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1巻
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「まさか、握手が原因であるとは誰も気づきませんでした」
「今までの教育係との顔合わせの場には、誰も同席しなかったのですか」
「騎士は基本的に部屋の中に入ることは許可されておりません。ルードヴィヒ殿下もご公務がお忙しく、今回もずいぶん無理をして時間をお作りになりました。玻璃宮をお訪ねになったのは久方ぶりと聞き及んでおります」
「なるほど……」
あの鳥籠のような離宮で、たったひとりきり。
愛する王太子とともに歩む輝く未来のためだとしても、これまで生きていた世界とはまったく常識が違う上に、四面楚歌のような場で過ごしてきたのだ。
成人したとはいえ、アデルはまだ十八歳。青年と言うには少々幼い印象の残る、可愛らしい顔を思い出して胸が痛んだ。
ユーリスは、一瞬それをとても気の毒だと思った。
けれど――
「……アデル様のお力になれるように、全力を尽くします」
色々な思いに蓋をして、ユーリスはそれだけを口にした。
ユーリスが何を感じ、何を思ったとしても、結局のところ出来ることは限られている。
――アデルに王太子妃教育を施すこと。
勅命により、無理やり押し付けられた役目ではあるが、引き受けた以上ユーリスにはやり遂げる責任があった。
婚礼までの一年。それまでの間、アデルの気が変わらなければ、ずっとユーリスはアデルのそばに控え教育を施すことになる。
ユーリスがあの玻璃宮でかつて学んだことの全てを、玻璃宮で教えるのだ。
しかも、その場にはまたギルベルトもいるのだという。その奇妙な偶然が、ユーリスにとってはまるで運命の悪戯のように感じられた。
「……あの」
「なんでしょうか」
「そろそろ、手を離していただけますか……」
ギルベルトが話し終えて数分後、ユーリスはとうとうそう口にした。
話し終えてもずっと手を握りしめられたままだったのだ。そろそろ心臓が限界を迎えそうだった。
どくどくと早鐘を打つ心臓のせいで、顔がひどく熱い。きっと耳まで真っ赤になっている。
「すみません」
そう謝罪の言葉を口にして、ギルベルトはあっさり手を離した。
握っていたことをうっかり忘れていた、と言わんばかりの無表情に、ますますユーリスは困惑する。それから、離れていく体温にほっと息をついた。そこには安堵と少しの名残惜しさが込められている。
ギルベルトにいったい、どんな意図があってこんな行動をとったのかさっぱり理解出来なかったが、とにかくユーリスには刺激が強すぎた。
だというのに、ギルベルトはさらなる追い打ちをかけてくる。彼はゆうに頭ひとつ分は下にあったユーリスの耳元に、ぐっと顔を近づけてきたのだ。
「ユーリス」
「は、はい」
耳元で名前を囁かれて肩が跳ねた。こんなに近くで呼びかけられたことなんて、おそらく今まで一度もないはずだ。
「明日から、私が玻璃宮の警護につくこともあります。私は室内に入る許可を得ておりますので、何かあればすぐにご相談ください」
「はい……」
「では、失礼します」
それだけを言って、ギルベルトは踵を返した。
向かう先はおそらく本館の、彼の執務室だろう。別館に戻るユーリスとは方向が違うので、別々に戻るのは当たり前のことだ。
翻る濃紺のペリースが玄関扉の奥へと消えても、ユーリスはしばらくその場を動けなかった。
春だというのに、もう汗ばむほどに暑かった。薄いサテン生地の首環をはめた首筋に、じんわりと汗をかいている。
早く戻って、ミハエルを抱きしめてやらなければならないと思う。生まれてから、ほとんどユーリスと離れたことのないミハエルは、母と離れてきっと寂しがっている。
子育てに慣れた別館付きの侍女たちがいるとはいえ、朝の別れ際も泣き叫んでいたし、明日からだってしばらくはゆっくり相手をしてあげられないのだから。
そう思うのに、ユーリスの足はその場に縫い付けられたかのように動かない。
手に残るギルベルトの温もりと、甘いアルファの匂い。
普段、発情期のときしか触れ合うことのないそれらは、ユーリスの心を切なく締め付ける。
結婚してから、ユーリスはギルベルトと三か月ごと――それも、理性がぐずぐずに溶けた発情期しか顔を合わせないという生活を、三年間も送ってきたのだ。
一昨日と今日の二日間、彼と会い、あまつさえ会話までしたことは、ユーリスの中でどう考えてもギルベルトの過剰摂取だ。
手まで握ってしまって、今もまだ匂いが残っている。
よく心臓が止まらなかったものだとユーリスは思った。
だというのに、明日からも出仕先が――職場が一緒だという。
――あの頃だって、毎日毎日心臓が爆発しそうだったのに。
玻璃宮でのこれからを思って、眩暈がするようだった。
* * *
ユーリスがギルベルトと初めて出会ったのは、今から十二年前――十五歳のときだった。
当時、ユーリスは侍従として王宮に出仕していた。
仕えていた主はシュテルンリヒト王国の第一王子ヴィルヘルム・フリードリヒ・シュテルンリヒト。現在の王太子ルードヴィヒの七つ年上の実兄であり、元王太子であった王子だ。
ヴィルヘルムが廃位され、まだ幼いルードヴィヒが王太子に選ばれた理由は単純明快だった。
――彼は、王国に百年ぶりに生まれたオメガの王子だったのだ。
シュテルンリヒト王国は建国より数百年、アルファを中心に繁栄を築いてきた。
王は当然のこと、王の子を産む国母たる王妃も歴代全てがアルファで、生まれてくる王子王女たちも、その多くがアルファだ。ごく稀にベータの王族が生まれることもあったが、彼らはみな臣下に下り、王家はアルファの血を濃く残していった。
そんな王国の中枢で起こったとある大事件によって、ユーリスはヒンメル家の屋根裏部屋を出て王宮に召集されることになった。
それは当時、王太子であったヴィルヘルムの二次性判定の儀式だ。
厳かな国教会で彼の血を垂らした水盤が、銀色に光り輝いたときの周囲の衝撃はどれほどのものだったのだろうか。
王妃の産んだ第一王子。勉学や剣術、教養など全ての分野に優れ、性格も明るく穏やか。そんななんの瑕疵もない王太子の二次性がオメガであるとは。
王家には生まれないはずのオメガの王子は、判定の儀の次の日にはあっさりと廃位され、幾度かの暗殺未遂事件を経て玻璃宮に閉じ込められた。そんな彼の身の周りの世話をするべく集められたのが、ユーリスたちオメガの貴族令息たちだったのだ。
当時、オメガが王宮に出仕することは国法では認められていなかった。王宮内に勤めている者は、騎士はもちろん、王宮魔法使いや文官に至るまでそのほとんどがアルファで占められていた。
