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5.Music festival.-雨野秋良の場合-
リハーサル
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忙しく日々のタスクをこなしていると、あっという間にミュージックフェス当日。
結果は後のネット投票といっても、勿論観覧席もあり、最近注目されているアーティストは勿論、俳優や映画監督なんかもゲスト審査員としてステージを観る。
当日、リアルタイムで見たゲスト審査員とお客さんの投票ポイントは一般のネット投票ポイントよりも高い。
当日その場にいる人達をどれだけ魅了できるかが大切だ。
本番は18時から。
現在の時刻は16時を少し回った所。
勿論、本番前にはリハーサルがあるわけで、新人である出演者からリハーサルを行う為、朝早くから現場に入っていた。
実際に演奏を行う音リハ。
ナナツボシは1番最初にリハーサルを終え、練習が出来るでもなく、唯ひたすら本番の時間になるのを待っていた。
「鷹城、どうにかなんねー?」
「どうにもならないよ。ナナツボシの秋はまだまだ駆け出しだからね」
「駆け出しどころか、はじめの1歩だよ」
「そうだった」
冗談を言って笑い合う暇がある位リラックスはしている。
と、舞台設営の最終チェックに勤しむスタッフ達をじっと見つめる蛍。
「蛍くん、緊張してる?」
鷹城が問いかける。
「うーん⋯ 緊張、じゃなくてワクワク?
舞台やステージが出来ていくのを見るの、好きなんだ。楽しい気持ちが増すって言うか、表に出ない人も一緒に作り上げているっていうのが分かるし、たくさんの人に支えられてるんだってわかるから」
「うちの期待の新人アーティストは緊張知らずか。心強いよ」
蛍の回答に鷹城はクスクスと笑った。
『この後ですが音リハが終わり次第、出演者全員でオープニングのリハーサルも行います。出演者はステージ袖入口集合でお願いします。繰り返します、出演者はステージ袖入口集合でお願いします⋯ 』
ステージ前にマイクを持って出てきたスタッフがこの後の予定のアナウンスを終えると、客席にいた出演者らしき数人毎の塊が動き出す。
「蛍、行こうか」
「うん」
席を立って2人して鷹城を見る。
「俺も雪弥と千尋、迎えに行ってくる。秋、任せて良い?」
「こっちは大丈夫だから気にすんな。じゃあ行ってくる」
「行ってきます」
片手を上げて見送る鷹城から蛍に視線を移す。
「本番の出演順ってリハ通り?」
「いや、演奏順はくじ引きのはずだよ。その段取りをこれからやるんだろう。
リハーサルは新人からなんだろうけど、本番は勿論最後の方にやった方が会場に与える印象は強いだろうね」
「流石、2度目」
「まぁな」
笑う蛍に緊張の色は見えなかった。
──緊張、じゃなくてワクワク。
心の底から出てきた言葉なんだろう。
その落ち着いた蛍の姿が、裏方ではないというほんの少しの緊張を取っ払っていった。
ステージ袖入口に移動すると出演アーティストが順番に並べられている所で、点呼をとるスタッフにアーティスト名を申告する。
「ナナツボシです」
「ナナツボシさんは最後でお願いします」
“な” であれば名前順でもなさそうだし、最後という事は応募順だろう。
所謂、特別枠になるだろうし、ユニット名決めるのに時間もギリギリまで貰ったしで申請が最後になった可能性が高い。
そんなことを考えているとステージではオープニングらしい派手な音楽が聞こえる。
並ばされた順番にステージ上に出て行って、くじを引く段取りで進んでいく。
司会者らしいスーツを着た人物から『ミュージックフェス』という単語も聞こえ、開催が宣言された所でリハーサルは終了。
開場時間まで30分を切るというキューピッチなスケジュール。
忙しいのは出演者よりスタッフだろう。
開場となるとフラフラする訳にもいかず、用意された楽屋で待機する事にした。
「そういえば忘れてたけど千尋達も審査員だったな」
「そのお陰で出れたんじゃなかった?」
「それは、為平社長のお陰」
「へそ曲がり。まだ雪弥と話せてないの?」
「⋯ 忙しくて」
苦笑いをすると後方から声をかけられる。
「え?まだ準備出来てないの?」
「鷹城。おかえり。忙しいね、マネージャー」
