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1.Rainy season.
待ち合わせ
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朝は弱い方ではない。
携帯のアラームが一度鳴れば大抵目が覚めるし、わざわざ止めてから寝直すなんて、しようと思っても出来ないくらいだ。
それに起きなければいけない理由なんかが加われば尚更目覚めも良くなる。
昨晩メールで来たナツからのお誘い。
学校が終わればまたナツに会えると思うとテンションが上がり、普段よりも早く目覚めてしまった。
いつもよりゆっくり支度をしても時間が余るくらいだ。
朝テレビを見る習慣のない蛍だが、なんとなくテレビを付けてコーヒーメーカーで淹れたカフェラテを啜った。
なかなか進まない時計の針を見ながらゆっくり過ごしてみたが、じっと待っているのも段々辛くなってきた。
少し早いが偶にはと割り切って、家を出て学校に向かう事にした。
通勤、通学時間帯の駅付近は流石に人が多い。
学校が近付いてくると、スーツ姿よりも同じ制服を着た人達が目立つ。
いつもはもう少し遅い時間且つ、さっさと自転車で通り過ぎてしまう為気づかなかったが、皆なかなか早く登校しているものだと感心した。
「吉澤ー!」
黙々と学校を目指していると、後ろの方向から息を弾ませて秋良がやってきた。
やはりお馴染み、の笑顔。
「おはよ。朝から爽やかだね、雨野は」
「おはよう。そうかな?」
秋良は少し照れると、そうだと言って鞄を漁る。
「これ。昨日言ってたチケット」
「まじで頂いちゃって良いの?」
「うん、是非貰ってやって」
差し出された茶封筒を受け取るとチケットを出し、確認すると “TRAP” という文字を見つけニヤつきそうになった。
「公演、7月7日のだけど大丈夫?⋯その、予定とか」
「あ、うん。7月はまだバイトも入れてないし、大丈夫!」
「良かった。バイトしてるんだ?」
「たまにしか入らないけどね」
そう返してまた嬉しそうにチケットを眺めた。
「そうだ、吉澤さ。今日の午後の数学、明日ノート貸してくんない?」
「良いけど、早退でもするの?」
「まじ?サンキュー!助かる。うん、ちょっと用あって」
秋良は顔の前で手を合わせた。
「偉いな。午前中だけでもって出てくるの 」
蛍が微笑みながら目線を進行方向に向ける。
「吉澤もでしょ」
「え?」
「⋯吉澤、あの新しく来た、森田先生と知り合い?」
秋良の顔が少し歪んだように見え、先程の笑顔とのギャップに戸惑った。
咄嗟に知らないふりをする考えが過ったが、秋良になら親しいことを知られても問題ないと考え、首を縦に振った。
「⋯うん。幼なじみっていうのかな。歳は結構違うけど」
「そうなんだ⋯」
蛍は微笑んでから、妙に照れくさくなって必至に別の話題を考える。
「あ、えーと⋯そうだ雨野。連絡先交換しない?」
突然の申し入れに秋良は目を丸くしてから、全開の笑顔を見せた。
秋良は急いでポケットからスマートフォンを出して、番号を表示するとこちらに差し出す。
「ありがとう。
雨野はSNSアプリやってる?」
「ああ、番号で探せる様にしてあるから検索してみて」
「あ、OK!」
早速登録した番号で検索をかけ、出てきたページに友達申請をする。
「ありがとう、吉澤」
「うん、よろしく。またTRAPの情報あったら教えて」
「勿論」
秋良はまた太陽みたいに笑った。
「ごめんっ!遅くなって!」
蛍は息を切らせて滑り込んだ。
「もぅ。女の子待たすなんて!」
深々と被ったキャップから膨れっ面を覗かせるナツにひたすら謝る。
「本当、ごめん!」
