まだ、言えない

怜虎

文字の大きさ
上 下
5 / 118
1.Rainy season.

クラスメイト

しおりを挟む
先程まで晴れていた筈の空には、分厚く黒い雲が張り付いていた。

辺りはみるみるうちに暗くなっていく。

梅雨の時期特有の突然の変化を、蛍は窓際の席から頬杖をついて見つめる。

しかし、どんよりとした天気とは反対に蛍の気持ちは晴れやかだった。


耳にはお気に入りのBGM.

そして憧れの隼人との再会。

隼人の夢が叶った事をこの目で確認することも出来、自然と顔が綻ぶ。


突然、片耳から音が奪われ現実に引き戻された。


「よーしざわっ!」


声のした方に視線をずらすとニコニコと華やかな顔が視界に飛び込んできた。


「何一人で笑ってたの?」


突然声を掛けられた事に対しての驚きと、その人物をよく知らないことへの申し訳ない気持ちが混ざる。

その真っ直ぐな眼差しに、何を考えているか悟られない様に、その底抜けに明るい笑顔を見詰めた。


「え?まさかの名前わからないやつ?」


そう、そのまさかだ。

申し訳無いと感じても知らないことなんてフォローできるはずもなく、もちろん本質は変わらない。

無駄なことは覚えない主義だ。

ただじっと見詰めるだけの蛍に、秋良は小さく溜息を吐いてから言った。


雨野秋良あまのあきらね」

「⋯あ、うん。ごめん」


決してコミュニュケーション取るのが苦手な訳ではなく、気を使うのが面倒なだけ。

自分の中の当たり前は、他人に納得してもらえない場合もある。

蛍は反射的に謝罪の言葉を口にしていた。


「なんで謝るの?」

「いや⋯なんか悪いかなと思って」

「これから覚えてくれてば良いから」


もう6月だけどね、と変わらない笑顔のままで秋良は言った。


4月に新学期が始まり2ヶ月が過ぎたが、蛍と秋良が話すのは初めてだった。

見るからに “人気者” の単なる興味だろうか。

笑顔で近付いてきた秋良の顔は瞬時に緊張へと変わった。


「あの⋯昨日さ、昼休み裏庭にいた?」

「昨日?」


なるほど。

昨日の昼、中庭で告白されていたのは彼だったのか。

わざわざ確認しに来たのだろうかと蛍は秋良をじっと見つめた。


「⋯⋯⋯」

「やっぱ何でもない⋯忘れて!」


考える間、ほんの数秒の沈黙に耐えられなくなったのかそう言い放つと教室の反対側から聞こえた名前を呼ぶ声に答え、じゃあと言ってそそくさと逃げていった。

その嵐のような展開に、深く息を吐いてもう一度窓の外に目をやる頃にはしとしとと雨が降り出していた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。

熱のせい

yoyo
BL
体調不良で漏らしてしまう、サラリーマンカップルの話です。

信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……

鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。 そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。 これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。 「俺はずっと、ミルのことが好きだった」 そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。 お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ! ※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています

男子寮のベットの軋む音

なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。 そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。 ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。 女子禁制の禁断の場所。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・不定期

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

処理中です...