「有難いけどね。それより、もういい加減着替えた方が良いんじゃない?秋、いっつもギリギリまで準備しないから蛍くん、注意してあげて」
「ふふ⋯ わかりました」
「“衣装”と名のつくものは例えジャージでも窮屈に感じるから極力直前まで粘りたいの。仕方ないから着替えてくる」
「頼むよ、本当。緊張しないのは良いけど、緊張しな過ぎ」
「分かってるよー」
鷹城なりの激励なんだろうと飲み込んで衣装に着替える事にした。
さっさと着替えを済まして私服をハンガーに掛けると廊下からスタッフの声が聞こえた。
『まもなくでーす!出演者の方はスタンバイお願いします!』
「はい!秋、蛍くん、行ってらっしゃい!」
鷹城に追いやられるように楽屋から出される。
「蛍、どうよ?本番直前の緊張感」
「相変わらずワクワクかな。秋は?」
「俺も、ワクワクしてる」
ステージ袖の入口に着くと、リハーサルと同じように列の最後にスタンバイする。
先頭までの9ユニットをゆっくり見ると、みんな緊張しているようで落ち着かない様子だ。
チラリと蛍を見ると同じように出演者を見つめていた。
会場内に拍手や歓喜の悲鳴が聞こえた。
審査員がステージに上がったのだろう。
いよいよだ。
「蛍」
振り向いた蛍をぎゅっと抱きしめると、いつものような照れはなく、背中に手を回すとぽんぽんと叩いてくれた。
「何?緊張してるの?」
「気合いくらい入れておこうかなと思って⋯ 頑張ろうな」
「うん」
ステージではリハ通り盛大な音が鳴る。
『リハ通り、ユニット名呼ばれたら出てください』
ステージ上の司会者が次々にユニット名を呼んで行くと、遂に俺達の番だ。
『本日初お披露目という事で気合い十分だそうです!―ナナツボシ!』
セットの裏からステージ中央に進むと、ナナツボシを初めて見る人達が殆どの中、割れんばかりの拍手と歓声が上がった。
流石、ミュージックフェス。
出るだけで注目を集めるというのはTRAPの時に経験済みだけど、出演が公表されてからメディアに一切出なかったナナツボシは何者だという声も上がっていたと、鷹城が興奮気味に言っていた。
忙しすぎてそこまで頭が回らなかっただけではあるのだが、確かにそうだ。
ナナツボシの情報はROOTのホームページにもまだ掲載されていない。
TRAPのアーティスト写真の横に並んで、顔がぼやける様に青一色で加工した画像の上に “COMING SOON” の文字。
スマートフォンでテキトーに撮った蛍と2人で写っている写真だ。
情報は、ユニット名 “ナナツボシ” と “ミュージックフェス出演決定!” のみ。
プロフィールやディスコグラフィも同じく “COMING SOON” だ。
アーティスト写真も撮れてないし、公表する情報も話せてないしで鷹城が簡単に作ったものだった。
だから、本当の意味でのお披露目だ。
そうこうしている間に、くじを引く時間だ。
「蛍、引いてきて」
「あ、うん。わかった」
各ユニットの代表者達が集まると、くじの入った箱から出た棒を掴む。
ふと審査員席に目を向けると、千尋と目が合う。
その横には勿論、雪弥。
雪弥を睨むと、楽しそうに手を振る千尋に片手を上げて、蛍を探した。
くじを引き終わって、こちらに戻ってくる所だ。
「どうだった?」
「10だったからラスト?」
「マジか!蛍よくやった!」
「10からだったりしてね?」
「まさか」
最後のユニットが引いた番号の申告を終えたようで、バラバラと最初の位置にもどってくる。
『さぁ、全ユニットくじを引き終わりました。演奏して頂く順にユニット名を読み上げます。
1番、みやこ!⋯ 2番、はいほー!⋯ 』
合間に拍手が入り、次々と呼ばれていく。
1番じゃないという事はラストだ。
蛍の引きの強さに感謝しながら発表を待った。
『7番、Juice!… 8番来栖樹里、⋯ 9番、Cross gate!
⋯ 10番、ナナツボシ!
以上、10組のアーティストの方々です。ここに、ミュージックフェスの開幕を宣言します!』
再び割れんばかりの拍手と歓声が聞こえると、ステージ前の仕掛けが火花を散らした。
『それでは出演者の方々には、準備に入っていただきたいと思います』
その合図で全員がステージ袖に向かう。
『その間に審査員の方にもお話伺いましょう。雨野さん』
「はーい!今日はすごく楽しみにしていました⋯ 」
─おい、まてまて。
母さんまで審査員にいるってのはどういう事だ?
