竜の国の異邦人

風結

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南の竜道

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 山腹の街道。
 針葉樹の林を抜ける。
 景色が開ける。
 急峻な坂道。
「え~んっ、りゅ~っ!!」
 ワーシュは叫ぶ。
「はぁ、何だ、その呼び声は」
 コルクスは呆れる。
「まぁまぁ、いいんじゃないかな。やっと竜の国に着いたわけだしね」
 ホーエルは宥める。
「何よ~、ほ~ら、皆もやってみなって! 気持ちいいわよ!」
 ワーシュは笑う。
 皆はやらない。
 ホーエルは頭を掻く。
「ひょ~っっ、りゅ~~っっ!!」
 ホーエルは叫ぶ。
「って、でかっ!? 声っ、でかいって!」
 コルクスは耳を塞ぐ。
「そ、そうかな、ごめんよ」
 ホーエルは謝る。
「竜の感覚は人間とは比較にならないくらい鋭敏らしいから、耳朶じだにした炎竜と氷竜が遣って来るかもしれない」
 エルムスは空を見る。
 皆は空を見る。
 空の半分は雲。
「いー天気だな」
 コルクスは言う。
「そうねぇ、暑い時期をだいぶ過ぎたけど、まだ太陽さんも元気よねぇ」
 ワーシュは溜め息を吐く。
「竜の国ーーグリングロウ国は、ここよりは涼しいはず」
 エルムスは慰める。
「うーん、そうなんだけどね……」
 ワーシュは坂道を見る。
 蛇行した道。
 先には直線の道。
「どうせ疲れるのなら、一気に行っちゃおう!」
 ワーシュは歩き出す。
 皆は諦める。
「山麓の街道の捷路しょうろらしいけど、あまり人はいなかったね」
 ホーエルは振り返る。
「山脈に住まう魔物の襲撃が今もあると、噂になっているようだ」
 エルムスは周囲を見る。
「新興国の割には、綺麗に整備されてんな」
 コルクスは感心する。
 凹凸の少ない道。
「な~にを、偉そうに! あんたの所為で、乗合馬車に乗れなかったんだからね! 足を地竜にして歩く破目になったんじゃない!」
 ワーシュは指を突き付ける。
「さ~て、何のことだったかな~?」
 コルクスは視線を逸らす。
「情報収集の序での、賭け事。お陰で、旅費を稼ぐ為に依頼を一つ受けなければならなかった。反省がないようなら、一日、遅れたから、一発」
 エルムスは沙汰さたする。
 ホーエルは拳を振り上げる。
「反省した! 反省しまくりだからっ、ゲンコはなしだ!」
 コルクスは逃げる。
「コルクス。足元」
 僕は言う。
 陥没した地面。
「え?」
 コルクスは躓く。
「おっ?」
 コルクスは驚く。
 謎存在はコルクスを支える。
 謎存在の肩の上に謎存在。
「ととっ、すんません、ありが……?」
 コルクスは黙る。
「きゃあ~っ、何これっ、何これ!」
 ワーシュはコルクスを押し退ける。
 ワーシュは謎存在を抱き締める。
 下の謎存在は手を振る。
 上の謎存在は固まる。
「こら、駄目だよ、ワーシュ。二人がどうしたらいいか、困ってるじゃないか」
 ホーエルは謎存在からワーシュを引き剥がす。
「……はっ。と、……彼らが噂の、ゴーレムーー魔法人形ミニレム?」
 エルムスは特定する。
 ミニレムは走る。
 六体のミニレムは並んで一礼。
「きゃは~っ!」
 ワーシュは感激する。
「噂通り、自立している? 額に数字と、魔力の供給の有無によっては、ーーどちらにしても、さすが『魔法王』が治める国ということか」
 エルムスは分析する。
「嬢ちゃん、元気がいいことだ。行き先はグリングロウ国かい?」
 男は椅子を動かす。
 椅子には車輪。
「はっ! おじさんは若しや、ミニレム使い!?」
 ワーシュは尋ねる。
 ホーエルはワーシュの頭を掴む。
「失礼しました。炎竜のように元気な娘でして」
 ワーシュとホーエルは頭を下げる。
「いだいっいだいっ、いだいって~、ホーエルの馬鹿力~!」
 ワーシュは暴れる。
「はは、『炎竜のように』なんて言われちまったら怒るに怒れないな」
 男は笑う。
「どうした、嬢ちゃん? 気になるかい?」
 男は膝を叩く。
 男の両膝から下はない。
「と、そうだった。俺は案内役だよ」
 男は言う。
「領有権の問題ですか?」
 エルムスは周囲を見る。
「へぇ、兄ちゃん、頭いいな。南の竜道の外は、竜の国の領土じゃないんだ。領有権を主張しないのと引き換えに、一帯を整備する許可を貰ってる。案内役の俺も見逃して貰ってる口だな」
