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2.Summer vacation.-吉澤蛍の場合-
音信不通
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あの七夕の夜から一度も、ナツからは連絡が来ない。
帰宅してすぐに、舞台に招待してもらったことへの感謝と労いの言葉を添えメールを入れていたが、あれから2週間が経っていた。
元々どうでも良い話をダラダラとするのは苦手で、普段から返信が遅くても気にならないタイプなのだが、今回は流石に気になってしまいメールと電話を1回ずつ入れてみたが応答なし。
たった数回のやり取りしかなかったが、彼女の気まぐれな性格を思い返すと納得もできたが、どうしても頭から離れなくなってしまったのだ。
ナツの連絡先を呼び出しては眺めて溜息を吐く。
ただそれだけ。
「⋯はぁ」
織姫と彦星よりも短い、一瞬の出来事に盛大に溜息を吐いて、蛍は窓の外を見詰めた。
「吉澤、元気ないな」
「彼女にでも振られた?」
「吉澤彼女いたっけ?」
「さぁ⋯吉澤?話聞くくらいできるから、悩みあったら話して?」
蛍が振られた振られないの話題で盛り上がっているのは、大野悠和と山口要。
修学旅行の為に分けられた班で、同じグループになったメンバーだ。
実際のメンバーは6人だが、元々秋良と仲の良かった2人とは、こうして普段からも話す様になったのだ。
進歩と言うべきなのか、つい先日まで一人が楽だと言っていた自分が当たり前の様にその輪の中にいる事に、最初は蛍自身も驚いていた。
秋良の友好関係はなかなかに広い。
秋良を知る人は多く、どこに行っても声を掛けられているのを目にする。
そんな秋良と仲良くなってからの変化だった。
「吉澤、傷心だからいじめないであげてね」
「ちょ⋯ちょい、雨野、マジで痛いって!」
「ギブギブ⋯雨野、ごめんって!」
ニコニコしながら2人の肩を思いっ切り握っていた様で、一瞬にして大野と山口の顔色が変わった。
「で、振り分け出来た?」
「うん、出来てるよ⋯」
涙目で言った山口が冊子を差し出すと、秋良はそれを受け取って確認する。
「うん、良いんじゃないかな」
「そしたら、終わり?」
これからデートだという山口は目を輝かせた。
「終わり終わり。はい、帰って良いよ」
秋良は山口を追い払う様に手を払う。
「俺も部活行くね」
そう言って悠和もあっという間に教室を出て行った。
秋良と2人になったが、日が落ちるまでまだまだ時間はある。
今日は終業式だった事もあり、この時間まで学校に残っている生徒はそう多くなかった。
「俺達も帰ろうか。まだ時間早いし、まだ先だけど旅行で必要な物でも見に行く?」
荷物をまとめた秋良は、笑顔で提案した。
「良いね」
度々溜息をついたり考え事をしたりと、いつもと違う様子の蛍を見ても、秋良の振る舞いはいつもと変わらなかった。
蛍が重たい空気にしてしまっていると感じて気を張っても、あれこれ考える内にまた元に戻り溜息を吐く。
その繰り返しだったが、秋良は何かあったとか大丈夫かとか声を掛けてくる事は無く、ただいつもの笑顔で他愛のない話に付き合ってくれた。
「吉澤、今日も頼める?」
そう言っていつもの様に、お願いするときのお決まりのポーズで顔の前に手を合わせる。
いいよ、と笑ってみせるとこれまたお決まりの笑顔。
秋良はあれ以来、度々午後の授業を休んでは、ノートを貸して欲しい、やった授業の内容を教えて欲しいと言って蛍を誘った。
休む理由を何度か聞いてみたけど、ちょっと用事があってと言うだけで、明確な理由は決して言わなかった。
秋良と過ごす時間は、とても穏やかで好きだ。
だから蛍には、そこまで理由が大事な訳では無かった。
「蛍ー!」
