3 / 35
竜の国
しおりを挟む
皆は乗合馬車から降りる。
「え~んっ、りゅ~っ!!」
ワーシュは叫ぶ。
皆はホーエルを見る。
ホーエルは頭を掻く。
「ふぅ~っっ、りゅ~~っっ!!」
ホーエルは叫ぶ。
周囲の人々は笑う。
「ぴゅ?」
謎声はリシェから聞こえる。
「ひっ!? じ……」
周囲の人々はリシェを見る。
リシェは魔力を放つ。
リシェは笑う。
周囲の人々は目を逸らす。
周囲の人々は離れる。
皆はリシェを見る。
「それでは、雷竜行きの湖竜に乗るので、景色を堪能しながら付いてきてください」
リシェは歩き出す。
「う~わ~っ! それぞれの道のアーチに竜が絡み付いてる! ってか、でっかいか~い!!」
ワーシュは叫ぶ。
「凄いのはわかるけど、少し落ち着こうね」
ホーエルはワーシュの頭を押さえる。
「中路の八つのアーチは、竜門と呼んでいます。大路を派手にしてしまうと景色が見え難くなるので、橋の終わりに八竜門を設置してあります」
リシェは説明する。
整備された竜の湖。
対岸と山脈が見える。
竜の都に続く大きな橋。
左右に四つの竜地に続く橋。
「ーー人工の湖。半円状の土地に、作業所や発着場。荷は、湖竜で運んでいる?」
エルムスは周囲を見る。
高つ音。
城並みの敷地。
数十人の男。
半分は休憩中。
数十体のミニレムはお手伝い。
「ええ、竜の都まで運ぶのは手間ですから。荷はここでーー『竜の足場』で受け取っています。竜の国の産物が増えれば、竜の都まで向かう馬車も増えることになるでしょう」
リシェは説明する。
竜の湖は橋で八つに分割。
それぞれに湖竜。
湖竜は橋と岸に沿って巡回。
「竜地は、左から地竜、光竜、炎竜、水竜、風竜、雷竜、氷竜、暗黒竜ーーあ」
リシェは止まる。
リシェは周囲を見る。
「ミニレム! 『探訪』の冊子!」
リシェは叫ぶ。
ミニレムは駆け付ける。
外衣を纏うミニレムは止まる。
「きゃは~っ!」
ワーシュはミニレムを抱き上げる。
外衣には鷹の意匠。
「『六形騎』の一体です」
リシェはミニレムから冊子を受け取る。
リシェはミニレムの頭を撫でる。
「失念していました。受付で渡すはずだった冊子です。地図や名所など、好評を博しています」
リシェは僕に差し出す。
表紙には竜の狩場と角の生えた子供。
僕はミニレムから離れる。
ホーエルはリシェから受け取る。
ホーエルは冊子を開く。
皆は覗き込む。
「これがみー様なのね! 元気いっぱい炎満杯っ! ふきゃ~っ、可愛ぇ~~っっ!!」
ワーシュは叫ぶ。
「みー様が竜の国を案内してくれる、という体になってるんだね」
ホーエルは笑う。
「この紙とインク、何か変じゃないか?」
コルクスは首を傾げる。
「転写、いや、複製か? 魔法が使われているようだ。これは興味深い。大量生産が可能になる。そうなると、材料と流通の問題のほうが重要になってくるのかーー」
エルムスは黙考する。
「右側のここが発着場になります。荷物はミニレムに渡してください」
リシェは二体のミニレムを見る。
二体のミニレムは両手を振る。
一定間隔で湖竜が浮かぶ。
湖竜の舳先に雷竜。
僕は荷物をホーエルに渡す。
僕は離れる。
リシェは僕を見る。
「ミニレムの一体に同乗してもらおうと思ってたんですが、無理そうですね」
リシェは笑う。
ミニレムは備え付けの板を渡す。
ミニレムは荷物を運ぶ。
「ほれ、そろそろ『六形騎』ってのを放してやれよ」
コルクスは湖竜に乗る。
コルクスは湖竜を調べる。
「くぅ~、三〇ちゃんっ! また逢おうね!!」
ワーシュはサージュを抱き締める。
ワーシュはサージュを離す。
皆は湖竜に乗る。
サージュは板を外す。
三体のミニレムは両手を振る。
皆は手を振る。
湖竜は動き出す。
「時間帯からして、雷竜で一泊したほうが良さそうですね。ーーと、そうでした、『雷竜の寝床』と『雷爪の傷痕』という二つの宿があるのですが、初めの一巡りは無料です」
リシェは説明する。
「う~ん、やっぱりパリパリ、どうなってるのかまったくわからないわ~」
ワーシュは湖面を見る。
皆は湖面を見る。
透き通った水。
底は見えない。
湖竜は湖中のロープの上を走る。
ロープは一定区間を巡る。
「魔工技術か。単純なように見えるが、魔力で成しているとするなら案外、複雑なのかもしれない」
エルムスは黙考する。
リシェは雷竜に触れる。
「今は、他に風雷湖の湖竜を使用している人はいないようですね。どなたか、舳先の雷竜の竜頭を前に倒してみてください」
リシェは魔力を放つ。
「心配すんな。一番は譲るから、ゆっくり移動しろよ」
コルクスはワーシュを見る。
「まだ何も言ってないじゃない」
ワーシュはあっかんりゅうをする。
ワーシュは移動する。
ワーシュは竜頭を前に倒す。
湖竜は速度が上がる。
「ら~いっ、りゅ~っ!!」
ワーシュは叫ぶ。
「がーっ! いきなり全力でやるな!!」
コルクスは叫ぶ。
皆は湖竜に掴まる。
「ちょっとした裏技があります。竜頭を三度、引き上げてみてください」
リシェは言う。
ワーシュは竜頭を引き出す。
「ら~いっ、ふぅ~っ、りゅ~っ!!」
ワーシュは竜頭を前に倒す。
湖竜は速度を上げる。
人間の全力疾走より速い。
「きゃは~っ!」
ワーシュは燥ぐ。
ワーシュの髪は風に靡く。
コルクスはワーシュを見る。
コルクスは目を逸らす。
皆はコルクスを見ない。
「試運転では問題ありませんでしたが、今も異常はないようですね。では、対岸に着くまでに、皆さんの疑問を幾つか解消しておきましょう」
リシェは皆を見る。
「皆さんの目的地は、竜の国だったんですか?」
リシェは尋ねる。
「新天地ということで、竜の国は有望な選択肢だった。次点でストーフグレフ国も視野に入れていたが、ーー余所者には依頼は回ってきていないようだった」
エルムスは答える。
「まぁ、それだけじゃないわよね~。あたしたちだって王都の出身だっていうのにさ~、田舎者みたいな目で見られてたもんね~」
ワーシュは嘆く。
「まーなー、あいつらには気取ってるってぇか優越感みたいなもんもあったなぁ」
コルクスは寛ぐ。
「……今や、ストーフグレフ国は押しも押されもせぬ大陸の中心だからね。……その自負なのかな、活気とは違う何かがあったよね」
ホーエルは湖竜に両手で掴まる。
「そのストーフグレフ王の政策が、竜の国まで影響、というか、皺寄せというか」
リシェは話す。
皆はリシェを見る。
「権利と義務。国によっては義務が蔑ろにされることもありますが、ストーフグレフ王は。諸侯に、先ず義務を求めました。まぁ、簡単に言うと、地位に相応しい働きをしろ、ということですね。その内の弊害の一つが、武力に長じたーー脳筋貴族たちです。ストーフグレフとその周辺は現在、平和を享受しているので力を発揮する場がありません。そこで困った彼らは、どうしたと思いますか?」
リシェは尋ねる。
皆はエルムスを見る。
「然かし。領内の魔物ーーだけでなく、他領の魔物まで狩るようになった」
エルムスは答える。
「はい。その通りです。要は、本来なら住み分けが出来ていた、冒険者の仕事を奪うようになってしまったということです。そこで王様代理のユミファナトラ様が竜の国に解決を求めてきたのです」
リシェは説明する。
「そ~なのよ! 地竜が居たのにっ! 遠~くっからしか見られなかったのよ!」
ワーシュは叫ぶ。
湖竜は揺れる。
「ほれ、ホーエルが可哀想だから、ちゃんと操縦しろ」
コルクスは笑う。
「……馬は大丈夫なんだけど、何でかな、……冷や汗が止まらない」
ホーエルは目を閉じる。
「馬などの生物ではなく、また、魔力という理解が及ばないものを動力としているから。知識がある分、その潜在的な危険性に鋭敏に反応してしまっているのかもしれない」
エルムスは推測する。
「そ~いえば地竜は、ストーフグレフ国の民に慕われてるっていうか~、大人気だったわね~」
ワーシュは言う。
「竜の国には竜が居る。ストーフグレフ国には竜が居ない。その状況を解消し、且つ彼らの矜持を満足させたからーーと言いたいところだけれど」
エルムスは悩む。
「はは、それは竜の魅力というものかもしれませんね。ストーフグレフ王は内政をユミファナトラ様に任せられ、御自身は国内を漫遊、ではなく、巡察しています。その際、魔獣種の二竜と遭遇。彼らの願いを『どっかん』なされた王様は、ユミファナトラ様の許で働くよう要請しました」
リシェは溜め息を吐く。
「そういうわけで竜の国は。色々あってユミファナトラ様の頼み事を断れませんでした。竜の狩場を跋扈していた魔物は北東の地域に押し込めました。その後、北東の森と洞窟を改修。新人の、駆け出し冒険者の研修場所にしました。また、ストーフグレフ国で溢れた冒険者を、フィア様が改造なされた迷宮に吶喊させています」
リシェは説明する。
「それはーー」
エルムスはリシェを見る。
リシェは手で遮る。
「ここから先は、現地で、ですね。彼らの仕事を奪うのは気が引けるので」
リシェは笑う。
「あー、そーいえば、コルクスもそんなこと言ってたわねー」
ワーシュは振り返る。
「まーな。噂が本当なら、実際に見てみねぇと信じらんねぇかもしんねぇし」
コルクスはワーシュの先を見る。
「ワーシュ。カーブで放り出される前に減速だ」
エルムスは言う。
「試しちゃ、駄目?」
ワーシュは尋ねる。
「やめてやめてやめてやめてやめてねっ! やったら夕飯抜きだよっ!」
ホーエルは震える。
「寝泊まりだけでなく、一巡りは御飯も出ますよ。まぁ勿論、それなりの食事になりますけど」
リシェは笑う。
「む~」
ワーシュは竜頭を引く。
湖竜は減速する。
湖竜は止まる。
二体のミニレムは備え付けの板を渡す。
「ミニレムが荷揚げするので、先に降りてください」
リシェは湖竜から降りる。
僕は湖竜から降りる。
二体のミニレムは僕から離れる。
皆は湖竜から降りる。
二体のミニレムは荷揚げする。
「残っ念ね~ん。竜の都の外か~」
ワーシュは竜の都を見る。
「雷竜は真ん中から二つ目の竜地ですから、街道は竜の都から外れてしまっています。お金がないと色々大変でしょうから、観光は後日にしたほうがいいですよ。ーーまぁ、僕が貸してあげてもいいのですが」
リシェは提案する。
「断る」
僕は答える。
皆は頷く。
「さてと。ミニレム、次の定期便までの時間は?」
リシェは尋ねる。
ミニレムは手を振る。
ミニレムは上下に手を広げる。
ミニレムは上の手を下に動かす。
「一つ時は掛からないようですが、随分と時間が掛かってしまうようですね」
リシェはミニレムの頭を撫でる。
リシェは悩む。
ミニレムはリシェを登る。
「早く着くに越したことはないでしょうから。皆さん、実験台になってください」
リシェは提案する。
「断る」
僕は言う。