そんな中で、オメガであるユーリスが侍従として王宮に出仕出来たのは、全てヴィルヘルムのおかげだった。
彼がオメガであり、自らの侍従としてオメガ性の者が欲しいと国王夫妻に訴え出てくれたからこそ、ユーリスは彼の侍従になれたのだ。
ヴィルヘルムはルードヴィヒによく似た金髪とシュテルンリヒト人らしい緑色の瞳を持った美しい人だった。それと同時に、とても頭のいい心の強い人でもあった。
だからこそ、ユーリスを始めとするオメガたちを取り巻く環境に心を痛めていたのかもしれない。
「調べてみたら僕は別に王国史上初めての王家のオメガではなかったよ。百年ほど前にオメガ性の王子がいたらしい。それはそうだろうね。統計的にある程度の割合でオメガが生まれることは分かっている。王家がいくらアルファの多い血筋とはいえ、どこかでオメガが生まれるに決まっている」
そう言って笑っていたヴィルヘルムは、決して自らの境遇を嘆いたりはしなかった。
玻璃宮に閉じ込められてもなお、それまでと変わらず国法を学び、領地経営を、魔法を学んでいた。
そんなヴィルヘルムが王立魔法学園に通いたいと言い出したのは、当たり前のことだったように思う。
当時も魔法学園はオメガの生徒を受け入れてはいた。しかし、それは「入学を禁じていない」ということに過ぎず、決して歓迎されるわけではなかったし、アルファやベータの学生たちとは違い入学は義務ではなかった。
生家が魔法学園に通うこと自体を許さず、望んでも通えないオメガも多かったのだろう。
だが、愛する息子の不遇に誰よりも心を痛めていた国王は、ヴィルヘルムの望みを叶えようとした。そのために、彼と同い年のまだ幼い騎士たちを集めたのは、ヴィルヘルムが魔法学園に入学する二年前のことだ。
閉ざされた玻璃宮の中とは違い、学校に通うために外に出るのであれば、護衛の騎士が必要になる。しかし、シュテルンリヒトにオメガの騎士はおらず、必然的に騎士はアルファかベータになる。
成人したアルファの騎士をオメガのヴィルヘルムに付けることを嫌がったのは、彼の母たる王妃だったという。
王国騎士団の騎士見習いたちは、最も早くて十三歳で入団を許される。
そこで王妃はまだ性的に成熟していない年齢のアルファたちを集めて、騎士見習いとしてヴィルヘルムに仕えさせた。それに十三歳であれば当時のヴィルヘルムと同い年である。魔法学園内でも同じ授業を受けられるため、護衛には最適と判断されたのだ。
その騎士見習いたちのひとりがギルベルトだ。
ギルベルトは代々、王家の近衛騎士を務めてきたローゼンシュタイン家の代表として玻璃宮にやってきた。
初めて顔を合わせたときのことを、ユーリスは昨日のことのように鮮明に覚えている。
玻璃宮の応接室にずらりと並んだ十三、四歳の少年たち。彼らはアルファといえどもまだ幼く、小さな体に騎士服を纏って、緊張した様子でそこに跪いていた。
その中で、一等目を惹いたのがギルベルトだった。
明らかに異国の血が混ざった栗色の髪に、紫色の瞳。
ヴィルヘルムへ向けた最敬礼が解かれ、幼い騎士たちが顔を上げた瞬間、ユーリスは雷に打たれたような衝撃を受けた。
シュテルンリヒトの国民の多くは、薄茶色か亜麻色の髪に榛色の瞳をしている。ユーリスやアデルのような緑の瞳も、ルードヴィヒのような青い瞳も貴族には多く、珍しいわけではない。
そんな見慣れた色の中に交ざった、異質で、けれどとても美しい紫。
栗色の髪と紫の瞳は隣国ファイルヒェン王国の色である。数代前にファイルヒェンと婚姻を結んだ貴族がいたと聞いたことがあったが、それがローゼンシュタイン家だったのだ。
ユーリスにとって衝撃だった出会いを、きっとギルベルトは欠片も覚えていないだろう。
そのときのユーリスは、騎士たちにとってヴィルヘルムを囲む侍従のひとりに過ぎなかっただろうし、そもそも職場が同じとはいえ、一介の侍従が騎士たちとそう親しく出来たわけではない。
幼くともアルファである彼らは、ヴィルヘルムや侍従たちへの直接の接触を禁じられており、たまに交わす言葉と言えば最低限の業務連絡くらいであった。その上、その数少ない業務連絡すらも大抵は筆頭侍従がその役を担っていた。
それでも応接室の片隅にギルベルトが控えていれば、つい視線がそちらに向いてしまう。
――珍しくて綺麗な目と髪をしているから、気になってしまうのだろうか。
最初は、そんな風に思っていた。
しかし、その感情がもっとはっきりとした憧憬を孕んだのは、ともに働き出して一年ほど経ったあたりだったろうか。
その頃、ユーリスはもうすぐ入学するヴィルヘルムを補佐するために、先に魔法学園への入学を許されていた。
侍従としての仕事をこなしながらの学園生活は、なかなか大変なものではあったが、それでも充実した日々を過ごせることは幸せだった。
朝、登校前に玻璃宮に赴いてヴィルヘルムの予定を確認し、放課後は学園からまっすぐ玻璃宮に向かい侍従として仕える。
今思えば少々無茶な日程をユーリスは毎日こなしていたのだ。
しかし、辛いと思ったことは一度もなかった。当時のユーリスは王宮の敷地内にあるオメガ侍従専用の寮で暮らしていたし、魔法学園は魔法局の管轄で、王宮と敷地を接している。
移動距離は長いとはいえ王宮内のみで、そう大変なこともなかった。何より、他にも同様の生活をしているオメガの侍従たちがいた。
ユーリスたちオメガにとって、自らが王宮に出仕し、その上魔法学園で学べるということはそれだけで奇跡のような待遇だったのだ。
そんな日々を送っていたある日のことだ。
いつもの通り授業後に玻璃宮に戻ると、そこは蜂の巣をつついたような大騒動だった。
おろおろと狼狽する同僚を捕まえて何が起きたのかを聞いたところ、ヴィルヘルムが飼っている猫がいなくなったという。
夜と名付けられたその黒猫は、とても大人しい猫だった。
主人の膝が大好きで大抵はヴィルヘルムの膝の上か、応接室の窓近くの日向でごろごろしているようなのんびり屋で、それまで勝手に外に出たことなどなかった。だからこそ、姿が見えなくなってみなが心配したのだ。
特に主であるヴィルヘルムは、常にないくらい取り乱していた。王太子を廃されたヴィルヘルムは、それまでに培ったものや持っていたもの、それら全てを取り上げられ玻璃宮に閉じ込められた。そのときにたったひとつ、彼が玻璃宮に持ち込んだものがナハトだった。
小さな子猫のときからずっと一緒で、オメガであると判明した後も態度を変えなかった唯一の家族。友だちであり、兄弟であるナハトのことを、ヴィルヘルムはそれはそれは大切にしていたのだ。
主の懇願で、手の空いた者でナハトを探すことになった。とはいえ、玻璃宮にはそう人手は多くない。数人はヴィルヘルムについていなければならないため、捜索に充てられたのはユーリスも含めたたったふたりだけだった。
