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4.静かな湖畔で……
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翌日から、晴れた日のお昼は湖畔でクラウと話をするのがミアの日課になっていった。
「もし留学中に行くなら、郊外にあるワランの滝というところがお勧めですわ。朝焼けが差し込むととても美しいと聞いたことがあります」
「へぇ。ミアは行ったことがないのか?」
「残念ながら。でも絵葉書で見たことがあります。とても綺麗ですよ」
ミアは地図をクラウと覗き込みながらこの国の名所を教えていた。
留学中にいろんなところを見て回りたいから、ぜひ教えてほしいとクラウから申し出てきたのだ。
ミアは本を読んで国の様々な名所を熟知していた。
「クラウ様はいつまでご留学中なのですか?」
「あとひと月だ。もとから短期という約束で来させてもらっているからな」
「あと、ひと月……」
意外と短いな、と思った。
半年後が卒業となるので、それまでいるのかと思っていた。
少し残念に思ったが、顔には出さないように努めた。
「ではその間にいろんなところへ行けると良いですわね」
「あぁ。でも卒業までいられないのは残念だな。ミアは卒業したらどうするんだ?」
そう聞かれて、少し言葉に詰まった。
どうするかなど、こちらが聞きたいくらいだ。
「……この国の女性は、卒業後は大体どこかへ嫁ぐんです。仕事を見つける人もいますが、爵位ある家に生まれた女性で働く人は少ないですね。……私も父に今度の社交界で、どなたかに見初められてくるよう言われました」
苦笑すると、クラウは眉をひそめた。
「誰かに恋をして結婚は出来ないのか?」
「そんな人は少ないです。恋など……」
クラウに言われてミアはハッとした。
そうか、自分は誰かに恋をすることもないまま誰かに嫁ぐことになるのかもしれない。
恋とはなにか、知らないまま……。
それが悪いことではないけれど、どこか寂しい感じがした。
「あっ、もうこんな時間だわ! そろそろ戻らないと、授業に遅れてしまいます」
ミアは話に夢中で時間を忘れていた。
そろそろ戻らないと、午後の授業に遅れてしまう。
「あぁ……」
「クラウ様、ごきげんよう」
「またな、ミア」
お辞儀をして急いで校舎へと向かった。
クラウと話していると楽しくてあっという間だ。
自分の国のおすすめを話すのも、カラスタンド王国の話を聞くのも面白かった。
自分の世界が広がる感じがしたのだ。
急いで戻ったので、授業にはぎりぎり間に合った。
クラウ様は間に合ったのかしら、と窓の外を覗くが湖は見えないのでわからなかった。
――――
「ミアお嬢様、社交界用のドレスが届きました」
屋敷に帰ると使用人にそう声をかけられた。
部屋に置いてあったドレスは淡いクリーム色でとても綺麗だ。
今までのドレスとは違い、上品で仕立てもいい。
「……気合が入っているわね」
たくさん装飾も施され、前回の社交界用ドレスとは段違いだ。
父が気合を入れて注文したことがよくわかる。
こんなドレス、用意してくれるなんて思ってもいなかったミアは少しだけ嬉しくなった。
「あら素敵なドレス。でもあなたの赤い髪には……、どうかしら」
振り返ると、部屋の入口でサラサがバカにしたように笑っている。
「私のような金の髪なら何でも似合うけど、ミアのように下品な赤は色を選ぶわね」
「お姉様……」
サラサはミアの赤い髪をいつも下品だと言っていた。
赤い髪は南部地方出身者に多い。
ミアの母親は南部の出で赤い髪をしていた。
ミア自身はこの髪をとても気に入っていたのだけれど、反論すると怒られるので黙っていた。
「仕立てはまぁまぁね。色が冴えないのが残念ね。これじゃぁ男性たちの目に留まらないけど……、愛人の子には仕方ないわね」
サラサはミアを鼻で笑うと自分の部屋へ行ってしまった。
ミアは仕立てられたドレスを見つめる。
「そんなに悪くないわ。とても素敵よ」
そう褒めて、まるでドレスを慰める様に裾を撫でながら呟いた。
(クラウ様はいらっしゃるのかしら……)
ふと、そんなことを思った。
ザーランド学院に通うなら、カラスタンド王国でも爵位あるそれなりの家柄だろう。
(でも社交界にわざわざ留学生を呼ばないわよね……)
ミアは残念に思った。
あの湖の湖畔以外でクラウに会いたいと思ったのだ。
「私ったら何をバカなことを……」
苦笑する。