「うそうそ。私が呼び出したんだし、大丈夫だよ。急だったのに来てくれてありがとう」
そう言っていたずらっ子のようにナツは笑った。
思ったよりも簡単に許しを得た事に安心して大きく息を吐いた。
「ごめんね⋯こんな所で待ち合わせなんて」
待ち合わせに指定された場所は、海が目の前に広がる絶景スポット。
段々と日が落ちるのも遅くなり、薄暗くなり始めている。
夕陽がとても綺麗だ。
晴れているからこそ望める景色。
こんな綺麗な場所で女の子と待ち合わせなんて、寧ろ大歓迎だ。
「いや、全然」
「私、人が大勢いる場所には行けなくて」
「どうして?」
「やっぱあんな一瞬じゃ気付かないよね⋯実は私、モデルをやっているの」
そう言うと、週刊誌やファンに捕まる可能性のある所では人と会えない事を補足する。
「なるほどね。じゃあ、俺と合うのもマズイんじゃない?」
「⋯だから、こんな場所でごめんね」
伏し目がちな横顔は、とても綺麗だった。
「いや、俺は大丈夫」
「という訳で、早速本題ね。
私、今度舞台出るの。だから観にこない?この前のお詫びに招待する!⋯お詫びにしてはお粗末かな?」
「モデルさんなのに舞台もやるんだ?」
「うん。事務所の後輩のお零れなんだけどね」
封筒を差し出され、受け取ると中身を見る。
そこには今朝秋良から受け取ったばかりのチケットと同じデザインだった。
「あ、これTRAPの⋯でもごめん。チケットもう持ってるんだ」
「そうなの?」
「うん。俺TRAPのファンで、友達がチケット譲ってくれたんだ」
「そのチケット、今持ってる?」
「え?⋯うん」
今朝受け取ったままの封筒を鞄から取り出すと、ナツは見せてと言ってチケットを封筒から取り出す。
「7月7日の “L” のチケットね」
「⋯L?」
「この舞台、“Right” と “Left”の2パターンあって、私達は交互にそれぞれの台本で演じるの。2パターン観て繋がる所もあるから両方見ても面白いと思うよ。立て続けに観たら疲れちゃうかな?」
「へぇ、面白い!⋯演じる方、大変そうだけど」
興味ありと浮き立った蛍の声に、すかさずチケットを差し出す。
「じゃあ受け取ってくれる?」
ナツの差し出したチケットには “R” と記されていて、ついでに招待の印も押されている。
「良いの?もらっちゃって」
「この前怪我させちゃったお詫びだから受け取って?」
「そんなの気にしなくても良いのに。
でもありがとう!舞台観るの好きだから嬉しいよ」
最近すごくついている気がする。
同じ舞台というのは驚いたけど、チケットを2枚も貰えるなんて。
隼人と再会でき、趣味を語り合える友達も出来た。
それに可愛いモデルの子とも知り合えて、毎日がプラスに進んでいく。
今までに経験したことのないラッキーが重なり違和感があったが、単純に嬉しく楽しいと感じる気持ちが勝っていた。
それから少しの間、他愛もない話をして、この後仕事があるというナツと別れた。
すっかり暗くなった海をまたひとりで眺めてから、駅に向かって歩いた。
帰宅すると直ぐにシャワーを浴び、いつもの様にお茶の入ったマグカップを持って部屋へ戻る。
この前バイトの帰りに立ち寄った本屋で購入した、まだ流し読みしかしていない雑誌を見る。
勿論、TRAPの特集ページだ。
演目である “TRAP×TЯAP” の文字が大き目に配置されている。
ずらりと並んだTRAPのインタビュー記事に目を通した。
海辺ではナツとTRAPの関係も聞いた。
TRAPファンとしては、TRAPの新しい一面を見た様な気分になれて嬉しかった。
ナツは後輩と言っていたが、話を聞く感じ相当仲が良さそうだ。
じっくり黙読した後、ページを捲りながら考える。
好きなアーティストと、知り合ったばかりだけど少し気になる子が一緒の舞台に出るなんて。
