乗りを上げる。

 ……最後のほうに、とち狂って色々と乱れ捲ったような気がしますが、どうか皆さま、聞かなかったことにしてください。って、口から漏れなかったので、誰も聞いていなかったというのに、何を言い訳めいた頼みごとをしているのか。

 むぅ、これは、吃驚してくじけてしまった心を立て直さないと。

「……ふぅ」

 見ると、コウさんの配慮だろう、城壁は壊れていなかった。

 現在も継続中だが、みーの「結界」や彼女を中心に散布されている、これは魔力なのだろうか、細か過ぎて不可視の粒子を知覚する。

 恐らく、みーを見て動転する人々の安全を図って行使されているのだろう。然てだに終わってくれればいいが、他に魔力探査や周囲の空間への関与、これは「遠観」とは違うようだが幾つもの視点が交錯している。

 王都を覆う薄い皮膜のような、これも「結界」の一種なのだろうか、いったいどれだけの魔法を併行しているのだろう、尚且つ「隠蔽」が使われているようで誰一人この常軌を逸した魔力の奔流に気付くことはない。

 以前の感知魔法より増しだが、ぎりぎりと僕の、感覚だったり精神的な何かだったり、神経を締め上げるというか削り取るというか磨り減らすというか、然はあれある程度は慣れでどうにかなるはず、物事は繰り返すごとに容易になる、この世の真理の一つに数えても遜色ないと思われる、魔力にすら適用可能と、たとい緩怠かんたいであろうと受け容れる。と色々と気を逸らしながらコウさんの肩に触れ続けて、ようやく視界が安定してきたところで、目敏く確認する。

 エンさんの姿がない。

 みーと一緒に何か企んでいたようだが、彼らに任せるには不安要素が多過ぎる。

 已む無し、と諦観して、まぁ、それでもこう、離し難かったりするんだけど、触り心地の良い彼女の肩と僕の手に隙間を生じさせる。

 世界を覆うような混沌とした魔力が消え失せて直ぐ様みーの頭の上を小走りで移動する。

 城壁の内部が確認できる位置で、みーの角に掴まりながら身を乗り出すようにして眼下に見ると、

「さぁー、こん国ん一番つえぇー奴! 出てきやがれっ!!」

 ……エンさんが喧嘩を売っていた。って、いきなり何してるんですか!?

「これはしたり。氷焔の『火焔』とお見受けする。サラニスの『凍土』がお相手つかまつろう」

 ゆくりない竜の来訪に、彼らにとっては炎竜の襲撃に等しい事態に皆が立ち尽くす中、兵士と思しき者たちの後ろから、巨大な盾を持った初老の偉丈夫が現れて、口のに歓喜を乗せている。って、「凍土」ともあろう人が何で平然と喧嘩を買ってるんですか!?

 ぐはっ、何だ、この、異常な状況の連続は。あっさり勝負が成立しているのが、もはや胡散臭い。

 ……これは、僕にはどうにも出来ない。

 コウさんは絶賛魔法の乱用中、もとい織り成している最中、みー……は悪化させるだけか。クーさんは呪いの人形継続中。

「今ぁ、竜の国ん竜騎士団団長だ。俺ぁ勝ったら、こん親書、王さんに渡してくれや」
「ほう。では、私が勝ったら?」
「……こん魔法剣をやろう」
「ふむ。申し分ない、始めよう」

 エンさんは、手にした魔法剣を掲げる。

 彼の顔が若干引き攣っているように見えるのは、僕の気の所為ではあるまい。然り乍ら国を代表して宣言した言葉を今更取り消すわけにはいかない。

 ……いいのだろうか。自分が負けることを考えていなかったらしい彼は、とんでもない約束をしてしまった。

 いや、約束というより誓約というか契約というか、いやいや、言葉なんてどうでもいい、竜にも角にも、ついうっかり口から出てしまったのだろうが、これは是が非でも勝ってもらわねばならない。

 然ても、これが戦士の性というものなのだろうか。

 「ミースガルタンシェアリ」とか竜の国とか、忽せに出来ないはずの重大事を平然と脇に追いやっている。いやさ、彼らが特殊なだけである。そうに違いない。そうに決まっている。

