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5.Music festival.-雨野秋良の場合-
ねだられると弱い
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想定よりも早く解散となり名残惜しい気持ちはあったが、たまにはそういった日があっても良いだろう。
この2週間は事務所にこもりっきりで、ずっと蛍には会えていなかった。
せっかく会えたのだから、なるべく多くの時間を共有していたいが、想定より早い解散とはいえ割と良い時間だ。
学校から近い蛍の家に帰れば明日の朝は楽になるし、蛍とも一緒にいられるしで一石二鳥。
しかし蛍の家には昨日も泊まったばかりだ。
家族になるかもしれないと言っても、流石にやり過ぎだろう。
櫻学前のホームに電車が滑り込んだタイミングで蛍に別れを告げて出口に体を向けると、手を掴まれていた。
「⋯ 帰らなきゃダメ?」
ボソリと聞こえた声に少し動揺していると電車のドアが開く。
乗り降りする乗客を横目に、更に迫るタイムリミットが緊張感を高めていった。
蛍のおねだりにはとことん弱い。
好きな相手からそう言われてしまっては、つっ返すのは難しい人が多いのかも知れないが、秋良も例外ではなく、蛍の存在は特別で、蛍の遠慮がちなアピールなんかは意地悪をすることはあっても断れない。
─そんな可愛い顔と声で言われたら断れるわけがない。
なんなら、危うく車内で抱きしめるところだった。
動揺を隠す様に手を掴み直して、耳元に唇を寄せて囁く。
案の定、蛍の顔は真っ赤に染まった。
照れているとか、動揺しているとかは相手に悟られたくない。
蛍が動揺しているその隙に調子を整えて平然を装った。
だけど家に着くまでの間、蛍を抱きしめたくて、キスをしたくて、早く2人きりになりたいという気持ちは消えない。
─なにもかも蛍のせいだ。
蛍が可愛いせい。
電車を降りて駅から離れると、人影は無い。
明かりも少ない夜道だ。
まだなんとなく、気まずそうにしている蛍の手を取ると、指を絡めた。
「⋯⋯⋯ 」
─抗議してくると思った。
⋯ まぁ良い、肯定したと解釈しよう。
俺にはメリットだけだ。
それに蛍は昨日、少しだけ積極的になってくれた。
俺に答えてくれた。
蛍の気持ちはいまいち解らないけど“ない”対象ではないんだろう。
思い返してみれば、最初にキスをしてきたのは蛍の方だ。
眠っているうちの無意識なのか?
間違えるなんて事あるんだろうか⋯
あれは初めて秋良が蛍の家に泊まった日。
うとうと眠りゆく蛍が可愛くて、ちっとも勉強なんて手につかなかった。
テーブルに突っ伏して眠ってしまった蛍が、転げ落ちそうになった所を慌てて支え、ベッドに運んでやろうと抱き上げた。
たった1メートルの距離でも凄く幸せな時間だった。
惜しみながらもベッドに降ろすと、体ごと引き寄せられ唇が触れた。
名前を呼ぶから、期待と安心と緊張が一気に押し寄せてきたのを覚えている。
眠っている相手になんて、フェアじゃない気がして必死で気持ちを抑えようとしたこと、今でも鮮明に思い出せる。
それ以来、表に出ることを許さなかった感情がどんどん溢れてきて、時には抑えられないなんて事が増えている。
いつか制御が効かなくなった時、蛍のことを傷付けてしまうんではないかと、秋良は不安を感じていた。
それまで人任せに掴まれていた蛍の指に力が入りふと顔を上げると、蛍の家は目の前だった。
蛍の顔を見るとまだほんのりと顔が赤い。
家の扉の前に着くと蛍は、繋いでいない方の手をポケットに突っ込んで上目遣い秋良を見る。
「⋯ ごめん」
遠慮がちに言って繋いだ手を解いた。
─ああ、ダメだ。
悔しい。
自分の仕掛けたトラップにハマった様な感覚だった。
ごめんというのはどういう意味だろう。
ここまで連れてきてしまったことへの謝罪か、それとも手を離すことへの断りか。
どちらにせよ、なんて愛らしいんだ。
動揺からか、もたつきながらも扉を開けて無言で靴を脱ぐ蛍を後ろから抱きしめる。
「蛍、キスしたい」
蛍の体がビクッと跳ねる。
横から頬に手を添えると蛍の顔をこちらに向かせてキスをした。
蛍もそれに答えて、暫くの間唇を合わせる。
だんだん深くなっていくキスにお互いの息が上がると、理性を保つのにはギリギリのラインだ。
ペースを緩めて焦らしながら、そして悟られないように。
なんとも計画的で本能的で、自分勝手な愛撫を続ける。
「⋯ 少しは俺に興味を持ってくれた?」
時々息継ぎのように離しては、動けば唇が触れそうな距離で呟くけど、蛍の耳には言葉として入らない様子だ。
それだけキスに夢中になってくれている事は単純に嬉しく思う。
しかし段々、それだけじゃ物足りなくなっている事に薄々気付いてはいた。
気持ちが通じ合うなんて二の次で、ただ蛍を抱きたいと思ってしまうなんて、どうしようもない人間なんだろう。
