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第3話
しおりを挟む翌朝、薄明かりの中で私は目を覚ました。今日が、この城を去る日だ。静かに身支度を整え、最後の荷物をまとめる。部屋を見回すと、ここでの思い出が次々と蘇ってきた。楽しかった日々、苦しかった日々、すべてがこの部屋に詰まっている。
ノックの音がして、父の声が聞こえた。
「クラリス、準備はできたか?」
「はい、父上」
私は深呼吸をして答えた。
ドアを開けると、そこには父と数人の衛兵が立っていた。父の目には悲しみが宿っていたが、同時に誇りのようなものも感じられた。
「行こう」
父はそう言って、私を先導した。
城の廊下を歩きながら、私は周囲を見回した。かつてはこの場所で、多くの人々と笑顔で話をしていた。しかし今、廊下には誰もいない。みな、私を避けているのだ。
城の正門に到着すると、そこには馬車が待っていた。私の新しい住まいまで運んでくれるのだ。
荷物を積み込んでいる間、私は城を振り返った。ここで過ごした日々が、走馬灯のように駆け巡る。
「クラリス」
振り返ると、父が近づいてきた。しかし、一定の距離を保っている。
「どうか、元気でな」
父の声は震えていた。
「定期的に使者を送る。何か必要なものがあれば、すぐに知らせてくれ」
私は涙を堪えながら頷いた。
「はい、父上。ご心配なく」
その時、遠くから声が聞こえた。
「クラリス様!」
エドワードだった。彼は馬に乗って、急いでこちらに向かってきている。
私の心臓が高鳴った。彼が来てくれた⋯⋯でも、これは良くない。
「エドワード様、お願いです。これ以上近づかないで」
私は必死に叫んだ。エドワードは馬を止め、そこから私に向かって話しかけた
「クラリス様、どうかお聞きください。私は必ず、あなたの呪いを解く方法を見つけます。だから、どうか希望を捨てないでください」
彼の声には真摯な思いが込められていた。私は動揺を隠せず、言葉に詰まった。
「エドワード様⋯⋯」
父が間に入った。
「エドワード殿、気持ちはわかるが、これはクラリスの決断だ。尊重してやってくれ」
エドワードは悔しそうな表情を浮かべたが、深く頭を下げた。
「わかりました。しかし、クラリス様。私の気持ちは変わりません。必ず、あなたを救います」
私は複雑な思いで彼を見つめた。感謝と不安、希望と恐れが入り混じる。
「エドワード様、あなたの優しさに感謝します。でも、どうか自分の身を危険に晒さないでください」
そう言って、私は馬車に乗り込んだ。扉が閉まる直前、最後にエドワードの顔を見た。彼の目には決意の色が宿っていた。
馬車が動き出す。窓から見える城が、徐々に小さくなっていく。私の目に涙が溢れた。これが本当に正しい選択なのだろうか。でも、他に方法はない。誰も傷つけないためには、これしかないのだ。
景色が移り変わる中、私は静かに涙を拭った。
数時間の旅の後、馬車は目的地に到着した。王国の辺境にある小さな館だ。周囲は森に囲まれ、近くに人家は見当たらない。ここなら、誰も傷つけることなく暮らせるはずだ。
館に足を踏み入れると、静寂が私を包み込んだ。家具は最低限のものが用意されているが、人の気配は全くない。これが私の新しい生活の場所。
荷物を解き、部屋の整理を始めた。作業をしながら、私は自分の状況を受け入れようと努めた。ここでの生活は孤独だろう。でも、それは誰も傷つけないための必要な犠牲なのだ。
夜が訪れ、私は窓辺に立って星空を見上げた。城にいた頃と同じ星々が、ここでも輝いている。その不変の美しさに、少し心が落ち着いた。
「エドワード様⋯⋯」
