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第12話 盗み聞き
しおりを挟む目的地である丘に到着したのは予定時刻の一時間前だった。
「ここで降りてよかったのか?」
「うん。ここが指定された場所なんだよね」
「んならいいんだけどよ」
ガルドさんの心配はごもっとも。さほど街から離れていないこの丘は、二つある丘のうち高い方。街に近い、低い丘からは街に向かって畑が広がっていて、街まで遮るモノがない。つまり、街から丸見えなのだ。
ココから街を目視出来るくらいだ、龍化したグレンの大きさを考えると、私達が到着したことは確実に分かっていることでしょう。
丘とは聞いていたけど、ここまで見通しのいい丘だとは予想外。本来なら一時間もかからないって言ってたし、ジュードさんのおかげで機嫌よかったし、車とは違ってスピード調整難しいんだろうな……早すぎるって怒られないことを願おう。
「セナっちー、皮剥きは終わってるからすぐに作れるけど、作っちゃっていいのー?」
「んー、お昼分だけだと早いご飯になりそうだから、作り置き用のも作っちゃおうかな」
「あ、なら、久しぶりに魚食べたいなー。いいー?」
「いいね!」
ジルには引き続き書類チェックをお願いし、グレンとガルドさん達にはバドミントンモドキ、ネラース達にはボールを渡しておいた。
いつもお肉ばっかりリクエストされるから、魚のリクエストは嬉しい。嬉しすぎてちょっと作りすぎた気もする。
今日のメニューは、ジュードさん作の野菜コロッケ、人参の豚肉巻き、ジャーマンポテト、お味噌汁。私作のアマゴの南蛮漬け、ニジマスの干物、お刺身の盛り合わせである。
作り置きって話だったのに、リクエストしただけあってジュードさんが「やっぱ今日食べたいなー」って。その代わり、ジュードさんが作った人参しりしり、じゃが芋のチーズ焼き、人参とゴボウのきんぴらの三品は無限収納へと仕舞われた。
〈セナ、おかわり!〉
「もう? 早くない?」
〈コレはシラコメが進む〉
「あぁ、こっちの刺し身ってやつもうめぇ。特に右側の白いやつ」
「オレっちはこのサッパリしたやつー」
「強いて選ぶとするなら、自分はジンベリの木のすりおろしとネギ草が載ったやつですかね」
「……全部美味しいけど……ピンクの……」
グレンが指差したのは干物。ガルドさんは平目の刺し身、ジュードさんは南蛮漬け、モルトさんは鰯の刺し身、コルトさんは金目鯛の刺し身が気に入ったらしい。
お刺身率が高い。鮪がいないのが意外じゃない? そしてグレンが珍しくメインに肉じゃなくて魚を食べている。
ちなみに、ネラース達は『どれも好き』って。アクランは白熊なだけあって干物意外の魚料理をおかわりしていた。
ご飯も食べ終わり、腹ごなしにネラース達とフライングディスクで遊んでいると、街からお迎えと思われる騎士団員が馬に乗って来た。デカい男性と小柄な女性の二人。デカい男の人はニコやかだけど、女の人の方は眉間にシワを寄せている。
「騎士団長より命をうけてお迎えに上がりました。セナ様でしょうか?」
「はーい、私がセナです」
「全員のギルドカードを確認させていただきたい」
「どーぞ」
「…………確かに、本人のようだ。街まで案内する」
「お願いします」
声をかけてきたのは男性で、その後は女性の対応だった。性別だけ聞くと言葉遣いが逆な感じがするけど、表情を見ればとても一致している。女性の方が冷たい感じ。まぁ、男性は男性で二面性がありそうなニコニコなので、どのみちあんまり歓迎はされてなさそうだ。
女性の騎士、まともに見たの初めてだよ。キアーロ国、ジィジの国、ヴィルシル国……三つのお城ではチラッと見た程度。アーロンさんの国、シュグタイルハンなんているって話だったけど、一人も見かけなかった。
ネラース達には影に入ってもらい、グリネロを呼んで乗せてもらう。ネラース達の大きさチェンジは見せない方がいいってクラオルから注意が入ったからね。
雑談をすることもなく、彼らは馬を飛ばし、街までは二十分ほど。意外と距離があったみたい。
再度ギルドカードを掲示してから街の中へ。私達はそのまま領主邸へと案内された。街の中は人っ子一人出歩いていなくて、グリネロに乗ったままで大丈夫だった。
領主邸は装飾などは施されておらず、貴族らしさがない。っていうか街全体がシュグタイルハンほどじゃないものの、無骨な雰囲気なんだよね。
男性騎士がドアノッカーを鳴らすと、すぐに内側からドアが開けられた。
正面に立っていたのは、ボブヘアで意志の強そうな瞳を持った、二十代後半に見える女性。ドレス姿ではなく、動きやすそうな冒険者みたいな服装だった。
腰に片手剣を携えているし、護衛に雇われ冒険者かな?
