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3.Summer vacation.-雨野秋良の場合-
進路
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社長の許しを得てから数日は、曲作りや合わせ練習に時間を費やした。
蛍の声は元々良いが、トレーニングをすることで底無しかのように伸びていく。
なけなしの知識では教え育てるのにも限界はあったが、蛍の学習意欲に助けられなんとかやっていた。
このタイミングで夏休みだった事がプラスに働いた。
それでも時間が沢山あるとは言えない。
学生である事を忘れるくらい濃厚な毎日は、もうすぐ “学校” という現実世界に引き戻される事になる。
あれこれとやっているうちに、8月最後の登校日となっていた。
登校日と言っても、ただ全校集会があるくらいで、後は各教室で夏休みの課題の進み具合の確認や、配布物を受け取るくらいだ。
これもすっかり忘れていたが、最終の意思確認として進路調査表が配られるのが毎年恒例らしい。
考えてみれば親に進路を相談したことがない。
周りも自分自身も、このままROOTで活動を続けるのだろうとふんわり思っていただけで、深く考えた事はなかった。
そういえば蛍の進路希望は聞いたことがない。
夏休み中は話す機会なんていくらでもあったのに、進路の話題なんて一度も出なかった。
配布物を見て気付いたくらいなんだ。
当たり前といえばそうなんだろう。
しかし、そう呑気な事を言ってもいられない。
今日はこれから事務所のスタジオを借りる予定で、学校が終わると駅前のハンバーガーショップで昼食を取る予定だ。
今後の活動にも関わる事だ。
先に聞いておいた方が良いに違いない。
「蛍は進路調査表、前回は何で出したの?」
「進学か就職かってことだよね?
えーと⋯前回は第1、第2が進学。第3が専門」
「専門?何の?」
「柊芸術芸術専門学校。の、舞台芸術学科」
「へぇ⋯」
意外だった。
蛍は蛍なりに、また本気で舞台に携わろうと思っていたんだと感心した。
しかし次の瞬間、秋良は大事な事に気付く。
蛍が舞台関係に進みたいと思っているのであれば、彼の夢を潰してしまっ他に違いない。
「でも、変えようと思ってる。柊を第1にして、ミュージック学科に行こうかなって」
「⋯蛍はそれで良いの?」
「えっ?何で?」
ユニットを組むために進路まで変えてついてくる努力をしようとしているなら考え直してほしい。
現実的に考えて出した答えならば否定する気は毛頭無いが、正直 “流されている” 様に見えるのだ。
蛍の言葉を頭の中で否定すると、蛍は自信ありげに口角を上げた。
「ちゃんと自分の意思だから安心して。
実はさ。劇団に入る前、本当は楽器とか歌とか習いたかったけど母親に反対されて出来なかったんだ。母親は何故か昔から音楽を嫌っていて、家では音楽の話すら出来なかったんだ。
勿論、劇中に歌ったり楽器を演奏することもあったんだけど、芝居自体辞めることになっちゃったから⋯
また表に立つことに向き合おうって思えたのは雨野のお陰。だから俺も本気で自分のしたい事と向き合おうって思った」
「⋯そっか。わかった」
人前で歌う事には興味が無いと言う割には、歌が好きな事が手に取るように分かる。
そこまで真剣に考えていた事に秋良は感心した。
蛍の言葉を聞くなり意見も聞かずに否定をした事を心の中で詫び、その真剣で勇ましい目を見つめた。
迷いのない、自信に満ち溢れた目をしていた。
のちに自身も影響を受ける事になるのを秋良はまだ知らない。
蛍の声は元々良いが、トレーニングをすることで底無しかのように伸びていく。
なけなしの知識では教え育てるのにも限界はあったが、蛍の学習意欲に助けられなんとかやっていた。
このタイミングで夏休みだった事がプラスに働いた。
それでも時間が沢山あるとは言えない。
学生である事を忘れるくらい濃厚な毎日は、もうすぐ “学校” という現実世界に引き戻される事になる。
あれこれとやっているうちに、8月最後の登校日となっていた。
登校日と言っても、ただ全校集会があるくらいで、後は各教室で夏休みの課題の進み具合の確認や、配布物を受け取るくらいだ。
これもすっかり忘れていたが、最終の意思確認として進路調査表が配られるのが毎年恒例らしい。
考えてみれば親に進路を相談したことがない。
周りも自分自身も、このままROOTで活動を続けるのだろうとふんわり思っていただけで、深く考えた事はなかった。
そういえば蛍の進路希望は聞いたことがない。
夏休み中は話す機会なんていくらでもあったのに、進路の話題なんて一度も出なかった。
配布物を見て気付いたくらいなんだ。
当たり前といえばそうなんだろう。
しかし、そう呑気な事を言ってもいられない。
今日はこれから事務所のスタジオを借りる予定で、学校が終わると駅前のハンバーガーショップで昼食を取る予定だ。
今後の活動にも関わる事だ。
先に聞いておいた方が良いに違いない。
「蛍は進路調査表、前回は何で出したの?」
「進学か就職かってことだよね?
えーと⋯前回は第1、第2が進学。第3が専門」
「専門?何の?」
「柊芸術芸術専門学校。の、舞台芸術学科」
「へぇ⋯」
意外だった。
蛍は蛍なりに、また本気で舞台に携わろうと思っていたんだと感心した。
しかし次の瞬間、秋良は大事な事に気付く。
蛍が舞台関係に進みたいと思っているのであれば、彼の夢を潰してしまっ他に違いない。
「でも、変えようと思ってる。柊を第1にして、ミュージック学科に行こうかなって」
「⋯蛍はそれで良いの?」
「えっ?何で?」
ユニットを組むために進路まで変えてついてくる努力をしようとしているなら考え直してほしい。
現実的に考えて出した答えならば否定する気は毛頭無いが、正直 “流されている” 様に見えるのだ。
蛍の言葉を頭の中で否定すると、蛍は自信ありげに口角を上げた。
「ちゃんと自分の意思だから安心して。
実はさ。劇団に入る前、本当は楽器とか歌とか習いたかったけど母親に反対されて出来なかったんだ。母親は何故か昔から音楽を嫌っていて、家では音楽の話すら出来なかったんだ。
勿論、劇中に歌ったり楽器を演奏することもあったんだけど、芝居自体辞めることになっちゃったから⋯
また表に立つことに向き合おうって思えたのは雨野のお陰。だから俺も本気で自分のしたい事と向き合おうって思った」
「⋯そっか。わかった」
人前で歌う事には興味が無いと言う割には、歌が好きな事が手に取るように分かる。
そこまで真剣に考えていた事に秋良は感心した。
蛍の言葉を聞くなり意見も聞かずに否定をした事を心の中で詫び、その真剣で勇ましい目を見つめた。
迷いのない、自信に満ち溢れた目をしていた。
のちに自身も影響を受ける事になるのを秋良はまだ知らない。
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