18 / 47
2巻
2-2
しおりを挟む
ユーリスが隠れ場所に選んだのは、かつてヴィルヘルムが好んでいたあの庭園だった。
薬草園と魔獣舎の隅にある小さな庭。ギルベルトとヴィルヘルムがふたりでひっそりと会っていた場所だ。
校舎から続く石畳を辿ってしばらく行くと、薔薇のアーチが見える。初夏の今は、緑が生き生きと生い茂り、庭園を彩っていた。
――変わらない。
懐かしい光景を目にして、ユーリスはそう思った。
植えられている花や花壇の様子は九年の時を経て周囲の木々は大きくなっていたし、アーチに使われている薔薇も植え替えられていた。それでも、苔むした石のベンチや木々の間から降る木漏れ日は記憶の通りで、そこにある密やかな雰囲気は昔のままだ。その懐かしさにユーリスは目を細めた。
アーチをくぐり、そっと庭園の中に足を踏み入れる。花壇が並ぶ真ん中を抜けるように敷かれた煉瓦の小道を進み、石のベンチに腰掛ける。ベンチのそばにはアカシアの木が植えてあり、しなる緑の葉が零れ落ちるようだった。春にはきっとたっぷりとした黄色い花を咲かせていたことだろう。
ようやく人心地ついた気になって、息を吐く。ここに来るまでの怒涛のような時間を思う。そして、自分の格好を改めて見て、ユーリスは苦笑した。
――制服を着て、学園に忍び込むなんて。
これまで型にはまったような穏やかな生活しかしてこなかったユーリスには、思い付きもしないことだ。アデルと一緒にいると、予想もしなかったことをたくさん経験することが出来る。
借り物のローブのフードをやっと取って、ユーリスは空を仰いだ。目を瞑ると夏の風がその白い頬を撫でる。大陸の北に位置するシュテルンリヒトでは、真夏でもそう気温は上がらないものだ。日向では多少汗ばんでも、木陰に入り風が吹けばとても過ごしやすい。
ひとけがなく、静かで、穏やかだ――
そう思っていると、不意に人の気配がした。慌ててローブを被り直して、ベンチの陰に身を隠した。誰かに見つかるのはまずいと判断したからだ。
いくら制服を着ているとはいえ、ユーリスはもう二十七歳だ。遠目には誤魔化せても、近くで顔を合わせれば、さすがに学生ではないとばれてしまうだろう。
――このまま、やり過ごせればいいけれど。
そう思って息を潜めて窺っていると、何やら言い争う声が聞こえてくる。
言い争う――否、片方が一方的に相手を罵倒しているのだ。こちらに向かってくるのは、どうやらふたりの学生のようだった。体格のいい少年が小柄で細身の少年の腕を掴んで、無理やり引きずるように庭園の方にやってくる。小柄な少年は首に首環をつけていた。――オメガだ。
「おい! なんでお前の方が――」
「そんなこと、言われても――」
距離があって、会話の内容をはっきりとは聞き取れない。しかし、聞こえてきた断片を繋ぎ合わせると、どうやら背の高い少年の方はアルファで、オメガの少年に何かの成績を抜かれてしまったらしい。それが許せなかったアルファの少年がオメガの少年を、こんなひとけのないところに呼び出して理不尽に責め立てているらしかった。
当然、オメガの少年はそんなことを言われても困る、と答えた。成績は少年が評価するものではなく、教師がするものだ。彼が努力してよい成績を取ったからといって、アルファに責められる謂れはない。果敢にもそうはっきりとアルファに向かって言い切った。
しかし、そんな正論はアルファには関係ないことだ。
遠目に見ても興奮したアルファの少年は、顔を真っ赤にして拳を振り上げた。ふたりのやり取りから同学年らしいと判断したが、とはいえその体格はまったく違う。ユーリスよりも細くて小柄なオメガの身体は、殴られれば簡単に吹き飛ぶだろう。
ユーリスの躊躇いは一瞬だった。気がつけば立ち上がり、今にも殴りかかりそうなアルファの少年の前に飛び出していた。
「こんにちは、いい天気ですね」
握りしめられていた拳は、ユーリスの鼻先で止まった。当然、少年たちは呆気にとられたようにユーリスを見た。こんなところに自分たち以外の人がいるとは思わなかったのだろう。
近くでよくよく見ると、やはりアルファらしい少年だった。背が高く、ローブ越しでも逞しい筋肉がよく分かる。学園を卒業すれば、騎士団にでも入団しそうな体格だ。しかし、当然まだ十代らしく幼さを残した顔つきをしており、ギルベルトを見慣れているユーリスにとってはそう恐ろしいものでもない。
ユーリスが柔らかい微笑みを浮かべると、少年は微かに眦を赤らめた。突然の闖入者に戸惑っているのかもしれない。
「な、なんだ、あんた」
何か用か、と聞かれ、ユーリスはさらに笑みを深めた。
「いえ、特に用があるというわけでは。あちらの庭園で休んでいたら、あなたたちの声が聞こえてきましたので」
そう言ってちらりと背後を見ると、庇われた少年は真っ青な顔でユーリスを見ていた。
「どんな理由があっても、暴力はいけませんよ」
いきなり殴りかかるなんて、相手が誰であれ、どんな理由があっても駄目に決まっている。怯え切ったオメガの少年は、ユーリスが止めに入らなければ、無抵抗のまま殴られていたはずだ。
興奮し切ったアルファの少年はようやく状況を呑み込めた様子だった。目の前の相手を、頭のてっぺんから足先まで値踏みするように見て、眉根を寄せる。そして、ユーリスの首元に目を止め、吐き捨てた。
「お前、オメガか」
「はい。そうですよ」
少年が見ているのは、ユーリスがはめているアメジストの首環だ。
途端、少年をぴりりとした空気が包んだ。彼を取り巻くそれは、アルファが出す威嚇フェロモンによく似ていた。しかし、まだ幼さのある彼はアルファとしては未熟だった。
耐え切れないほどではない圧を受けて、ユーリスはひっそりと思う。
――最近、僕こういうのばっかりだな……
ここ数か月で、怒り狂うアルファと対面することのなんと多いことか。自分が置かれている状況に、ユーリスは心の中で嘆息した。しかし、だからといって怯むことはなかった。しっかりとアルファの目を見据え、穏やかな口調で言う。
「成績を抜かされたのは、彼のせいではないでしょう?」
「な、なんだと!?」
「評価するのは先生方なのですから、彼に文句を言うよりもご自分で努力することをお勧めします」
それから、と付け加えて握りしめられたアルファの手を取った。少年の手はユーリスよりもずっと大きかった。手のひらには微かに胼胝があり、彼が日常的に剣を握っていることが分かる。ひょっとしたら、すでに騎士候補生なのかもしれない。
「王国の魔法騎士になるのでしたら、自分よりも弱い者を殴ってはいけませんよ。あなたの手は守るための手なのですから」
少なくとも、ユーリスの身近にいる騎士――ギルベルトはそういう人だ。永遠の愛を誓った人が別にいても、番の自分を守ろうとしてくれる優しい人。
騎士になるのであれば、出来ればそうあってほしい。どうしても力では勝てないオメガ相手に殴りかかってくるような、そんなアルファになってほしくはなかった。
そう言って自分の手を握る、見ず知らずのオメガを少年はどう思ったのだろうか。