クラウは一月後にはカラスタンド王国に戻ってしまうというのに、何を望むというのだろう。
ミアはため息をついた。
「もし留学中に行くなら、郊外にあるワランの滝というところがお勧めですわ。朝焼けが差し込むととても美しいと聞いたことがあります」
「へぇ。ミアは行ったことがないのか?」
「残念ながら。でも絵葉書で見たことがあります。とても綺麗ですよ」
ミアは地図をクラウと覗き込みながらこの国の名所を教えていた。
留学中にいろんなところを見て回りたいから、ぜひ教えてほしいとクラウから申し出てきたのだ。
ミアは本を読んで国の様々な名所を熟知していた。
「クラウ様はいつまでご留学中なのですか?」
「あとひと月だ。もとから短期という約束で来させてもらっているからな」
「あと、ひと月……」
意外と短いな、と思った。
半年後が卒業となるので、それまでいるのかと思っていた。
少し残念に思ったが、顔には出さないように努めた。
「ではその間にいろんなところへ行けると良いですわね」
「あぁ。でも卒業までいられないのは残念だな。ミアは卒業したらどうするんだ?」
そう聞かれて、少し言葉に詰まった。
どうするかなど、こちらが聞きたいくらいだ。
「……この国の女性は、卒業後は大体どこかへ嫁ぐんです。仕事を見つける人もいますが、爵位ある家に生まれた女性で働く人は少ないですね。……私も父に今度の社交界で、どなたかに見初められてくるよう言われました」
苦笑すると、クラウは眉をひそめた。
「誰かに恋をして結婚は出来ないのか?」
「そんな人は少ないです。恋など……」
クラウに言われてミアはハッとした。
そうか、自分は誰かに恋をすることもないまま誰かに嫁ぐことになるのかもしれない。
恋とはなにか、知らないまま……。
それが悪いことではないけれど、どこか寂しい感じがした。
「あっ、もうこんな時間だわ! そろそろ戻らないと、授業に遅れてしまいます」
ミアは話に夢中で時間を忘れていた。
そろそろ戻らないと、午後の授業に遅れてしまう。
「あぁ……」
「クラウ様、ごきげんよう」
「またな、ミア」
お辞儀をして急いで校舎へと向かった。
クラウと話していると楽しくてあっという間だ。
自分の国のおすすめを話すのも、カラスタンド王国の話を聞くのも面白かった。
自分の世界が広がる感じがしたのだ。
急いで戻ったので、授業にはぎりぎり間に合った。
クラウ様は間に合ったのかしら、と窓の外を覗くが湖は見えないのでわからなかった。
――――
「ミアお嬢様、社交界用のドレスが届きました」
屋敷に帰ると使用人にそう声をかけられた。
部屋に置いてあったドレスは淡いクリーム色でとても綺麗だ。
今までのドレスとは違い、上品で仕立てもいい。
「……気合が入っているわね」
たくさん装飾も施され、前回の社交界用ドレスとは段違いだ。
父が気合を入れて注文したことがよくわかる。
こんなドレス、用意してくれるなんて思ってもいなかったミアは少しだけ嬉しくなった。
「あら素敵なドレス。でもあなたの赤い髪には……、どうかしら」
振り返ると、部屋の入口でサラサがバカにしたように笑っている。
「私のような金の髪なら何でも似合うけど、ミアのように下品な赤は色を選ぶわね」
「お姉様……」
サラサはミアの赤い髪をいつも下品だと言っていた。
赤い髪は南部地方出身者に多い。
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ミア自身はこの髪をとても気に入っていたのだけれど、反論すると怒られるので黙っていた。
「仕立てはまぁまぁね。色が冴えないのが残念ね。これじゃぁ男性たちの目に留まらないけど……、愛人の子には仕方ないわね」
サラサはミアを鼻で笑うと自分の部屋へ行ってしまった。
ミアは仕立てられたドレスを見つめる。
「そんなに悪くないわ。とても素敵よ」
そう褒めて、まるでドレスを慰める様に裾を撫でながら呟いた。
(クラウ様はいらっしゃるのかしら……)
ふと、そんなことを思った。
ザーランド学院に通うなら、カラスタンド王国でも爵位あるそれなりの家柄だろう。
(でも社交界にわざわざ留学生を呼ばないわよね……)
ミアは残念に思った。
あの湖の湖畔以外でクラウに会いたいと思ったのだ。
「私ったら何をバカなことを……」
苦笑する。
クラウは一月後にはカラスタンド王国に戻ってしまうというのに、何を望むというのだろう。
ミアはため息をついた。
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