「ライル。少し待ってくれ」
エルムスは僕の肩を掴む。
「リシェ殿。趣味ーーなのかどうなのかわかりませんが、もう少しお手柔らかにお願いする」
エルムスはリシェを見る。
「ああ、僕は今、休憩中のようなものなので、いつもよりだいぶ柔らか目ですよ。確かに、ちょっと緩み過ぎていたかもしれないので少し配慮しましょう」
リシェは頷く。
リシェはミニレムを肩車する。
「『風使い』というのが、一番近いかもしれませんね。その風を使い、皆さんを高速移動させようと思っています。ーー体験してみたくはありませんか?」
リシェはワーシュを見る
ワーシュは頷く。
「諦めよう」
ホーエルは僕の肩を掴む。
「魔法使いってのは、これだから」
コルクスは溜め息を吐く。
「危険がないように、地面近くを移動します。失敗してもゴロゴロ転がるだけですので一応、心構えだけはしておいてください」
リシェはミニレムを下ろす。
リシェは集中する。
リシェは風を操る。
溢れる風。
皆は浮かぶ。
「ほわっ!?」
ワーシュは踏み止まる。
「ひっ!」
ホーエルはしゃがむ。
コルクスとエルムスは膝を突く。
ミニレムは両手を振る。
皆は移動する。
襲歩の馬より速い。
「ひぃっ!?」
ホーエルは頭を抱える。
「お~っ、凄いわ! 『飛翔』とは違うし、風に乗ってるみたいっ!!」
ワーシュはしゃがむ。
ワーシュは足元の風に触れる。
「魔法……じゃないわよね。でも、魔力操作とも違うような? これって……」
ワーシュはリシェを見る。
リシェは目を閉じている。
「リシェ殿は、『風使い』と言っていた。そこに秘密がありそうだ」
エルムスは座る。
「風の属性に特化してるとか何かか?」
コルクスは座る。
「う~ん? えっとね、あたしって火が優位属性だけど、火の属性そのものを発現してるんじゃなくて、魔力を火に転化し易いから、優位属性になってるんだけど、……わかる?」
ワーシュは皆を見る。
「まー、何となくは。つまり、リシェさんがやってるのは、魔力の使い方自体が違うってことか?」
コルクスは尋ねる。
「昔ね、読んだことがあるのよ。魔力魔力って普通に言ってるけど、魔力って何なのかってこと。物差しがないって書いてあったわね。ーー魔法は心象が重要。量る為の基準がないから、魔力が何なのか調べるのが難しいって」
ワーシュはリシェを見る。
「何となく、感じるの。リシェさんは属性そのものを発現してる。こんな魔力の運用なんて初めて……」
ワーシュはリシェを見る。
コルクスはワーシュを見る。
「属性の発現ーー?」
エルムスはリシェを見る。
「どどどどっ、どうしたのっ、何か気になるのかなっ、かなっ!」
ホーエルは尋ねる。
「いや、無理して会話に交ざらなくて良いから。いっその事、横になって空を見ていれば恐怖は減じるかもしれない」
エルムスは提案する。
「そ……、そうするね……」
ホーエルは寝転がる。
ホーエルは空を見る。
「で、何に気づいたんだ?」
コルクスは尋ねる。
「属性の発現と聞いて、思い当たるものがあった。ワーシュと同じく、書物の知識だが、ーーある存在は、属性そのものであると」
エルムスは皆を見る。
「って、オイオイ、それって、……竜かよ」
コルクスはリシェを見る。
「そうなのよねぇ。竜は属性そのものーーそれ故に最強。リシェさんは竜じゃないと思うから、竜人……なのかな?」
ワーシュは悩む。
「竜じゃないって、何でわかるんだ? 炎竜のみー様って『人化』ってのをしてるんだろ? リシェさんもそーじゃねぇのか?」
コルクスは尋ねる。
「あー、それね。リシェさんがやってることって、竜なら簡単にできることなのよ……たぶん。それを鍛錬して身に付けようとしてるってことは竜人か、若しくはコウちゃんと同じようにリシェさんも規格外なんだと思う」
ワーシュは答える。
ホーエルはリシェを指差す。
「遠回りになってしまったけど、そろそろリシェ君が何者なのか考えてみないかい?」
ホーエルは皆を見る。
皆はリシェを見る。
リシェは集中している。
「何者って、〝目〟だよな。さすがにそこは嘘じゃねぇと思うけど」
コルクスは言う。
「だとすると当然、〝サイカ〟じゃないかとか言われてる侍従長とも親しいのよね。話し振りから『魔法王』とも親しい感じだったし、コウちゃんのような魔法使いを管理するような立場なのかしらね?」
ワーシュは言う。
「皆に怖がられていたようだから、徴税官か裁判長ではないかと思ったが、どうも腑に落ちない」
エルムスは言う。
「……それなんだけどね」
ホーエルは空を見る。
皆はホーエルを見る。
「もの凄~く、恐ろしい、というかね、怖いことに思い至ってしまったというか、何というか……」
ホーエルは目を閉じる。
「リシェ君はーー」
ホーエルは目を開ける。
「って、リシェさん!? このままじゃ突っ込むって!!」
コルクスは叫ぶ。
コルクスは跳ね起きる。
コルクスはリシェの体を揺らす。
接近する竜地。
「ん?」
リシェは目を開ける。
「皆さん、風に掴まっていてください」
リシェは雷竜を見る。
「っ!」
ホーエルは腹這いになる。
ホーエルは風を掴む。
皆は風を掴む。
皆は上昇する。
皆は絶句する。
皆は降下する。
皆は回転する。
「はぅ……」
ホーエルは風から手を離す。
「だーっ! こんなときに気絶なんてすんなーっ!!」
コルクスはホーエルに覆い被さる。
僕とエルムスは手を繋ぐ。
僕とエルムスはコルクスに覆い被さる。
ワーシュは魔法を使う。
皆は地面に落ちる。
皆は風に包まれる。
「雷竜に到着しました」
リシェは皆を見る。
風は解ける。
雷竜の広場。
「はっ……?」
ホーエルは目を開ける。
「ここは雷竜の真ん中の広場です。ちょっと派手にしたのは、雷竜の代表である『雷守』が逃げられないようにする為です」
リシェは周囲を見る。
数十人はリシェを見る。
数十人は混乱する。
男はリシェに近付く。
「何か、御用でしょうか?」
リシェは男を見る。
「俺と闘え」
男は両手剣を構える。
「……皆、目立たないように、ゆっくりと離れるんだ」
エルムスは立ち上がる。
エルムスはリシェから離れる。
皆はリシェから離れる。
「そうですね。彼と闘い、勝ったら、考えてあげなくもありません」
リシェは振り返る。
男は皆を見る。
「どいつだ? 大盾の男か?」
男はホーエルを見る。
「いぃっ!? でもでもっ、皆を護る為なら……?」
ホーエルは盾を構える。
僕はホーエルの前に出る。
僕は剣を抜く。
僕は切先をリシェに向ける。
「冗談です。下がっていてください」
リシェは笑う。
僕は皆に合図する。
数十人は集まってくる。
人の輪が出来る。
皆は輪まで下がる。
「罰則は理解していますか?」
リシェは尋ねる。
「ああ、あんたと闘れるなら、ーーあのストーフグレフ王と互角に闘ったという、竜の国の侍従長と闘れるなら、『おしおき』というものが、どれほど恐ろしい物だとしても耐えてみせよう」
男は答える。
「あ、やっぱり」
ホーエルは納得する。
「ひっ!? 侍従長??」
小男は驚く。
「……マジか。俺、あとで殺されないよな?」
コルクスは嘆く。
「今の内に、逃げる?」
ワーシュは提案する。
「いや、手遅れだ。逃げ切れる相手ではないし、あとで素直に謝ったほうが助かる確率は高い」
エルムスは答える。
「あの大きな男の人って、有名な人なのかな?」
ホーエルは尋ねる。
「ありゃ迷宮のトップの、カイ・ナードだ。ソロだってのに、もう四十階層越えてんだぜ」
小男は答える。
「カイ・ナードは大陸で五指に入ると言われている、『竜翼』の第一隊隊長だった男だ」
大男はナードを見る。
「おっ、あんた、詳しいな」
小男は大男を見る。
「同じ地域で活動していた。カイ・ナードは力を求め過ぎた。『竜翼』の団長から諫められたが聞き入れず、団を抜けたと聞く」
大男は説明する。
「ーーだそうですけど、どうなんですか?」
リシェはナードを見る。
「俺は団長を尊敬していた。ーーあの人の役に立ちたかった。だが、俺の内に、抑え難いものがあるんだ。このままでは団に迷惑を掛けることになる。……俺は、団長に泣いて謝った。最後まで突き進むことを約束して、ーーあの人は認めてくれた」
ナードは語る。
「二つ」
リシェは提示する。
「一つは、一度だけです。今回だけで、もう闘いません。もし次に願ったとしたなら、竜の国から追放します」
リシェは溜め息を吐く。
「構わない」
ナードは頷く。
「もう一つは。闘いのあと、『治癒』を受けることが条件です」
リシェはナードを見る。
「そのようなーー」
ナードはリシェを見る。
リシェは言葉を遮る。
「了承しないのなら、闘ってあげません」
リシェは笑う。
「ーーわかった」
ナードは頷く。
「お~、リシェさん、凄い自信と余裕ね~。相手のことまで気遣ってるなんて」
ワーシュは感心する。
「そりゃそーだろ。噂通りなら、あのカイ・ナードって奴は、竜と闘うようなもんだ。リシェさんが本気なら、どーやったって一方的な虐殺になんだろ」
コルクスは震える。
「というわけで、ちょっと待っていてください」
リシェは魔力を放つ。
角の生えた子供は現れる。
「むあむあむあ……。むあむあむあ……」
子供は言う。
子供は足を畳んでリシェに密着する。
白い服。
二つの白玉は揺れる。
風髪の先端は白い。
数十人は驚く。
「むあむあむあ……。むあむあむあ……」
子供はリシェを登る。
子供はリシェの顔に頭を擦り付ける。
リシェは子供に風を注ぎ込む。
「ひゅるるんっ、ひゅるるんっ、ひゅるるんっるんっ!」
子供はリシェの首に掴まる。
リシェは子供を抱き締める。
風は吹き抜ける。
「ゆんっゆんっゆんっゆんっゆんっゆんっゆんっゆんっ!」
子供はリシェにぶら下がる。
子供は左右に揺れる。
「風竜様なのかな? 全然気付かなかったよ。ずっとリシェ君にくっ付いてたんだね」
ホーエルは驚く。
「コウ殿がリシェ殿の顔面にばかり魔法を当てていたのは、斯かる理由があったからか」
エルムスは納得する。
「ゆんっゆんっゆんっゆんっゆんっゆんっゆんっゆんっ!」
子供は左右に揺れる。
「か……っ、可っ愛え~~っっ!!」
ワーシュは叫ぶ。
「あれって、もしかして……、ラカールラカ様じゃねぇか?」
小男はラカールラカを指差す。
数十人はざわつく。
リシェはワーシュを見る。
「ほ?」
ワーシュは自分を指差す。
リシェは近寄る。
リシェはラカールラカを引き剥がす。
「ぴゅ~?」
ラカールラカはワーシュを見る。
ワーシュは両手を差し出す。
リシェは曲がる。
「んぁ……?」
コルクスは放心する。
「メイムさんよりも、ラヴェンナさんのほうが具合が良さそうですね」
リシェはコルクスにラカールラカをくっ付ける。
「『まなまな』」
ラカールラカは言う。
