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1 魔女が力を揮うとき ~アーヤ視点~

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 グランシオの膝に乗せられたまま動けないうちに、口づけられた。
 え。と思う間もなく。ふにゃっと柔らかいものに覆われて。
 顔が物凄く近い。
 睫毛が長い! という感想を脳みそが叩きだすうちに唇が離れた。

 グランシオが私の目を覗き込む。

「嫌だった?」

 嫌?
 …………いや、というか、そんなことを考える余裕がなかったというか…………頭が動いていなかった。
だけど、問われたことで気づく。

 あれ? いま、きすした?

「嫌じゃなかった、ってことで良いんだ?」
 
 勝手に決められた!? 
 驚愕のあまり声を出そうと口を開いた瞬間、狙ったようにまた唇が降ってきた上に、ぬるりと何かが割って入った。

「~~~~~~!?」

 それがグランの舌だと理解するのと同時に、抵抗しようと手をつっぱねようとするけれど難なく押さえ込まれる。
 奥に引っ込もうとする舌を追いかけられ、逃げ場などない狭いそこで舌同士で絡めとられる。口を閉じることなど当然できなくて、息苦しくて、でもグランの舌が上顎の裏をくすぐると身体が勝手にびくびく震える。
 困惑以上に自分の身体にぞくぞくとした熱が籠っていくのが怖い。
 視界の数字が恐ろしい勢いで減っていく。

 ようやく舌が抜かれたときには、逃げるなんて気力はなくて、ぐたりと胸に寄りかかった。

「……かわいい…………」

 琥珀の目を細め、ぺろりと赤い舌を出して唇を舐めるその姿にカッと頭が熱くなって、数字がゼロになっ―――――――――









「ん…………」
 
 目を開けると、天井が見えた。薄暗い……。いま何時だろう。
 
「目、覚めた?」
「グラ……? な、なにしてるのっ!?」
 
 ぼんやりしていた頭が一気に覚醒した。
 横たわる私の上に、覆いかぶさるようにグランシオがいた。
 そして胸元のボタンが外されている!

 慌てて身を起こそうとするのをやんわりと押しとどめられる。

「俺はあんたが好きだよ。ご主人」
 
 にこり、と邪気のない笑みとともに耳へ流し込まれたセリフに、どきりとして思わず動きを止めてしまった。


「だから、たぁぁぁぁーーーーっぷり気持ちよくしてあげる」

 絶句するこちらに構わず近づいてきた赤茶色の髪が胸元をくすぐる。

「ちょ、待って!」

 思わず叫んだのに、駄犬は笑って取り合わない。

「止めてほしかったら、“命令”してよ。そうしたらちゃんと待ってあげる」

 ま、まさか、ただ“隷属の力”を強請るためだけにこんな真似をっ……?
 私に力を使わせるために――――――――――………………!?

 恥ずかしいのと泣きたいので、すぐさま止めてもらおうと魔女の力を込めて口を開いた。
 
「『駄犬』」

うっとりしたグランが足を舐め――――――って、ひぃいいい!? 足舐めたぁあああ!!?

「『誰が舐めることを許可した? 本当に駄犬だな』」

 内心ではギャーギャー騒いでいるのに、私の声は侮蔑を含みつつも平坦で、脚はするりと動いてグランの下半身をぐにっと……………え?

「……っ、ご主人……」

 頬を赤く染めて、どこか苦し気な表情で切ない息を吐くグランシオが色っぽくて、つい見蕩れて………って、違う! そこぐりぐりしちゃダメだよね!? グランも抵抗しようよ!!

 なのに私の口からは、「『イクな』」って………!! なにを命令してるの!? 処女です! 私、前世から引き続き処女ですからね!?


「『生意気な駄犬が。しっかり奉仕せよ。さすれば褒美をくれてやらんこともないぞ』」
 
 ……………………は、い?

 何言った、私。
 何を言っちゃってるの、私!?
 制止の言葉じゃないよね、今のっ…………!?

 見開かれていた琥珀色に、それまであった熱とは別のものが宿る。

「………仰せのままに。俺のご主人……」

 グランシオの口角がひどくゆっくりとあがる。それと同時に熱を閉じ込めたような琥珀が細くなっていく。

 だ、ダメだ…………! 魔女モードダメだった…………!! 