――広い王宮内を、たったふたりで。
考えただけでも眩暈がしそうであったが、ナハトの行き先には心当たりがあった。
ナハトがいなくなる直前に、玻璃宮の掃き出し窓を少し開けていたらしいのだ。掃き出し窓、といっても細かい飾りが施された格子付きではあったが。
しかし、金箔付きの鉄格子は、人は通れないが猫ならば通ることが出来るだろう。ナハトはそこから外に出たのではないか。そうみなで結論付けた。
窓は玻璃宮の外を彩る小さな庭園へと続いている。花の咲き乱れるそこを抜けると、王宮を囲む雑木林に入るのだ。
庭園か、雑木林か。おそらく慎重な性格のナハトは人の気配が多い場所には行かないはずだ。ともに捜索を仰せつかった侍従と相談して、二手に分かれることにした。ユーリスの担当は雑木林だ。
新緑の午後。木々の隙間から零れ落ちる木漏れ日が、ユーリスの亜麻色の髪の上に降り注ぐ。
ナハトは黒い猫だ。明るいうちならば、探しやすいはず。――そう思っていたけれど。
しばらく探しているうちにユーリスはすっかり途方に暮れてしまっていた。
雑木林は広い上に、障害物が多い。根の陰や幹の洞にでも入り込んでいたら見つけ出すのは難しいかもしれない。
「ナハト~、出ておいで~」
そんなことを考えながらも、上下左右にくまなく視線をやる。行く者を阻むように地面に張り巡らされている木の根を避けつつ、ユーリスは林の奥へ進んだ。
雑木林は行けども行けども、同じような景色が続いていた。落葉樹が多く植わるこの林は、秋になれば赤や橙といった鮮やかな色に染まっていく。そして冬になれば全ての葉が落ちて、雪の花が咲くのだ。これが冬であったならば、真っ黒なナハトはすぐに見つかっただろうか。
玻璃宮から見える庭園とその奥の雑木林は、玻璃宮が整えられたときに同様に整備されたと聞いた。あの離宮の最初の主は、離宮から一歩も出ることは許されなかったらしいから、きっとその心を慰めるための庭と林であったのだろう。
かつての王の寵姫。その彼――あるいは彼女は、おそらくオメガだったのだ。
王の――アルファの執着を表すような離宮を少し恐ろしく感じつつも、ユーリスは焦っていた。
鬱蒼と茂る緑の葉に隠された空が徐々に橙色に染まっていくのが見える。西の空はまだ明るくはあったが、東の空には小さな星が見え始めていた。
――早く、見つけなければ。
このまま陽が落ちてしまえば、黒猫など到底見つけ出せるものではない。
ナハト、ナハト、と何度も名前を呼んであたりを見回す。庭園の方にいるのだろうか。
――一度、戻って捜索係の相方と落ち合うべきだろうか。
そんなことを考えていると、耳に届いた小さな声があった。ユーリスは反射的に足を止めて、耳を澄ませた。
微かに、にゃあ、という鳴き声を聞いた気がしたのだ。
「ナハト? ナハト、いるの?」
ヴィルヘルム様がとても心配しているよ。
そう優しく声をかけながら、ユーリスはあたりを見回す。そして、そばに生える大きな木の枝に張り付くようにして蹲るナハトを見つけたのだった。
「ナハト、ひょっとして、降りられないの……?」
青々と茂る緑の葉に隠されるようにして鳴くナハトに、ユーリスは声をかけた。
ナハトがいるのはユーリスの遥か頭上。天に届けと言わんばかりに高く育った木の枝の上だ。
大きな木からすれば、小さな子猫がしがみついているのは下枝あたりではあったが、それでも手を伸ばして届く高さではない。あたりを見回しても、庭師も常駐していない雑木林のど真ん中だ。当然、梯子などありはしなかった。
「ナハト、飛び降りておいで。僕が受け止めてあげるから」
両手を差し出しながらそう呼びかけても、怯えた猫は降りてはこない。ただ助けを求めるようににゃおにゃおと鳴くだけだ。
「う~ん」
ユーリスは木をじっと見つめて、首を傾げた。
――この木に、登れるだろうか。
ごつごつとした木の幹は滑りにくそうではあったし、所々にある節は足をかけるのにちょうどいいだろう。
このまま玻璃宮に戻って梯子を取ってくるという方法もあったが、それでは日が暮れてしまう。この似たような景色が続く雑木林の中で、陽が落ちてからもう一度同じ場所に戻ってくるのはなかなか骨が折れる行為だ。むしろ迷う気しかしない。
――よし、登ろう。
逡巡は一瞬で、ユーリスは迷わず木に手をかけた。
「だ、ダメだ……」
登れない。自分には無理だ。
そうユーリスが理解したのは、木の幹から三度滑り落ちたときだった。
両手で頭よりも少し高いところにある木の節を持って、片足を幹にかける。そしてぐっと力を入れて身体が持ち上がったら、地面を蹴ったもう一方の足を幹にかけて……――滑り落ちる。
という行為を三回続けて、これはたぶん無理だな、とようやく気づいたのだ。
「どうしよう……」
どうやらユーリスには登れないらしい高い木を見上げる。未だに震えているナハトをどうやって助けたらいいのだろうか。
言い訳をさせてもらえば、今着ている侍従のお仕着せがいけない、とユーリスは思った。
ぴったりと身体に添うように仕立てられた服は、はっきり言って動きにくい。これは貴人のそばで佇むための服装であって、両手両足を大きく開くような動作――例えば、木登りとか――には、まったく向いていないのだ。
おまけに足元はつま先の硬い革靴である。ソールは滑らかで、足音がしにくいように作られている。どう見ても木の節に足をかけるための靴ではなかった。
せめて魔法学園の制服だったら……と考えかけて、ユーリスはそれでも無理だな、と思った。
学園の制服は確かに侍従のお仕着せよりも動きやすいが、それでも自分にこの木が登れる気はしなかった。運動するために作られた乗馬服や騎士服を着ていたって、きっとユーリスには登れまい。
それくらい手も足も出なかったのだ。
「ナハト~、自分で降りてこられない? 登れたんだから、がんばったら出来るよ」
どう? と問うと、にゃあん、となんとも頼りない返事が返ってくる。
無理です。たぶんナハトはそう言ったのだろう。
「う~ん」
顎に手を当ててユーリスは思案する。
やっぱり梯子を……いや、それよりも風魔法で掬い上げてはどうだろう。
そう考えて、いや、それもダメだな、と首を振る。
昨年、王立シュテルンリヒト魔法学園に入学したユーリスであったが、魔法の才能は平凡の一言に尽きた。魔法属性は水と風の二種類を持ってはいるが、一年学んでまともに使えるようになったのは水魔法だけだ。
ナハト相手に風魔法なんてとてもじゃないが使えない。魔法が発動しないならばまだいいが、まかり間違って暴走して傷つけでもしたら大変なことになる。
「やっぱり、もう一度やるしかないかな」