審査員席の一番端から聞こえた声に思わず振り返る。
─身内多すぎだろ。
まぁ有利なんだろうけど、それ以上にやりにくい。
「あれ?撫子さん?」
「みたいだな」
「秋、その顔⋯ 」
「ちょっと呆れちゃって⋯ 結局決めるのは一般票なんだ。このくらい許される」
そう言って乗り切ると、楽屋に向かった。
「秋、蛍くん!ラストなんて引き良いね」
楽屋前で待ち構えていた鷹城から声がかかる。
「引きも何も無いだろ。このメンツ」
「あれ?知らなかったような口振り。てっきり撫子さんから聞いているもんだと思っていたよ」
「撫子さんに、ミュージックフェス出るって言った時は確か “観に行けなくて残念” って言っていた気がする」
蛍の言葉で食事会の時の映像が頭に浮かぶ。
─知っててわざわざ言わなかったのか?
観るのではなく出るからってところか⋯
母さんなら言いそうなことだ。
「千尋達がいる事すら、さっき鷹城が迎えに行くって言う時まで忘れていたくらいだ。そんなの覚えていない。
このタイミングであの人に見せる事になるなんて思わなかったよ」
呆れた様に溜め息を交えて言ってみたけど、蛍も鷹城も笑っていた。
─本当はいつか見てもらわなきゃと思っていたから、丁度良かったのかもしれない。
お互い、仕事になるとは思わなかったけど。
出番まで2時間はあるだろうし、同じ事務所って事で千尋達の楽屋にお邪魔しようとかと提案しようと思ったが、テンション維持のために口を閉じた。
雪弥とはこの先話さない、避けるというわけではなくて、この本番前のテンションを潰したくなかった。
出演者は5ユニットずつ分けられてアウェイ感の半端ない楽屋でひたすら出番を待つ。
顔見知りがいる訳じゃないし、出番終わって後は待つだけの奴等は煩いし、こんなんだったら雪弥と睨み合った方が良かったかもしれない。
どうせ演奏中は審査員席にいるんだろう。
結果は後のネット投票といっても、勿論観覧席もあり、最近注目されているアーティストは勿論、俳優や映画監督なんかもゲスト審査員としてステージを観る。
当日、リアルタイムで見たゲスト審査員とお客さんの投票ポイントは一般のネット投票ポイントよりも高い。
当日その場にいる人達をどれだけ魅了できるかが大切だ。
本番は18時から。
現在の時刻は16時を少し回った所。
勿論、本番前にはリハーサルがあるわけで、新人である出演者からリハーサルを行う為、朝早くから現場に入っていた。
実際に演奏を行う音リハ。
ナナツボシは1番最初にリハーサルを終え、練習が出来るでもなく、唯ひたすら本番の時間になるのを待っていた。
「鷹城、どうにかなんねー?」
「どうにもならないよ。ナナツボシの秋はまだまだ駆け出しだからね」
「駆け出しどころか、はじめの1歩だよ」
「そうだった」
冗談を言って笑い合う暇がある位リラックスはしている。
と、舞台設営の最終チェックに勤しむスタッフ達をじっと見つめる蛍。
「蛍くん、緊張してる?」
鷹城が問いかける。
「うーん⋯ 緊張、じゃなくてワクワク?