「セナ様方御一行をお連れしました。こちらの男性がドラゴンだそうです」
「ご苦労。アレは解除だと通達してくれ。セナ様方は案内する」
そう告げ、すぐに踵を返して歩き出した女性の後を追う。無駄口叩いちゃいけない雰囲気だよ。
連れて行かれたのは応接室だった。片側のソファは二列。私達の人数に合わせて用意してくれていたみたい。
「そちら側に座ってくれ。……さて、私はこの街――パソヴァルの領主、サーシャ・グラフ。貴殿らの名前を聞いてもよいだろうか?」
雇われ冒険者じゃなかった。本人だった。勘違いして申し訳ない。
順番に自己紹介すると、「幼子とは聞いていたが、まさかここまで幼いとは……」って言われちゃった。
「この街はここ数年、ヴァリージェ国の情勢の煽りを受けている。今では国境から先は賊が多く潜み、商人などの荷馬車が襲われる事件が頻発していると報告を受けている。陛下より貴殿らは強いと聞いているが、よくよく準備をしていくことを勧める」
「あ、だから街に全然人がいなかったんですか?」
「いや、それは貴殿らがドラゴンで来訪すると聞いていたからだな。混乱させぬように近隣地域一体に外出禁止の措置を取った。先ほど解除したから、じきに平常に戻るだろう」
「え!? 超ごめんなさい!」
玄関のところで言ってたアレってやつか! まさかそんな大掛かりな対策を取られているとは思ってなかったよ。だから外の街道も人が全く通らなかったのね。納得。仕事にならないじゃん。街の人も冒険者もマジでごめん。
ガバッと頭を下げた私にグラフさんは虚をつかれたように目を丸くした。
「…………フハハハッ! 本当に平民のようなのだな。この街ではたまにあることだ、気にしなくていい」
「たまに……近くにドラゴンが生息してるんですか?」
「そうではない。既知だと思うが、この街は国境がほど近い。高く切り立った山々の間に街道と関所ある。正規で入国出来ない者――所謂、賊や犯罪者だな。そいつらが危険な山を越えてまで不法に入国してくることがある。近隣で略奪行為などが発覚した場合、街から出ないように通達している。魔物の場合も同様だ」
「……なるほど」
でもそれは街から出ちゃダメなだけで、家からの外出禁止じゃなくない? とは思ったものの、あまり深堀りすると申し訳なさが倍増しそうだ。気にするなって言葉に甘えてしまおう。
「えっと、グラフさん」
「あぁ、サーシャでいい。その代わり、私も名前で呼ばせてもらおう。それに話しやすい口調で大丈夫だ。私もこうだからな」
「あ、うん。ありがとう。質問してもいい?」
「あぁ」
許可を得たので、街の特産品や物価、この辺の魔物の種類や強さ……隣国――問題のヴァリージェ国と、海に面したキューマレ国の情勢などなど。
思いつくままに質問を重ね、ざっくりとした概要は理解できた。
国境に位置する切り立った山は危険度からあまり人が立ち入れない。その点では人の脅威は街道に集中しているが、魔物はそうもいかない。さらに、ここ数年のヴァリージェ国の情勢のせいで、流れてきた人達が山に立ち入るようになり、魔物が以前よりも降りてくるようになった。
賊や犯罪者、流れ者、魔物……問題が起きれば、基本的には騎士団が派遣される。
先日には賊と魔物の戦闘で山崩れも起きたらしい。だから騎士団もピリピリしているんだそうだ。
迎えの騎士の態度は「なんで大変なときに旅行者の相手をせにゃならんのだ」ってところかな?
サーシャさんは祖父と母親が元冒険者だそうで、本人も魔物との戦闘に参加することもあるんだって。
私達の早い到着もわかっていたけど、アデトア君が「到着後に昼食にするらしい」って伝えてくれていたみたいで、それに合わせて迎えを寄こしてくれたんだそう。
アデトア君が「おそらくになるが、セナは気にいると思うぞ」って言っていた理由がわかった。考え方が柔軟で、貴族っぽくないからとても話しやすい人である。
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