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3.Summer vacation.-雨野秋良の場合-
好きな人の父親=?
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一度目が覚めてからどれだけ時間が経ったかはわからない。
部屋をノックする音の後、遠くで呼び掛ける声が聞こえた。
「蛍?」
カチャリと丁寧に扉が開く音の後に聞こえた嘆きの声。
「蛍が父さんのいない間に女の子連れ込むなんて⋯父さん悲しい⋯」
「⋯父さん?お帰り⋯久しぶりに帰って来れたんだね。そう、連れ込んで⋯って、ええっ!?待って待って!違うから!友達!男だから!!いつの間にか寝ちゃっただけだから!!!」
「なーんだ、良かった 」
息子が一緒のベッドに寝ていたのが男だという事はさして問題はない様子で、“父さん” と言われた彼はあっさりと納得した。
このお茶目な人が蛍の父親ならば納得だ。
目を瞑ったままでも、聞こえてくる会話だけでそのほのぼのとした情景を思い浮かべると心の中で頷いた。
もう少しこの親子の会話を聞いていたいと、気付かないふりをすることも考えたが、必死に弁解する蛍の表情にも興味が湧く。
秋良は瞑っていた目を開け蛍を見上げた。
「蛍?親父さん?」
「ごめん雨野、うるさかったよね」
これだけ騒がしければ、朝が苦手であっても流石に起きるだろう。
しかし今は “起こされた” のではなく、“自ら起きた” が正解だろう。
「いや、大丈夫」
全力で否定したからか、見上げた蛍の息は微かに上がっていた。
ドアの所でホッとした表情を浮かべるその人に視線を移すと、予想外の人物に秋良は飛び起きた。
「えっ!?佳彦さん?」
「あれ、秋良くん?だよね⋯?」
「え、何?知り合い?」
ひとり状況が飲み込めない蛍と目線を合わせてから佳彦へのフォローのため口を開く。
「あ、そうです。佳彦さんすいません、なんかこんな勝手に。楽器弾いてたら寝ちゃったみたいで」
床に散らばる楽器や譜面が証拠だと言うように、床に置かれたそれらに視線を移した。
なんとなくうしろめたくて、言い訳じみた説明をすると、佳彦は笑顔で答える。
「構わないよ」
返ってきたその言葉に、秋良は営業スマイルで返した。
まさか怖い夢を見るから息子さんに一緒に寝てもらうように頼みましたなんて言えるはずもなく、これが今出来る精一杯のいいわけだった。
しかもこの人とは、一言で言うと “濃い関係” にある。
「蛍、こんな時になんだけど、父さん実は秋良くんのお母さんとお付き合いさせていただいているんだよ」
そう、未来の父親だ。
「⋯えっ?まじで言ってる?」
蛍が驚くのも無理は無い。
寝起きは決して良いとは言えない秋良だが、佳彦を見て飛び起きてしまうくらいの衝撃はあった。
蛍は目を見開いて、秋良と佳彦の顔を交互に見た。
「嘘言わないでしょ、こんな朝っぱらからこのタイミングで」
「それはそうなんだろうけど⋯あまりにも衝撃的すぎて」
今度は二人で佳彦を見ると、ニコニコと嬉しそうな顔を浮かべていた。
“既に友達で、しかも泊まりに来るくらい仲が良いみたいで安心した”
佳彦はそう残して、さっさと部屋を出ていってしまった。
「⋯蛍、誕生日いつ?」
「誕生日?」
ふと、蛍とは義理の兄弟になるかもしれないと気付く。
「そ。何月何日?」
「なんで誕生日?」
「んー、なんとなく?」
「3月25日」
よし、と心の中でガッツポーズをする。
同じ学年の中での数日、数ヶ月の違いだけで年上だ年下だなんて言うつもりはないが、なんとなく優位に立った気分だった。
