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5.Music festival.-雨野秋良の場合-
楽屋
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「って事で、蛍借りるね?秋ちゃん」
千尋に肩を叩かれて咄嗟に答える。
「ああ」
答えを聞くと、千尋は蛍を連れて歩いて行ってしまった。
─全然聞いてなかったな⋯ まぁ良いか。
千尋だし、わざわざ俺に連れていくって宣言して連れて行ったんだ。
そこまで気にすることでもないだろう。
取り敢えず、楽屋に戻るか。
突然の変化に疎外感を抱く間も無く、後方から声を掛けられた。
「秋さん、今宜しいですか?」
「橘さん」
「撫子さんから楽屋で待っていると、伝えに参りました」
この橘という男。
くすんだシルバーで縁取った眼鏡と、無表情から冷酷な印象。
彼は母、雨野撫子のマネージャーだ。
「あー、なら蛍も一緒が良かったけど⋯ まぁ良いや。行きます」
実はこの橘という人間が正直苦手だ。
物心ついた頃からずっと母のマネージャーをしている。
その為、付き合いも15年になる所だ。
しかし彼はこの15年間、殆ど見た目が変わらない。
15年という長い年月だ、もっと変化があってもおかしくないのだろうが、少し歳を取ったかなと思う程度だ。
オマケに出会ってから見た表情は殆どがこの無表情。
たまに出る愛想笑いはいつも貼り付けた様な笑顔。
─母さんは “個性的” だとか “味があって面白い” とか言うけど、俺には一生かかっても理解出来そうに無い。
まぁ母さんも母さんで理解し難いところがある人間だ。
変な者同士、と密かに思っている。
この通り、仕える者に忠実で真面目。
そこがお気に入りポイントなんだろうけど。
本音はなるべくなら関わりたくない。
しかし、こういう場所だと度々こういったやり取りがある。
「そうですか。ではこちらへ」
そう言って、楽屋の方向だろう。
ついてきているかなんて確認せずにスタスタと歩いて行ってしまった。
3メートル程距離を開けた状態で歩くこと数分。
ひとつの扉の前で足を止めた橘がノックをする。
「撫子さん、秋さんお連れしました」
「入って?」
「失礼します」
室内から聞こえてきた主の声の後、丁寧に扉を開けると室内に入るように、その冷酷な表情で促される。
軽く会釈をして室内に入ると、まだ衣装のままの母が振り返る。
「あら、蛍くん一緒じゃないのね」
「少し遅かったな、千尋に拉致られたよ」
「残念。お母さん会いたかったのに」
年甲斐もなく膨れる母に息子はちょっと引くところだが、世間はこれを許すだろう。
「いつでも会えるだろ」
「秋、お誕生日おめでとう」
突然話を切り変えた母に驚きはしなくて、ああ多分言うタイミングを見計らっていたんだなと、鈍り始めた頭で考える。
「⋯ うん、ありがとう」
「それからなっちゃんも」
「⋯ うん」
─そんな事しか言えなくて本当、嫌になる。
分かっていたけどやっぱり寂しさは拭えない。
産まれる前から一緒だったんだ。
こんな日くらい、表情が歪むのを、目を細めて誤魔化すくらい思い出したって良いだろう
千尋に肩を叩かれて咄嗟に答える。
「ああ」
答えを聞くと、千尋は蛍を連れて歩いて行ってしまった。
─全然聞いてなかったな⋯ まぁ良いか。
千尋だし、わざわざ俺に連れていくって宣言して連れて行ったんだ。
そこまで気にすることでもないだろう。
取り敢えず、楽屋に戻るか。
突然の変化に疎外感を抱く間も無く、後方から声を掛けられた。
「秋さん、今宜しいですか?」
「橘さん」
「撫子さんから楽屋で待っていると、伝えに参りました」
この橘という男。
くすんだシルバーで縁取った眼鏡と、無表情から冷酷な印象。
彼は母、雨野撫子のマネージャーだ。
「あー、なら蛍も一緒が良かったけど⋯ まぁ良いや。行きます」
実はこの橘という人間が正直苦手だ。
物心ついた頃からずっと母のマネージャーをしている。
その為、付き合いも15年になる所だ。
しかし彼はこの15年間、殆ど見た目が変わらない。
15年という長い年月だ、もっと変化があってもおかしくないのだろうが、少し歳を取ったかなと思う程度だ。
オマケに出会ってから見た表情は殆どがこの無表情。
たまに出る愛想笑いはいつも貼り付けた様な笑顔。
─母さんは “個性的” だとか “味があって面白い” とか言うけど、俺には一生かかっても理解出来そうに無い。
まぁ母さんも母さんで理解し難いところがある人間だ。
変な者同士、と密かに思っている。
この通り、仕える者に忠実で真面目。
そこがお気に入りポイントなんだろうけど。
本音はなるべくなら関わりたくない。
しかし、こういう場所だと度々こういったやり取りがある。
「そうですか。ではこちらへ」
そう言って、楽屋の方向だろう。
ついてきているかなんて確認せずにスタスタと歩いて行ってしまった。
3メートル程距離を開けた状態で歩くこと数分。
ひとつの扉の前で足を止めた橘がノックをする。
「撫子さん、秋さんお連れしました」
「入って?」
「失礼します」
室内から聞こえてきた主の声の後、丁寧に扉を開けると室内に入るように、その冷酷な表情で促される。
軽く会釈をして室内に入ると、まだ衣装のままの母が振り返る。
「あら、蛍くん一緒じゃないのね」
「少し遅かったな、千尋に拉致られたよ」
「残念。お母さん会いたかったのに」
年甲斐もなく膨れる母に息子はちょっと引くところだが、世間はこれを許すだろう。
「いつでも会えるだろ」
「秋、お誕生日おめでとう」
突然話を切り変えた母に驚きはしなくて、ああ多分言うタイミングを見計らっていたんだなと、鈍り始めた頭で考える。
「⋯ うん、ありがとう」
「それからなっちゃんも」
「⋯ うん」
─そんな事しか言えなくて本当、嫌になる。
分かっていたけどやっぱり寂しさは拭えない。
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こんな日くらい、表情が歪むのを、目を細めて誤魔化すくらい思い出したって良いだろう
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