それでもやっぱり、そんな事蛍にしか思わないし、蛍以外には思えない。
無慈悲な心でも、自分の気持ちは別って事なんだろう。
とんだエゴイストだ。
この2週間は事務所にこもりっきりで、ずっと蛍には会えていなかった。
せっかく会えたのだから、なるべく多くの時間を共有していたいが、想定より早い解散とはいえ割と良い時間だ。
学校から近い蛍の家に帰れば明日の朝は楽になるし、蛍とも一緒にいられるしで一石二鳥。
しかし蛍の家には昨日も泊まったばかりだ。
家族になるかもしれないと言っても、流石にやり過ぎだろう。
櫻学前のホームに電車が滑り込んだタイミングで蛍に別れを告げて出口に体を向けると、手を掴まれていた。
「⋯ 帰らなきゃダメ?」
ボソリと聞こえた声に少し動揺していると電車のドアが開く。
乗り降りする乗客を横目に、更に迫るタイムリミットが緊張感を高めていった。
蛍のおねだりにはとことん弱い。
好きな相手からそう言われてしまっては、つっ返すのは難しい人が多いのかも知れないが、秋良も例外ではなく、蛍の存在は特別で、蛍の遠慮がちなアピールなんかは意地悪をすることはあっても断れない。
─そんな可愛い顔と声で言われたら断れるわけがない。
なんなら、危うく車内で抱きしめるところだった。
動揺を隠す様に手を掴み直して、耳元に唇を寄せて囁く。
案の定、蛍の顔は真っ赤に染まった。
照れているとか、動揺しているとかは相手に悟られたくない。
蛍が動揺しているその隙に調子を整えて平然を装った。
だけど家に着くまでの間、蛍を抱きしめたくて、キスをしたくて、早く2人きりになりたいという気持ちは消えない。
─なにもかも蛍のせいだ。
蛍が可愛いせい。
電車を降りて駅から離れると、人影は無い。
明かりも少ない夜道だ。
まだなんとなく、気まずそうにしている蛍の手を取ると、指を絡めた。
「⋯⋯⋯ 」
─抗議してくると思った。
⋯ まぁ良い、肯定したと解釈しよう。
俺にはメリットだけだ。
それに蛍は昨日、少しだけ積極的になってくれた。
俺に答えてくれた。
蛍の気持ちはいまいち解らないけど“ない”対象ではないんだろう。
思い返してみれば、最初にキスをしてきたのは蛍の方だ。
眠っているうちの無意識なのか?
間違えるなんて事あるんだろうか⋯
あれは初めて秋良が蛍の家に泊まった日。
うとうと眠りゆく蛍が可愛くて、ちっとも勉強なんて手につかなかった。
テーブルに突っ伏して眠ってしまった蛍が、転げ落ちそうになった所を慌てて支え、ベッドに運んでやろうと抱き上げた。
たった1メートルの距離でも凄く幸せな時間だった。
惜しみながらもベッドに降ろすと、体ごと引き寄せられ唇が触れた。
名前を呼ぶから、期待と安心と緊張が一気に押し寄せてきたのを覚えている。
眠っている相手になんて、フェアじゃない気がして必死で気持ちを抑えようとしたこと、今でも鮮明に思い出せる。
それ以来、表に出ることを許さなかった感情がどんどん溢れてきて、時には抑えられないなんて事が増えている。
いつか制御が効かなくなった時、蛍のことを傷付けてしまうんではないかと、秋良は不安を感じていた。
それまで人任せに掴まれていた蛍の指に力が入りふと顔を上げると、蛍の家は目の前だった。
蛍の顔を見るとまだほんのりと顔が赤い。
家の扉の前に着くと蛍は、繋いでいない方の手をポケットに突っ込んで上目遣い秋良を見る。
「⋯ ごめん」
遠慮がちに言って繋いだ手を解いた。
─ああ、ダメだ。
悔しい。
自分の仕掛けたトラップにハマった様な感覚だった。
ごめんというのはどういう意味だろう。
ここまで連れてきてしまったことへの謝罪か、それとも手を離すことへの断りか。
どちらにせよ、なんて愛らしいんだ。
動揺からか、もたつきながらも扉を開けて無言で靴を脱ぐ蛍を後ろから抱きしめる。
「蛍、キスしたい」
蛍の体がビクッと跳ねる。
横から頬に手を添えると蛍の顔をこちらに向かせてキスをした。
蛍もそれに答えて、暫くの間唇を合わせる。
だんだん深くなっていくキスにお互いの息が上がると、理性を保つのにはギリギリのラインだ。
ペースを緩めて焦らしながら、そして悟られないように。
なんとも計画的で本能的で、自分勝手な愛撫を続ける。
「⋯ 少しは俺に興味を持ってくれた?」
時々息継ぎのように離しては、動けば唇が触れそうな距離で呟くけど、蛍の耳には言葉として入らない様子だ。
それだけキスに夢中になってくれている事は単純に嬉しく思う。
しかし段々、それだけじゃ物足りなくなっている事に薄々気付いてはいた。
気持ちが通じ合うなんて二の次で、ただ蛍を抱きたいと思ってしまうなんて、どうしようもない人間なんだろう。
それでもやっぱり、そんな事蛍にしか思わないし、蛍以外には思えない。
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とんだエゴイストだ。
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