きっと十分くだらない意地なんだろう。
「へぇ。大分遅い生まれなんだ」
「うん、雨野は?」
「俺は10月15日」
口に出せば無駄に勝ち誇った気持ちになったが、蛍の “そっか” なんて普通の反応を見て、なんでもない風を装った。
実際、なんともない会話だ。
「もし父さんと雨野のお母さんが結婚したら、兄弟になるんだね」
「ああ⋯そうなったら “雨野” って呼べないな」
ニヤリと笑うと、蛍の顔が赤く染まる。
蛍の方から言ってくるなんてからかってくださいと言っている様なものだが、蛍は赤くなる直前まで墓穴を掘ったことに気付かなかった様だ。
「今のうちに慣れておいた方が良いんじゃない?」
「あっ⋯雨野」
「違うでしょ?呼んで、秋って」
体育座りするみたいに膝を抱えている蛍の耳元で囁くと、蛍は耳まで真っ赤にして一生懸命言葉を送り出す。
「あ⋯あき」
やっと名前を呼んだと思ったら、膝に顔を埋めて丸まってしまった。
可愛らしい反応にニヤつきそうになる口元を覆う。
しつこくして嫌われてしまってはいけないと次々に湧き出る “興味” を抑え、その頭を撫でた。
「よくできました」
傷みを知らない柔らかな髪が気持ちよくて、暫くの間撫でると、体は伏せたままの状態で顔だけこちらに向けた。
それから少し困った顔をしたり、赤くなったり、色々な表情を見せたが、恐らく本人は無意識なんだろう。
その面白いくらいころころ変わる表情はいつまでも見ていたいと思わせた。
先程まで笑っていたと思ったら真剣な目をして、次の瞬間は照れている。
教室で初めて話しかけた時、蛍は違和感を感じただろう。
蛍はどちらかというと無表情な方で、クラスメイトと談笑する姿も珍しいくらいだったが、時々見せる笑顔に惹かれたのだ。
たまたまとはいえ、女子生徒と一緒にいる所を見られてしまったのは想定外だったが、話すきっかけが出来たと思えば彼女には感謝をしても良いくらいだ。
部屋をノックする音の後、遠くで呼び掛ける声が聞こえた。
「蛍?」
カチャリと丁寧に扉が開く音の後に聞こえた嘆きの声。
「蛍が父さんのいない間に女の子連れ込むなんて⋯父さん悲しい⋯」
「⋯父さん?お帰り⋯久しぶりに帰って来れたんだね。そう、連れ込んで⋯って、ええっ!?待って待って!違うから!友達!男だから!!いつの間にか寝ちゃっただけだから!!!」
「なーんだ、良かった 」
息子が一緒のベッドに寝ていたのが男だという事はさして問題はない様子で、“父さん” と言われた彼はあっさりと納得した。
このお茶目な人が蛍の父親ならば納得だ。
目を瞑ったままでも、聞こえてくる会話だけでそのほのぼのとした情景を思い浮かべると心の中で頷いた。
もう少しこの親子の会話を聞いていたいと、気付かないふりをすることも考えたが、必死に弁解する蛍の表情にも興味が湧く。
秋良は瞑っていた目を開け蛍を見上げた。
「蛍?親父さん?」
「ごめん雨野、うるさかったよね」
これだけ騒がしければ、朝が苦手であっても流石に起きるだろう。
しかし今は “起こされた” のではなく、“自ら起きた” が正解だろう。
「いや、大丈夫」
全力で否定したからか、見上げた蛍の息は微かに上がっていた。
ドアの所でホッとした表情を浮かべるその人に視線を移すと、予想外の人物に秋良は飛び起きた。
「えっ!?佳彦さん?」
「あれ、秋良くん?だよね⋯?」
「え、何?知り合い?」
ひとり状況が飲み込めない蛍と目線を合わせてから佳彦へのフォローのため口を開く。
「あ、そうです。佳彦さんすいません、なんかこんな勝手に。楽器弾いてたら寝ちゃったみたいで」
