まだ、言えない

怜虎

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6.Music festival.-吉澤蛍の場合-

事後報告

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「蛍、それで良い?」

「えっ?」

「また聞いてなかったな?」

「ごめんごめん。で、何?」

「全く⋯ さっきの話をこの2人にする為に、蛍の家みんなで行っても良いかって」

「あぁうん、大丈夫」


返事を聞いて、楽しそうに話す彼らを横目に、ひとりでは拭えない疑問を繰り返し考える。



ーまぁでも、ほぼ車で移動してたし食事した所は個室風だったし大丈夫なのかな。

雪弥なりに考えて行動してたのかも。



ほぼ上の空状態で、コンビニで買い出しして家に帰り着くと、その頃には完全に煮詰まってしまっていた。


「吉澤、さっきと同じ顔してる」


みんなの前で普通の顔が出来る自身がなくて、用があると誤魔化して行った自分の部屋でほんの少しの時間、頭を冷やす。

数分で2階から降りると廊下で山口が待っていた。


「うん⋯ 」

「どうした?」

「⋯ 事務所の社長に、誰がどこで見ているか分からないから、聞かれて困る話は外ではするなって言われたことを思い出したんだけど、昼に話した昨日会ったって人。実は有名な人でさ。
ちょっとまずかったかなって考えてた」

「なるほどね」


山口はうーんと考えてから続けた。


「吉澤が気にしてるのは相手の立場でしょ?」

「そりゃあ自分もだけど、相手の方が有名だから」

「やっぱ優し過ぎるんだよ、吉澤は。
例の好きでいたいって話でしょ?そんなに何度も気持ちを伝えてくる奴が世間にバレた時の覚悟が無いとは思えないけど」

「そうなのかな?
⋯ そうやって言葉にしてもらえると安心する。けど、ダメだな俺。ひとりで考えて落ち込んでさ。本当頼りっぱなしでごめん」

「感謝なら、ごめんよりありがとうの方が嬉しいと思うよ?彼等も。
何て言うか吉澤はさ、ほっとけない感じ?見た目とのギャップが結構あるよね。みんなそんな所に惹かれるのかも。⋯ どう?戻れそう?」