しばしの沈黙の後、いきなり手を振り払って踵を返した。最初はよろめきながら、けれど途中から全速力で走り出した彼をユーリスは呆気にとられて見ていた。
勝手にその手に触れてしまったから、背後の少年の代わりに一発ぐらい殴られるかもしれないと思っていたのに。殴るどころかずっと無言で、罵倒のひとつもなかった。見送った彼の耳が真っ赤だったのは、言葉にならない怒りのためかもしれない。
「すごい……」
アルファの少年が見えなくなってから、オメガの少年が呟いた。
「追い払っちゃった」
「大丈夫ですか?」
「あ、はい。ありがとうございます」
振り向くと、少し目線を下げたところにある双眸と視線が絡む。
ぺこりと頭を下げる少年は、やはりユーリスよりも細身で小柄だ。怯えたような榛色の瞳は小動物を思わせて、その体躯も相まって可愛らしい印象を受ける。
「でも、また絡まれるかもしれませんから、あまりひとりにはならないようにしてくださいね」
「そうですね。気をつけてたつもりだったんですけど、力ずくで引きずられたら勝てないや。あいつ、一年生のときから何かと絡んでくるんですよ。去年までは俺たちにも過ごしやすくて、こんなこともなかったんですけど」
諦めたように笑う少年に、ユーリスは息を呑む。
ユーリスが学園に通っていた頃、そんなことは一度もなかった。おそらく、ヴィルヘルムという圧倒的に身分の高いオメガが在籍しており、表立ってオメガを攻撃することが出来なかったのだ。
「去年までは、違ったんですか?」
「はい。去年まではヴァイスリヒト公子がいましたから。アルファに理不尽に絡まれないように守ってくださってたんです」
ユーリスの問いに少年が答えた。
「でも、卒業のときにあんなことになってしまって……」
「なるほど」
王族を除けば、リリエルはこの国で最も身分の高いオメガということになる。そんなリリエルが起こした不祥事は、色々なところに影響しているようだった。
「ヴァイスリヒト公子は、どんな方でしたか?」
「え、と。俺は遠目にしか見たことはないんですけど、少し冷たい感じのとても綺麗な人でしたよ」
冷たい感じ。素直にそう表言した少年に、ユーリスは小さく笑う。
リリエルの輝くような白銀の髪と紫色の瞳は、その人形めいた美貌と相まって宝石のような硬質な美しさがあった。けれど、冷たいだけの人柄ではないのは、アデルやアロイスが必死に彼の無実を証明しようとしているところからも感じられる。
目の前の少年も考えるそぶりをしながら、でも、と付け加えた。
「俺たちのことをいつも気にかけてくれていました。あの方は学園に通っているオメガを全員覚えていて、常に何か不便がないかと……」
「そうですか」
「だから、あの方が嫉妬に狂ってアデル・ヴァイツェンをアルファに襲わせたなんて絶対嘘ですよ」
「……え」
少年の口にした言葉にユーリスは絶句する。確か、その話はリリエルの名誉のため箝口令が敷かれ、関係者にしか知られていないとルードヴィヒが言っていたはずだ。それなのに、どうしてこの少年が知っているのだろうか。
動揺するユーリスに気づいたのだろう。少年は不思議そうな顔をしてユーリスを見る。
「学園の生徒なら誰でも知ってますよ。それくらいの事件でしたから」
狭い学園の中だ。それなりの騒動が起こり、生徒会が調査をしたのであれば、学生の間で噂が広がるのは当然のことだった。ただ、ヴァイスリヒト家の手前、学園の外に漏らしてはいけないと誰もが口を噤んでいるに過ぎないのだ。ひょっとしたら、ユーリスやルードヴィヒが知らないだけで、社交界でも囁かれているのかもしれない。
「俺は、あの真実薬が偽物だったんだって思ってます」
「真実薬……を使ったことまでみんな知っているんですか?」
「これは、みんなは知らないかも。俺、魔法薬学の授業を取ってて、調薬室で真実薬の材料を見ちゃったんでたまたま知ったんです」
「材料を見ただけでなんの薬を作るか分かるんですか?」
「いいえ。珍しい薬草や材料がたくさんあったんで、先生に聞きました」
「そうですか……」
真実薬を用意したのはライナルトだと聞いた。いくら学園で製造したとしても、多くの生徒の目につく場所に材料を置いておくだろうか。微かなひっかかりを覚えて、ユーリスが思案していると、少年がじっとユーリスを見つめた。
「あの、上級生ですよね? あれ、でもネクタイ、紺色……?」
学園では有名な「噂話」。それを知らない様子のユーリスを不思議に思ったのだろう。
窺うような少年の言葉に、ユーリスははっとする。アデルから借りたネクタイは濃紺だ。それは、去年卒業したアデルたちと入れ替わりに入学した一年生を示す色だ。困惑している少年の様子に、ユーリスは慌ててネクタイを外した。どう見ても年上の自分が、一年生のネクタイをしているのは明らかにおかしい。
「んんッ、おかしいな、ネクタイ弟のものを間違ってしてきちゃったかな……」
「弟さんがいるんですか?」
「そう、そうなんですよ。間違ってしまったみたいですね」
ユーリスは、はは、と乾いた笑いを漏らす。少年は少し首を傾げてはいたが、どうやら上手く誤魔化されてくれたようだった。
そんな少年にユーリスは安堵すると同時に、何やら複雑な気持ちになった。これだけ近くで会話して、よくもまあ学生だと思ってくれたものだ。純粋そうな彼に嘘をつくのは胸が痛んだが、正直に話すわけにもいかない。
それに、ユーリスに弟がいるのは本当だ。まぁ、その弟ももう二十歳をとうに過ぎているけれども。
その後、現在の学園の様子を少し聞いて、ユーリスは少年と別れた。
そのまま薬草園に向かうと言う彼と別の方向に行くために、来た道を戻る。校舎の中に入り、人目を避けて歩くと、自然と図書館の方に足が向いた。図書館はいつだって目的がある者しかやってこない。本棚の陰に身を潜めていると、隠れるのだって簡単だ。
今度は魔法薬学の本でも調べようか。アデルらとの待ち合わせまではまだ少し時間があった。それまでに庭園に戻ればいい。そう思って、ユーリスは並ぶ分厚い本の背表紙を撫でていく。
学園の図書館は広い。その中に収められた膨大な蔵書を適切に管理するために本棚にはひとつひとつ番号が振られ、どの種類のどのような本がどこにあるのかが分かりやすく分けられている。
魔法薬学の本は授業で使うこともあり、よく目立つ入り口近くの棚に収められていた。
「真実薬、真実薬……」
背表紙を指で辿りながら、ユーリスは先ほどの少年の言葉を思い返していた。
少年は、学園が去年よりも過ごしにくくなったと言っていた。リリエルがあんな形でいなくなり、オメガを軽んじる風潮が強まってしまった。成績や些細な態度でアルファやベータに理不尽に絡まれては、口汚く罵られたり殴られたりする。それはまるでこの国の縮図のようで、胸が苦しくなる。
提出した卒業論文が気に食わないと目をつけられたアデルや、密室で殴られたユーリス。同様のことが安全なはずの学園でも起きているのだ。
