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罠に落ちた英雄と魔女
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魔女は、楽しげに森を歩いていた。
その手には薬草が入った籠。
詰みとってきたばかりの薬草を愛おしそうに眺めながら、魔女は森の中の家に入る。
中に入るときっちり施錠する。誰にも邪魔されたくはないから。
玄関から奥へ足を進めた魔女は、ふんふんと鼻歌を歌いながら慣れた手つきで調合を始めた。
煎じて、量って、煮詰めて、合わせて。
「…………できた」
小さな小瓶にそれを入れると、機嫌よく寝室への扉を開けた。
「待たせてしまったかなぁ、英雄殿?」
魔女の視線の先には、ベッドの上で四肢を広げるようにして拘束されている美しい青年がいた。
彼の名はシュリス・サラディン。恐ろしい魔術師を倒す代わりに不死の呪いをかけられた英雄。
「っ…!なんのつもりですか、魔女殿っ…!!」
「この状態でもまだ私に敬称をつけるなんて……、ほんと、英雄殿はイイヒトだね?」
くつくつと嗤ってみせる魔女に、シュリスは顔を歪めた。
時折口は悪いものの、魔女はシュリスの呪いを改変するための花嫁を探すためにずっと協力してくれていた。至らぬシュリスを教え、導き、時に叱咤し、優しく慰めてくれた。
だからこそ、こうして拘束されている現状が理解できない。
「英雄殿の花嫁になっていいという女が現れたのだと言ったね?」
金と引き換えに、シュリスの花嫁になってもいいという平民の女を見つけてきたのは、かつての仲間だった。遅々として進まない花嫁探しに対する焦りもあったし、気遣ってくれた仲間の気持ちもうれしかった。
一度会ってみるだけでも会ってみろといわれ、そのことを魔女に報告したのだった。
――――――おめでとう、良かったね。
昨夜、確かに魔女は祝福してくれていたのに。
「魔女―――――んぐっ!?」
呼びかけようとしたところを狙って、小瓶の中身を口に入れられた。突然のことに、ほのかに甘い液体が喉に流れる。
「っげほっ…!なにをっ…!」
咳き込み、涙目になりながら抗議するシュリスを無視し、魔女は椅子に腰かけて足を組んで楽し気に目を細める。
魔女の行動が理解できずに混乱するシュリスは、次第に熱を帯びる己の肉体に気づいた。
「……!?」
荒くなる息に、熱くなる身体。
混乱するシュリスに魔女が近づき、するりと手を伸ばす。
「…ぁっ!」
肌の上を魔女の手が触れただけなのに、ぞくぞくと悪寒に似た何かを感じておかしな声が突いて出た。
「おや、かぁーわいい声」
魔女のことばに羞恥を感じてグッと奥歯を噛む。
しかし身体はおかしな熱を持ち続けている。
「身体がうずくでしょ、さっき飲ませたの媚薬だから」
「び、やく…!?」
唖然とするシュリスに、魔女はにっこり微笑んだ。
ぴちゃ、ぴちゃと水音がする。
そのたびに男の声も響く。
「ん、はっ、やぁっ、まじょ、どのぉっ…!!」
ぎしぎしと軋む音がするほど、シュリスは全身に力を込めて四肢の拘束を解こうとしていた。
いや、意識して拘束を解こうとしているわけではなく、与えられる快楽をどうにかやり過ごそうとして悶え苦しんでいるだけなのだ。
魔女の唇からいやらしい舌が出てきて、シュリスの肌のうえを這う。
魔女の小さな手がシュリスの全身を優しくまさぐり、愛撫していく。
しかしそれらは決してシュリスの中心で猛々しくそそりたち、だらしなく液を零すものには触れてくれない。
