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6.Music festival.-吉澤蛍の場合-
フルーツゼリー
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スタジオに出演者が集まると、当然雪弥とも顔を合わせる事になる訳で、予想はしてたが、案の定体調の事を心配される。
大丈夫だと言っても心配な様で、リハーサルの間も終始気にしてくれているのが分かった。
いつもより少しだけ熱があるせいかリハーサルだからなのか、緊張は全くしないうちに進んでいく。
体調も悪くない。
普段と変わらない振舞いができる程まで回復している様に思えた。
何事も無くリハーサルを終え、本番までの暫しの休憩時間。
秋良は終始心配して、あれこれ世話を焼いてくれていたけど、砂月に連行されると楽屋は静かになった。
スマホのチェックを始めると、千尋と雪弥が楽屋に入ってきた。
「顔色良くなったな」
「うん、具合は大分良いよ。
なんかごめん、みんなに心配掛けて」
雪弥は気にするなと言って目を細めた。
「これ、食べない?
結構美味しいんだ。フルーツもゴロっと入ってるし、風邪の時とか丁度良いかも」
千尋はリハーサル前に差し入れと持ってきてくれたゼリーを冷蔵庫から取り出し勧めてきた。
「ありがとう。いただこうかな」
「うん、是非食べて!
何個か買ってきたから、雪弥は?」
「ああ、俺は良い。ありがとう」
キウイ、ストロベリー、パイナップル、ピーチ、オレンジ。
カクテルみたいにカラフルなゼリーが箱の中に並んでいて、どれにしようか目移りしてしまう。
千尋はゼリーを箱から出して机の上に並べると、スマートフォンで写真を撮った。
ブログ用らしく、ゼリーを持って一緒に写真を撮られたが、食べるまでも十分楽しませてもらったし見た目も綺麗で、こういうのを選ぶ所は流石千尋だと感心する。
「蛍、どれにする?」
「じゃあ⋯ これにしようかな」
フルーツで一番好きなピーチをチョイス。
千尋がスプーンを差し出す。
「ピーチも美味しいよね。
俺はストロベリーにしようかなー」
千尋=ストロベリー
裏切らないチョイスにひとり納得しながら、嬉しそうにゼリーを開封する千尋を見ていた。
「千尋、蛍への差し入れじゃなくてお前が食べたくて買ってきたんだろ」
雪弥がすかさずツッコミを入れると、千尋がバレたかと言って笑う。
そのやり取りを見て和んでから、ゼリーの蓋を開ける。
「いただきます」
こんな風に、あこがれていたアーティストと一緒に過ごすというのも変な感じだ。
そんなに時間は経っていないけど、憧れる遠い存在ではなく近くにいる友達感覚。
しかし、あれだけ親しかった雪弥が “TRAPの雪弥” だって、再会するまで気付かなかったなんて不思議。
その辺りの記憶には色々理由があるにしても、忘れていたなんて信じ難い所だが、まだまだ思い出せていない事もありそうだ。
「蛍、どう?」
ゼリーのカップと口をスプーンが行ったり来たりするけど、感想を全く言わない事に不思議に思ったのか、千尋が顔を覗き込んだ。
「あ、うん。美味しい。
フルーツがこんなに沢山使われていて贅沢。こういうの凄い好き。
ありがとう、千尋」
スプーンでもうひと掬いすると、横から手を取られて雪弥の口に運ばれる。
「うん、美味いな」
「雪弥!風邪移るよ?」
「大丈夫だよ」
そう言って笑った顔は妙に優し気だった。
『すいません、雪弥さん!
申し訳ないんですけど、マイクもう一度チェックさせていただいても良いですか?』
楽屋の入口でスタッフが呼びに来ると、雪弥はご馳走様と言って楽屋を出て行った。
「蛍と再会してから雪弥、凄く変わったんだよ」
暫く無言のままゼリーを食していると、千尋が口を開いた。
「うん?」
「雪弥、あの通り自分の事を人に話す様なタイプじゃないし、取っ付きにくいでしょ?
