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4.Autumn.
お土産
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宿泊施設が素泊まりメインのビジネスホテルの為、クラス4つ分の学生達が食事をするような場所がホテル内には無い。
ロビーまで行くと担任に、隣のホテルに移動するように指示された。
向かうとビュッフェスタイルの朝食達が並んでいて、多くの生徒が既に食べ始めている。
先に到着していた悠和と山口に手招かれ席に付いた。
「おはよう。やっぱり電話して正解だったな」
山口がニヤリと口角を上げた。
「あぁ、助かったよ。蛍がなかなか起きなくて、結局遅くなったけどな」
秋良は顔を顰める。
起きなかったんではなくて “起きれなかった” が正解だったが、弁解する訳にもいかず、ただ表情の変化を付けないようにと一人必死になっていた。
「まだまだ時間あるし大丈夫だよ。ほら雨野取りに行ってきなよ?」
流石に無反応なのはおかしいだろうと思い、当たり障りのない言葉を選ぶ。
「そうだな」
「俺も行ってくる」
続けて席を立ったのは山口。
2人は料理のある方に出来た列に混ざっていった。
「蛍は?行かないの?」
朝食を取りに来たのに、残るという選択をしたことが気になったのだろう。
悠和が不思議そうに尋ねてきた。
「えっ⋯うん。2人が帰ってきてからにしようかな」
正直なところ食欲がない。
昨日も食べ歩いていたからだろうか。
普段なら朝からご飯3杯位は食べられるのに、胃に隙間がない気がして満腹感というか満足感がある。
「俺席にいるから蛍も行ってきなよ?」
「あ、うん⋯」
悠和の気遣いに返事をすると、飲み物の入ったコップだけ持った秋良が戻ってきた。
「どうした?取りに行かないの?」
「うん⋯実は余り食欲なくて」
秋良は丁度ボールを持つかの様に蛍の頭を両手で包み、おでこに手を当てた。
「うーん⋯熱はないみたいだな。顔色も悪くないし。何か簡単なもの取ってきてやるよ」
秋良はそう言って蛍の頭を軽く撫でると、返事も聞かずに席を離れて行った。
向き直ると、そのやりとりを目の前で見ていた悠和が顔を顰めていて、再び料理を取る列に混ざっていった秋良をじっと見詰めていた。
「蛍、これもね」
片手に料理、もう片手にヨーグルトを持って秋良が帰ってきた。
「⋯ありがとう」
「これだけ軽ければ食べれるだろう?ヨーグルトと野菜ジュース」
説明した秋良に山口が笑った。
「女子だな」
「後は、これも」
そう言って自分の皿に乗った厚切りのベーコンをフォークで差すと、顔の前に差し出した。
「ハイ⋯」
秋良の母親かのような世話焼きっぷりに、妙に恥ずかしくなった蛍は返事が小さくなる。
本当はヨーグルトと野菜ジュースで十分だったが、みんなの視線が集まれば食べない訳にいかない。
一口齧ると、秋良も頷いて食事を始めた。
今日一日の予定と他愛のない話であっという間に食事の時間は過ぎていく。
途中、悠和の何かを訴える様な視線に気付いてはいたが、申し訳ないと思いつつも目を合わす事は出来なかった。
秋良は、そんな悠和の様子にも気付いていない様で終始機嫌良さそうに笑っていた。
2日目も観光と食べ歩きメインで予定を立てていたが、食欲が無いと言ったせいで観光に変更することとなった。
秋良は食に興味が無いと聞いた事があるが、北海道に来たのに食べないと言う事が悠和や山口に申し訳ない。
申し訳ないと謝ると、みんな口を揃えて大丈夫だと言ったが、蛍気になって仕方なかった。
「あ!あれだけ食べたい!蛍、良い?」
悠和が店の前の屋台を指差した先には北海道ならではのグルメが並ぶ。
「勿論!じゃあ俺、中のお土産見てるからみんなゆっくり食べて?」
「俺も良いわ。蛍、一緒に行く」
秋良はそう言って、スマートに蛍の腰の辺りに手を添えると、店の方向に進む様に促した。