しかも、一度は諦め度は諦めた舞台をこんな良い条件で観ることができるなんてそう無いと、更に期待が高まった。
携帯のアラームが一度鳴れば大抵目が覚めるし、わざわざ止めてから寝直すなんて、しようと思っても出来ないくらいだ。
それに起きなければいけない理由なんかが加われば尚更目覚めも良くなる。
昨晩メールで来たナツからのお誘い。
学校が終わればまたナツに会えると思うとテンションが上がり、普段よりも早く目覚めてしまった。
いつもよりゆっくり支度をしても時間が余るくらいだ。
朝テレビを見る習慣のない蛍だが、なんとなくテレビを付けてコーヒーメーカーで淹れたカフェラテを啜った。
なかなか進まない時計の針を見ながらゆっくり過ごしてみたが、じっと待っているのも段々辛くなってきた。
少し早いが偶にはと割り切って、家を出て学校に向かう事にした。
通勤、通学時間帯の駅付近は流石に人が多い。
学校が近付いてくると、スーツ姿よりも同じ制服を着た人達が目立つ。
いつもはもう少し遅い時間且つ、さっさと自転車で通り過ぎてしまう為気づかなかったが、皆なかなか早く登校しているものだと感心した。
「吉澤ー!」
黙々と学校を目指していると、後ろの方向から息を弾ませて秋良がやってきた。
やはりお馴染み、の笑顔。
「おはよ。朝から爽やかだね、雨野は」
「おはよう。そうかな?」
秋良は少し照れると、そうだと言って鞄を漁る。
「これ。昨日言ってたチケット」
「まじで頂いちゃって良いの?」
「うん、是非貰ってやって」
差し出された茶封筒を受け取るとチケットを出し、確認すると “TRAP” という文字を見つけニヤつきそうになった。
「公演、7月7日のだけど大丈夫?⋯その、予定とか」
「あ、うん。7月はまだバイトも入れてないし、大丈夫!」
「良かった。バイトしてるんだ?」
「たまにしか入らないけどね」
そう返してまた嬉しそうにチケットを眺めた。
「そうだ、吉澤さ。今日の午後の数学、明日ノート貸してくんない?」
「良いけど、早退でもするの?」
「まじ?サンキュー!助かる。うん、ちょっと用あって」
秋良は顔の前で手を合わせた。
「偉いな。午前中だけでもって出てくるの 」
蛍が微笑みながら目線を進行方向に向ける。
「吉澤もでしょ」
「え?」
「⋯吉澤、あの新しく来た、森田先生と知り合い?」
秋良の顔が少し歪んだように見え、先程の笑顔とのギャップに戸惑った。
咄嗟に知らないふりをする考えが過ったが、秋良になら親しいことを知られても問題ないと考え、首を縦に振った。
「⋯うん。幼なじみっていうのかな。歳は結構違うけど」
「そうなんだ⋯」
蛍は微笑んでから、妙に照れくさくなって必至に別の話題を考える。
「あ、えーと⋯そうだ雨野。連絡先交換しない?」
突然の申し入れに秋良は目を丸くしてから、全開の笑顔を見せた。
秋良は急いでポケットからスマートフォンを出して、番号を表示するとこちらに差し出す。
「ありがとう。
雨野はSNSアプリやってる?」
「ああ、番号で探せる様にしてあるから検索してみて」
「あ、OK!」
早速登録した番号で検索をかけ、出てきたページに友達申請をする。
「ありがとう、吉澤」
「うん、よろしく。またTRAPの情報あったら教えて」
「勿論」
秋良はまた太陽みたいに笑った。
「ごめんっ!遅くなって!」
蛍は息を切らせて滑り込んだ。
「もぅ。女の子待たすなんて!」
深々と被ったキャップから膨れっ面を覗かせるナツにひたすら謝る。
「本当、ごめん!」
「うそうそ。私が呼び出したんだし、大丈夫だよ。急だったのに来てくれてありがとう」
そう言っていたずらっ子のようにナツは笑った。