それでダメなら梯子を取りに戻ろう。暗くなって、ナハトを見つけにくくなってもどうにかして見つけよう。
そう思って、ユーリスは両手で木を掴んで、幹に片足をかけた。それからぐっと力入れて地面を蹴って……――
滑り落ちた。
「……無理」
やはり、無理だった。
半分諦めた気持ちになって、尻もちをついたままユーリスはナハトを見上げた。
黒い猫は尻尾まで枝に巻き付けて怯えている。その様子は可哀そうで、早く助けてあげなくてはと強く思った。
――今から、急いで梯子を……
そう考えたときだった。
「ヒンメル殿」
「わぁ!」
不意に声をかけられて、ユーリスは飛び上がった。
ひと気のない雑木林に、自分以外の誰かがいるとは思わなかったのだ。
変声期特有の少し掠れたアルトの声。その声の主を驚いたように振り返って、ユーリスはさらに驚いた。
「ロ、ローゼンシュタイン卿……」
そこにいたのはギルベルトだった。
黒い騎士服を着た幼い騎士。しかしまだ正規の騎士ではなかった当時の彼は、今のようにペリースを纏ってはいなかった。騎士見習いたちが着る丈の短い濃紺のローブを着て、彼はそこに立っていた。
「ヒンメル殿、どうされたのですか」
尻もちをついた――もとい、地面に座り込むユーリスを見て、ギルベルトは訝しむ。その様子に、ユーリスは慌てて頭上を指さした。
「ナ、ナハトが木の上にいて」
登って、降りられなくなったみたいです。
そう訴えると、ギルベルトは素直にユーリスの指さす方を見上げた。
そしてしばし何かを探すように視線を巡らせて、あ、と小さな声を上げた。
どうやらようやくナハトを見つけられたらしい。
もうだいぶん日が傾いてきている。薄暗い中、葉に隠れた黒猫を見つけるのはなかなか難しい時刻だ。
目を見開いてナハトを見つめるギルベルトの様子を見て、ユーリスは首を傾げた。
ナハトの捜索を命じられたのは、ユーリスを含めたたったふたりの侍従だった。ギルベルトはそのとき玻璃宮の警護についていて、ヴィルヘルムのそばを離れることは出来なかったはずだ。
――どうしてここに。
そんなユーリスの疑問が伝わったのだろうか。
ユーリスに視線を戻したギルベルトが「先ほど、交代したので」と一言だけ言った。
つまり、警護の職務が終わったから、と自主的にナハトの捜索を手伝いに来てくれたらしい。
そのありがたい気遣いに、思わず涙ぐんでしまいそうになる。
ユーリスの感激を知ってか知らずか、ギルベルトは無表情のままでじっとユーリスを見た。
「木に登ろうとされていたのですか」
「あ、はい。そう、なんですけど……」
登れなくて、と俯きながら呟くと、ギルベルトがユーリスのすぐそばに膝をついた。
「迎えに行こうと思って何度か登ろうとしたんですけど……僕には無理でした」
「俺が登ります」
「え?」
「少し離れていてください」
そう言って立ち上がったギルベルトが、ユーリスに向かって手を差し出した。その手を取ると、ぐいっと力強く引っ張られた。どうやら立ち上がらせてくれたらしい。
すぐに離された手は、温かかった。このとき、ユーリスは手袋をしていなかった。ナハトの捜索に邪魔になると思って、侍従としていつも着けている白い手袋は早い段階で懐に仕舞っていたのだ。
そして、ギルベルトも素手であった。
騎士として彼らはいつも革の手袋をしているけれど、どういうわけかこのときは何も着けていなかった。並んだ背は僅かにユーリスの方が高いのに、手のひらはギルベルトの方が大きくて、それがこのときのユーリスには少し不思議だった。
柔らかく嫋やかなユーリスの手とは違う、やや骨ばった大きな手。けれど少年らしい繊細さと、騎士らしくないほっそりとしたそれは、確かにごつごつとした胼胝がある武人の手だった。
「あの」
「これを持っていていただけますか」
ギルベルトはそう言って着ていたローブを脱いで、ユーリスに丁寧な仕草で手渡した。その瞬間、ふわりと香ったのは間違いなくアルファの匂いだ。それに戸惑うユーリスを尻目に、ギルベルトは木に手をかけてするすると登っていく。
その見事な身のこなしをユーリスは唖然と見上げるしかなかった。こげ茶色のブーツが器用に木の幹を蹴って、あっと言う間にナハトのいる枝に手が届いた。
「すごい……」
「捕まえた」
気づけばギルベルトは、ナハトを腕に抱えて木の枝に腰かけていた。
黒い猫は、しっかりと大きな手のひらに収まっている。
「怪我などはしていないようです」
「そうですか。それはよかったです」
ナハトの身に何かあれば、ヴィルヘルムはひどく悲しむだろう。
主人の大切なナハトを一番に案じてくれたことが嬉しくて微笑むと、ギルベルトがその美しい紫色の目を見開いた。何かに驚いたような顔は、間違いなくユーリスを見ていた。
「……? あの、どうかされましたか」
「いえ。なんでもありません」
ユーリスの問いにギルベルトは簡潔に答える。そして、それまで確かに絡んでいた視線が、すっと逸らされた。
――本当に、どうしたのだろう。
そう思うと同時に、逸らされた視線を少し寂しく思う。
「降ります」
「わッ⁉」
そう言って、ギルベルトは木の幹から飛び降りた。
そう。飛び降りたのだ。
ユーリスの背丈よりも高いところにある枝――つまり、自身より高い位置から、ギルベルトはなんの躊躇いもなく飛び降りた。ナハトを抱えたまま。それこそ、まるで猫のようなしなやかな動作で、音もなく地面に降り立つ。
なぁん、と一言だけ小さくナハトが鳴いたから、きっと彼も驚いたのだろう。
「ロ、ローゼンシュタイン卿! だ、大丈夫ですか」
着地したときに地面に着いた膝を払いながら顔を上げたギルベルトに、ユーリスは駆け寄った。木登りから着地までの一連の流れ。その全てが見惚れるほどに見事なものだった。
「大丈夫です。問題ありません」
「そうですか。よかった」
「ナハトも元気そうです」
「そのようですね。ナハト、おいで」
ユーリスが飛び降りた衝撃に固まっているナハトに向かって手を伸ばした。ギルベルトも、自らの懐に抱き込むようにして抱えていたナハトを胸元から引き離そうとした。――……けれども。
「……離れませんね」
「そう、ですね」
木の上がよっぽど怖かったのか、それともそこから助け出してくれたギルベルトを気に入ったのか。
差し出したユーリスの手など気にも留めずに、ナハトはギルベルトの懐から動こうとはしなかった。それどころか、しっかりと騎士服に爪を立てて離れまいとしがみついている。
「このままで構いません」
ギルベルトに失礼になるのでは、と焦るユーリスに向かってギルベルトは表情を変えないまま、玻璃宮に向かいましょう、と言った。奔放なナハトの行動を申し訳なく思うものの、ナハトはどうにもギルベルトから離れない。ユーリスはギルベルトの申し出に素直に頷くしかなかった。
