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1巻
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* * *
王宮への出仕は、勅命を受けたあの夜から二日後からだった。
その性急さにユーリスが驚くと、ギルベルトはその端整な顔を微かに曇らせた。どうやら婚約者であるアデル・ヴァイツェンの置かれている状況は、なかなかまずいものらしい。
アデルは平民出身ということで貴族の作法というものをまったく理解していない上に、本人の気質がそういったものに向かないという。
良く言えば無邪気で天真爛漫。悪く言えば無鉄砲で礼儀知らず。
王太子が惚れ込んだそういったアデルの気質は、一学生、一国民としてはなんの問題もないものだ。だが、未来の王太子妃としては言語道断と言ってもいいだろう。だからこそ王太子は愛しい婚約者のために、大急ぎで教育係を用意した。
婚礼まではあと一年。王太子の結婚は春の祝祭とともに行われることになっている。
それまでにどうにかして王太子はアデルに適切な教育を施そうとした。たとえ付け焼刃であろうとも、この一年でなんとか妃としての自覚をもってもらいたい。そんな思いだったらしい。
しかし、当のアデルは王太子妃教育をひどく嫌がったという。
授業を受けないのは当たり前。教育係と顔を合わせるのを厭うてか、たびたび王宮から逃亡する始末。その中でも、特に礼儀作法とダンスの授業を嫌い、教師をことごとく解雇してしまったらしい。
ユーリスが依頼されたのは、礼儀作法と王宮の行事と習わし、それからダンスの授業だった。
――つまり、アデルが最も嫌うカリキュラムである。
王宮には伯爵家の所有する馬車で向かう。同じように王宮に出仕するギルベルトは自ら馬を駆って王城に上ったので、馬車にはユーリスしか乗らなかった。
王宮は伯爵邸から三十分もかからない位置にある。王都の北に位置する王宮は周囲を高い城壁と堀にぐるりと囲まれており、その堀の南東側の整えられた区画が貴族たちの居住区画だ。
代々、王家の近衛騎士を務めてきたローゼンシュタイン家はその役割の都合上、広々とした邸宅が連なる貴族区の中でも最も王宮から近い場所に居を構えることを許されていた。
美しく整然とした貴族屋敷が立ち並ぶ東区と、狭い町並みに所狭しと庶民の家々がひしめき合う西区。それを隔てるのは王都の中心を南北にまっすぐ貫く大通りで、その終点は王宮に入るための城門だった。
その城門を抜けて、ユーリスを乗せた馬車は通用口の方に向かっていく。
城門の中には王族や賓客が利用する正門とは別に、いくつかの通用門がある。果てしなく広い王宮には様々な仕事があり、様々な身分の者が勤めているからだ。
ユーリスがこれから使うことになるのは、王宮に勤める通いの下級貴族が使用する入り口だ。
清潔ではあるが質素で飾り気のない入り口から、王族の住まう王宮までは少し遠い。慣れない者であれば、あっと言う間に迷ってしまうだろう。「宮殿」と呼ばれる大抵の建物がそうであるように、広い王宮内はまるで迷路のように通路が張り巡らされている。
御者に礼を言って馬車を降りると、通用門にはひとりの騎士が控えていた。
それは大勢の人々が行き交う場所にいても、目を惹く美丈夫だった。
シュテルンリヒト王国では珍しい栗色の髪と紫色の瞳。アメジストのように輝くその双眸は、遠目で見てもとても美しい。堂々とした体躯の男が纏うのは、王国騎士団の証である黒い騎士服と濃紺のペリースだ。ペリースを留めているのは獅子を象った銀細工で、近衛騎士を示している。
それは間違いなく朝、別れてきたユーリスの夫――ギルベルトだった。
「ユーリス」
「ギルベルト様。どうされたのですか」
ペリースの裾を払うようにして、ギルベルトはユーリスに向かって歩を進めた。まるで自分を待っていたようなその態度に、ユーリスは慌てて彼の方に駆け寄った。
王の近衛を務める上に伯爵位を持つギルベルトは、通常この門は使わない。もっと身分の高い者が使用する別の門の使用を許可されているからだ。
となれば、彼がわざわざここにいた理由などひとつしかないだろう。
家を出るとき、ギルベルトは特に何も言っていなかった。けれど、アデル・ヴァイツェンのことで何か伝え忘れたことでもあったのかもしれない。
そう思って精悍な顔を見上げたユーリスであったが、ギルベルトの薄く形のいい唇からは予想外の言葉が零れ落ちた。
「お迎えに上がりました」
「迎え?」
「アデル様のところまで案内します」
「ギルベルト様が、ですか?」
ギルベルトの申し出の意味が分からなくて、ユーリスは首を傾げた。
――迎え、とは?
通常、貴賓の迎えは騎士ではなく従僕や侍女が行うものだ。
それを何故、騎士であるギルベルトが代役するのだろうか。というか、そもそもユーリスは貴賓ではなく教育係である。当然、騎士の迎えも護衛も必要のない立場だ。
しかも、ユーリスがこの王宮内で迷うことは決してない。この通用門からであれば、目を瞑っていても王太子宮までたどり着ける自信があった。
何故ならば、五年前まで侍従としてこの王宮に勤めていたからだ。それも八年もの間。
もちろん、そのことはギルベルトも知っている。
「あなたが王宮内で迷うはずがないことは理解しています。しかし、ルードヴィヒ殿下のたってのご希望です」
困惑した顔のユーリスに、ギルベルトが補足するように付け足した。だが、その素っ気ない回答で、ますます謎は深まってしまう。
何故、ルードヴィヒ王太子殿下の名が出たのか。
ギルベルトは現在、国王付きの近衛のはずだ。
そんなユーリスの疑問を察したのだろう。ギルベルトはいつもの無表情のまま口を開いた。
「私は二日前に、王太子付の近衛騎士に任命されました」
二日前。つまり、彼が王家からの勅命を持って帰ってきた日のことだ。
ギルベルトは王太子付きの近衛騎士になったから、王太子の命を受けてユーリスを迎えに来た。そういうことだろうか。
「ルードヴィヒ殿下は、あなたのことをよく覚えておられます。今回の教育係の任命の決定打は茶会での件の事件ですが、もともとはルードヴィヒ殿下の強い希望があってのことです」
王太子であるルードヴィヒは、先日、王立魔法学校を卒業し成人を迎えたばかりだ。
待望のアルファの跡取りとして、国王夫妻に甘やかされて育った純粋培養の温室育ちではあるが、優秀で心優しい青年だと聞く。金髪碧眼の、目の覚めるような美貌の貴公子であると。
けれど、ユーリスの記憶にあるルードヴィヒはまだ幼い少年の姿のままだった。
あの子は少し泣き虫で、甘えん坊で、いつだって彼の人の後ろにはにかむように隠れていた。