 はぁ、少しは振り回されるこちらの身にもなって欲しい。

「えっと、これって、エンさんが負けたらどうなりますか?」
「エン兄が負けるとかないのです。勝てなかったら、最低で『おしおき』千回なのです」
「…………」
「ーーぷぅ」

 それは、つまり、負けなど存在しない、引き分けすら許さない、そういった水準での、有り得ないくらいの失態というわけですね。

 思い起こせば、十回の「おしおき」でぷるぷるしていたコウさん。千回の「おしおき」など、想像するだに恐ろしい。

「『凍土』って、有名な人なのです?」

 コウさんが知らないとは、意外だった。

 みーも興味があるようなので、詳しく話すことにする。

 幸い、と言っていいのかどうか、もう言葉を必要としなくなった二人の傑物けつぶつが、相手の隙を窺っているのか静かな遣り取りを行っているので、説明の時間はありそうだ。

「三寒国は、肥沃な土地があるわけでもなく、また人が住むには適さない場所なので、他国が領土を侵すだけの価値がない場所でした。ですが大乱以外で一度だけ、三十周期前に、隣接する野心家の王を頂く国が攻め込んできました。二度目の大乱で逃げ延びてきた三寒国の人々には、もうこれより後に逃げ場はない、という強迫観念めいたものがあります。野心家の王は、そういった三寒国の、追い詰められた者の牙を甘く考えていました。その報いは、己の命であがなうことになります。
 三寒国は、共闘してこれを退けたわけですが、その戦いで二つ名が冠せられるほどに活躍した者が幾人かいました。その一人が『凍土』で、その二つ名の由来はーーすべてを拒む寒国の凍れる土、その堅牢さ故に突き立てようとした剣のほうが砕けるーーというものです。巨大な盾を自由自在に操り、敵の猛攻を打ち破ったそうです」

 まるで僕が説明を終えるのを待っていたかのような時機で、二人が同時に動く。

 その攻防は、一見派手で単純なものだった。

 目をみはるほどの多彩な攻撃を仕掛けるエンさん。猛攻をすべて跳ね除けて、隙を衝いて剣を突き出す「凍土」。それが繰り返されているだけである。

 同じことが繰り返されれば、人は飽きる。だが、そうでないこともあるのだと、見せ付けられる。

 そこには、卓越した者同士だけが発現できる奇妙な美しさがあった。

 無駄を削ぎ落としたからこそ突き詰めた、人の技の、到達点での均衡にーー、いや、到達点などと未熟な僕が軽々しく口にしていいものじゃない。もし彼らにそんなことを言ったら鼻で笑われるだろう。

 至らなければ見えない景色があることを、僕は知っている。

 やがて、その均衡が崩れ始める。相手の手の内を呑み込み、二人が踏み込んでゆく。

 「凍土」が体当たりを食らわせようとするが、エンさんが迫る盾を蹴飛ばして、逆に跳ね除ける。盾から手を放して体で支えつつ、両手で中剣を振るい、次に両手で盾の突撃を敢行する「凍土」。エンさんは、攻撃の反動を利用して、ぎりぎり回避に成功する。

 見入っていて気付かなかったが、コウさんがすぐ横で共に観戦していたので、これ幸いと肩に手を置かせてもらう。

 もう何度か繰り返しているし、そろそろ慣れて、もとい諦めてくれるといいな、と願望を抱いて確認の為に視線を向けようとするが、目も顔も動いてくれなかった。

 エンさんと「凍土」、互いを磨き合う演舞に見紛う闘いに釘付けで、魔法使いの一挙手一投足にまで気が回らない。

 一進一退の攻防、と言っていいのだろうか。エンさんは全身と魔法剣を、「凍土」は盾と剣と両腕にだけ魔力を注いでいるようだった。

「ーーこれは、互角ですか?」
「違うのです。これは、このままいけば、エン兄の勝ちなのです」
「あーう、こーのゆーとーりー。ごかくだけどー、ごかくじゃないんだぞー」

