まだ、言えない

怜虎

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6.Music festival.-吉澤蛍の場合-

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目覚めると秋良の腕の中にいて、見上げたその先からは規則正しい寝息が聞こえる。

安心できる腕の中。

モゾモゾと体を動かし、より良い場所に納まると微かに聞こえてくる心臓の音に耳を澄ませた。

微睡みながら幸せを噛み締めていると、大きな手が髪を掬う。

丁寧に撫でられると髪の上からキスが落ちてくる。

何度目かの甘い時間。

うっすらと目を開けると秋良の声が聞こえてきた。


「ごめん、起こした?」

「ううん」


そう答えると秋良の胸に顔を埋めた。


「ツンデレ代表」


髪を撫でながら笑っているのが分かる。


「秋も結構イメージ違うよ」

「“も” ってことはツンデレしてる自覚あるんだ」



─そうじゃない。

興味があるものには興味を示すけど、そうでないものはどうでも良いだけだ。



「ツンデレのつもりは無いけど、秋がそう思うんならそうなのかもね」

「俺はどんなイメージ?」

「表情も対応も、仕事用とプライベート用があるかな」

「よく観察していらっしゃる」


カラカラと笑うと、蛍の頭を掻き回した。


「もう⋯ くしゃくしゃになる!」

「ごめんごめん」


そう言って手櫛で整えると、体を寄せてぎゅっと抱きしめる。


「なんか良いな、こういうの」

「⋯ うん」

「体は?辛くない?」

「大丈夫」

「今日はゆっくりしよう。
明日は打ち合わせ入っているみたいだから」


宣言通り、今日1日はゆっくりと過ごした。

昼頃迄ゆっくりして、ランチがてら買い物に出る。

帰りに買ってきた食材で夕飯を作って、ネットでレンタルしたDVDを観ながら夕飯。

今迄バタバタと過していたから、こんなにゆっくりしたのは久しぶりだと、秋良も満足そうだった。

何もしない日っていうのもたまには良い。

特に秋良には必要なんだと思う。

フェスまでは本当に忙しそうだったから。


食事を作ったり、家事をする事では力になれると思う。

でも、ナナツボシの事は任せっきりだ。

出来ればサポート出来るようになりたい。

それが当面の目標。


秋良のマンションでの生活にも段々と慣れてきた。

いつもの朝と呼べる程、平和な朝。


今日は為平社長が独断で受けたという、CM撮影の日。

家を出るまではまだ少し時間がある。

コーヒー片手にソファーに座りテレビを付けると、ワイドショーで取り上げられていたのは “雨野撫子が一般男性と入籍” という話題。

元々公表するつもりは無かったらしく、週刊誌にリークされたのをきっかけに各テレビ局にFAXで報告をした様だ。


「それにしても早かったなー」

「おめでたい話なんだから最初から公表しても良かったと思うけどね」


ひとり言を拾って、おまけに返事をすると隣に腰掛ける。


「お互いに親子関係がバレない為でしょ?
そもそも内緒にする必要あるの?」


「あるの。お互いのイメージを崩さない為には必要」

「そういうもん?」

「そういうもん」


秋良は親が有名だからって注目されるのが嫌で、ROOTの依頼を受ける時もバレたら辞めるという条件で始めた。

そのポリシーは今もなお現在で、その頑固な所は秋良らしい。


というは、もしもバレたらナナツボシは無くなるのだろうか。

チラリと秋良を見ると目が合う。


「どうした?」

「⋯ 撫子さんと親子だって世間にバレたら、ナナツボシは?」

「バレないから大丈夫だよ」

「もしもの話」

「その時は公表するよ。
それまでにナナツボシが有名になっていれば関係無いし。寧ろ話題になる」


秋がニヤリと笑うと、部屋に着信音が響いた。


「はーい。了解、今行く。
⋯ くれぐれも気を付けてね蛍くん。あくまで、バレた時だからね?」

「分かってるよ」

「じゃあ行きますか」


チュッと軽いキスをすると立ち上がった。
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