「ーーこれは、素直に驚きました。百と同じ、十七番です。ラヴェンナさん、終わるまでラカをお願いします」
リシェは頼む。
「っ!」
コルクスは三度頷く。
リシェは戻る。
「うぉっ、もしかしてこれ、ペルンギーの宝石か?」
コルクスはラカールラカを撫でる。
「コルクス、あんた……」
ワーシュはコルクスを見る。
「風竜のお尻をもみもみなんてっ! うらやまけしからんっ!!」
ワーシュは叫ぶ。
「くっ、噂じゃ『風竜の尻』は、竜の国の『七祝福』の一つらしいぜ。お、俺も撫でてもいいか?」
小男はラカールラカに近付く。
ワーシュは手を伸ばす。
周囲はざわつく。
「止めておけ。竜の国には、幾つかの暗黙の了解のようなものがあるらしい。『祝福』とは与えられるものであって、求めるものではない。風竜様に査定していただけるまで、我慢することだ」
大男はラカールラカを見る。
小男は諦める。
ワーシュは手を引っ込める。
「って、まさか! もうラカールラカ様に査定してもらったのか!?」
小男は大男を見る。
「ふっ」
大男は笑う。
「一巡り前に、煙突に嵌まっていた風竜様を助けた。『へこへこ』の、……六十八番だった」
大男は落ち込む。
「そ、そうか、元気出せ」
小男は大男を慰める。
「ストーフグレフ王との闘いでは、素手で魔法剣を弾いていたと聞いている。武具は、必要ないのか?」
ナードは尋ねる。
「その様子ですと、剣での闘いのほうが好ましいようですね。ーーそろそろかな」
リシェは空を見る。
「皆さん。冷気に備えてください」
リシェは警告する。
女は空から落下する。
女は着地する。
女は冷気を纏う。
撒き散らされる冷気。
「なっ、何!?」
ワーシュは「結界」を張る。
「結界」は崩れる。
「ほ……? 絶世の氷の美女?」
ワーシュは女を見る。
「……でも、何だか怖そうな女性だね」
ホーエルは一歩退く。
「初めまして、私はリシェ家の者で、レイと申しますわ。お見知り置きを」
レイは一礼する。
数十人は魅了される。
「なーに、コルクス~、見惚れてちゃって~。風竜だけで満足しときなさいよ~」
ワーシュはラカールラカを掴む。
僕とエルムスはワーシュの手を掴む。
「くっ、皆っ、酷いわ!」
ワーシュは喚く。
「いやいや、美女に目を奪われなかったら男、じゃなくて人間……でもなくて、生き物じゃねぇだろ」
コルクスはレイを見る。
「コルクスの言いたいことはわかる。彼女は、ーー私たちとは根本的に何かが異なるような気がする」
エルムスはレイを見る。
「何をしているのですか?」
少女は現れる。
「うっわ~、今度は絶世の美少女よ」
ワーシュは少女を見る。
周囲はざわつく。
「あら、小娘。ふふっ、序でだから、小娘も名乗ったらどうですわ?」
レイは笑う。
少女はレイから目を逸らす。
「私は、侍従次長のカレン・ファスファールです。騒ぎの首謀者は、ーーどうせあなたなのでしょう、ランル・リシェ」
ファスファールはリシェを睨む。
「えっと、合流はもう少し後だったはずだけど」
リシェは頭を掻く。
「仕事が早く終わったので、雷竜で休憩を取ろうと思って来てみたら、これです。あなたは厄介事を持ち込まないと物事を進められないのですか?」
ファスファールは剣を按ずる。
「えっと、カレン。……代わる?」
リシェは提案する。
ファスファールは悩む。
「冗談は止めてくれ。侍従次長が強いことはわかる。だが、俺が望んでいるのは『大陸三強』の一角である侍従長との一闘だ」
ナードはリシェを見る。
レイはリシェに片手剣を渡す。
レイは小盾を差し出す。
リシェは首を振る。
レイは離れる。
「それが『折れない剣』か。ーー確かに、禍々しい」
ナードは笑う。
「まぁ、魔剣なんですけど、剣が可愛そうなのでそんなこと言わないであげてください。ーー一合で終わらせるつもりなので、小盾は使いません」
リシェは剣を構える。
「竜に挑むようなものだ。当然、最初から全力でいく」
ナードは剣を肩に担ぐ。
「様式美というものですわね。私が始まりの氷を割ってやりますわ」
レイは球を作る。
「リシェさんだけじゃなくて、レイさんもヤバいわ。あの球、どうやって作ったのか、あたしにはまったくわからないわ」
ワーシュは煤ける。
「そーなんか? ただの透明な球にしか見えねぇんだが」
コルクスはワーシュを見る。
「たぶん、あの女性も、リシェ君が言っていた『規格外』の一人なんだろうね」
ホーエルはレイを見る。
「ひゅ~。こんの魔力は裏返ってるから、感知が難しいのあ」
ラカールラカは説明する。
皆はラカールラカを見る。
レイは球を落とす。
球は割れる。
ナードは魔力を纏う。
「ふっ、ぜぇああっ!!」
ナードは剣を振り下ろす。
リシェは剣を受ける。
リシェは剣身に掌を当てる。
リシェはナードの懐に入る。
ナードは剣から左手を離す。
リシェは柄頭をナードの右手に当てる。
リシェはナードにぶつかる。
ナードは剣を落とす。
「ぎぃっ、まだだ!!」
ナードは左手を伸ばす。
ナードは転ぶ。
リシェは剣を下ろす。
ナードは体から力を抜く。
数十人は喚声を上げる。
リシェは皆に近寄る。
レイとファスファールはリシェを追う。
「ーー最後、何があった?」
大男は尋ねる。
「足を滑らせた……感じじゃなかったが……あぁ…? じ…侍従長がこっちに来る!?」
小男は驚く。
大男と小男は皆から離れる。
皆は圧倒される。
「アーシュさんは、どこまで見えましたか?」
リシェは尋ねる。
「掌を剣に当てた。懐に入って左手を狙うと見せ掛け、利き手の右手に柄頭を当てる。利き手を狙ったのは、左手で攻撃させる為。利き手ではないので、注意力が散漫になる。あとは棒となったリシェにぶつかってナードは倒れた」
僕は答える。
「あらま。小娘でもわからなかったのに、中々見所があるのですわ」
レイは笑う。
「見えていましたし、予測も出来ます。フィア様やあの男の体術でしょう。実戦で使えるほどに練磨していたことには驚きましたが」
ファスファールはリシェを見る。
「二人には散々遣られたからね。フィンと鍛錬していたときに一気に技が向上してしまったから、誇れるものじゃないんだけど」
リシェはファスファールを見る。
「んん~? 棒とか言ってたけど、どーゆーことなの?」
ワーシュは尋ねる。
「棒というのは、譬え。リシェは、ナードの動きを予測した。棒のように体を固め、踏ん張った。ナードは気づかず踏み込み、体勢を崩して転ぶことになった。外から見ると、自滅したような感じになる」
僕は説明する。
「なっ!? ……消えた?」
小男は周囲を見る。
「魔力は感じられない。『転移』か?」
大男は推測する。
「見世物は終わりということだ。解散しろ」
ナードは呼び掛ける。
数十人は立ち去る。
「怪我はどうした?」
大男は尋ねる。
「気付いたら治っていた。侍従長かレイという女性の仕業だろう」
ナードは右手を見せる。
ナードはリシェに近寄る。
大男は離れる。
「もはや、わけがわからん。俺にだけ、見えているなど。『結界』ではない、高度な魔法が使われているのか?」
ナードは尋ねる。
「大したことはないですわ。高度な魔法を使っているのではなく、複数の魔法を効果的に組み合わせていますわ。ただ魔力を注ぎ捲る魔法など、美しくないのですわ。あの娘には出来ないことですから、あとで実演して悔しがらせてやるのですわ」
レイはリシェに腕を絡める。
ナードは僕を見る。
「僕はリシェとは違う。闘わない」
僕はナードを見る。
「別に、気になっただけだ。闘いたいとは思わない」
ナードはリシェを見る。
レイはナードを見る。
「ふふりふふり、勘は良いようですわね。ーー面白いですわ」
レイは僕を見る。
「ナードさん。体の内で仔炎竜が大暴れなら、竜騎士団団長のエンさんに申し入れてください。彼なら、炎竜の飼い馴らし方、ではなく、仔炎竜と一緒に遊ぶ方法を教えてくれると思います。炎竜祭の後なら、機会も得易くなるでしょう」
リシェは提案する。
「ーーそれだけの強さを持っているのに、闘いを求めないのか。大丈夫だ、もう侍従長とは闘えない。……この刻まれた恐怖を克服しない限り、立ち向かえない」
ナードはリシェを見る。
ナードは立ち去る。
リシェは溜め息を吐く。
「ふふっ、あれが戦士という種族ですわね。心を折られたのに、またリシェと闘う気満々ですわ」
レイは笑う。
「びゅー。りえはもっと力の制御をちゃんとすう。そうしないと勘がいい相手の心を壊すのあ」
ラカールラカは叱る。
リシェは凹む。
「制御って、リシェさんは本気じゃなかったってこと?」
ワーシュは尋ねる。
皆は驚く。
ホーエルは手を伸ばす。
レイはホーエルを見る。
ホーエルは止まる。
「東域の一件で、僕の内側が乱れているんです。落ち着くのを待つと同時に、何が出来るのか確かめているところです。メイムさんが疑問に感じたのも当然だと思います。僕の力というのは変則的に過ぎて、対等な条件で闘う、というのが難しいのです。ただ、目指すべきところは何となく見えているので、僕は今より、強くならなくてはなりません」
リシェは答える。
「ぴゅ~」
ラカールラカはコルクスから離れる。
コルクスはラカールラカを捕まえる。
「ぴゅ?」
ラカールラカは振り返る。
コルクスはラカールラカを見る。
「ーーコルクス。駄目よ、気に入ったからって、団じゃ飼えないの。ちゃんと飼い主に返してきなさい」
ワーシュは威張る。
「びゃ~。わえはりえのものじゃなー」
ラカールラカは拗ねる。
コルクスはラカールラカを押す。
「アホなこと言ってんな。お前も査定してもらえ」
コルクスは目を逸らす。
「きゃは~っ! おいでませっ、風竜!!」
ワーシュは両腕を広げる。
ホーエルはラカールラカを捕まえる。
ホーエルはラカールラカをエルムスにくっ付ける。
エルムスは驚く。
「『ほぼほぼ』」
ラカールラカは査定する。
「ホーエルっ! ずっこいっずっこいっ、ずっこいっこいっ!」
ワーシュは怒る。
「ワーシュは少し、反省してね」
ホーエルは笑う。
「五十六番です。大抵、四十番から六十番になるので、良くも悪くもなく、ですね」
リシェは説明する。
「そうなると、コルクスはラカールラカ様から、大いに気に入られたということか」
エルムスはラカールラカをホーエルにくっ付ける。
「『さこさこ』」
ラカールラカは査定する。
「四十六番です」
リシェは言う。
「悪い番号じゃなくて良かった。次は、ライルの番だね」
ホーエルはラカールラカを引き剥がす。
ワーシュは魔法を使う。
ワーシュはラカールラカを奪い取る。
ワーシュはラカールラカを抱き締める。
ワーシュはラカールラカを撫でる。
ワーシュはラカールラカを舐める。
ワーシュはラカールラカを噛む。
「がーっ! このっ漏れ漏れ女がっ! 少しは欲望を引っ込めろ!」
