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7.少し離れても恋しいお方

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結婚式まであと一週間となった。
王宮内はいつにもましてあわただしい。
招待客、式の食事、式の段取り、王宮内にある教会、パーティーについてなど様々なことを各担当が準備を進む中、セシリアもウエディングドレスの最終調整が行われた。

「セシリア様、緩いところはございませんか?」
「大丈夫です。ピッタリ」

仕立て屋がドレスの裾を直しながら聞いてきた。
セシリアは答えながら、ドキドキと胸を弾ませる。

「楽しみですね」

オリアの言葉に頬を赤らめながら頷いた。
完成されたドレスは大切に保管され、セシリアはオリアとともに挨拶の練習をする。
国王陛下の結婚式なので他国からの来賓も多い。
マナーは徹底的に叩き込まれた。

アレンにも確認することがあったため、オリアとともに執務室へ向かう。
すると、執務室周辺がバタバタとあわただしかった。
オリアと顔を見合わせ、中を覗くと執務室の中には第一侍従のフォーゼン以外に、防衛大臣、近衛兵団長、王師兵団長らが揃っていた。

「どうした、セシリア」

厳しい顔をしていたアレンが、表情を和らげてセシリアのところへ来る。

「お話し中とは知らず、申し訳ありません。……何かあったのですか?」
「あぁ、西の国の連中が国境に置いた貯蔵庫を壊して盗んでいったんだ。それをきっかけに、動きが怪しい」

西の国はこのダミア王国の山を越えた先にある貧しい国だった。
国交が少なく、昔から攻撃性が高い国で警戒はしていた。

「今、国境警備の者が対応に当たっているが場合によっては俺が視察にでて牽制しなくてはならないかもしれない」
「アレン様が国境へ行ったら式はどうするのです?」
「大丈夫、式までには戻るよ」

(戻るといっても、西の国境までは一日以上かかるわ。式までは一週間……。前日には他国の国王や来賓も見えるのに……、本当に大丈夫かしら……)

セシリアは大きな不安を感じたが、事態が事態なので行かないでほしいとは言えない。
翌日には、アレンと近衛兵が西の国境に向けてひっそりと出兵した。
視察ということで、一部のもの以外には知らせない。公にはされなかったので、式の準備は問題なく進められていた。

「心配ないですよ、セシリア様」

残ったフォーゼンが安心させるように微笑む。

「……アレン様が視察されるほどのことではないのでしょう? なぜこの大切な時にわざわざアレン様が出向かねばならないのでしょう?」
「陛下はなんでもご自分の目で確認されたい性格でいらっしゃいますから。それに国民に関わることならそれもまた大切なことですよ」

フォーゼンの言葉にセシリアはハッとして頷く。

「そうですわね」

(そうね、国民のために国王はいるのよ。その陛下を支えるのが私の役目……)

セシリアは寂しい気持ちを抑えて、スッと背筋を伸ばした。
式までの間、アレンがいなくても滞りなく進められるようしっかりせねばと思ったのだ。

そうして、ついに結婚式二日前になった。

「明日には来賓の方々もお見えになるというのに、陛下はまだお戻りにはなられないのですね」
「えぇ……、フォーゼン様の話だと今日の夜には城へ帰ってくるとの話だったけど……」

そう言って、セシリアは外を見上げる。
もう外は真っ暗だ。セシリアも湯船に入りあとは寝るだけだった。

(何かあったのかしら……)

「明日の朝には戻られますよ、ね?」
「そうね……。でも明日は一日会えないから残念だわ」

国の決まりで、王妃になるものは結婚式の前日は教会で一日祈りを捧げ、身を清め、司祭や聖女以外は誰とも会わず、清らかに過ごさなければならない決まりがあった。
つまり、明日の朝になると式まではアレンに会えないのである。
なので、今日アレンの無事を確認したかったのだ。

オリアが部屋を出て行った後も、セシリアは寝付けずにいた。
すると、カタンっと扉が開く音がした。

「誰!?」

驚いて体を起こすと、小さな笑い声が聞こえた。
月明かりに照らされた姿に目を丸くした。

「アレン様!」

セシリアは飛び起きてアレンに抱き着いた。
アレンはしっかりと抱きとめてくれる。

「あぁ、アレン様。いつ戻られたんですか?」
「ついさっきだ。遅くなってごめん」

アレンは愛おしそうにセシリアの髪を撫でる。

「ただいま」
「おかえりなさいませ」

アレンはぎゅっとセシリアを抱きしめる。
セシリアもその逞しい胸に頬を寄せた。
会いたかった。少し離れただけでも恋しくてたまらなかった人だ。
無事な姿に心から安堵する。

「セシリア、少しだけ癒してくれないか」
「アレン様……、んっ……」

そう言うとアレンはセシリアの唇を奪い、何度も口付けをする。
とろけそうな気持よい口付けに、セシリアは夢心地だ。

「ん……、あ……」

合間に甘い声が漏れる。
薄い夜着は前回よりもアレンの体を感じやすく、抱き合った体がアレンに擦れるだけで刺激となっていた。
それはアレンも同じようで、セシリアのお腹に硬く熱い高ぶりが当たっている。

「あぁ、これ以上はだめだ。本当に止まらなくなる……」

アレンの切なげな声はセシリアの耳をくすぐる。
離れがたくなった体をお互い、しぶしぶと離した。

「明日はよく身を清めて、明後日に備えるといい」
「はい……」

名残惜しい状態ではあったが、部屋を出ていくアレンを見送ってからセシリアはベッドに倒れる様に横になった。

(さらに寝付けなくなったわ……)

セシリアはドキドキと早鐘をうつ胸をそっと抑えながら、悶々とした夜を過ごすこととなった。




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