 男は説明する。
「若い、冒険者のパーティーーーってことなら、元冒険者の失敗談を聞いてくかい?」
 男は提案する。
「狡っこいわ、おじさん! そんな風に言われたら、風竜だって翼を休めちゃうわ!」
 ワーシュは荷物を下ろす。
 ワーシュはミニレムを抱え上げる。
 ワーシュは荷物に座る。
 皆は荷物を下ろす。
 五体のミニレムは遊び始める。
「五周期前か。俺は、そこそこ大きな団の副団長だった。一つの村を壊滅させた魔物の、討伐の依頼だった。最近知ったんだが、鉤爪の巨大な豚人族オークで、巨鬼ーーオーグルーガーという魔物だ」
 男は話す。
「オーグルーガー? 初めて聞きます」
 エルムスは首を傾げる。
「少し前に、『氷焔』が登録したらしい。フィア様たちは四十体を殲滅したらしいんだけどな、俺たちはーー。三体で、半分の二十人が戦線離脱の有様だった。二体を倒したんだが、最後の一体が囲みを抜けて逃げた。逃がせば、また被害が出る。……だから、俺は巨鬼を追った」
 男は空を見る。
「『氷焔』というのは『魔法王』と、『火焔』と『薄氷』ーー現在のグリングロウ国の枢要と聞いていますが」
 エルムスは尋ねる。
「そのときには侍従長も『氷焔』に加入してたみたいだな。と、話の続きだが、そのとき俺は追い掛けるのに必死で気づいてなかったんだ。国境を越えて、隣国に入ってた」
 男はミニレムの頭を撫でる。
「ーー無許可。とはいえ魔物を追ってのことですから、情状酌量の余地があるのではないですか?」
 エルムスは尋ねる。
 男は頷く。
「巨鬼は崖から沼地に落ちた。蛮勇とは言えないくらいに、腕に自信はあった。巨鬼の動きを予測して、飛び下りて、ーー止めを刺すことが出来た。……それから隣国の村人たちが遣って来て、治療をしてくれたんだが」
 男は膝を見る。
「沼地に、何か問題があったのですか」
 エルムスは尋ねる。
「村人が言うには、沼地の小さな虫が原因らしいな。……結局、あいつにーー団長に嫌な役目を押し付けちまった。本来なら組合ギルドで働き口があるらしいんだが、隣国が越境を許してくれなくてな。それでも何とかなるって思ってたんだが、ーーしばらくしてから無くなっちまったはずの足が痛んで、どうにもならなくて、職にありつくことも出来なくて、……気づけば同盟国の城街地で死を待つだけだった」
 男は皆を見る。
「巨鬼を追ったことは後悔してない。ただ、正しかったのかどうかはわからない。村人を助けられたと、思う。団長の制止を振り切って突っ走っちまった。ーーとまぁ、そんな詰まらない話なんだが、実はな、俺が言いたいことは別にあるんだ」
 男は笑う。
 皆は黙る。
「竜の国に連れてこられても、無いはずの足が痛んだ。そんなとき一人の少女が遣って来て、俺の足に治癒魔法を掛けた。そんなことをしても無駄だと、俺はその魔法使いを殴り付けた。何度も何度もーー、……なのにな、まったく強情にも程がある、……その女の子は構わず、俺の汚れまくった醜い足を抱いて、治癒魔法を掛け続けたんだ」
 男は膝を触る。
「ーーそれから足は、痛まなくなった」
 男は警告する。
「『氷焔』が中心になって竜の国を造ったから、竜の民は冒険者には好意的だ。だがな、フィア様に、みー様に、悪意を向けようとする奴がいたら、俺のように、命を懸けてでも守るって奴が竜の国にはごまんといる」
 男は笑う。
「お前さんたちは大丈夫そうだが一応、心に留めておいてくれ」
 男は皆を見る。
「ようこそ、竜の国、グリングロウ国へ。ミニレムたちがお手伝いするから荷物を渡してやってくれ」
 ミニレムは皆に走り寄る。
 ミニレムは僕に近付かない。
 皆は僕を見る。
 男は驚く。
「……これは、驚いたな。侍従長だってミニレムには懐かれてるってのに……。兄ちゃん、何かあるのかいーー?」
 男は僕を見る。
 ミニレムは後退る。
 僕は荷物から離れる。
 ミニレムは近付く。
 ミニレムは荷物を持ち上げる。
 僕は一歩近付く。
 ミニレムは一歩退く。
「う~ん? まぁ、問題ないようだな。何かあるようなら翠緑宮に行って、事情を説明してやってくれ。フィア様か、……侍従長に伝わるはず」
 皆は男に頭を下げる。
 男は笑う。
 皆は坂を上る。
「ありゃりゃ~、ミニレムちゃんたち、ライルに近付いてこないわね~」
 ワーシュは僕を見る。
「魔力的な相性かもしれない。ライルの魔法の特性が関係している可能性がある」
 エルムスは推定する。