それはあまりよくない変化だ。社交界や王宮がオメガにとって過ごしにくい場所であることは、昔からずっと変わらない。けれど、ヴィルヘルムが入学したことで改善したはずの学園でのオメガの待遇が、明らかに悪くなっている。
ぼうっとしたまま、ユーリスは本を捜す。豪奢な装丁の魔法書は重たくて、とても大きい。そういえば、ライナルトはどの本を読んでいたのだったか。微かに興味を惹かれ、あの図鑑のような本を捜そうと思い立ったそのときだった。
たまたま隣で同じように本を捜していた人物と肩がぶつかる。それに気づいてユーリスは慌てて顔を上げた。
「あ、すみません」
「いや、こちらこそ――」
しっかり目が合った。今は授業中で、よほどのことがない限り、学生とはすれ違わない。そのことにユーリスは、ようやく気がついた。先ほどのふたりの少年は、どうやら授業をさぼっていたらしい。
ユーリスとぶつかったのは、学生ではなかった。黒いローブは制服と同じものだが、それには金の装飾がついており、相手が王宮に出入り出来る身分であることを示していた。
「……ユーリス・ヨルク・ヒンメル?」
そう呟いた人物は、その穏やかな榛の目を驚愕に見開いた。
「フ、フロイント先生……」
両手で顔を覆ってユーリスは相手の名前を呼び返す。
――ああ、やはり自分にはこういうことは向いていない。
この広い魔法学園で、どうして見知った教員に出会うのだろう。
九年前から確かに年月を重ねた教師の顔を見て、ユーリスはがっくりと肩を落とした。
フロイントは今も魔法学概論と魔法薬学の授業を担当していると言った。
魔法薬学は三年生からの選択科目であるが、魔法学概論は一年生の必修教科だ。それ故、彼は学園のほとんどの生徒と触れ合う立場にある。それはユーリスが在籍していた頃も変わらず、ユーリスはこの穏やかで理知的な教師にそれなりに世話になった。
教員たちは生徒の二次性よりも魔法の素質を重視する傾向にあるが、フロイントはそうではなかった。全ての生徒に親切で丁寧な対応をしてくれる、珍しい教員だった。
「今は、ローゼンシュタイン伯爵夫人だと聞いていますが、そんな格好で何をしているんですか?」
「……これには少々、複雑な事情がありまして」
自分のことを知る相手にまじまじと見つめられ、ユーリスは視線を逸らした。
とうに成人したユーリスが制服を着ているからといって、揶揄うような人物ではない。けれど、今はそれがかえって辛く居たたまれない。
「ああ、アデル・ヴァイツェンですか?」
「うッ……」
「教育係になったと」
さすが、長年教員をしているだけある。アデルのことも在学中からよく知っているのだろう。フロイントはヴァイツェンは昔から無茶をする、と苦笑した。
「何かと騒動の中心にいる子ですからね」
まったくもってその通りである。しかし、彼が言っているのは楽しい学生の悪戯の話ではないのだろう。昔より皺の増えた顔には確かな疲労が見て取れる。
「ここ数日は例の魔獣事件でてんやわんやでした」
「そうでしょうね。先生は魔法局の方も兼任しておられますから」
ユーリスの言葉にフロイントは頷いた。かつては一講師でしかなかった彼は、今では魔法局に所属する王宮魔法使い副長であり、この学園の副校長を務めていた。爵位は侯爵。名実ともに立派な貴族だ。
そのため、魔法局の大失態とも言える件の魔獣襲撃事件の後始末のために大忙しなのだろう。彼らがどれほど真面目に事件を調査しているかは分からないが、少なくとも騎士団からの圧力はあるはずだった。
しかし、フロイントは穏やかな雰囲気を崩さない。
「ヒンメルも巻き込まれたと聞きましたが、大丈夫でしたか?」
「はい。アデル様がすぐに魔獣を拘束してくださいましたから」
「そうですか。それにしても、あれほどの魔獣を拘束してしまえる優秀な魔法使いが、学園の卒業生であるのは頼もしいことです」
そう言って笑うフロイントは、実際にあの場にいたのだろうか。高位貴族で、魔法局の重鎮だ。狩猟大会の会場にいたとしても何もおかしなことはない。
「先生の目から見ても、アデル様はやはり相当優秀な魔法使いなのですか」
「そうですね。私は長く教員をやっていますが、ヴァイツェンほど様々な魔法を使える魔法使いには会ったことがありません。少々、無茶をする傾向はありますが」
「思い切りが良すぎる方ですので……」
「はは、まったくその通りですね。しかし、光魔法の適性と、複数の属性を組み合わせた創作魔法においてはこの国でヴァイツェンの右に出る者はいない。それほどの魔法使いを未来の王妃として戴くのは、光栄なことです」
フロイントの言葉に、ユーリスは驚いた。彼がひとりの魔法使いとして、アデル・ヴァイツェンという魔法使いの実力を認めていることもそうだが、アデルが王太子妃――つまり、未来の王妃になることに少しの抵抗も感じていない様子だったからだ。
「フロイント先生は、魔法局の方ですのにアデル様が王太子妃になられることに反対ではないのですか」
もとより、フロイントは二次性で差別をするような教師ではなかった。けれど、それでも彼は王宮魔法使い副長であり、魔法局の人間だ。なんの含みもないのだろうかと疑ってしまうのは仕方のないことだ。
窺うようなユーリスの問いに、フロイントは目を瞬かせた。穏やかな榛色の瞳は、シュテルンリヒトの半数以上の国民が持っている色だ。
「ヒンメルは反対なのですか?」
「私はアデル様に立派な王太子妃になっていただきたいと思っております」
「私もです。魔法局のオメガ性への当たりの強さは存じていますが、全てのアルファがそうであるとは限らないのですよ」
微笑んだままでそう言った教師は、ようやく目当ての本が見つかったのだろう。ユーリスよりも高い位置にある本を数冊手に取った。
「授業の準備ですか?」
「いいえ。個人的な研究の調べものです」
「そうですか」
「ではヒンメル。またそのうちお会いすると思いますが、ヴァイツェンによろしく伝えてください。あまり無茶はしないようにと」
「……はい」
フロイントはその場を後にした。穏やかな微笑みと黒いローブ。かつてユーリスが通っていた頃とそう変わらない様子の彼は、明らかに不法侵入をしているユーリスを咎めることなく去っていった。
魔法局に報告されるだろうか。彼自身は魔法局でオメガを見下すアルファとは違うと言っていたけれど――
そこまで考えて、ユーリスはちらりと視線を上げる。視界に映ったのは、図書館に置いてある美しい装飾の大時計だった。
「時間……!」
はたと気づいて声を上げた。
アデルとアロイスとの待ち合わせは庭園だった。フロイントとどれくらい話していただろうか。そう長い時間ではなかったように思ったが、待ち合わせまでだって余裕があったわけではない。
司書の視線から逃れるようにして、慌てて図書館から出た。
案の定、庭園にはアデルとアロイスの姿があった。
薔薇のアーチの下で周囲を窺う様子のふたりが、ユーリスを捜しているのは明らかだった。
「すみません。遅くなりました」
「ユーリス先生! どこに行ってたんですか。待ち合わせ場所にいなかったから、心配しました」
「少し、図書館に」
「図書館?」
