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三章 竜の国と魔法使い
竜の領域
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「大陸に萌芽しつつある技術に、魔工技術があるのです。水車は水の力で、風車は風の力で動くのです。魔工技師は、その機構を魔力で動かすのです。未発達の技術なので、大掛かりではあっても単純なものを取り入れたいと思ってるのです」
コウさんの言葉が耳朶に、心地好く明瞭に響く。良く聞こえている。
「南の竜道を抜けた先には、大きな人造湖を作って、竜の都まで続く大路と各竜地まで続く中路に橋を架けて、その横に魔工技術を用いた運搬装置を設置するのです。あとは、街灯を魔工技術で灯すのです。色々節約なのです。魔石を使った室内の装置も考えてるのです。魔工技術の真価は、地下に設置する予定なのです」
僕は、彼女の意見を取り入れることに決めた。では、始めよう。
「先ずは建物や施設の基礎から始めます。効率を重視するとして、エンさんは人造湖から掘っていってください。クーさんは、みー様に乗って、竜地の選定をしてきてください。コウさんは、必要になる機構以外のたたき台を上げてください」
石の卓を囲う皆の目を見て、念押しをする。
「コウさん。頼んでおいたことは出来ていますか?」
「そ、そろそろ来るはずなのです」
どすっどすっ、と質量のある物体が歩いてくる音がする。
視線を向けると、そこには三体の魔法人形。魔法人形と言われて、人々が思い描く、人型の四角張った巨体。その個体を基本形とした、より大きな個体と、丸みを帯びたやや小型の個体。
「基本的な魔法人形と、エン兄考案の力の強い『エンレム』、クー姉考案の手先が器用な『クーレム』なのです。あと必要になると思って考案した二種類が、もうすぐ遣って来るのです」
「魔法人形は、何体用意しましたか?」
「併せて、千体造ったのですっ」
薄い胸を反らせて、したり顔のコウさん。
「では、三日後までに一万体まで増やしてください」
「……ふぉ?」
「出来ませんか? なら他の方法を考えますが」
「で、出来るのです! やるのです、やってみせるのです!」
小指の爪の長さくらい口元を吊り上げると、子供らしい反発心から誘導に成功。
了承を得たので、次。
「資材を運んで、先ず基本となる家屋を建てて、ここに住みます」
「王宮を先に建てて、そこに住めば良い。ここと距離はさほど変わらない。どうせ、王宮に住まうことになる」
「駄目です。僕が単身者用に、コウさんたちが家族用の家に実際に住み、不便や不都合な点を洗い出し、改善します。王は最後に楽しむ、という言葉があるように、王宮の寝床など後回しで構いません」
「……確かに、そのほうが効率的かもしれない」
些事は取り払った。残りの懸案である。と、その前に、重い足音が響く。コウさんが言っていた、残りの二種の魔法人形が遣って来たのだろう。
「はーう、またーまたー、たまーたまー、でっかいのきたのだー」
僕たちの遣り取りを不思議そうに眺めていたみーが、暇を持て余していたのか、疾風のような勢いで駆けて行った。
魔法人形を出迎えに、或いは好奇心の赴くままに、今日も炎竜は元気っ子である。
ふむ、これは、みーに何か役割を与えるべきだったか。
「一般住居なら僕でも何とかなりますが、大型の施設になると、新しく学ばなくてはなりません。出来ればそちらは老師にお願いしたいのですが、大丈夫ですか?」
「……師匠に尋ねてみるのです」
「お願いします。外でやることも多いので、それが適えばかなりの時間短縮になります」
「「「…………」」」
「付随することで、役割分担を決めておきましょう」
何か疑問点でもあるのだろうか、エンさんが僕を見ていた。
彼は、徐に立ち上がると。
「えいやっ」
「っつべっ!」
ぎりぎりだった。というか、掠った。
僕の顔面に突き出された拳を、体を捻ることで躱す。自然に体が反応した。もう一回同じことをしろと言われても、出来る自信はない。
「うぐぅ、……エンさん! いきなり何するんですか!?」