どのみち、終業後とはいえギルベルトも一度報告に戻る必要があると思ったからだ。
「今までの教育係との顔合わせの場には、誰も同席しなかったのですか」
「騎士は基本的に部屋の中に入ることは許可されておりません。ルードヴィヒ殿下もご公務がお忙しく、今回もずいぶん無理をして時間をお作りになりました。玻璃宮をお訪ねになったのは久方ぶりと聞き及んでおります」
「なるほど……」
あの鳥籠のような離宮で、たったひとりきり。
愛する王太子とともに歩む輝く未来のためだとしても、これまで生きていた世界とはまったく常識が違う上に、四面楚歌のような場で過ごしてきたのだ。
成人したとはいえ、アデルはまだ十八歳。青年と言うには少々幼い印象の残る、可愛らしい顔を思い出して胸が痛んだ。
ユーリスは、一瞬それをとても気の毒だと思った。
けれど――
「……アデル様のお力になれるように、全力を尽くします」
色々な思いに蓋をして、ユーリスはそれだけを口にした。
ユーリスが何を感じ、何を思ったとしても、結局のところ出来ることは限られている。
――アデルに王太子妃教育を施すこと。
勅命により、無理やり押し付けられた役目ではあるが、引き受けた以上ユーリスにはやり遂げる責任があった。
婚礼までの一年。それまでの間、アデルの気が変わらなければ、ずっとユーリスはアデルのそばに控え教育を施すことになる。
ユーリスがあの玻璃宮でかつて学んだことの全てを、玻璃宮で教えるのだ。
しかも、その場にはまたギルベルトもいるのだという。その奇妙な偶然が、ユーリスにとってはまるで運命の悪戯のように感じられた。
「……あの」
「なんでしょうか」
「そろそろ、手を離していただけますか……」
ギルベルトが話し終えて数分後、ユーリスはとうとうそう口にした。
話し終えてもずっと手を握りしめられたままだったのだ。そろそろ心臓が限界を迎えそうだった。
どくどくと早鐘を打つ心臓のせいで、顔がひどく熱い。きっと耳まで真っ赤になっている。
「すみません」
そう謝罪の言葉を口にして、ギルベルトはあっさり手を離した。
握っていたことをうっかり忘れていた、と言わんばかりの無表情に、ますますユーリスは困惑する。それから、離れていく体温にほっと息をついた。そこには安堵と少しの名残惜しさが込められている。
ギルベルトにいったい、どんな意図があってこんな行動をとったのかさっぱり理解出来なかったが、とにかくユーリスには刺激が強すぎた。
だというのに、ギルベルトはさらなる追い打ちをかけてくる。彼はゆうに頭ひとつ分は下にあったユーリスの耳元に、ぐっと顔を近づけてきたのだ。
「ユーリス」
「は、はい」
耳元で名前を囁かれて肩が跳ねた。こんなに近くで呼びかけられたことなんて、おそらく今まで一度もないはずだ。
「明日から、私が玻璃宮の警護につくこともあります。私は室内に入る許可を得ておりますので、何かあればすぐにご相談ください」
「はい……」
「では、失礼します」
それだけを言って、ギルベルトは踵を返した。
向かう先はおそらく本館の、彼の執務室だろう。別館に戻るユーリスとは方向が違うので、別々に戻るのは当たり前のことだ。
翻る濃紺のペリースが玄関扉の奥へと消えても、ユーリスはしばらくその場を動けなかった。
春だというのに、もう汗ばむほどに暑かった。薄いサテン生地の首環をはめた首筋に、じんわりと汗をかいている。
早く戻って、ミハエルを抱きしめてやらなければならないと思う。生まれてから、ほとんどユーリスと離れたことのないミハエルは、母と離れてきっと寂しがっている。
子育てに慣れた別館付きの侍女たちがいるとはいえ、朝の別れ際も泣き叫んでいたし、明日からだってしばらくはゆっくり相手をしてあげられないのだから。
そう思うのに、ユーリスの足はその場に縫い付けられたかのように動かない。
手に残るギルベルトの温もりと、甘いアルファの匂い。
普段、発情期のときしか触れ合うことのないそれらは、ユーリスの心を切なく締め付ける。
結婚してから、ユーリスはギルベルトと三か月ごと――それも、理性がぐずぐずに溶けた発情期しか顔を合わせないという生活を、三年間も送ってきたのだ。
一昨日と今日の二日間、彼と会い、あまつさえ会話までしたことは、ユーリスの中でどう考えてもギルベルトの過剰摂取だ。
手まで握ってしまって、今もまだ匂いが残っている。
よく心臓が止まらなかったものだとユーリスは思った。
だというのに、明日からも出仕先が――職場が一緒だという。
――あの頃だって、毎日毎日心臓が爆発しそうだったのに。
玻璃宮でのこれからを思って、眩暈がするようだった。
* * *
ユーリスがギルベルトと初めて出会ったのは、今から十二年前――十五歳のときだった。
当時、ユーリスは侍従として王宮に出仕していた。
仕えていた主はシュテルンリヒト王国の第一王子ヴィルヘルム・フリードリヒ・シュテルンリヒト。現在の王太子ルードヴィヒの七つ年上の実兄であり、元王太子であった王子だ。
ヴィルヘルムが廃位され、まだ幼いルードヴィヒが王太子に選ばれた理由は単純明快だった。
――彼は、王国に百年ぶりに生まれたオメガの王子だったのだ。
シュテルンリヒト王国は建国より数百年、アルファを中心に繁栄を築いてきた。
王は当然のこと、王の子を産む国母たる王妃も歴代全てがアルファで、生まれてくる王子王女たちも、その多くがアルファだ。ごく稀にベータの王族が生まれることもあったが、彼らはみな臣下に下り、王家はアルファの血を濃く残していった。
そんな王国の中枢で起こったとある大事件によって、ユーリスはヒンメル家の屋根裏部屋を出て王宮に召集されることになった。
それは当時、王太子であったヴィルヘルムの二次性判定の儀式だ。
厳かな国教会で彼の血を垂らした水盤が、銀色に光り輝いたときの周囲の衝撃はどれほどのものだったのだろうか。
王妃の産んだ第一王子。勉学や剣術、教養など全ての分野に優れ、性格も明るく穏やか。そんななんの瑕疵もない王太子の二次性がオメガであるとは。
王家には生まれないはずのオメガの王子は、判定の儀の次の日にはあっさりと廃位され、幾度かの暗殺未遂事件を経て玻璃宮に閉じ込められた。そんな彼の身の周りの世話をするべく集められたのが、ユーリスたちオメガの貴族令息たちだったのだ。
当時、オメガが王宮に出仕することは国法では認められていなかった。王宮内に勤めている者は、騎士はもちろん、王宮魔法使いや文官に至るまでそのほとんどがアルファで占められていた。
そんな中で、オメガであるユーリスが侍従として王宮に出仕出来たのは、全てヴィルヘルムのおかげだった。
彼がオメガであり、自らの侍従としてオメガ性の者が欲しいと国王夫妻に訴え出てくれたからこそ、ユーリスは彼の侍従になれたのだ。
