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第8話 神器
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俺が神父に案内された席は、最前列の中央の席。
しかも長椅子なのに俺以外誰も座っていないという、まさに特別扱い。
正直こういうのは目立って仕方ないから嫌なんだよな。
現に神父服の人達が色々と準備を進めているのに、やたらと後ろから視線を感じるからな。
この中にもしかしたら俺の命を狙っている人間がいるかもしれないと思うと、俺も安心して神父たちの準備を見ている事など出来るはずがない。
と言っても、警戒したところでそう言った訓練を受けたわけではない俺ではたかが知れているがな。
しないよりは幾分かましだろう。
「……それでは、契約の儀式を始めていきたいと思います」
俺がそんな事を考えている間に準備が整ったらしく、先程トレス・ルーツと名乗った男性がゆっくりと優しくそう言った。
「まずは殿下、こちらに来ていただけますか?」
男性は続けて、俺の方を見ながらそう言った。
俺が最初にやるって事か?
ここに来たのは最後の方……と言うか一番最後だったんだけどな。
これも王族ゆえの特別待遇という奴だろうか?
だが正直助かる。
どうせ失敗するとわかっているなら、早い方が良い。
その方がまだ記憶に残りにくいかもしれないからな。
自分達の契約の事を気にしている最初ならな。
とは言っても、残りにくいだけで忘れられることはないだろう……
ここはお言葉に甘えさせてもらおう。
「わかりました」
俺はそう言って立ち上がり、ルーツさんの元まで歩いていく。
そうすれば先程までは気づかなかったが、ルーツさんの足元近くには大きな幾何学模様が描かれていた。
これが、契約の儀式に使う契約陣。
なんと言うか魔法陣にしか見えないのは、俺に前世の記憶があり、そう言ったものを知っているからだろうか?
「殿下。契約の儀式の進め方は知っておいでですか?」
「はい」
「やはりそうでしたか。手本として貴方を選んだのは間違っていなかったようですね」
なるほどな。
王族ゆえの特別待遇ではなく、説明をある程度省略する為の例として俺を選んだと……
この人案外俺を王族だからと特別視してないかもしれないな。
まぁ~、神父であるならそうでなければならないのかもしれないが、俺としては好感が持てる。
「では我々は儀式の準備と契約陣の安定化を行いますので、殿下は陣の中央で少しお待ちいただけますか?」
「わかりました」
俺はルーツさんの言葉にそう答えてから、地面に描かれてた契約陣の中央に移動する。
契約陣の周囲には神父服を着た人間が四方に一人ずつと、前後に一人ずつの計六人居る。
確か四方に居る人達は契約陣を安定化し、出来るだけ契約武具が暴走しないようにする役目を担い、前後の二人はもしも契約武具に精神を乗っ取られた場合の対処を担っている、だったか?
それで確か準備が整うと……こうして光始める。
俺がそう考えた直後、足元の幾何学模様がゆっくりと少しずつ光始めた。
そして数分もしないうちに幾何学模様は全体が青白く光り輝いた。
と言っても目をそらしてしまう程強い光ではない。
俺は全体が光ったのを見てから、ルーツさんへと視線をやる。
するとルーツさんは無言で、大丈夫だというように頷いてくれた。
俺はそれを確認してからその場で屈み、地面に右手をつける。
すると地面につけた指先、手、手首、腕の順に、俺の体が徐々に光始める。
やがてその光は体全体へと広がる。
話には聞いていたことなので特に驚きはない。
だが話に聞くのと実際に体験するのとではやはり違う。
体が光るのは知ってたが、その光が温かいのは知らなかったからな。
しかしこれも長くは続かないだろう。
何せこの先の段階には契約武具と契約できないものは進めないからな。
俺は既にあの《木刀》と契約してる。
