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2.Summer vacation.-吉澤蛍の場合-
夢
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「⋯ ん」
目を開けると、見慣れた天井がぼんやりとした視界に入る。
どうやら寝てしまったいたらしい。
確か、テーブルにうつ伏せていた筈だが、いつの間にかベッドの上にいた。
蛍は起き上がると、唇に触れる。
夢を見た。
ナツの夢。
あの日一緒に行った海で、キスをする夢。
唇が触れ合うと突然、彼女は砂の様に溶け目の前から消えてしまった。
まるで現実と同じ展開に、蛍は胸元を掴んだ。
ただ、夢にしては妙にリアルな感触が唇に残っている気がした。
きっと考えないようにしていたから。
しかし夢に見れば、嫌でも思い出してしまう。
嫌でも、考えてしまう。
何故何も言ってくれないのか。
何故どうすることもできないのか。
何故⋯こんな事になったんだろう。
「はぁ⋯」
蛍は再び溜息を吐いた。
誰もいない部屋に息を吐く音が妙に大きく聞こえる。
「起きた?」
声のした方を振り向くと、入口に秋良が立っていた。
「雨野」
「勝手にトイレ借りた」
「あ、うん」
秋良の顔を見ると、先程言った言葉が思い出される。
帰るな、一緒にいて、なんて凄く恥ずかしい事を言ったと、蛍の顔はみるみうちに赤くなっていった。
「⋯ 雨野、用とかなかった?最近忙しそうだったし。
いきなり呼び止めるような事言ってごめんね」
からかわれてもおかしくないこの状況で、取り繕うように言葉を繋ぐと、凄く真面目な顔して秋良は答えた。
「一緒にいることくらいしか出来ないかもしれないけど。
それに、単純に吉澤からそう言って貰えて嬉しかったから」
「雨野⋯」
「ねぇ、蛍って呼んでも良い?」
真剣な眼差しに、囚われる。
また、逸らせない目線。
唐突なその発言にも、違和感は微塵も感じなかった。
そのままコクリと頷くと、秋良が笑った。
その顔がまた綺麗で、見惚れる。
ーあぁやっぱりこの人の笑顔、凄く良い。
⋯ 好きな顔だ。
目を細めてその笑顔を堪能していると、秋良はガラリと話を変えた。
「飯、どうしようか?」
そう言われて時計を見ると、もう21時になっていた。
普段ならきっと突然空気が変わった事に違和感を感じる所だが、思ったよりも時間が経っている事に対しての驚きの方が勝っていた。
「ごめん⋯俺が寝ちゃったから」
「色々と頑張ってたみたいだし、疲れてる所勉強教えてって言ったの俺だし気にしないで。それに俺、だいたい飯は遅いから」
秋良は蛍の頭に手を載せると優しく撫でた。
それが妙に照れ臭くて、蛍は必死に言葉を探す。
「今日は父さんも帰って来ないって言ってたから、昨日の残りのカレーにする予定で何にも食材無いんだ。
こんな時間だけど、何か食べに行く?」
一気に喋り切ると、秋良は柔らかく笑った。
「蛍が作ったの?」
違和感なく呼ぶ、聞きなれない秋良からの蛍という呼び方に違和感を覚えながら返事をした。
「何?」
「カレー、蛍が作ったの?」
「⋯うん」
「じゃあ、そのカレーが食べたい」
微笑んだ顔が綺麗だと感じた。
ドキッとした。
そう感じさせたのは肌のせいだろうか。
蛍は普段と違う自身の様子に戸惑い、それを隠すようにご飯の準備をすると言って部屋を出た。
キッチンまで来ると気持ちを落ち着かせる様に深呼吸する。
それから、冷蔵庫にしまっておいたカレーを火にかけて温めている内に秋良がリビングに降りてきた。
ダイニングテーブルに座る様に促したは良いがキッチンに近い距離に配置した事にすぐ後悔した。
気にしていない風を装い、冷蔵庫に唯一残っていたカット野菜を皿に移しただけのサラダとドレッシングをテーブルの上に置く。
朝セットしたご飯とカレーをお皿によそうと、秋良が手伝うと言って皿を受け取りに来た。