美しい離宮の中で笑い合う仲の良い兄弟。若葉のように愛らしいその姿が脳裏に浮かんで、ユーリスは無意識のうちに呟いていた。
「……大きくなられたのでしょうね」
「すぐにお会い出来ます。アデル様と玻璃宮でお待ちです」
「玻璃宮? アデル様は玻璃宮にお住まいなのですか?」
てっきりアデルはもうすでに王太子宮に入ったものだとばかり思っていたユーリスは瞬いた。それと同時に、ルードヴィヒの気遣いに感謝する。だからこその迎えなのだ。
同じ王宮内であるとはいえ、王太子宮と玻璃宮はそれなりの距離があった。間違って王太子宮に赴いたユーリスが、改めて玻璃宮に向かうのは大変骨が折れるだろう。
しかし、玻璃宮とは。その離宮を使うことの意味を考えて、ユーリスは微かに眉根を寄せた。
「アデル様は婚礼後、王太子宮に入られるまでは玻璃宮でお過ごしになります。王太子殿下は、本日は視察の公務が入っておられます。玻璃宮に滞在出来る時間は僅かです」
それだけを簡潔に告げて、ギルベルトは踵を返した。多忙なはずの王太子を待たせるわけにはいかない、ということだろう。こちらの返事を待つことなく歩き出してしまったギルベルトの背中を、ユーリスは慌てて追いかけた。
それからのギルベルトは始終無言で、それ以上の説明をしてはくれなかった。けれど、それでよかったのだと思う。話しかけられても、きっとユーリスの頭には何も入らなかったに違いない。
このときのユーリスの心は、あの美しい離宮のことで占められていた。
――玻璃宮だなんて。
なんて、懐かしい。
胸の奥を締め付けるような哀愁とともに思い出すのは、きっともう二度と会えない尊い人だ。柔らかい金色の髪と緑色の瞳をした、星のように綺麗で儚く、それでいて誰よりも芯の強いユーリスのかつての主。
前を行く夫の背中をちらりと見て、ユーリスは小さく嘆息した。
ギルベルトは再び玻璃宮に足を踏み入れることをどう思っているのだろうか。
あの方の気配がそこかしこにあるあの離宮を、別の誰かが使うことに胸は痛まないのだろうか。
絶対に問うことは出来ないけれど、ギルベルトがあの離宮をどう思い出しているのか、ユーリスには気になって仕方がなかった。
玻璃宮は王城の端にある小さな離宮だ。
数代前の国王が寵妃のために作った離宮で、国王夫妻が住まう星宮とも王太子宮とも離れた場所にひっそりとあった。
玻璃宮の名前に相応しい硝子張りの入り口を潜ると、広々とした前室がある。そこで警備の騎士たちに軽く身体検査をされて、応接室に通された。応接室も一面が大きな硝子窓になっており、そこから春の日射しが燦燦と降り注いでいた。
玻璃宮の内装は豪華絢爛の一言に尽きる。贅を凝らした調度やこれでもかというほど施された繊細な装飾。それら全てが優美で見事なものであるが、それ以上に玻璃宮には大きな特徴があった。
宮内のいたるところに嵌め込まれている硝子は、そのほとんどが嵌め殺しなのだ。僅かにある開閉可能な窓は、その全てに繊細な彫刻を施した金の格子がつけられている。
玻璃宮は鳥籠なのだ。
中の美しい鳥が、決して逃げないようにと用意された、どこまでも美しい檻。
「ユーリス! 久方ぶりだ! 元気であったか?」
応接室の中央。薔薇の刺繍がされた布張りの長椅子には、ふたりの貴人が並んで腰かけていた。そのふたりのうち体格のいい金髪の男性が、ユーリスの姿を認めるなり席を立って声を上げた。
その煌めくような青い目がこちらを見て、嬉しそうに笑みの形を作っている。
紹介されずともすぐに分かった。彼が王太子ルードヴィヒだ。
ユーリスが最後に彼に会ったのは、五年前。この離宮を辞して去るときだった。
当時、ルードヴィヒは僅か十三歳。ちょうど、彼の二次性がアルファだと分かった後のことだった。
あのときは、まだほんの子どもであったというのに。
見上げるほどの立派なアルファの青年を見て、ユーリスの身体は自然に動いた。
「こちらこそご無沙汰しております。王太子殿下」
失礼にならない程度に近寄って、ユーリスはルードヴィヒの前に跪いた。右手を胸の前に当て、そのまま頭を下げる。これはシュテルンリヒト王国における最敬礼だ。
王族や国家に対する忠誠を誓う、最も厳粛で丁寧な礼。
それを捧げた王太子は、きっと鷹揚にユーリスを見下ろしていることだろう。
「顔を上げてくれ、ユーリス。椅子にかけて楽にせよ。茶を飲むか?」
「お気遣いありがとうございます。殿下、本当に立派になられて」
勧められるまま、ユーリスはルードヴィヒの前に腰かけた。その様子を満足そうに見て、ルードヴィヒは控えていた侍女に小さく指示を出す。騎士としてこの場にいるギルベルトはユーリスの背後に立ったままだ。
「このたびは我が婚約者アデル・ヴァイツェンの教育係を引き受けてくれて、感謝する」
そう言って、ルードヴィヒは自らの隣を見た。そこにはひとりの青年が座っている。
線の細いオメガ然とした青年は、可愛らしさという概念を形にしたらきっとこんな風になるのだろう、と思わされる容姿の人物だった。
ストロベリーブロンドというのだろうか。初めて目にする桃色の混ざった金髪に、ユーリスより明るい印象を受ける緑色の瞳。整った顔立ちは愛らしく、美貌の貴公子と称えられるルードヴィヒの隣にいても遜色のない青年だ。
その細くたおやかな首には、オメガの嗜みとしての首環がはめられている。
可愛らしい青年は、窺うようにユーリスを見ていた。なんだかひどく警戒されている気がするが、これは気のせいではないだろう。
――全身の毛を逆立てて、めいっぱいこちらを威嚇する桃色の子猫。
そんな風に思えてしまって、ユーリスは慌てて口角を上げた。その微笑ましさにうっかり表情を崩すところだった。
可愛らしい子猫――もとい、婚約者をルードヴィヒは可愛くてたまらないと言わんばかりの瞳で見つめている。
「こちらが婚約者のアデルだ。アデル、ユーリスに挨拶を」
「初めまして、アデル・ヴァイツェンです」
「初めまして。ユーリス・ヨルク・ローゼンシュタインです。これからアデル様の教育係を務めさせていただきます」
よろしく、と差し出されたのはアデルの手だ。
その行動にユーリスは一瞬呆気にとられる。けれどすぐに気を取り直して、そのほっそりとした手を取った。心の中で苦笑してしまったことはおそらく伝わらなかったはずだ。
一方のアデルは、驚いたような顔をしてユーリスを見ていた。握られた自分の手とユーリスの顔を交互に見て、ぱちぱちと何度も瞬いた。
その少し稚さを感じる表情はとても愛らしく、ルードヴィヒが心を奪われた理由が分かるような気がする。
「今までの教育係は、誰も握手を返しませんでしたか?」
「え」
ユーリスの言葉に、アデルが小さく声を漏らした。
なんで分かるの。見開かれたままの大きなアデルの目は如実にそう語っている。