首を傾げるアデルとアロイスに、ふたりの少年たちとのやり取りを説明する。そして、誤魔化すために向かった図書館で出会ったフロイントのことも。
「うげ……、アルファがそんなに調子に乗ってるんですか?」
「リリエルのことがそんな影響を与えているとは」
「はい。私も正直驚きました。十年前、ヴィルヘルム殿下が入学されたことで、学園でのオメガの待遇は多少改善されたと思っていたのですが」
ルードヴィヒたちが卒業祝賀会という目立つ場所で、リリエルを糾弾したのがよくなかったのだろう。全校生徒の模範たるべき生徒会会長――しかも王太子が公爵令息を糾弾した。
そのことで、それまでリリエルに――自分よりも位の高いオメガに反感を持っていたアルファと、それに加担する者たちが学園のオメガたちでそのうっぷんを晴らしているのだ。
「それってリリエル様の無実を晴らしたら、元に戻りますかね」
「人の意識の問題ですから、すぐにというのは難しいかもしれません」
「う~、まじか」
自らがされた嫌がらせを思い出しているのか、アデルが盛大に顔をしかめた。隣にいるアロイスも難しい顔をしている。
「そういえば、魔力結晶はどうでしたか」
「ああ、予想通り、アデルのものだけが見つからなかった」
「そうですか」
「これで、魔獣襲撃を企てた者は魔法局か学園の上層部にいるということになる」
「はい……」
アロイスが声を潜めて言った。
「しかし、それでは王宮の発情誘発剤の件がよく分からないな。あれは侍女か下働きに協力者がいなければ上手くはいかない。……別の犯人じゃないのか?」
「え? 俺、そんなにいろんなところから命狙われているの?」
唖然とした様子のアデルがアロイスを見やる。それにアロイスはふん、と鼻を鳴らして答えた。
「可能性はなくはないだろう。それにそう考えると納得出来る部分もある」
「納得出来る部分?」
「お前は、お前を狙った三つの事件は全部同じやつが起こしたことだと思っているわけだな?」
「そうだけど……」
「だとしたらおかしいと思わないか?」
「なにが」
「……計画の緻密さが?」
アロイスの問いに答えたのはユーリスだった。それはユーリスも思っていたことだった。
三つの事件は確かにアデルを狙った者の犯行だろう。
学園での強姦未遂。玻璃宮での発情誘発剤の混入。それから魔獣の襲撃。
これらは別々の場所で起こった、別の手口の事件だが、狙われたのがアデルということもあって同一犯だと思われていた。しかし、この三つが全て同じ犯人の企てた計画だとするとおかしな点がある。
「そうだ。学園で起きた嫌がらせとアルファによる強姦未遂は、確かに悪質だが命の危険はなかった。玻璃宮の件もそうだ。しかも、これらふたつは発情誘発剤という共通点がある。しかし、やり方が違う。実行犯自らアデルを襲った稚拙な学園の事件とは違って、玻璃宮の件は薬を入れた者の足取りが掴めないように懇切丁寧に隠されている。こちらはおそらく、魔法局が真実薬を出し渋ることを分かった上でなされた犯行だろう」
ユーリスは頷いた。衝動的な学園でのやり方とは違い、玻璃宮での一件は綿密な計画を立てて行われた犯行だと分かる。
「狩猟大会での魔獣襲撃事件は粗が多すぎる上に、殺意が強い。その上アデルの力量を把握していなかった。これは衝動的とまではいかないが、そう準備に時間をかけた計画だとは思えない。しかし、学園に忍び込んで魔力結晶を盗んでいる」
ひどくちぐはぐな印象を受ける第三の事件に、アロイスは困惑した様子で眉根を寄せた。微かに考える様子を見せて、それに、と付け加える。
「俺は三つの事件は別々の人物がそれぞれの思惑を持って起こしたものと思っているが、それにしては同時期に起きすぎている気もする。仮に同一犯だとして、そんなことが可能な者がいるだろうか?」
「学園も王宮もそれぞれ独立した組織ですからね。それぞれに全て繋がりを持つ者と考えると、かなり限られてくると思います」
「じゃあ、ルートが言ってたみたいに、ヴァイスリヒト公爵とかが犯人ってこと?」
アデルが首を傾げた。しかし、その問いをアロイスは否定する。
「いや、ヴァイスリヒト公爵の手の者なら、それこそもっと上手くやるだろう。玻璃宮での件だけ見れば公爵の息がかかっていてもおかしくはないが、そもそも公爵はアデルを狙う理由がないからな」
「恨みがあるってルートは言ってたけど」
「あの方はそんなものでは動きません。それに婚約破棄の一件では、公爵閣下はリリエル様を嫁がせるよりも、ずっと大きなものを手に入れられましたから」
「大きなもの?」
「ルードヴィヒは婚約破棄の件で紛糾した貴族議会を収めるために、公爵の力を借りた。あいつは王太子として公爵に大きな借りを作ったことになる。今後、公爵には頭が上がらないだろうな」
アロイスがそう言って深く息を吐いた。
それは春に行われた貴族議会での出来事だ。リリエルとルードヴィヒの婚約解消を受けて、当然議会は荒れた。国王の御前であるというのに議会派の議員たちは声を張り上げ、一方的に婚約を解消したルードヴィヒを追及したのだ。王太子とはいえ、若輩であり騒動の発端であるルードヴィヒの力では貴族たちを収めることが出来なかった。それを宥めたのがヴァイスリヒト公爵だった。
「将来、国王の姻戚になるより手っ取り早く王太子に恩を売れたんだ。これ以上面倒くさいことをあの狸がするとは思えない」
ヴァイスリヒト家とは政敵になる、シュヴァルツリヒト家のアロイスはひどく苦い顔をした。同じようにアデルも複雑そうな顔をしている。おそらくルードヴィヒはアデルに責任を感じてほしくなくて、そのことを黙っていたのだろう。
「今の段階で犯人について議論しても話は進まない。伯爵夫人、今回学園の者と話をして何か思ったことはないか」
「思ったこと――」
これ以上の推測をするには情報が少なすぎるのだ、とアロイスは言った。だから、何か気づいたことがあればなんでもいいから話せと。
その言葉にユーリスはしばし思考する。思い返すのは、先ほど助けたオメガの少年だ。
彼は「真実薬は偽物だった」と言った。リリエルが嫉妬に狂ってアデルを襲わせるとは思えない、とも。リリエルが無実であるとすれば、その真実薬を使った証言こそが間違っている。その可能性をアロイスらは考えたことがあるのだろうか。
薬草園と魔獣舎の隅にある小さな庭。ギルベルトとヴィルヘルムがふたりでひっそりと会っていた場所だ。
校舎から続く石畳を辿ってしばらく行くと、薔薇のアーチが見える。初夏の今は、緑が生き生きと生い茂り、庭園を彩っていた。
――変わらない。
懐かしい光景を目にして、ユーリスはそう思った。
植えられている花や花壇の様子は九年の時を経て周囲の木々は大きくなっていたし、アーチに使われている薔薇も植え替えられていた。それでも、苔むした石のベンチや木々の間から降る木漏れ日は記憶の通りで、そこにある密やかな雰囲気は昔のままだ。その懐かしさにユーリスは目を細めた。
