転生したら使用人の扱いでした～冷たい家族に背を向け、魔法で未来を切り拓く～

第2章 魔法学院

2-4 実技試験の失敗

魔法学院での日々は、エリーナにとって苦労の連続だった。理論の授業は何とかついていけるものの、実技となると常に苦戦を強いられていた。そして今日、彼女は最初の大きな試練に直面していた。

実技試験の日。

教室に足を踏み入れた瞬間、エリーナは緊張で体が硬直するのを感じた。周囲の生徒たちも皆、真剣な面持ちだ。しかし、彼らの目には自信が宿っている。

「では、実技試験を始めます」

担当教授のヴァレリウス先生が前に立った。彼の鋭い眼光が教室を見渡す。

「順番に前に出て、これまで学んだ基本的な魔法を実演してもらいます。評価の対象は魔法の正確性、威力、そして制御力です」

エリーナは深呼吸をした。

（大丈夫。リュシアンさんとの特訓で学んだことを思い出して⋯⋯）

一人、また一人と生徒たちが前に出ていく。彼らの魔法は見事だった。風を操り、小さな炎を生み出し、時には水を操る者もいる。教授は厳しい目で一人一人を評価していった。

「次、レイヴン」

エリーナの名前が呼ばれた。彼女は震える足で前に進み出た。

（落ち着いて⋯⋯集中して⋯⋯）

エリーナは目を閉じ、周囲の空気の流れに意識を向けた。リュシアンとの特訓で何度も練習したように。

「風の魔法から始めてください」

エリーナは両手を前に伸ばし、魔力を集中させた。しかし、その瞬間、不安が彼女を襲った。クラスメイトたちの視線、特にサラの冷ややかな目が背中に突き刺さるのを感じる。

手が震え、集中が途切れる。生み出された風は弱々しく、すぐに消えてしまった。

教室に失望の溜め息が漂う。

「もう一度やってみなさい」

ヴァレリウス先生は厳しい口調で言った。

エリーナは再び挑戦した。今度は少し強い風を起こすことができたが、すぐに制御を失ってしまう。教室の中で紙が舞い、数人の生徒が髪を乱された。

「コントロールしなさい！」

先生の声が響く。

エリーナは必死に魔力を抑えようとしたが、逆に魔法が弱まってしまった。

「はい、そこまで」

ヴァレリウス先生の声には明らかな失望が込められていた。

「次の魔法に移りなさい。基本的な光の魔法を見せてください」

エリーナは震える手で光の魔法を試みた。小さな光の球が彼女の手のひらに現れたが、それはすぐに消えてしまった。

試験が終わったとき、エリーナは 疲労と屈辱感で一杯だった。

「レイヴン、君の魔法はまだまだ未熟だ」

ヴァレリウス先生は厳しく指摘した。

「基本的なコントロールさえままならない。もっと練習が必要だ」

エリーナは自分への情けなさに意気消沈して自分の席に戻った。

「ダメダメじゃない。あなた、本当に魔法の才能があるの？」

サラの言葉にエリーナは黙って耐えた。反論する言葉が見つからなかった。
試験が終わり、生徒たちが教室を出ていく中、ヴァレリウス先生がエリーナを呼び止めた。

「レイヴン、少し話がある」

エリーナは恐る恐る先生の元へ向かった。

「君の現状では、学院についていくのは難しいだろう。しかし、入学を許可された以上、何かしらの才能は認められたはずだ。それを見出し、伸ばすのが私たち教師の仕事だ」

エリーナは驚いて先生を見上げた。

「放課後の補習を行う。毎日、日没後にこの教室に来なさい。基礎からみっちり教え直す」

「は、はい！」

エリーナは思わず大きな声で答えた。

教室を出たエリーナは、複雑な思いに包まれていた。試験の結果は散々だったが、先生が彼女を見捨てなかったことに小さな希望を感じた。