思わず、彼の名前がこぼれた。彼の決意に満ちた表情が、まだ目に焼き付いている。本当に彼は、私の呪いを解く方法を見つけられるのだろうか。そんな希望を持つことは、危険なのかもしれない。でも、完全に諦めることもできない。
私は深いため息をついた。これからの日々は、孤独との戦いになるだろう。でも、誰かを傷つけないためなら、この孤独も受け入れよう。
私は静かに目を閉じた。新しい生活の始まりだ。どんな未来が待っているのか、誰にもわからない。ただ、私にできることは、この呪いと向き合い、誰も傷つけないよう生きていくことだけだ。
そして、心の奥底では、エドワードが本当に解決策を見つけてくれるかもしれないという小さな希望を、大切に守り続けていくのだ。
***
エドワードはクラリスのために、呪いを解く方法を必死に探し求めていた。彼は古い図書館を巡り、賢者たちに相談し、そして遂には魔女マレフィカの噂を聞きつけた。
マレフィカは、かつてクラリスに呪いをかけた張本人だった。エドワードは危険を承知で彼女の住処を訪ねた。
「なぜ私のところへ来た?」
マレフィカは不気味な笑みを浮かべて尋ねた。
「クラリス様の呪いを解く方法を知りたいのです」
「その呪いは解けない。それが私の復讐なのだから」
「必ず方法があるはずです。どんな代償を払ってもいい」
マレフィカはしばらくエドワードを見つめ、やがて口を開いた。
「ほう⋯⋯その覚悟、本物のようだね。よかろう、教えてやろう。ただし、その代償は高いぞ」
「覚悟はできています」
マレフィカは不気味な笑みを浮かべながら言った。
「真実の愛の力だ。それだけが、この呪いを解く力を持っている。しかし⋯⋯」
「しかし?」
「その愛が真実であることを証明するには、命を懸けなければならない。クラリスに触れた瞬間、お前の命は消えるだろう。それでも構わないというのなら⋯⋯」
エドワードは一瞬躊躇したが、すぐに決意の表情を浮かべた。
「わかりました。その方法で、クラリス様を救います」
「愚かな人間よ。行くがいい。お前の愚かさが、私を楽しませてくれることを期待しているよ」
マレフィカは薄笑いを浮かべた。
ノックの音がして、父の声が聞こえた。
「クラリス、準備はできたか?」
「はい、父上」
私は深呼吸をして答えた。
ドアを開けると、そこには父と数人の衛兵が立っていた。父の目には悲しみが宿っていたが、同時に誇りのようなものも感じられた。
「行こう」
父はそう言って、私を先導した。
城の廊下を歩きながら、私は周囲を見回した。かつてはこの場所で、多くの人々と笑顔で話をしていた。しかし今、廊下には誰もいない。みな、私を避けているのだ。
城の正門に到着すると、そこには馬車が待っていた。私の新しい住まいまで運んでくれるのだ。
荷物を積み込んでいる間、私は城を振り返った。ここで過ごした日々が、走馬灯のように駆け巡る。
「クラリス」
振り返ると、父が近づいてきた。しかし、一定の距離を保っている。
「どうか、元気でな」
父の声は震えていた。
「定期的に使者を送る。何か必要なものがあれば、すぐに知らせてくれ」
私は涙を堪えながら頷いた。
「はい、父上。ご心配なく」
その時、遠くから声が聞こえた。
「クラリス様!」
エドワードだった。彼は馬に乗って、急いでこちらに向かってきている。
私の心臓が高鳴った。彼が来てくれた⋯⋯でも、これは良くない。
「エドワード様、お願いです。これ以上近づかないで」
私は必死に叫んだ。エドワードは馬を止め、そこから私に向かって話しかけた
「クラリス様、どうかお聞きください。私は必ず、あなたの呪いを解く方法を見つけます。だから、どうか希望を捨てないでください」
彼の声には真摯な思いが込められていた。私は動揺を隠せず、言葉に詰まった。
「エドワード様⋯⋯」
父が間に入った。
「エドワード殿、気持ちはわかるが、これはクラリスの決断だ。尊重してやってくれ」
