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三章
あずみ 2
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翌日。
修也が記憶堂に入った時、なんだか臭いと思った。
独特な鼻を突くような匂い。
強烈というわけではないが、なんだか臭うぞと感じる位に臭みがあった。
「龍臣君、何この臭い?」
「臭い?」
龍臣は首を傾げている。龍臣には感じないのだろうか。何度も鼻をヒクヒクさせているが、わからないようで不思議そうにしていた。
「鼻がマヒしているんじゃないの?」
そう言いながら奥まで来ると、階段下でピタッと足を止めた。
そして、ソロッと二階を見あげる。
「ねぇ、龍臣君。今日、あずみさんは起きて来たの?」
「いや? まだ起きてきていないよ」
そう言われるが、修也は顔をしかめた。
「どうした?」
「この臭い、二階からしている。凄く臭い」
「え?」
龍臣は階段下で修也の隣に立つがやはり何も感じない。
しかし修也は臭そうにしている。
「あずみさんに何かあったんじゃ……?」
そう言われて二階を覗きに行くが、あずみの姿はどこにも見当たらない。
まだ起きていないのだろう。起きていない時のあずみは記憶堂にいても姿も気配も感じられないのだ。
龍臣は修也に首を振るが、修也は険しい顔のままだ。
「やっぱりおかしい。最近のあずみさんの様子も変だし、この臭いといい、何かあったとしか思えないよ。龍臣君、心当たりない?」
そう言われて、龍臣は昨日のお婆さんの言葉を思い出した。
『黒くなってきている』
それはあずみの状態と関係があるのだろうか。
龍臣が最近のあずみの様子とお婆さんの話を修也にすると、修也も大きく頷いた。
「そうかもね。何かあるのかも……。あずみさんは今までとは何か違うもんな」
「……悪霊的なものになってきているってことなのか? あずみが?」
「可能性は否定できないよ。でもそれをどう本人に伝えるかだね」
龍臣はため息をついた。
自分で言っていて少なからずショックだった。
「そのお婆さんが言っていた、あずみさんが自分と同じような経験をしているって言葉も引っかかるね」
「あぁ。あずみが生きていた時に何かあったのかもな」
頷くと、二階からカタンと物音が聞こえた。
二人が振り返って階段の方を振り向くと、薄く透けている人影が見えた。あずみだ。
いや、一瞬あずみだとわかりにくいくらい、その姿はいつもと違った。
いつも一つにリボンで束ねている長い髪は下ろされていた。ボサボサの髪に、俯き加減でのっそりと降りてくる。
修也が息を飲んで龍臣の後ろに隠れた。
明らかにいつものあずみではない。
「あずみ……? どうした?」
龍臣は少しだけ後ずさりをしながら、階段を下りて俯いているあずみにそう声をかけた。
顔を上げてこちらを向いたあずみは、目を真っ赤にして泣きはらした顔をしている。しかしその表情からは感情が読み取れない。
無表情でこちらを見ている。
「あずみさん……?」
修也の声かけにも無反応だ。
そしてしばらく龍臣を見つめた後、ゆっくりと口を開いた。
「どうしてあの時、来てくれなかったの……?」
「え?」
あずみは一歩ずつ龍臣に向かって歩いて来る。
「私、ずっとあなたを待っていた。きっと迎えに来てくれるって、そう信じていた……。でも結局、あなたは来てくれなかったわ」
「あずみ、何の話をしているんだ?」
あずみにそう問いかけるが、その眼は龍臣を見ながらも『他の誰か』を見ているようだ。
また混同しているのだろうか。
いつも、龍臣を通して見ている誰かと。
「あずみ僕は龍臣だよ。僕には君の話がわからない」
「嘘を言わないで。言い訳なんて聞きたくないわ!」
龍臣の言葉を遮るようにあずみは声高く叫んだ。
「あんなに愛していたのに! どうして!」
あずみが大きな声で叫んだと同時に、あずみから大きな風が巻き起こった。
「うわっ」
修也がたまらず龍臣の服を掴む。
以前、怒った時に巻き起こした風とはまた違う。もっとあずみの身体から発せられるような強い風だ。
「やめろ、あずみ!」
そう叫ぶが、あずみには届いていない。
店がガタガタと大きく揺れ、あらゆる本が巻き上げられている。あずみに近寄ろうにも、風で押されて側にいけない。
「龍臣君、どうしよう! あずみさんには俺たちの声も姿も見えていないんだよ。違う人が見えているみたいだ」
後ろから修也に言われ、龍臣も同意を込めて頷く。
しかし、あずみから発せられるエネルギーがすさまじく、龍臣達は圧倒されるばかりだ。
店の外に目を向けるが、通行人はこちらの様子に気が付いていない。
つまりは外からは何も変わりないように見えているのかもしれなかった。ということは、外部からの助けは求められない。
どうしたらいい?
