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4.Autumn.
彼女の存在
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今日の宿は昨日までのホテルとは大分雰囲気の違う旅館だ。
夕飯も旅館の広間での食事で、部屋も6人ずつに配分されている。
夕飯が終わり、振り分けられた各部屋に散らばっていく。
同室は今回の旅行で行動を共にした、秋良、山口、悠和に、長谷川と安藤が加わっての6人だ。
お風呂等寝る準備は終わり、室内に布団を敷き詰めていく。
よくある修学旅行の図だ。
現在、室内には4人。
秋良と悠和がまだ部屋に戻っていなかった。
「吉澤、彼女いるんだ?」
敷き終わって早速布団の上で寝っ転がると、安藤がニヤニヤしながら近くに腰を下ろした。
驚いた。
朝にも同じような質問をされたばかりだ。
「なんで?」
「なんでって、首筋に」
そう言って自身の首筋をトントンと指差した。
―首筋⋯?
“彼女”と“首筋”から連想されるものと言えばひとつしか思いつかず、慌てて首を手で塞いだ。
蒸気し顔が赤くなり、鈍くなった思考回路でも犯人の予想はつく。
しかし2日間も気付いていなかったなんて本当に間抜けだ。
その2日間、行動を共にしていた山口や悠和は気付いていたのだろうか。
眉間に皺を寄せて山口を見ると、微かに口角を上げた。
「いるよ。吉澤に彼女」
山口がでっちあげる。
「マジで?羨ましいなリア充。どんな子?」
「えーと⋯」
どんな子?と言われても存在しないものは説明出来ない。
「年上。すげー美人」
「山口!」
しれっと話を作っていく山口を止めに入ると、まぁまぁと丸め込まれた。
確かに彼女がいないのに、キスマークの理由を見つける方が難しいかも知れない。
そう言えばナツの事はモデルという事しか知らない事に気付く。
どこに住んでるのか、歳すらも。
また胸が痛む。
胸の辺りを掴むと俯いていた。
「⋯吉澤?大丈夫か?」
「ごめん吉澤。調子に乗った」
違う。
山口達のせいでは無いんだ。
「大丈夫⋯何でもない」
ゆっくりと息をして呼吸を整える。
「蛍?」
そこへ秋良と悠和が戻ってきた。
少し苦しげな表情をしていただろうか。
またしても2人に心配を掛けてしまった。
「どうした?蛍?」
「おいお前!蛍に何した?」
秋良は長谷川の胸ぐらを掴む。
ひとりだけ離れて立ち尽くす長谷川が標的になってしまったようだ。
「雨野!辞めろ!」
山口が制しても弱まらない手に、目を真っ直ぐ見つめると、諭すように告げた。
「秋、手離して」
沈黙が耐えられないという様子で首元を緩めると長谷川が呟いた。
「⋯吉澤の彼女の話してただけだよ」
「彼女?!」
すぐに悠和が拾う。
「⋯ちゃんと言う機会なかったけど俺、彼女いるんだ」
「「⋯⋯」」
秋良は目を伏せ、悠和は目を見開いた。
それ以上、言葉を発するものはおらず、暫くの間は居た堪れない様な沈黙が漂った。
「⋯⋯ちょっと頭冷やしてくる」
「蛍!」
「吉澤?」
呼び止める声も聞かず、部屋を飛び出していた。
建物からも出て暫く走ると、そびえ立つ木に囲まれたちょっとした空間に出た。
上を見上げると、木の隙間からは綺麗な星空が望める。
こんな風に夜空を見る用だろうか。
いくつか配置されたベンチのひとつに仰向けになって夜空を見つめた。
秋良はあんな嘘、簡単に見抜くだろう。
しかし、嘘をついた事に対しては凄く怒るかもしれない。
今度はどんな顔して会えば良い?