舞台やステージが出来ていくのを見るの、好きなんだ。楽しい気持ちが増すって言うか、表に出ない人も一緒に作り上げているっていうのが分かるし、たくさんの人に支えられてるんだってわかるから」
「うちの期待の新人アーティストは緊張知らずか。心強いよ」
蛍の回答に鷹城はクスクスと笑った。
『この後ですが音リハが終わり次第、出演者全員でオープニングのリハーサルも行います。出演者はステージ袖入口集合でお願いします。繰り返します、出演者はステージ袖入口集合でお願いします⋯ 』
ステージ前にマイクを持って出てきたスタッフがこの後の予定のアナウンスを終えると、客席にいた出演者らしき数人毎の塊が動き出す。
「蛍、行こうか」
「うん」
席を立って2人して鷹城を見る。
「俺も雪弥と千尋、迎えに行ってくる。秋、任せて良い?」
「こっちは大丈夫だから気にすんな。じゃあ行ってくる」
「行ってきます」
片手を上げて見送る鷹城から蛍に視線を移す。
「本番の出演順ってリハ通り?」
「いや、演奏順はくじ引きのはずだよ。その段取りをこれからやるんだろう。
リハーサルは新人からなんだろうけど、本番は勿論最後の方にやった方が会場に与える印象は強いだろうね」
「流石、2度目」
「まぁな」
笑う蛍に緊張の色は見えなかった。
──緊張、じゃなくてワクワク。
心の底から出てきた言葉なんだろう。
その落ち着いた蛍の姿が、裏方ではないというほんの少しの緊張を取っ払っていった。
ステージ袖入口に移動すると出演アーティストが順番に並べられている所で、点呼をとるスタッフにアーティスト名を申告する。
「ナナツボシです」
「ナナツボシさんは最後でお願いします」
“な” であれば名前順でもなさそうだし、最後という事は応募順だろう。
所謂、特別枠になるだろうし、ユニット名決めるのに時間もギリギリまで貰ったしで申請が最後になった可能性が高い。
そんなことを考えているとステージではオープニングらしい派手な音楽が聞こえる。
並ばされた順番にステージ上に出て行って、くじを引く段取りで進んでいく。
司会者らしいスーツを着た人物から『ミュージックフェス』という単語も聞こえ、開催が宣言された所でリハーサルは終了。
開場時間まで30分を切るというキューピッチなスケジュール。
忙しいのは出演者よりスタッフだろう。
開場となるとフラフラする訳にもいかず、用意された楽屋で待機する事にした。
「そういえば忘れてたけど千尋達も審査員だったな」
「そのお陰で出れたんじゃなかった?」
「それは、為平社長のお陰」
「へそ曲がり。まだ雪弥と話せてないの?」
「⋯ 忙しくて」
苦笑いをすると後方から声をかけられる。
「え?まだ準備出来てないの?」
「鷹城。おかえり。忙しいね、マネージャー」
「有難いけどね。それより、もういい加減着替えた方が良いんじゃない?秋、いっつもギリギリまで準備しないから蛍くん、注意してあげて」
「ふふ⋯ わかりました」
「“衣装”と名のつくものは例えジャージでも窮屈に感じるから極力直前まで粘りたいの。仕方ないから着替えてくる」
「頼むよ、本当。緊張しないのは良いけど、緊張しな過ぎ」
「分かってるよー」
鷹城なりの激励なんだろうと飲み込んで衣装に着替える事にした。
さっさと着替えを済まして私服をハンガーに掛けると廊下からスタッフの声が聞こえた。
『まもなくでーす!出演者の方はスタンバイお願いします!』
「はい!秋、蛍くん、行ってらっしゃい!」
鷹城に追いやられるように楽屋から出される。
「蛍、どうよ?本番直前の緊張感」
「相変わらずワクワクかな。秋は?」
「俺も、ワクワクしてる」
ステージ袖の入口に着くと、リハーサルと同じように列の最後にスタンバイする。
先頭までの9ユニットをゆっくり見ると、みんな緊張しているようで落ち着かない様子だ。
チラリと蛍を見ると同じように出演者を見つめていた。
会場内に拍手や歓喜の悲鳴が聞こえた。
審査員がステージに上がったのだろう。
いよいよだ。
「蛍」
振り向いた蛍をぎゅっと抱きしめると、いつものような照れはなく、背中に手を回すとぽんぽんと叩いてくれた。
「何?緊張してるの?」
「気合いくらい入れておこうかなと思って⋯ 頑張ろうな」
「うん」
ステージではリハ通り盛大な音が鳴る。
『リハ通り、ユニット名呼ばれたら出てください』
ステージ上の司会者が次々にユニット名を呼んで行くと、遂に俺達の番だ。
『本日初お披露目という事で気合い十分だそうです!―ナナツボシ!』
セットの裏からステージ中央に進むと、ナナツボシを初めて見る人達が殆どの中、割れんばかりの拍手と歓声が上がった。
