30 / 64
3.Summer vacation.-雨野秋良の場合-
決意
しおりを挟む
後味の凄く悪い夢の後、着信音が部屋に鳴り響くと秋良は目を覚ました。
まだ覚めきっていない目を片目だけ開けて手探りでそれを掴むと、サイドボタンで通話に切り替える。
「⋯はーい」
『ごめん、寝てた?千尋です』
欠伸をしてから少しの間の後電話の相手をやっと認識した。
「あぁ⋯千尋か」
『秋ちゃん、お休みの所朝から申し訳ないんだけど⋯今度の新曲の事で相談があってさ。出てこれない?』
「う、ん?⋯?、わかった。どこ?」
『事務所でも良い?』
「あぁ⋯良いよ。昼までには行く」
『うん!ありがとう!』
千尋は嬉しそうにお礼を言うと早々に電話を切った。
千尋はテキトーそうに見えて案外真面目なタイプ。
時々こんな風に突然呼び出しては、練習だ相談だと付き合わされる。
向上心があるのは良い事だ。
あの雪弥と上手くやっていけるのも、こういう性格だからなのかもしれない。
秋良は握ったままのスマートフォンをトップ画面に変えると、時間を確認する。
「早⋯まだ7時かよ」
朝は苦手だ。
悪夢を見た日なんて特に起きれない事が多い。
そういう意味では、現実世界に引き戻してくれた千尋に感謝するべきなのかもしれない。
2度寝を少し考えてから、折角早く起きた事だし時間を有意義に使おうと身体を起こした。
結局、昨日はあのまま気分がのらなくて直ぐに事務所を出た。
折角蛍に上げてもらったテンションを鷹城に⋯いや、落とす結果になったせいだ。
気晴らしに海に行こうと思ったけど、時間も時間だし流石に諦めて家に戻る事にした。
持ち帰っても出来る内容ではあったが、そんな気分にもなれなくて、結局何もせずに眠りについた。
そのツケが後に、夢となって回ってくる。
いつもの事だが、間違いなくダメージは大きい。
それでも起きてしまえば仕事モードで、家から一時間程かかる事務所にも9時前には到着していた。
「秋?どうしたの、こんなに早く?」
「千尋に呼ばれた。その前に昨日の続きやろうかと思って」
「そう⋯」
鷹城はそれ以上、何も聞かずに黙々と掃除や事務仕事なんかをしていた。
況してや掃除には邪魔な筈の俺を気遣っている。
寧ろ、自分の存在を消すように。
そういう所、変にしっかりしていて本当、マネージャーってやつは恨みきれない。
「鷹城」
「ん?どうかした?」
忙しそうに動き回っていても、声を掛ければしっかり手を止めて話を聞いてくれるところは流石鷹城だ。
「俺さ、歌おうかな⋯と思って」
鷹城が目を何度かぱちくりさせた。
そして遅れて聞こえた驚きの声。
「えぇ!??」
「⋯そんなに驚く?」
「いや、だって秋が?えぇ!!??何で??」
「何でって⋯歌いたくなったから」
暫くの間、時が止まった様に驚いていたけど、次第に明るい顔になっていく。
希望を見つけた様なうざったいくらいの笑顔が近付く。
「うん⋯うん!雪弥達も喜ぶと思うよ!