「んや、何ってなぁ。こぞーん壊れたから、ぶっ叩ぁて直そー思っただけさ」
「…………」
しれっとそんなことを言う。
あー、うん、どうやらこれは、言い訳が必要なようだ。
「えっと、集中し過ぎているときに、ちょっとだけ居丈高になることがあるみたいなんですけど、気にしないでください」
「……や、なのです」
コウさんの、すごく根に持った視線が突き刺さってきた。
「才能の宝庫のリシェ。二つ名の候補にでも上げておくか。ファタより嫌な奴を見たのは久し振り。出遅れたのが悔やまれる」
調理場の隅に現れた、あの黒い虫を見付けたときのような濁った眼差しが向けられる。
「…………」
無駄を省いた進捗は喜ばしく、そんな目で見られるようなことをした覚えはないのだけど。
過集中、俗に言う「竜の領域」に足を踏み入れたときのことは少しばかり朧気なので、もしかしたらきついことを言ったかもしれないけど……。
「なーう、とーちゃくーなのだー!」
「どうやら、残りの二体が来たようです……よ?」
白々しい物言いであると自覚しながら、魔法人形の頭に跨がって遣って来たみーを見ると。
珍妙な姿をした魔法人形らしき物体の有様に、言葉を失ってしまう。
一体は不恰好ではあるものの、使われている素材は綺麗なものばかり。そしてもう一体を見た瞬間、僕はコウさんを慰める為の言葉を探した。
「そうですね。一体くらい失敗作が交じっていても、何もおかしなことなどありません。竜も飛べば樹を圧し折るって言いますし、どんなに優れた魔法使いでも、間違いの一つくらいあります。あまり完璧過ぎてもなんですし、このくらいが丁度いいのかもしれません」
……おかしい。
なぜだかわからないが、言葉を継ぐほどにコウさんの頬が膨れてゆく。
「あの子たちは、『シザレム』と『カタレム』なのです!」
ぷいっと体ごと横を向いてしまった。序でに目深に三角帽子を被って、謎塊の再来。
どうしたことか、コウさんはご機嫌斜めである。
言葉の選択を誤ったのだろうか。どうやら不用品らしきもので体をごてごてと装飾した魔法人形は、失敗作ではないようだが。
「シザレムは、資材魔法人形の略。カタレムは、お片付魔法人形の略。カタレムのほうは、『お片付』と『お掃除』で迷った挙げ句、『ソウレム』は不採用」
説明はありがたいのだが、話し終えるとクーさんまで若干不機嫌になっていた。
「はっはっはっ、片付けん俺とちび助、掃除ん相棒。二対一ん、けってーてわけだ」
なるほど、多数決で負けたことを思い出して、クーさんはやや不機嫌な感じに。そして、僕の的外れな慰めを受けたコウさんは、超不機嫌。
「カタレムもいいですけど、ソウレムも捨てたものではないと思いますけど」
「良し。これで二対二。あとはみーの一票で決まる」
僕のどっちつかずの意見を拾い上げたクーさんが起死回生を狙うが、
「みーちゃんはー、こーにいっぱいのたくさんのあふれまくりのいっぴょーなのだー!」
みーの即答で、あえなく野望は潰えてしまった。
然て置きて魔法人形とエンレムがシザレムの体を破壊、もとい分解して木材や煉瓦などの資材を地面に置いてゆく。クーレムがてきぱきと分類して並べ終えると、当然のことながらシザレムはいなくなる。
いや、仕方がないことだとわかってはいるが、ちょっとだけ寂しい気分になってしまう。
シザレムよ、安らかに眠れ。
僕は自らの役割に殉じた健気な人形に、ほんの少しだけ祈りを捧げた。
「やーい、いっくぞーちみっ子ー」
「わーう、どんとこーいなのだー」
幸い、と言っていいのか、カタレムは頭に何もくっ付けていないので、頭上ではしゃぐみーが傷付く心配はない。
カタレムの頭の平らな部分に座って、手足をばたばたさせるみーに向かって、エンさんが、そりゃっ、という掛け声とともに何かを放った。
僕には見えないが、状況からして「火球」辺りの魔法か。
「ふぁはぁー!」
火の魔法を直撃されたらしいみーは大喜び。
炎はカタレムに燃え移って、全身に火が回る。すると、炎に炙られたカタレムが苦しげに暴れ出した。
みーも一緒に断末魔舞踊を楽しげに舞い踊る。って、みーは炎竜だから大丈夫として、カタレムをどうにかしないとっ!