流石、ミュージックフェス。
出るだけで注目を集めるというのはTRAPの時に経験済みだけど、出演が公表されてからメディアに一切出なかったナナツボシは何者だという声も上がっていたと、鷹城が興奮気味に言っていた。
忙しすぎてそこまで頭が回らなかっただけではあるのだが、確かにそうだ。
ナナツボシの情報はROOTのホームページにもまだ掲載されていない。
TRAPのアーティスト写真の横に並んで、顔がぼやける様に青一色で加工した画像の上に “COMING SOON” の文字。
スマートフォンでテキトーに撮った蛍と2人で写っている写真だ。
情報は、ユニット名 “ナナツボシ” と “ミュージックフェス出演決定!” のみ。
プロフィールやディスコグラフィも同じく “COMING SOON” だ。
アーティスト写真も撮れてないし、公表する情報も話せてないしで鷹城が簡単に作ったものだった。
だから、本当の意味でのお披露目だ。
そうこうしている間に、くじを引く時間だ。
「蛍、引いてきて」
「あ、うん。わかった」
各ユニットの代表者達が集まると、くじの入った箱から出た棒を掴む。
ふと審査員席に目を向けると、千尋と目が合う。
その横には勿論、雪弥。
雪弥を睨むと、楽しそうに手を振る千尋に片手を上げて、蛍を探した。
くじを引き終わって、こちらに戻ってくる所だ。
「どうだった?」
「10だったからラスト?」
「マジか!蛍よくやった!」
「10からだったりしてね?」
「まさか」
最後のユニットが引いた番号の申告を終えたようで、バラバラと最初の位置にもどってくる。
『さぁ、全ユニットくじを引き終わりました。演奏して頂く順にユニット名を読み上げます。
1番、みやこ!⋯ 2番、はいほー!⋯ 』
合間に拍手が入り、次々と呼ばれていく。
1番じゃないという事はラストだ。
蛍の引きの強さに感謝しながら発表を待った。
『7番、Juice!… 8番来栖樹里、⋯ 9番、Cross gate!
⋯ 10番、ナナツボシ!
以上、10組のアーティストの方々です。ここに、ミュージックフェスの開幕を宣言します!』
再び割れんばかりの拍手と歓声が聞こえると、ステージ前の仕掛けが火花を散らした。
『それでは出演者の方々には、準備に入っていただきたいと思います』
その合図で全員がステージ袖に向かう。
『その間に審査員の方にもお話伺いましょう。雨野さん』
「はーい!今日はすごく楽しみにしていました⋯ 」
─おい、まてまて。
母さんまで審査員にいるってのはどういう事だ?
審査員席の一番端から聞こえた声に思わず振り返る。
─身内多すぎだろ。
まぁ有利なんだろうけど、それ以上にやりにくい。
「あれ?撫子さん?」
「みたいだな」
「秋、その顔⋯ 」
「ちょっと呆れちゃって⋯ 結局決めるのは一般票なんだ。このくらい許される」
そう言って乗り切ると、楽屋に向かった。
「秋、蛍くん!ラストなんて引き良いね」
楽屋前で待ち構えていた鷹城から声がかかる。
「引きも何も無いだろ。このメンツ」
「あれ?知らなかったような口振り。てっきり撫子さんから聞いているもんだと思っていたよ」
「撫子さんに、ミュージックフェス出るって言った時は確か “観に行けなくて残念” って言っていた気がする」
蛍の言葉で食事会の時の映像が頭に浮かぶ。
─知っててわざわざ言わなかったのか?
観るのではなく出るからってところか⋯
母さんなら言いそうなことだ。
「千尋達がいる事すら、さっき鷹城が迎えに行くって言う時まで忘れていたくらいだ。そんなの覚えていない。
このタイミングであの人に見せる事になるなんて思わなかったよ」
呆れた様に溜め息を交えて言ってみたけど、蛍も鷹城も笑っていた。
─本当はいつか見てもらわなきゃと思っていたから、丁度良かったのかもしれない。
お互い、仕事になるとは思わなかったけど。
出番まで2時間はあるだろうし、同じ事務所って事で千尋達の楽屋にお邪魔しようとかと提案しようと思ったが、テンション維持のために口を閉じた。
雪弥とはこの先話さない、避けるというわけではなくて、この本番前のテンションを潰したくなかった。
出演者は5ユニットずつ分けられてアウェイ感の半端ない楽屋でひたすら出番を待つ。
顔見知りがいる訳じゃないし、出番終わって後は待つだけの奴等は煩いし、こんなんだったら雪弥と睨み合った方が良かったかもしれない。
どうせ演奏中は審査員席にいるんだろう。
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