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3.Summer vacation.-雨野秋良の場合-
欲望
しおりを挟む「雨野、行こう!」
「⋯ああ」
辛うじて返事をすると荷物を持ち部屋に向かう。
今は優しい気持ちで蛍に接する事ができそうもない。
テンションの上がった蛍は移動中も楽しそうにしていた。
その問いかけに最低限の返事をしてやり過ごし部屋に着くと、悪いと断って先にシャワーを浴びる。
出たらすぐ寝よう。
今は人を気遣う余裕がない。
蛍を傷付けてしまいそうで怖い。
シャワーを浴びれば少しでもすっきりするかと期待したがそんな事はなくて、バスルームを出るとすぐに疲れたからと言ってベッドに潜り込んだ。
八つ当たりなんて醜いと頭では解かっているのに、心はついてきてはくれない。
おやすみと言った蛍に返事もせず、寝たふりをしてアレコレ考えていると、秋良はいつの間にか眠りに落ちていた。
夜も寝静まった頃、ドサッと音を立てて暖かいものが寄り添うのを感じた。
驚いたのは目を覚ました時の一瞬で、トイレに起きた帰りにでも蛍が間違えてベッドに潜り込んだんだろうと予想する。
―なんて言うんだろ?こう言うの。
緊張する⋯ いや、気まずいが正解か。
寝てる相手にも気を遣って本当、何してるんだろ。
俺らしくない。
いつもなら喜びの感情が先に来る筈なのに。
抱きしめて眠りたいのに⋯
背を向けた状態で再び目を閉じるけど、意識はぴったりと背中に寄り添う蛍から離れる事は出来なくなっていた。
気まずさと愛しさと怒り。
色んな感情が腹の中で渦巻いていた。
最善だと思ったふて寝も、単に嫌なことを先延ばしにしただけで、結局は真夜中に一人頭をかかえた。
感情を押し潰して気付かないふりをした罰なんだろう。
背中に寄り添う蛍に意識を取られながらも、心を無にして眠る事に集中した。
意識の中ではやっとの思いで眠りについた直後。
突然唇に寄せられた肌を感じる。
柔らかくて少しだけウエットな肌。
唇である事はすぐにわかった。
驚いて目を開けると、いつの間にか抱き締めるような距離感になっていて、少しでも動けばまた触れてしまいそうな程近くに蛍の顔があった。
「⋯ の」
そう漏らすと蛍は再び唇を重ねてくる。
“あまの” と言ったのか、それとも “おおの” か⋯
蛍は大野の事を名前で呼んでいた筈だが、呼び方が変わったのはごく最近の事なんだろう。
それならば無意識の内に慣れない呼び方ができるのだろうか?
実際、呼び方は “雨野” から “秋” には変わらない。
しかし、悔しい事に大野の事は何の迷いもなく名前で呼んでいた。
ならばやはり、自分の名前を呼んでいたんだろうか。
そんな都合の良い解釈をしながら近付いてくる蛍の柔らかい唇の感触を感じた。
意識的にやっているとは思えなかったが触れるだけのキスの後、下唇をそっと吸われる。
その瞬間、体の中で一本の糸がプツリと切れたような気がした。
蛍の両腕を勢いよくベッドに押え付けると、同時に理性も手放していた。
そんなキスなんかでは足りないとでも言う様に、強く、深く押し当てては吸い付いて貪る。
「んっ⋯」
吐息も一緒に奪って、何度も角度を変えては夢中で口付けた。
唇の離れる一瞬の隙間も許さない程。
「ま、って⋯」
それでも、僅かの隙間で蛍が苦しそうに訴える。
聞こえるのはそれと、段々と激しくなる2人分の吐息だけ。
止めてやれない。
止められない。
その唇の隙間に舌をねじ込むと、蛍の口内を侵していく。
体がビクリと跳ね上がり、逃げ惑う蛍の舌を追いかけ捉えると、絡め取っては味わった。
「あまのっ⋯ 」
欲望のままに荒っぽく舌や唇を舐め取ると、甘く卑猥な水音が五感を刺激する。
引いては押して、何度も何度も吸い付いては執拗に強く愛撫した。
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