「ちょっ、あれ、大丈夫なんですか!? 苦しんでるんですけど!」
「あれは違うのです。始めは、燃やしてる間、ただ立ってるだけだったのです。エン兄が『そんじゃ詰まんねぇ』と言うので、クー姉が『浄化の炎』の振り付けをしたのです」
いや、あれを「浄化」と表現するのはどうなのだろう。
ん? ん~、あ、舞踊を見ていて違和感を覚えたのだが、一拍置いて正体に辿り着く。
僕は今、カタレムに纏わり付く炎が見えている。僕への対策を施してあるコウさんの魔法なら未だしも、火の魔法を放ったのはエンさんである、彼が特殊な魔法を行使したようには見えなかったが。
「ーーカタレムの、炎が見えます。巨鬼を燃やしたときは、火は見えなかったのに」
「何が燃えるのかにも因るらしい。魔法で火を点けると、対象が燃える。燃えている間は見えない。だが、対象が燃え尽きた後は、どうだろう。それでも燃えていたとしたら、それは魔法から離れた、分かたれた火。巨鬼を生物として捉え、焚き火と同じものとしてカタレムを捉えている? 魔法人形を生物として認識していない?」
クーさんの考察を聞いて、謎塊続行中のコウさんがうずうずしていた。
希望の光は、早期に摘み取っておく必要がある。僕は、謎塊から人間に戻った少女に紳士的に対応した。
「…………」
「……、ーー」
コウさんが人体実験したそうな顔で僕を見ている。
僕は、そっと目を逸らした。
「ーー、……」
「ーーっ」
好奇心は竜をも殺す、ということもあるかもしれないので、心の底からごめんなさい。
「こらー、ちみっ子ー、んな炎ー食ーなぁー」
「もーう、すききらいだめなのだー。でもでもーちょっとこげこげー、おいしくないー」
美味しくない、と言いつつ、食べるのを止めないみー。味がどうというより、食べること自体を楽しんでいるようである。
カタレムがお片付けした木片などが燃え尽きると、沈黙した魔法人形から飛び降りて、脇目も振らずコウさんの膝の上に竜速で舞い戻る。
見ると、みーの服は、爽やかな若草色のままである。
クーさんの最高傑作だけに、かなりの魔力を注ぎ込んで服の耐久性を高めているのだろう。況してみーの服だと決定したあとは、コウさんが付与魔法を使って、あ~、たぶん、とんでもない水準の魔法が使用されたと思われる。
僕が知っている、物を保存する為の魔法で最高のものは「凍結」だが、炎竜に首っ丈のコウさんのことである、禁術とかに手を染めていないといいのだけど。
「ちみっ子ん、俺ん炎ぉ食えぇー!!」
エンさんがみーに向かって、火の魔法を放っているようだった。
みーの大きく開けた口が、盛大な勢いを持つ何かを吸い込んでいた。
ーーふぅ、見えない、というのは本当に厄介だ。
コウさんなら、僕の特性をどうにかしてくれるかもしれないが、積極的に頼んだりなんかしたら彼女の魔法に対する熱意が炎竜並みに燃え上がって暴発してしまうかもしれないので、今後どうするかは成果を見極めた上で判断するとしよう。
「みゅーう、おいしーけどー、あぶらぎってるのだー。たくさんはいらないー」
みーの評価に、落ち込むエンさん。
火の魔法は、治癒魔法を除けば、エンさんが使える唯一の魔法である。炎の専門家の、予想外の審査内容に衝撃を受けてしまったらしい。
「よしよし。では、あたしの炎を食べてごらん」
クーさんが指先をくるくると動かすと、みーが、あーん、と口を開けた。
みーの口に、あまり変化がないので弱火なのだろう、炎が注がれているようだった。
すると、カタレムのこげこげの炎を食べていたときでさえ笑顔だったみーの表情が、短い竜生を顧みて苦悩する哲学者のような、ああ、いや、さすがにこれは言い過ぎだが、渋々の苦々で目や口を窄めるみーの姿には奇妙な可愛らしさがあって嗜虐心が刺激され……て、ませんよっ、いや、確かに、もっとみーの色々に様々な微笑ましい面とかいじらしい面とかを見て心を潤わせたいと切なる願いを隠し持っていることが露見してはならないと……、うぐぅ、どうした、僕。
別に僕は幼い子供が好きってわけでもないのに、この魂の底から溢れてくるような衝動は何なのだろう。これが、竜の魔力、いやさ、竜の魅力というやつなのだろうか。
「ぐゅーう、くーのにちゃにちゃ、にがにがなのだー」
「……ごふっ」
みーは、幼子のようにいやいやして、手足をばたつかせる。
僕同様に竜の魅力に遣られてしまったのだろうか、クーさんは口元を押さえて、何かに耐えるように身を縮こまらせていた。
みーの評価に、エンさん以上の衝撃を受けてしまったらしい。
「クーさん、火の魔法が使えたんですか?」
「今のは『魔方陣』ーーあ」
みーを宥めるコウさんを見ながら、何気なく聞いてみると。
巧まずしてクーさんの失言を引き出す格好になった。彼女は、はっとして顔を上げると、ばつが悪そうな表情になる。
魔方陣、という言葉は初めて聞くが、聖語に類するものなのだろうか。
火の魔法が使えないはずのクーさんに、行使を可能たらしめた理由には、魔力を転換、いや、変性と言ったほうがいいのか、その為の術式か何かが必要になる。
聖語と魔方陣、語と陣、ーーここら辺に核心がありそうだが。魔法が使えず、見えもしない僕だが、やはり新奇なことには好奇心が疼いてしまう。
いや、新しいものかどうかはわからない。聖語のように、失われた術なのかもしれない。となると、古語時代の、魔術の秘術や秘奥なのだろうか。
「まー、こぞーんなら言ってんかまーねぇだろーが、じじーん許可なく言っちまったからなぁ。『おしおき』一回だな。ちび助、あとんかましてやれ」
「はいなのっ」
先達て「おしおき」十回やられてぷるぷるしていたコウさんは、仕返しが出来るとわかって、意気揚々とクーさんに顔を向けた。
みーが、びくっ、と恐怖に震えて、泣きそうな顔になっていた。まるで百の邪竜に囲まれたような怯え具合である。
こちらからは見えないので、コウさんがどんな顔をしているのかは不明だが、これから国造りで忙しくなるので、白目を剥いている姉への愛情表現は、ほどほどにしておいてください。
「そこら辺は夜にしませんか。日が出ている内は、皆さんには馬車馬のように働いてもらいますので。あ、みー様は疲れたら休んでもいいですよ」
「だーうっ、なんでみーちゃんだけ、みんなとちがうのだー!」
みーの、仲間外れが嫌だという可愛らしい理由にうっかり頬が緩みそうになってしまう。
「まー、なんだ、ちみっ子ぁちみっ子だかんなぁ」
珍しく言葉に迷いながら、エンさんが曖昧な物言いをすると、みーが噴火した。
「がーう! みーちゃんもーさんさいなのだー、なんでもできるんだぞー!」
「…………」
……ん? んん?