近くまでいったかと思えば遠ざかる。
今度こそ触れられるのかと期待すれば掠める程度で通り過ぎていく。
そんなことがどれほど続いただろうか。
決定的な快楽を与えられぬまま、媚薬で無理矢理高められた肉体はもっと直接的な刺激を欲して疼き、シュリスの混乱に輪をかける。
もう自分ではどうしたら良いのかわからない。
ただ魔女の舌に、手に翻弄されて喘ぐほかできない。
「魔女殿、まじょ、どのっ…!」
はぁはぁと荒い息をして魔女を呼ぶ英雄の姿に、魔女は顔を上げて笑った。
「英雄殿、触ってほしい?」
「はいっ!さわ、さわってほしい、ですっ…!」
必死な姿が可愛いと零した魔女が、唐突にそそり立ったシュリス自身の根元を強く掴んだ。
「あっ!ああああああああああっ!!!」
突然触れられたことにシュリスが全身を震わせて腰を浮かせるが、魔女は意に介さず手早く根元をひもで縛る。
媚薬の効果とさんざん焦らされた若い肉体は、今にも破裂せんばかりだったが魔女の方が若干素早かった。
「やっ…!まじょどの、もっと…!!」
刺激が欲しいシュリスの懇願に、魔女は口角をあげた。
希望通りに手と口をつかって愛撫してやる。
しかしそれは昂らせるだけにとどまって、達するまでに至らない。
がくがくしながら、そのことに気づいたシュリスは目を見開く。
「ひぅっ…!なんでぇ…!?」
今にも泣きそうなシュリスを、魔女は口淫しながら視姦して楽しむ。
十分に自由にならない中、腰を突き上げるようにして魔女の口の中を犯して快楽を得ようとするシュリスの姿に魔女は目を細める。
「ぁっ…!いきたいっ…!!!魔女殿!」
嗚咽に近い悲鳴交じりの懇願に、ようやく魔女は彼から離れて袖で口を拭った。
「いきたいの?」
「いきたいっ…ですぅ…!」
魔女の目を見て必死に訴える姿に、魔女はうっそり微笑む。
「じゃあ、私を花嫁にする?」
「へ…?」
一瞬、シュリスが呆ける。それを許さないとばかりに魔女はぐっと両手でシュリスに快楽を与える。
「ぁああああ!!!?」
「ね、どうする?了承するなら、いかせてあげるよ?」
喘ぐシュリスの耳を食みながら、魔女は優しく囁く。
――――了承するのなら、シュリスのそれを魔女の胎に打ち込んで、たっぷりと中に吐き出しても良い。
告げられた内容に、シュリスの喉がごくりと鳴った。
「さ、どうする…?」
これまで見たこともない顔で笑う魔女に、シュリスは震える唇を開いた。
魔女の黒い目が見開かれる。
「……この状況で交渉してくるなんて……さすが英雄殿だね」
シュリスが出した『条件』を戯言と思ったのか、魔女はフッと皮肉気に笑って目を伏せた。
「いいよ。薬なしで、私相手にその気になるならね」
****
媚薬を使い、英雄を拘束して苛んでまで花嫁になろうとしたのは、そうでもしないと英雄が魔女を選ぶことなどありえないと思ったから。
若くて美しくて、清らかな英雄に比べて、ずるくて美しくも無くて、ずっと年上の自分。
ともに過ごすうち、シュリスのことを好ましいと思い始めていたカナンは、シュリスが妥協して花嫁を決めるのが嫌だった。
それくらいなら、いっそのこと自分が――――
魔女である自分なら、次の生で真にシュリスが花嫁を見つけたら代わってやることができる。
そうすればいつかきっと、シュリスに相応しい愛し愛される相手が見つかるだろう。
脅しでもしなければ「魔女殿を巻き込みたくない」とでも言って、英雄は決して認めないだろうからと、強硬手段に出ることにした。
