まだ、言えない

怜虎

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1.Rainy season.

クラスメイト

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先程まで晴れていた筈の空には、分厚く黒い雲が張り付いていた。

辺りはみるみるうちに暗くなっていく。

梅雨の時期特有の突然の変化を、蛍は窓際の席から頬杖をついて見つめる。

しかし、どんよりとした天気とは反対に蛍の気持ちは晴れやかだった。


耳にはお気に入りのBGM.

そして憧れの隼人との再会。

隼人の夢が叶った事をこの目で確認することも出来、自然と顔が綻ぶ。


突然、片耳から音が奪われ現実に引き戻された。


「よーしざわっ!」


声のした方に視線をずらすとニコニコと華やかな顔が視界に飛び込んできた。


「何一人で笑ってたの?」


突然声を掛けられた事に対しての驚きと、その人物をよく知らないことへの申し訳ない気持ちが混ざる。

その真っ直ぐな眼差しに、何を考えているか悟られない様に、その底抜けに明るい笑顔を見詰めた。


「え?まさかの名前わからないやつ?」


そう、そのまさかだ。

申し訳無いと感じても知らないことなんてフォローできるはずもなく、もちろん本質は変わらない。

無駄なことは覚えない主義だ。

ただじっと見詰めるだけの蛍に、秋良は小さく溜息を吐いてから言った。


雨野秋良あまのあきらね」

「⋯あ、うん。ごめん」


決してコミュニュケーション取るのが苦手な訳ではなく、気を使うのが面倒なだけ。

自分の中の当たり前は、他人に納得してもらえない場合もある。

蛍は反射的に謝罪の言葉を口にしていた。


「なんで謝るの?」

「いや⋯なんか悪いかなと思って」

「これから覚えてくれてば良いから」


もう6月だけどね、と変わらない笑顔のままで秋良は言った。


4月に新学期が始まり2ヶ月が過ぎたが、蛍と秋良が話すのは初めてだった。

見るからに “人気者” の単なる興味だろうか。

笑顔で近付いてきた秋良の顔は瞬時に緊張へと変わった。


「あの⋯昨日さ、昼休み裏庭にいた?」

「昨日?」


なるほど。

昨日の昼、中庭で告白されていたのは彼だったのか。

わざわざ確認しに来たのだろうかと蛍は秋良をじっと見つめた。


「⋯⋯⋯」

「やっぱ何でもない⋯忘れて!」


考える間、ほんの数秒の沈黙に耐えられなくなったのかそう言い放つと教室の反対側から聞こえた名前を呼ぶ声に答え、じゃあと言ってそそくさと逃げていった。

その嵐のような展開に、深く息を吐いてもう一度窓の外に目をやる頃にはしとしとと雨が降り出していた。

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