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7.Winter song.-雨野秋良の場合-
鍵
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蛍と和解したお陰で練習不足だった歌撮りも、ギクシャクしないかと不安だったトーク収録も無事に終了。
この後の仕事も無いので、鷹城にマンションまで送って貰って、久しぶりの蛍と2人での帰宅。
ドアの前で鍵を出そうとポケットに手を突っ込んだ所で口を開く。
「蛍、鍵開けて」
「え?今鍵出そうとしたのに?」
─単純に蛍が帰ってきた事を噛み締めたいだけです。
「良いから」
「まぁ⋯ 良いけど」
蛍が鍵を鞄から出して開ける所までをじっと見つめる。
「そんなに見られたら緊張するんだけど」
「なんでよ?自分の家だろ」
蛍は鍵を開ける事に集中ている様で何も答わなかったが、俯いた横顔が嬉しそうに見えてニヤつきそうになる。
ここでまたがっつくのは、ただヤリたいだけみたいだから本日2回目の我慢。
「やばっ、洗濯物⋯ 」
今朝掃除をした部屋を見て思い出す。
「じゃあ、俺風呂沸かしてくる。どうせずっとシャワーで済ましてたんでしょ?」
「バレたか⋯ 」
「お風呂に浸かるのは体に良い事なんだから、2日に1回は入ってって言ってるのに」
「分かった分かった、これからはちゃんと入ります」
蛍は納得してうんうんと頷くとリビングから出て行った。
─わざわざバルコニーから顔を出して会話を続けようとする所が可愛い。
それに体を心配してくれる辺り、蛍はどこまでお人よしなんだか。
まだまだ知らない事も沢山あるし、たった2日離れただけでこんなにも蛍が必要だと実感するなんて本当思わなかった。
蛍の可愛い所も見れてプラマイゼロ位にはなった気がする。
それなら偶にはそういう刺激も良いかもしれない。
喧嘩するのはもうごめんだけど。
ゆっくり洗濯物を取り込んで畳み、何件か仕事の連絡を返し終わる頃にはお風呂が沸いた合図のメロディが流れていた。
湯船は体がしっかりあったまる事が効果があると蛍が力説していたが、実は湯船に使った後の体が火照る感じが苦手で殆どシャワーで済ましてしまう。
夏なんか特にだ。
蛍が来てからは、お湯を張ってくれた日には極力入っているつもりだが、2~3分が良い所だ。
いつも早過ぎて意味あるのかと厳しい意見を言ってくるし、さっき念を押された事もあって、今日は少し長めに湯船に浸かってみたが、限界を感じて結局早めに湯船から出ることにした。
少し努力したから勘弁してもらおう。
リビングに戻ると、蛍が自分のPCと向き合っていて、何やら格闘中。
「何やってんの?」
「んー?鷹城さんに、仕事にならないからなくしたスマホは諦めてさっさと買い換えて来いって言われてさ。今日昼間行ってきたんだけど、PCに前のデータ残ってたかなーと思って」
「諦めろって鬼だな⋯ まぁ確かに、今日の撮影も連絡取れないからって伸びたやつだったな」
「えっ?そうだったの!?
⋯ なんか申し訳ない事したな」
─蛍と一緒にいて気付いたこと。
一見クールに見えても、結構抜けていている。
そこがまた可愛いのだが。
「今はナナツボシってだけで、スケジュールがズレる事を悪く言う人はいないよ。やっぱり忙しいんですね、程度で済む。
期間限定なんだから使えるもの使っていこう精神の方が疲れない」
「でも鷹城さんにはスケジュール調整してくれたんだし、この事を知ってしまったからやっぱり今度お詫びしておくよ」
─そして、謙虚で律儀。
マネージャーなんだからスケジュール調整して当たり前って顔する奴もいるけど、そういう奴は俺だって使いたいと思わない。
言われた事は期待した以上にやってのけるし、仕事も丁寧だし、そりゃあスタッフからも気に入られる筈だな。
風呂上がりは基本、ゆっくりするスタンス。
テレビのニュースを見ていると、PCは分からないと投げ出して風呂に入った筈の蛍が隣に座った。
時計を見ると30分は経っている事に気付く。
もうそんなに時間が経ったのか。
こういう時ばっかり時間が経つのは早い。
「ねぇ?PC詳しい?」
「データ移行だっけ?機種によって、前のデータ入れられない事もあるけど、何にしたの?」
「紛失した時の保証使ったから、同じ機種。色が違うだけ」
「じゃあ大丈夫か。
その機種なら⋯ このソフトを立ち上げてバックアップ履歴が⋯ あった。今年の9月末のが最新かな。1ヶ月くらい前」
「なるほど⋯
秋やっぱり詳しい。助かる!」
「蛍、自分でやる気無いな?」
蛍は笑顔で、真新しいスマートフォンと接続用のケーブルを手渡してくる。
─本当、世渡りが上手いやつ。
仕方無い。
買い直したって、連絡取れないんじゃ無駄だしな。
PCにケーブルとスマートフォンを繋いで、操作をする。
「これでセッティングは終わりだけど、データが入り込むまで10分以上はかかると思う。このまま暫く置いておけばデータは戻るよ」
「ありがとう!」
「あ、そうだ。
ROOTのホームページ見た?俺達のページも更新されてる。鷹城がフェスの後忙しかったのはこのためだったらしい」