コルクスはラカールラカを掴む。
「『べとべと』」
ラカールラカは査定する。
ワーシュとコルクスはリシェを見る。
「意外です。ラカは炎と相性がいい傾向があるので、メイムさんは平均以上かと思っていたのですが、ーー八十一番です」
リシェは驚く。
「ちょっ、コルクスっ、あんたの所為よ! もう一度っ! もーいっちどっ! ちゃんと査定して!!」
ワーシュはコルクスを睨む。
ワーシュはラカールラカの角を掴む。
ワーシュはラカールラカを振り回す。
「ふふん? 『銀嶺』の娘が気付いたようですわ」
レイは笑う。
「『銀嶺』というと、レイが言っていた魔香の? ダニステイルが凄いのか、あの娘が優れているのか、レイの魔法を感知出来るのならーー」
リシェは少女を見る。
少女は近寄る。
「ふふっ、悪巧みかしら、リシェ?」
レイはリシェの首に腕を絡める。
ファスファールはリシェを睨む。
「悪巧みは最初からしてるんだけどね。纏め役からも頼まれているし、コウさんだけでは不安だから、僕も動かないといけないかな」
リシェは皆を見る。
リシェは少女を見る。
皆は少女を見る。
少女は止まる。
少女は探る。
「あたしより二つくらい下かな。可愛い、というよりは、綺麗な娘ね。真面目、というよりは、優等生? 魔法使いみたいな恰好してるけど、何というか、ーーオシャレ?」
ワーシュは首を傾げる。
「ダニステイルでの、若い者の間での流行りですわ。魔法使いは地味。それに我慢できない者が、魔法使いとわかる範囲で様々に工夫していった結果ーー大人たちが折れた、ということのようですわね」
レイは説明する。
少女は諦める。
「あのっ、魔法を行使している方! 解法をお願いします!」
少女は頼む。
レイは魔法を解く。
少女は驚く。
「以前、見掛けたことがあります。ミャン・ポンのーーあの問題娘の知り合いですか?」
リシェは尋ねる。
「え? あっ、はい! ミャンの先導役で、リャナ・シィリです!」
シィリは頭を下げる。
「あら、あの問題魔の先導役なんて、随分と信頼されていますわね」
レイは笑う。
「やっぱ竜の国は凄いわね。あたしじゃレイさんの魔法に気付けなかったもの」
ワーシュは褒める。
「いえ、そんなっ、あたしなんて……」
シィリは項垂れる。
シィリはぶれる。
光より明るい透明。
透明はシィリから溢れる。
呑まれる。
重なる。
触れる。
奏でる。
すべては透明に染まる。
シィリは笑っていた。
嬉しそうに笑っていた。
幸せそうに笑っていた。
シィリは泣いていた。
約束した。
上手くいかなかった。
シィリは諦めなかった。
大切だった。
軋んだ。
シィリは見失った。
シィリは歩いていた。
シィリはーー。
リャナはーー。
透明は解けた。
「え……?」
リャナは呆然と僕を見上げた。
「ちょちょっ、ライルっ、何してるの!?」
ワーシュは仰天する。
ワーシュはラカールラカを上下に揺さ振る。
「こうして、欲しかったんだよね」
僕はリャナの頭を優しく撫でる。
リャナは空色の目から涙を零す。
「っ……、……はい」
リャナは自然と言葉を漏らした。
僕はリャナの目を真っ直ぐに見る。
「リャナは頑張っているよ。魔法が上手くなる度に、お祖母さんは褒めてくれた。でも、頭を撫でてくれたお祖母さんは、天の国へと旅立ってしまった。お祖母さんは、リャナが上手く出来ていたから褒めていたのではない。リャナが一生懸命だったから、リャナが楽しそうだったから、お祖母さんは嬉しかった。上手く出来なくても、お祖母さんは哀しまない。リャナが魔法が好きで、笑っていてくれれば、お祖母さんは喜んでくれる」
僕は言葉を伝えた。
リャナは不思議そうな顔をする。
リャナは手を胸に持っていく。
「ふがーっ! リャナを苛めて泣かすとはっ、何たる極悪人かーっ! 天竜が許してもっ、このミャン・ポンが許さんぞーーっっ!!」
ポンは杖に跨がって飛んでいた。
皆は空を見上げる。
コウは十本の「火矢」を放つ。
ポンは淡い光を指に宿す。
ポンは指で杖に書き込んでいく。
ポンは急速に上昇した。
コウは十本の「雷矢」を放つ。
「ミャン・ポンって娘を追ってるのは、コウちゃんのようね。うーわー、魔法使い同士の空中戦とか、初めて見たわー」
ワーシュは乾いた笑いを漏らす。
「とはいえ、実力差が竜ほどありますから、あれは実戦的な訓練みたいなものですね。……レイ、悪戯は程々にね」
リシェはレイの頬を撫でる。
レイは幸せそうに微笑む。
「ミャン! 今度は何をしたの!」
リャナは慌てて涙を拭う。
「侍従長も平伏すっ、魔女蹴りを食らうがいーーっっ!!」
ポンはリャナの言葉を聞いていない。
ポンは斜めに落ちてくる。
リシェは二歩下がった。
僕は二歩前に出た。
前にはリャナが居る。
僕はリャナを抱き抱えて前に進む。
「勝利の聖炎っ…ぎゃぺーーっっ!?」
ポンは僕の後ろを通り過ぎた。
ポンは墜落して転がっていく。
ポンは地面に突っ伏して止まる。
ポンはお尻を上げている。
ポンはそのまま固まっていた。
「ねぇ、皆。スカートが捲れて、丸見えなのよ。目を逸らしなさいよ」
ワーシュは皆に命令する。
ポンの下着には満面の笑みのみーが描かれている。
「いや、まぁ、そーなんだけどよ。目ぇ逸らしたら、まるであれを意識してるみてぇになっちまうじゃねぇか」
コルクスはポンを指差す。
「みゃ…みゃみゃみゃみゃみゃみゃみゃみゃっ、ミャンっ!?」
リャナは弾けるように僕から離れて手を振る。
ポンのスカートは風に吹かれたように動く。
「おややん? 今のはシィリちゃんの魔法なの?」
ワーシュはラカールラカを回転させる。
「あっ、はい。そうで…すっ……」
リャナは僕を見て炎竜のように赤くなった。
コウは音もなく着地する。
ミャンは全力で逃走。
コウは魔法を行使する。
光の円は拡がってミャンに当たる。
円の線は生き物のようにミャンに絡み付く。
「リシェさんっ、何でポンさんの味方…を……?」
コウは苦笑いのリシェを見る。
コウは視線をレイに向けて脅える。
レイは極寒の笑みを浮かべた。
「シィリさん。ファタさんのところで働いているダニステイルというのは、あなただったのですね」
リシェはコウからリャナに視線を移す。
「それなのですが……。ファタ様は先程、急用が出来たと言って、……出ていきました」
リャナは申し訳なさそうな顔をする。
「はは、シィリさんの所為ではないので、気にしないでください。へー、ほー、ふーん? ファタさんは逃げたんですか、そうですか、そうなのですか、くっくっくっ」
リシェは邪竜のように笑った。
「えっと、カレン。ラカを貸してあげるから、一人と一竜で進めておいてくれるかな?」
リシェは下手に出る。
レイとファスファールは視線をぶつけ合う。
「ぴゃっ!? りえっ、りえっ、りえっ!」
ラカールラカは慌ててワーシュの腕から抜け出ようとする。
リシェとレイは忽然と消える。
「ひゅー」
ラカールラカは風を失ったように萎れた。
「では、ラカールラカ様をお預かりします」
ファスファールは優雅に進み出る。
「あ、はい……」
ワーシュは素直にラカールラカを渡した。
ラカールラカはファスファールの胸で不貞寝する。
ファスファールはコウに一礼する。
コウは羨ましそうにラカールラカとファスファールを見る。
ファスファールは冒険者たちの視線を集めながら去っていく。
「くぉ~、女としての格の違いを見せつけられちゃったって感じね~」
ワーシュはラカールラカを手放したことを悔しがる。
「あ、思い出した。彼女は、リシェ君が言っていた〝目〟の一人だね。ああいう人を、才媛って言うのかな」
ホーエルはワーシュを気遣う。
「『侍従長の花嫁』とかいう噂もあったけど、そんな感じじゃなかったな」
コルクスは所感を述べる。
「リシェさんが迷惑を掛けると思いますが、何かあったら私に言ってください」
コウは真摯に頭を下げる。
「って、コウちゃんっ、そんなことしなくても大丈夫だって!」
ワーシュは勢いよくコウに抱き付く。
「シィリさん。あとは冒険者の皆さんをお願いなのです」
コウはリャナの手を取って微笑む。
「はっ、はい! フィア様!」
リャナは大慌てで三度頷く。
「フィア……様?」
ワーシュは腕の中のコウを見た。
「はい。私は、竜の国、グリングロウ国の王様を務めている、コウ・ファウ・フィアと申します」
コウは﨟長けた振る舞いで微笑む。
コルクスとホーエルは速攻でワーシュを回収した。
「今後、厳しく躾けますので、どうかお許しいただきたい」
エルムスは頭を下げようとしてコウに止められる。
「竜の国では、皆が同等なのです。敬意は、地位にではなく、その人自身に払ってください。私は、メイムさんに期待していますし、……それに、竜の国にはもっとアレな人が幾人も居るので慣れています」
コウは柔らかな笑みを浮かべる。
「了承しました。感謝いたします」
エルムスはお腹に手を当てて頭を下げた。
エルムスはコウ自身に敬意を示す。
「ぎゃ~っ、いつまで我はこのままなのだーっ!」
ポンは暴れ出した。
コウは「転移」でポンの許に移動する。
「ふどぁっ!? い~や~っ、『おしおき』はっ、い~や~っ! 今度こそ迷宮にぃ~~」
ポンはコウの魔法で一緒に飛び立っていく。
「竜地の暗黒竜から出るには、許可があれば大丈夫なのですが、まだ迷宮に入るのは許されていないので、ああなってしまいました」
リャナは困った様子で溜め息を吐く。
「悪い子ではないのですが、盲目的というか一直線というか考えなしというか竜は振り返らないというか、夢を追い過ぎてちぐはぐなことになってしまっています」
リャナはポンが飛んでいった先を複雑な視線で眺める。
「夢?」
ワーシュは遠慮なく尋ねる。
「それは、あたしの口からは言えません。ミャンから聞いてください。あの子は、喜んで話してくれますので」
リャナは苦笑いのまま振り返る。
リャナは僕を見て直ぐに目を逸らす。
「で、では皆さんっ、登録と説明を行いますので、雷所まで付いてきてくださいっ」
リャナは足早に歩いていく。
皆は顔を見合わせてから僕を見る。
僕はリャナのあとを追った。
皆は僕のあとを追った。
「え~んっ、りゅ~っ!!」
ワーシュは叫ぶ。
皆はホーエルを見る。
ホーエルは頭を掻く。
「ふぅ~っっ、りゅ~~っっ!!」
ホーエルは叫ぶ。
周囲の人々は笑う。
「ぴゅ?」
謎声はリシェから聞こえる。
「ひっ!? じ……」
周囲の人々はリシェを見る。
リシェは魔力を放つ。
リシェは笑う。
周囲の人々は目を逸らす。
周囲の人々は離れる。
皆はリシェを見る。
「それでは、雷竜行きの湖竜に乗るので、景色を堪能しながら付いてきてください」
リシェは歩き出す。