 「やっぱ待った」と口にしようとしたのに、開いた口は即座に唇で封じられる。

 グランシオの手が性急に衣服を剥ぎ取っていく。敵は歯まで使ってくるので抵抗する間もない。
 むーむーと唸っている間にグランの指が肌の上を這い、長い脚に膝を割られた。
 片方のの手が胸に触れ、先端を掠められてビクリと身体が跳ねた。
 もう一方の手が足の間に探り出したので、思わず強く頭を振った。それでようやく口は解放されたけれど、制止する為に“魔女の力”を伴った“命令”を出すことができなかった。

 喉から出てくるのは、自分のものではないような普段より高い声。
 意識なんてしてないのに、勝手に出てくる。
 それはグランシオがそうさせているから。引き出させるから。

 ――――――なんですか、これ。

 なんで、「あん」とか「ひゃん」とかしか出てこないの。
 なんとか言葉を出そうとしても、「ダメ、やぁ」とかしか出てこない。

 与えられる快感に翻弄される。視界の数字なんてもうどうでもいい。何度も気をやっているうちに、だんだんとわけがわからなくなってくる。
 なんだか夢の中にいるみたいに現実味がなくて、抵抗する力なんてとうの昔に根こそぎ奪われた。

 身体が跳ねる。
 グランシオが舌で、指で嬲るたびに蜜を零す。
 何度も何度も気をやって、どれくらい経ったのか――――――――――ようやくグランシオが身体を起こした。





「……ご主人……嫌なら、めるなら、めて、良いんだよ?」

 ぼんやりとしていると、苦しそうな掠れた声が振ってきた。ぐったりしたまま目だけ動かせば、どこか不安げなグランシオの姿がそこにあった。
 

「俺…………、…………ほんとに、あんた汚しちまう…………」


 散々人に触って好き勝手して、今更そんなことで悩むなんて、と笑いたくなった。
 だけど笑いは出てこなくて、代わりに少し唇が震えただけだった。
 何度も気をやってしまった身体はふにゃふにゃで、力を入れるのが難しい。
 だけど、精一杯動かして、手を差し伸べる。


 魔女の力。
 それは、私の心の中にあった望みを形にする。

 さっきだって、自分でも気が付かないそれが引き出されたばかりだ。
 それは臆病な私に突きつけられる、目を逸らせないくらい明確なこたえ。
 

 隷属という力で縛っているくせに、それに罪悪感を持つくせに悦んで。
 純粋に想えているのかも想われているのかも不安なくせに。
 もう、手離すには遅すぎるほどに、グランシオが好き。


 ずっと必要な時でしか触れようとしなかったその手が、無遠慮に肌を撫でていくのが嬉しいとか、好きだという言葉に涙が出そうだとか、こんなときでさえ私を気遣うのを忘れないところだとか、最後には私に決めさせようとする臆病な部分だとか。

 ぜんぶひっくるめて、好き。

 認めてしまえば、もう誰にも覆せない。
 だから、グランシオも諦めてしまえばいいと思う。


 くっ、と口角が上がる。
 傲慢に、不遜に。魔女らしく。
 
「『愚かな……飼い犬にじゃれつかれた程度でこの私が汚れるものか』」


 グランシオの葛藤なんて、無視してあげる。
 だって私は隷属の魔女だもの。
 グランシオを支配するひどく傲慢な魔女。それでいい。
 だから、今だけは罪悪感何て感じないで、魔女の力を揮うことにする。


「『駄犬よ、ご苦労であった。褒美を取らす………』」

 ひとつ、息を吐く。ほんの少しだけ、怖いという気持ちと恥ずかしいという気持ちが浮かんで消えた。
 知らず、唇が笑みの形をつくっていくのを感じる。
 微笑んだまま、これまで見たこともないような不安げな琥珀を見据える。


「『我が胎の中で、果てるがいい』」


 グランシオは大きく目を見開いて―――――――――――それはそれは幸福そうに、はい、と言った。





 前世今世通じて初めて受け入れるそこは既に蕩けきっているのに、グランシオ自身が宛がわれると、あまりの熱さと質量に慄く。

 でも、やめてほしくない。

 無意識にでも“力”で制止をかけたくなくて、両手で口を塞いだ。
 ぎちぎちと身体がきしむ。痛みに涙が出てくる。身体が強張って、でもグランシオも苦しそうで、接するその身体は汗ばんていて、…………熱い。

「んっ!んんん――――――!!!」
「くっ……! は…………、」

 貫かれ、たまらず両手でグランの腕をきつく掴んでしまう。

「はぁっ……きつ……、ご主人、入ったよ…………」
「ふぁ……」

 大きな体にぎゅっと抱きしめられて、思わずふぅっと息を吐いてしまう。
 ……やっと一仕事終えた気分……

 ほっとしたら瞼が下がってきた。

 それを見て、グランシオが笑った。
 獣みたいに。

「あは……ご主人ったら……。せめて最初イクまでは起きてて? 思い出に残したいし、壊したくないしねぇ?」

 え?