「んー? ところで、だけどさ。治癒魔法で痛みがなくなるってこと、あるのかな? というか、失った足が痛むとか、あるの?」
 ワーシュはエルムスを見る。
 皆はエルムスを見る。
「幻肢痛という言葉があるくらいだから、失った箇所が痛むことはあるのだろう」
 エルムスは説明する。
「へー、あのオッサン以外にもあるんだな」
 コルクスは振り返る。
「魔法のこととなると、正確にはわからないけれど。きっと彼は、少女ーー『魔法王』の行為ちりょうで受け容れることができたのだと思う。後悔はない、と言っても、心はそう割り切れるものではない。ーーこんな言い方は私らしくないとは思うけれど。魔力や魔法ではなく、『魔法王』の優しさが彼を癒やしたのだと思う」
 エルムスは振り返る。
「らしくない、なんてことはないよ。エルムスが優しいことは皆が知ってるから」
 ホーエルは笑う。
「っ……」
 エルムスは照れる。
 皆は笑顔になる。
 ワーシュはミニレムと遊ぶ。
 エルムスは呼吸が乱れる。
「もう少しだから、頑張って」
 ホーエルはエルムスの背中を押す。
「あり…がとう……」
 急峻な坂は終わる。
 先にはなだらかな坂。
 僕は止まる。
 皆はミニレムに近寄る。
「ありがとう」
 僕は言う。
 ミニレムは荷物を置く。
 ミニレムは両手を振る。
「くぅ~、お持ち帰りしたいけど~、また会おうね、三三三ささみちゃん!」
 ワーシュはささみと抱き合う。
 ささみは離れる。
 ささみは回転する。
 ささみは目を回す。
 ささみは坂から転げ落ちる。
 五体のミニレムは追う。
「オイオイ、大丈夫なのか? 全員が転げ落ちてってるぞ」
 コルクスは心配する。
「大丈夫……みたいね。ミニレムちゃんたちは元気に手を振ってくれてるし、おじさんも苦笑してるし」
 ワーシュは両手を振る。
 六体のミニレムははしゃぐ。
 皆は手を振る。
 皆は振り返る。
 皆は黙る。
「ーーあれが南の竜道なのね。聞いてはいたけど、……何か、現実感がないわね」
 ワーシュは見上げる。
 山脈に入った切れ目。
 奥は暗くて見えない。
 皆は黙る。
「あそこが受付のようだね」
 ホーエルはエルムスの背中を押す。
 皆は歩き出す。
「……冒険者を受け容れているらしいから、……当面は問題ないとは思うけれど」
 エルムスは溜め息を吐く。
「まっ、どうにかなるって!」
 コルクスは皆から離れる。
「ん~、でも、よくわからないのよねぇ。ストーフグレフ国じゃ仕事がないし、『新人は竜の国に行け』とか言われるし、そもそも迷宮って何って話なんだけど」
 ワーシュはコルクスを見る。
 皆はコルクスを見る。
「別に話してもいーんだけどよ。中途半端に聞くより、現地で聞いたほーがいーと思うぜ」
 コルクスは首を傾げる。
「そもそもねぇ、あんたが……」
 ワーシュは言葉を切る。
 台と二脚の椅子。
 岩壁に作られた部屋。
 受付の奥の扉が開く。
 少女は現れる。
「きゃあ~っ!」
 ワーシュは走る。
「エルムスを押しているから、お願いね、二人とも」
 ホーエルは僕とコルクスに頼む。
「がーっ! 下手すっと入国禁止になるかもしんねぇからな!」
 コルクスは走る。
 僕は追う。
「あたしはねっ、ワーシュ・メイム! 可愛い魔法使い子ちゃんのお名前は!」
 ワーシュは台に手を突く。
「だーっ! このっ駄々洩れ女がっ! 時と場所を弁えろ!」
 僕とコルクスはワーシュの肩を掴む。
 少女は驚く。
「はぁ~!? あんただけには言われたくないわ!」
 ワーシュは台から離れる。
 エルムスとホーエルは追い付く。
 謎存在は扉から現れる。
「コウさん。仕事はまだ終わっていませんよ」
 謎存在は不明瞭。
 薄黒い。
 悪意。
 皆は拒絶する。
「『炎蛇』っ!!」
 ワーシュは魔法を放つ。
 僕とホーエルは手を伸ばす。
 僕とホーエルは間に合わない。
「『炎蛇』ですか。初めて聞く魔法ですね」
 少年は手を前に出す。
 少年は皆の視線を見る。
 炎の蛇は少年の手に触れる。
 炎は消える。
「……は? へ、ほ……??」
 ワーシュは戸惑う。
「コウさんは、『炎蛇』という魔法を使えるんですか?」
 少年は尋ねる。
 竜の国の制服。
「同じ性質の魔法ものなら出来るのです」
 コウは魔法を放つ。
 炎の大蛇は少年の頭部に巻き付く。
 少年は魔力を籠める。
 炎は消える。
「むぅ~」
 コウは膨れる。
 コウは魔法を放つ。
「う、わ……」
 コルクスは狼狽える。