契約武具は強力な物であるが、そのため誰でも手に入れられるものではない。
とは言え、大半の人間は手に入れる事が出来る。
逆に手に入れられない人間の方が少ないぐらいだ。
そしてその契約武具には一つ、絶対に覆らない理が存在する。
それは一人の人間に契約武具は一つしか契約できないというものだ。
これは如何なる事が起ころうとも覆ることがない理……なのだそうだ。
何でも契約武具と契約した人間は、契約の儀式を行おうとすれば契約陣から弾かれるらしい。
実際の所どのように弾かれるのかは曖昧で詳しくはわからない。
もし契約陣から弾き飛ばされるとかだったら、どう言訳しよう……
いや事実として契約武具と契約してるから言訳の余地何て無いんだけどな。
あぁ~、もっと前から言訳を考えておくんだった。
俺がそう思っていると、光っていた体の光が突如右手に収束し始めた。
「えっ!?」
俺はすぐさま周囲の人たちの顔色をうかがう。
良かった。
どうやら周りの人達には聞こえてなかったみたいだな。
あまりに驚き過ぎてつい言葉が出てしまった。
何せ体の光が一カ所に収束するのは、契約が遂行されようとしている証だからだ。
つまり俺は今、二つ目の契約武具と契約がなされようとしているという事になる。
俺がそう考えている間にも、儀式は否応なく進んで行く。
地面で光っていた幾何学模様が一点に収束し、そしてその光が拳大の球体サイズになり、俺の目線の高さにまで浮かび上がる。
浮かび上がった球体はグニャグニャと形を変え、やがて剣のような形へと変わっていった。
だが完全に剣の形へと変わった瞬間、光の強さが目を開けていられない程のものへと変化した。
「こ、これは!!」
「この輝きは、まごうことなき……神器!!」
「おぉぉぉ!!」
そんな声が光の強さが変わったと同時に周囲から聞こえてきた。
……契約武具は大きく分けると、二種類しか存在しない。
それは神器か、そうではないかの二種類だ。
その二種類のどちらなのかを判断できるのは契約完了間際。
浮かび上がった光の強さが変わるか変わらないかによってしか、判断することは出来ない。
そして俺は光の強さが変わった。
本来既に契約武具と契約しているため、契約できないはずの俺が……
考えられる可能性は、俺の特殊性しかないだろう。
転生者
本などを使って少し調べてはみたが、転生者らしき人物やそれに類似しそうな出来事は無かった。
なので俺はこの世界には俺以外に転生者が居ないと現状は結論付けていえる。
これは転生による特典の続ぎのようなものじゃないのか?
しかし転生するあの時に、それらしい事は何も言われていない。
だがそれ以外に考えられる可能性はほぼない。
あるとすれば、一人の人間は一つの契約武具としか契約できないという事がそもそも間違っていた、という事ぐらいだろう。
どちらにしてもとりあえず、この光ではゆっくり思考する事も出来ないな。
俺はそう思いながら右手を地面から離し、剣の形をした光が浮いていると思われる場所に伸ばす。
すると俺の手が光ふれた瞬間、今まで強く光っていた光が、まるで凝縮されるかのように一瞬で剣の形をしたものに収束した。
だが次の瞬間剣の形をした光の表面が、ピキ、と音をたててひび割れた。
そのひび割れは瞬く間に全体に広がり、反応する間もなく粉々に砕け散った。
そしてその場には、剣身に白・緑・青、柄に黒色の綺麗な水晶のようなものがはめ込まれた剣が浮いていた。
剣の形をした光、ではなく。
しっかりとした剣が、である。
《神殺し》
それと同時に、俺の頭の中にそんな言葉が浮かぶ。
神……殺し?
それがこの武具の名だという事が、何故だか直観的にわかる。
だが明らかに危険で、物騒な名前だ。
これは神を殺す武具だとでも言うのか?
しかし契約出来てしまったモノは仕方ない。
今はとりあえずしまっておいて、今後の事は後で考えよう。
神器と契約できたことで、今後かなり面倒な事になりそうだが、今は考えない。
後だ、後!