思ったよりも簡単に許しを得た事に安心して大きく息を吐いた。
「ごめんね⋯こんな所で待ち合わせなんて」
待ち合わせに指定された場所は、海が目の前に広がる絶景スポット。
段々と日が落ちるのも遅くなり、薄暗くなり始めている。
夕陽がとても綺麗だ。
晴れているからこそ望める景色。
こんな綺麗な場所で女の子と待ち合わせなんて、寧ろ大歓迎だ。
「いや、全然」
「私、人が大勢いる場所には行けなくて」
「どうして?」
「やっぱあんな一瞬じゃ気付かないよね⋯実は私、モデルをやっているの」
そう言うと、週刊誌やファンに捕まる可能性のある所では人と会えない事を補足する。
「なるほどね。じゃあ、俺と合うのもマズイんじゃない?」
「⋯だから、こんな場所でごめんね」
伏し目がちな横顔は、とても綺麗だった。
「いや、俺は大丈夫」
「という訳で、早速本題ね。
私、今度舞台出るの。だから観にこない?この前のお詫びに招待する!⋯お詫びにしてはお粗末かな?」
「モデルさんなのに舞台もやるんだ?」
「うん。事務所の後輩のお零れなんだけどね」
封筒を差し出され、受け取ると中身を見る。
そこには今朝秋良から受け取ったばかりのチケットと同じデザインだった。
「あ、これTRAPの⋯でもごめん。チケットもう持ってるんだ」
「そうなの?」
「うん。俺TRAPのファンで、友達がチケット譲ってくれたんだ」
「そのチケット、今持ってる?」
「え?⋯うん」
今朝受け取ったままの封筒を鞄から取り出すと、ナツは見せてと言ってチケットを封筒から取り出す。
「7月7日の “L” のチケットね」
「⋯L?」
「この舞台、“Right” と “Left”の2パターンあって、私達は交互にそれぞれの台本で演じるの。2パターン観て繋がる所もあるから両方見ても面白いと思うよ。立て続けに観たら疲れちゃうかな?」
「へぇ、面白い!⋯演じる方、大変そうだけど」
興味ありと浮き立った蛍の声に、すかさずチケットを差し出す。
「じゃあ受け取ってくれる?」
ナツの差し出したチケットには “R” と記されていて、ついでに招待の印も押されている。
「良いの?もらっちゃって」
「この前怪我させちゃったお詫びだから受け取って?」
「そんなの気にしなくても良いのに。
でもありがとう!舞台観るの好きだから嬉しいよ」
最近すごくついている気がする。
同じ舞台というのは驚いたけど、チケットを2枚も貰えるなんて。
隼人と再会でき、趣味を語り合える友達も出来た。
それに可愛いモデルの子とも知り合えて、毎日がプラスに進んでいく。
今までに経験したことのないラッキーが重なり違和感があったが、単純に嬉しく楽しいと感じる気持ちが勝っていた。
それから少しの間、他愛もない話をして、この後仕事があるというナツと別れた。
すっかり暗くなった海をまたひとりで眺めてから、駅に向かって歩いた。
帰宅すると直ぐにシャワーを浴び、いつもの様にお茶の入ったマグカップを持って部屋へ戻る。
この前バイトの帰りに立ち寄った本屋で購入した、まだ流し読みしかしていない雑誌を見る。
勿論、TRAPの特集ページだ。
演目である “TRAP×TЯAP” の文字が大き目に配置されている。
ずらりと並んだTRAPのインタビュー記事に目を通した。
海辺ではナツとTRAPの関係も聞いた。
TRAPファンとしては、TRAPの新しい一面を見た様な気分になれて嬉しかった。
ナツは後輩と言っていたが、話を聞く感じ相当仲が良さそうだ。
じっくり黙読した後、ページを捲りながら考える。
好きなアーティストと、知り合ったばかりだけど少し気になる子が一緒の舞台に出るなんて。
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