 コルクスは後退る。
 皆は少年から離れる。
「ど、どうなってるの? 高位魔法とかそんなんじゃないってくらいの、とんでもない魔法が全部、顔面に直撃してるんだけど……」
 ワーシュは戸惑う。
 皆は怯える。
「……あの笑顔が、気に障るんじゃないかな」
 ホーエルは大盾を構える。
 魔法は少年の顔面に当たる。
 魔法は消える。
 少年は笑う。
「……今日からあたし、魔法が得意とか、言うの止めるわ」
 ワーシュは嘆く。
「あっ」
 コウは皆を見る。
「よっ、ようこそ竜の国へ! よくいらっしゃいました!」
 コウは笑う。
「さすが『魔法王』が治める国ね。こんな小さな可愛い女の子なのに、あんな魔法を……。あたし、甘く見てたわ」
 ワーシュは落ち込む。
「落ち込まないでください。平均以上は竜の国にゴロゴロいますが、コウさんのような規格外はそう多くはいませんから」
 少年はコウの頭を撫でる。
「まぁ、こんな小さな女の子が、お子様が、竜も見逃すちびっ子が、周囲への影響も考えず魔法を使ってしまいましたが、これも幼い、未熟さ故のあやまちであると、どうか温かな心で見忘れてあげてください」
 少年はコウの頬を撫でる。
 コウは魔力を放つ。
 皆は慌てる。
「ふっ、二人は仲がいいんですね! どんな関係なんですか!」
 ワーシュは尋ねる。
「彼女は、僕の可愛いお嫁さんです。今、二人目の子供を身籠みごもっているところです」
 少年はコウのお腹を見る。
 皆はコウのお腹を見る。
「ふぇ……、ぶぅえっっ!?」
 コウは驚く。
 コウは魔力を空に放つ。
 魔力は上空で爆発する。
「初対面の方々だったので効果は上々のようですね。ああ、言わないとわからないかもしれないので敢えて言うのですが、僕とコウさんは夫婦ではありませんーー今のところは」
 少年はコウを見る。
 コウは少年を見る。
 少年は笑う。
「っ……」
 コウは魔力を漏らす。
「ほ? 雪……?」
 ワーシュは見上げる。
 黄金色の粒子。
「『祝福の淡雪』です。竜の国の『七祝福』の一つですので、存分に堪能してください」
 少年はコウの耳を揉む。
 コウは少年の手を弾く。
「ーーあったかい。何か、凄くほっとするような……」
 ワーシュは光雪を浴びる。
 皆は光雪を浴びる。
「こほんっ」
 コウは空咳をする。
「皆さんは、冒険者ですか?」
 コウは尋ねる。
「はい。『新人なら竜の国に行け』と勧められたので、ストーフグレフ国から遣って来ました」
 エルムスは答える。
「ストーフグレフ遣って来た、というのは本当のようですね。ですが、出身地はーー東域でしょう?」
 少年はエルムスを見る。
「何でわかっ……え?」
 ワーシュは空を見る。
「『星降』ーー直列なのです」
 コウは唱える。
 岩は少年の顔面に当たる。
 岩は消える。
 次々に飛来する。
 十回当たる。
 少年は笑う。
「リシェさんが粗相をしたので、謝ります」
 コウは頭を下げる。
「はい。では、こちらの紙に必要事項の記入をお願いします」
 リシェは紙を差し出す。
 コウはリシェを睨む。
 リシェは笑う。
 コウは膨れる。
 皆は顔を見合わせる。
 皆はエルムスを見る。
 エルムスは紙に記入する。
「あの、どうして東域出身だとわかったのかな?」
 ホーエルは尋ねる。
「僕は東域に行ったことがあります。また、東域出身の知り合いもいます。ちょっとした違いーーまぁ、勘のようなものですね。それが働くくらいには繋がりがあるということです。ただ、こちらの鈍感魔法使いがまったく気づいていなかったように、、ということはないでしょう」
 リシェは皆を見る。
 コウは溜め息を吐く。
 皆は黙る。
 エルムスは書き終わる。
 リシェは紙を持ち上げる。
 リシェは途中まで紙を破る。
「お願いがあります」
 リシェは笑う。
「『星降』ーー炎なのです」
 コウは唱える。
 炎岩はリシェの顔面に当たる。
 岩は消える。
「冒険者ということは、これから竜地の雷竜に向かうのですよね。そこまで僕も同行させてください」
 リシェは提案する。
 僕は一歩前に出る。
「『星降』……」
 コウは言葉を切る。
 コウは僕を見る。
「断る」
 僕はリシェを見る。
「そうですか。それは残念です」
 リシェは紙を破る。
「ちょっ、ちょお~と待ったぁ~!!」
 ワーシュは僕を押す。
 エルムスはワーシュに加勢する。
「気持ちはわかるっ! すっご~くわかるんだけどね! このままじゃ、あたしたち飢え死にしちゃうかもしれないの!?」