ヴィルヘルムはルードヴィヒによく似た金髪とシュテルンリヒト人らしい緑色の瞳を持った美しい人だった。それと同時に、とても頭のいい心の強い人でもあった。
だからこそ、ユーリスを始めとするオメガたちを取り巻く環境に心を痛めていたのかもしれない。
「調べてみたら僕は別に王国史上初めての王家のオメガではなかったよ。百年ほど前にオメガ性の王子がいたらしい。それはそうだろうね。統計的にある程度の割合でオメガが生まれることは分かっている。王家がいくらアルファの多い血筋とはいえ、どこかでオメガが生まれるに決まっている」
そう言って笑っていたヴィルヘルムは、決して自らの境遇を嘆いたりはしなかった。
玻璃宮に閉じ込められてもなお、それまでと変わらず国法を学び、領地経営を、魔法を学んでいた。
そんなヴィルヘルムが王立魔法学園に通いたいと言い出したのは、当たり前のことだったように思う。
当時も魔法学園はオメガの生徒を受け入れてはいた。しかし、それは「入学を禁じていない」ということに過ぎず、決して歓迎されるわけではなかったし、アルファやベータの学生たちとは違い入学は義務ではなかった。
生家が魔法学園に通うこと自体を許さず、望んでも通えないオメガも多かったのだろう。
だが、愛する息子の不遇に誰よりも心を痛めていた国王は、ヴィルヘルムの望みを叶えようとした。そのために、彼と同い年のまだ幼い騎士たちを集めたのは、ヴィルヘルムが魔法学園に入学する二年前のことだ。
閉ざされた玻璃宮の中とは違い、学校に通うために外に出るのであれば、護衛の騎士が必要になる。しかし、シュテルンリヒトにオメガの騎士はおらず、必然的に騎士はアルファかベータになる。
成人したアルファの騎士をオメガのヴィルヘルムに付けることを嫌がったのは、彼の母たる王妃だったという。
王国騎士団の騎士見習いたちは、最も早くて十三歳で入団を許される。
そこで王妃はまだ性的に成熟していない年齢のアルファたちを集めて、騎士見習いとしてヴィルヘルムに仕えさせた。それに十三歳であれば当時のヴィルヘルムと同い年である。魔法学園内でも同じ授業を受けられるため、護衛には最適と判断されたのだ。
その騎士見習いたちのひとりがギルベルトだ。
ギルベルトは代々、王家の近衛騎士を務めてきたローゼンシュタイン家の代表として玻璃宮にやってきた。
初めて顔を合わせたときのことを、ユーリスは昨日のことのように鮮明に覚えている。
玻璃宮の応接室にずらりと並んだ十三、四歳の少年たち。彼らはアルファといえどもまだ幼く、小さな体に騎士服を纏って、緊張した様子でそこに跪いていた。
その中で、一等目を惹いたのがギルベルトだった。
明らかに異国の血が混ざった栗色の髪に、紫色の瞳。
ヴィルヘルムへ向けた最敬礼が解かれ、幼い騎士たちが顔を上げた瞬間、ユーリスは雷に打たれたような衝撃を受けた。
シュテルンリヒトの国民の多くは、薄茶色か亜麻色の髪に榛色の瞳をしている。ユーリスやアデルのような緑の瞳も、ルードヴィヒのような青い瞳も貴族には多く、珍しいわけではない。
そんな見慣れた色の中に交ざった、異質で、けれどとても美しい紫。
栗色の髪と紫の瞳は隣国ファイルヒェン王国の色である。数代前にファイルヒェンと婚姻を結んだ貴族がいたと聞いたことがあったが、それがローゼンシュタイン家だったのだ。
ユーリスにとって衝撃だった出会いを、きっとギルベルトは欠片も覚えていないだろう。
そのときのユーリスは、騎士たちにとってヴィルヘルムを囲む侍従のひとりに過ぎなかっただろうし、そもそも職場が同じとはいえ、一介の侍従が騎士たちとそう親しく出来たわけではない。
幼くともアルファである彼らは、ヴィルヘルムや侍従たちへの直接の接触を禁じられており、たまに交わす言葉と言えば最低限の業務連絡くらいであった。その上、その数少ない業務連絡すらも大抵は筆頭侍従がその役を担っていた。
それでも応接室の片隅にギルベルトが控えていれば、つい視線がそちらに向いてしまう。
――珍しくて綺麗な目と髪をしているから、気になってしまうのだろうか。
最初は、そんな風に思っていた。
しかし、その感情がもっとはっきりとした憧憬を孕んだのは、ともに働き出して一年ほど経ったあたりだったろうか。
その頃、ユーリスはもうすぐ入学するヴィルヘルムを補佐するために、先に魔法学園への入学を許されていた。
侍従としての仕事をこなしながらの学園生活は、なかなか大変なものではあったが、それでも充実した日々を過ごせることは幸せだった。
朝、登校前に玻璃宮に赴いてヴィルヘルムの予定を確認し、放課後は学園からまっすぐ玻璃宮に向かい侍従として仕える。
今思えば少々無茶な日程をユーリスは毎日こなしていたのだ。
しかし、辛いと思ったことは一度もなかった。当時のユーリスは王宮の敷地内にあるオメガ侍従専用の寮で暮らしていたし、魔法学園は魔法局の管轄で、王宮と敷地を接している。
移動距離は長いとはいえ王宮内のみで、そう大変なこともなかった。何より、他にも同様の生活をしているオメガの侍従たちがいた。
ユーリスたちオメガにとって、自らが王宮に出仕し、その上魔法学園で学べるということはそれだけで奇跡のような待遇だったのだ。
そんな日々を送っていたある日のことだ。
いつもの通り授業後に玻璃宮に戻ると、そこは蜂の巣をつついたような大騒動だった。
おろおろと狼狽する同僚を捕まえて何が起きたのかを聞いたところ、ヴィルヘルムが飼っている猫がいなくなったという。
夜と名付けられたその黒猫は、とても大人しい猫だった。
主人の膝が大好きで大抵はヴィルヘルムの膝の上か、応接室の窓近くの日向でごろごろしているようなのんびり屋で、それまで勝手に外に出たことなどなかった。だからこそ、姿が見えなくなってみなが心配したのだ。
特に主であるヴィルヘルムは、常にないくらい取り乱していた。王太子を廃されたヴィルヘルムは、それまでに培ったものや持っていたもの、それら全てを取り上げられ玻璃宮に閉じ込められた。そのときにたったひとつ、彼が玻璃宮に持ち込んだものがナハトだった。
小さな子猫のときからずっと一緒で、オメガであると判明した後も態度を変えなかった唯一の家族。友だちであり、兄弟であるナハトのことを、ヴィルヘルムはそれはそれは大切にしていたのだ。
主の懇願で、手の空いた者でナハトを探すことになった。とはいえ、玻璃宮にはそう人手は多くない。数人はヴィルヘルムについていなければならないため、捜索に充てられたのはユーリスも含めたたったふたりだけだった。
――広い王宮内を、たったふたりで。
考えただけでも眩暈がしそうであったが、ナハトの行き先には心当たりがあった。