その状況に何も言えないまま店の中に入ると、その手が予想よりも早く解かれた事に安心する。
普段の調子を取り戻した蛍は暫く店内をうろうろしてから、お土産が並んだひとつの棚の前でじっと品物とにらめっこをしていた。
「そんな悩むところ?」
「うーん、社長達に買った方が良いかなと思ったんだけど好みが分からないから何買って良いか分からなくて⋯」
「そんなのテキトーで良いよ。社長と鷹城には別々に買う必要ないと思うからROOTにってこれ」
そう言って目の前にあった誰もが知るお土産の定番とも言えるお菓子を手に取る。
「雪弥達は?」
「雪弥は⋯俺は良いや。千尋には買っていっても良いけど」
少し眉間に皺を寄せた秋良の様子からは未だに雪弥とは和解していない事がわかる。
「じゃあTRAPにって事にする?」
「そうして。雪弥に金出す事が癪だから。
俺は佳彦さんに買っていく。蛍と2人からって事にしておくからそっちは頼んだ」
「そしたら雨野のお母さんにも買っていこう」
「いや、あの人は良いよ。どうせ食べないだろうし」
「そうもいかないよ!」
「お前らの会話、随分豪華だな」
振り返ると笑顔の山口がすぐ後ろに立っていた。
「雨野は、吉澤の親父さんとも知り合い?」
「ああ、母親の恋人」
「へぇ⋯繋がりありすぎてちょっと引くわ。
でも雨野のおふくろさん綺麗だよなぁ。流石モデルやってただけあるよな。オーラ半端無い」
同意を求めてきた山口と目が合う。
秋良が佳彦に会ったのは偶然で、親同士が付き合っているなんて知ったのも偶然。
「へぇ、そうなんだ?」
そう返すと山口は驚いた顔をした。
「吉澤はまだ会ってなかったのか。雨野フットワーク軽すぎ」
周りの環境が変わったばかりで、佳彦達の事は現実を受け止めるのが精一杯で相手に会いたいなんて思いつきもしなかった。
確かに秋良は綺麗な顔をしている。
さぞ綺麗な人なんだろうと、蛍の中で彼女に会うのが楽しみになっていた。
どんな人なんだろうか。
父親の恋人、なんて思うと会うのを躊躇いそうなものだが、佳彦の選んだ相手だ。
きっとすごく素敵な人なんだろう。
ロビーまで行くと担任に、隣のホテルに移動するように指示された。
向かうとビュッフェスタイルの朝食達が並んでいて、多くの生徒が既に食べ始めている。
先に到着していた悠和と山口に手招かれ席に付いた。
「おはよう。やっぱり電話して正解だったな」
山口がニヤリと口角を上げた。
「あぁ、助かったよ。蛍がなかなか起きなくて、結局遅くなったけどな」
秋良は顔を顰める。
起きなかったんではなくて “起きれなかった” が正解だったが、弁解する訳にもいかず、ただ表情の変化を付けないようにと一人必死になっていた。
「まだまだ時間あるし大丈夫だよ。ほら雨野取りに行ってきなよ?」
流石に無反応なのはおかしいだろうと思い、当たり障りのない言葉を選ぶ。
「そうだな」
「俺も行ってくる」
続けて席を立ったのは山口。
2人は料理のある方に出来た列に混ざっていった。
「蛍は?行かないの?」
朝食を取りに来たのに、残るという選択をしたことが気になったのだろう。
悠和が不思議そうに尋ねてきた。
「えっ⋯うん。2人が帰ってきてからにしようかな」
正直なところ食欲がない。
昨日も食べ歩いていたからだろうか。
普段なら朝からご飯3杯位は食べられるのに、胃に隙間がない気がして満腹感というか満足感がある。
「俺席にいるから蛍も行ってきなよ?」
「あ、うん⋯」
悠和の気遣いに返事をすると、飲み物の入ったコップだけ持った秋良が戻ってきた。
「どうした?取りに行かないの?」
「うん⋯実は余り食欲なくて」
秋良は丁度ボールを持つかの様に蛍の頭を両手で包み、おでこに手を当てた。
「うーん⋯熱はないみたいだな。顔色も悪くないし。何か簡単なもの取ってきてやるよ」
秋良はそう言って蛍の頭を軽く撫でると、返事も聞かずに席を離れて行った。