拘束して、媚薬で言いなりにさせた悪辣な魔女など、いくら気の良い英雄でも、きっと許しはしない。
それでもいい。
一度くらい。そう、一度くらい、カナンだって英雄との甘く疼くような思い出を得てもいいじゃないかと思ってしまった。
こうして、自分を頼ってくれていた英雄を、罠にはめる計画を立てた。
カナンは英雄に跨るようにして、己の中に彼自身を埋め込んでいく。
事前にそこを弛緩させる薬を使用しておいたおかげか、結構な質量のそれを飲み込むことができ、然程痛みもないという素晴らしい結果だった。
はっ、はっ、と最早獣のような息遣いしかできない英雄の目は焦点があっていない。
根元をきつく縛ったひもを無造作に取り払い、ぐっと締め付けてやれば声なき悲鳴をあげながら魔女のなかに大量に吐き出して気絶した。
ぐったりとした英雄を見下ろし、魔女は微笑む。
しっとりと汗ばんだ鍛えられた胸にそっと頬をよせた。
伝わる鼓動の音に、ほの暗い幸せが胸に広がる。
これで魔女はしばらくの間とはいえ、彼の花嫁だ。
たとえ、忌み嫌われようとも。
****
小さな村の小さな家の中で、毎夜それは行われる。
「やぁっ…!も、やめてぇ……!!」
黒髪の少女が涙目に訴える。
彼女の白くやわらかな脚の間にあるのは金色の小さな頭。
じゅるじゅると卑猥な音が聞こえるのはそこからだ。
「ん…、でももっとほぐしておかないといけませんよね?」
口元を拳で拭いながらあげられたのは薄闇の中でも輝く紫色の瞳。
「俺の成人まで…あと何年でしたっけ?楽しみですね」
その言葉に、今年成人したばかりの魔女は唇を引き結ぶ。
あのとき―――――シュリスが魔女を花嫁にするために出した条件はこうだ。
シュリスの欲望を魔女の胎の中に吐き出すこと。
シュリスが望むときにはいつでも魔女の身体を差し出すこと。
転生した魔女を追いかけて、ようやく再会したシュリスは魔女の家に転がり込み、夜ごと魔女を弄ぶ。
「俺の身体、早く精通するといいですね。今から慣らせば、きっとあなたも痛くありませんよ?」
「薬はなしでという約束でしたものね、あなたに少しでも痛みを感じてほしくないんです」と微笑む少年の目は笑っていない。
まだ幼い身体に似合いの大きさのそれ。あのときの大きさとは当然ながらまったく違うそれを、シュリスは精通と同時にカナンに捻じ込む気なのだ。
痛みを与えないようにとは、まるでカナンを気遣っているような言動だ。けれど執拗すぎるその責め苦は、きっと彼がカナンを憎んでいるから。
求められているような錯覚さえ起こしそうになるが、そうではないと自分に言い聞かせる。だって、相手を罠に落としたのは自分だ。それなのに、捕まってしまった気がするのはおかしいじゃないか。
ぼんやりと宙を見上げ、淫らな姿を隠すこともできないほど疲弊した少女に、幼さを残す少年はうっとりと微笑む。
「これからもずぅっと、一滴残らずあなたの中に注がせてくださいね?」
****
「…………あの、いかがでしょう……?」
「……イイですわね。魔女様がご自身を悪役にしてまで英雄様を追いつめ本懐を遂げたかと思いきや…!」
「転生後にそれを生かし、英雄様が攻めに転じるとは……!」
「胸に迫るものがありますわっ……!」
「あ、ありがとうございます……!」
「最後の英雄様のセリフ、『未来永劫、ね……』とか付け加えるのはどうですか?」
「きゃあ!怖いくらいの執着具合!!」
「尊い!尊いですわ!!傑作になる予感……!!」
「ではこれを軸にしてもう少し肉付けをするということで――――」
バタン!!