 ワーシュは詰め寄る。
「私も同じるが! 人生には多数決が必要なときもある!」
 エルムスは皆の顔を見る。
 皆は手を挙げる。
「わかった。皆に従う」
 僕は決める。
 リシェは紙を破くのを止める。
「というわけで、コウさん、お願いします」
 リシェは紙をコウに渡す。
「リシェさんが自分でやれば良いのです」
 コウは破れた箇所を指でなぞる。
「しゅ…『修復』の魔法……?」
 ワーシュは驚く。
 元通りの紙。
「では、行きましょうか」
 リシェは台を跳び越える。
「でっ、でも! リシェ…さんが一緒に来るってなると、コウちゃんが一人になっちゃうんじゃないかな!」
 ワーシュは抵抗する。
「受付の方が風邪を引いたので、僕たちは臨時です。直に交代の者が来るので、それまでコウさんには仕事をしてもらいます」
 リシェは振り返る。
 皆は扉の奥を見る。
 紙の束や書類。
「あれ……全部? それは~ちょっと~酷いような?」
 ワーシュは引き攣る。
 コウは三度頷く。
「あれは僕が纏めたもので、元々はあの十倍ありました。今日中に終わらなかったら、ーー夜は縄で縛るので楽しみにしていてください」
 リシェはコウを見る。
 コウは消える。
「『転移』ですよ」
 リシェは説明する。
 扉は閉まる。
「……いえ、もういいです」
 ワーシュは煤ける。
「南の竜道の入り口には、何もないんだね」
 ホーエルは尋ねる。
「坂の下で案内役の方に聞いたと思いますが、周辺国を刺激するのは控えています。お楽しみは南の竜道を抜けてからーーということです」
 リシェは歩き出す。
 皆は追う。
 暗い竜道。
 皆は入る。
「おっ?」
 コルクスは驚く。
 皆は目を閉じる。
 竜道は明るい。
「『光球』ってことは、『結界』?」
 ワーシュは周囲を見る。
「ええ、『結界』も、無数にある『光球』も、フィア様の魔法になります」
 リシェは乗合馬車に向かう。
「ひっ!? じ……」
 乗客はリシェを見る。
 リシェは言葉を遮る。
「心配しないでください。僕たちは次の定期便の到着を待ちますので」
 リシェは笑う。
「いやいやっ、俺たちは急ぎじゃないからっ、先にどうぞ!」
 五人の乗客は馬車から降りる。
 リシェは馬車に乗る。
「何をしているんです? 早く乗ってください」
 リシェは笑う。
 皆は顔を見合わせる。
 乗客は皆を見る。
「う~わ~、罠に捕らえられたギザマルを見る目を向けられてるわ~」
 ワーシュは呻く。
 僕は馬車に乗る。
「って、最初は俺が乗るって!」
 コルクスは僕を追う。
 馭者は引き攣る。
 リシェは馭者から離れる。
 リシェは席に座る。
 皆は席に座る。
 馬車は出発する。
「生きた情報というのは貴重なものです。東域からここまで遣って来た皆さんから情報を提供してもらいますので、色々と喋ってください」
 リシェは寛ぐ。
 皆はエルムスを見る。
 エルムスは溜め息を吐く。
「馬車の上部は開くようになっているんだよ。……精々、景色だけでも楽しんでくれな」
 馭者は皆を見る。
 コルクスは上部を開ける。
 光沢のある岩肌。
 闇を埋め尽くす「光球」。
「空の果てが、光で見えないのね」
 ワーシュは感嘆する。
「昼間の、星空みたいだね」
 ホーエルは感嘆する。
 対面から馬車。
 擦れ違う。
「あれあれ? 所々に箱のようなものがあるのね」
 ワーシュは窓の外を見る。
「何だ、今頃気づいたのか? 一定距離であるんだから、決まってんだろ?」
 コルクスは窓の外を見る。
「決まってるって、何がよ」
 ワーシュはコルクスを見る。
「生き物は、食ったら、どうするよ?」
 コルクスはワーシュを見る。
「そんなの……」
 ワーシュは言葉を切る。
「そーゆーこった」
 コルクスは笑う。
「ミニレムが巡回している」
 僕は言う。
「そうなの?」
 ワーシュは窓の外を見る。
「南の竜道は竜の国の大動脈ですので、色々と施してあります。ここを塞がれると、グリングロウ国は干上がってしまうでしょう。ただ、その場合は東の竜道の拡張や、西や北の竜道を造るなど案はありますがーー」
 リシェはエルムスを見る。
「防衛の面から、それは得策ではない。更に、周辺国に邪推させる機会を与える。『魔法王』や侍従長が居る間は良いが、将来まで見据えるなら浅慮に実行しないほうが良いと思う」
 エルムスは話す。
 ワーシュは寛ぐ。