それにユーリスは微笑んで、ゆっくりと口を開く。毛を逆立てた子猫を、これ以上刺激しないように出来るだけ穏やかな口調を心がけた。
「貴族の礼として、握手は自らと対等な相手としかしません。目上の方に触れることは無礼に当たりますからね。また、対等な関係であっても直接肌に触れ合うことはしません。握手を求めるならば、手袋は必須です」
当然、そんな作法を知らなかったらしいアデルは手袋などしていない。ユーリスも夜会ではないので素手のままだ。
「もっと言ってしまえば、アデル様はオメガで王太子殿下の婚約者です。アルファは自らのオメガに他人の匂いがつくのをひどく嫌いますから、今までの教育係はアデル様の手を取れなかったのですよ」
「そ、そうなんですか」
「はい。私はオメガで、番がいるので匂いはあなたに移りません。それに、握手は市民にとっては親愛の証なのでしょう? 無視する方が無礼かと判断いたしました。王太子殿下、アデル様のお手に触れた無礼をお許しください」
「許す。ユーリス、私の作法の教師はそんなことは教えなかったが」
「王族に握手を求めることが出来る貴族はおりませんから。敢えて教えられなかったのでしょう」
王太子と対等な関係の者など、この国には存在しない。王と王妃はこの国の至高であるし、その他は全てが目下だ。ルードヴィヒの家庭教師が「握手」の項目を必要ないとして省いたのは当たり前のことだった。
きっとアデルは、紹介された教師たちと最初は上手くやろうとしたのだろう。
けれど、アデルには貴族社会の礼儀作法の基本的な知識がない。教師たちの「常識」においては王太子の婚約者と握手など、とんでもないことであると知らなかったのだ。
ユーリスの前任である彼らが、この愛らしい婚約者の手をどのように辞退したのかは分からない。しかし、その態度はアデルを大きく傷つけた。
彼は拒絶されたと感じてしまったのだ。そして傷ついた彼は教師たちに不信感を抱き、遠ざけた。
それは確かに小さな誤解からの行き違いではあるが、アデルにとっては死活問題だ。
――平民出身のオメガ。
それはアデルを表す事実であるが、貴族たちの間では明らかな蔑称として口にされている。当然、そのことをアデル本人も知っているはずだ。
彼は決して歓迎されてはいない。
平民で、オメガ。
アデルは尊い王太子の婚約者として相応しくないと多くの貴族たちが思っていることは、周知の事実だった。
「大丈夫です。アデル様」
握ったままだった手にもう片方の手を添えて、ユーリスはぎゅっと力を入れた。
緑色の瞳が不安げに揺れる。そのエメラルドのような瞳が最後に見た彼の人と重なって、胸の奥が締め付けられるようだった。
彼の人――ヴィルヘルムも同じ緑色の瞳をしていた。
緑の瞳はシュテルンリヒト王国では珍しいものではない。鏡で見るユーリス自身の瞳だって緑色だ。けれど、その緑色の中に微かな絶望を孕むのは、きっとオメガ特有のものだろう。この国はオメガにはとても生きづらいのだ。
――そんな顔をしなくても大丈夫。
その一心でユーリスはアデルの手を握りしめる。
ユーリスはアデルに――未来の王太子妃に、その身を守るための知識の盾を授けるために来たのだ。
「知らないことを学ばれるために、私が呼ばれたのですから。貴族としての礼儀も作法も、全て私がお教えいたします」
礼儀作法は決して相手を傷つける武器にはならない。しかし、こちらを相手の悪意から守るための最低限の盾にはなるはずだ。
そう言って微笑むと、アデルもつられたように微笑んだ。それはまるで花が綻ぶような笑顔で、無邪気で天真爛漫と称されるに相応しいものだと思った。
王宮から市街地へと延びる目抜き通りを、一台の馬車が走っていた。
馬車には剣と薔薇の紋章が描かれており、ローゼンシュタイン伯爵家の所有であることを示している。
その上品ではあるが飾り気のない馬車の中で、ユーリスはひとり身を強張らせていた。
ユーリスの新しい主アデル・ヴァイツェンはとても可愛らしい青年だった。慣れない環境で、精一杯背筋を伸ばして立っている様子は、ユーリスでなくても手を差し伸べてあげたくなるだろう。
そんな彼との顔合わせ。先ほどの挨拶は、上手くいったのだろうか。
いくらユーリスが彼と同じオメガであるとはいえ、王太子の婚約者の手を取るなんて。
自分がとんでもなく大胆なことをしでかした自覚はあった。きっとまともな礼儀作法の教師が、ユーリスのあのときの行動を見ていたならば、白目を剥いて倒れるだろう。
それでもあのときのアデルは握手を望んでいたし、ルードヴィヒもそれを許したのだから王家からはなんのお咎めもないはずだ。
――大丈夫。きちんとやれたはず。
そう思い直して、ゆっくりと息を吐く。
結婚して以来、ユーリスはほぼ屋敷に引きこもっていたのだ。数年ぶりに使用人以外とまともに言葉を交わした身としては、今日の出来は悪くないはずだ。
怖くて、後ろは振り向けなかったけれど。
謁見の間、ずっとユーリスの背後に立っていたギルベルトは、一度も言葉を発することはなかった。
それが護衛騎士の役割と作法であるとはいえ、控えていたのは背も高く見目のいいギルベルトだ。見えずとも、何も言葉を発さずとも、その存在感だけはしっかりとあった。
無言であることが恐ろしく、振り返って彼の表情を確認出来ないことがひどく不安だった。
王宮での言動は、その人物の帰属する家の総意であると捉えられるものだ。つまり、ユーリスの行い全てが、「ローゼンシュタイン伯爵家」の意思であると王家にとられるのだ。
勝手な行動はローゼンシュタイン家に迷惑をかけるし、当主の意思に反することは出来ない。
そう考えると、自らの背後にその「当主」がいれば緊張だってするというものだ。
馬車が石畳を走る音が響いていた。丁寧に整備された車輪が、均一に並べられた薄い石を叩く音。それと同時に聞こえてくるのは軽快に走る馬の蹄の音だ。
ローゼンシュタイン家の馬車を引く馬は二頭。鹿毛の牝馬で、その性格の穏やかさからもっぱらユーリスやミハエルが外出するときの馬車を引かされている馬たちだ。
けれど、ユーリスの耳に届く蹄の音は、二頭の牝馬のものだけではなかった。硬い蹄鉄で石畳を踏みしめる馬はもう一頭いる。視線を窓にやればユーリスのすぐ隣に覗く、馬車を護衛するように並走する青毛の軍馬。
漆黒の毛並みに跨るのは、同じような漆黒の衣と濃紺のペリースを纏う騎士ギルベルトだ。
ユーリスが王宮を出るとき、何故かギルベルトもついてきた。いや、出発地点と目的地が同じなのだから、ついてきたという言い方には語弊があるかもしれない。
たまたま彼の退勤とユーリスの帰宅の時間が重なった。それだけだろう。
そう思うのに、ひょっとしたら先ほどのやり取りの中に、何か気に食わないことがあったのではないかと勘繰ってしまう。あの謁見の場で、馬車を降りた途端に叱責されるような失態があって、彼がわざわざユーリスとともに帰宅したのではないか。