「動かないでください!」
「校閲室です!!」
「くっ…!みんな原稿を持って散り散りに逃げてください!ご武運を!!」
「はい!!」
「ご武運を!!」
バタバタバタバタ……
「なんと素早い…!」
「巫女は鍛錬などしていないはずなのに……!」
「あの……。もういっそのこと仕事しているときに呼び出しませんか?」
「馬鹿なことを……!彼女たちは現場を抑えなければ決して認めません。何より、原稿の在り処を白状することはないでしょう。校閲室の名をかけて、取締りを強化するしかないのです!すべては英雄様と魔女様の名誉を守る為です!負けてはなりませんよ、皆さん!!」
「「「はい!神殿長!」」」
その手には薬草が入った籠。
詰みとってきたばかりの薬草を愛おしそうに眺めながら、魔女は森の中の家に入る。
中に入るときっちり施錠する。誰にも邪魔されたくはないから。
玄関から奥へ足を進めた魔女は、ふんふんと鼻歌を歌いながら慣れた手つきで調合を始めた。
煎じて、量って、煮詰めて、合わせて。
「…………できた」
小さな小瓶にそれを入れると、機嫌よく寝室への扉を開けた。
「待たせてしまったかなぁ、英雄殿?」
魔女の視線の先には、ベッドの上で四肢を広げるようにして拘束されている美しい青年がいた。
彼の名はシュリス・サラディン。恐ろしい魔術師を倒す代わりに不死の呪いをかけられた英雄。
「っ…!なんのつもりですか、魔女殿っ…!!」
「この状態でもまだ私に敬称をつけるなんて……、ほんと、英雄殿はイイヒトだね?」
くつくつと嗤ってみせる魔女に、シュリスは顔を歪めた。
時折口は悪いものの、魔女はシュリスの呪いを改変するための花嫁を探すためにずっと協力してくれていた。至らぬシュリスを教え、導き、時に叱咤し、優しく慰めてくれた。
だからこそ、こうして拘束されている現状が理解できない。
「英雄殿の花嫁になっていいという女が現れたのだと言ったね?」
金と引き換えに、シュリスの花嫁になってもいいという平民の女を見つけてきたのは、かつての仲間だった。遅々として進まない花嫁探しに対する焦りもあったし、気遣ってくれた仲間の気持ちもうれしかった。
一度会ってみるだけでも会ってみろといわれ、そのことを魔女に報告したのだった。
――――――おめでとう、良かったね。
昨夜、確かに魔女は祝福してくれていたのに。
「魔女―――――んぐっ!?」
呼びかけようとしたところを狙って、小瓶の中身を口に入れられた。突然のことに、ほのかに甘い液体が喉に流れる。
「っげほっ…!なにをっ…!」
咳き込み、涙目になりながら抗議するシュリスを無視し、魔女は椅子に腰かけて足を組んで楽し気に目を細める。
魔女の行動が理解できずに混乱するシュリスは、次第に熱を帯びる己の肉体に気づいた。
「……!?」
荒くなる息に、熱くなる身体。
混乱するシュリスに魔女が近づき、するりと手を伸ばす。
「…ぁっ!」
肌の上を魔女の手が触れただけなのに、ぞくぞくと悪寒に似た何かを感じておかしな声が突いて出た。
「おや、かぁーわいい声」
魔女のことばに羞恥を感じてグッと奥歯を噛む。
しかし身体はおかしな熱を持ち続けている。
「身体がうずくでしょ、さっき飲ませたの媚薬だから」
「び、やく…!?」
唖然とするシュリスに、魔女はにっこり微笑んだ。
ぴちゃ、ぴちゃと水音がする。
そのたびに男の声も響く。
「ん、はっ、やぁっ、まじょ、どのぉっ…!!」
ぎしぎしと軋む音がするほど、シュリスは全身に力を込めて四肢の拘束を解こうとしていた。
いや、意識して拘束を解こうとしているわけではなく、与えられる快楽をどうにかやり過ごそうとして悶え苦しんでいるだけなのだ。
魔女の唇からいやらしい舌が出てきて、シュリスの肌のうえを這う。
魔女の小さな手がシュリスの全身を優しくまさぐり、愛撫していく。
しかしそれらは決してシュリスの中心で猛々しくそそりたち、だらしなく液を零すものには触れてくれない。