俺はそう考えながら、《神殺し》と思われる神器に向かって、戻れと念じてみる。
すると浮いていた剣は光の粒子となり、俺の右手の甲へと吸い込まれていった。
しかも長椅子なのに俺以外誰も座っていないという、まさに特別扱い。
正直こういうのは目立って仕方ないから嫌なんだよな。
現に神父服の人達が色々と準備を進めているのに、やたらと後ろから視線を感じるからな。
この中にもしかしたら俺の命を狙っている人間がいるかもしれないと思うと、俺も安心して神父たちの準備を見ている事など出来るはずがない。
と言っても、警戒したところでそう言った訓練を受けたわけではない俺ではたかが知れているがな。
しないよりは幾分かましだろう。
「……それでは、契約の儀式を始めていきたいと思います」
俺がそんな事を考えている間に準備が整ったらしく、先程トレス・ルーツと名乗った男性がゆっくりと優しくそう言った。
「まずは殿下、こちらに来ていただけますか?」
男性は続けて、俺の方を見ながらそう言った。
俺が最初にやるって事か?
ここに来たのは最後の方……と言うか一番最後だったんだけどな。
これも王族ゆえの特別待遇という奴だろうか?
だが正直助かる。
どうせ失敗するとわかっているなら、早い方が良い。
その方がまだ記憶に残りにくいかもしれないからな。
自分達の契約の事を気にしている最初ならな。
とは言っても、残りにくいだけで忘れられることはないだろう……
ここはお言葉に甘えさせてもらおう。
「わかりました」
俺はそう言って立ち上がり、ルーツさんの元まで歩いていく。
そうすれば先程までは気づかなかったが、ルーツさんの足元近くには大きな幾何学模様が描かれていた。
これが、契約の儀式に使う契約陣。
なんと言うか魔法陣にしか見えないのは、俺に前世の記憶があり、そう言ったものを知っているからだろうか?
「殿下。契約の儀式の進め方は知っておいでですか?」
「はい」
「やはりそうでしたか。手本として貴方を選んだのは間違っていなかったようですね」
なるほどな。
王族ゆえの特別待遇ではなく、説明をある程度省略する為の例として俺を選んだと……
この人案外俺を王族だからと特別視してないかもしれないな。
まぁ~、神父であるならそうでなければならないのかもしれないが、俺としては好感が持てる。
「では我々は儀式の準備と契約陣の安定化を行いますので、殿下は陣の中央で少しお待ちいただけますか?」
「わかりました」
俺はルーツさんの言葉にそう答えてから、地面に描かれてた契約陣の中央に移動する。
契約陣の周囲には神父服を着た人間が四方に一人ずつと、前後に一人ずつの計六人居る。
確か四方に居る人達は契約陣を安定化し、出来るだけ契約武具が暴走しないようにする役目を担い、前後の二人はもしも契約武具に精神を乗っ取られた場合の対処を担っている、だったか?
それで確か準備が整うと……こうして光始める。
俺がそう考えた直後、足元の幾何学模様がゆっくりと少しずつ光始めた。
そして数分もしないうちに幾何学模様は全体が青白く光り輝いた。
と言っても目をそらしてしまう程強い光ではない。
俺は全体が光ったのを見てから、ルーツさんへと視線をやる。
するとルーツさんは無言で、大丈夫だというように頷いてくれた。
俺はそれを確認してからその場で屈み、地面に右手をつける。
すると地面につけた指先、手、手首、腕の順に、俺の体が徐々に光始める。
やがてその光は体全体へと広がる。
話には聞いていたことなので特に驚きはない。
だが話に聞くのと実際に体験するのとではやはり違う。
体が光るのは知ってたが、その光が温かいのは知らなかったからな。
しかしこれも長くは続かないだろう。
何せこの先の段階には契約武具と契約できないものは進めないからな。
俺は既にあの《木刀》と契約してる。
契約武具は強力な物であるが、そのため誰でも手に入れられるものではない。
とは言え、大半の人間は手に入れる事が出来る。
逆に手に入れられない人間の方が少ないぐらいだ。
そしてその契約武具には一つ、絶対に覆らない理が存在する。
