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4.Autumn.
プロポーズ?
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早速家の前まで来ると、玄関の扉を引く。
鍵は開いているようだ。
外がまだ明るかったため部屋の電気が付いているかで判断は出来なかったが、既に帰っているようだ。
「鍵開いてる。もう帰ってるみたい」
鷹城が姿勢を正すと秋良がツッコミを入れる。
「そんなわかり易く緊張すんな」
「そりゃするよ。大事な息子さん達の将来を預けてもらいに行くんだから」
「⋯ プロポーズか。って “達” って俺もか」
「え?もう開けて良い?」
玄関のドアを握ったまま展開されていた会話に断りを入れた。
「ああ、お願いします」
鷹城はもう一度、背筋を伸ばす。
「ただいまー」
「蛍、秋良くん、おかえり」
まだ帰ってきたばかりの様で、スーツを着たままの佳彦がリビングから顔を出した。
「佳彦さん、ただいま」
先程の機嫌の悪さからは想像出来ない爽やかな笑顔を見せる。
「⋯ そちらは?」
蛍達の後でにこやかに立っていた鷹城に目を向ける。
「突然お邪魔してしまって申し訳ありません。私、秋良くんのマネージャーをしております鷹城と申します」
そう言って名刺を差し出す。
「蛍くんと、秋良くんの事でご相談がありまして伺いました」
「父さん、説明するから取り敢えず、リビングで話しても良い?」
「ああ、どうぞ」
不思議そうな顔をしながらも、佳彦はスリッパを鷹城の前に置いた。
「恐れ入ります」
状況が分からなくても“2人の”息子が連れてきた男を警戒しようとは思わないのか、笑顔の佳彦はリビングへと案内をする。
部屋に入り、みんながソファに座るのを確認すると人数分のコップとペットボトルのお茶を持って席に混ざる。
お茶を注いでそれぞれの席の前に置くと、まず口を開いたのは秋良だった。
「多分、俺が話した方が佳彦さん分かりやすいと思うから俺から話すけど良い?鷹城サン」
不自然に敬称をつけた秋良に動じず、鷹城はすぐに返信をする。
「うん、構わないよ」
「OK」
それから秋良は蛍の顔を見て頷いてから、義彦に向き直った。
「佳彦さん、TRAPってアーティストわかりますか?」
「蛍が好きだっていうアーティスト?」
そう言ってこちらを見た佳彦に頷いてみせた。
「実は俺、TRAPの影のメンバーで、彼等の曲を作っているんです」
「へぇ!本当に?⋯ 凄いな。流石、撫子さんの血を受け継いでるだけあるなぁ」
“撫子さん” とは秋良の母親のことだ。
佳彦は笑顔を秋良に向けた。
「いえ、そんな対したことはしてないんですけど⋯ それで、彼がTRAPのマネージャーです」
「TRAPの所属するROOTという会社でマネジメントを担当しています、鷹城です」
そう言われると佳彦は、先程受け取った名刺を見る。
「だから秋良くんのマネージャーでもあるのか」
「今はそうなんですけど⋯ 実は蛍とふたりでユニットを組んで、一緒にやって行きたいと思っていて、その相談に来ました。佳彦さんには許してもらってからやりたくて」
「なるほど⋯ 」
「秋良くんはもう所属してるとはいえ、大事な息子さんを2人も預からせていただく事になりますので、ご挨拶に伺いました」
「佳彦さん、お願いします。蛍と一緒に活動させてください」
リビングを沈黙が包んだ。
蛍は佳彦が反対する筈が無いと思っていた。
秋良や鷹城のかしこまった雰囲気に、流されてしまったのか。
中学の時、劇団に入りたいと言った時も一番応援してくれたのは父の佳彦で、いつまでも一番の理解者であると思っていた。
その沈黙は反対だと言う意味なのだろつうか?
