まだ、言えない

怜虎

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4.Autumn.

絶望

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ここに来てからそこまで時間は経っていない。

山口辺りがここまで追いかけてきたのだろうか。

頭上で息を整えると、寂し気な声が名前を読んだ。


「蛍⋯」


誰の声かはすぐにわかった。

でも、顔を覆った腕は外せない。


「蛍、俺の顔見て?」


怒ってるかと思った。


秋良の優しい声に目頭が熱くなる。


泣き顔を見られまいと、そのまま首だけ振った。


「⋯じゃあ一緒に星を見よう?
それならお互い顔見えないだろ」

そう言って、背を向けるとベンチの足に背もたれた。


秋良の言った通り暫くは一緒に空を見上げていた。

その何も言わない優しさに黙り続けているのが申し訳なくなり、恐る恐る口を開いた。


「⋯ごめん、空気乱して」

「山口から聞いた。あいつを庇ったんだろう?」


違う。

庇ったのは自分自身をだ。

そんなイイコじゃない。


「⋯山口は何て言ってた?」

「俺達が根掘り葉掘り聞いたって」

「違う⋯山口は俺の代わりに言い訳を作っただけで⋯悪くない」

「うん、わかってるよ」


その優しい声と、山口の優しさにも触れ、涙が溢れていた。

悔しさと、寂しさも混ざった涙。


「みんな蛍が悪いなんて思ってない。大丈夫だから」


そう言って何度も何度も髪を撫でた。


「⋯⋯」


いつまでも止まない感触は、涙や混ざり合った複雑な感情を拭い去っていた。


「この際だから言っても良い?」

「うん⋯何?」

「俺、彼女の事全然知らないんだ。
唯一知っているのはモデルだってことだけ。
あとは共通の知り合いがいたんだけど、予測出来ることはあっても関係性とか全くわからないんだ⋯ 」


ゆっくり起き上がり、ベンチの上で膝を抱えた。

膝に腕を付けるような体制になり、俯いた秋良の表情は読み取れなかった。

動かなくなった秋良の背中をじっと見つめる。

虫の声だけが聞こえる中、目を瞑ると秋良の言葉を待った。


暫くの沈黙の後、秋は大きく息を吸うとゆっくりと口を開いた。


「俺⋯姉がいてさ。
話聞いた感じ、多分それ俺の姉だ⋯ 」


「えっ?」

「⋯⋯」

「お姉さんの名前は⋯?」

「⋯⋯⋯ナツキ」

「ナツキ⋯⋯ナツ⋯ナツの居場所しらない⋯?2ヶ月位連絡つかないんだ。居場所、知ってるなら教えてよ⋯」


眉を寄せて俯きながら首を振った秋良の、悲痛な顔が不安を煽る。



「⋯⋯死んだんだ」

「えっ⋯」



―今、なんて?

死んだ?ナツが⋯?



「はは⋯ 冗談、でしょ?」


「⋯冗談でこんな事言わない」


次の瞬間、目の前が真っ白になる。



―ナツが死んだ。

ナツが、死んだ⋯?



受け止めきれない現実に、大粒の涙が零れていた。

涙を流している事にも気付けないくらいボロボロで、思考回路は停止状態。

自分の体が自分のでないように思えて、それでもずっと抱きしめてくれている秋良が、意識と体を繋ぎ止めていてくれる気がした。



―自分だって悲しいはずなのに。



ただただ、力強い腕に抱きしめられる感覚だけが残っていた。

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