「う~わ~っ! それぞれの道のアーチに竜が絡み付いてる! ってか、でっかいか~い!!」
ワーシュは叫ぶ。
「凄いのはわかるけど、少し落ち着こうね」
ホーエルはワーシュの頭を押さえる。
「中路の八つのアーチは、竜門と呼んでいます。大路を派手にしてしまうと景色が見え難くなるので、橋の終わりに八竜門を設置してあります」
リシェは説明する。
整備された竜の湖。
対岸と山脈が見える。
竜の都に続く大きな橋。
左右に四つの竜地に続く橋。
「ーー人工の湖。半円状の土地に、作業所や発着場。荷は、湖竜で運んでいる?」
エルムスは周囲を見る。
高つ音。
城並みの敷地。
数十人の男。
半分は休憩中。
数十体のミニレムはお手伝い。
「ええ、竜の都まで運ぶのは手間ですから。荷はここでーー『竜の足場』で受け取っています。竜の国の産物が増えれば、竜の都まで向かう馬車も増えることになるでしょう」
リシェは説明する。
竜の湖は橋で八つに分割。
それぞれに湖竜。
湖竜は橋と岸に沿って巡回。
「竜地は、左から地竜、光竜、炎竜、水竜、風竜、雷竜、氷竜、暗黒竜ーーあ」
リシェは止まる。
リシェは周囲を見る。
「ミニレム! 『探訪』の冊子!」
リシェは叫ぶ。
ミニレムは駆け付ける。
外衣を纏うミニレムは止まる。
「きゃは~っ!」
ワーシュはミニレムを抱き上げる。
外衣には鷹の意匠。
「『六形騎』の一体です」
リシェはミニレムから冊子を受け取る。
リシェはミニレムの頭を撫でる。
「失念していました。受付で渡すはずだった冊子です。地図や名所など、好評を博しています」
リシェは僕に差し出す。
表紙には竜の狩場と角の生えた子供。
僕はミニレムから離れる。
ホーエルはリシェから受け取る。
ホーエルは冊子を開く。
皆は覗き込む。
「これがみー様なのね! 元気いっぱい炎満杯っ! ふきゃ~っ、可愛ぇ~~っっ!!」
ワーシュは叫ぶ。
「みー様が竜の国を案内してくれる、という体になってるんだね」
ホーエルは笑う。
「この紙とインク、何か変じゃないか?」
コルクスは首を傾げる。
「転写、いや、複製か? 魔法が使われているようだ。これは興味深い。大量生産が可能になる。そうなると、材料と流通の問題のほうが重要になってくるのかーー」
エルムスは黙考する。
「右側のここが発着場になります。荷物はミニレムに渡してください」
リシェは二体のミニレムを見る。
二体のミニレムは両手を振る。
一定間隔で湖竜が浮かぶ。
湖竜の舳先に雷竜。
僕は荷物をホーエルに渡す。
僕は離れる。
リシェは僕を見る。
「ミニレムの一体に同乗してもらおうと思ってたんですが、無理そうですね」
リシェは笑う。
ミニレムは備え付けの板を渡す。
ミニレムは荷物を運ぶ。
「ほれ、そろそろ『六形騎』ってのを放してやれよ」
コルクスは湖竜に乗る。
コルクスは湖竜を調べる。
「くぅ~、三〇ちゃんっ! また逢おうね!!」
ワーシュはサージュを抱き締める。
ワーシュはサージュを離す。
皆は湖竜に乗る。
サージュは板を外す。
三体のミニレムは両手を振る。
皆は手を振る。
湖竜は動き出す。
「時間帯からして、雷竜で一泊したほうが良さそうですね。ーーと、そうでした、『雷竜の寝床』と『雷爪の傷痕』という二つの宿があるのですが、初めの一巡りは無料です」
リシェは説明する。
「う~ん、やっぱりパリパリ、どうなってるのかまったくわからないわ~」
ワーシュは湖面を見る。
皆は湖面を見る。
透き通った水。
底は見えない。
湖竜は湖中のロープの上を走る。
ロープは一定区間を巡る。
「魔工技術か。単純なように見えるが、魔力で成しているとするなら案外、複雑なのかもしれない」
エルムスは黙考する。
リシェは雷竜に触れる。
「今は、他に風雷湖の湖竜を使用している人はいないようですね。どなたか、舳先の雷竜の竜頭を前に倒してみてください」
リシェは魔力を放つ。
「心配すんな。一番は譲るから、ゆっくり移動しろよ」
コルクスはワーシュを見る。
「まだ何も言ってないじゃない」
ワーシュはあっかんりゅうをする。
ワーシュは移動する。
ワーシュは竜頭を前に倒す。
湖竜は速度が上がる。
「ら~いっ、りゅ~っ!!」
ワーシュは叫ぶ。
「がーっ! いきなり全力でやるな!!」
コルクスは叫ぶ。
皆は湖竜に掴まる。
「ちょっとした裏技があります。竜頭を三度、引き上げてみてください」
リシェは言う。
ワーシュは竜頭を引き出す。
「ら~いっ、ふぅ~っ、りゅ~っ!!」
ワーシュは竜頭を前に倒す。
湖竜は速度を上げる。
人間の全力疾走より速い。
「きゃは~っ!」
ワーシュは燥ぐ。
ワーシュの髪は風に靡く。
コルクスはワーシュを見る。
コルクスは目を逸らす。
皆はコルクスを見ない。
「試運転では問題ありませんでしたが、今も異常はないようですね。では、対岸に着くまでに、皆さんの疑問を幾つか解消しておきましょう」
リシェは皆を見る。
「皆さんの目的地は、竜の国だったんですか?」
リシェは尋ねる。
「新天地ということで、竜の国は有望な選択肢だった。次点でストーフグレフ国も視野に入れていたが、ーー余所者には依頼は回ってきていないようだった」
エルムスは答える。
「まぁ、それだけじゃないわよね~。あたしたちだって王都の出身だっていうのにさ~、田舎者みたいな目で見られてたもんね~」
ワーシュは嘆く。
「まーなー、あいつらには気取ってるってぇか優越感みたいなもんもあったなぁ」
コルクスは寛ぐ。
「……今や、ストーフグレフ国は押しも押されもせぬ大陸の中心だからね。……その自負なのかな、活気とは違う何かがあったよね」
ホーエルは湖竜に両手で掴まる。
「そのストーフグレフ王の政策が、竜の国まで影響、というか、皺寄せというか」
リシェは話す。
皆はリシェを見る。
「権利と義務。国によっては義務が蔑ろにされることもありますが、ストーフグレフ王は。諸侯に、先ず義務を求めました。まぁ、簡単に言うと、地位に相応しい働きをしろ、ということですね。その内の弊害の一つが、武力に長じたーー脳筋貴族たちです。ストーフグレフとその周辺は現在、平和を享受しているので力を発揮する場がありません。そこで困った彼らは、どうしたと思いますか?」
リシェは尋ねる。
皆はエルムスを見る。
「然かし。領内の魔物ーーだけでなく、他領の魔物まで狩るようになった」
エルムスは答える。
「はい。その通りです。要は、本来なら住み分けが出来ていた、冒険者の仕事を奪うようになってしまったということです。そこで王様代理のユミファナトラ様が竜の国に解決を求めてきたのです」
リシェは説明する。
「そ~なのよ! 地竜が居たのにっ! 遠~くっからしか見られなかったのよ!」
ワーシュは叫ぶ。
湖竜は揺れる。
「ほれ、ホーエルが可哀想だから、ちゃんと操縦しろ」
コルクスは笑う。
「……馬は大丈夫なんだけど、何でかな、……冷や汗が止まらない」
ホーエルは目を閉じる。
「馬などの生物ではなく、また、魔力という理解が及ばないものを動力としているから。知識がある分、その潜在的な危険性に鋭敏に反応してしまっているのかもしれない」
エルムスは推測する。
「そ~いえば地竜は、ストーフグレフ国の民に慕われてるっていうか~、大人気だったわね~」
ワーシュは言う。
「竜の国には竜が居る。ストーフグレフ国には竜が居ない。その状況を解消し、且つ彼らの矜持を満足させたからーーと言いたいところだけれど」
エルムスは悩む。
「はは、それは竜の魅力というものかもしれませんね。ストーフグレフ王は内政をユミファナトラ様に任せられ、御自身は国内を漫遊、ではなく、巡察しています。その際、魔獣種の二竜と遭遇。彼らの願いを『どっかん』なされた王様は、ユミファナトラ様の許で働くよう要請しました」
リシェは溜め息を吐く。
「そういうわけで竜の国は。色々あってユミファナトラ様の頼み事を断れませんでした。竜の狩場を跋扈していた魔物は北東の地域に押し込めました。その後、北東の森と洞窟を改修。新人の、駆け出し冒険者の研修場所にしました。また、ストーフグレフ国で溢れた冒険者を、フィア様が改造なされた迷宮に吶喊させています」
リシェは説明する。
「それはーー」
エルムスはリシェを見る。
リシェは手で遮る。
「ここから先は、現地で、ですね。彼らの仕事を奪うのは気が引けるので」
リシェは笑う。
「あー、そーいえば、コルクスもそんなこと言ってたわねー」
ワーシュは振り返る。
「まーな。噂が本当なら、実際に見てみねぇと信じらんねぇかもしんねぇし」
コルクスはワーシュの先を見る。
「ワーシュ。カーブで放り出される前に減速だ」
エルムスは言う。
「試しちゃ、駄目?」
ワーシュは尋ねる。
「やめてやめてやめてやめてやめてねっ! やったら夕飯抜きだよっ!」
ホーエルは震える。
「寝泊まりだけでなく、一巡りは御飯も出ますよ。まぁ勿論、それなりの食事になりますけど」
リシェは笑う。
「む~」
ワーシュは竜頭を引く。
湖竜は減速する。
湖竜は止まる。
二体のミニレムは備え付けの板を渡す。
「ミニレムが荷揚げするので、先に降りてください」
リシェは湖竜から降りる。
僕は湖竜から降りる。
二体のミニレムは僕から離れる。
皆は湖竜から降りる。
二体のミニレムは荷揚げする。
「残っ念ね~ん。竜の都の外か~」
ワーシュは竜の都を見る。
「雷竜は真ん中から二つ目の竜地ですから、街道は竜の都から外れてしまっています。お金がないと色々大変でしょうから、観光は後日にしたほうがいいですよ。ーーまぁ、僕が貸してあげてもいいのですが」
リシェは提案する。
「断る」
僕は答える。
皆は頷く。
「さてと。ミニレム、次の定期便までの時間は?」
リシェは尋ねる。
ミニレムは手を振る。
ミニレムは上下に手を広げる。
ミニレムは上の手を下に動かす。
「一つ時は掛からないようですが、随分と時間が掛かってしまうようですね」
リシェはミニレムの頭を撫でる。
リシェは悩む。
ミニレムはリシェを登る。
「早く着くに越したことはないでしょうから。皆さん、実験台になってください」
リシェは提案する。
「断る」
僕は言う。
「ライル。少し待ってくれ」
エルムスは僕の肩を掴む。
「リシェ殿。趣味ーーなのかどうなのかわかりませんが、もう少しお手柔らかにお願いする」
エルムスはリシェを見る。
「ああ、僕は今、休憩中のようなものなので、いつもよりだいぶ柔らか目ですよ。確かに、ちょっと緩み過ぎていたかもしれないので少し配慮しましょう」
リシェは頷く。
リシェはミニレムを肩車する。
「『風使い』というのが、一番近いかもしれませんね。その風を使い、皆さんを高速移動させようと思っています。ーー体験してみたくはありませんか?」
リシェはワーシュを見る
ワーシュは頷く。
「諦めよう」