向き直ると、そのやりとりを目の前で見ていた悠和が顔を顰めていて、再び料理を取る列に混ざっていった秋良をじっと見詰めていた。
「蛍、これもね」
片手に料理、もう片手にヨーグルトを持って秋良が帰ってきた。
「⋯ありがとう」
「これだけ軽ければ食べれるだろう?ヨーグルトと野菜ジュース」
説明した秋良に山口が笑った。
「女子だな」
「後は、これも」
そう言って自分の皿に乗った厚切りのベーコンをフォークで差すと、顔の前に差し出した。
「ハイ⋯」
秋良の母親かのような世話焼きっぷりに、妙に恥ずかしくなった蛍は返事が小さくなる。
本当はヨーグルトと野菜ジュースで十分だったが、みんなの視線が集まれば食べない訳にいかない。
一口齧ると、秋良も頷いて食事を始めた。
今日一日の予定と他愛のない話であっという間に食事の時間は過ぎていく。
途中、悠和の何かを訴える様な視線に気付いてはいたが、申し訳ないと思いつつも目を合わす事は出来なかった。
秋良は、そんな悠和の様子にも気付いていない様で終始機嫌良さそうに笑っていた。
2日目も観光と食べ歩きメインで予定を立てていたが、食欲が無いと言ったせいで観光に変更することとなった。
秋良は食に興味が無いと聞いた事があるが、北海道に来たのに食べないと言う事が悠和や山口に申し訳ない。
申し訳ないと謝ると、みんな口を揃えて大丈夫だと言ったが、蛍気になって仕方なかった。
「あ!あれだけ食べたい!蛍、良い?」
悠和が店の前の屋台を指差した先には北海道ならではのグルメが並ぶ。
「勿論!じゃあ俺、中のお土産見てるからみんなゆっくり食べて?」
「俺も良いわ。蛍、一緒に行く」
秋良はそう言って、スマートに蛍の腰の辺りに手を添えると、店の方向に進む様に促した。
その状況に何も言えないまま店の中に入ると、その手が予想よりも早く解かれた事に安心する。
普段の調子を取り戻した蛍は暫く店内をうろうろしてから、お土産が並んだひとつの棚の前でじっと品物とにらめっこをしていた。
「そんな悩むところ?」
「うーん、社長達に買った方が良いかなと思ったんだけど好みが分からないから何買って良いか分からなくて⋯」
「そんなのテキトーで良いよ。社長と鷹城には別々に買う必要ないと思うからROOTにってこれ」
そう言って目の前にあった誰もが知るお土産の定番とも言えるお菓子を手に取る。
「雪弥達は?」
「雪弥は⋯俺は良いや。千尋には買っていっても良いけど」
少し眉間に皺を寄せた秋良の様子からは未だに雪弥とは和解していない事がわかる。
「じゃあTRAPにって事にする?」
「そうして。雪弥に金出す事が癪だから。
俺は佳彦さんに買っていく。蛍と2人からって事にしておくからそっちは頼んだ」
「そしたら雨野のお母さんにも買っていこう」
「いや、あの人は良いよ。どうせ食べないだろうし」
「そうもいかないよ!」
「お前らの会話、随分豪華だな」
振り返ると笑顔の山口がすぐ後ろに立っていた。
「雨野は、吉澤の親父さんとも知り合い?」
「ああ、母親の恋人」
「へぇ⋯繋がりありすぎてちょっと引くわ。
でも雨野のおふくろさん綺麗だよなぁ。流石モデルやってただけあるよな。オーラ半端無い」
同意を求めてきた山口と目が合う。
秋良が佳彦に会ったのは偶然で、親同士が付き合っているなんて知ったのも偶然。
「へぇ、そうなんだ?」
そう返すと山口は驚いた顔をした。
「吉澤はまだ会ってなかったのか。雨野フットワーク軽すぎ」
周りの環境が変わったばかりで、佳彦達の事は現実を受け止めるのが精一杯で相手に会いたいなんて思いつきもしなかった。
確かに秋良は綺麗な顔をしている。
さぞ綺麗な人なんだろうと、蛍の中で彼女に会うのが楽しみになっていた。
どんな人なんだろうか。
父親の恋人、なんて思うと会うのを躊躇いそうなものだが、佳彦の選んだ相手だ。
きっとすごく素敵な人なんだろう。
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