公爵家の赤髪の美姫は隣国王子に溺愛される

16. 次の手立て

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「私の言葉とこの一介の大臣の言葉、陛下はどちらを信じるおつもりですか！？」

クラウの毅然とした声は謁見の間に響き渡る。
その声は冷静でありながらも怒りがにじんでいた。
謁見の場にいた誰もが、クラウの静かな怒りに息を飲んだ。

クラウの後ろにはフェルズ、ミア、ハザンが控えていた。
ミアがクラウと合流した後、フェルズがハザンを見つけ、どうにか騒ぎを押さえたのだ。
そしてすぐさま国王と面会を申し立て、フェルズとハザンがミアを守る形で今この場にいたのだった。

「しかしジルズの言う通り、ミアは毒を盛って反対派を押さえこみ自分に有利になるよう仕向けていた。それは事実なんだぞ」

国王の言葉にクラウは首を振った。

「事実じゃないからこういうことになっているんでしょう！？　そもそも陛下は私とミアの結婚に賛成でしたよね？　私が半年かけてミアという人物を調べ上げ申し上げた。ここにきてミアがそういうことをする人間ではないとわかっていらっしゃるはずだ！」
「お前が調べたことが全て事実だとは限らない。人間、心の中に何を飼っているかわからないものだ。クラウ、お前はやはり当初のとおりこの国の人間と結婚してもらう」

国王がそう言うと、側に控えていたジルズが笑った。

「でしたら当初の予定通り私の娘がよろしいでしょう」

その言葉に国王も頷く。
クラウはそんな国王の姿に違和感を感じ、眉をひそめた。
そして側に控えるフェルズに耳打ちする。

「フェルズ……、陛下の様子が変だ。目もうつろだし、そもそもこんな意見に簡単に流されるタイプではない。事実確認もあいまいだ……。何か飲まされているのかもしれないな」
「すぐに調べるよう手配いたします」

フェルズは身をかがめるとサッと場を離れ、奥に控えていた自分の部下に耳打ちをした。
そして部下は頷くと部屋を出て行く。
国王は凛とした人で、自分の信念を持っているタイプだ。
一介の大臣の言葉に初めは耳を傾けただろうが、その後、裏付けもなくろくに調べもせずにその発言だけで全てを信じるような人ではなかった。
現に国王の様子や言葉に、他の大臣や近衛兵も眉をひそめている。

「陛下、この件についてまだきちんと調べがついていないと聞きました。ミアが地下牢へ行くのもこの調べがついてからで良いのではないでしょうか？」

国王はぐっと言葉に詰まる。
判断できない様子だ。
その様子にもクラウはおかしいと感じた。
こんなことで判断ができないような人ではない。

「駄目ですよ。陛下、そう言ってミア様を逃がす寸法かもしれません！」
「あぁ、そうだな――……」
「そうしましたら！」

国王がジルズの意見に流されそうになった時、クラウは大きな声でそれを遮った。

「ミアを自室に閉じ込めて見張りを立てればよろしいでしょう。扉の外と窓の外に警備を手厚くし、逃げられないようにすればいい。もちろん私もハザンも近寄りません。そうしたらこの娘一人では逃げることは不可能です！」
「しかし――……」

ジルズが意見を言おうとするとクラウがそれを制止した。

「ジルズ大臣はいつからそんなに進言できるお立場になられた？」
「っ……」

悔しそうに黙って一歩下がると、国王が頷いた。

「わかった。いいだろう。しかしもしミアが逃げ出すようなことがあれば、相当な処分を下すことになる。それとクラウ、お前が手引きしないとも限らない。お前も部屋から出るな。いいな？」
「……承知いたしました」

ミアは礼をするクラウの横顔をそっと見た。

（クラウ様も部屋に閉じ込めるのね……。そうなったらフェルズさん達に調べを任せるのかしら……）

ミアの不安が伝わったのだろう。
クラウが小さな声で「心配ない。こちらに任せろ」と呟いた。

その後すぐに大勢の衛兵に付き添われ部屋に向かう。
クラウとは途中でお別れだ。

「待ってくれ」

ミアが連れて行かれそうになると、クラウが声をかけてそれを止めた。

「ミア……、すまない。俺が城を空けたばかりにこんなことに……」
「いいえ。私こそ、こんなことになってしまって申し訳ありません。私は大丈夫ですからクラウ様こそ体を休めてくださいね」

知らせを受けてすぐに帰ってきてくれたと聞いた。
休む間もなくミアを探し出し、事態を治めてくれたのだろう。
相当疲れているはずだ。

「ありがとう」

クラウは微笑むと、衛兵に囲まれながら部屋に戻って行った。

――――

「で？　どうするおつもりなんですか？」

フェルズはクラウにそう聞いた。
クラウの部屋はミアと違って見張りは少ない。
しかしやはり出入りの監視は厳しかった。
公務の関係でと言って、なんとかフェルズだけは通している状況だ。
しかしそれも限られた時間しか許されていない。

「今、俺が信をおける各所の人間に調べを進めるよう伝えている。で？　親父のことはどうだった？」

国王の様子について調べるようフェルズに伝えていた。
フェルズは頷き「予想通りです」と伝えた。

「事件の後、ジルズが陛下に異国の香料の贈り物をしていたそうです。たぶんそれに何か仕込まれていたんでしょう。国王の第一秘書が執務室の香りが変わったと話していました。長い時間そこにいると頭がボーっとして思考が回らないんだそうです」
「それもっと詳しく調べられるか？　その香料も破棄してほしい」
「承知いたしました」

クラウはソファーに寄りかかって大きくため息をついた。

（ジルズ……、まさか一気に仕掛けてくるとは思わなかったな。俺も油断した）

公務とはいえ何日も城を空けた。
それは仕方ないとはいえ、反対派がいるとわかっていたのだから、もう少しミアの身の回りについて安全を確保できたのではないか。
警備を手厚くするだけでなんとかなると思っていたが、ジルズはそれを見越したうえで、警備が入れないような状況を作ってきたのだ。
そこまでして自分の娘と結婚させたいのか。

「それと、ミア様のお菓子を食べたサマル殿ですが、結婚賛成派に見せかけて実は反対派だったようです。ジルズと懇意だそうで今回のことも共謀していた可能性があります」
「そうか……。引き続き調べを頼む」
「はい」

（さて決定的な証拠をつかむにはどうすればよいか……）

フェルズを動かしているが、もちろんそのフェルズの動きも見張られている。
大っぴらに動かすわけにはいかない。
クラウは大きくため息をついた。

その夜。
クラウが就寝の支度をしていると部屋の扉がノックされた。
こんな時間に誰だ？
怪しんだが、衛兵が通したのなら怪しい人物ではないだろう。

「はい」

返事をしてはいってきた人物にクラウは目を丸くした。