近くまでいったかと思えば遠ざかる。
今度こそ触れられるのかと期待すれば掠める程度で通り過ぎていく。
そんなことがどれほど続いただろうか。
決定的な快楽を与えられぬまま、媚薬で無理矢理高められた肉体はもっと直接的な刺激を欲して疼き、シュリスの混乱に輪をかける。
もう自分ではどうしたら良いのかわからない。
ただ魔女の舌に、手に翻弄されて喘ぐほかできない。
「魔女殿、まじょ、どのっ…!」
はぁはぁと荒い息をして魔女を呼ぶ英雄の姿に、魔女は顔を上げて笑った。
「英雄殿、触ってほしい?」
「はいっ!さわ、さわってほしい、ですっ…!」
必死な姿が可愛いと零した魔女が、唐突にそそり立ったシュリス自身の根元を強く掴んだ。
「あっ!ああああああああああっ!!!」
突然触れられたことにシュリスが全身を震わせて腰を浮かせるが、魔女は意に介さず手早く根元をひもで縛る。
媚薬の効果とさんざん焦らされた若い肉体は、今にも破裂せんばかりだったが魔女の方が若干素早かった。
「やっ…!まじょどの、もっと…!!」
刺激が欲しいシュリスの懇願に、魔女は口角をあげた。
希望通りに手と口をつかって愛撫してやる。
しかしそれは昂らせるだけにとどまって、達するまでに至らない。
がくがくしながら、そのことに気づいたシュリスは目を見開く。
「ひぅっ…!なんでぇ…!?」
今にも泣きそうなシュリスを、魔女は口淫しながら視姦して楽しむ。
十分に自由にならない中、腰を突き上げるようにして魔女の口の中を犯して快楽を得ようとするシュリスの姿に魔女は目を細める。
「ぁっ…!いきたいっ…!!!魔女殿!」
嗚咽に近い悲鳴交じりの懇願に、ようやく魔女は彼から離れて袖で口を拭った。
「いきたいの?」
「いきたいっ…ですぅ…!」
魔女の目を見て必死に訴える姿に、魔女はうっそり微笑む。
「じゃあ、私を花嫁にする?」
「へ…?」
一瞬、シュリスが呆ける。それを許さないとばかりに魔女はぐっと両手でシュリスに快楽を与える。
「ぁああああ!!!?」
「ね、どうする?了承するなら、いかせてあげるよ?」
喘ぐシュリスの耳を食みながら、魔女は優しく囁く。
――――了承するのなら、シュリスのそれを魔女の胎に打ち込んで、たっぷりと中に吐き出しても良い。
告げられた内容に、シュリスの喉がごくりと鳴った。
「さ、どうする…?」
これまで見たこともない顔で笑う魔女に、シュリスは震える唇を開いた。
魔女の黒い目が見開かれる。
「……この状況で交渉してくるなんて……さすが英雄殿だね」
シュリスが出した『条件』を戯言と思ったのか、魔女はフッと皮肉気に笑って目を伏せた。
「いいよ。薬なしで、私相手にその気になるならね」
****
媚薬を使い、英雄を拘束して苛んでまで花嫁になろうとしたのは、そうでもしないと英雄が魔女を選ぶことなどありえないと思ったから。
若くて美しくて、清らかな英雄に比べて、ずるくて美しくも無くて、ずっと年上の自分。
ともに過ごすうち、シュリスのことを好ましいと思い始めていたカナンは、シュリスが妥協して花嫁を決めるのが嫌だった。
それくらいなら、いっそのこと自分が――――
魔女である自分なら、次の生で真にシュリスが花嫁を見つけたら代わってやることができる。
そうすればいつかきっと、シュリスに相応しい愛し愛される相手が見つかるだろう。
脅しでもしなければ「魔女殿を巻き込みたくない」とでも言って、英雄は決して認めないだろうからと、強硬手段に出ることにした。
拘束して、媚薬で言いなりにさせた悪辣な魔女など、いくら気の良い英雄でも、きっと許しはしない。
それでもいい。
一度くらい。そう、一度くらい、カナンだって英雄との甘く疼くような思い出を得てもいいじゃないかと思ってしまった。
こうして、自分を頼ってくれていた英雄を、罠にはめる計画を立てた。
カナンは英雄に跨るようにして、己の中に彼自身を埋め込んでいく。