アーチをくぐり、そっと庭園の中に足を踏み入れる。花壇が並ぶ真ん中を抜けるように敷かれた煉瓦の小道を進み、石のベンチに腰掛ける。ベンチのそばにはアカシアの木が植えてあり、しなる緑の葉が零れ落ちるようだった。春にはきっとたっぷりとした黄色い花を咲かせていたことだろう。
ようやく人心地ついた気になって、息を吐く。ここに来るまでの怒涛のような時間を思う。そして、自分の格好を改めて見て、ユーリスは苦笑した。
――制服を着て、学園に忍び込むなんて。
これまで型にはまったような穏やかな生活しかしてこなかったユーリスには、思い付きもしないことだ。アデルと一緒にいると、予想もしなかったことをたくさん経験することが出来る。
借り物のローブのフードをやっと取って、ユーリスは空を仰いだ。目を瞑ると夏の風がその白い頬を撫でる。大陸の北に位置するシュテルンリヒトでは、真夏でもそう気温は上がらないものだ。日向では多少汗ばんでも、木陰に入り風が吹けばとても過ごしやすい。
ひとけがなく、静かで、穏やかだ――
そう思っていると、不意に人の気配がした。慌ててローブを被り直して、ベンチの陰に身を隠した。誰かに見つかるのはまずいと判断したからだ。
いくら制服を着ているとはいえ、ユーリスはもう二十七歳だ。遠目には誤魔化せても、近くで顔を合わせれば、さすがに学生ではないとばれてしまうだろう。
――このまま、やり過ごせればいいけれど。
そう思って息を潜めて窺っていると、何やら言い争う声が聞こえてくる。
言い争う――否、片方が一方的に相手を罵倒しているのだ。こちらに向かってくるのは、どうやらふたりの学生のようだった。体格のいい少年が小柄で細身の少年の腕を掴んで、無理やり引きずるように庭園の方にやってくる。小柄な少年は首に首環をつけていた。――オメガだ。
「おい! なんでお前の方が――」
「そんなこと、言われても――」
距離があって、会話の内容をはっきりとは聞き取れない。しかし、聞こえてきた断片を繋ぎ合わせると、どうやら背の高い少年の方はアルファで、オメガの少年に何かの成績を抜かれてしまったらしい。それが許せなかったアルファの少年がオメガの少年を、こんなひとけのないところに呼び出して理不尽に責め立てているらしかった。
当然、オメガの少年はそんなことを言われても困る、と答えた。成績は少年が評価するものではなく、教師がするものだ。彼が努力してよい成績を取ったからといって、アルファに責められる謂れはない。果敢にもそうはっきりとアルファに向かって言い切った。
しかし、そんな正論はアルファには関係ないことだ。
遠目に見ても興奮したアルファの少年は、顔を真っ赤にして拳を振り上げた。ふたりのやり取りから同学年らしいと判断したが、とはいえその体格はまったく違う。ユーリスよりも細くて小柄なオメガの身体は、殴られれば簡単に吹き飛ぶだろう。
ユーリスの躊躇いは一瞬だった。気がつけば立ち上がり、今にも殴りかかりそうなアルファの少年の前に飛び出していた。
「こんにちは、いい天気ですね」
握りしめられていた拳は、ユーリスの鼻先で止まった。当然、少年たちは呆気にとられたようにユーリスを見た。こんなところに自分たち以外の人がいるとは思わなかったのだろう。
近くでよくよく見ると、やはりアルファらしい少年だった。背が高く、ローブ越しでも逞しい筋肉がよく分かる。学園を卒業すれば、騎士団にでも入団しそうな体格だ。しかし、当然まだ十代らしく幼さを残した顔つきをしており、ギルベルトを見慣れているユーリスにとってはそう恐ろしいものでもない。
ユーリスが柔らかい微笑みを浮かべると、少年は微かに眦を赤らめた。突然の闖入者に戸惑っているのかもしれない。
「な、なんだ、あんた」
何か用か、と聞かれ、ユーリスはさらに笑みを深めた。
「いえ、特に用があるというわけでは。あちらの庭園で休んでいたら、あなたたちの声が聞こえてきましたので」
そう言ってちらりと背後を見ると、庇われた少年は真っ青な顔でユーリスを見ていた。
「どんな理由があっても、暴力はいけませんよ」
いきなり殴りかかるなんて、相手が誰であれ、どんな理由があっても駄目に決まっている。怯え切ったオメガの少年は、ユーリスが止めに入らなければ、無抵抗のまま殴られていたはずだ。
興奮し切ったアルファの少年はようやく状況を呑み込めた様子だった。目の前の相手を、頭のてっぺんから足先まで値踏みするように見て、眉根を寄せる。そして、ユーリスの首元に目を止め、吐き捨てた。
「お前、オメガか」
「はい。そうですよ」
少年が見ているのは、ユーリスがはめているアメジストの首環だ。
途端、少年をぴりりとした空気が包んだ。彼を取り巻くそれは、アルファが出す威嚇フェロモンによく似ていた。しかし、まだ幼さのある彼はアルファとしては未熟だった。
耐え切れないほどではない圧を受けて、ユーリスはひっそりと思う。
――最近、僕こういうのばっかりだな……
ここ数か月で、怒り狂うアルファと対面することのなんと多いことか。自分が置かれている状況に、ユーリスは心の中で嘆息した。しかし、だからといって怯むことはなかった。しっかりとアルファの目を見据え、穏やかな口調で言う。
「成績を抜かされたのは、彼のせいではないでしょう?」
「な、なんだと!?」
「評価するのは先生方なのですから、彼に文句を言うよりもご自分で努力することをお勧めします」
それから、と付け加えて握りしめられたアルファの手を取った。少年の手はユーリスよりもずっと大きかった。手のひらには微かに胼胝があり、彼が日常的に剣を握っていることが分かる。ひょっとしたら、すでに騎士候補生なのかもしれない。
「王国の魔法騎士になるのでしたら、自分よりも弱い者を殴ってはいけませんよ。あなたの手は守るための手なのですから」
少なくとも、ユーリスの身近にいる騎士――ギルベルトはそういう人だ。永遠の愛を誓った人が別にいても、番の自分を守ろうとしてくれる優しい人。
騎士になるのであれば、出来ればそうあってほしい。どうしても力では勝てないオメガ相手に殴りかかってくるような、そんなアルファになってほしくはなかった。
そう言って自分の手を握る、見ず知らずのオメガを少年はどう思ったのだろうか。
しばしの沈黙の後、いきなり手を振り払って踵を返した。最初はよろめきながら、けれど途中から全速力で走り出した彼をユーリスは呆気にとられて見ていた。
勝手にその手に触れてしまったから、背後の少年の代わりに一発ぐらい殴られるかもしれないと思っていたのに。殴るどころかずっと無言で、罵倒のひとつもなかった。見送った彼の耳が真っ赤だったのは、言葉にならない怒りのためかもしれない。
「すごい……」
アルファの少年が見えなくなってから、オメガの少年が呟いた。
「追い払っちゃった」
「大丈夫ですか?」
「あ、はい。ありがとうございます」
振り向くと、少し目線を下げたところにある双眸と視線が絡む。
ぺこりと頭を下げる少年は、やはりユーリスよりも細身で小柄だ。怯えたような榛色の瞳は小動物を思わせて、その体躯も相まって可愛らしい印象を受ける。