校舎から出て職員用の駐車場を横切ると、隼人が手を挙げて近付いて来る。
「はや兄」
「俺これから帰るけど、乗っていく?荷物多いだろ?」
車のキーをくるっと指で一回転して微笑んだ。
「ありがとう。でも今日は大丈夫。雨野と約束したし」
「そっか⋯困ったらいつでも読んで良いからな」
ぽんぽんと頭を叩くと隼人はあっさり車に乗り込んだ。
隼人とは幼なじみだという事を以前、秋良には伝えたが、小さい子にする様な扱いをしてくるのを見られるのは気恥ずかしい。
流石に隼人も生徒達大勢の前ではしないと思うが、秋良一人の前でもこんなにも恥ずかしいと感じるのだ。
人数が増えれば、羞恥心は比じゃないだろう。
秋良以外の人間には隼人と幼馴染みだということを悟られない様にしなくてはと決心しながら車が走り出すのを見送った。
「雨野、ごめんね。待たせて」
隣で待たせていた秋良に目をやると、眉間には皺が寄っていた。
この顔はきっと怒っているのだろうと、蛍は直感的に感じた。
秋良の怒った顔なんて見るのは初めてだが、例の笑顔と比べてかなりギャップがあるその表情に、蛍は眉を寄せた。
「⋯ごめん、そんなに待たせたの怒ってる?」
秋良の顔を覗き込むと、真剣な眼差しに目が離せなくなる。
色素の薄い瞳は、真っ直ぐこちらを見詰めていた。
逸らしたい。
逸らさないと捕らわれてしまう。
そんな気がした。
しかし、先に目を逸らしたのは秋良の方で、俯く秋良の目線に胸を撫で下ろす。
小さく息を吐くと、秋良が口を開いた。
「あいつ、吉澤の家行ったことあるの?」
「えっ?⋯うん、昔ね」
「⋯⋯⋯」
秋良は自身の首裏に手を回すと、溜息を吐いた。
「俺も⋯俺も吉澤ん家行きたい」
「え⋯?」
「今日もまた教えてくれるんでしょ?買い物行ってまたこっち戻ってくるのも、その⋯面倒だし」
怒っているのかと思ったけど、思い違いだろうか。
今度は照れ臭そうに告げる秋良に戸惑いながら返事をした。
「⋯うん。別に構わないよ」
笑って見せると、秋良もいつもの笑顔に戻っていた。
帰宅してすぐに、舞台に招待してもらったことへの感謝と労いの言葉を添えメールを入れていたが、あれから2週間が経っていた。
元々どうでも良い話をダラダラとするのは苦手で、普段から返信が遅くても気にならないタイプなのだが、今回は流石に気になってしまいメールと電話を1回ずつ入れてみたが応答なし。
たった数回のやり取りしかなかったが、彼女の気まぐれな性格を思い返すと納得もできたが、どうしても頭から離れなくなってしまったのだ。
ナツの連絡先を呼び出しては眺めて溜息を吐く。
ただそれだけ。
「⋯はぁ」
織姫と彦星よりも短い、一瞬の出来事に盛大に溜息を吐いて、蛍は窓の外を見詰めた。
「吉澤、元気ないな」
「彼女にでも振られた?」
「吉澤彼女いたっけ?」
「さぁ⋯吉澤?話聞くくらいできるから、悩みあったら話して?」
蛍が振られた振られないの話題で盛り上がっているのは、大野悠和と山口要。
修学旅行の為に分けられた班で、同じグループになったメンバーだ。
実際のメンバーは6人だが、元々秋良と仲の良かった2人とは、こうして普段からも話す様になったのだ。
進歩と言うべきなのか、つい先日まで一人が楽だと言っていた自分が当たり前の様にその輪の中にいる事に、最初は蛍自身も驚いていた。
秋良の友好関係はなかなかに広い。
秋良を知る人は多く、どこに行っても声を掛けられているのを目にする。
そんな秋良と仲良くなってからの変化だった。
「吉澤、傷心だからいじめないであげてね」
「ちょ⋯ちょい、雨野、マジで痛いって!」
「ギブギブ⋯雨野、ごめんって!」
ニコニコしながら2人の肩を思いっ切り握っていた様で、一瞬にして大野と山口の顔色が変わった。
「で、振り分け出来た?」
「うん、出来てるよ⋯」