TRAPとして活動していく中でさ。他人なんてどうでも良いって思っているのがそれはもう手に取る様にわかって、よく秋ちゃんともぶつかってた。
あ、秋ちゃんと喧嘩するのは今でもだけどさ。
それでも徐々に、一緒にやって行く仲間としてっていうのかな?段々と秋ちゃんや僕の事、TRAPの事も考えてくれているんだなーって思える位までにはなった」
「不器用な感じ、雪弥っぽいね」
フッと笑うと、千尋も一度笑ってから真剣な表情に変わった。
「でも蛍と会ってからは、何か違うんだよね。
ほら、今みたいに自分から絡みに行く様な事なかった。あんな雪弥初めて見たよ」
「え?そうなの?」
「うん。今まで秋ちゃんや僕が触れられなかった心の奥底の凍っていた部分を、蛍が溶かしてくれた感じ?
それから人当たりも良くなって評判も悪くないみたいだし、TRAPとしては本当に蛍様様なんだから」
「そんな、俺は何もしてないよ。
実際、変わろうって意思がなければそう簡単に変われないし、やっぱりTRAPを一緒にやって来た千尋や秋の力が大きいんだと思うよ」
「ううん、僕はほら、途中加入だからさ。
もっと早く2人の中に入ることができていたら何か違ったのかもしれないと思ったこともあるけど、結局は本人の意思なんだよね。
雪弥や秋ちゃんが、蛍になら心を許してもいいって思ったってこと。もちろん僕もね」
「⋯ ありがとう。寧ろ俺もみんなと仲良くなれて感謝してる。TRAP結成当初から好きなアーティストだから尚更。
俺なんかが力になれていることがあるなら凄く嬉しいよ」
─過去の記憶の中にいる雪弥は、確かに取っ付きにくい印象はあったけど、親しかったと言えるくらいの距離感だったし、他人の事はどうでも良いなんて思っているような印象はなかった。
⋯ そうさせてしまったのが俺だったとしたら?
この前の雪弥の話や、雪弥のTRAPとしての活動休止時期、千尋の話から考えると、そう考えるのが一番違和感がない。
千尋の話からすると今は俺が見た事のある雪弥に戻って来ている様子だし、そこまで気にする事も無いのかも知れない。
だけど、心に負った傷はキレイに消えているとは限らない。
痕が残るかもしれない。
⋯ 悪化するかもしれない。
それでも、自分の気持ちを優先してしまって良いのだろうか?
この先ずっと、誰も傷付かないように振舞っていれば満足する結果になるんだろうか?
大丈夫だと言っても心配な様で、リハーサルの間も終始気にしてくれているのが分かった。
いつもより少しだけ熱があるせいかリハーサルだからなのか、緊張は全くしないうちに進んでいく。
体調も悪くない。
普段と変わらない振舞いができる程まで回復している様に思えた。
何事も無くリハーサルを終え、本番までの暫しの休憩時間。
秋良は終始心配して、あれこれ世話を焼いてくれていたけど、砂月に連行されると楽屋は静かになった。
スマホのチェックを始めると、千尋と雪弥が楽屋に入ってきた。
「顔色良くなったな」
「うん、具合は大分良いよ。
なんかごめん、みんなに心配掛けて」
雪弥は気にするなと言って目を細めた。
「これ、食べない?
結構美味しいんだ。フルーツもゴロっと入ってるし、風邪の時とか丁度良いかも」
千尋はリハーサル前に差し入れと持ってきてくれたゼリーを冷蔵庫から取り出し勧めてきた。
「ありがとう。いただこうかな」
「うん、是非食べて!