「でも、また絡まれるかもしれませんから、あまりひとりにはならないようにしてくださいね」
「そうですね。気をつけてたつもりだったんですけど、力ずくで引きずられたら勝てないや。あいつ、一年生のときから何かと絡んでくるんですよ。去年までは俺たちにも過ごしやすくて、こんなこともなかったんですけど」
諦めたように笑う少年に、ユーリスは息を呑む。
ユーリスが学園に通っていた頃、そんなことは一度もなかった。おそらく、ヴィルヘルムという圧倒的に身分の高いオメガが在籍しており、表立ってオメガを攻撃することが出来なかったのだ。
「去年までは、違ったんですか?」
「はい。去年まではヴァイスリヒト公子がいましたから。アルファに理不尽に絡まれないように守ってくださってたんです」
ユーリスの問いに少年が答えた。
「でも、卒業のときにあんなことになってしまって……」
「なるほど」
王族を除けば、リリエルはこの国で最も身分の高いオメガということになる。そんなリリエルが起こした不祥事は、色々なところに影響しているようだった。
「ヴァイスリヒト公子は、どんな方でしたか?」
「え、と。俺は遠目にしか見たことはないんですけど、少し冷たい感じのとても綺麗な人でしたよ」
冷たい感じ。素直にそう表言した少年に、ユーリスは小さく笑う。
リリエルの輝くような白銀の髪と紫色の瞳は、その人形めいた美貌と相まって宝石のような硬質な美しさがあった。けれど、冷たいだけの人柄ではないのは、アデルやアロイスが必死に彼の無実を証明しようとしているところからも感じられる。
目の前の少年も考えるそぶりをしながら、でも、と付け加えた。
「俺たちのことをいつも気にかけてくれていました。あの方は学園に通っているオメガを全員覚えていて、常に何か不便がないかと……」
「そうですか」
「だから、あの方が嫉妬に狂ってアデル・ヴァイツェンをアルファに襲わせたなんて絶対嘘ですよ」
「……え」
少年の口にした言葉にユーリスは絶句する。確か、その話はリリエルの名誉のため箝口令が敷かれ、関係者にしか知られていないとルードヴィヒが言っていたはずだ。それなのに、どうしてこの少年が知っているのだろうか。
動揺するユーリスに気づいたのだろう。少年は不思議そうな顔をしてユーリスを見る。
「学園の生徒なら誰でも知ってますよ。それくらいの事件でしたから」
狭い学園の中だ。それなりの騒動が起こり、生徒会が調査をしたのであれば、学生の間で噂が広がるのは当然のことだった。ただ、ヴァイスリヒト家の手前、学園の外に漏らしてはいけないと誰もが口を噤んでいるに過ぎないのだ。ひょっとしたら、ユーリスやルードヴィヒが知らないだけで、社交界でも囁かれているのかもしれない。
「俺は、あの真実薬が偽物だったんだって思ってます」
「真実薬……を使ったことまでみんな知っているんですか?」
「これは、みんなは知らないかも。俺、魔法薬学の授業を取ってて、調薬室で真実薬の材料を見ちゃったんでたまたま知ったんです」
「材料を見ただけでなんの薬を作るか分かるんですか?」
「いいえ。珍しい薬草や材料がたくさんあったんで、先生に聞きました」
「そうですか……」
真実薬を用意したのはライナルトだと聞いた。いくら学園で製造したとしても、多くの生徒の目につく場所に材料を置いておくだろうか。微かなひっかかりを覚えて、ユーリスが思案していると、少年がじっとユーリスを見つめた。
「あの、上級生ですよね? あれ、でもネクタイ、紺色……?」
学園では有名な「噂話」。それを知らない様子のユーリスを不思議に思ったのだろう。
窺うような少年の言葉に、ユーリスははっとする。アデルから借りたネクタイは濃紺だ。それは、去年卒業したアデルたちと入れ替わりに入学した一年生を示す色だ。困惑している少年の様子に、ユーリスは慌ててネクタイを外した。どう見ても年上の自分が、一年生のネクタイをしているのは明らかにおかしい。
「んんッ、おかしいな、ネクタイ弟のものを間違ってしてきちゃったかな……」
「弟さんがいるんですか?」
「そう、そうなんですよ。間違ってしまったみたいですね」
ユーリスは、はは、と乾いた笑いを漏らす。少年は少し首を傾げてはいたが、どうやら上手く誤魔化されてくれたようだった。
そんな少年にユーリスは安堵すると同時に、何やら複雑な気持ちになった。これだけ近くで会話して、よくもまあ学生だと思ってくれたものだ。純粋そうな彼に嘘をつくのは胸が痛んだが、正直に話すわけにもいかない。
それに、ユーリスに弟がいるのは本当だ。まぁ、その弟ももう二十歳をとうに過ぎているけれども。
その後、現在の学園の様子を少し聞いて、ユーリスは少年と別れた。
そのまま薬草園に向かうと言う彼と別の方向に行くために、来た道を戻る。校舎の中に入り、人目を避けて歩くと、自然と図書館の方に足が向いた。図書館はいつだって目的がある者しかやってこない。本棚の陰に身を潜めていると、隠れるのだって簡単だ。
今度は魔法薬学の本でも調べようか。アデルらとの待ち合わせまではまだ少し時間があった。それまでに庭園に戻ればいい。そう思って、ユーリスは並ぶ分厚い本の背表紙を撫でていく。
学園の図書館は広い。その中に収められた膨大な蔵書を適切に管理するために本棚にはひとつひとつ番号が振られ、どの種類のどのような本がどこにあるのかが分かりやすく分けられている。
魔法薬学の本は授業で使うこともあり、よく目立つ入り口近くの棚に収められていた。
「真実薬、真実薬……」
背表紙を指で辿りながら、ユーリスは先ほどの少年の言葉を思い返していた。
少年は、学園が去年よりも過ごしにくくなったと言っていた。リリエルがあんな形でいなくなり、オメガを軽んじる風潮が強まってしまった。成績や些細な態度でアルファやベータに理不尽に絡まれては、口汚く罵られたり殴られたりする。それはまるでこの国の縮図のようで、胸が苦しくなる。
提出した卒業論文が気に食わないと目をつけられたアデルや、密室で殴られたユーリス。同様のことが安全なはずの学園でも起きているのだ。
それはあまりよくない変化だ。社交界や王宮がオメガにとって過ごしにくい場所であることは、昔からずっと変わらない。けれど、ヴィルヘルムが入学したことで改善したはずの学園でのオメガの待遇が、明らかに悪くなっている。
ぼうっとしたまま、ユーリスは本を捜す。豪奢な装丁の魔法書は重たくて、とても大きい。そういえば、ライナルトはどの本を読んでいたのだったか。微かに興味を惹かれ、あの図鑑のような本を捜そうと思い立ったそのときだった。
たまたま隣で同じように本を捜していた人物と肩がぶつかる。それに気づいてユーリスは慌てて顔を上げた。
「あ、すみません」
「いや、こちらこそ――」
しっかり目が合った。今は授業中で、よほどのことがない限り、学生とはすれ違わない。そのことにユーリスは、ようやく気がついた。先ほどのふたりの少年は、どうやら授業をさぼっていたらしい。
ユーリスとぶつかったのは、学生ではなかった。黒いローブは制服と同じものだが、それには金の装飾がついており、相手が王宮に出入り出来る身分であることを示していた。