ナハトがいなくなる直前に、玻璃宮の掃き出し窓を少し開けていたらしいのだ。掃き出し窓、といっても細かい飾りが施された格子付きではあったが。
しかし、金箔付きの鉄格子は、人は通れないが猫ならば通ることが出来るだろう。ナハトはそこから外に出たのではないか。そうみなで結論付けた。
窓は玻璃宮の外を彩る小さな庭園へと続いている。花の咲き乱れるそこを抜けると、王宮を囲む雑木林に入るのだ。
庭園か、雑木林か。おそらく慎重な性格のナハトは人の気配が多い場所には行かないはずだ。ともに捜索を仰せつかった侍従と相談して、二手に分かれることにした。ユーリスの担当は雑木林だ。
新緑の午後。木々の隙間から零れ落ちる木漏れ日が、ユーリスの亜麻色の髪の上に降り注ぐ。
ナハトは黒い猫だ。明るいうちならば、探しやすいはず。――そう思っていたけれど。
しばらく探しているうちにユーリスはすっかり途方に暮れてしまっていた。
雑木林は広い上に、障害物が多い。根の陰や幹の洞にでも入り込んでいたら見つけ出すのは難しいかもしれない。
「ナハト~、出ておいで~」
そんなことを考えながらも、上下左右にくまなく視線をやる。行く者を阻むように地面に張り巡らされている木の根を避けつつ、ユーリスは林の奥へ進んだ。
雑木林は行けども行けども、同じような景色が続いていた。落葉樹が多く植わるこの林は、秋になれば赤や橙といった鮮やかな色に染まっていく。そして冬になれば全ての葉が落ちて、雪の花が咲くのだ。これが冬であったならば、真っ黒なナハトはすぐに見つかっただろうか。
玻璃宮から見える庭園とその奥の雑木林は、玻璃宮が整えられたときに同様に整備されたと聞いた。あの離宮の最初の主は、離宮から一歩も出ることは許されなかったらしいから、きっとその心を慰めるための庭と林であったのだろう。
かつての王の寵姫。その彼――あるいは彼女は、おそらくオメガだったのだ。
王の――アルファの執着を表すような離宮を少し恐ろしく感じつつも、ユーリスは焦っていた。
鬱蒼と茂る緑の葉に隠された空が徐々に橙色に染まっていくのが見える。西の空はまだ明るくはあったが、東の空には小さな星が見え始めていた。
――早く、見つけなければ。
このまま陽が落ちてしまえば、黒猫など到底見つけ出せるものではない。
ナハト、ナハト、と何度も名前を呼んであたりを見回す。庭園の方にいるのだろうか。
――一度、戻って捜索係の相方と落ち合うべきだろうか。
そんなことを考えていると、耳に届いた小さな声があった。ユーリスは反射的に足を止めて、耳を澄ませた。
微かに、にゃあ、という鳴き声を聞いた気がしたのだ。
「ナハト? ナハト、いるの?」
ヴィルヘルム様がとても心配しているよ。
そう優しく声をかけながら、ユーリスはあたりを見回す。そして、そばに生える大きな木の枝に張り付くようにして蹲るナハトを見つけたのだった。
「ナハト、ひょっとして、降りられないの……?」
青々と茂る緑の葉に隠されるようにして鳴くナハトに、ユーリスは声をかけた。
ナハトがいるのはユーリスの遥か頭上。天に届けと言わんばかりに高く育った木の枝の上だ。
大きな木からすれば、小さな子猫がしがみついているのは下枝あたりではあったが、それでも手を伸ばして届く高さではない。あたりを見回しても、庭師も常駐していない雑木林のど真ん中だ。当然、梯子などありはしなかった。
「ナハト、飛び降りておいで。僕が受け止めてあげるから」
両手を差し出しながらそう呼びかけても、怯えた猫は降りてはこない。ただ助けを求めるようににゃおにゃおと鳴くだけだ。
「う~ん」
ユーリスは木をじっと見つめて、首を傾げた。
――この木に、登れるだろうか。
ごつごつとした木の幹は滑りにくそうではあったし、所々にある節は足をかけるのにちょうどいいだろう。
このまま玻璃宮に戻って梯子を取ってくるという方法もあったが、それでは日が暮れてしまう。この似たような景色が続く雑木林の中で、陽が落ちてからもう一度同じ場所に戻ってくるのはなかなか骨が折れる行為だ。むしろ迷う気しかしない。
――よし、登ろう。
逡巡は一瞬で、ユーリスは迷わず木に手をかけた。
「だ、ダメだ……」
登れない。自分には無理だ。
そうユーリスが理解したのは、木の幹から三度滑り落ちたときだった。
両手で頭よりも少し高いところにある木の節を持って、片足を幹にかける。そしてぐっと力を入れて身体が持ち上がったら、地面を蹴ったもう一方の足を幹にかけて……――滑り落ちる。
という行為を三回続けて、これはたぶん無理だな、とようやく気づいたのだ。
「どうしよう……」
どうやらユーリスには登れないらしい高い木を見上げる。未だに震えているナハトをどうやって助けたらいいのだろうか。
言い訳をさせてもらえば、今着ている侍従のお仕着せがいけない、とユーリスは思った。
ぴったりと身体に添うように仕立てられた服は、はっきり言って動きにくい。これは貴人のそばで佇むための服装であって、両手両足を大きく開くような動作――例えば、木登りとか――には、まったく向いていないのだ。
おまけに足元はつま先の硬い革靴である。ソールは滑らかで、足音がしにくいように作られている。どう見ても木の節に足をかけるための靴ではなかった。
せめて魔法学園の制服だったら……と考えかけて、ユーリスはそれでも無理だな、と思った。
学園の制服は確かに侍従のお仕着せよりも動きやすいが、それでも自分にこの木が登れる気はしなかった。運動するために作られた乗馬服や騎士服を着ていたって、きっとユーリスには登れまい。
それくらい手も足も出なかったのだ。
「ナハト~、自分で降りてこられない? 登れたんだから、がんばったら出来るよ」
どう? と問うと、にゃあん、となんとも頼りない返事が返ってくる。
無理です。たぶんナハトはそう言ったのだろう。
「う~ん」
顎に手を当ててユーリスは思案する。
やっぱり梯子を……いや、それよりも風魔法で掬い上げてはどうだろう。
そう考えて、いや、それもダメだな、と首を振る。
昨年、王立シュテルンリヒト魔法学園に入学したユーリスであったが、魔法の才能は平凡の一言に尽きた。魔法属性は水と風の二種類を持ってはいるが、一年学んでまともに使えるようになったのは水魔法だけだ。
ナハト相手に風魔法なんてとてもじゃないが使えない。魔法が発動しないならばまだいいが、まかり間違って暴走して傷つけでもしたら大変なことになる。
「やっぱり、もう一度やるしかないかな」
それでダメなら梯子を取りに戻ろう。暗くなって、ナハトを見つけにくくなってもどうにかして見つけよう。
そう思って、ユーリスは両手で木を掴んで、幹に片足をかけた。それからぐっと力入れて地面を蹴って……――
滑り落ちた。
「……無理」