「父さん⋯ ?」
恐る恐る声を掛ける。
「蛍は?」
「え?」
「父さん、蛍の意見も聞きたいなぁ」
3人の視線が一気に集まって、言葉を詰まらせた。
小さく深呼吸をして口を開く。
「俺は⋯ やりたくても出来なかった音楽をやるチャンスが目の前にあって、つかみたいと思ってる。それに、秋の作る曲が凄く好きなんだ。一緒にやっていけたら良いなと思ってる」
「うん、やりたい事はやれば良い。父さんは蛍の夢は全力で応援するよ」
「父さん⋯ 」
「じゃあ、許して貰えるんですか?」
「秋良くんがいるし、何も心配はしていないかな」
「あ⋯ ありがとうございます!」
「私もマネージャーとして全力でサポートしますので心配なさらないでください」
その佳彦の優しい笑顔に、これまでの柵から開放された気がした。
「はぁ、安心したら眠気が⋯ 」
「え?秋良くん大丈夫?」
「スケジュールが詰まってて、全然寝てないんだって」
ここ最近の事情を簡単に説明すると、佳彦は驚いた。
「徹夜?」
「2週間前からほとんど寝ずに作業していたみたい⋯ 」
「⋯ もう寝てる」
言葉通り力尽きたという様に眠っていた。
毎日毎日、すごく頑張っていたのを知っているからすぐに起こしてしまうのが可哀想になった。
「参ったな⋯ 」
鷹城が短い髪をかきあげる。
聞けば、しばしばこういう事はある様で、家に連れ帰るのに苦労しているそうだ。
苦い顔をしている鷹城に佳彦は助け舟を出した。
「今日は家に泊めますよ、鷹城さん。
そうじゃなくても秋良くん、結構家に泊まりに来ているみたいですし」
「そうしていただけると、有難いです」
「勿論です」
佳彦と鷹城は雰囲気が似ている。
2人共、いつもにこにこして良い人そうなイメージだ。
佳彦の性格が解っている分、その雰囲気に似ている鷹城にも親近感が湧く。
いつも秋良のことを気にかけていて、秋良の扱い方も知っている鷹城はとても心強い味方で、鷹城だからあんな態度が取れるのだとも思い始めていた。
リビングのテーブルを退けると、そこに布団を敷いて秋良を転がす。
その寝顔を見て微笑ましい気持ちになった。
── 俺に時間をくれ。
そう言ったあの日から頑張って来たのだろうから、明日は起きるまで寝かせてやろうと蛍ひとり頷いた。
─そうだ。
詩を書いてみろと言われたことを思い出すと、蛍はスマートフォンを取り出す。
それらしい文字を書いては消し、言葉を選ぶ。
友達に宛てた詩。
家族に宛てた詩。
恋人に宛てた詩。
⋯ 好きな人に宛てた詩。
膝を抱えて、きゅうっと締め付けられる胸の違和感を感じていた。
─好きな人⋯ か。
胸の中にいたはずの愛おしい気持ちは、これ以上進むことを制限されたばかりだ。
強制的に終了出来るならまだ良い。
出来ないからタチが悪い。
この気持ちを文字に認めていったら失恋ソングが書けるだろう。
せめてソウゾウの中では幸せでいたいものだ。
鍵は開いているようだ。
外がまだ明るかったため部屋の電気が付いているかで判断は出来なかったが、既に帰っているようだ。
「鍵開いてる。もう帰ってるみたい」
鷹城が姿勢を正すと秋良がツッコミを入れる。
「そんなわかり易く緊張すんな」
「そりゃするよ。大事な息子さん達の将来を預けてもらいに行くんだから」
「⋯ プロポーズか。って “達” って俺もか」
「え?もう開けて良い?」
玄関のドアを握ったまま展開されていた会話に断りを入れた。
「ああ、お願いします」
鷹城はもう一度、背筋を伸ばす。
「ただいまー」
「蛍、秋良くん、おかえり」
まだ帰ってきたばかりの様で、スーツを着たままの佳彦がリビングから顔を出した。
「佳彦さん、ただいま」
先程の機嫌の悪さからは想像出来ない爽やかな笑顔を見せる。
「⋯ そちらは?」
蛍達の後でにこやかに立っていた鷹城に目を向ける。
「突然お邪魔してしまって申し訳ありません。私、秋良くんのマネージャーをしております鷹城と申します」
そう言って名刺を差し出す。
「蛍くんと、秋良くんの事でご相談がありまして伺いました」
「父さん、説明するから取り敢えず、リビングで話しても良い?」
「ああ、どうぞ」
不思議そうな顔をしながらも、佳彦はスリッパを鷹城の前に置いた。
「恐れ入ります」
状況が分からなくても“2人の”息子が連れてきた男を警戒しようとは思わないのか、笑顔の佳彦はリビングへと案内をする。
部屋に入り、みんながソファに座るのを確認すると人数分のコップとペットボトルのお茶を持って席に混ざる。
お茶を注いでそれぞれの席の前に置くと、まず口を開いたのは秋良だった。
「多分、俺が話した方が佳彦さん分かりやすいと思うから俺から話すけど良い?鷹城サン」