「あー、そーだったわねー。竜の国には侍従長が居るんだったわねー。うっかり遭遇なんてしないわよね……と?」
 ワーシュは馭者を見る。
 馬車は揺れる。
「おっと、すまねぇ」
 馭者は謝る。
 馭者は首を振る。
「東域まで竜を漁りに来たっていう『邪毒王こまし』か? 『汚毒の繰り手』だとか言われてんだったっけか?」
 コルクスは言う。
「最悪よねぇ。ミースガルタンシェアリが居るのにー、氷竜と浮気してるんでしょー? 風竜を手籠めのコメコメだけじゃ飽き足らずー、地竜に悪戯してー、あっちこっちで竜とイチャイチャなんてー、灰になるまで焼かれちゃえばいーのにねー。あたしはねぇ、そーゆーちゃらんぽらんがねー、一番大っ嫌いなんだよねー」
 ワーシュは言う。
「噂だと、竜の国で簒奪を企んでるらしいぜ。王弟を傀儡にするとか明言してるらしいし。同盟国の反乱分子を気紛れで支援してぐちゃぐちゃにしようとしたり、ストーフグレフ国でも娯楽とか言って、国を分裂させようって謀略を巡らせたりしたみたいだな。東域ではあんま拾えなかったけど、竜漁りだけじゃなくて、『豪弓』を誑かしたりフフスルラニードの王族を追放して王子を甚振ったりと遣りたい放題だったらしいぜ」
 コルクスは言う。
「出遭うことはないと思うけど、どこを徘徊はいかいしてるかわからないから、特に主要施設では皆、本当に用心してね」
 ホーエルは心配する。
 皆は頷く。
「……『千竜賛歌』から、東域の反応はどうでしたか?」
 リシェは尋ねる。
「竜の宴ということで無論、話題になった。東域に来た際も同様。始めこそ混乱したが、自分には関係ないことだと日々の生活に埋もれていっている」
 エルムスは答える。
「って、そうよ! そーなのよ! 竜のすかしっぺの侍従長なんてどうでもいーのよ! そうっ、竜よ! リシェさんっ、噂のみー様に逢えますか!?」
 ワーシュは尋ねる。
「それでしたら、運が悪かったですね」
 リシェは両手を広げる。
「え? どなことどなこと天竜地竜?」
 ワーシュは尋ねる。
「フィフォノ様が、『辛抱堪らん』ということで侍従長に会いに行こうと飛び立ちました。一旦、制止したゲルブスリンク様でしたが、届け物があることを思い出され、二竜で飛び立とうとしたところ。三地竜のモルゲルガス様、ゼーレインバス様、ユピフルクシュナ様に頼まれ、パルファスナルメディカ様と共に三竜で竜の国に遣って来られました。そして昨日、一先ず東域に戻るということで、エイリアルファルステ様とランドリーズ様を含めた五竜で飛び立って行かれました」
 リシェは語る。
 ワーシュは口を開ける。
 ホーエルはワーシュの口を手で閉じる。
「……開いた口が塞がれちゃったわ」
 ワーシュは混乱する。
「はは、凄いね。聞き馴染んだ地名の、竜が本当に居るんだね。遠くからでも拝見したかったーーあ、いや……」
 ホーエルはコルクスを見る。
「ホーエル、駄目よ、甘やかしちゃ。言葉を濁さず、一日遅れたのはコルクスの所為だって、ちゃんと言わないと」
 ワーシュはコルクスを見る。
「そもそも竜が俺たちに会ってくれるわけがねぇだろ。噂のみー様なら会えるらしいから、それで満足しとけって」
 コルクスは窓の外を見る。
「あたしの優位属性は火だもの! 絶っ対っ、みー様と仲良くなれるわ!!」
 ワーシュは拳を振り上げる。
 コルクスはワーシュを見る。
「って、何よ、コルクス?」
 ワーシュはコルクスを睨む。
「いんや。ただ、程々にしとけよ? 『千竜賛歌』からこっち、大陸の奴らは緩んでるみたいだけどな、相手は竜だぞ。正直俺は、こんな危うい関係がいつまでも続くとは思ってねぇんだ」
 コルクスは心配する。
「そうだったね。皆のことを心配して、コルクスはエルムスに相談してたんだよね」
 ホーエルは腕を組む。
「って、いきなりバラすか!?」
 コルクスは慌てる。
「水竜を差し向けるようで気が引けるが、聞いて欲しい。コルクスの心配は尤もだ。だが、私は竜に関してはあまり心配していない。ーー核心は。この状況を作り出している者こそが危険なのだと思っている。その中心に居るのが『魔法王』と侍従長。就中なかんずく、竜人とも言われる侍従長は、ーー竜の有様まで侵害しているように感じられる。ーーあ」
 エルムスはリシェと馭者を見る。
 リシェはエルムスを見る。
「な、何か……?」
 エルムスは怖じ気る。
「いえ、竜の国は人材不足ですから、欲しいな、と思っただけです」
 リシェは笑う。