やはり、無理だった。
半分諦めた気持ちになって、尻もちをついたままユーリスはナハトを見上げた。
黒い猫は尻尾まで枝に巻き付けて怯えている。その様子は可哀そうで、早く助けてあげなくてはと強く思った。
――今から、急いで梯子を……
そう考えたときだった。
「ヒンメル殿」
「わぁ!」
不意に声をかけられて、ユーリスは飛び上がった。
ひと気のない雑木林に、自分以外の誰かがいるとは思わなかったのだ。
変声期特有の少し掠れたアルトの声。その声の主を驚いたように振り返って、ユーリスはさらに驚いた。
「ロ、ローゼンシュタイン卿……」
そこにいたのはギルベルトだった。
黒い騎士服を着た幼い騎士。しかしまだ正規の騎士ではなかった当時の彼は、今のようにペリースを纏ってはいなかった。騎士見習いたちが着る丈の短い濃紺のローブを着て、彼はそこに立っていた。
「ヒンメル殿、どうされたのですか」
尻もちをついた――もとい、地面に座り込むユーリスを見て、ギルベルトは訝しむ。その様子に、ユーリスは慌てて頭上を指さした。
「ナ、ナハトが木の上にいて」
登って、降りられなくなったみたいです。
そう訴えると、ギルベルトは素直にユーリスの指さす方を見上げた。
そしてしばし何かを探すように視線を巡らせて、あ、と小さな声を上げた。
どうやらようやくナハトを見つけられたらしい。
もうだいぶん日が傾いてきている。薄暗い中、葉に隠れた黒猫を見つけるのはなかなか難しい時刻だ。
目を見開いてナハトを見つめるギルベルトの様子を見て、ユーリスは首を傾げた。
ナハトの捜索を命じられたのは、ユーリスを含めたたったふたりの侍従だった。ギルベルトはそのとき玻璃宮の警護についていて、ヴィルヘルムのそばを離れることは出来なかったはずだ。
――どうしてここに。
そんなユーリスの疑問が伝わったのだろうか。
ユーリスに視線を戻したギルベルトが「先ほど、交代したので」と一言だけ言った。
つまり、警護の職務が終わったから、と自主的にナハトの捜索を手伝いに来てくれたらしい。
そのありがたい気遣いに、思わず涙ぐんでしまいそうになる。
ユーリスの感激を知ってか知らずか、ギルベルトは無表情のままでじっとユーリスを見た。
「木に登ろうとされていたのですか」
「あ、はい。そう、なんですけど……」
登れなくて、と俯きながら呟くと、ギルベルトがユーリスのすぐそばに膝をついた。
「迎えに行こうと思って何度か登ろうとしたんですけど……僕には無理でした」
「俺が登ります」
「え?」
「少し離れていてください」
そう言って立ち上がったギルベルトが、ユーリスに向かって手を差し出した。その手を取ると、ぐいっと力強く引っ張られた。どうやら立ち上がらせてくれたらしい。
すぐに離された手は、温かかった。このとき、ユーリスは手袋をしていなかった。ナハトの捜索に邪魔になると思って、侍従としていつも着けている白い手袋は早い段階で懐に仕舞っていたのだ。
そして、ギルベルトも素手であった。
騎士として彼らはいつも革の手袋をしているけれど、どういうわけかこのときは何も着けていなかった。並んだ背は僅かにユーリスの方が高いのに、手のひらはギルベルトの方が大きくて、それがこのときのユーリスには少し不思議だった。
柔らかく嫋やかなユーリスの手とは違う、やや骨ばった大きな手。けれど少年らしい繊細さと、騎士らしくないほっそりとしたそれは、確かにごつごつとした胼胝がある武人の手だった。
「あの」
「これを持っていていただけますか」
ギルベルトはそう言って着ていたローブを脱いで、ユーリスに丁寧な仕草で手渡した。その瞬間、ふわりと香ったのは間違いなくアルファの匂いだ。それに戸惑うユーリスを尻目に、ギルベルトは木に手をかけてするすると登っていく。
その見事な身のこなしをユーリスは唖然と見上げるしかなかった。こげ茶色のブーツが器用に木の幹を蹴って、あっと言う間にナハトのいる枝に手が届いた。
「すごい……」
「捕まえた」
気づけばギルベルトは、ナハトを腕に抱えて木の枝に腰かけていた。
黒い猫は、しっかりと大きな手のひらに収まっている。
「怪我などはしていないようです」
「そうですか。それはよかったです」
ナハトの身に何かあれば、ヴィルヘルムはひどく悲しむだろう。
主人の大切なナハトを一番に案じてくれたことが嬉しくて微笑むと、ギルベルトがその美しい紫色の目を見開いた。何かに驚いたような顔は、間違いなくユーリスを見ていた。
「……? あの、どうかされましたか」
「いえ。なんでもありません」
ユーリスの問いにギルベルトは簡潔に答える。そして、それまで確かに絡んでいた視線が、すっと逸らされた。
――本当に、どうしたのだろう。
そう思うと同時に、逸らされた視線を少し寂しく思う。
「降ります」
「わッ⁉」
そう言って、ギルベルトは木の幹から飛び降りた。
そう。飛び降りたのだ。
ユーリスの背丈よりも高いところにある枝――つまり、自身より高い位置から、ギルベルトはなんの躊躇いもなく飛び降りた。ナハトを抱えたまま。それこそ、まるで猫のようなしなやかな動作で、音もなく地面に降り立つ。
なぁん、と一言だけ小さくナハトが鳴いたから、きっと彼も驚いたのだろう。
「ロ、ローゼンシュタイン卿! だ、大丈夫ですか」
着地したときに地面に着いた膝を払いながら顔を上げたギルベルトに、ユーリスは駆け寄った。木登りから着地までの一連の流れ。その全てが見惚れるほどに見事なものだった。
「大丈夫です。問題ありません」
「そうですか。よかった」
「ナハトも元気そうです」
「そのようですね。ナハト、おいで」
ユーリスが飛び降りた衝撃に固まっているナハトに向かって手を伸ばした。ギルベルトも、自らの懐に抱き込むようにして抱えていたナハトを胸元から引き離そうとした。――……けれども。
「……離れませんね」
「そう、ですね」
木の上がよっぽど怖かったのか、それともそこから助け出してくれたギルベルトを気に入ったのか。
差し出したユーリスの手など気にも留めずに、ナハトはギルベルトの懐から動こうとはしなかった。それどころか、しっかりと騎士服に爪を立てて離れまいとしがみついている。
「このままで構いません」
ギルベルトに失礼になるのでは、と焦るユーリスに向かってギルベルトは表情を変えないまま、玻璃宮に向かいましょう、と言った。奔放なナハトの行動を申し訳なく思うものの、ナハトはどうにもギルベルトから離れない。ユーリスはギルベルトの申し出に素直に頷くしかなかった。
どのみち、終業後とはいえギルベルトも一度報告に戻る必要があると思ったからだ。
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