不自然に敬称をつけた秋良に動じず、鷹城はすぐに返信をする。
「うん、構わないよ」
「OK」
それから秋良は蛍の顔を見て頷いてから、義彦に向き直った。
「佳彦さん、TRAPってアーティストわかりますか?」
「蛍が好きだっていうアーティスト?」
そう言ってこちらを見た佳彦に頷いてみせた。
「実は俺、TRAPの影のメンバーで、彼等の曲を作っているんです」
「へぇ!本当に?⋯ 凄いな。流石、撫子さんの血を受け継いでるだけあるなぁ」
“撫子さん” とは秋良の母親のことだ。
佳彦は笑顔を秋良に向けた。
「いえ、そんな対したことはしてないんですけど⋯ それで、彼がTRAPのマネージャーです」
「TRAPの所属するROOTという会社でマネジメントを担当しています、鷹城です」
そう言われると佳彦は、先程受け取った名刺を見る。
「だから秋良くんのマネージャーでもあるのか」
「今はそうなんですけど⋯ 実は蛍とふたりでユニットを組んで、一緒にやって行きたいと思っていて、その相談に来ました。佳彦さんには許してもらってからやりたくて」
「なるほど⋯ 」
「秋良くんはもう所属してるとはいえ、大事な息子さんを2人も預からせていただく事になりますので、ご挨拶に伺いました」
「佳彦さん、お願いします。蛍と一緒に活動させてください」
リビングを沈黙が包んだ。
蛍は佳彦が反対する筈が無いと思っていた。
秋良や鷹城のかしこまった雰囲気に、流されてしまったのか。
中学の時、劇団に入りたいと言った時も一番応援してくれたのは父の佳彦で、いつまでも一番の理解者であると思っていた。
その沈黙は反対だと言う意味なのだろつうか?
「父さん⋯ ?」
恐る恐る声を掛ける。
「蛍は?」
「え?」
「父さん、蛍の意見も聞きたいなぁ」
3人の視線が一気に集まって、言葉を詰まらせた。
小さく深呼吸をして口を開く。
「俺は⋯ やりたくても出来なかった音楽をやるチャンスが目の前にあって、つかみたいと思ってる。それに、秋の作る曲が凄く好きなんだ。一緒にやっていけたら良いなと思ってる」
「うん、やりたい事はやれば良い。父さんは蛍の夢は全力で応援するよ」
「父さん⋯ 」
「じゃあ、許して貰えるんですか?」
「秋良くんがいるし、何も心配はしていないかな」
「あ⋯ ありがとうございます!」
「私もマネージャーとして全力でサポートしますので心配なさらないでください」
その佳彦の優しい笑顔に、これまでの柵から開放された気がした。
「はぁ、安心したら眠気が⋯ 」
「え?秋良くん大丈夫?」
「スケジュールが詰まってて、全然寝てないんだって」
ここ最近の事情を簡単に説明すると、佳彦は驚いた。
「徹夜?」
「2週間前からほとんど寝ずに作業していたみたい⋯ 」
「⋯ もう寝てる」
言葉通り力尽きたという様に眠っていた。
毎日毎日、すごく頑張っていたのを知っているからすぐに起こしてしまうのが可哀想になった。
「参ったな⋯ 」
鷹城が短い髪をかきあげる。
聞けば、しばしばこういう事はある様で、家に連れ帰るのに苦労しているそうだ。
苦い顔をしている鷹城に佳彦は助け舟を出した。
「今日は家に泊めますよ、鷹城さん。
そうじゃなくても秋良くん、結構家に泊まりに来ているみたいですし」
「そうしていただけると、有難いです」
「勿論です」
佳彦と鷹城は雰囲気が似ている。
2人共、いつもにこにこして良い人そうなイメージだ。
佳彦の性格が解っている分、その雰囲気に似ている鷹城にも親近感が湧く。
いつも秋良のことを気にかけていて、秋良の扱い方も知っている鷹城はとても心強い味方で、鷹城だからあんな態度が取れるのだとも思い始めていた。
リビングのテーブルを退けると、そこに布団を敷いて秋良を転がす。
その寝顔を見て微笑ましい気持ちになった。
── 俺に時間をくれ。
そう言ったあの日から頑張って来たのだろうから、明日は起きるまで寝かせてやろうと蛍ひとり頷いた。
─そうだ。
詩を書いてみろと言われたことを思い出すと、蛍はスマートフォンを取り出す。
それらしい文字を書いては消し、言葉を選ぶ。
友達に宛てた詩。
家族に宛てた詩。
恋人に宛てた詩。
⋯ 好きな人に宛てた詩。
膝を抱えて、きゅうっと締め付けられる胸の違和感を感じていた。
─好きな人⋯ か。
胸の中にいたはずの愛おしい気持ちは、これ以上進むことを制限されたばかりだ。
強制的に終了出来るならまだ良い。
出来ないからタチが悪い。
この気持ちを文字に認めていったら失恋ソングが書けるだろう。
せめてソウゾウの中では幸せでいたいものだ。
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