上 下
9 / 9

9.未来に向けて

しおりを挟む
王妃になったセシリアは、王宮で勉強を続けた。

(やはりこのままでは良くないわ……)

セシリアはアレンの執務室を訪問した。

「アレン様、少しよろしいですか?」
「どうしたんだ、セシリア」

机から顔を上げて微笑むアレンの前に立つ。

「アレン様、私、勉強をしていて思ったことがありました。この国の医療と福祉について考えをまとめましたの。見てくださいます?」
「医療と福祉?」

セシリアは自分が考えるこの国の医療と福祉についてまとめた紙をアレンに手渡した。
アレンは一枚一枚真剣に目を通してくれる。

「なるほど。確かにセシリアの言うように、この国は医療と福祉の面でひっ迫しているところはある。病院の数も施設の数も十分とは言えないね。それは俺もこの前入院して思っていた」
「アレン様は王宮病院に入院されたのは視察もかねてですよね?」
「本当は地方の病院が良かったんだけど、それは反対されたからな」
「アレン様、医療と福祉面に力を入れられないでしょうか? もちろん、そこに力を入れてもなり手がおりません。なので教育面にも力を入れていきたいのです」

セシリアの言葉にアレンはうんうんと頷く。

「そこは俺も少し考えていたんだ。今度大臣たちにも話をしてみよう。予算をかけられるか話し合ってみるよ」
「ありがとうございます」

セシリアはホッとした。
地方と都市では医療の格差が大きい。だれでも適切な医療を受けさせたかったのだ。
アレンも以前から同じようなことを問題視していたようで、次の閣僚会議で提案をしてくれた。
前回よりも予算を医療、福祉、教育に割けることができたという。

「アレン様、ありがとうございます」
「いいや。何より、セシリアが同じ点を問題視してくれたことが嬉しかった。セシリアが良ければ、もっと意見をくれないか?」
「良いのですか?」

セシリアの表情が明るくなる。

「君はお飾りの王妃にはなりたくないとオリアに話していたそうだね」
「えぇ」

以前、オリアに他国では何もしない王妃はいるといわれ、お飾りの王妃などいらないと話したことがあった。
アレンは大きく頷く。

「国王も王妃も、国の象徴であり長であるが国民のため国のために存在する。国民のために尽くすのは当然だ。君は国民のために動こうとしている。とても頼もしいよ」
「アレン様……」

アレンがセシリアを認めてくれたことが何よりも一番嬉しかった。
こうしてセシリアは王宮、国の中でも少しずつ認められた存在となっていった。

そんなある日。
アレンにたっぷりと愛された後、ベッドの中でアレンが思い出したかのように呟いた。

「そうだ、君の元婚約者のガルというものだけど」
「え?」

最近ではすっかりと忘れていた名前が出てセシリアは驚く。

「妻のソフィアナの浪費が激しくて、領地の納税金を値上げしたそうだ」

ガルの家はセシリアの実家と同じく公爵家。王都から少し離れたところの領地を任されている。
領地の納税金はそれぞれ治めている公爵家が決めて徴収し、その何パーセントかを国に治めていた。
ソフィアナは子供を産んでからも子供、自分にお金をかけまくっているようだった。

「このままでは領地民から暴動が起こりかねない。以前、国からも警告をしたんだが……。聞く耳持たなくてな。称号をはく奪し、その領土は他の人に任せようと思う」

アレンのきっぱりした言葉に、セシリアは「そうですか」と返した。
これは決定事項なのだろう。
ガルとソフィアナを思い出す。

(領土の民が気の毒で可哀そう)

「助けたいとか思うか?」
「いいえ。領土の民を思えば、当然のことです」

アレンはセシリアの気持ちを理解していた。
セシリアがガルとソフィアナに対して全く同情していないことを。
むしろ、王宮で顔を合わせることもなくなるのでせいせいしているだろうことも。
そうしたセシリアのさっぱりとした内面もアレンは気に入っていた。

「君は本当に王妃に向いている」
「アレン様、あっ……」

アレンは微笑みながらセシリアの胸に触れた。
治まった熱が再び火をつける。
何度触れ合っても足りないくらい。
お互い、溶け合ってしまいたいほどに求め合っていた。
ガルには抱かなかったこの感情。セシリアは何度もアレンの名前を呼んだ。
愛おしい人。
セシリアは翌月、子供を身ごもった。
その一年後、王子が誕生。
その二年後には王女が誕生した。
そして、アレンとセシリアは稀代の国王王妃として国民の絶大な支持を受けて、歴史に名を刻んでいった。



END
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【短編】悪役令嬢と蔑まれた私は史上最高の遺書を書く

とによ
恋愛
婚約破棄され、悪役令嬢と呼ばれ、いじめを受け。 まさに不幸の役満を食らった私――ハンナ・オスカリウスは、自殺することを決意する。 しかし、このままただで死ぬのは嫌だ。なにか私が生きていたという爪痕を残したい。 なら、史上最高に素晴らしい出来の遺書を書いて、自殺してやろう! そう思った私は全身全霊で遺書を書いて、私の通っている魔法学園へと自殺しに向かった。 しかし、そこで謎の美男子に見つかってしまい、しまいには遺書すら読まれてしまう。 すると彼に 「こんな遺書じゃダメだね」 「こんなものじゃ、誰の記憶にも残らないよ」 と思いっきりダメ出しをされてしまった。 それにショックを受けていると、彼はこう提案してくる。 「君の遺書を最高のものにしてみせる。その代わり、僕の研究を手伝ってほしいんだ」 これは頭のネジが飛んでいる彼について行った結果、彼と共に歴史に名を残してしまう。 そんなお話。

ここではないどこかで幸せになります

杉本凪咲
恋愛
私は全てを姉に奪われた。 両親の愛も、婚約者も。 しかし、そんな私の元に幼馴染の彼が現れて……

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない

鈴宮(すずみや)
恋愛
 孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。  しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。  その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?

ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?

望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。 ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。 転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを―― そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。 その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。 ――そして、セイフィーラは見てしまった。 目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を―― ※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。 ※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)

【完結】婚約破棄!! 

❄️冬は つとめて
恋愛
国王主催の卒業生の祝賀会で、この国の王太子が婚約破棄の暴挙に出た。会場内で繰り広げられる婚約破棄の場に、王と王妃が現れようとしていた。

【完結】悪役令嬢のお父様。

❄️冬は つとめて
恋愛
厳格な父は、虐めをした娘を諭す。そして、 「其れでは、次の話に入ろうではないか。」 コッペリウスは淡々と言った。

【完結】「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」

まほりろ
恋愛
【完結】 「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」 イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。 対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。 レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。 「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」 「あの、ちょっとよろしいですか?」 「なんだ!」 レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。 「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」 私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。 全31話、約43,000文字、完結済み。 他サイトにもアップしています。 小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位! pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。 アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。 2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」 第15回恋愛小説大賞にエントリーしてます。

処理中です...