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4.愛ゆえの怒り

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アレン陛下はガルとソフィアナに向き合った。
二人はビクッと肩を震わせる。

「ガルにソフィアナだったかな? 君たちには本当に感謝をしているんだ。特にソフィアナ。君がガルと結婚しなければ、こうしてセシリアに結婚を申し込むことができなかった。君がガルを寝取ってくれたおかげだよ」

アレン陛下は微笑みながらも、言葉に刃が仕込まれている。
ガルとソフィアナは倒れてしまうのではないかというほど、真っ青な顔をしていた。

「しかし、私の愛した女性を侮辱するのはいかがなものか……。そう思うだろう、ソフィアナ?」

アレン陛下の指摘に青い顔とか細い声で「申し訳ありません」と呟く。

「俺に謝られても困る。そうだろう?」

(あぁ、このお方は怒っておられる。私に無礼を働いた二人に怒っているのだわ)

アレン陛下の静かな怒りはとても恐ろしいものがあった。
二人もそれを感じたのだろう。
青い顔で震えながらセシリアに向き合った。

「大変、申し訳ありませんでした」
「いいえ……」

正直、謝られてもと思うがそこは何も言わず。
ちらっとアレン陛下を見上げると、優しい目でセシリアを見下ろしていた。
アレン陛下の熱っぽい視線に、セシリアは自然と胸がときめくのを覚えた。
その後すぐ、アレン陛下はお付きのフォーゼン様に叱られ、改めて壇上に上がって陛下が座るべき椅子に腰かけた。

「この度は成人おめでとう。爵位の家に生まれた皆さんは、それに驕らず、正しく、平民のみなさんの手本となるような振る舞いを期待している」

そう祝いの言葉を述べるアレン陛下は国王として凛とした佇まいで、セシリアは初めて会った時のアレン陛下との雰囲気の違いにますます混乱した。

(アレン陛下は確かにあの時王宮病院でお会いした方だわ……。穏やかな青年という印象だったけど、国王としてお話になられる時はなんて頼もしいのかしら。あの方に求婚されたなんて……)

心の整理がつかず、そっとテラスへ出る。
会場は歓談の時間となり、楽しそうな声が聞こえてきた。
気が付けば、ガルとソフィアナは逃げるように帰って行った。

(アレン陛下の申し出には驚いたけれど、あの時のソフィアナの悔しそうな顔……。すっごく、清々したわ。ざまぁみろって感じ)

ついフフっと笑みがこぼれると、「楽しそうだな」と後ろから声がかけられた。
振り返ると、アレン陛下が立っている。

「陛下。先ほどは陛下のことを存じ上げず、礼も取らずに失礼いたしました」
「そういう堅苦しいのはいらん。あぁ、疲れた」

アレン陛下はため息をついて手すりに寄りかかる。

「……てっきり、王宮の騎士様かと思っておりました」
「あぁ、あの時か。剣術の訓練中に馬から落ちて怪我をしたんだ。もちろん、王宮内に医務はあるけどこの際だからと、ついでに王宮病院の視察と見学もかねて入院していたんだ」
「そうでございましたか……」

だから王宮病院にいたのか。
納得していると、アレン陛下がセシリアの手をそっと握った。

「セシリアの噂は前から耳に届いていた。美しい公爵令嬢がいると。そして、先日王宮病院で初めて会った時に運命を感じた。子供たちと楽しく、優しく接している君を見て、改めて、妃にしたいと思った」
「アレン陛下……」

その大きくてごつごつした男らしい手にドキッとする。

「セシリア、結婚の件は考えてくれたか?」
「……本当に私でよろしいのでしょうか?」
「もちろん。俺にはセシリアが必要だ」

先ほどの凛とした声ではなく、優しく甘い響きを含ませている。
熱視線にとろけそうな感覚を覚えた。

「セシリア、君を愛している。結婚してほしい」
「はい」

アレン陛下の言葉に素直に頷いた。
国王だからとか、元から断ることはできないとか、そんなことではなく。
自然と、この人と一緒にいるべきなのだろうなと感じた。
あぁ、この人だ、と。






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