 リシェは僕を見る。
 皆は僕を見る。
「そうっ! エルムスは凄いんですって! ってわけで、ど~んと竜官ってのにしてあげてください!!」
 ワーシュは立ち上がる。
 エルムスは慌てる。
「そちらも運が悪かったですね。『騒乱』後に、〝目〟であった方を七人目の竜官に。八人目の、最後の竜官の席も、昨日の着任で埋まりました。竜の国で働いていただけるのでしたら次期竜官の候補か、幾つかまだ空席があるので竜地の代表を担っていただけると助かります」
 リシェは勧誘する。
「〝目〟……」
 エルムスは固まる。
 ワーシュはエルムスを見る。
 ワーシュはリシェを見る。
「リシェさんって只者じゃない気がするけど、〝目〟だったりする?」
 ワーシュは尋ねる。
 エルムスは驚く。
「はい。正解です。十五歳から認定試験を行えるので、〝目〟としては最年少の十六歳になります。序でに言うと、〝サイカ〟に至れるのは三十歳までです」
 リシェは頷く。
「って、ちょっと待て!? ……てことは、あんた……じゃなくてリシェさんは、侍従長……の知り合いなのか……?」
 コルクスは尋ねる。
 皆は固まる。
「心配しないでください。僕も、彼の行状には思うところがあるので、皆さんの言葉を、密告したりなどはいたしません」
 リシェは笑う。
 皆は安堵する。
「ただ、皆さんはもうわかっていると思いますが、ーー僕は嘘吐きです。それを勘案した上での発言を期待いたします」
 リシェは笑う。
 皆は黙る。
「それで、僕は〝目〟ですが、何かあるのでしょうか?」
 リシェはワーシュを見る。
「あ、あの、エルムスは十九歳なんだけど、〝サイカ〟になれます?」
 ワーシュは尋ねる。
「ワーシュ……、止めてくれ」
 エルムスは項垂れる。
「駄目よ、止めてあげない。もう王都ルーツェを出たんだから、好い加減うじうじ抱えてないで吐き出しちゃいなよ」
 ワーシュはエルムスを見る。
「エルナスから頼まれている」
 僕は言う。
「……ライル? 父から……?」
 エルムスは顔を上げる。
「エルナスは、エルムスに謝っていた。選定者は、エルムス・エイルハーンとエクーリ・イクリアの二人の候補から一人を選んだ。選ばれたのは、エルムス」
 僕は話す。
「……え?」
 エルムスは放心する。
「ええっ!? ちょっ、ちょっと待って! 選ばれたのは、イクリアって奴のほうじゃないの!?」
 ワーシュは驚く。
 皆は驚く。
「エルナスが断った。〝目〟に、〝サイカ〟になればクラスニールには帰ってこないだろうと。結果、イクリアが選ばれた。大切なことから目を逸らしていたと、エルナスは後悔していた。旅立つ前に、エルナスからことづかった」
 僕は伝える。
「父が……」
 エルムスは僕を見る。
「エルムスは、〝目〟になれなかったことを気にしていた。でも、そうではない。エルムスの抜けない棘となっていたのは、選ばれなかったこと。皆の期待を、裏切ってしまったこと。僕も皆も知っている。エルムスには、十分にその資格があったということを」
 僕はエルムスを見る。
「だから、可能性があるのなら試してみるのも悪くないと思う」
 僕はリシェを見る。
 皆はリシェを見る。
「〝サイカ〟の里長は寛容で諧謔かいぎゃくをも好む、懐の深い人物です。僕と、竜官である〝目〟のエーリアさん。それと、同じく〝目〟である侍従次長のカレン。この三人に勝ち、且つ僕の師匠ーー老師に認められれば、認定試験への道は拓けます」
 リシェは説明する。
「無理?」
 ワーシュは皆を見る。
「無理だろ?」
 コルクスは首を傾げる。
「でもでも、やってみないとわからないよ?」
 ホーエルは頭を掻く。
「いや、大丈夫だ。今すぐは無理だが、自分自身が、つかえていたものが、見えた。もう、〝目〟に拘りはない」
 エルムスは答える。
「まぁ、それでもアーシュさんが言ったように、機会はあってもいいでしょう。〝目〟の三人と話すのは、お互いに刺激となるかもしれません。老師は『氷焔』の師匠でもあるので様々な知見が得られるでしょう」
 リシェは提案する。
「あっ!」
 ワーシュはリシェを見る。
「どうかしましたか?」
 リシェは尋ねる。
「え~と、その、あたしたち普通に馬車に乗っちゃったけど、……噂通り、乗合馬車はタダなのよね? それとももしかして竜も逆立ちで、竜道だけは有料……とか?」
 ワーシュは尋ねる。
「はは、大丈夫です。噂通りに無料です」
 リシェは答える。
「でも、無料は凄いね。財政は大丈夫なのかな?」