あ~、いや、今のは聞き間違いなのだろうか。山菜は味の好みが分かれる、ではなく、いやいや、とち狂っている場合ではなく、三歳、と聞こえたような。
改めて、コウさんの膝の上で暴れる、やんちゃな炎竜を眺め遣る。
感情そのままに、ぷんぷん怒って、拗ねているかと思いきや、いつの間にやら楽しげにコウさんと組んず解れつ。
みーときゃいきゃい出来るコウさんは、魔力を纏ってあやしているのだろうか。
人間と比べるのは間違いかもしれないが、それ以外の確実な尺度がないのだから仕方がない。
角が無ければ人間と見紛う容姿は十歳くらい。でも、思い返してみれば、みーは「人化」で人間の姿になっているのだ。「人化」が、都合良く人間の感覚を反映してくれているとは思えない。
魔法それ自体の効力と性質、行使する竜の意識の介在が大きいはず。つまり、見た目と周期は符合しない、ということ。
そも竜と人間では、周期に対する感覚が異なっているのは当然。種族の然らしめるところ、と言ってしまえばそれまでなのだけど。
そうなると、僕はこれまで三歳の幼子に……あ、いや、今は深く考えないようにしよう。
「あーう、くーのにがにがー、こーのうまうまーなのだー」
とんっと身軽に卓の上に飛び乗ると、外套の内で手をもぞもぞさせていた。
どうやら、腰の辺りを手で探っているようだ。ただ、みーが後ろに手を伸ばす度に、こちらにお尻が向けられて、目の前でふるふるやられるのは、ちょっとどうしたものか。
いや、疚しい気持ちがなければ、気にせず可愛らしいお尻を堪能していればいいのだが、ああ、いや、そうではなく、みーの周期がわかったばかりなのだから、もっと穏やかな心地で労わるような……ごめんなさい、無理です、そんな達観した心境に至るには、きっとまだ、長い周期を必要とするはずである。
見た目に囚われる未熟な少年をどうか許してやってください。
「腰周りの布に小袋を取り付けられるよう改良。三つまで取り付けられる仕様。みーの大切なものを入れ捲り、包み捲り、護り捲りーー」
「ふーう、あったのだー!」
力説するするクーさんの声を押し遣って、みーが飛び上がって喜びを爆発させる。
小袋から取り出したのは、みーの小さな掌で包めるくらいの木箱だった。木箱の横を押すと、引き出しになっていたらしく、手前に押し出された箱の中には、紅くて真ん丸の球が入っていた。
見ると、中には四つの、宝石のような輝きを放つ小さな球体。球、というか、玉、という表現が適当か。大きさからして、もとは六つ入っていたのかもしれない。
「あーむ。みゅぎゅーっ!?」
みーは、紅玉を口に放り込むと、氷の魔法を浴びせられたかのように縮こまって固まってしまった。
緩やかな風が通り過ぎるくらいの時間が経って、みーがぷるぷる震え出した。
「うーうっ、うーまーいーのーだー!!」
ばふんっと卓の上で全身を投げ出した。そうなってしまうくらい、驚異的な美味しさなのだろうか。
コウさんの魔力量と魔法の技量に鑑みるに、頷けるところではあるが。
「みー様、どんな味がするんですか?」
「むひゅひゅー、こーのあじがするのだー」
お日様をたらふく浴びた猫のようなのだが、竜って猫の親戚だったりするのだろうか。
コウさん味の、彼女の火の魔法を詰め込んだらしい炎玉は、余程竜の口に合うようで、後味の表現だろうか、みーは体をくねくねさせていた。
ふむ、これは、ちょっと蛇っぽいかな。
伝説では、竜を蛇扱いすると、竜の呪いに掛かると伝えられている。不思議なことに、蜥蜴扱いに関しては、同様の言い伝えはない。
まぁ、迷信の類いであるのだろうし、僕の頭の中で蛇と蜥蜴が睨めっこをしていたがーー埒もない妄想はさっさと追い出す。
「それでは、皆さん、国造りの開始です」
このままでは、みーの可愛さを追求するだけで一日が終わってしまいそうだったので。いや、さすがにそんなことはないが。
どこかで区切りを付ける必要があったので、僕は無理やり開始を宣言した。
さて、竜の国、始動である。
コウさんの言葉が耳朶に、心地好く明瞭に響く。良く聞こえている。
「南の竜道を抜けた先には、大きな人造湖を作って、竜の都まで続く大路と各竜地まで続く中路に橋を架けて、その横に魔工技術を用いた運搬装置を設置するのです。あとは、街灯を魔工技術で灯すのです。色々節約なのです。魔石を使った室内の装置も考えてるのです。魔工技術の真価は、地下に設置する予定なのです」
僕は、彼女の意見を取り入れることに決めた。では、始めよう。