そう思うが、とりあえずあずみを落ち着かせなければならない。
龍臣は押される体を無理やり動かして、少しでもあずみに近寄ろうとした。
あずみの悲痛なエネルギーに腕や身体がビリビリとしびれる感じを受けながら、必死に手を伸ばした。
そして、やっとあずみの腕に触れた。
その瞬間。
触れたところから眩い光が発せられ、辺り一面、明るい光に包まれた。龍臣は一気に視界が奪われ、たまらず目を強く閉じた。
修也が記憶堂に入った時、なんだか臭いと思った。
独特な鼻を突くような匂い。
強烈というわけではないが、なんだか臭うぞと感じる位に臭みがあった。
「龍臣君、何この臭い?」
「臭い?」
龍臣は首を傾げている。龍臣には感じないのだろうか。何度も鼻をヒクヒクさせているが、わからないようで不思議そうにしていた。
「鼻がマヒしているんじゃないの?」
そう言いながら奥まで来ると、階段下でピタッと足を止めた。
そして、ソロッと二階を見あげる。
「ねぇ、龍臣君。今日、あずみさんは起きて来たの?」
「いや? まだ起きてきていないよ」
そう言われるが、修也は顔をしかめた。
「どうした?」
「この臭い、二階からしている。凄く臭い」
「え?」
龍臣は階段下で修也の隣に立つがやはり何も感じない。
しかし修也は臭そうにしている。
「あずみさんに何かあったんじゃ……?」
そう言われて二階を覗きに行くが、あずみの姿はどこにも見当たらない。
まだ起きていないのだろう。起きていない時のあずみは記憶堂にいても姿も気配も感じられないのだ。
龍臣は修也に首を振るが、修也は険しい顔のままだ。
「やっぱりおかしい。最近のあずみさんの様子も変だし、この臭いといい、何かあったとしか思えないよ。龍臣君、心当たりない?」
そう言われて、龍臣は昨日のお婆さんの言葉を思い出した。
『黒くなってきている』
それはあずみの状態と関係があるのだろうか。
龍臣が最近のあずみの様子とお婆さんの話を修也にすると、修也も大きく頷いた。
「そうかもね。何かあるのかも……。あずみさんは今までとは何か違うもんな」
「……悪霊的なものになってきているってことなのか? あずみが?」
「可能性は否定できないよ。でもそれをどう本人に伝えるかだね」
龍臣はため息をついた。
自分で言っていて少なからずショックだった。
「そのお婆さんが言っていた、あずみさんが自分と同じような経験をしているって言葉も引っかかるね」
「あぁ。あずみが生きていた時に何かあったのかもな」
頷くと、二階からカタンと物音が聞こえた。
二人が振り返って階段の方を振り向くと、薄く透けている人影が見えた。あずみだ。
いや、一瞬あずみだとわかりにくいくらい、その姿はいつもと違った。
いつも一つにリボンで束ねている長い髪は下ろされていた。ボサボサの髪に、俯き加減でのっそりと降りてくる。
修也が息を飲んで龍臣の後ろに隠れた。
明らかにいつものあずみではない。
「あずみ……? どうした?」
龍臣は少しだけ後ずさりをしながら、階段を下りて俯いているあずみにそう声をかけた。
顔を上げてこちらを向いたあずみは、目を真っ赤にして泣きはらした顔をしている。しかしその表情からは感情が読み取れない。
無表情でこちらを見ている。
「あずみさん……?」
修也の声かけにも無反応だ。
そしてしばらく龍臣を見つめた後、ゆっくりと口を開いた。
「どうしてあの時、来てくれなかったの……?」
「え?」
あずみは一歩ずつ龍臣に向かって歩いて来る。
「私、ずっとあなたを待っていた。きっと迎えに来てくれるって、そう信じていた……。でも結局、あなたは来てくれなかったわ」
「あずみ、何の話をしているんだ?」
あずみにそう問いかけるが、その眼は龍臣を見ながらも『他の誰か』を見ているようだ。
また混同しているのだろうか。
いつも、龍臣を通して見ている誰かと。
「あずみ僕は龍臣だよ。僕には君の話がわからない」
「嘘を言わないで。言い訳なんて聞きたくないわ!」
龍臣の言葉を遮るようにあずみは声高く叫んだ。
「あんなに愛していたのに! どうして!」
あずみが大きな声で叫んだと同時に、あずみから大きな風が巻き起こった。
「うわっ」
修也がたまらず龍臣の服を掴む。
以前、怒った時に巻き起こした風とはまた違う。もっとあずみの身体から発せられるような強い風だ。
「やめろ、あずみ!」
そう叫ぶが、あずみには届いていない。
店がガタガタと大きく揺れ、あらゆる本が巻き上げられている。あずみに近寄ろうにも、風で押されて側にいけない。
「龍臣君、どうしよう! あずみさんには俺たちの声も姿も見えていないんだよ。違う人が見えているみたいだ」
後ろから修也に言われ、龍臣も同意を込めて頷く。
しかし、あずみから発せられるエネルギーがすさまじく、龍臣達は圧倒されるばかりだ。
店の外に目を向けるが、通行人はこちらの様子に気が付いていない。
つまりは外からは何も変わりないように見えているのかもしれなかった。ということは、外部からの助けは求められない。
どうしたらいい?
そう思うが、とりあえずあずみを落ち着かせなければならない。
龍臣は押される体を無理やり動かして、少しでもあずみに近寄ろうとした。
あずみの悲痛なエネルギーに腕や身体がビリビリとしびれる感じを受けながら、必死に手を伸ばした。
そして、やっとあずみの腕に触れた。
その瞬間。
触れたところから眩い光が発せられ、辺り一面、明るい光に包まれた。龍臣は一気に視界が奪われ、たまらず目を強く閉じた。
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