 ホーエルは尋ねる。
「竜の国は、他国と体制が異なるところがあります。役割や役目に違いはあれど、竜の民は同等なのです。これは国家機密になりますが、竜の国の王様であるフィア様は、姉であるクグルユルセニフ宰相から給金をーーお小遣いを貰っているのです」
 リシェは話す。
「お、お小遣い?」
 ホーエルは驚く。
「ええ、他にも、魔工技術長官である双子も侍従次長からお小遣いを貰っていますし、魔法団の隊長でミニレム使いの少女も、十六歳になるか結婚するまでは、給金は母親が管理するそうです」
 リシェは説明する。
「おっ、お~、そんな若い子まで重職に就いてるのねぇ」
 ワーシュは驚く。
「ワーシュさんは、僕と同周期くらいですよね? でしたら三人の少女は、あなたより下の周期になります。彼女たちには二つ名も付いていますので、もしかしたら仄聞そくぶんしたことがあるかもしれません。『風竜の双巫女』と『爆焔の治癒術師』です」
 リシェは話す。
「を? 『聖女』様って、竜の国の人だったのか」
 コルクスは驚く。
「『聖女』ーーですか?」
 リシェは首を傾げる。
「『聖女』とは、『双巫女』のこと。侍従長をーーよこしまなる者を追い払ったとして、一部で崇められている。中央側の『戦士像』と『賢者像』に対抗し、『聖女像』を建てようと草の海に隣接する国々が、フフスルラニード国と共に画策しているようだ」
 エルムスは説明する。
「ああ、そういえばフフスルラニードは南西イマルネにありましたね……」
 リシェは黙考する。
「草の海を渡ったときは緊張したけど、特に何もなかったもんね~。逆に拍子抜けしたくらい?」
 ワーシュは笑う。
「ま、中央からしたら侵略者を撃退した大勝利ってことで、余裕なんだろ。東域側おれたちのほーが、大敗北ってことで引き摺っちまってるだけだな」
 コルクスは溜め息を吐く。
「そーよね。中央こっちじゃ、エルクって言ったって何のことかもわからないでしょうしねぇーーて、ん? な~んか、この馬車、凄く乗り心地がよくない?」
 ワーシュは馭者を見る。
「おっ、やっと気づいてくれたかい? フィア様のお陰で、他んとことは一味違うものになっているんだ」
 馭者は答える。
 ワーシュは馭者に近付く。
「んー? あっ、わだちがない!」
 ワーシュは驚く。
「小難しいことは、じぃ…ゅっ……じゃなくて、……リシェ殿から聞いてくれ」
 馭者は前を見る。
 皆はリシェを見る。
「馬車の車輪、それと石畳。それらには魔法が施されていたり魔法建材などが使われていたりします」
 リシェは話す。
「そ、それって、……そんな簡単に話してもいいことなの?」
 ワーシュは困惑する。
「『魔法王』」
 リシェは言う。
 皆は黙る。
「皆さんは、フィア様のことを『魔法王』と呼んでいました。以前から『魔法王』ととなえられることはありましたが、一般的ではありませんでした。ですので、そう呼ばれるように仕向けました。ーー魔法に優れた国。そう思われるように誘導しています。車輪や石畳、それ以外にも、『魔法王』が治める魔法の国グリングロウなら不思議ではないーーと。なので魔法使いでもわからないくらいの、魔法や魔工技術を用いています」
 リシェはエルムスを見る。
「ーーこれは、難しい。特化してしまうこと。落とし込んでしまうこと。魔法の独占、いや、魔法の管理? それに竜との関係ーー」
 エルムスは黙考する。
「残念です。これを一瞬で見抜いたら、僕は負けを認めたのですが。さすがに届きませんでしたか」
 リシェはエルムスを見る。
「『どっかん』を越えたから、もうすぐ着くよ」
 馭者は言う。
「ほ? どっかん?」
 ワーシュは尋ねる。
「ああ、区間ごとの境目に、みー様の絵が描かれているんだよ。馭者おれたちの間での合い言葉みたいなもんだ」
 馭者は答える。
「角の生えた赤い髪の子供が、拳を突き出した絵だった」
 僕は言う。
「えーっ!? あたしもみー様っ、見たかった!!」
 ワーシュは身を乗り出す。
「だーっ! 危ねぇだろーがっ!! ってか、今更だろ!」
 コルクスはワーシュの肩を掴む。
「ほら、もう着くよ、エルムス」
 ホーエルはエルムスの肩を叩く。
「ん? と?」
 エルムスは顔を上げる。
 皆は竜道を見る。
 光の先に光。
 南の竜道の出口。
 竜の国の入り口。
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