「先ずは建物や施設の基礎から始めます。効率を重視するとして、エンさんは人造湖から掘っていってください。クーさんは、みー様に乗って、竜地の選定をしてきてください。コウさんは、必要になる機構以外のたたき台を上げてください」
石の卓を囲う皆の目を見て、念押しをする。
「コウさん。頼んでおいたことは出来ていますか?」
「そ、そろそろ来るはずなのです」
どすっどすっ、と質量のある物体が歩いてくる音がする。
視線を向けると、そこには三体の魔法人形。魔法人形と言われて、人々が思い描く、人型の四角張った巨体。その個体を基本形とした、より大きな個体と、丸みを帯びたやや小型の個体。
「基本的な魔法人形と、エン兄考案の力の強い『エンレム』、クー姉考案の手先が器用な『クーレム』なのです。あと必要になると思って考案した二種類が、もうすぐ遣って来るのです」
「魔法人形は、何体用意しましたか?」
「併せて、千体造ったのですっ」
薄い胸を反らせて、したり顔のコウさん。
「では、三日後までに一万体まで増やしてください」
「……ふぉ?」
「出来ませんか? なら他の方法を考えますが」
「で、出来るのです! やるのです、やってみせるのです!」
小指の爪の長さくらい口元を吊り上げると、子供らしい反発心から誘導に成功。
了承を得たので、次。
「資材を運んで、先ず基本となる家屋を建てて、ここに住みます」
「王宮を先に建てて、そこに住めば良い。ここと距離はさほど変わらない。どうせ、王宮に住まうことになる」
「駄目です。僕が単身者用に、コウさんたちが家族用の家に実際に住み、不便や不都合な点を洗い出し、改善します。王は最後に楽しむ、という言葉があるように、王宮の寝床など後回しで構いません」
「……確かに、そのほうが効率的かもしれない」
些事は取り払った。残りの懸案である。と、その前に、重い足音が響く。コウさんが言っていた、残りの二種の魔法人形が遣って来たのだろう。
「はーう、またーまたー、たまーたまー、でっかいのきたのだー」
僕たちの遣り取りを不思議そうに眺めていたみーが、暇を持て余していたのか、疾風のような勢いで駆けて行った。
魔法人形を出迎えに、或いは好奇心の赴くままに、今日も炎竜は元気っ子である。
ふむ、これは、みーに何か役割を与えるべきだったか。
「一般住居なら僕でも何とかなりますが、大型の施設になると、新しく学ばなくてはなりません。出来ればそちらは老師にお願いしたいのですが、大丈夫ですか?」
「……師匠に尋ねてみるのです」
「お願いします。外でやることも多いので、それが適えばかなりの時間短縮になります」
「「「…………」」」
「付随することで、役割分担を決めておきましょう」
何か疑問点でもあるのだろうか、エンさんが僕を見ていた。
彼は、徐に立ち上がると。
「えいやっ」
「っつべっ!」
ぎりぎりだった。というか、掠った。
僕の顔面に突き出された拳を、体を捻ることで躱す。自然に体が反応した。もう一回同じことをしろと言われても、出来る自信はない。
「うぐぅ、……エンさん! いきなり何するんですか!?」
「んや、何ってなぁ。こぞーん壊れたから、ぶっ叩ぁて直そー思っただけさ」
「…………」
しれっとそんなことを言う。
あー、うん、どうやらこれは、言い訳が必要なようだ。
「えっと、集中し過ぎているときに、ちょっとだけ居丈高になることがあるみたいなんですけど、気にしないでください」
「……や、なのです」
コウさんの、すごく根に持った視線が突き刺さってきた。
「才能の宝庫のリシェ。二つ名の候補にでも上げておくか。ファタより嫌な奴を見たのは久し振り。出遅れたのが悔やまれる」
調理場の隅に現れた、あの黒い虫を見付けたときのような濁った眼差しが向けられる。
「…………」
無駄を省いた進捗は喜ばしく、そんな目で見られるようなことをした覚えはないのだけど。
過集中、俗に言う「竜の領域」に足を踏み入れたときのことは少しばかり朧気なので、もしかしたらきついことを言ったかもしれないけど……。
「なーう、とーちゃくーなのだー!」
「どうやら、残りの二体が来たようです……よ?」
白々しい物言いであると自覚しながら、魔法人形の頭に跨がって遣って来たみーを見ると。
珍妙な姿をした魔法人形らしき物体の有様に、言葉を失ってしまう。
一体は不恰好ではあるものの、使われている素材は綺麗なものばかり。そしてもう一体を見た瞬間、僕はコウさんを慰める為の言葉を探した。
「そうですね。一体くらい失敗作が交じっていても、何もおかしなことなどありません。竜も飛べば樹を圧し折るって言いますし、どんなに優れた魔法使いでも、間違いの一つくらいあります。あまり完璧過ぎてもなんですし、このくらいが丁度いいのかもしれません」