そんな風に考えてしまうのだ。そうやって物事を悪い方に考えすぎるのは、昔からのユーリスの悪い癖だった。
ユーリスの生家はヒンメル子爵家という、田舎に小さな領地を持つ貴族であった。
狭くとも肥沃な領地は毎年確かな実りを産んで、ヒンメル家を潤した。国有数の大金持ちということは決してなかったが、貧しいわけではない。シュテルンリヒト王国に数多くいる、爵位を持つ家柄のひとつだ。
その長子として生まれたユーリスは、跡取りとして厳しく育てられた。
文字の読み書きや計算といった基本の教養から、領地経営について学ぶ跡取りとしての生活が一変したのは十五年前。ユーリスの二次性がオメガであると判定されたことがきっかけだった。
シュテルンリヒト王国では、国民が十二歳になると二次性の判定をするように義務付けられている。本格的に身体が成熟し、二次性としての性徴――つまり、オメガの発情期やそれに誘発されるアルファの発情を経験する前に自らの二次性を自覚することが大切である、という理念の下に教会の司祭たちが行うのだ。
おそらく、そこには国家にとって有用なアルファと不要なオメガの正確な数を把握しておこうという考えもあるのだろう。
判定の儀式は毎月教会で行われており、ユーリスは十二歳の誕生日を迎えたその月の儀式に参加した。
儀式といってもその方法はとても簡単なものだ。司祭たちが聖なる水と呼ぶ、特殊な魔法液が溶けた水盤に、対象者の血液を一滴垂らせばいいのだ。すると魔法液が血液に反応して、変化が起こる。
水盤内に湛えられた水は、アルファであれば金色に輝き、オメガであれば銀色に輝く。ベータは特に何も起こらない。
金は祝福。銀は絶望の始まりだ。
あの水盤が銀色に光ってから、ユーリスの生活は一変した。
自室は屋根裏部屋になり、家族で囲んでいた晩餐には参加出来なくなった。食事は残り物で、使用人が嘲笑とともに持ってくるのだ。
父親はユーリスを常に罵倒していたし、母親はずっと泣いていた。今でもあの頃を思い出そうとすると、脳裏には自分をひどく罵る声が蘇ってくる。
十四歳で王宮に出仕したので、そんな生活は二年足らずで終了したが、それでもあの暗い暮らしがユーリスに与えた傷は小さくはなかった。
屋敷に着いたら、ギルベルトはユーリスを責めるだろうか。王太子やその婚約者に対し、あの態度はなんだと怒鳴るだろうか。
そう悪い方に考えてしまって、はたと気づく。
そういえば、ギルベルトが怒っているところをユーリスは一度も見たことがなかった。
ギルベルトがユーリスに話しかけるときの口調は、いつだって丁寧で淡々としたものだ。叱責されるほど言葉を交わしたことがない、と言われればその通りであったが、それでもギルベルトの態度は一貫している。
いっそ冷淡なほどの丁寧さ。それを一言で言い表せば、他人行儀というところに落ち着くのだろう。その証拠に、ギルベルトは結婚してから三年がたった今も変わらず敬語のままだ。
けれども、怒鳴り散らされるよりもずっといいと思う。
馬車はあっという間にローゼンシュタイン家へ到着した。行きは緊張していたためか、王宮までの道のりがいやに長く感じられたが、四半刻もせずに行き来出来る距離なのだ。
庭師が丹精込めて世話をしている前庭を通り過ぎ、屋敷本邸の玄関前にある馬車止めに至る。
御者が扉を開けたのを合図に馬車を降りようと身を乗り出すと、そこに差し出された手があった。
革手袋に包まれた、騎士としては意外なほどほっそりとしたその手は、間違いなくユーリスに向かって差し出されている。
愛馬から降りたギルベルトが、ユーリスをエスコートしてくれようとしているのだ。
その手を取っていいのか逡巡して、結局ユーリスはギルベルトの手に自らのそれを重ねる。そうする以外に、どうしていいのか分からなかったからだ。
夫のエスコートの手を断る権利など、ユーリスにはない。
ギルベルトの手を支えに、ユーリスはゆっくりと馬車を降りる。緊張のあまり、たった二段のステップが王宮の大階段のように思えてしまった。
「ありがとうございます」
貴婦人が馬車から降りる際、こうやって紳士がエスコートすることは親しい間柄ではよくあることだ。もちろん、ただの友人であれば馬車を降りればすぐに手を離すし、夫婦や恋人であれば握ったままで歩くこともある。
ギルベルトと外出をしたことがないユーリスは、彼にエスコートをされるのは初めてであった。もちろん、これはギルベルトの「夫としての義務感」から行われたもので、当然ステップを下り終えれば手は離すものだと思っていた。
――しかし。
「あの……」
ユーリスは困惑した顔でギルベルトを見上げた。
ステップを下り終えても、ギルベルトが手を離してくれないのだ。
手を離してほしい、と言うことも出来ず、控えめに手を引くことしか出来なかった。その様子でユーリスの意図は伝わっているはずなのに、ギルベルトは握りしめた手の力を緩めない。
手袋越しに伝わるギルベルトの体温に、とうとう心臓が爆発しそうになったときだった。
「お見事でした」
「……何がでしょうか?」
突然の賛辞にユーリスは瞬いた。褒められるようなことなど、何もしていない。
意味が分からず首を傾げると、ギルベルトは感情の読めない紫の瞳で静かにユーリスを見つめ返した。
「先ほどのアデル様とのやり取りです。……アデル様の教育係は、私が知っている限りで三回は変わっています。ルードヴィヒ殿下が貴方を指名したわけが分かりました」
「どういうことでしょう」
三回、という単語にユーリスは素直に驚いた。幾度か教育係を変更したと聞いたが、それがなんと三回も。しかも、ギルベルトの言葉が本当であるならば、「少なくとも」であるという。
「みな、何故アデル様があのような態度を取られるか理解出来ていなかったのです。ルードヴィヒ殿下さえも」
もともと、無邪気で自由な気質だというアデルは、その天真爛漫な性格故に、真面目な王太子ルードヴィヒの心を射止めた。王太子として育てられたルードヴィヒには、型にはまらないアデルの伸びやかさがとても魅力的に見えたのだろう。
しかし、彼の長所は決してそれだけではなかった。
魔法学園でのアデルは、多少礼儀知らずな面もあるが優しく思いやりのある生徒であったらしい。多くの生徒に慕われ、友人も多かったという。
それなのに、紹介される教育係はことごとく気に入らないと解雇してしまったのだから、ルードヴィヒはずっと頭を悩ませていたそうだ。
「アデル様が意味もなくそんなことをする人物ではない、と誰よりもルードヴィヒ殿下は理解されていました。だからこそ、もしかしたら自分との結婚が嫌なのではないかとまで考えられていて」
「そうだったのですね」
帰り際、ルードヴィヒは実に晴れやかな顔でユーリスたちを見送ってくれた。