悠和は軽蔑しただろうか。
昼間あんな大口叩いておいて、すぐにこれだ。
呆れられてもしょうがない。
「はぁ⋯」
腕で目を覆い隠して、次々に浮かんでくる自分の言動は嫌悪へと変わっていった。
夕飯も旅館の広間での食事で、部屋も6人ずつに配分されている。
夕飯が終わり、振り分けられた各部屋に散らばっていく。
同室は今回の旅行で行動を共にした、秋良、山口、悠和に、長谷川と安藤が加わっての6人だ。
お風呂等寝る準備は終わり、室内に布団を敷き詰めていく。
よくある修学旅行の図だ。
現在、室内には4人。
秋良と悠和がまだ部屋に戻っていなかった。
「吉澤、彼女いるんだ?」
敷き終わって早速布団の上で寝っ転がると、安藤がニヤニヤしながら近くに腰を下ろした。
驚いた。
朝にも同じような質問をされたばかりだ。
「なんで?」
「なんでって、首筋に」
そう言って自身の首筋をトントンと指差した。
―首筋⋯?
“彼女”と“首筋”から連想されるものと言えばひとつしか思いつかず、慌てて首を手で塞いだ。
蒸気し顔が赤くなり、鈍くなった思考回路でも犯人の予想はつく。
しかし2日間も気付いていなかったなんて本当に間抜けだ。
その2日間、行動を共にしていた山口や悠和は気付いていたのだろうか。
眉間に皺を寄せて山口を見ると、微かに口角を上げた。
「いるよ。吉澤に彼女」
山口がでっちあげる。
「マジで?羨ましいなリア充。どんな子?」
「えーと⋯」
どんな子?と言われても存在しないものは説明出来ない。
「年上。すげー美人」
「山口!」
しれっと話を作っていく山口を止めに入ると、まぁまぁと丸め込まれた。
確かに彼女がいないのに、キスマークの理由を見つける方が難しいかも知れない。
そう言えばナツの事はモデルという事しか知らない事に気付く。
どこに住んでるのか、歳すらも。
また胸が痛む。
胸の辺りを掴むと俯いていた。
「⋯吉澤?大丈夫か?」
「ごめん吉澤。調子に乗った」
違う。
山口達のせいでは無いんだ。
「大丈夫⋯何でもない」
ゆっくりと息をして呼吸を整える。
「蛍?」
そこへ秋良と悠和が戻ってきた。
少し苦しげな表情をしていただろうか。
またしても2人に心配を掛けてしまった。
「どうした?蛍?」
「おいお前!蛍に何した?」
秋良は長谷川の胸ぐらを掴む。
ひとりだけ離れて立ち尽くす長谷川が標的になってしまったようだ。
「雨野!辞めろ!」
山口が制しても弱まらない手に、目を真っ直ぐ見つめると、諭すように告げた。
「秋、手離して」
沈黙が耐えられないという様子で首元を緩めると長谷川が呟いた。
「⋯吉澤の彼女の話してただけだよ」
「彼女?!」
すぐに悠和が拾う。
「⋯ちゃんと言う機会なかったけど俺、彼女いるんだ」
「「⋯⋯」」
秋良は目を伏せ、悠和は目を見開いた。
それ以上、言葉を発するものはおらず、暫くの間は居た堪れない様な沈黙が漂った。
「⋯⋯ちょっと頭冷やしてくる」
「蛍!」
「吉澤?」
呼び止める声も聞かず、部屋を飛び出していた。
建物からも出て暫く走ると、そびえ立つ木に囲まれたちょっとした空間に出た。
上を見上げると、木の隙間からは綺麗な星空が望める。
こんな風に夜空を見る用だろうか。
いくつか配置されたベンチのひとつに仰向けになって夜空を見つめた。
秋良はあんな嘘、簡単に見抜くだろう。
しかし、嘘をついた事に対しては凄く怒るかもしれない。
今度はどんな顔して会えば良い?
悠和は軽蔑しただろうか。
昼間あんな大口叩いておいて、すぐにこれだ。
呆れられてもしょうがない。
「はぁ⋯」
腕で目を覆い隠して、次々に浮かんでくる自分の言動は嫌悪へと変わっていった。
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