ホーエルは僕の肩を掴む。
「魔法使いってのは、これだから」
コルクスは溜め息を吐く。
「危険がないように、地面近くを移動します。失敗してもゴロゴロ転がるだけですので一応、心構えだけはしておいてください」
リシェはミニレムを下ろす。
リシェは集中する。
リシェは風を操る。
溢れる風。
皆は浮かぶ。
「ほわっ!?」
ワーシュは踏み止まる。
「ひっ!」
ホーエルはしゃがむ。
コルクスとエルムスは膝を突く。
ミニレムは両手を振る。
皆は移動する。
襲歩の馬より速い。
「ひぃっ!?」
ホーエルは頭を抱える。
「お~っ、凄いわ! 『飛翔』とは違うし、風に乗ってるみたいっ!!」
ワーシュはしゃがむ。
ワーシュは足元の風に触れる。
「魔法……じゃないわよね。でも、魔力操作とも違うような? これって……」
ワーシュはリシェを見る。
リシェは目を閉じている。
「リシェ殿は、『風使い』と言っていた。そこに秘密がありそうだ」
エルムスは座る。
「風の属性に特化してるとか何かか?」
コルクスは座る。
「う~ん? えっとね、あたしって火が優位属性だけど、火の属性そのものを発現してるんじゃなくて、魔力を火に転化し易いから、優位属性になってるんだけど、……わかる?」
ワーシュは皆を見る。
「まー、何となくは。つまり、リシェさんがやってるのは、魔力の使い方自体が違うってことか?」
コルクスは尋ねる。
「昔ね、読んだことがあるのよ。魔力魔力って普通に言ってるけど、魔力って何なのかってこと。物差しがないって書いてあったわね。ーー魔法は心象が重要。量る為の基準がないから、魔力が何なのか調べるのが難しいって」
ワーシュはリシェを見る。
「何となく、感じるの。リシェさんは属性そのものを発現してる。こんな魔力の運用なんて初めて……」
ワーシュはリシェを見る。
コルクスはワーシュを見る。
「属性の発現ーー?」
エルムスはリシェを見る。
「どどどどっ、どうしたのっ、何か気になるのかなっ、かなっ!」
ホーエルは尋ねる。
「いや、無理して会話に交ざらなくて良いから。いっその事、横になって空を見ていれば恐怖は減じるかもしれない」
エルムスは提案する。
「そ……、そうするね……」
ホーエルは寝転がる。
ホーエルは空を見る。
「で、何に気づいたんだ?」
コルクスは尋ねる。
「属性の発現と聞いて、思い当たるものがあった。ワーシュと同じく、書物の知識だが、ーーある存在は、属性そのものであると」
エルムスは皆を見る。
「って、オイオイ、それって、……竜かよ」
コルクスはリシェを見る。
「そうなのよねぇ。竜は属性そのものーーそれ故に最強。リシェさんは竜じゃないと思うから、竜人……なのかな?」
ワーシュは悩む。
「竜じゃないって、何でわかるんだ? 炎竜のみー様って『人化』ってのをしてるんだろ? リシェさんもそーじゃねぇのか?」
コルクスは尋ねる。
「あー、それね。リシェさんがやってることって、竜なら簡単にできることなのよ……たぶん。それを鍛錬して身に付けようとしてるってことは竜人か、若しくはコウちゃんと同じようにリシェさんも規格外なんだと思う」
ワーシュは答える。
ホーエルはリシェを指差す。
「遠回りになってしまったけど、そろそろリシェ君が何者なのか考えてみないかい?」
ホーエルは皆を見る。
皆はリシェを見る。
リシェは集中している。
「何者って、〝目〟だよな。さすがにそこは嘘じゃねぇと思うけど」
コルクスは言う。
「だとすると当然、〝サイカ〟じゃないかとか言われてる侍従長とも親しいのよね。話し振りから『魔法王』とも親しい感じだったし、コウちゃんのような魔法使いを管理するような立場なのかしらね?」
ワーシュは言う。
「皆に怖がられていたようだから、徴税官か裁判長ではないかと思ったが、どうも腑に落ちない」
エルムスは言う。
「……それなんだけどね」
ホーエルは空を見る。
皆はホーエルを見る。
「もの凄~く、恐ろしい、というかね、怖いことに思い至ってしまったというか、何というか……」
ホーエルは目を閉じる。
「リシェ君はーー」
ホーエルは目を開ける。
「って、リシェさん!? このままじゃ突っ込むって!!」
コルクスは叫ぶ。
コルクスは跳ね起きる。
コルクスはリシェの体を揺らす。
接近する竜地。
「ん?」
リシェは目を開ける。
「皆さん、風に掴まっていてください」
リシェは雷竜を見る。
「っ!」
ホーエルは腹這いになる。
ホーエルは風を掴む。
皆は風を掴む。
皆は上昇する。
皆は絶句する。
皆は降下する。
皆は回転する。
「はぅ……」
ホーエルは風から手を離す。
「だーっ! こんなときに気絶なんてすんなーっ!!」
コルクスはホーエルに覆い被さる。
僕とエルムスは手を繋ぐ。
僕とエルムスはコルクスに覆い被さる。
ワーシュは魔法を使う。
皆は地面に落ちる。
皆は風に包まれる。
「雷竜に到着しました」
リシェは皆を見る。
風は解ける。
雷竜の広場。
「はっ……?」
ホーエルは目を開ける。
「ここは雷竜の真ん中の広場です。ちょっと派手にしたのは、雷竜の代表である『雷守』が逃げられないようにする為です」
リシェは周囲を見る。
数十人はリシェを見る。
数十人は混乱する。
男はリシェに近付く。
「何か、御用でしょうか?」
リシェは男を見る。
「俺と闘え」
男は両手剣を構える。
「……皆、目立たないように、ゆっくりと離れるんだ」
エルムスは立ち上がる。
エルムスはリシェから離れる。
皆はリシェから離れる。
「そうですね。彼と闘い、勝ったら、考えてあげなくもありません」
リシェは振り返る。
男は皆を見る。
「どいつだ? 大盾の男か?」
男はホーエルを見る。
「いぃっ!? でもでもっ、皆を護る為なら……?」
ホーエルは盾を構える。
僕はホーエルの前に出る。
僕は剣を抜く。
僕は切先をリシェに向ける。
「冗談です。下がっていてください」
リシェは笑う。
僕は皆に合図する。
数十人は集まってくる。
人の輪が出来る。
皆は輪まで下がる。
「罰則は理解していますか?」
リシェは尋ねる。
「ああ、あんたと闘れるなら、ーーあのストーフグレフ王と互角に闘ったという、竜の国の侍従長と闘れるなら、『おしおき』というものが、どれほど恐ろしい物だとしても耐えてみせよう」
男は答える。
「あ、やっぱり」
ホーエルは納得する。
「ひっ!? 侍従長??」
小男は驚く。
「……マジか。俺、あとで殺されないよな?」
コルクスは嘆く。
「今の内に、逃げる?」
ワーシュは提案する。
「いや、手遅れだ。逃げ切れる相手ではないし、あとで素直に謝ったほうが助かる確率は高い」
エルムスは答える。
「あの大きな男の人って、有名な人なのかな?」
ホーエルは尋ねる。
「ありゃ迷宮のトップの、カイ・ナードだ。ソロだってのに、もう四十階層越えてんだぜ」
小男は答える。
「カイ・ナードは大陸で五指に入ると言われている、『竜翼』の第一隊隊長だった男だ」
大男はナードを見る。
「おっ、あんた、詳しいな」
小男は大男を見る。
「同じ地域で活動していた。カイ・ナードは力を求め過ぎた。『竜翼』の団長から諫められたが聞き入れず、団を抜けたと聞く」
大男は説明する。
「ーーだそうですけど、どうなんですか?」
リシェはナードを見る。
「俺は団長を尊敬していた。ーーあの人の役に立ちたかった。だが、俺の内に、抑え難いものがあるんだ。このままでは団に迷惑を掛けることになる。……俺は、団長に泣いて謝った。最後まで突き進むことを約束して、ーーあの人は認めてくれた」
ナードは語る。
「二つ」
リシェは提示する。
「一つは、一度だけです。今回だけで、もう闘いません。もし次に願ったとしたなら、竜の国から追放します」
リシェは溜め息を吐く。
「構わない」
ナードは頷く。
「もう一つは。闘いのあと、『治癒』を受けることが条件です」
リシェはナードを見る。
「そのようなーー」
ナードはリシェを見る。
リシェは言葉を遮る。
「了承しないのなら、闘ってあげません」
リシェは笑う。
「ーーわかった」
ナードは頷く。
「お~、リシェさん、凄い自信と余裕ね~。相手のことまで気遣ってるなんて」
ワーシュは感心する。
「そりゃそーだろ。噂通りなら、あのカイ・ナードって奴は、竜と闘うようなもんだ。リシェさんが本気なら、どーやったって一方的な虐殺になんだろ」
コルクスは震える。
「というわけで、ちょっと待っていてください」
リシェは魔力を放つ。
角の生えた子供は現れる。
「むあむあむあ……。むあむあむあ……」
子供は言う。
子供は足を畳んでリシェに密着する。
白い服。
二つの白玉は揺れる。
風髪の先端は白い。
数十人は驚く。
「むあむあむあ……。むあむあむあ……」
子供はリシェを登る。
子供はリシェの顔に頭を擦り付ける。
リシェは子供に風を注ぎ込む。
「ひゅるるんっ、ひゅるるんっ、ひゅるるんっるんっ!」
子供はリシェの首に掴まる。
リシェは子供を抱き締める。
風は吹き抜ける。
「ゆんっゆんっゆんっゆんっゆんっゆんっゆんっゆんっ!」
子供はリシェにぶら下がる。
子供は左右に揺れる。
「風竜様なのかな? 全然気付かなかったよ。ずっとリシェ君にくっ付いてたんだね」
ホーエルは驚く。
「コウ殿がリシェ殿の顔面にばかり魔法を当てていたのは、斯かる理由があったからか」
エルムスは納得する。
「ゆんっゆんっゆんっゆんっゆんっゆんっゆんっゆんっ!」
子供は左右に揺れる。
「か……っ、可っ愛え~~っっ!!」
ワーシュは叫ぶ。
「あれって、もしかして……、ラカールラカ様じゃねぇか?」
小男はラカールラカを指差す。
数十人はざわつく。
リシェはワーシュを見る。
「ほ?」
ワーシュは自分を指差す。
リシェは近寄る。
リシェはラカールラカを引き剥がす。
「ぴゅ~?」
ラカールラカはワーシュを見る。
ワーシュは両手を差し出す。
リシェは曲がる。
「んぁ……?」
コルクスは放心する。
「メイムさんよりも、ラヴェンナさんのほうが具合が良さそうですね」
リシェはコルクスにラカールラカをくっ付ける。
「『まなまな』」
ラカールラカは言う。
「ーーこれは、素直に驚きました。百と同じ、十七番です。ラヴェンナさん、終わるまでラカをお願いします」
リシェは頼む。
「っ!」
コルクスは三度頷く。
リシェは戻る。
「うぉっ、もしかしてこれ、ペルンギーの宝石か?」
コルクスはラカールラカを撫でる。
「コルクス、あんた……」
ワーシュはコルクスを見る。
「風竜のお尻をもみもみなんてっ! うらやまけしからんっ!!」
ワーシュは叫ぶ。
「くっ、噂じゃ『風竜の尻』は、竜の国の『七祝福』の一つらしいぜ。お、俺も撫でてもいいか?」
小男はラカールラカに近付く。
ワーシュは手を伸ばす。
周囲はざわつく。