あれは、ようやく教育係が見つかって安心したのだと思っていたけれど、もっと別の安堵もあったのだ。
王宮への出仕は、勅命を受けたあの夜から二日後からだった。
その性急さにユーリスが驚くと、ギルベルトはその端整な顔を微かに曇らせた。どうやら婚約者であるアデル・ヴァイツェンの置かれている状況は、なかなかまずいものらしい。
アデルは平民出身ということで貴族の作法というものをまったく理解していない上に、本人の気質がそういったものに向かないという。
良く言えば無邪気で天真爛漫。悪く言えば無鉄砲で礼儀知らず。
王太子が惚れ込んだそういったアデルの気質は、一学生、一国民としてはなんの問題もないものだ。だが、未来の王太子妃としては言語道断と言ってもいいだろう。だからこそ王太子は愛しい婚約者のために、大急ぎで教育係を用意した。
婚礼まではあと一年。王太子の結婚は春の祝祭とともに行われることになっている。
それまでにどうにかして王太子はアデルに適切な教育を施そうとした。たとえ付け焼刃であろうとも、この一年でなんとか妃としての自覚をもってもらいたい。そんな思いだったらしい。
しかし、当のアデルは王太子妃教育をひどく嫌がったという。
授業を受けないのは当たり前。教育係と顔を合わせるのを厭うてか、たびたび王宮から逃亡する始末。その中でも、特に礼儀作法とダンスの授業を嫌い、教師をことごとく解雇してしまったらしい。
ユーリスが依頼されたのは、礼儀作法と王宮の行事と習わし、それからダンスの授業だった。
――つまり、アデルが最も嫌うカリキュラムである。
王宮には伯爵家の所有する馬車で向かう。同じように王宮に出仕するギルベルトは自ら馬を駆って王城に上ったので、馬車にはユーリスしか乗らなかった。
王宮は伯爵邸から三十分もかからない位置にある。王都の北に位置する王宮は周囲を高い城壁と堀にぐるりと囲まれており、その堀の南東側の整えられた区画が貴族たちの居住区画だ。
代々、王家の近衛騎士を務めてきたローゼンシュタイン家はその役割の都合上、広々とした邸宅が連なる貴族区の中でも最も王宮から近い場所に居を構えることを許されていた。
美しく整然とした貴族屋敷が立ち並ぶ東区と、狭い町並みに所狭しと庶民の家々がひしめき合う西区。それを隔てるのは王都の中心を南北にまっすぐ貫く大通りで、その終点は王宮に入るための城門だった。
その城門を抜けて、ユーリスを乗せた馬車は通用口の方に向かっていく。
城門の中には王族や賓客が利用する正門とは別に、いくつかの通用門がある。果てしなく広い王宮には様々な仕事があり、様々な身分の者が勤めているからだ。
ユーリスがこれから使うことになるのは、王宮に勤める通いの下級貴族が使用する入り口だ。
清潔ではあるが質素で飾り気のない入り口から、王族の住まう王宮までは少し遠い。慣れない者であれば、あっと言う間に迷ってしまうだろう。「宮殿」と呼ばれる大抵の建物がそうであるように、広い王宮内はまるで迷路のように通路が張り巡らされている。
御者に礼を言って馬車を降りると、通用門にはひとりの騎士が控えていた。
それは大勢の人々が行き交う場所にいても、目を惹く美丈夫だった。
シュテルンリヒト王国では珍しい栗色の髪と紫色の瞳。アメジストのように輝くその双眸は、遠目で見てもとても美しい。堂々とした体躯の男が纏うのは、王国騎士団の証である黒い騎士服と濃紺のペリースだ。ペリースを留めているのは獅子を象った銀細工で、近衛騎士を示している。
それは間違いなく朝、別れてきたユーリスの夫――ギルベルトだった。
「ユーリス」
「ギルベルト様。どうされたのですか」
ペリースの裾を払うようにして、ギルベルトはユーリスに向かって歩を進めた。まるで自分を待っていたようなその態度に、ユーリスは慌てて彼の方に駆け寄った。
王の近衛を務める上に伯爵位を持つギルベルトは、通常この門は使わない。もっと身分の高い者が使用する別の門の使用を許可されているからだ。
となれば、彼がわざわざここにいた理由などひとつしかないだろう。
家を出るとき、ギルベルトは特に何も言っていなかった。けれど、アデル・ヴァイツェンのことで何か伝え忘れたことでもあったのかもしれない。
そう思って精悍な顔を見上げたユーリスであったが、ギルベルトの薄く形のいい唇からは予想外の言葉が零れ落ちた。
「お迎えに上がりました」
「迎え?」
「アデル様のところまで案内します」
「ギルベルト様が、ですか?」
ギルベルトの申し出の意味が分からなくて、ユーリスは首を傾げた。
――迎え、とは?
通常、貴賓の迎えは騎士ではなく従僕や侍女が行うものだ。
それを何故、騎士であるギルベルトが代役するのだろうか。というか、そもそもユーリスは貴賓ではなく教育係である。当然、騎士の迎えも護衛も必要のない立場だ。
しかも、ユーリスがこの王宮内で迷うことは決してない。この通用門からであれば、目を瞑っていても王太子宮までたどり着ける自信があった。
何故ならば、五年前まで侍従としてこの王宮に勤めていたからだ。それも八年もの間。
もちろん、そのことはギルベルトも知っている。
「あなたが王宮内で迷うはずがないことは理解しています。しかし、ルードヴィヒ殿下のたってのご希望です」
困惑した顔のユーリスに、ギルベルトが補足するように付け足した。だが、その素っ気ない回答で、ますます謎は深まってしまう。
何故、ルードヴィヒ王太子殿下の名が出たのか。
ギルベルトは現在、国王付きの近衛のはずだ。
そんなユーリスの疑問を察したのだろう。ギルベルトはいつもの無表情のまま口を開いた。
「私は二日前に、王太子付の近衛騎士に任命されました」
二日前。つまり、彼が王家からの勅命を持って帰ってきた日のことだ。
ギルベルトは王太子付きの近衛騎士になったから、王太子の命を受けてユーリスを迎えに来た。そういうことだろうか。
「ルードヴィヒ殿下は、あなたのことをよく覚えておられます。今回の教育係の任命の決定打は茶会での件の事件ですが、もともとはルードヴィヒ殿下の強い希望があってのことです」
王太子であるルードヴィヒは、先日、王立魔法学校を卒業し成人を迎えたばかりだ。
待望のアルファの跡取りとして、国王夫妻に甘やかされて育った純粋培養の温室育ちではあるが、優秀で心優しい青年だと聞く。金髪碧眼の、目の覚めるような美貌の貴公子であると。
けれど、ユーリスの記憶にあるルードヴィヒはまだ幼い少年の姿のままだった。
あの子は少し泣き虫で、甘えん坊で、いつだって彼の人の後ろにはにかむように隠れていた。
美しい離宮の中で笑い合う仲の良い兄弟。若葉のように愛らしいその姿が脳裏に浮かんで、ユーリスは無意識のうちに呟いていた。
「……大きくなられたのでしょうね」