秋に歌って欲しいってずっと言ってたし」
「⋯それは千尋の意見でしょ。雪弥はそうは思ってない」
「大丈夫だよ!」
─鷹城はそう言ったけど、やはり俺の嫌な予感は的中した。
「だめだ」
「⋯お前、絶対俺のやることを否定しているだけだよね?」
千尋と共にやってきた雪弥は話を聞くなり否定した。
予想通り過ぎる展開に話し合う気分にはなれなかったが、煽られては引き下がれない。
「お前の言った言葉そのまま返すよ。
この話は秋、お前だけのものじゃない。俺にも意見する権利がある」
─一字一句ズレのないリピートがムカつく。
雪弥を睨みつけたが効果は無く、寧ろ勢いを増した。
「第一、俺達がいるのにツインのユニットをもう一つなんてROOTには必要ない」
「TRAPとは違う形態にするんだからそこは問題じゃないだろ。それに、TRAPより売れる自信がある」
「そういう問題じゃない」
「お前が先に話を変えてきたんだろ」
「ちょっと!2人共」
「少し落ち着こう?」
千尋と鷹城が割って入ると、少しだけ熱が冷める。
しかし、簡単には止まる筈がなくて、短い溜息が漏れた。
「⋯こんなこと本当は言いたくないけど、お前とはこれ以上この話進められない。俺が降りても良い。でも蛍は渡さない」
バンと机を叩いて立ち上がる。
「ごめん、千尋。今日は出直す」
あっけに取られている千尋に一方的に断りを入れると、事務所を飛び出した。
XXX
※1:ROOT (ルート):秋良、TRAPの属する芸能事務所の名称
まだ覚めきっていない目を片目だけ開けて手探りでそれを掴むと、サイドボタンで通話に切り替える。
「⋯はーい」
『ごめん、寝てた?千尋です』
欠伸をしてから少しの間の後電話の相手をやっと認識した。
「あぁ⋯千尋か」
『秋ちゃん、お休みの所朝から申し訳ないんだけど⋯今度の新曲の事で相談があってさ。出てこれない?』
「う、ん?⋯?、わかった。どこ?」
『事務所でも良い?』
「あぁ⋯良いよ。昼までには行く」
『うん!ありがとう!』
千尋は嬉しそうにお礼を言うと早々に電話を切った。
千尋はテキトーそうに見えて案外真面目なタイプ。
時々こんな風に突然呼び出しては、練習だ相談だと付き合わされる。
向上心があるのは良い事だ。
あの雪弥と上手くやっていけるのも、こういう性格だからなのかもしれない。
秋良は握ったままのスマートフォンをトップ画面に変えると、時間を確認する。
「早⋯まだ7時かよ」
朝は苦手だ。
悪夢を見た日なんて特に起きれない事が多い。
そういう意味では、現実世界に引き戻してくれた千尋に感謝するべきなのかもしれない。
2度寝を少し考えてから、折角早く起きた事だし時間を有意義に使おうと身体を起こした。
結局、昨日はあのまま気分がのらなくて直ぐに事務所を出た。
折角蛍に上げてもらったテンションを鷹城に⋯いや、落とす結果になったせいだ。
気晴らしに海に行こうと思ったけど、時間も時間だし流石に諦めて家に戻る事にした。
持ち帰っても出来る内容ではあったが、そんな気分にもなれなくて、結局何もせずに眠りについた。
そのツケが後に、夢となって回ってくる。
いつもの事だが、間違いなくダメージは大きい。
それでも起きてしまえば仕事モードで、家から一時間程かかる事務所にも9時前には到着していた。
「秋?どうしたの、こんなに早く?」
「千尋に呼ばれた。その前に昨日の続きやろうかと思って」
「そう⋯」
鷹城はそれ以上、何も聞かずに黙々と掃除や事務仕事なんかをしていた。
況してや掃除には邪魔な筈の俺を気遣っている。
寧ろ、自分の存在を消すように。
そういう所、変にしっかりしていて本当、マネージャーってやつは恨みきれない。
「鷹城」
「ん?どうかした?」
忙しそうに動き回っていても、声を掛ければしっかり手を止めて話を聞いてくれるところは流石鷹城だ。
「俺さ、歌おうかな⋯と思って」
鷹城が目を何度かぱちくりさせた。
そして遅れて聞こえた驚きの声。
「えぇ!??」
「⋯そんなに驚く?」
「いや、だって秋が?えぇ!!??何で??」
「何でって⋯歌いたくなったから」
暫くの間、時が止まった様に驚いていたけど、次第に明るい顔になっていく。
希望を見つけた様なうざったいくらいの笑顔が近付く。
「うん⋯うん!雪弥達も喜ぶと思うよ!