「止めておけ。竜の国には、幾つかの暗黙の了解のようなものがあるらしい。『祝福』とは与えられるものであって、求めるものではない。風竜様に査定していただけるまで、我慢することだ」
大男はラカールラカを見る。
小男は諦める。
ワーシュは手を引っ込める。
「って、まさか! もうラカールラカ様に査定してもらったのか!?」
小男は大男を見る。
「ふっ」
大男は笑う。
「一巡り前に、煙突に嵌まっていた風竜様を助けた。『へこへこ』の、……六十八番だった」
大男は落ち込む。
「そ、そうか、元気出せ」
小男は大男を慰める。
「ストーフグレフ王との闘いでは、素手で魔法剣を弾いていたと聞いている。武具は、必要ないのか?」
ナードは尋ねる。
「その様子ですと、剣での闘いのほうが好ましいようですね。ーーそろそろかな」
リシェは空を見る。
「皆さん。冷気に備えてください」
リシェは警告する。
女は空から落下する。
女は着地する。
女は冷気を纏う。
撒き散らされる冷気。
「なっ、何!?」
ワーシュは「結界」を張る。
「結界」は崩れる。
「ほ……? 絶世の氷の美女?」
ワーシュは女を見る。
「……でも、何だか怖そうな女性だね」
ホーエルは一歩退く。
「初めまして、私はリシェ家の者で、レイと申しますわ。お見知り置きを」
レイは一礼する。
数十人は魅了される。
「なーに、コルクス~、見惚れてちゃって~。風竜だけで満足しときなさいよ~」
ワーシュはラカールラカを掴む。
僕とエルムスはワーシュの手を掴む。
「くっ、皆っ、酷いわ!」
ワーシュは喚く。
「いやいや、美女に目を奪われなかったら男、じゃなくて人間……でもなくて、生き物じゃねぇだろ」
コルクスはレイを見る。
「コルクスの言いたいことはわかる。彼女は、ーー私たちとは根本的に何かが異なるような気がする」
エルムスはレイを見る。
「何をしているのですか?」
少女は現れる。
「うっわ~、今度は絶世の美少女よ」
ワーシュは少女を見る。
周囲はざわつく。
「あら、小娘。ふふっ、序でだから、小娘も名乗ったらどうですわ?」
レイは笑う。
少女はレイから目を逸らす。
「私は、侍従次長のカレン・ファスファールです。騒ぎの首謀者は、ーーどうせあなたなのでしょう、ランル・リシェ」
ファスファールはリシェを睨む。
「えっと、合流はもう少し後だったはずだけど」
リシェは頭を掻く。
「仕事が早く終わったので、雷竜で休憩を取ろうと思って来てみたら、これです。あなたは厄介事を持ち込まないと物事を進められないのですか?」
ファスファールは剣を按ずる。
「えっと、カレン。……代わる?」
リシェは提案する。
ファスファールは悩む。
「冗談は止めてくれ。侍従次長が強いことはわかる。だが、俺が望んでいるのは『大陸三強』の一角である侍従長との一闘だ」
ナードはリシェを見る。
レイはリシェに片手剣を渡す。
レイは小盾を差し出す。
リシェは首を振る。
レイは離れる。
「それが『折れない剣』か。ーー確かに、禍々しい」
ナードは笑う。
「まぁ、魔剣なんですけど、剣が可愛そうなのでそんなこと言わないであげてください。ーー一合で終わらせるつもりなので、小盾は使いません」
リシェは剣を構える。
「竜に挑むようなものだ。当然、最初から全力でいく」
ナードは剣を肩に担ぐ。
「様式美というものですわね。私が始まりの氷を割ってやりますわ」
レイは球を作る。
「リシェさんだけじゃなくて、レイさんもヤバいわ。あの球、どうやって作ったのか、あたしにはまったくわからないわ」
ワーシュは煤ける。
「そーなんか? ただの透明な球にしか見えねぇんだが」
コルクスはワーシュを見る。
「たぶん、あの女性も、リシェ君が言っていた『規格外』の一人なんだろうね」
ホーエルはレイを見る。
「ひゅ~。こんの魔力は裏返ってるから、感知が難しいのあ」
ラカールラカは説明する。
皆はラカールラカを見る。
レイは球を落とす。
球は割れる。
ナードは魔力を纏う。
「ふっ、ぜぇああっ!!」
ナードは剣を振り下ろす。
リシェは剣を受ける。
リシェは剣身に掌を当てる。
リシェはナードの懐に入る。
ナードは剣から左手を離す。
リシェは柄頭をナードの右手に当てる。
リシェはナードにぶつかる。
ナードは剣を落とす。
「ぎぃっ、まだだ!!」
ナードは左手を伸ばす。
ナードは転ぶ。
リシェは剣を下ろす。
ナードは体から力を抜く。
数十人は喚声を上げる。
リシェは皆に近寄る。
レイとファスファールはリシェを追う。
「ーー最後、何があった?」
大男は尋ねる。
「足を滑らせた……感じじゃなかったが……あぁ…? じ…侍従長がこっちに来る!?」
小男は驚く。
大男と小男は皆から離れる。
皆は圧倒される。
「アーシュさんは、どこまで見えましたか?」
リシェは尋ねる。
「掌を剣に当てた。懐に入って左手を狙うと見せ掛け、利き手の右手に柄頭を当てる。利き手を狙ったのは、左手で攻撃させる為。利き手ではないので、注意力が散漫になる。あとは棒となったリシェにぶつかってナードは倒れた」
僕は答える。
「あらま。小娘でもわからなかったのに、中々見所があるのですわ」
レイは笑う。
「見えていましたし、予測も出来ます。フィア様やあの男の体術でしょう。実戦で使えるほどに練磨していたことには驚きましたが」
ファスファールはリシェを見る。
「二人には散々遣られたからね。フィンと鍛錬していたときに一気に技が向上してしまったから、誇れるものじゃないんだけど」
リシェはファスファールを見る。
「んん~? 棒とか言ってたけど、どーゆーことなの?」
ワーシュは尋ねる。
「棒というのは、譬え。リシェは、ナードの動きを予測した。棒のように体を固め、踏ん張った。ナードは気づかず踏み込み、体勢を崩して転ぶことになった。外から見ると、自滅したような感じになる」
僕は説明する。
「なっ!? ……消えた?」
小男は周囲を見る。
「魔力は感じられない。『転移』か?」
大男は推測する。
「見世物は終わりということだ。解散しろ」
ナードは呼び掛ける。
数十人は立ち去る。
「怪我はどうした?」
大男は尋ねる。
「気付いたら治っていた。侍従長かレイという女性の仕業だろう」
ナードは右手を見せる。
ナードはリシェに近寄る。
大男は離れる。
「もはや、わけがわからん。俺にだけ、見えているなど。『結界』ではない、高度な魔法が使われているのか?」
ナードは尋ねる。
「大したことはないですわ。高度な魔法を使っているのではなく、複数の魔法を効果的に組み合わせていますわ。ただ魔力を注ぎ捲る魔法など、美しくないのですわ。あの娘には出来ないことですから、あとで実演して悔しがらせてやるのですわ」
レイはリシェに腕を絡める。
ナードは僕を見る。
「僕はリシェとは違う。闘わない」
僕はナードを見る。
「別に、気になっただけだ。闘いたいとは思わない」
ナードはリシェを見る。
レイはナードを見る。
「ふふりふふり、勘は良いようですわね。ーー面白いですわ」
レイは僕を見る。
「ナードさん。体の内で仔炎竜が大暴れなら、竜騎士団団長のエンさんに申し入れてください。彼なら、炎竜の飼い馴らし方、ではなく、仔炎竜と一緒に遊ぶ方法を教えてくれると思います。炎竜祭の後なら、機会も得易くなるでしょう」
リシェは提案する。
「ーーそれだけの強さを持っているのに、闘いを求めないのか。大丈夫だ、もう侍従長とは闘えない。……この刻まれた恐怖を克服しない限り、立ち向かえない」
ナードはリシェを見る。
ナードは立ち去る。
リシェは溜め息を吐く。
「ふふっ、あれが戦士という種族ですわね。心を折られたのに、またリシェと闘う気満々ですわ」
レイは笑う。
「びゅー。りえはもっと力の制御をちゃんとすう。そうしないと勘がいい相手の心を壊すのあ」
ラカールラカは叱る。
リシェは凹む。
「制御って、リシェさんは本気じゃなかったってこと?」
ワーシュは尋ねる。
皆は驚く。
ホーエルは手を伸ばす。
レイはホーエルを見る。
ホーエルは止まる。
「東域の一件で、僕の内側が乱れているんです。落ち着くのを待つと同時に、何が出来るのか確かめているところです。メイムさんが疑問に感じたのも当然だと思います。僕の力というのは変則的に過ぎて、対等な条件で闘う、というのが難しいのです。ただ、目指すべきところは何となく見えているので、僕は今より、強くならなくてはなりません」
リシェは答える。
「ぴゅ~」
ラカールラカはコルクスから離れる。
コルクスはラカールラカを捕まえる。
「ぴゅ?」
ラカールラカは振り返る。
コルクスはラカールラカを見る。
「ーーコルクス。駄目よ、気に入ったからって、団じゃ飼えないの。ちゃんと飼い主に返してきなさい」
ワーシュは威張る。
「びゃ~。わえはりえのものじゃなー」
ラカールラカは拗ねる。
コルクスはラカールラカを押す。
「アホなこと言ってんな。お前も査定してもらえ」
コルクスは目を逸らす。
「きゃは~っ! おいでませっ、風竜!!」
ワーシュは両腕を広げる。
ホーエルはラカールラカを捕まえる。
ホーエルはラカールラカをエルムスにくっ付ける。
エルムスは驚く。
「『ほぼほぼ』」
ラカールラカは査定する。
「ホーエルっ! ずっこいっずっこいっ、ずっこいっこいっ!」
ワーシュは怒る。
「ワーシュは少し、反省してね」
ホーエルは笑う。
「五十六番です。大抵、四十番から六十番になるので、良くも悪くもなく、ですね」
リシェは説明する。
「そうなると、コルクスはラカールラカ様から、大いに気に入られたということか」
エルムスはラカールラカをホーエルにくっ付ける。
「『さこさこ』」
ラカールラカは査定する。
「四十六番です」
リシェは言う。
「悪い番号じゃなくて良かった。次は、ライルの番だね」
ホーエルはラカールラカを引き剥がす。
ワーシュは魔法を使う。
ワーシュはラカールラカを奪い取る。
ワーシュはラカールラカを抱き締める。
ワーシュはラカールラカを撫でる。
ワーシュはラカールラカを舐める。
ワーシュはラカールラカを噛む。
「がーっ! このっ漏れ漏れ女がっ! 少しは欲望を引っ込めろ!」
コルクスはラカールラカを掴む。
「『べとべと』」
ラカールラカは査定する。
ワーシュとコルクスはリシェを見る。
「意外です。ラカは炎と相性がいい傾向があるので、メイムさんは平均以上かと思っていたのですが、ーー八十一番です」
リシェは驚く。
「ちょっ、コルクスっ、あんたの所為よ! もう一度っ! もーいっちどっ! ちゃんと査定して!!」
ワーシュはコルクスを睨む。
ワーシュはラカールラカの角を掴む。
ワーシュはラカールラカを振り回す。
「ふふん? 『銀嶺』の娘が気付いたようですわ」
レイは笑う。
「『銀嶺』というと、レイが言っていた魔香の? ダニステイルが凄いのか、あの娘が優れているのか、レイの魔法を感知出来るのならーー」
リシェは少女を見る。
少女は近寄る。
「ふふっ、悪巧みかしら、リシェ?」
レイはリシェの首に腕を絡める。
ファスファールはリシェを睨む。
「悪巧みは最初からしてるんだけどね。纏め役からも頼まれているし、コウさんだけでは不安だから、僕も動かないといけないかな」
リシェは皆を見る。
リシェは少女を見る。
皆は少女を見る。
少女は止まる。
少女は探る。
「あたしより二つくらい下かな。可愛い、というよりは、綺麗な娘ね。真面目、というよりは、優等生? 魔法使いみたいな恰好してるけど、何というか、ーーオシャレ?」
ワーシュは首を傾げる。
「ダニステイルでの、若い者の間での流行りですわ。魔法使いは地味。それに我慢できない者が、魔法使いとわかる範囲で様々に工夫していった結果ーー大人たちが折れた、ということのようですわね」
レイは説明する。
少女は諦める。
「あのっ、魔法を行使している方! 解法をお願いします!」
少女は頼む。
レイは魔法を解く。
少女は驚く。
「以前、見掛けたことがあります。ミャン・ポンのーーあの問題娘の知り合いですか?」
リシェは尋ねる。
「え? あっ、はい! ミャンの先導役で、リャナ・シィリです!」
シィリは頭を下げる。
「あら、あの問題魔の先導役なんて、随分と信頼されていますわね」
レイは笑う。
「やっぱ竜の国は凄いわね。あたしじゃレイさんの魔法に気付けなかったもの」
ワーシュは褒める。
「いえ、そんなっ、あたしなんて……」
シィリは項垂れる。
シィリはぶれる。
光より明るい透明。
透明はシィリから溢れる。
呑まれる。
重なる。
触れる。
奏でる。
すべては透明に染まる。
シィリは笑っていた。
嬉しそうに笑っていた。
幸せそうに笑っていた。
シィリは泣いていた。
約束した。
上手くいかなかった。
シィリは諦めなかった。
大切だった。
軋んだ。
シィリは見失った。
シィリは歩いていた。
シィリはーー。
リャナはーー。
透明は解けた。
「え……?」
リャナは呆然と僕を見上げた。
「ちょちょっ、ライルっ、何してるの!?」
ワーシュは仰天する。
ワーシュはラカールラカを上下に揺さ振る。
「こうして、欲しかったんだよね」
僕はリャナの頭を優しく撫でる。
リャナは空色の目から涙を零す。
「っ……、……はい」
リャナは自然と言葉を漏らした。
僕はリャナの目を真っ直ぐに見る。
「リャナは頑張っているよ。魔法が上手くなる度に、お祖母さんは褒めてくれた。でも、頭を撫でてくれたお祖母さんは、天の国へと旅立ってしまった。お祖母さんは、リャナが上手く出来ていたから褒めていたのではない。リャナが一生懸命だったから、リャナが楽しそうだったから、お祖母さんは嬉しかった。上手く出来なくても、お祖母さんは哀しまない。リャナが魔法が好きで、笑っていてくれれば、お祖母さんは喜んでくれる」
僕は言葉を伝えた。
リャナは不思議そうな顔をする。
リャナは手を胸に持っていく。
「ふがーっ! リャナを苛めて泣かすとはっ、何たる極悪人かーっ! 天竜が許してもっ、このミャン・ポンが許さんぞーーっっ!!」
ポンは杖に跨がって飛んでいた。
皆は空を見上げる。
コウは十本の「火矢」を放つ。
ポンは淡い光を指に宿す。
ポンは指で杖に書き込んでいく。
ポンは急速に上昇した。
コウは十本の「雷矢」を放つ。
「ミャン・ポンって娘を追ってるのは、コウちゃんのようね。うーわー、魔法使い同士の空中戦とか、初めて見たわー」
ワーシュは乾いた笑いを漏らす。
「とはいえ、実力差が竜ほどありますから、あれは実戦的な訓練みたいなものですね。……レイ、悪戯は程々にね」
リシェはレイの頬を撫でる。
レイは幸せそうに微笑む。
「ミャン! 今度は何をしたの!」
リャナは慌てて涙を拭う。
「侍従長も平伏すっ、魔女蹴りを食らうがいーーっっ!!」
ポンはリャナの言葉を聞いていない。
ポンは斜めに落ちてくる。
リシェは二歩下がった。
僕は二歩前に出た。
前にはリャナが居る。
僕はリャナを抱き抱えて前に進む。
「勝利の聖炎っ…ぎゃぺーーっっ!?」
ポンは僕の後ろを通り過ぎた。
ポンは墜落して転がっていく。
ポンは地面に突っ伏して止まる。
ポンはお尻を上げている。
ポンはそのまま固まっていた。
「ねぇ、皆。スカートが捲れて、丸見えなのよ。目を逸らしなさいよ」
ワーシュは皆に命令する。
ポンの下着には満面の笑みのみーが描かれている。
「いや、まぁ、そーなんだけどよ。目ぇ逸らしたら、まるであれを意識してるみてぇになっちまうじゃねぇか」
コルクスはポンを指差す。
「みゃ…みゃみゃみゃみゃみゃみゃみゃみゃっ、ミャンっ!?」
リャナは弾けるように僕から離れて手を振る。
ポンのスカートは風に吹かれたように動く。
「おややん? 今のはシィリちゃんの魔法なの?」
ワーシュはラカールラカを回転させる。
「あっ、はい。そうで…すっ……」
リャナは僕を見て炎竜のように赤くなった。
コウは音もなく着地する。
ミャンは全力で逃走。
コウは魔法を行使する。
光の円は拡がってミャンに当たる。
円の線は生き物のようにミャンに絡み付く。
「リシェさんっ、何でポンさんの味方…を……?」
コウは苦笑いのリシェを見る。
コウは視線をレイに向けて脅える。
レイは極寒の笑みを浮かべた。
「シィリさん。ファタさんのところで働いているダニステイルというのは、あなただったのですね」
リシェはコウからリャナに視線を移す。
「それなのですが……。ファタ様は先程、急用が出来たと言って、……出ていきました」
リャナは申し訳なさそうな顔をする。
「はは、シィリさんの所為ではないので、気にしないでください。へー、ほー、ふーん? ファタさんは逃げたんですか、そうですか、そうなのですか、くっくっくっ」
リシェは邪竜のように笑った。
「えっと、カレン。ラカを貸してあげるから、一人と一竜で進めておいてくれるかな?」
リシェは下手に出る。
レイとファスファールは視線をぶつけ合う。
「ぴゃっ!? りえっ、りえっ、りえっ!」
ラカールラカは慌ててワーシュの腕から抜け出ようとする。
リシェとレイは忽然と消える。
「ひゅー」
ラカールラカは風を失ったように萎れた。
「では、ラカールラカ様をお預かりします」
ファスファールは優雅に進み出る。
「あ、はい……」
ワーシュは素直にラカールラカを渡した。
ラカールラカはファスファールの胸で不貞寝する。
ファスファールはコウに一礼する。
コウは羨ましそうにラカールラカとファスファールを見る。
ファスファールは冒険者たちの視線を集めながら去っていく。
「くぉ~、女としての格の違いを見せつけられちゃったって感じね~」
ワーシュはラカールラカを手放したことを悔しがる。
「あ、思い出した。彼女は、リシェ君が言っていた〝目〟の一人だね。ああいう人を、才媛って言うのかな」
ホーエルはワーシュを気遣う。
「『侍従長の花嫁』とかいう噂もあったけど、そんな感じじゃなかったな」
コルクスは所感を述べる。
「リシェさんが迷惑を掛けると思いますが、何かあったら私に言ってください」
コウは真摯に頭を下げる。
「って、コウちゃんっ、そんなことしなくても大丈夫だって!」
ワーシュは勢いよくコウに抱き付く。
「シィリさん。あとは冒険者の皆さんをお願いなのです」
コウはリャナの手を取って微笑む。
「はっ、はい! フィア様!」
リャナは大慌てで三度頷く。
「フィア……様?」
ワーシュは腕の中のコウを見た。
「はい。私は、竜の国、グリングロウ国の王様を務めている、コウ・ファウ・フィアと申します」
コウは﨟長けた振る舞いで微笑む。
コルクスとホーエルは速攻でワーシュを回収した。
「今後、厳しく躾けますので、どうかお許しいただきたい」
エルムスは頭を下げようとしてコウに止められる。
「竜の国では、皆が同等なのです。敬意は、地位にではなく、その人自身に払ってください。私は、メイムさんに期待していますし、……それに、竜の国にはもっとアレな人が幾人も居るので慣れています」
コウは柔らかな笑みを浮かべる。
「了承しました。感謝いたします」
エルムスはお腹に手を当てて頭を下げた。
エルムスはコウ自身に敬意を示す。
「ぎゃ~っ、いつまで我はこのままなのだーっ!」
ポンは暴れ出した。
コウは「転移」でポンの許に移動する。
「ふどぁっ!? い~や~っ、『おしおき』はっ、い~や~っ! 今度こそ迷宮にぃ~~」
ポンはコウの魔法で一緒に飛び立っていく。
「竜地の暗黒竜から出るには、許可があれば大丈夫なのですが、まだ迷宮に入るのは許されていないので、ああなってしまいました」
リャナは困った様子で溜め息を吐く。
「悪い子ではないのですが、盲目的というか一直線というか考えなしというか竜は振り返らないというか、夢を追い過ぎてちぐはぐなことになってしまっています」
リャナはポンが飛んでいった先を複雑な視線で眺める。
「夢?」
ワーシュは遠慮なく尋ねる。
「それは、あたしの口からは言えません。ミャンから聞いてください。あの子は、喜んで話してくれますので」
リャナは苦笑いのまま振り返る。
リャナは僕を見て直ぐに目を逸らす。
「で、では皆さんっ、登録と説明を行いますので、雷所まで付いてきてくださいっ」
リャナは足早に歩いていく。
皆は顔を見合わせてから僕を見る。
僕はリャナのあとを追った。
皆は僕のあとを追った。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
あなたのことなんて、もうどうでもいいです
もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。
元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜
平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。
だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。
流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!?
魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。
そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…?
完結済全6話
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる