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エピローグ
⑦
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「――ええ、正直な話、あのときの戦いをこの目で見ていなかったら、あなたの話を聞いても荒唐無稽だと断じたでしょうね」
「なるほど……では、アノレス殿はあの噂は真実だとおっしゃるので?」
「それは私にもわかりません。噂とやらについては、実際に確認したわけではないですから。……ですが、彼らならばそれぐらいはしてもおかしくない。そう言っているのです」
この日、アノレスはひとりの記者から取材を受けていた。噂についての当事者、国を救った英雄と讃えられる『サガミ家』の戦いの目撃者として、一番新しい記憶を持っていたからだ。
「しかし、質問した僕が言うのもなんですが……現実的にあり得る話なのか、いまだに信じられません。そもそも、あの厄災竜を滅ぼしたとかって話も出鱈目なんじゃないかと思ってるぐらいですよ」
アノレスよりも少々若いぐらいだろうか。オールバックに整えた白髪混じりの頭をぽりぽりと掻きながら、記者の男は訝しげにそう告げた。
彼は巷で流れる噂の真偽を探るため、『サガミ家』についての情報収集をしていた。だが、集める情報すべてに現実味が感じられず、全部が出鱈目なのではとすら思っていた。
「確かに、厄災竜は数百年周期で現れる存在ですからね。前回現れたのが一年前だから、次に現れるのを確認できるとしたら数百年後になる。本当に厄災竜を倒したのかを確認するには、それこそ気の遠くなる時間が必要になるでしょう」
「でしょう? 確認のしようがないんですよ。つまり証拠がない。いやね、僕の推測では、厄災竜はたまたま人里を通らずに、深い眠りについたのではないかも考えてるんですよ。たまたま運よくやり過ごせたことを、『サガミ家』の連中が、自分が倒したと虚勢を張ってるだけじゃないのかともね」
記者のその言葉に、アノレスは深くため息を吐く。この記者が帝国から来たとはいえ、対岸の火事のような言い分と、英雄の戦いを虚仮にしたような発言に呆れてしまったからだ。
そんな彼の考えを正すために、アノレスは話し方を変えながら、こう言った。
「……それは違う。私はしっかりとこの目で見た。厄災竜を討ち滅ぼすその瞬間を。その勇姿を。それだけは間違いないない。誓ってもいい、厄災竜は二度と現れない」
「そ、そうですか。失礼しました」
語気の強まったアノレスの言葉に、記者は気押されてしまう。一国の将軍たる男にここまで言わせるのだ、彼にとっては信じがたいことだが、サガミ家の話について信憑性が増してきたと認めざるを得ない状況になってきた。
だが、心の底から信じきれていない記者は、新たな質問を投げ掛ける。
「――しかし、その厄災竜を滅ぼした張本人である『サガミ家』の戦闘記録はそう多くないですよね? それは何故でしょうか?」
記者がアノレスの話を信じきれないのには理由がある。それは、サガミ家が人前に現れることが極端に少ないのだ。
どの国にも属さないにも関わらず、一国に匹敵する戦力を保有しているとさえ言われているサガミ家だが、その力を目の当たりにした者は少ない。
公式に残っている戦闘記録は、闘技場で格上相手に二度勝利を収めたこと。そして、プラセリアで開催された選考会を最終戦まで勝ち抜いたこと。記者の調べた限りでは、それぐらいのものだった。
確かに素晴らしい戦績ではあるが、だからといって、あの厄災竜を倒せるのかと問われれば疑問が残ってしまうのだ。
「……そうですね。まあ、あの力は人に向けるものではない、そういうことですよ」
「と、いいますと?」
「彼らの戦いは次元が違う。少なくとも、我が国の戦力では相手にもならないでしょう。故に、その剣を振るえる場所は限られている。だから情報が少ないのでしょう」
一旦落ち着き、口調を戻したアノレスが、厄災竜との戦いを思い出しながら言った。
「ほう。では、サガミ家の力は一国に相当するというのは真実であるということですか」
「ええ、少なくとも魔動人形の性能においては、この世界で並ぶものはないでしょう」
「そう……ですか」
手帳に殴り書きをしながら、記者の男はため息混じりに呟いた。
堅物で知られるアノレスにこうも断言されては、信じざるを得ない。先程話していたように、記者はサガミ家に対して懐疑的であった。だが、アノレスの言う通り、厄災竜を滅するほどの力を持っているのならば、あの噂が本当だという裏付けにもなる。
「――ほら、見てください。彼らはあそこで戦っているのかもしれません」
アノレスが空を指差したので、記者の男は太陽の眩しさに目を細めながら、空を見上げる。
「……? なにか、光っている?」
ごく僅かに見える程度だが、記者の目には、なにかが明滅しているのが見えた。
遠く遠く、遥か彼方で、爆発のようなものが連続して起きている。そう思わせるような光だ。
「自然現象ではありえない……では、やはり……」
記者が調べていた噂とは、『空の彼方より謎の生物が降ってきた』『突如巨大な船が現れ、天へと飛び去った』という噂だ。
その噂の影には、サガミ家が絡んでいる。そう睨んだ記者の勘は、アノレスの証言により裏付けられた。
「そうですね。おそらくは、空の彼方から来る驚異に対して、あの方たちは空飛ぶ船に乗って戦ってくれているのでしょう。人知れず、我々を守ってくれているのです」
アノレスの言葉はただの憶測にすぎなかったが、彼の胸中には根拠のない自信があった。
――あの日、あの時、アノレスが目撃したように、どこか緊張感に欠けた雰囲気で戦っているのだろう。
愛するこの世界を、守るために――。
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