「……ユーリス・ヨルク・ヒンメル?」
そう呟いた人物は、その穏やかな榛の目を驚愕に見開いた。
「フ、フロイント先生……」
両手で顔を覆ってユーリスは相手の名前を呼び返す。
――ああ、やはり自分にはこういうことは向いていない。
この広い魔法学園で、どうして見知った教員に出会うのだろう。
九年前から確かに年月を重ねた教師の顔を見て、ユーリスはがっくりと肩を落とした。
フロイントは今も魔法学概論と魔法薬学の授業を担当していると言った。
魔法薬学は三年生からの選択科目であるが、魔法学概論は一年生の必修教科だ。それ故、彼は学園のほとんどの生徒と触れ合う立場にある。それはユーリスが在籍していた頃も変わらず、ユーリスはこの穏やかで理知的な教師にそれなりに世話になった。
教員たちは生徒の二次性よりも魔法の素質を重視する傾向にあるが、フロイントはそうではなかった。全ての生徒に親切で丁寧な対応をしてくれる、珍しい教員だった。
「今は、ローゼンシュタイン伯爵夫人だと聞いていますが、そんな格好で何をしているんですか?」
「……これには少々、複雑な事情がありまして」
自分のことを知る相手にまじまじと見つめられ、ユーリスは視線を逸らした。
とうに成人したユーリスが制服を着ているからといって、揶揄うような人物ではない。けれど、今はそれがかえって辛く居たたまれない。
「ああ、アデル・ヴァイツェンですか?」
「うッ……」
「教育係になったと」
さすが、長年教員をしているだけある。アデルのことも在学中からよく知っているのだろう。フロイントはヴァイツェンは昔から無茶をする、と苦笑した。
「何かと騒動の中心にいる子ですからね」
まったくもってその通りである。しかし、彼が言っているのは楽しい学生の悪戯の話ではないのだろう。昔より皺の増えた顔には確かな疲労が見て取れる。
「ここ数日は例の魔獣事件でてんやわんやでした」
「そうでしょうね。先生は魔法局の方も兼任しておられますから」
ユーリスの言葉にフロイントは頷いた。かつては一講師でしかなかった彼は、今では魔法局に所属する王宮魔法使い副長であり、この学園の副校長を務めていた。爵位は侯爵。名実ともに立派な貴族だ。
そのため、魔法局の大失態とも言える件の魔獣襲撃事件の後始末のために大忙しなのだろう。彼らがどれほど真面目に事件を調査しているかは分からないが、少なくとも騎士団からの圧力はあるはずだった。
しかし、フロイントは穏やかな雰囲気を崩さない。
「ヒンメルも巻き込まれたと聞きましたが、大丈夫でしたか?」
「はい。アデル様がすぐに魔獣を拘束してくださいましたから」
「そうですか。それにしても、あれほどの魔獣を拘束してしまえる優秀な魔法使いが、学園の卒業生であるのは頼もしいことです」
そう言って笑うフロイントは、実際にあの場にいたのだろうか。高位貴族で、魔法局の重鎮だ。狩猟大会の会場にいたとしても何もおかしなことはない。
「先生の目から見ても、アデル様はやはり相当優秀な魔法使いなのですか」
「そうですね。私は長く教員をやっていますが、ヴァイツェンほど様々な魔法を使える魔法使いには会ったことがありません。少々、無茶をする傾向はありますが」
「思い切りが良すぎる方ですので……」
「はは、まったくその通りですね。しかし、光魔法の適性と、複数の属性を組み合わせた創作魔法においてはこの国でヴァイツェンの右に出る者はいない。それほどの魔法使いを未来の王妃として戴くのは、光栄なことです」
フロイントの言葉に、ユーリスは驚いた。彼がひとりの魔法使いとして、アデル・ヴァイツェンという魔法使いの実力を認めていることもそうだが、アデルが王太子妃――つまり、未来の王妃になることに少しの抵抗も感じていない様子だったからだ。
「フロイント先生は、魔法局の方ですのにアデル様が王太子妃になられることに反対ではないのですか」
もとより、フロイントは二次性で差別をするような教師ではなかった。けれど、それでも彼は王宮魔法使い副長であり、魔法局の人間だ。なんの含みもないのだろうかと疑ってしまうのは仕方のないことだ。
窺うようなユーリスの問いに、フロイントは目を瞬かせた。穏やかな榛色の瞳は、シュテルンリヒトの半数以上の国民が持っている色だ。
「ヒンメルは反対なのですか?」
「私はアデル様に立派な王太子妃になっていただきたいと思っております」
「私もです。魔法局のオメガ性への当たりの強さは存じていますが、全てのアルファがそうであるとは限らないのですよ」
微笑んだままでそう言った教師は、ようやく目当ての本が見つかったのだろう。ユーリスよりも高い位置にある本を数冊手に取った。
「授業の準備ですか?」
「いいえ。個人的な研究の調べものです」
「そうですか」
「ではヒンメル。またそのうちお会いすると思いますが、ヴァイツェンによろしく伝えてください。あまり無茶はしないようにと」
「……はい」
フロイントはその場を後にした。穏やかな微笑みと黒いローブ。かつてユーリスが通っていた頃とそう変わらない様子の彼は、明らかに不法侵入をしているユーリスを咎めることなく去っていった。
魔法局に報告されるだろうか。彼自身は魔法局でオメガを見下すアルファとは違うと言っていたけれど――
そこまで考えて、ユーリスはちらりと視線を上げる。視界に映ったのは、図書館に置いてある美しい装飾の大時計だった。
「時間……!」
はたと気づいて声を上げた。
アデルとアロイスとの待ち合わせは庭園だった。フロイントとどれくらい話していただろうか。そう長い時間ではなかったように思ったが、待ち合わせまでだって余裕があったわけではない。
司書の視線から逃れるようにして、慌てて図書館から出た。
案の定、庭園にはアデルとアロイスの姿があった。
薔薇のアーチの下で周囲を窺う様子のふたりが、ユーリスを捜しているのは明らかだった。
「すみません。遅くなりました」
「ユーリス先生! どこに行ってたんですか。待ち合わせ場所にいなかったから、心配しました」
「少し、図書館に」
「図書館?」
首を傾げるアデルとアロイスに、ふたりの少年たちとのやり取りを説明する。そして、誤魔化すために向かった図書館で出会ったフロイントのことも。
「うげ……、アルファがそんなに調子に乗ってるんですか?」
「リリエルのことがそんな影響を与えているとは」
「はい。私も正直驚きました。十年前、ヴィルヘルム殿下が入学されたことで、学園でのオメガの待遇は多少改善されたと思っていたのですが」
ルードヴィヒたちが卒業祝賀会という目立つ場所で、リリエルを糾弾したのがよくなかったのだろう。全校生徒の模範たるべき生徒会会長――しかも王太子が公爵令息を糾弾した。
そのことで、それまでリリエルに――自分よりも位の高いオメガに反感を持っていたアルファと、それに加担する者たちが学園のオメガたちでそのうっぷんを晴らしているのだ。
「それってリリエル様の無実を晴らしたら、元に戻りますかね」