「すぐにお会い出来ます。アデル様と玻璃宮でお待ちです」
「玻璃宮? アデル様は玻璃宮にお住まいなのですか?」
てっきりアデルはもうすでに王太子宮に入ったものだとばかり思っていたユーリスは瞬いた。それと同時に、ルードヴィヒの気遣いに感謝する。だからこその迎えなのだ。
同じ王宮内であるとはいえ、王太子宮と玻璃宮はそれなりの距離があった。間違って王太子宮に赴いたユーリスが、改めて玻璃宮に向かうのは大変骨が折れるだろう。
しかし、玻璃宮とは。その離宮を使うことの意味を考えて、ユーリスは微かに眉根を寄せた。
「アデル様は婚礼後、王太子宮に入られるまでは玻璃宮でお過ごしになります。王太子殿下は、本日は視察の公務が入っておられます。玻璃宮に滞在出来る時間は僅かです」
それだけを簡潔に告げて、ギルベルトは踵を返した。多忙なはずの王太子を待たせるわけにはいかない、ということだろう。こちらの返事を待つことなく歩き出してしまったギルベルトの背中を、ユーリスは慌てて追いかけた。
それからのギルベルトは始終無言で、それ以上の説明をしてはくれなかった。けれど、それでよかったのだと思う。話しかけられても、きっとユーリスの頭には何も入らなかったに違いない。
このときのユーリスの心は、あの美しい離宮のことで占められていた。
――玻璃宮だなんて。
なんて、懐かしい。
胸の奥を締め付けるような哀愁とともに思い出すのは、きっともう二度と会えない尊い人だ。柔らかい金色の髪と緑色の瞳をした、星のように綺麗で儚く、それでいて誰よりも芯の強いユーリスのかつての主。
前を行く夫の背中をちらりと見て、ユーリスは小さく嘆息した。
ギルベルトは再び玻璃宮に足を踏み入れることをどう思っているのだろうか。
あの方の気配がそこかしこにあるあの離宮を、別の誰かが使うことに胸は痛まないのだろうか。
絶対に問うことは出来ないけれど、ギルベルトがあの離宮をどう思い出しているのか、ユーリスには気になって仕方がなかった。
玻璃宮は王城の端にある小さな離宮だ。
数代前の国王が寵妃のために作った離宮で、国王夫妻が住まう星宮とも王太子宮とも離れた場所にひっそりとあった。
玻璃宮の名前に相応しい硝子張りの入り口を潜ると、広々とした前室がある。そこで警備の騎士たちに軽く身体検査をされて、応接室に通された。応接室も一面が大きな硝子窓になっており、そこから春の日射しが燦燦と降り注いでいた。
玻璃宮の内装は豪華絢爛の一言に尽きる。贅を凝らした調度やこれでもかというほど施された繊細な装飾。それら全てが優美で見事なものであるが、それ以上に玻璃宮には大きな特徴があった。
宮内のいたるところに嵌め込まれている硝子は、そのほとんどが嵌め殺しなのだ。僅かにある開閉可能な窓は、その全てに繊細な彫刻を施した金の格子がつけられている。
玻璃宮は鳥籠なのだ。
中の美しい鳥が、決して逃げないようにと用意された、どこまでも美しい檻。
「ユーリス! 久方ぶりだ! 元気であったか?」
応接室の中央。薔薇の刺繍がされた布張りの長椅子には、ふたりの貴人が並んで腰かけていた。そのふたりのうち体格のいい金髪の男性が、ユーリスの姿を認めるなり席を立って声を上げた。
その煌めくような青い目がこちらを見て、嬉しそうに笑みの形を作っている。
紹介されずともすぐに分かった。彼が王太子ルードヴィヒだ。
ユーリスが最後に彼に会ったのは、五年前。この離宮を辞して去るときだった。
当時、ルードヴィヒは僅か十三歳。ちょうど、彼の二次性がアルファだと分かった後のことだった。
あのときは、まだほんの子どもであったというのに。
見上げるほどの立派なアルファの青年を見て、ユーリスの身体は自然に動いた。
「こちらこそご無沙汰しております。王太子殿下」
失礼にならない程度に近寄って、ユーリスはルードヴィヒの前に跪いた。右手を胸の前に当て、そのまま頭を下げる。これはシュテルンリヒト王国における最敬礼だ。
王族や国家に対する忠誠を誓う、最も厳粛で丁寧な礼。
それを捧げた王太子は、きっと鷹揚にユーリスを見下ろしていることだろう。
「顔を上げてくれ、ユーリス。椅子にかけて楽にせよ。茶を飲むか?」
「お気遣いありがとうございます。殿下、本当に立派になられて」
勧められるまま、ユーリスはルードヴィヒの前に腰かけた。その様子を満足そうに見て、ルードヴィヒは控えていた侍女に小さく指示を出す。騎士としてこの場にいるギルベルトはユーリスの背後に立ったままだ。
「このたびは我が婚約者アデル・ヴァイツェンの教育係を引き受けてくれて、感謝する」
そう言って、ルードヴィヒは自らの隣を見た。そこにはひとりの青年が座っている。
線の細いオメガ然とした青年は、可愛らしさという概念を形にしたらきっとこんな風になるのだろう、と思わされる容姿の人物だった。
ストロベリーブロンドというのだろうか。初めて目にする桃色の混ざった金髪に、ユーリスより明るい印象を受ける緑色の瞳。整った顔立ちは愛らしく、美貌の貴公子と称えられるルードヴィヒの隣にいても遜色のない青年だ。
その細くたおやかな首には、オメガの嗜みとしての首環がはめられている。
可愛らしい青年は、窺うようにユーリスを見ていた。なんだかひどく警戒されている気がするが、これは気のせいではないだろう。
――全身の毛を逆立てて、めいっぱいこちらを威嚇する桃色の子猫。
そんな風に思えてしまって、ユーリスは慌てて口角を上げた。その微笑ましさにうっかり表情を崩すところだった。
可愛らしい子猫――もとい、婚約者をルードヴィヒは可愛くてたまらないと言わんばかりの瞳で見つめている。
「こちらが婚約者のアデルだ。アデル、ユーリスに挨拶を」
「初めまして、アデル・ヴァイツェンです」
「初めまして。ユーリス・ヨルク・ローゼンシュタインです。これからアデル様の教育係を務めさせていただきます」
よろしく、と差し出されたのはアデルの手だ。
その行動にユーリスは一瞬呆気にとられる。けれどすぐに気を取り直して、そのほっそりとした手を取った。心の中で苦笑してしまったことはおそらく伝わらなかったはずだ。
一方のアデルは、驚いたような顔をしてユーリスを見ていた。握られた自分の手とユーリスの顔を交互に見て、ぱちぱちと何度も瞬いた。
その少し稚さを感じる表情はとても愛らしく、ルードヴィヒが心を奪われた理由が分かるような気がする。
「今までの教育係は、誰も握手を返しませんでしたか?」
「え」
ユーリスの言葉に、アデルが小さく声を漏らした。
なんで分かるの。見開かれたままの大きなアデルの目は如実にそう語っている。
それにユーリスは微笑んで、ゆっくりと口を開く。毛を逆立てた子猫を、これ以上刺激しないように出来るだけ穏やかな口調を心がけた。