エドワードは悔しそうな表情を浮かべたが、深く頭を下げた。
「わかりました。しかし、クラリス様。私の気持ちは変わりません。必ず、あなたを救います」
私は複雑な思いで彼を見つめた。感謝と不安、希望と恐れが入り混じる。
「エドワード様、あなたの優しさに感謝します。でも、どうか自分の身を危険に晒さないでください」
そう言って、私は馬車に乗り込んだ。扉が閉まる直前、最後にエドワードの顔を見た。彼の目には決意の色が宿っていた。
馬車が動き出す。窓から見える城が、徐々に小さくなっていく。私の目に涙が溢れた。これが本当に正しい選択なのだろうか。でも、他に方法はない。誰も傷つけないためには、これしかないのだ。
景色が移り変わる中、私は静かに涙を拭った。
数時間の旅の後、馬車は目的地に到着した。王国の辺境にある小さな館だ。周囲は森に囲まれ、近くに人家は見当たらない。ここなら、誰も傷つけることなく暮らせるはずだ。
館に足を踏み入れると、静寂が私を包み込んだ。家具は最低限のものが用意されているが、人の気配は全くない。これが私の新しい生活の場所。
荷物を解き、部屋の整理を始めた。作業をしながら、私は自分の状況を受け入れようと努めた。ここでの生活は孤独だろう。でも、それは誰も傷つけないための必要な犠牲なのだ。
夜が訪れ、私は窓辺に立って星空を見上げた。城にいた頃と同じ星々が、ここでも輝いている。その不変の美しさに、少し心が落ち着いた。
「エドワード様⋯⋯」
思わず、彼の名前がこぼれた。彼の決意に満ちた表情が、まだ目に焼き付いている。本当に彼は、私の呪いを解く方法を見つけられるのだろうか。そんな希望を持つことは、危険なのかもしれない。でも、完全に諦めることもできない。
私は深いため息をついた。これからの日々は、孤独との戦いになるだろう。でも、誰かを傷つけないためなら、この孤独も受け入れよう。
私は静かに目を閉じた。新しい生活の始まりだ。どんな未来が待っているのか、誰にもわからない。ただ、私にできることは、この呪いと向き合い、誰も傷つけないよう生きていくことだけだ。
そして、心の奥底では、エドワードが本当に解決策を見つけてくれるかもしれないという小さな希望を、大切に守り続けていくのだ。
***
エドワードはクラリスのために、呪いを解く方法を必死に探し求めていた。彼は古い図書館を巡り、賢者たちに相談し、そして遂には魔女マレフィカの噂を聞きつけた。
マレフィカは、かつてクラリスに呪いをかけた張本人だった。エドワードは危険を承知で彼女の住処を訪ねた。
「なぜ私のところへ来た?」
マレフィカは不気味な笑みを浮かべて尋ねた。
「クラリス様の呪いを解く方法を知りたいのです」
「その呪いは解けない。それが私の復讐なのだから」
「必ず方法があるはずです。どんな代償を払ってもいい」
マレフィカはしばらくエドワードを見つめ、やがて口を開いた。
「ほう⋯⋯その覚悟、本物のようだね。よかろう、教えてやろう。ただし、その代償は高いぞ」
「覚悟はできています」
マレフィカは不気味な笑みを浮かべながら言った。
「真実の愛の力だ。それだけが、この呪いを解く力を持っている。しかし⋯⋯」
「しかし?」
「その愛が真実であることを証明するには、命を懸けなければならない。クラリスに触れた瞬間、お前の命は消えるだろう。それでも構わないというのなら⋯⋯」
エドワードは一瞬躊躇したが、すぐに決意の表情を浮かべた。
「わかりました。その方法で、クラリス様を救います」
「愚かな人間よ。行くがいい。お前の愚かさが、私を楽しませてくれることを期待しているよ」
マレフィカは薄笑いを浮かべた。
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