まだ、言えない

怜虎

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4.Autumn.

テンション

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ナツの死という衝撃の事実を知ってからの記憶がない。

あの後どの様に部屋に戻ったかはおろか、どうやって家に帰ってきたかも覚えていない。

卒業旅行最終日は空白の1日となった。


旅行が終われば土曜・日曜と、慣れない土地で溜まった疲れを取り、月曜日からは午前中だけだか授業がある。

今はその月曜日の朝。

スマートフォンには大量の着信やメールの通知があったが、とても見る気にはなれなくて確認したのが今だ。

メールを開いてみると、秋良と悠和、それに山口まで連絡をよこしていた。

相当心配を掛けたのが伺える文章たちを前に、頬を2回たたき気合いを入れる。

麻痺した心は、心配してくれる仲間たちへの申し訳ないという気持ちだけが痛みを感じさせたようだった。



─会ったら、心配を掛けたことを謝ろう。



「いってきます」


誰もいない部屋に言ってから玄関を開ける。

すると門の外には秋良の姿があった。


「蛍」


名前を呼びながら笑ってみせると、一緒に行こうと外に出るように促した。

並んで学校までの道を歩き出す。

ただひたすらゴールを目指すように。


家にいる間、ひどく落ち込む訳ではなかったが、何をしても一定のテンションから上がることはなかった。

感じる力が鈍くなったような感覚。


秋良の顔を見ると、家族がいなくなってしまったショックは自身の比ではないだろうと、申し訳ない気持ちになると同時に、卒業旅行中にあった事が蘇ってきた。

しかし今は思い出に浸っている場合ではなく、まずは謝罪が優先だろう。

一番迷惑を掛けたのはきっと秋良だから。

複雑な想いが混ざると、顔を引き締めて口を開いた。


「貴重な土日、潰してごめん。それと色々⋯ ごめん」


秋良は目線を変えず、進行方向を見ながら言った。


「いや、俺もあのタイミングで言うべきじゃなかった。少し考えればわかることなのに」


居場所を教えて欲しいと言ったのは自分だ。

それなのに秋良は、まるで自分の方が悪いとでも言うかの様に振舞った。


「ううん⋯ いずれ分かった事なんだから少しでも早く知れて良かったよ。
その⋯ お姉さん、なんだよね。大丈夫なの⋯ ?」


秋良は微笑して見せた。

しばしの沈黙の後、旅行が楽しかったとか、ユニットの次の予定だとか、普段通りの話を秋良が一方的にするうちに学校に到着していた。


教室に入ると、飛んできたのは悠和。

後から山口も寄ってきた。


「蛍!⋯ おはよう」

「おはよう」


悠和の笑顔の中には寂しさや気まずさが混ざっている気がした。



─悠佳は、どこまでこの事実を知っているのだろう?

ちゃんと話をしなければいけない。

真実を話さなければ。

どれが本当で、何が嘘なのかを。


出来ることなら、今はまだそっとしておいて。

その願いが叶うなら、必ず。

必ず話すから、もう少しだけ待っていて欲しい。



「おはよう。悠和にも山口にも、心配掛けてごめん。メールもありがとう。もう大丈夫だから」

謝罪だけすると、それ以上何も言われない様にと、笑顔で振り切った。


「⋯ うん。良かった」


悠和と山口が安堵したのがその表情でわかった。
そんなに心配してくれても何も返せない。

周りは力になってくれる優しい人達ばかりなのに、何も答えることが出来ない自分の無力さをひしひしと感じていた。


自分では気持ちが晴れたつもりでも周りにはそうは見えない様で、授業をしに来た先生方にはもれなく心配された。


この人も例外ではない。


「蛍、大丈夫か?」


各自問題を解くために設けられた少しの時間を使い、気にかけてくれたようだ。

見上げると、隼人が真横に立っていた。


「はや兄⋯ うん、大丈夫なつもりだけど、そんなヤバそうに見える?」

「まぁまぁかな。体調悪くなったら言えよ」


そう言っておまけに頭を撫でていく。


離れて行く後ろ姿を見つめると、授業終了を知らせるチャイムが鳴った。


「はい!じゃあ、終わってない所は宿題ね。次の授業まで」

『気を付け、礼』


号令と共に室内がざわつく。


「蛍、今日事務所行ける?」

「うん、そう思ってお土産持ってきたんだ」

「そうか、買ったんだっけ。じゃあ渡しに行こうか」

「うん」


いつもの様に先に食事を済ませて事務所に向かった。

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