秋に歌って欲しいってずっと言ってたし」
「⋯それは千尋の意見でしょ。雪弥はそうは思ってない」
「大丈夫だよ!」
─鷹城はそう言ったけど、やはり俺の嫌な予感は的中した。
「だめだ」
「⋯お前、絶対俺のやることを否定しているだけだよね?」
千尋と共にやってきた雪弥は話を聞くなり否定した。
予想通り過ぎる展開に話し合う気分にはなれなかったが、煽られては引き下がれない。
「お前の言った言葉そのまま返すよ。
この話は秋、お前だけのものじゃない。俺にも意見する権利がある」
─一字一句ズレのないリピートがムカつく。
雪弥を睨みつけたが効果は無く、寧ろ勢いを増した。
「第一、俺達がいるのにツインのユニットをもう一つなんてROOTには必要ない」
「TRAPとは違う形態にするんだからそこは問題じゃないだろ。それに、TRAPより売れる自信がある」
「そういう問題じゃない」
「お前が先に話を変えてきたんだろ」
「ちょっと!2人共」
「少し落ち着こう?」
千尋と鷹城が割って入ると、少しだけ熱が冷める。
しかし、簡単には止まる筈がなくて、短い溜息が漏れた。
「⋯こんなこと本当は言いたくないけど、お前とはこれ以上この話進められない。俺が降りても良い。でも蛍は渡さない」
バンと机を叩いて立ち上がる。
「ごめん、千尋。今日は出直す」
あっけに取られている千尋に一方的に断りを入れると、事務所を飛び出した。
XXX
※1:ROOT (ルート):秋良、TRAPの属する芸能事務所の名称
2
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
騎士エリオット視点を含め全10話。
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
元生徒会長さんの日常
あ×100
BL
俺ではダメだったみたいだ。気づけなくてごめんね。みんな大好きだったよ。
転校生が現れたことによってリコールされてしまった会長の二階堂雪乃。俺は仕事をサボり、遊び呆けたりセフレを部屋に連れ込んだりしたり、転校生をいじめたりしていたらしい。
そんな悪評高い元会長さまのお話。
長らくお待たせしました!近日中に更新再開できたらと思っております(公開済みのものも加筆修正するつもり)
なお、あまり文才を期待しないでください…痛い目みますよ…
誹謗中傷はおやめくださいね(泣)
2021.3.3
嫌われ者の僕が学園を去る話
おこげ茶
BL
嫌われ者の男の子が学園を去って生活していく話です。
一旦ものすごく不幸にしたかったのですがあんまなってないかもです…。
最終的にはハピエンの予定です。
Rは書けるかわからなくて入れるか迷っているので今のところなしにしておきます。
↓↓↓
微妙なやつのタイトルに※つけておくので苦手な方は自衛お願いします。
設定ガバガバです。なんでも許せる方向け。
不定期更新です。(目標週1)
勝手もわかっていない超初心者が書いた拙い文章ですが、楽しんでいただければ幸いです。
誤字などがありましたらふわふわ言葉で教えて欲しいです。爆速で修正します。
実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…
彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜??
ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。
みんなから嫌われるはずの悪役。
そ・れ・な・の・に…
どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?!
もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣)
そんなオレの物語が今始まる___。
ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️
第12回BL小説大賞に参加中!
よろしくお願いします🙇♀️
病弱な悪役令息兄様のバッドエンドは僕が全力で回避します!
松原硝子
BL
三枝貴人は総合病院で働くゲーム大好きの医者。
ある日貴人は乙女ゲームの制作会社で働いている同居中の妹から依頼されて開発中のBLゲーム『シークレット・ラバー』をプレイする。
ゲームは「レイ・ヴァイオレット」という公爵令息をさまざまなキャラクターが攻略するというもので、攻略対象が1人だけという斬新なゲームだった。
プレイヤーは複数のキャラクターから気に入った主人公を選んでプレイし、レイを攻略する。
一緒に渡された設定資料には、主人公のライバル役として登場し、最後には断罪されるレイの婚約者「アシュリー・クロフォード」についての裏設定も書かれていた。
ゲームでは主人公をいじめ倒すアシュリー。だが実は体が弱く、さらに顔と手足を除く体のあちこちに謎の湿疹ができており、常に体調が悪かった。
両親やごく親しい周囲の人間以外には病弱であることを隠していたため、レイの目にはいつも不機嫌でわがままな婚約者としてしか映っていなかったのだ。
設定資料を読んだ三枝は「アシュリーが可哀想すぎる!」とアシュリー推しになる。
「もしも俺がアシュリーの兄弟や親友だったらこんな結末にさせないのに!」
そんな中、通勤途中の事故で死んだ三枝は名前しか出てこないアシュリーの義弟、「ルイス・クロフォードに転生する。前世の記憶を取り戻したルイスは推しであり兄のアシュリーを幸せにする為、全力でバッドエンド回避計画を実行するのだが――!?
生まれ変わりは嫌われ者
青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。
「ケイラ…っ!!」
王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。
「グレン……。愛してる。」
「あぁ。俺も愛してるケイラ。」
壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。
━━━━━━━━━━━━━━━
あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。
なのにー、
運命というのは時に残酷なものだ。
俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。
一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。
★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!
嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる