神器とオリジナルを手に入れた転生王子は、最強への道を歩み始める

黄昏時

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第15話 勝算

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「……全力で無いとは言え、俺の殺気・・をまともに受けた直後にそんな目が出来るとはな。正直驚きだ」

 イアンはそう言いながら、驚きの表情を浮かべる。

 殺気?
 もしかして先程の背筋が凍る程のプレッシャーの事を言っているのか?
 仮にあれがイアンの言っている殺気・・だった場合、イアンはそれを自在に使えるという事。

 俺はあの時動く事すら出来なかった。
 運よく……いや、イアン程の実力者ならそれはあり得ない。
 イアンがわざと攻撃を外してくれていなければ、俺は今頃綺麗に体が真っ二つになっていただろう。

 もう一度あれをやられたらヤバい!!
 今の俺ではあれに対処する事が出来ない。
 仕方ないか。

 正直これは構想段階で、実証は行っていないがそんな事を言っている余裕はない。
 何せ相手は格上だと確信できた。
 そして格上の相手だからこそ、全ての力を出し切ってでも仲間に引き入れて見せる!!

 俺はそう決意すると、周囲の半球状の水を解除する。
 それを見ていたイアンは俺に対して訝しげな視線を向ける。
 しかし俺はそんな視線など気にも留めず、右手に握る神器に力を込める。

 すると直後、神器から物凄い勢いでミスト状の水が噴出される。
 その水は俺を中心に瞬く間に周囲を覆っていった。
 そして一分もしないうちに、周囲は濃い霧に包まれてしまった。

「霧を自ら作り出し視界を遮るか……これだから神器使いを相手にするのは嫌なんだ。こっちが努力と工夫で確立した戦い方を、力だけで乗り越えていきやがる」

 イアンどこか嬉しそうにそう吐き捨てる。

 すみませんが俺もなりふり構ってられませんので、悪く思わないでください。
 勿論そう思っても、絶対に口には出しませんけどね。
 イアン、あなたなら声を聴いただけで俺の位置がわかりそうで怖いですから、警戒させていただきます。

 俺はそう考えながら、イアンの居る場所を見つめる。
 とは言え、視界的には絶対に見る事は出来ない程濃い霧が周囲を覆っている。
 だが俺はイアンの位置が正確にわかる。

 それどころかイアンの一挙手一投足、更には息遣いまでもがハッキリと、正確に感じとる・・・・事が出来る。
 理由は勿論、俺が構想段階で実証していなかったこのにある。

 普通の霧を生み出すだけなら何も悩まず、先程までと同じように水を操り、ミスト状にして拡散するだけで事足りる。
 しかしそれではダメなんだ。

 それではイアンに勝てない・・・・
 霧で視界をつぶそうとも、速度・力・経験共に圧倒的差がある以上、視界が無くなれば不利になるのは逆に俺の方だ。

 それを理解していながら尚この霧を発生させたのは、所謂賭けだった。
 俺が考えていたを作り出せれば俺の勝ち、それが出来ずに普通の霧になってしまえばイアンの勝ち。

 結果俺はその賭けに勝った。
 俺が作り出したこのの中でなら、例え格上のイアンであろうと、上手く立ち回れば勝つことが出来るだろう。

「だがな坊主……俺とお前では経験の差が違う」

 イアンはそう言うと、目をつぶり居合の構えをとりながら深呼吸をしはじめた。
 意識を集中させ、視覚ではなく聴覚で俺の位置を探るつもりだろうな。
 やはり警戒していて正解だ。

 俺はそう思いながら、その場に留まる・・・・・・・
 だが直後イアンは目を見開き、刀を右斜め上に向かって振り上げる。
 するとその刀の軌道をなぞるかのように突如斬撃が現れ、物凄い勢いで俺に向かって飛んでくる。

 そしてその斬撃は、俺の左斜め上を紙一重で通り過ぎていく。
 やはりどうやってかはわからないが、斬撃を飛ばしているみたいだな。
 にしても……ギリギリ、といったところか。

「例え視界を奪おうとも、俺はお前の位置を知る術を持っている。今のも外したのではなく、わざと当てなかったんだ」
「でしょうね。貴方は俺なんかよりも断然強い」
「わかってるなら降参しろ」
「……それは出来ません。俺にも目的があり、それを達成するためには貴方の力が必要だと、戦った事で再認識しました」
「だからそれに関しちゃ……」
「ですが大丈夫です」

 俺はイアンの言葉を遮るように、自信を持ってそう断言した。
 その言葉に、イアンは眉をひそめる。

「……何が大丈夫だと言うんだ?」
「貴方が先程攻撃してくれたお陰で、勝つ算段が立ちました。もう貴方の攻撃は俺に当たりません」

 俺は冷静に、さも事実であるかのようにそう言う。
 勝つ算段が立ったのは事実だが、イアンの攻撃が当たらないというのは半分が嘘だ。

 実際は、飛ばしてくる斬撃はかわす事が出来るが、刀自体による攻撃は高確率でかわす事が出来ない。
 なので俺としては、今のイアンとの距離を維持しつつ戦うのが勝つための必須条件。

 逆に距離を詰められてしまえば、俺の負けは濃厚になる。
 その事に気づかれずに戦えさえすれば、俺の勝ちはほぼ確定だ!

「挑発しているつもりか? まぁどちらにしても面白い事を言う。先程まで反応すら出来ていなかったのに、もう攻撃は当たらないだと? 良いだろう、その挑発に乗ってやる! その代わりにどうなろうと自己責任だぞ!」

 イアンは嬉しそうにそう叫ぶと、居合の構えをとる。
 挑発とわかって尚それに乗ってくれるとは……余裕からか、それとも声音通り楽しんでいるからなのかは知らないが、どちらにしても俺としては大助かりだ。

 俺はそう考えながら目をつぶり、自身に伝わってくる感覚・・・・・・・・に集中する。
 するとイアンは先程と同じように、刀を右斜め上に向かって物凄い勢いで振り抜く。
 勿論その刀の軌道をなぞるように斬撃が現れ、俺に向かって飛んでくる。

 ……俺の左肩を狙った攻撃か。
 と言うか本当にイアンから俺は見えてないのか? と疑いたくなるぐらい正確に俺を狙ってるだろ。

 仮に攻撃が当たったとしても左肩なら致命傷にはならないだろうし、利き手でもない。
 まずは本当に攻撃が当たらないかの確認、と言ったところか。
 俺は冷静にそう考えながら左肩を後ろにそらし、飛んできた斬撃を紙一重でかわす。

 にしてもこの感覚……慣れるのにはもう少し時間がかかりそうだな。
 この内の全ての感覚・・ではなく、イアンに関する感覚・・に絞っていたのは正解だろうな。

 そうでなければ、情報過多で今頃頭がパンクしていただろう。
 だが後々は全ての情報を的確に処理できるようにならなければな。
 俺はそう思いながら、自信で生み出したの凄さを実感する。

 このは言わば、感覚の拡張と言ったところなのだ。
 この内にある全てを感じとり、全てを把握する。
 それがこの神器により創造うみだした霧の力なのだ。

 そしてその力を利用し、イアンの斬撃が現れたと同時に軌道を予測し、回避する。
 しかし、今の俺ではそこまでしてもギリギリ回避する事が出来るだけで、全く持って余裕がある訳ではない。

「どうやら本当にかわせるようだな。一体どんな手を使った?」
「流石にそれを教える事は出来ませんよ。今の俺の切り札みたいなものですからね」
「まぁ、それが普通だろうな。だがどうする? 俺の攻撃をいくらかわせようと、俺に攻撃を当てられなければ意味は無いぞ? それどころか持久戦になれば不利なのは坊主の方じゃないのか?」

 イアンはどこか自信ありげにそう言ってきた。
 確かにイアンの言う通り、持久戦になればこちらが不利だ。
 何せ今の俺ではこの霧を長時間維持する事は無理みたいだからな。

 現に徐々にではあるが霧の範囲が狭くなっていっている。
 恐らくもって数分……だが数分もあれば十分だ!
 イアンに今置かれている状況を正確に理解さえさせれば、イアン自ら降参してくれるだろう。
 
 それが最も安全で、最も確実で完璧な結果だろう。
 仮にそうならなかったら……その時は多少のリスクを負う必要があるだろうな。

「確かにそうですね。ですが貴方は一つ勘違いしているみたいです」
「勘違い?」
「はい。俺は別に貴方に有効な攻撃手段を持っていない訳じゃないという事です」
「なにを……」

 俺はイアンが何かを言い切る前に攻撃を仕掛ける。
 次の瞬間には俺の攻撃は見事イアンの右頬をかすめ、イアンの右頬からは血がしたたる。

「そう言う事か……この霧を展開された時点で、詰みに近かったという事か」

 イアンは右頬をしたたる血を拭いながら、どこか嬉しそうにそうつぶやく。
 俺の行った攻撃とは至ってシンプルだ。
 周囲の霧を少量一カ所に集め米粒大の水にし、それを現在俺が出せる最高速度でイアンに向かって放つ。

 たったそれだけの事。
 たったそれだけの事ではあるが、これは絶大な威力を誇る。
 例えイアンの刀で受けられたとしても、この攻撃はその刀すらも貫いてしまうだろう。

 これは所謂ウォータージェット呼ばれているものとほぼ同じものと言っていいだろう。
 しかしこちらも、今の俺では米粒大の水でしか繰りだす事が出来ない。

 米粒大の水を複数同時や連続してなら可能だが、実際のウォータージェットのように継続して出し続けるのは無理だ。

 にしてもイアンは今の攻撃が見えていたという事か?
 でなければ今の攻撃がこの霧と関係しているなど、そうそう考えないはずだ。
 だが今はどちらにしても、イアンは俺の攻撃に反応できなかった。
 その事実だけを受け止め、事を進めるべきだ!

「わかっていただけましたか。では、今度は俺から言わせていただきます。降参してください」
「まさか手加減しているとはいえ、俺がここまで追いつめられるとは……坊主、お前本当に子供か? いくら神器の契約者とは言え、流石にすぐさまこれ程契約武具を扱える奴はまずいない。明らかに異常だぞ、お前」
「誉め言葉と受けとっておきます」

 俺は一瞬イアンの言葉にドキッとしたが、出来るだけそれを表に出さないよう、平静を装いながらそう言う。

 実際俺は中身は子供という訳じゃないからな。
 まぁ、俺としては誰かにそれを話すつもりは無い訳だが。

「それで? 降参してくださいますか? 俺としては貴方には出来るだけ無傷で居ていただきたいんですが?」
「無傷……か。なるほど。だから先程の攻撃はかすり傷程度で済んだって訳か」
「その程度の傷であれば今後の行動にも支障はないでしょうから、ほぼ無傷だと言っても過言じゃないですからね」
「それを言うのは俺の方だと思うんだが……まぁいい」
「では?」
「あぁ。いいぞ、合格だ。お前に協力すると約束してやる」

 イアンはどこか満足げにそう言う。
 よっし!

「と言うか、俺としてはお前がこの霧を展開する前から協力する気だったんだがな」
「え!? それはどいう事ですか?」
「いや、俺は本気の模擬戦をしろとは言ったが、勝たなければ協力しないとは言ってないぞ? 俺としては坊主の人間性を知りたかっただけだ。それを知るのに一番手っ取り早いのが模擬戦だった。ただそれだけの話だ」

 はい?
 つまりは、イアンが俺に降参するように言った時に降参していても協力してくれていたって事か?

 じゃぁここまで必死に頑張った俺の努力は何だったんだ!?
 無駄な頑張りだったって事か?
 俺はそう思いながら深いためため息をつきながら膝をつく。

 それと同時に、周囲に展開していた霧が解除される。

「……だが俺としてはいいものを見れた。坊主、お前の今後の成長が楽しみだ」

 イアンは小声でそうつぶやく。
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