転生竜騎士は初恋を捧ぐ

仁茂田もに

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第九話 宿探し -2

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「とりあえず、竜舎で過ごすよ」
「は? これから冬が来るんだぞ。だから兵士たちも野営を極力避けるために、先輩や上官に頭下げてんのに」
「大丈夫だよ。竜舎にはストーブもあるし、竜にくっついて寝たら温かい」
「ストーブがなんだよ。真冬のヴィンターベルクであんな掘っ立て小屋で寝泊まりして平気なのは、それこそ竜くらいなもんだぞ」

 舌打ち交じりに言われて、ルインはそうかな、と首を傾げた。

 この三日間、実際に過ごしてみたが意外と悪くはなかった。竜たちは見知らぬ相手にはひどく警戒するが、いつも一緒にいるルインが相手であればむしろ歓迎する素振りすら見せてくれたのだ。これから本格的に寒さが厳しくなれば、彼らのうち一頭くらいは竜房に入れてくれるだろう。
 しかし、竜舎での生活に問題がないわけではなかった。

「それに、お前風呂はどうすんだよ」
「あー、昨日と一昨日は外の水場使ったけど」
「この季節に? 死にたいのかよ」

 今度こそ信じられない、と呆れられて、ルインは肩をすくめた。

 竜は五感に優れ、中でも匂いには敏感な生き物だ。
 そのため、竜騎士や竜師は自分の体臭を極力消すように努めなければならない。戦場でならばいざ知らず、基地内では毎日入浴し汗を流すことを義務付けられているのだ。

 だからこそ、各兵舎には共同の大浴場があり、ルインも仕事終わりには必ずそこに足を運んでいたのだが、当然、竜舎にそんな設備があるはずもない。だから、ルインは仕方なく竜舎の裏手にある水場で身体を流すしかなかったのだ。
 
 そのことに関しては、ラルフの呆れようにも納得が出来た。
 山からの湧水を引いているあの水場は、確かに冬でも水が凍らない。しかし、凍らないからといって冷たくないというわけではなかった。

「お前、他に知り合いいないのか?」
「いないね」
「はぁ~……、ルインの人見知りと不愛想がこんなところで問題になるなんてな」

 ラルフのため息は、長くて深いものだった。

 当事者であるルインよりも、よっぽどルインの心配をしているらしい。こういう面倒見がいいところが後輩にも慕われる要因なのだろう。

「そういえば、中尉には? 頼んだのか?」

 何かに気づいたようにラルフが顔を上げた。その言葉に、ルインは眉を寄せる。

「中尉?」
「レーヴェ中尉。仲いいだろ、お前」
「いや、仲良くはないよ」

 まったく、と付け加えれば、ラルフは目を眇めた。

「お前が名前覚えてまともに会話している時点で仲いいんだよ」

 なんとも失礼極まりない物言いである。しかし、その辛辣な言葉もなかなか的を射ているように思えて否定できない。

 確かにラルフの言うとおり、ルインは人の名前を覚えるのが苦手だった。長年関わって来た古参の竜騎士たちなら まだしも、夏に一気に増えた新米騎士たちにいたってはもはやお手上げである。けれども竜の区別はつくから、ルイ ンは彼らを連れている竜を見て見分けているくらいだった。

 だからこそ、名前と顔を認識し言葉を交わすシグルドを、ラルフは単語と判断したのだ。

 けれど、ルイン自身はシグルドと決して仲良くはないと思っていた。顔を合わせれば向こうから話かけてはくるが、それだけだ。夕日の中を飛んで以来、アーベントでの遠乗りも幾度も断っている。

「あの人、第一兵舎だろ。特務武官とか上官過ぎて誰も頼めねぇだろうし、頼んでみれば?」
「嫌だよ」
「はぁ~、まぁお前の好きにすればいいけどさ。風呂だけはまじで第二兵舎のやつ借りに来いよ。この時期にあの水
場で行水するとか、洒落になんねぇだろ」

 頑ななルインの態度にラルフは苦く笑った。
 彼はルインの性格をルインよりもよく分かっている。見た目どおりに頑固でこだわりが強いところも理解しているから、宿は借りなくてもせめて、と譲歩したのだ。

 それに曖昧に頷いて、ルインはスープの残りを飲み干した。ラルフもルインの倍はあろうかというパンとスープ、 それから山盛りのふかし芋を平らげていく。

「相変わらず味が薄いな、このスープ」

 ルインに苦言を呈したときと同じように、ラルフは眉を寄せながら言った。
 この食堂のスープは味は薄いし、具は少ないのだ。十三歳からそれで育ったルインとラルフであるが、やはり薄い ものは薄かった。


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