……おかしい。
なぜだかわからないが、言葉を継ぐほどにコウさんの頬が膨れてゆく。
「あの子たちは、『シザレム』と『カタレム』なのです!」
ぷいっと体ごと横を向いてしまった。序でに目深に三角帽子を被って、謎塊の再来。
どうしたことか、コウさんはご機嫌斜めである。
言葉の選択を誤ったのだろうか。どうやら不用品らしきもので体をごてごてと装飾した魔法人形は、失敗作ではないようだが。
「シザレムは、資材魔法人形の略。カタレムは、お片付魔法人形の略。カタレムのほうは、『お片付』と『お掃除』で迷った挙げ句、『ソウレム』は不採用」
説明はありがたいのだが、話し終えるとクーさんまで若干不機嫌になっていた。
「はっはっはっ、片付けん俺とちび助、掃除ん相棒。二対一ん、けってーてわけだ」
なるほど、多数決で負けたことを思い出して、クーさんはやや不機嫌な感じに。そして、僕の的外れな慰めを受けたコウさんは、超不機嫌。
「カタレムもいいですけど、ソウレムも捨てたものではないと思いますけど」
「良し。これで二対二。あとはみーの一票で決まる」
僕のどっちつかずの意見を拾い上げたクーさんが起死回生を狙うが、
「みーちゃんはー、こーにいっぱいのたくさんのあふれまくりのいっぴょーなのだー!」
みーの即答で、あえなく野望は潰えてしまった。
然て置きて魔法人形とエンレムがシザレムの体を破壊、もとい分解して木材や煉瓦などの資材を地面に置いてゆく。クーレムがてきぱきと分類して並べ終えると、当然のことながらシザレムはいなくなる。
いや、仕方がないことだとわかってはいるが、ちょっとだけ寂しい気分になってしまう。
シザレムよ、安らかに眠れ。
僕は自らの役割に殉じた健気な人形に、ほんの少しだけ祈りを捧げた。
「やーい、いっくぞーちみっ子ー」
「わーう、どんとこーいなのだー」
幸い、と言っていいのか、カタレムは頭に何もくっ付けていないので、頭上ではしゃぐみーが傷付く心配はない。
カタレムの頭の平らな部分に座って、手足をばたばたさせるみーに向かって、エンさんが、そりゃっ、という掛け声とともに何かを放った。
僕には見えないが、状況からして「火球」辺りの魔法か。
「ふぁはぁー!」
火の魔法を直撃されたらしいみーは大喜び。
炎はカタレムに燃え移って、全身に火が回る。すると、炎に炙られたカタレムが苦しげに暴れ出した。
みーも一緒に断末魔舞踊を楽しげに舞い踊る。って、みーは炎竜だから大丈夫として、カタレムをどうにかしないとっ!
「ちょっ、あれ、大丈夫なんですか!? 苦しんでるんですけど!」
「あれは違うのです。始めは、燃やしてる間、ただ立ってるだけだったのです。エン兄が『そんじゃ詰まんねぇ』と言うので、クー姉が『浄化の炎』の振り付けをしたのです」
いや、あれを「浄化」と表現するのはどうなのだろう。
ん? ん~、あ、舞踊を見ていて違和感を覚えたのだが、一拍置いて正体に辿り着く。
僕は今、カタレムに纏わり付く炎が見えている。僕への対策を施してあるコウさんの魔法なら未だしも、火の魔法を放ったのはエンさんである、彼が特殊な魔法を行使したようには見えなかったが。
「ーーカタレムの、炎が見えます。巨鬼を燃やしたときは、火は見えなかったのに」
「何が燃えるのかにも因るらしい。魔法で火を点けると、対象が燃える。燃えている間は見えない。だが、対象が燃え尽きた後は、どうだろう。それでも燃えていたとしたら、それは魔法から離れた、分かたれた火。巨鬼を生物として捉え、焚き火と同じものとしてカタレムを捉えている? 魔法人形を生物として認識していない?」
クーさんの考察を聞いて、謎塊続行中のコウさんがうずうずしていた。
希望の光は、早期に摘み取っておく必要がある。僕は、謎塊から人間に戻った少女に紳士的に対応した。
「…………」
「……、ーー」
コウさんが人体実験したそうな顔で僕を見ている。
僕は、そっと目を逸らした。
「ーー、……」
「ーーっ」
好奇心は竜をも殺す、ということもあるかもしれないので、心の底からごめんなさい。
「こらー、ちみっ子ー、んな炎ー食ーなぁー」
「もーう、すききらいだめなのだー。でもでもーちょっとこげこげー、おいしくないー」
美味しくない、と言いつつ、食べるのを止めないみー。味がどうというより、食べること自体を楽しんでいるようである。
カタレムがお片付けした木片などが燃え尽きると、沈黙した魔法人形から飛び降りて、脇目も振らずコウさんの膝の上に竜速で舞い戻る。
見ると、みーの服は、爽やかな若草色のままである。