床に散らばる楽器や譜面が証拠だと言うように、床に置かれたそれらに視線を移した。
なんとなくうしろめたくて、言い訳じみた説明をすると、佳彦は笑顔で答える。
「構わないよ」
返ってきたその言葉に、秋良は営業スマイルで返した。
まさか怖い夢を見るから息子さんに一緒に寝てもらうように頼みましたなんて言えるはずもなく、これが今出来る精一杯のいいわけだった。
しかもこの人とは、一言で言うと “濃い関係” にある。
「蛍、こんな時になんだけど、父さん実は秋良くんのお母さんとお付き合いさせていただいているんだよ」
そう、未来の父親だ。
「⋯えっ?まじで言ってる?」
蛍が驚くのも無理は無い。
寝起きは決して良いとは言えない秋良だが、佳彦を見て飛び起きてしまうくらいの衝撃はあった。
蛍は目を見開いて、秋良と佳彦の顔を交互に見た。
「嘘言わないでしょ、こんな朝っぱらからこのタイミングで」
「それはそうなんだろうけど⋯あまりにも衝撃的すぎて」
今度は二人で佳彦を見ると、ニコニコと嬉しそうな顔を浮かべていた。
“既に友達で、しかも泊まりに来るくらい仲が良いみたいで安心した”
佳彦はそう残して、さっさと部屋を出ていってしまった。
「⋯蛍、誕生日いつ?」
「誕生日?」
ふと、蛍とは義理の兄弟になるかもしれないと気付く。
「そ。何月何日?」
「なんで誕生日?」
「んー、なんとなく?」
「3月25日」
よし、と心の中でガッツポーズをする。
同じ学年の中での数日、数ヶ月の違いだけで年上だ年下だなんて言うつもりはないが、なんとなく優位に立った気分だった。
きっと十分くだらない意地なんだろう。
「へぇ。大分遅い生まれなんだ」
「うん、雨野は?」
「俺は10月15日」
口に出せば無駄に勝ち誇った気持ちになったが、蛍の “そっか” なんて普通の反応を見て、なんでもない風を装った。
実際、なんともない会話だ。
「もし父さんと雨野のお母さんが結婚したら、兄弟になるんだね」
「ああ⋯そうなったら “雨野” って呼べないな」
ニヤリと笑うと、蛍の顔が赤く染まる。
蛍の方から言ってくるなんてからかってくださいと言っている様なものだが、蛍は赤くなる直前まで墓穴を掘ったことに気付かなかった様だ。
「今のうちに慣れておいた方が良いんじゃない?」
「あっ⋯雨野」
「違うでしょ?呼んで、秋って」
体育座りするみたいに膝を抱えている蛍の耳元で囁くと、蛍は耳まで真っ赤にして一生懸命言葉を送り出す。
「あ⋯あき」
やっと名前を呼んだと思ったら、膝に顔を埋めて丸まってしまった。
可愛らしい反応にニヤつきそうになる口元を覆う。
しつこくして嫌われてしまってはいけないと次々に湧き出る “興味” を抑え、その頭を撫でた。
「よくできました」
傷みを知らない柔らかな髪が気持ちよくて、暫くの間撫でると、体は伏せたままの状態で顔だけこちらに向けた。
それから少し困った顔をしたり、赤くなったり、色々な表情を見せたが、恐らく本人は無意識なんだろう。
その面白いくらいころころ変わる表情はいつまでも見ていたいと思わせた。
先程まで笑っていたと思ったら真剣な目をして、次の瞬間は照れている。
教室で初めて話しかけた時、蛍は違和感を感じただろう。
蛍はどちらかというと無表情な方で、クラスメイトと談笑する姿も珍しいくらいだったが、時々見せる笑顔に惹かれたのだ。
たまたまとはいえ、女子生徒と一緒にいる所を見られてしまったのは想定外だったが、話すきっかけが出来たと思えば彼女には感謝をしても良いくらいだ。
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