「貴族の礼として、握手は自らと対等な相手としかしません。目上の方に触れることは無礼に当たりますからね。また、対等な関係であっても直接肌に触れ合うことはしません。握手を求めるならば、手袋は必須です」
当然、そんな作法を知らなかったらしいアデルは手袋などしていない。ユーリスも夜会ではないので素手のままだ。
「もっと言ってしまえば、アデル様はオメガで王太子殿下の婚約者です。アルファは自らのオメガに他人の匂いがつくのをひどく嫌いますから、今までの教育係はアデル様の手を取れなかったのですよ」
「そ、そうなんですか」
「はい。私はオメガで、番がいるので匂いはあなたに移りません。それに、握手は市民にとっては親愛の証なのでしょう? 無視する方が無礼かと判断いたしました。王太子殿下、アデル様のお手に触れた無礼をお許しください」
「許す。ユーリス、私の作法の教師はそんなことは教えなかったが」
「王族に握手を求めることが出来る貴族はおりませんから。敢えて教えられなかったのでしょう」
王太子と対等な関係の者など、この国には存在しない。王と王妃はこの国の至高であるし、その他は全てが目下だ。ルードヴィヒの家庭教師が「握手」の項目を必要ないとして省いたのは当たり前のことだった。
きっとアデルは、紹介された教師たちと最初は上手くやろうとしたのだろう。
けれど、アデルには貴族社会の礼儀作法の基本的な知識がない。教師たちの「常識」においては王太子の婚約者と握手など、とんでもないことであると知らなかったのだ。
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それは確かに小さな誤解からの行き違いではあるが、アデルにとっては死活問題だ。
――平民出身のオメガ。
それはアデルを表す事実であるが、貴族たちの間では明らかな蔑称として口にされている。当然、そのことをアデル本人も知っているはずだ。
彼は決して歓迎されてはいない。
平民で、オメガ。
アデルは尊い王太子の婚約者として相応しくないと多くの貴族たちが思っていることは、周知の事実だった。
「大丈夫です。アデル様」
握ったままだった手にもう片方の手を添えて、ユーリスはぎゅっと力を入れた。
緑色の瞳が不安げに揺れる。そのエメラルドのような瞳が最後に見た彼の人と重なって、胸の奥が締め付けられるようだった。
彼の人――ヴィルヘルムも同じ緑色の瞳をしていた。
緑の瞳はシュテルンリヒト王国では珍しいものではない。鏡で見るユーリス自身の瞳だって緑色だ。けれど、その緑色の中に微かな絶望を孕むのは、きっとオメガ特有のものだろう。この国はオメガにはとても生きづらいのだ。
――そんな顔をしなくても大丈夫。
その一心でユーリスはアデルの手を握りしめる。
ユーリスはアデルに――未来の王太子妃に、その身を守るための知識の盾を授けるために来たのだ。
「知らないことを学ばれるために、私が呼ばれたのですから。貴族としての礼儀も作法も、全て私がお教えいたします」
礼儀作法は決して相手を傷つける武器にはならない。しかし、こちらを相手の悪意から守るための最低限の盾にはなるはずだ。
そう言って微笑むと、アデルもつられたように微笑んだ。それはまるで花が綻ぶような笑顔で、無邪気で天真爛漫と称されるに相応しいものだと思った。
王宮から市街地へと延びる目抜き通りを、一台の馬車が走っていた。
馬車には剣と薔薇の紋章が描かれており、ローゼンシュタイン伯爵家の所有であることを示している。
その上品ではあるが飾り気のない馬車の中で、ユーリスはひとり身を強張らせていた。
ユーリスの新しい主アデル・ヴァイツェンはとても可愛らしい青年だった。慣れない環境で、精一杯背筋を伸ばして立っている様子は、ユーリスでなくても手を差し伸べてあげたくなるだろう。
そんな彼との顔合わせ。先ほどの挨拶は、上手くいったのだろうか。
いくらユーリスが彼と同じオメガであるとはいえ、王太子の婚約者の手を取るなんて。
自分がとんでもなく大胆なことをしでかした自覚はあった。きっとまともな礼儀作法の教師が、ユーリスのあのときの行動を見ていたならば、白目を剥いて倒れるだろう。
それでもあのときのアデルは握手を望んでいたし、ルードヴィヒもそれを許したのだから王家からはなんのお咎めもないはずだ。
――大丈夫。きちんとやれたはず。
そう思い直して、ゆっくりと息を吐く。
結婚して以来、ユーリスはほぼ屋敷に引きこもっていたのだ。数年ぶりに使用人以外とまともに言葉を交わした身としては、今日の出来は悪くないはずだ。
怖くて、後ろは振り向けなかったけれど。
謁見の間、ずっとユーリスの背後に立っていたギルベルトは、一度も言葉を発することはなかった。
それが護衛騎士の役割と作法であるとはいえ、控えていたのは背も高く見目のいいギルベルトだ。見えずとも、何も言葉を発さずとも、その存在感だけはしっかりとあった。
無言であることが恐ろしく、振り返って彼の表情を確認出来ないことがひどく不安だった。
王宮での言動は、その人物の帰属する家の総意であると捉えられるものだ。つまり、ユーリスの行い全てが、「ローゼンシュタイン伯爵家」の意思であると王家にとられるのだ。
勝手な行動はローゼンシュタイン家に迷惑をかけるし、当主の意思に反することは出来ない。
そう考えると、自らの背後にその「当主」がいれば緊張だってするというものだ。
馬車が石畳を走る音が響いていた。丁寧に整備された車輪が、均一に並べられた薄い石を叩く音。それと同時に聞こえてくるのは軽快に走る馬の蹄の音だ。
ローゼンシュタイン家の馬車を引く馬は二頭。鹿毛の牝馬で、その性格の穏やかさからもっぱらユーリスやミハエルが外出するときの馬車を引かされている馬たちだ。
けれど、ユーリスの耳に届く蹄の音は、二頭の牝馬のものだけではなかった。硬い蹄鉄で石畳を踏みしめる馬はもう一頭いる。視線を窓にやればユーリスのすぐ隣に覗く、馬車を護衛するように並走する青毛の軍馬。
漆黒の毛並みに跨るのは、同じような漆黒の衣と濃紺のペリースを纏う騎士ギルベルトだ。
ユーリスが王宮を出るとき、何故かギルベルトもついてきた。いや、出発地点と目的地が同じなのだから、ついてきたという言い方には語弊があるかもしれない。
たまたま彼の退勤とユーリスの帰宅の時間が重なった。それだけだろう。
そう思うのに、ひょっとしたら先ほどのやり取りの中に、何か気に食わないことがあったのではないかと勘繰ってしまう。あの謁見の場で、馬車を降りた途端に叱責されるような失態があって、彼がわざわざユーリスとともに帰宅したのではないか。
そんな風に考えてしまうのだ。そうやって物事を悪い方に考えすぎるのは、昔からのユーリスの悪い癖だった。
ユーリスの生家はヒンメル子爵家という、田舎に小さな領地を持つ貴族であった。