初めて振る舞うにしてはお粗末な食事だろう。
それでも、秋良は旨いと終始褒めながらあっという間に完食した。
目を開けると、見慣れた天井がぼんやりとした視界に入る。
どうやら寝てしまったいたらしい。
確か、テーブルにうつ伏せていた筈だが、いつの間にかベッドの上にいた。
蛍は起き上がると、唇に触れる。
夢を見た。
ナツの夢。
あの日一緒に行った海で、キスをする夢。
唇が触れ合うと突然、彼女は砂の様に溶け目の前から消えてしまった。
まるで現実と同じ展開に、蛍は胸元を掴んだ。
ただ、夢にしては妙にリアルな感触が唇に残っている気がした。
きっと考えないようにしていたから。
しかし夢に見れば、嫌でも思い出してしまう。
嫌でも、考えてしまう。
何故何も言ってくれないのか。
何故どうすることもできないのか。
何故⋯こんな事になったんだろう。
「はぁ⋯」
蛍は再び溜息を吐いた。
誰もいない部屋に息を吐く音が妙に大きく聞こえる。
「起きた?」
声のした方を振り向くと、入口に秋良が立っていた。
「雨野」
「勝手にトイレ借りた」
「あ、うん」
秋良の顔を見ると、先程言った言葉が思い出される。
帰るな、一緒にいて、なんて凄く恥ずかしい事を言ったと、蛍の顔はみるみうちに赤くなっていった。
「⋯ 雨野、用とかなかった?最近忙しそうだったし。
いきなり呼び止めるような事言ってごめんね」
からかわれてもおかしくないこの状況で、取り繕うように言葉を繋ぐと、凄く真面目な顔して秋良は答えた。
「一緒にいることくらいしか出来ないかもしれないけど。
それに、単純に吉澤からそう言って貰えて嬉しかったから」
「雨野⋯」
「ねぇ、蛍って呼んでも良い?」
真剣な眼差しに、囚われる。
また、逸らせない目線。
唐突なその発言にも、違和感は微塵も感じなかった。
そのままコクリと頷くと、秋良が笑った。
その顔がまた綺麗で、見惚れる。
ーあぁやっぱりこの人の笑顔、凄く良い。
⋯ 好きな顔だ。
目を細めてその笑顔を堪能していると、秋良はガラリと話を変えた。
「飯、どうしようか?」
そう言われて時計を見ると、もう21時になっていた。
普段ならきっと突然空気が変わった事に違和感を感じる所だが、思ったよりも時間が経っている事に対しての驚きの方が勝っていた。
「ごめん⋯俺が寝ちゃったから」
「色々と頑張ってたみたいだし、疲れてる所勉強教えてって言ったの俺だし気にしないで。それに俺、だいたい飯は遅いから」
秋良は蛍の頭に手を載せると優しく撫でた。
それが妙に照れ臭くて、蛍は必死に言葉を探す。
「今日は父さんも帰って来ないって言ってたから、昨日の残りのカレーにする予定で何にも食材無いんだ。
こんな時間だけど、何か食べに行く?」
一気に喋り切ると、秋良は柔らかく笑った。
「蛍が作ったの?」
違和感なく呼ぶ、聞きなれない秋良からの蛍という呼び方に違和感を覚えながら返事をした。
「何?」
「カレー、蛍が作ったの?」
「⋯うん」
「じゃあ、そのカレーが食べたい」
微笑んだ顔が綺麗だと感じた。
ドキッとした。
そう感じさせたのは肌のせいだろうか。
蛍は普段と違う自身の様子に戸惑い、それを隠すようにご飯の準備をすると言って部屋を出た。
キッチンまで来ると気持ちを落ち着かせる様に深呼吸する。
それから、冷蔵庫にしまっておいたカレーを火にかけて温めている内に秋良がリビングに降りてきた。
ダイニングテーブルに座る様に促したは良いがキッチンに近い距離に配置した事にすぐ後悔した。
気にしていない風を装い、冷蔵庫に唯一残っていたカット野菜を皿に移しただけのサラダとドレッシングをテーブルの上に置く。
朝セットしたご飯とカレーをお皿によそうと、秋良が手伝うと言って皿を受け取りに来た。
初めて振る舞うにしてはお粗末な食事だろう。
それでも、秋良は旨いと終始褒めながらあっという間に完食した。
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