 どうやら、二人とも僕より多くのものが見えているらしい。

「『凍土』さんは、多分なのですが、自分と同等かそれ以上の相手と闘う機会が少なかったのです。反面、エン兄はクー姉という同等の相手や、自分より強い相手ともたくさん闘ってきたのです。『凍土』さんは、今にも崩れ落ちそうな崖の端で闘ってるようなものなのです。どっしりと大地を踏みしめて闘ってるエン兄との差が、何時いつ出てもおかしくない状況なのです。技量が互角でも、経験の差が勝敗を分けるのです」

 淡々と語るコウさんの戦況分析に意外の念を禁じえなかったが、

「とクー姉が言ってるのです」

 その言葉を聞いて、得心がいった。いや、まだしてない、しようとしたが、それでいいのだろうか。

 熱闘から視線を剥いで見てみれば、足を抱えて今に至るも「結界」に引き篭もっているクーさんは、相変わらず固まったままぼそぼそと口を動かしているだけだった。

「クーさんは、そんなことを言ってたんですか?」
「はい。でも、クー姉は、自分が何を喋ってるのか、意識してないと思うのです」

 コウさんの、引き篭もりの姉を見遣る翠緑の瞳は、質の悪い硝子玉のように澱んでいた。

 人の弱点や欠点を愛しいと思う、そんな気持ちは、兄だけでなく、姉に対しても発揮されないらしい。まぁ、それは愛情の裏返しのようなもので、それだけ深く繋がっているということだろう。

 僕の兄さんである、ニーウ・アルンは、欠点らしい欠点がなかったから、その意識を共有し難いが、ん、あ~、然あらじ父さんがいたが、あれはまた別である。

「えっと、コウさん。ここのところ、ちゃんとクーさんに構ってあげていますか?」

 それでも最近のクーさんの有様から、つい出過ぎたことを聞いてしまう。

「大丈夫なのです。みーちゃんと一緒に寝るようになってから、クー姉と寝ることがなくなったのです。クー姉は拗ねてるだけなのです」

 拗ねているのはコウさんも同じですね。と言いたくなったが、彼女を意固地にさせるだけなので自重する。

 コウさんの薄っすらと赤く染まった頬が膨らんでいない。

 長いようで、まだ短い付き合いだが、不思議とコウさんとの触れ合いは、心に強く響いている。そうして得た暖かさが、彼女の言葉と感情に乖離かいりがあることを教えてくれる。

 その小さく幼い胸の中に、大きな葛藤を抱えているのだろうか。

 問題の根は、案外深いのかもしれない。

 ここは、どうするのが正解なのか。コウさんが自立、というか、自己を強く主張することは良いことだと思う。

 クーさんが妹離れをすることは良いことなのかどうか。

 正しいからといって、それが最良の結果に結び付くとは限らない。ことに愛とか恋愛とかに関してだと、僕の未熟さからの判断が、事態を悪化させる情景がありありと浮かんでしまう。

 コウさんに、みーの教育係を委ねたのは間違いだったのだろうか。こちらの思惑以上に、母性らしきものを発揮して、みーを構うコウさん。

 彼女の生い立ちが、そうさせるのだろうか。みーを、妹というより娘として可愛がっているように見えてしまうのだが。

「はっはっはっ、紙一重ん勝負だったが、炎竜ん恩恵に浴した俺んほーが、ちょーっとだけ幸運の女神ん気ん入られたみてーだな。楽しかったぜ!」
「ふう。見事なり、完敗だ」

 兵士たちから歓声が起こる。

 勝敗は関係ない。遥かな高みで激戦を繰り広げた勇者たちへの、惜しみない喝采である。この名勝負は、後世に語り継がれることになるだろう。

 ……仕舞しまった。

 コウさんの様子に気がそぞろで、灼熱の闘いの結末を見逃してしまった。

「用は済んだので、エン兄を引き上げるのです。みーちゃん、次に行きますよー」
「ひゃーう、やうやうやうやうやうっ、きびんにそくざにまっさきにーみーちゃんはっしゃー!」

 エンさんの勝利に終わったものの、妹は兄をまったく許していなかったらしい。

 コウさんの冷たい声に怯えたみーが、泡を食って上空に舞い上がった。

 魔法剣を賭けたことが余程腹に据えかねていたのか、ぞんざいにエンさんを魔法で引っ張り上げると、みーにお願いという名の命令を下して、さっさとサラニスからずらかる、もとい飛び去るのだった。
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