涙目で言った山口が冊子を差し出すと、秋良はそれを受け取って確認する。
「うん、良いんじゃないかな」
「そしたら、終わり?」
これからデートだという山口は目を輝かせた。
「終わり終わり。はい、帰って良いよ」
秋良は山口を追い払う様に手を払う。
「俺も部活行くね」
そう言って悠和もあっという間に教室を出て行った。
秋良と2人になったが、日が落ちるまでまだまだ時間はある。
今日は終業式だった事もあり、この時間まで学校に残っている生徒はそう多くなかった。
「俺達も帰ろうか。まだ時間早いし、まだ先だけど旅行で必要な物でも見に行く?」
荷物をまとめた秋良は、笑顔で提案した。
「良いね」
度々溜息をついたり考え事をしたりと、いつもと違う様子の蛍を見ても、秋良の振る舞いはいつもと変わらなかった。
蛍が重たい空気にしてしまっていると感じて気を張っても、あれこれ考える内にまた元に戻り溜息を吐く。
その繰り返しだったが、秋良は何かあったとか大丈夫かとか声を掛けてくる事は無く、ただいつもの笑顔で他愛のない話に付き合ってくれた。
「吉澤、今日も頼める?」
そう言っていつもの様に、お願いするときのお決まりのポーズで顔の前に手を合わせる。
いいよ、と笑ってみせるとこれまたお決まりの笑顔。
秋良はあれ以来、度々午後の授業を休んでは、ノートを貸して欲しい、やった授業の内容を教えて欲しいと言って蛍を誘った。
休む理由を何度か聞いてみたけど、ちょっと用事があってと言うだけで、明確な理由は決して言わなかった。
秋良と過ごす時間は、とても穏やかで好きだ。
だから蛍には、そこまで理由が大事な訳では無かった。
「蛍ー!」
校舎から出て職員用の駐車場を横切ると、隼人が手を挙げて近付いて来る。
「はや兄」
「俺これから帰るけど、乗っていく?荷物多いだろ?」
車のキーをくるっと指で一回転して微笑んだ。
「ありがとう。でも今日は大丈夫。雨野と約束したし」
「そっか⋯困ったらいつでも読んで良いからな」
ぽんぽんと頭を叩くと隼人はあっさり車に乗り込んだ。
隼人とは幼なじみだという事を以前、秋良には伝えたが、小さい子にする様な扱いをしてくるのを見られるのは気恥ずかしい。
流石に隼人も生徒達大勢の前ではしないと思うが、秋良一人の前でもこんなにも恥ずかしいと感じるのだ。
人数が増えれば、羞恥心は比じゃないだろう。
秋良以外の人間には隼人と幼馴染みだということを悟られない様にしなくてはと決心しながら車が走り出すのを見送った。
「雨野、ごめんね。待たせて」
隣で待たせていた秋良に目をやると、眉間には皺が寄っていた。
この顔はきっと怒っているのだろうと、蛍は直感的に感じた。
秋良の怒った顔なんて見るのは初めてだが、例の笑顔と比べてかなりギャップがあるその表情に、蛍は眉を寄せた。
「⋯ごめん、そんなに待たせたの怒ってる?」
秋良の顔を覗き込むと、真剣な眼差しに目が離せなくなる。
色素の薄い瞳は、真っ直ぐこちらを見詰めていた。
逸らしたい。
逸らさないと捕らわれてしまう。
そんな気がした。
しかし、先に目を逸らしたのは秋良の方で、俯く秋良の目線に胸を撫で下ろす。
小さく息を吐くと、秋良が口を開いた。
「あいつ、吉澤の家行ったことあるの?」
「えっ?⋯うん、昔ね」
「⋯⋯⋯」
秋良は自身の首裏に手を回すと、溜息を吐いた。
「俺も⋯俺も吉澤ん家行きたい」
「え⋯?」
「今日もまた教えてくれるんでしょ?買い物行ってまたこっち戻ってくるのも、その⋯面倒だし」
怒っているのかと思ったけど、思い違いだろうか。
今度は照れ臭そうに告げる秋良に戸惑いながら返事をした。
「⋯うん。別に構わないよ」
笑って見せると、秋良もいつもの笑顔に戻っていた。
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