「へぇ、見てみる。
あ、データ移してる間、他のは触っても平気?」
「ケーブル抜いたり、その動いてるソフト閉じなければ大丈夫」
「分かった」
この後の仕事も無いので、鷹城にマンションまで送って貰って、久しぶりの蛍と2人での帰宅。
ドアの前で鍵を出そうとポケットに手を突っ込んだ所で口を開く。
「蛍、鍵開けて」
「え?今鍵出そうとしたのに?」
─単純に蛍が帰ってきた事を噛み締めたいだけです。
「良いから」
「まぁ⋯ 良いけど」
蛍が鍵を鞄から出して開ける所までをじっと見つめる。
「そんなに見られたら緊張するんだけど」
「なんでよ?自分の家だろ」
蛍は鍵を開ける事に集中ている様で何も答わなかったが、俯いた横顔が嬉しそうに見えてニヤつきそうになる。
ここでまたがっつくのは、ただヤリたいだけみたいだから本日2回目の我慢。
「やばっ、洗濯物⋯ 」
今朝掃除をした部屋を見て思い出す。
「じゃあ、俺風呂沸かしてくる。どうせずっとシャワーで済ましてたんでしょ?」
「バレたか⋯ 」
「お風呂に浸かるのは体に良い事なんだから、2日に1回は入ってって言ってるのに」
「分かった分かった、これからはちゃんと入ります」
蛍は納得してうんうんと頷くとリビングから出て行った。
─わざわざバルコニーから顔を出して会話を続けようとする所が可愛い。
それに体を心配してくれる辺り、蛍はどこまでお人よしなんだか。
まだまだ知らない事も沢山あるし、たった2日離れただけでこんなにも蛍が必要だと実感するなんて本当思わなかった。
蛍の可愛い所も見れてプラマイゼロ位にはなった気がする。
それなら偶にはそういう刺激も良いかもしれない。
喧嘩するのはもうごめんだけど。
ゆっくり洗濯物を取り込んで畳み、何件か仕事の連絡を返し終わる頃にはお風呂が沸いた合図のメロディが流れていた。
湯船は体がしっかりあったまる事が効果があると蛍が力説していたが、実は湯船に使った後の体が火照る感じが苦手で殆どシャワーで済ましてしまう。
夏なんか特にだ。
蛍が来てからは、お湯を張ってくれた日には極力入っているつもりだが、2~3分が良い所だ。
いつも早過ぎて意味あるのかと厳しい意見を言ってくるし、さっき念を押された事もあって、今日は少し長めに湯船に浸かってみたが、限界を感じて結局早めに湯船から出ることにした。
少し努力したから勘弁してもらおう。
リビングに戻ると、蛍が自分のPCと向き合っていて、何やら格闘中。
「何やってんの?」
「んー?鷹城さんに、仕事にならないからなくしたスマホは諦めてさっさと買い換えて来いって言われてさ。今日昼間行ってきたんだけど、PCに前のデータ残ってたかなーと思って」
「諦めろって鬼だな⋯ まぁ確かに、今日の撮影も連絡取れないからって伸びたやつだったな」
「えっ?そうだったの!?
⋯ なんか申し訳ない事したな」
─蛍と一緒にいて気付いたこと。
一見クールに見えても、結構抜けていている。
そこがまた可愛いのだが。
「今はナナツボシってだけで、スケジュールがズレる事を悪く言う人はいないよ。やっぱり忙しいんですね、程度で済む。
期間限定なんだから使えるもの使っていこう精神の方が疲れない」
「でも鷹城さんにはスケジュール調整してくれたんだし、この事を知ってしまったからやっぱり今度お詫びしておくよ」
─そして、謙虚で律儀。
マネージャーなんだからスケジュール調整して当たり前って顔する奴もいるけど、そういう奴は俺だって使いたいと思わない。
言われた事は期待した以上にやってのけるし、仕事も丁寧だし、そりゃあスタッフからも気に入られる筈だな。
風呂上がりは基本、ゆっくりするスタンス。
テレビのニュースを見ていると、PCは分からないと投げ出して風呂に入った筈の蛍が隣に座った。
時計を見ると30分は経っている事に気付く。
もうそんなに時間が経ったのか。
こういう時ばっかり時間が経つのは早い。
「ねぇ?PC詳しい?」
「データ移行だっけ?機種によって、前のデータ入れられない事もあるけど、何にしたの?」
「紛失した時の保証使ったから、同じ機種。色が違うだけ」
「じゃあ大丈夫か。
その機種なら⋯ このソフトを立ち上げてバックアップ履歴が⋯ あった。今年の9月末のが最新かな。1ヶ月くらい前」
「なるほど⋯
秋やっぱり詳しい。助かる!」
「蛍、自分でやる気無いな?」
蛍は笑顔で、真新しいスマートフォンと接続用のケーブルを手渡してくる。
─本当、世渡りが上手いやつ。
仕方無い。
買い直したって、連絡取れないんじゃ無駄だしな。
PCにケーブルとスマートフォンを繋いで、操作をする。
「これでセッティングは終わりだけど、データが入り込むまで10分以上はかかると思う。このまま暫く置いておけばデータは戻るよ」
「ありがとう!」
「あ、そうだ。
ROOTのホームページ見た?俺達のページも更新されてる。鷹城がフェスの後忙しかったのはこのためだったらしい」
「へぇ、見てみる。
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