「これでも俺ってば、今とぉーっても我慢してるの。よゆーないの。めちゃくちゃのぐちょぐちょに腰振りたいの。でもご主人辛いかなぁーと思って馴染むまで待ってんの。ご褒美にもーちょっとだけ起きてて欲しぃなぁ? …………でないと今すぐ理性とオサラバするよ」


 …………目が笑ってなかった。

 必死にこくこくと頷くと、それが響いたのか「んっ……」と壮絶に色気のある声が出された。そうして、まるで私が悪いみたいと言わんばかりの視線に、不可抗力ですと強く言いたかった。

 「……大人しくしてて」

 掠れた声とともに、ギュッと抱え込まれる。
 しっとりした熱い肌。どくどくと伝わる鼓動は早い。グランシオも興奮してくれているんだと実感できて、なんだか照れた。

 でも、うれしい…………

 じんじんと痛む場所も、堅い腕にぎゅっとされたままじっとしているうちにあまり気にならなくなってきた。
 
 

「……ん、そろそろなじんできたかな……っと」 
「ひぃゃあっ!?」

 わたしが落ち着いてきたのを見越したのか、ぐっと中で動かされ、高い声が出た。
 それをグランシオが実に良い笑顔で見下ろす。でもその目の奥がなんか怖い。怖すぎる。

「くそ…………可愛い…………。ね、こっちは長いことお預けだったの…………、二人で、暮らして、さぁ、風呂上りとか? なんの拷問? ってね」
「え、なに、あんっ。」

 喋りながらも動くから、よく聞こえない……というか、なんか、からだ、変……?

「っは、無防備すぎて、どうしようかと、体格差、あるからっ、手加減するつもりだけどさぁ! 実をいうと、もう本当に、っくっ…、いっぱいいっぱいなんだよね。こうして、喋ってでもないと壊しちゃいそ……っ」
「あっ、や、そんな動いちゃ、だ、め、あぁんっ!」
「あー……、やっぱ起きてた方が、いいっ、かも? あんたが、気絶したらさ、俺、行為に没頭するでしょ? 危険だと思うんだよねぇ。あんたの命令だから、ココにだけ思う存分果てさせてもらわなきゃならないし、でもっ、壊したくっ、ないっ…………」
「あああっ、なに!? そこ、やぁあああ!!」
「あ、ここ? う、わ……、すっごい…………ねぇ、ご主人。わかる? すげぇ、締め付けてくんの。……あーもう。どうしよ……本当に、やばい。一回、出すけど、俺の言ったこと理解できた? だいじょぶ? 寝ないで、ね?」

 グランシオがずっと私を責め立て続けているから、私の頭は既に働くのを放棄していた。彼が何を言っているのかわからない。
 でも、最後にしっかりと聞こえた。聞こえたんだけれど。

「あんたが意識飛ばしたら、ただの獣にしかなれないからね?」

 より一層激しく腰を打ち付けられ、身体の奥に熱い飛沫を感じるとともに、耐えきれずに私の意識は途絶えて――――――――


 

 
 目覚めれば、揺すられている。
 気を失っても、たぶん同じ。


 荒い息遣いと琥珀の目だけがどうにか記憶に残る。あとは快楽の波にのまれるだけ。
 夜も昼もなく、ただ貪られる。
 起きている間はかろうじて言葉を交わすけれど、もう無理、とこぼしても返事はない。
 やめてほしくて、駄犬と罵れば、余計に喜んで腰を振る。
 彼の吐き出したすべてなんて当然治まりきらず、私の中から零れているのに、彼はそこを蹂躙する。じゅぶじゅぶと卑猥な水音をたくさんさせながら、とまらない。

 そんなことを繰り返し、喉が枯れ果て、過ぎる快楽にへとへとになり。
 
 ようやく満腹になったのか駄犬から解放された私は眠ることができた―――――というか、気を失ったともいう。


 翌日、当然のことながら動くことなんかできず、その間の駄犬による若干いきすぎなともいえる甲斐甲斐しい介護に、いろんな意味で数字が減った。何をどうされたかなんて言えません。


 前世から筋金入りの処女を蹂躙し続けた駄犬については、躾が必要だと強く強く思ったのでした。
 



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