コクリと頷くと、山口が笑った。

不思議と不安は消えていて、自分の立場はそう気にならなかった。

山口に本日2度目の感謝をすると、リビングへと戻った。


「お、戻ってきた」

「お帰り。先に開けたよ?」


先程、コンビニで買ったお菓子の袋を指しているみたいだ。

選んだのは他の3人で、断りを入れることに律儀だと感じたが、今いる場所が我が家だからだろう。

手招かれ、秋良と悠和の間に座る。


「ただいま」

「俺、お金払ってないや。いくらだった?」

「良いよ、別に」

「⋯ じゃあ今度多めに出す」


割と長い時間リビングにいなかったきがするが、2人共あまり気にしていないようだ。

やっぱり、自分が考えすぎなのかもしれない。


「吉澤ん家、立派だよね」

「そう?」

「ねぇ、蛍の部屋も見たい!」


初めて家に来た2人が、丁寧にも感想や意見を言って盛り上がっている。



─秋のマンションの方が立派だよ。



チラっと秋良を見ると、携帯に夢中で周りの声は耳に入っていない様だった。


「俺の部屋なんて見たって面白くないと思うけど?」

「いや、見たい!駄目?」

「別に良いけど。
じゃあ後で荷物下ろすの手伝って貰おうかな?」

「おう、任せろ!」


悠和は嬉しそうに笑った。


「で、その荷物の話って何なの?」

「そうだ。その話をしに寄ってもらったんだよね」


もう一度秋良を見ると、溜め息をついてからこちらを見た。


「蛍、スマホ見て」


促されるまま、ポケットからスマートフォンを取り出す。

スリープを解除すると、SNSアプリに新規のグループ招待とメッセージの通知があった。

開いてみて先に目に止まった画像を画面全体に表示する。


「⋯ え?」


それは婚姻届を仲良さ気に持った、佳彦と撫子のツーショット写真だった。

勿論、そのグループは写真の送り主2人と秋良との4人での家族グループ。


『本日、入籍しました。宜しく、息子達!』

『家族が増えて嬉しい!仲良くしましょうね』



─事後報告か…



その急展開に空いた口が塞がらなかった。


「吉澤、今日は忙しいね」

「いや、これはちょっと笑い事じゃない⋯ 」


からかう様に笑った山口が目を見張った。


「そんなヤバイ話?」

「ヤバイって言うか⋯ はぁ⋯ 」

「俺が話すよ」


溜め息をつくと秋良が名乗り出る。


「うん、任せる」


秋良は頷いてフッと息を吐くと、悠和と山口に向き直った。


「これから話す事は全部、口外しないで心で留めておいて欲しい」


真剣な目をした秋良に、2人も目を逸らさずに頷く。


「実は俺達、家族になった」

「「⋯⋯ は?!」」


山口と悠和、2人分の声が重なる。


「どういう事?」

「俺と蛍の親同士がさっき入籍した」

「はぁっ?!」

「⋯⋯ 」


山口も悠和も、それ以上言葉は出ない様だった。

自分でも目が回る位の急展開。

驚く程、秋良との関係が変化していくのは早くて、短期間に色々あった。

夏前に初めて話した位だったのに、仲良くなって、ナナツボシを結成して、そして家族になった。

佳彦の “籍を入れようと思うんだ” がこんなにも近い未来の話だったなんて、あの時は全く想像出来なかったけど。

早めに荷物を纏めておいて良かった。


「そうだ、荷物」

「ああ、さっきの荷物を俺の家に運ぶっていうのは、母さん達が入籍したらこの家にも出入りするのを狙って取材に来る奴がいるかもしれない。その時に雨野撫子とナナツボシが親子だって知られてしまったら大騒ぎになるだろうからって、俺の家に蛍が避難する事になってた。
⋯ これは今日出た方が良さそうだな」


秋良と顔を合わせて頷き合う。


「ちょっ、ちょっと待って⋯ 何それ、そんな急な⋯ え?!」

「落ち着け、大野」

「⋯ 俺達も籍入れる事を知ったのが3日前。
で、今さっき写真付きで入籍したって送られてきたから、正直俺達が一番驚いてるよ」


突然の事で混乱し、やっと出た言葉らしい言葉も慌てて驚いたことしか表現できていない悠和に対して、冷静な秋良と順応する山口。

その温度差に少し笑えてくる。

そんな風に思えたのはきっと、悠和が思った以上に戸惑っていて、秋良が自分の事なのに冷静だったからだろう。

そうやって考える事が出来る自分だって、十分冷静だということなんだろう。

そういえば、秋良と悠和の関係はどうなんだろうか?

秋良も悠和もお互いの気持ちが誰にあるかを知っているみたいだったが、喧嘩しているとか避けている風ではない。



─これも考え過ぎると、また山口にお世話になるやつだな。

答えが出なそうな事をひとりで考え込むのは止めよう。



「あ、ねぇ。
中学の頃、同じ目に合ってるっていうのは?」

「覚えてた?」


覚えてたって事ははぐらかそうとしていたことが分かる。

そんな重要な事なのだろうか。


「流石に覚えてるよ。で、何の事?」

「⋯ 中学の時に出たモデル雑誌で、ナツも一緒だったから注目されただけ」


ぶっきらぼうに言った秋良の顔はほんの少し赤くなっている気がした。


「こいつ、女そ⋯ 」

「あー!待て待て!それは良い」


秋良は言葉で遮った後、悠和の口を塞ぐ。

変な先入観があるだけで、結構仲は良いのかもしれない。


「そろそろ出よう。
そんな直ぐに家がバレるとか無いだろうけど、早めに動くに越したことはない」

「え?さっきの話し、ただモデルやってたよってだけ?」

「そうだよ」

「そんな引っ張る話だった?」

「⋯ 詳しいことはまたの機会に話す」


まだ何か隠しているということだけは分かった。

悠和の話を途中で止めるほどの何か。


こんな時は無理に聞き出してもどうせ言わないだろうし、今は家を離れることの方が優先だ。

秋良の言う通りまたの機会にしよう。


「じゃあ、荷物取って来ようかな。
悠和、手伝ってもらえる?」

「うん、蛍の部屋も見たいし」

「ありがとう。
じゃあ、ちょっと取ってくるね」
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