「人の意識の問題ですから、すぐにというのは難しいかもしれません」
「う~、まじか」
自らがされた嫌がらせを思い出しているのか、アデルが盛大に顔をしかめた。隣にいるアロイスも難しい顔をしている。
「そういえば、魔力結晶はどうでしたか」
「ああ、予想通り、アデルのものだけが見つからなかった」
「そうですか」
「これで、魔獣襲撃を企てた者は魔法局か学園の上層部にいるということになる」
「はい……」
アロイスが声を潜めて言った。
「しかし、それでは王宮の発情誘発剤の件がよく分からないな。あれは侍女か下働きに協力者がいなければ上手くはいかない。……別の犯人じゃないのか?」
「え? 俺、そんなにいろんなところから命狙われているの?」
唖然とした様子のアデルがアロイスを見やる。それにアロイスはふん、と鼻を鳴らして答えた。
「可能性はなくはないだろう。それにそう考えると納得出来る部分もある」
「納得出来る部分?」
「お前は、お前を狙った三つの事件は全部同じやつが起こしたことだと思っているわけだな?」
「そうだけど……」
「だとしたらおかしいと思わないか?」
「なにが」
「……計画の緻密さが?」
アロイスの問いに答えたのはユーリスだった。それはユーリスも思っていたことだった。
三つの事件は確かにアデルを狙った者の犯行だろう。
学園での強姦未遂。玻璃宮での発情誘発剤の混入。それから魔獣の襲撃。
これらは別々の場所で起こった、別の手口の事件だが、狙われたのがアデルということもあって同一犯だと思われていた。しかし、この三つが全て同じ犯人の企てた計画だとするとおかしな点がある。
「そうだ。学園で起きた嫌がらせとアルファによる強姦未遂は、確かに悪質だが命の危険はなかった。玻璃宮の件もそうだ。しかも、これらふたつは発情誘発剤という共通点がある。しかし、やり方が違う。実行犯自らアデルを襲った稚拙な学園の事件とは違って、玻璃宮の件は薬を入れた者の足取りが掴めないように懇切丁寧に隠されている。こちらはおそらく、魔法局が真実薬を出し渋ることを分かった上でなされた犯行だろう」
ユーリスは頷いた。衝動的な学園でのやり方とは違い、玻璃宮での一件は綿密な計画を立てて行われた犯行だと分かる。
「狩猟大会での魔獣襲撃事件は粗が多すぎる上に、殺意が強い。その上アデルの力量を把握していなかった。これは衝動的とまではいかないが、そう準備に時間をかけた計画だとは思えない。しかし、学園に忍び込んで魔力結晶を盗んでいる」
ひどくちぐはぐな印象を受ける第三の事件に、アロイスは困惑した様子で眉根を寄せた。微かに考える様子を見せて、それに、と付け加える。
「俺は三つの事件は別々の人物がそれぞれの思惑を持って起こしたものと思っているが、それにしては同時期に起きすぎている気もする。仮に同一犯だとして、そんなことが可能な者がいるだろうか?」
「学園も王宮もそれぞれ独立した組織ですからね。それぞれに全て繋がりを持つ者と考えると、かなり限られてくると思います」
「じゃあ、ルートが言ってたみたいに、ヴァイスリヒト公爵とかが犯人ってこと?」
アデルが首を傾げた。しかし、その問いをアロイスは否定する。
「いや、ヴァイスリヒト公爵の手の者なら、それこそもっと上手くやるだろう。玻璃宮での件だけ見れば公爵の息がかかっていてもおかしくはないが、そもそも公爵はアデルを狙う理由がないからな」
「恨みがあるってルートは言ってたけど」
「あの方はそんなものでは動きません。それに婚約破棄の一件では、公爵閣下はリリエル様を嫁がせるよりも、ずっと大きなものを手に入れられましたから」
「大きなもの?」
「ルードヴィヒは婚約破棄の件で紛糾した貴族議会を収めるために、公爵の力を借りた。あいつは王太子として公爵に大きな借りを作ったことになる。今後、公爵には頭が上がらないだろうな」
アロイスがそう言って深く息を吐いた。
それは春に行われた貴族議会での出来事だ。リリエルとルードヴィヒの婚約解消を受けて、当然議会は荒れた。国王の御前であるというのに議会派の議員たちは声を張り上げ、一方的に婚約を解消したルードヴィヒを追及したのだ。王太子とはいえ、若輩であり騒動の発端であるルードヴィヒの力では貴族たちを収めることが出来なかった。それを宥めたのがヴァイスリヒト公爵だった。
「将来、国王の姻戚になるより手っ取り早く王太子に恩を売れたんだ。これ以上面倒くさいことをあの狸がするとは思えない」
ヴァイスリヒト家とは政敵になる、シュヴァルツリヒト家のアロイスはひどく苦い顔をした。同じようにアデルも複雑そうな顔をしている。おそらくルードヴィヒはアデルに責任を感じてほしくなくて、そのことを黙っていたのだろう。
「今の段階で犯人について議論しても話は進まない。伯爵夫人、今回学園の者と話をして何か思ったことはないか」
「思ったこと――」
これ以上の推測をするには情報が少なすぎるのだ、とアロイスは言った。だから、何か気づいたことがあればなんでもいいから話せと。
その言葉にユーリスはしばし思考する。思い返すのは、先ほど助けたオメガの少年だ。
彼は「真実薬は偽物だった」と言った。リリエルが嫉妬に狂ってアデルを襲わせるとは思えない、とも。リリエルが無実であるとすれば、その真実薬を使った証言こそが間違っている。その可能性をアロイスらは考えたことがあるのだろうか。
50
お気に入りに追加
3,180
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
『別れても好きな人』
設樂理沙
ライト文芸
大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。
夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。
ほんとうは別れたくなどなかった。
この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には
どうしようもないことがあるのだ。
自分で選択できないことがある。
悲しいけれど……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
登場人物紹介
戸田貴理子 40才
戸田正義 44才
青木誠二 28才
嘉島優子 33才
小田聖也 35才
2024.4.11 ―― プロット作成日
💛イラストはAI生成自作画像
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
番を辞めますさようなら
京佳
恋愛
番である婚約者に冷遇され続けた私は彼の裏切りを目撃した。心が壊れた私は彼の番で居続ける事を放棄した。私ではなく別の人と幸せになって下さい。さようなら…
愛されなかった番
すれ違いエンド
ざまぁ
ゆるゆる設定
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。