悪魔の生贄は花嫁になりました

佐倉ミズキ

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9. さてどうしようか~ゼノア視点~

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村が騒がしいなということはゼノアも感じていた。
自分が悪魔様と呼ばれ、神のような畏怖のような対象となっているのは知っていたので、今さら襲撃されることはないだろう。

だが、どうも動きが怪しい。

ゼノアがそう思っていると、村の方で動きがあった。
洞窟を出て空から様子を眺めていると、やせ細った少女が手作りの輿に乗せられ村人と共にこちらへやってきている。

「……これは久々だな」

どうみても生贄だ。
そういえば村は夏の暑さのせいで作物が取れずに飢饉に陥っていた。何千年も昔、村の飢饉は洞窟に住む悪魔を怒らせたからだと言って生贄を差し出す風習があった。
ゼノア達の種族はその当時は人間を食べることもあったが、今はもうそんなことはしない。時代と共にゼノア達も変わるのだ。

しかし、言い伝えを忠実に守る村人たちは痩せた少女を生贄にして飢饉を何とかしてもらおうと思っているらしい。

「飢饉なんて天候のせいだ。生贄なんか差し出したところで俺にはどうにもできないのにな」

呆れたようにゼノアが呟く。

だがしかし、彼らの前に降り立って追い返すというわけにもいかない。
気安く人間に姿を見せたくはないのだ。

さてどうしよう。

少女は見たところ10代半ば。家が貧しいのか孤児なのか、やせ細って顔色も悪い。薄い服を着せられて震えている。村人に置いていかれ、洞窟の中で震えながら死を待つ姿に少しばかり胸が痛んだ。
取って食いはしない。ただこのままここに居るとこの少女は死んでしまう。

ただ小柄な彼女の前に、自分のような背も高く威圧感のある男が現れたらますます恐怖を与えてしまうだろう。

「仕方がないな」

ゼノアは魔法で自身を小さな子供の姿に変えた。
少女が洞窟に入った時に、一瞬彼女の中の記憶が見えた。どうやら孤児院で幼い子供たちと過ごしていたらしい。それならば、子供の姿の方が怖さは和らぐだろう。

そして、そのまま村に帰ってもらおう。悪魔様に帰れと言われたから帰ったということにすればひどい目にあわされることはないだろう。
ゼノアは能天気にそんなことを考えた。

今にも息を引き取りそうになっている少女の側に降り立つ。

「……へぇ」

よく見るととても綺麗な顔立ちをしている。痩せこけているが、ちゃんとしたらそれなりに可愛いだろう。だが頬は汚れ、髪はぼさぼさ。彼女の育った環境がそう見せなかったようだ。

「かぁわいい」

思わず小さな呟きが漏れる。
でも、その幼さが残る面影に小さく舌打ちをする。見た目よりもずっと幼く感じる。いや、彼女自身がそうさせているのか?

すると、少女は目を閉じてそのまま闇に手を伸ばそうとした。

全く、そう簡単にあきらめるなっつうの。

目の前に降り立って、わざと憎たらしい口調で話す。

「今度の生贄は子供じゃねぇか」

すると少女はパッと目を開ける。
ここに似つかわしくない子供の高い声に、どこか生意気そうな声。彼女のなつかしさを刺激したようだ。
ゼノアを見つめる目はキラキラと輝いていて美しい。ハッと息を飲みこむほどだ。

これは……。

ゼノアは思わずつばを飲み込む。
ゼノアの種族は人を食べない。でも、純粋に「美味しそうだ」と感じた。それは食としてではなく……。

ハァとため息が出る。何を考えているんだ。バカバカしい。
こちらを食い入るように見つめる少女に苦笑した。

「生贄なんて100年ぶりくらいだぜ」

さて、どうしようか。
村に返すのは前提だが、どうにも惜しい。自分の思考に呆れながら前髪をクシャとする。

「ようこそ、悪魔の洞窟へ」

ゼノアがニヤッと微笑むと、少女の瞳が大きく揺れた。



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