クーさんの最高傑作だけに、かなりの魔力を注ぎ込んで服の耐久性を高めているのだろう。況してみーの服だと決定したあとは、コウさんが付与魔法を使って、あ~、たぶん、とんでもない水準の魔法が使用されたと思われる。
僕が知っている、物を保存する為の魔法で最高のものは「凍結」だが、炎竜に首っ丈のコウさんのことである、禁術とかに手を染めていないといいのだけど。
「ちみっ子ん、俺ん炎ぉ食えぇー!!」
エンさんがみーに向かって、火の魔法を放っているようだった。
みーの大きく開けた口が、盛大な勢いを持つ何かを吸い込んでいた。
ーーふぅ、見えない、というのは本当に厄介だ。
コウさんなら、僕の特性をどうにかしてくれるかもしれないが、積極的に頼んだりなんかしたら彼女の魔法に対する熱意が炎竜並みに燃え上がって暴発してしまうかもしれないので、今後どうするかは成果を見極めた上で判断するとしよう。
「みゅーう、おいしーけどー、あぶらぎってるのだー。たくさんはいらないー」
みーの評価に、落ち込むエンさん。
火の魔法は、治癒魔法を除けば、エンさんが使える唯一の魔法である。炎の専門家の、予想外の審査内容に衝撃を受けてしまったらしい。
「よしよし。では、あたしの炎を食べてごらん」
クーさんが指先をくるくると動かすと、みーが、あーん、と口を開けた。
みーの口に、あまり変化がないので弱火なのだろう、炎が注がれているようだった。
すると、カタレムのこげこげの炎を食べていたときでさえ笑顔だったみーの表情が、短い竜生を顧みて苦悩する哲学者のような、ああ、いや、さすがにこれは言い過ぎだが、渋々の苦々で目や口を窄めるみーの姿には奇妙な可愛らしさがあって嗜虐心が刺激され……て、ませんよっ、いや、確かに、もっとみーの色々に様々な微笑ましい面とかいじらしい面とかを見て心を潤わせたいと切なる願いを隠し持っていることが露見してはならないと……、うぐぅ、どうした、僕。
別に僕は幼い子供が好きってわけでもないのに、この魂の底から溢れてくるような衝動は何なのだろう。これが、竜の魔力、いやさ、竜の魅力というやつなのだろうか。
「ぐゅーう、くーのにちゃにちゃ、にがにがなのだー」
「……ごふっ」
みーは、幼子のようにいやいやして、手足をばたつかせる。
僕同様に竜の魅力に遣られてしまったのだろうか、クーさんは口元を押さえて、何かに耐えるように身を縮こまらせていた。
みーの評価に、エンさん以上の衝撃を受けてしまったらしい。
「クーさん、火の魔法が使えたんですか?」
「今のは『魔方陣』ーーあ」
みーを宥めるコウさんを見ながら、何気なく聞いてみると。
巧まずしてクーさんの失言を引き出す格好になった。彼女は、はっとして顔を上げると、ばつが悪そうな表情になる。
魔方陣、という言葉は初めて聞くが、聖語に類するものなのだろうか。
火の魔法が使えないはずのクーさんに、行使を可能たらしめた理由には、魔力を転換、いや、変性と言ったほうがいいのか、その為の術式か何かが必要になる。
聖語と魔方陣、語と陣、ーーここら辺に核心がありそうだが。魔法が使えず、見えもしない僕だが、やはり新奇なことには好奇心が疼いてしまう。
いや、新しいものかどうかはわからない。聖語のように、失われた術なのかもしれない。となると、古語時代の、魔術の秘術や秘奥なのだろうか。
「まー、こぞーんなら言ってんかまーねぇだろーが、じじーん許可なく言っちまったからなぁ。『おしおき』一回だな。ちび助、あとんかましてやれ」
「はいなのっ」
先達て「おしおき」十回やられてぷるぷるしていたコウさんは、仕返しが出来るとわかって、意気揚々とクーさんに顔を向けた。
みーが、びくっ、と恐怖に震えて、泣きそうな顔になっていた。まるで百の邪竜に囲まれたような怯え具合である。
こちらからは見えないので、コウさんがどんな顔をしているのかは不明だが、これから国造りで忙しくなるので、白目を剥いている姉への愛情表現は、ほどほどにしておいてください。
「そこら辺は夜にしませんか。日が出ている内は、皆さんには馬車馬のように働いてもらいますので。あ、みー様は疲れたら休んでもいいですよ」
「だーうっ、なんでみーちゃんだけ、みんなとちがうのだー!」
みーの、仲間外れが嫌だという可愛らしい理由にうっかり頬が緩みそうになってしまう。
「まー、なんだ、ちみっ子ぁちみっ子だかんなぁ」
珍しく言葉に迷いながら、エンさんが曖昧な物言いをすると、みーが噴火した。
「がーう! みーちゃんもーさんさいなのだー、なんでもできるんだぞー!」
「…………」
……ん? んん?