事前にそこを弛緩させる薬を使用しておいたおかげか、結構な質量のそれを飲み込むことができ、然程痛みもないという素晴らしい結果だった。
はっ、はっ、と最早獣のような息遣いしかできない英雄の目は焦点があっていない。
根元をきつく縛ったひもを無造作に取り払い、ぐっと締め付けてやれば声なき悲鳴をあげながら魔女のなかに大量に吐き出して気絶した。
ぐったりとした英雄を見下ろし、魔女は微笑む。
しっとりと汗ばんだ鍛えられた胸にそっと頬をよせた。
伝わる鼓動の音に、ほの暗い幸せが胸に広がる。
これで魔女はしばらくの間とはいえ、彼の花嫁だ。
たとえ、忌み嫌われようとも。
****
小さな村の小さな家の中で、毎夜それは行われる。
「やぁっ…!も、やめてぇ……!!」
黒髪の少女が涙目に訴える。
彼女の白くやわらかな脚の間にあるのは金色の小さな頭。
じゅるじゅると卑猥な音が聞こえるのはそこからだ。
「ん…、でももっとほぐしておかないといけませんよね?」
口元を拳で拭いながらあげられたのは薄闇の中でも輝く紫色の瞳。
「俺の成人まで…あと何年でしたっけ?楽しみですね」
その言葉に、今年成人したばかりの魔女は唇を引き結ぶ。
あのとき―――――シュリスが魔女を花嫁にするために出した条件はこうだ。
シュリスの欲望を魔女の胎の中に吐き出すこと。
シュリスが望むときにはいつでも魔女の身体を差し出すこと。
転生した魔女を追いかけて、ようやく再会したシュリスは魔女の家に転がり込み、夜ごと魔女を弄ぶ。
「俺の身体、早く精通するといいですね。今から慣らせば、きっとあなたも痛くありませんよ?」
「薬はなしでという約束でしたものね、あなたに少しでも痛みを感じてほしくないんです」と微笑む少年の目は笑っていない。
まだ幼い身体に似合いの大きさのそれ。あのときの大きさとは当然ながらまったく違うそれを、シュリスは精通と同時にカナンに捻じ込む気なのだ。
痛みを与えないようにとは、まるでカナンを気遣っているような言動だ。けれど執拗すぎるその責め苦は、きっと彼がカナンを憎んでいるから。
求められているような錯覚さえ起こしそうになるが、そうではないと自分に言い聞かせる。だって、相手を罠に落としたのは自分だ。それなのに、捕まってしまった気がするのはおかしいじゃないか。
ぼんやりと宙を見上げ、淫らな姿を隠すこともできないほど疲弊した少女に、幼さを残す少年はうっとりと微笑む。
「これからもずぅっと、一滴残らずあなたの中に注がせてくださいね?」
****
「…………あの、いかがでしょう……?」
「……イイですわね。魔女様がご自身を悪役にしてまで英雄様を追いつめ本懐を遂げたかと思いきや…!」
「転生後にそれを生かし、英雄様が攻めに転じるとは……!」
「胸に迫るものがありますわっ……!」
「あ、ありがとうございます……!」
「最後の英雄様のセリフ、『未来永劫、ね……』とか付け加えるのはどうですか?」
「きゃあ!怖いくらいの執着具合!!」
「尊い!尊いですわ!!傑作になる予感……!!」
「ではこれを軸にしてもう少し肉付けをするということで――――」
バタン!!
「動かないでください!」
「校閲室です!!」
「くっ…!みんな原稿を持って散り散りに逃げてください!ご武運を!!」
「はい!!」
「ご武運を!!」
バタバタバタバタ……
「なんと素早い…!」
「巫女は鍛錬などしていないはずなのに……!」
「あの……。もういっそのこと仕事しているときに呼び出しませんか?」
「馬鹿なことを……!彼女たちは現場を抑えなければ決して認めません。何より、原稿の在り処を白状することはないでしょう。校閲室の名をかけて、取締りを強化するしかないのです!すべては英雄様と魔女様の名誉を守る為です!負けてはなりませんよ、皆さん!!」
「「「はい!神殿長!」」」
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