何個か買ってきたから、雪弥は?」
「ああ、俺は良い。ありがとう」
キウイ、ストロベリー、パイナップル、ピーチ、オレンジ。
カクテルみたいにカラフルなゼリーが箱の中に並んでいて、どれにしようか目移りしてしまう。
千尋はゼリーを箱から出して机の上に並べると、スマートフォンで写真を撮った。
ブログ用らしく、ゼリーを持って一緒に写真を撮られたが、食べるまでも十分楽しませてもらったし見た目も綺麗で、こういうのを選ぶ所は流石千尋だと感心する。
「蛍、どれにする?」
「じゃあ⋯ これにしようかな」
フルーツで一番好きなピーチをチョイス。
千尋がスプーンを差し出す。
「ピーチも美味しいよね。
俺はストロベリーにしようかなー」
千尋=ストロベリー
裏切らないチョイスにひとり納得しながら、嬉しそうにゼリーを開封する千尋を見ていた。
「千尋、蛍への差し入れじゃなくてお前が食べたくて買ってきたんだろ」
雪弥がすかさずツッコミを入れると、千尋がバレたかと言って笑う。
そのやり取りを見て和んでから、ゼリーの蓋を開ける。
「いただきます」
こんな風に、あこがれていたアーティストと一緒に過ごすというのも変な感じだ。
そんなに時間は経っていないけど、憧れる遠い存在ではなく近くにいる友達感覚。
しかし、あれだけ親しかった雪弥が “TRAPの雪弥” だって、再会するまで気付かなかったなんて不思議。
その辺りの記憶には色々理由があるにしても、忘れていたなんて信じ難い所だが、まだまだ思い出せていない事もありそうだ。
「蛍、どう?」
ゼリーのカップと口をスプーンが行ったり来たりするけど、感想を全く言わない事に不思議に思ったのか、千尋が顔を覗き込んだ。
「あ、うん。美味しい。
フルーツがこんなに沢山使われていて贅沢。こういうの凄い好き。
ありがとう、千尋」
スプーンでもうひと掬いすると、横から手を取られて雪弥の口に運ばれる。
「うん、美味いな」
「雪弥!風邪移るよ?」
「大丈夫だよ」
そう言って笑った顔は妙に優し気だった。
『すいません、雪弥さん!
申し訳ないんですけど、マイクもう一度チェックさせていただいても良いですか?』
楽屋の入口でスタッフが呼びに来ると、雪弥はご馳走様と言って楽屋を出て行った。
「蛍と再会してから雪弥、凄く変わったんだよ」
暫く無言のままゼリーを食していると、千尋が口を開いた。
「うん?」
「雪弥、あの通り自分の事を人に話す様なタイプじゃないし、取っ付きにくいでしょ?
TRAPとして活動していく中でさ。他人なんてどうでも良いって思っているのがそれはもう手に取る様にわかって、よく秋ちゃんともぶつかってた。
あ、秋ちゃんと喧嘩するのは今でもだけどさ。
それでも徐々に、一緒にやって行く仲間としてっていうのかな?段々と秋ちゃんや僕の事、TRAPの事も考えてくれているんだなーって思える位までにはなった」
「不器用な感じ、雪弥っぽいね」
フッと笑うと、千尋も一度笑ってから真剣な表情に変わった。
「でも蛍と会ってからは、何か違うんだよね。
ほら、今みたいに自分から絡みに行く様な事なかった。あんな雪弥初めて見たよ」
「え?そうなの?」
「うん。今まで秋ちゃんや僕が触れられなかった心の奥底の凍っていた部分を、蛍が溶かしてくれた感じ?
それから人当たりも良くなって評判も悪くないみたいだし、TRAPとしては本当に蛍様様なんだから」
「そんな、俺は何もしてないよ。
実際、変わろうって意思がなければそう簡単に変われないし、やっぱりTRAPを一緒にやって来た千尋や秋の力が大きいんだと思うよ」
「ううん、僕はほら、途中加入だからさ。
もっと早く2人の中に入ることができていたら何か違ったのかもしれないと思ったこともあるけど、結局は本人の意思なんだよね。
雪弥や秋ちゃんが、蛍になら心を許してもいいって思ったってこと。もちろん僕もね」
「⋯ ありがとう。寧ろ俺もみんなと仲良くなれて感謝してる。TRAP結成当初から好きなアーティストだから尚更。
俺なんかが力になれていることがあるなら凄く嬉しいよ」
─過去の記憶の中にいる雪弥は、確かに取っ付きにくい印象はあったけど、親しかったと言えるくらいの距離感だったし、他人の事はどうでも良いなんて思っているような印象はなかった。
⋯ そうさせてしまったのが俺だったとしたら?
この前の雪弥の話や、雪弥のTRAPとしての活動休止時期、千尋の話から考えると、そう考えるのが一番違和感がない。
千尋の話からすると今は俺が見た事のある雪弥に戻って来ている様子だし、そこまで気にする事も無いのかも知れない。
だけど、心に負った傷はキレイに消えているとは限らない。
痕が残るかもしれない。
⋯ 悪化するかもしれない。
それでも、自分の気持ちを優先してしまって良いのだろうか?
この先ずっと、誰も傷付かないように振舞っていれば満足する結果になるんだろうか?
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