それは一人の人間に契約武具は一つしか契約できないというものだ。
これは如何なる事が起ころうとも覆ることがない理……なのだそうだ。
何でも契約武具と契約した人間は、契約の儀式を行おうとすれば契約陣から弾かれるらしい。
実際の所どのように弾かれるのかは曖昧で詳しくはわからない。
もし契約陣から弾き飛ばされるとかだったら、どう言訳しよう……
いや事実として契約武具と契約してるから言訳の余地何て無いんだけどな。
あぁ~、もっと前から言訳を考えておくんだった。
俺がそう思っていると、光っていた体の光が突如右手に収束し始めた。
「えっ!?」
俺はすぐさま周囲の人たちの顔色をうかがう。
良かった。
どうやら周りの人達には聞こえてなかったみたいだな。
あまりに驚き過ぎてつい言葉が出てしまった。
何せ体の光が一カ所に収束するのは、契約が遂行されようとしている証だからだ。
つまり俺は今、二つ目の契約武具と契約がなされようとしているという事になる。
俺がそう考えている間にも、儀式は否応なく進んで行く。
地面で光っていた幾何学模様が一点に収束し、そしてその光が拳大の球体サイズになり、俺の目線の高さにまで浮かび上がる。
浮かび上がった球体はグニャグニャと形を変え、やがて剣のような形へと変わっていった。
だが完全に剣の形へと変わった瞬間、光の強さが目を開けていられない程のものへと変化した。
「こ、これは!!」
「この輝きは、まごうことなき……神器!!」
「おぉぉぉ!!」
そんな声が光の強さが変わったと同時に周囲から聞こえてきた。
……契約武具は大きく分けると、二種類しか存在しない。
それは神器か、そうではないかの二種類だ。
その二種類のどちらなのかを判断できるのは契約完了間際。
浮かび上がった光の強さが変わるか変わらないかによってしか、判断することは出来ない。
そして俺は光の強さが変わった。
本来既に契約武具と契約しているため、契約できないはずの俺が……
考えられる可能性は、俺の特殊性しかないだろう。
転生者
本などを使って少し調べてはみたが、転生者らしき人物やそれに類似しそうな出来事は無かった。
なので俺はこの世界には俺以外に転生者が居ないと現状は結論付けていえる。
これは転生による特典の続ぎのようなものじゃないのか?
しかし転生するあの時に、それらしい事は何も言われていない。
だがそれ以外に考えられる可能性はほぼない。
あるとすれば、一人の人間は一つの契約武具としか契約できないという事がそもそも間違っていた、という事ぐらいだろう。
どちらにしてもとりあえず、この光ではゆっくり思考する事も出来ないな。
俺はそう思いながら右手を地面から離し、剣の形をした光が浮いていると思われる場所に伸ばす。
すると俺の手が光ふれた瞬間、今まで強く光っていた光が、まるで凝縮されるかのように一瞬で剣の形をしたものに収束した。
だが次の瞬間剣の形をした光の表面が、ピキ、と音をたててひび割れた。
そのひび割れは瞬く間に全体に広がり、反応する間もなく粉々に砕け散った。
そしてその場には、剣身に白・緑・青、柄に黒色の綺麗な水晶のようなものがはめ込まれた剣が浮いていた。
剣の形をした光、ではなく。
しっかりとした剣が、である。
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それと同時に、俺の頭の中にそんな言葉が浮かぶ。
神……殺し?
それがこの武具の名だという事が、何故だか直観的にわかる。
だが明らかに危険で、物騒な名前だ。
これは神を殺す武具だとでも言うのか?
しかし契約出来てしまったモノは仕方ない。
今はとりあえずしまっておいて、今後の事は後で考えよう。
神器と契約できたことで、今後かなり面倒な事になりそうだが、今は考えない。
後だ、後!
俺はそう考えながら、《神殺し》と思われる神器に向かって、戻れと念じてみる。
すると浮いていた剣は光の粒子となり、俺の右手の甲へと吸い込まれていった。
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