あ~、いや、今のは聞き間違いなのだろうか。山菜は味の好みが分かれる、ではなく、いやいや、とち狂っている場合ではなく、三歳、と聞こえたような。
改めて、コウさんの膝の上で暴れる、やんちゃな炎竜を眺め遣る。
感情そのままに、ぷんぷん怒って、拗ねているかと思いきや、いつの間にやら楽しげにコウさんと組んず解れつ。
みーときゃいきゃい出来るコウさんは、魔力を纏ってあやしているのだろうか。
人間と比べるのは間違いかもしれないが、それ以外の確実な尺度がないのだから仕方がない。
角が無ければ人間と見紛う容姿は十歳くらい。でも、思い返してみれば、みーは「人化」で人間の姿になっているのだ。「人化」が、都合良く人間の感覚を反映してくれているとは思えない。
魔法それ自体の効力と性質、行使する竜の意識の介在が大きいはず。つまり、見た目と周期は符合しない、ということ。
そも竜と人間では、周期に対する感覚が異なっているのは当然。種族の然らしめるところ、と言ってしまえばそれまでなのだけど。
そうなると、僕はこれまで三歳の幼子に……あ、いや、今は深く考えないようにしよう。
「あーう、くーのにがにがー、こーのうまうまーなのだー」
とんっと身軽に卓の上に飛び乗ると、外套の内で手をもぞもぞさせていた。
どうやら、腰の辺りを手で探っているようだ。ただ、みーが後ろに手を伸ばす度に、こちらにお尻が向けられて、目の前でふるふるやられるのは、ちょっとどうしたものか。
いや、疚しい気持ちがなければ、気にせず可愛らしいお尻を堪能していればいいのだが、ああ、いや、そうではなく、みーの周期がわかったばかりなのだから、もっと穏やかな心地で労わるような……ごめんなさい、無理です、そんな達観した心境に至るには、きっとまだ、長い周期を必要とするはずである。
見た目に囚われる未熟な少年をどうか許してやってください。
「腰周りの布に小袋を取り付けられるよう改良。三つまで取り付けられる仕様。みーの大切なものを入れ捲り、包み捲り、護り捲りーー」
「ふーう、あったのだー!」
力説するするクーさんの声を押し遣って、みーが飛び上がって喜びを爆発させる。
小袋から取り出したのは、みーの小さな掌で包めるくらいの木箱だった。木箱の横を押すと、引き出しになっていたらしく、手前に押し出された箱の中には、紅くて真ん丸の球が入っていた。
見ると、中には四つの、宝石のような輝きを放つ小さな球体。球、というか、玉、という表現が適当か。大きさからして、もとは六つ入っていたのかもしれない。
「あーむ。みゅぎゅーっ!?」
みーは、紅玉を口に放り込むと、氷の魔法を浴びせられたかのように縮こまって固まってしまった。
緩やかな風が通り過ぎるくらいの時間が経って、みーがぷるぷる震え出した。
「うーうっ、うーまーいーのーだー!!」
ばふんっと卓の上で全身を投げ出した。そうなってしまうくらい、驚異的な美味しさなのだろうか。
コウさんの魔力量と魔法の技量に鑑みるに、頷けるところではあるが。
「みー様、どんな味がするんですか?」
「むひゅひゅー、こーのあじがするのだー」
お日様をたらふく浴びた猫のようなのだが、竜って猫の親戚だったりするのだろうか。
コウさん味の、彼女の火の魔法を詰め込んだらしい炎玉は、余程竜の口に合うようで、後味の表現だろうか、みーは体をくねくねさせていた。
ふむ、これは、ちょっと蛇っぽいかな。
伝説では、竜を蛇扱いすると、竜の呪いに掛かると伝えられている。不思議なことに、蜥蜴扱いに関しては、同様の言い伝えはない。
まぁ、迷信の類いであるのだろうし、僕の頭の中で蛇と蜥蜴が睨めっこをしていたがーー埒もない妄想はさっさと追い出す。
「それでは、皆さん、国造りの開始です」
このままでは、みーの可愛さを追求するだけで一日が終わってしまいそうだったので。いや、さすがにそんなことはないが。
どこかで区切りを付ける必要があったので、僕は無理やり開始を宣言した。
さて、竜の国、始動である。
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❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
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