狭くとも肥沃な領地は毎年確かな実りを産んで、ヒンメル家を潤した。国有数の大金持ちということは決してなかったが、貧しいわけではない。シュテルンリヒト王国に数多くいる、爵位を持つ家柄のひとつだ。
その長子として生まれたユーリスは、跡取りとして厳しく育てられた。
文字の読み書きや計算といった基本の教養から、領地経営について学ぶ跡取りとしての生活が一変したのは十五年前。ユーリスの二次性がオメガであると判定されたことがきっかけだった。
シュテルンリヒト王国では、国民が十二歳になると二次性の判定をするように義務付けられている。本格的に身体が成熟し、二次性としての性徴――つまり、オメガの発情期やそれに誘発されるアルファの発情を経験する前に自らの二次性を自覚することが大切である、という理念の下に教会の司祭たちが行うのだ。
おそらく、そこには国家にとって有用なアルファと不要なオメガの正確な数を把握しておこうという考えもあるのだろう。
判定の儀式は毎月教会で行われており、ユーリスは十二歳の誕生日を迎えたその月の儀式に参加した。
儀式といってもその方法はとても簡単なものだ。司祭たちが聖なる水と呼ぶ、特殊な魔法液が溶けた水盤に、対象者の血液を一滴垂らせばいいのだ。すると魔法液が血液に反応して、変化が起こる。
水盤内に湛えられた水は、アルファであれば金色に輝き、オメガであれば銀色に輝く。ベータは特に何も起こらない。
金は祝福。銀は絶望の始まりだ。
あの水盤が銀色に光ってから、ユーリスの生活は一変した。
自室は屋根裏部屋になり、家族で囲んでいた晩餐には参加出来なくなった。食事は残り物で、使用人が嘲笑とともに持ってくるのだ。
父親はユーリスを常に罵倒していたし、母親はずっと泣いていた。今でもあの頃を思い出そうとすると、脳裏には自分をひどく罵る声が蘇ってくる。
十四歳で王宮に出仕したので、そんな生活は二年足らずで終了したが、それでもあの暗い暮らしがユーリスに与えた傷は小さくはなかった。
屋敷に着いたら、ギルベルトはユーリスを責めるだろうか。王太子やその婚約者に対し、あの態度はなんだと怒鳴るだろうか。
そう悪い方に考えてしまって、はたと気づく。
そういえば、ギルベルトが怒っているところをユーリスは一度も見たことがなかった。
ギルベルトがユーリスに話しかけるときの口調は、いつだって丁寧で淡々としたものだ。叱責されるほど言葉を交わしたことがない、と言われればその通りであったが、それでもギルベルトの態度は一貫している。
いっそ冷淡なほどの丁寧さ。それを一言で言い表せば、他人行儀というところに落ち着くのだろう。その証拠に、ギルベルトは結婚してから三年がたった今も変わらず敬語のままだ。
けれども、怒鳴り散らされるよりもずっといいと思う。
馬車はあっという間にローゼンシュタイン家へ到着した。行きは緊張していたためか、王宮までの道のりがいやに長く感じられたが、四半刻もせずに行き来出来る距離なのだ。
庭師が丹精込めて世話をしている前庭を通り過ぎ、屋敷本邸の玄関前にある馬車止めに至る。
御者が扉を開けたのを合図に馬車を降りようと身を乗り出すと、そこに差し出された手があった。
革手袋に包まれた、騎士としては意外なほどほっそりとしたその手は、間違いなくユーリスに向かって差し出されている。
愛馬から降りたギルベルトが、ユーリスをエスコートしてくれようとしているのだ。
その手を取っていいのか逡巡して、結局ユーリスはギルベルトの手に自らのそれを重ねる。そうする以外に、どうしていいのか分からなかったからだ。
夫のエスコートの手を断る権利など、ユーリスにはない。
ギルベルトの手を支えに、ユーリスはゆっくりと馬車を降りる。緊張のあまり、たった二段のステップが王宮の大階段のように思えてしまった。
「ありがとうございます」
貴婦人が馬車から降りる際、こうやって紳士がエスコートすることは親しい間柄ではよくあることだ。もちろん、ただの友人であれば馬車を降りればすぐに手を離すし、夫婦や恋人であれば握ったままで歩くこともある。
ギルベルトと外出をしたことがないユーリスは、彼にエスコートをされるのは初めてであった。もちろん、これはギルベルトの「夫としての義務感」から行われたもので、当然ステップを下り終えれば手は離すものだと思っていた。
――しかし。
「あの……」
ユーリスは困惑した顔でギルベルトを見上げた。
ステップを下り終えても、ギルベルトが手を離してくれないのだ。
手を離してほしい、と言うことも出来ず、控えめに手を引くことしか出来なかった。その様子でユーリスの意図は伝わっているはずなのに、ギルベルトは握りしめた手の力を緩めない。
手袋越しに伝わるギルベルトの体温に、とうとう心臓が爆発しそうになったときだった。
「お見事でした」
「……何がでしょうか?」
突然の賛辞にユーリスは瞬いた。褒められるようなことなど、何もしていない。
意味が分からず首を傾げると、ギルベルトは感情の読めない紫の瞳で静かにユーリスを見つめ返した。
「先ほどのアデル様とのやり取りです。……アデル様の教育係は、私が知っている限りで三回は変わっています。ルードヴィヒ殿下が貴方を指名したわけが分かりました」
「どういうことでしょう」
三回、という単語にユーリスは素直に驚いた。幾度か教育係を変更したと聞いたが、それがなんと三回も。しかも、ギルベルトの言葉が本当であるならば、「少なくとも」であるという。
「みな、何故アデル様があのような態度を取られるか理解出来ていなかったのです。ルードヴィヒ殿下さえも」
もともと、無邪気で自由な気質だというアデルは、その天真爛漫な性格故に、真面目な王太子ルードヴィヒの心を射止めた。王太子として育てられたルードヴィヒには、型にはまらないアデルの伸びやかさがとても魅力的に見えたのだろう。
しかし、彼の長所は決してそれだけではなかった。
魔法学園でのアデルは、多少礼儀知らずな面もあるが優しく思いやりのある生徒であったらしい。多くの生徒に慕われ、友人も多かったという。
それなのに、紹介される教育係はことごとく気に入らないと解雇してしまったのだから、ルードヴィヒはずっと頭を悩ませていたそうだ。
「アデル様が意味もなくそんなことをする人物ではない、と誰よりもルードヴィヒ殿下は理解されていました。だからこそ、もしかしたら自分との結婚が嫌なのではないかとまで考えられていて」
「そうだったのですね」
帰り際、ルードヴィヒは実に晴れやかな顔でユーリスたちを見送ってくれた。
あれは、ようやく教育係が見つかって安心したのだと思っていたけれど、もっと別の安堵もあったのだ。
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